Dr. Tairaのブログ

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コロナワクチンはLong COVID症状を起こす

はじめに

現行のCOVID-19ワクチンに副作用や接種後有害事象が多いことは、国内外でよく知られています。今年になって、この問題がより注目されるようになり、副作用(副反応)や有害事象の事例、考えられるメカニズム、およびその解明を促す論説やレターが次々と著名誌に掲載されています。先のブログ記事でも、一部を取り上げて紹介しています(→遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる抗イディオタイプ抗体が悪さをする?)。

2ヶ月ほど前になりますが、サイエンス誌にも当該誌レポーターによるこの手の記事が掲載されました [1](下図)。題目は「稀ではあるが、コロナワクチンは "long Covid"様の症状の原因になる可能性がある」というものです。副題に「脳内霧、頭痛、血圧の変動をNIHなどの研究者が調査中」とあります。

私はこの記事を読みかけたままだったのですが、先のブログで紹介した抗イディオタイプ抗体反応を提唱したウイリアム・マーフィー(William J. Murphy)らの論文 [2] や、血液凝固の論文 [3] が引用されており、かつ海外での事情を知るのにいい解説記事だと思いますので、(やや長いですが)ここで紹介したいと思います。

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以下、筆者による全翻訳文です。適宜引用された文献を挙げています。

記事 [1] の翻訳文

Couzin-Frankel, J. & Gretchen Vogel, G. In rare cases, coronavirus vaccines may cause Long Covid–like symptoms. 

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2020年後半、ブライアン・ドレッセン(Brianne Dressen)は、SARS-CoV-2ウイルスに感染した後に起こる慢性障害症候群 "Long Covid" 患者のためのオンラインサイトを見ることで時間を費やすことが多くなった。「何カ月も、私は、ただそこに浸っていました 」と、ユタ州サラトガスプリングスの元保育園教師であるドレッセンは話す。「自分の症状と同じような投稿をチェックしていました」。

ドレッセンはCOVID-19に罹ったことがなかった。しかし、その年の11月、彼女は臨床試験のボランティアとしてアストラゼネカ社のワクチンを接種した。その日の夕方には、視界がぼやけて音が歪み、「耳に貝殻が2つ付いているような感じでした」と彼女は話す。彼女の症状は急速に悪化し、心拍数の変動、激しい筋力低下、そして彼女が言うところの「衰弱した体内電気ショック」などが起こった。

医師は彼女を不安症と診断した。化学者である夫のブライアン・ドレッセン(Brian Dressen)は、科学文献を調べ、妻を助けようと必死になった。彼女は、元ロッククライマーだったが、今はほとんどの時間を暗い部屋で過ごし、歯を磨くことも、幼い子供たちに触れられることにも耐えられなくなっていた。

時間が経つにつれ、ドレッセン夫妻は、COVID-19ワクチンのメーカーに関係なく、それらの接種後に、深刻で長く続く健康問題を経験している多くの人たちがいることに気づいた。2021年1月までに、米国立衛生研究所(NIH)の研究者たちは、そのような健康問題を耳にするようになった。そして、もっと詳しいことを知ろうと、ブライアン・ドレッセンや他の罹患者を同機関の本部に連れてきて検査を行い、時には治療も施した。

この研究は規模が小さく、果たしてワクチンが永続的かつ稀な健康問題を引き起こしてしまったのか、あるいはどのように引き起こしたかについて、何の結論も導き出せなかった。NIHの取り組みを主導してきた国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の臨床部長アビンドラ・ナス(Avindra Nath)は、患者のワクチン接種と健康状態の悪化との間には「一時的な関連性」があったとしながらも、病因的な関連については「それはわかりません 」と話す。つまり、ワクチン接種が、直接その後の健康問題を引き起こしたかどうかは分からないということだ。

NIHと患者とのやりとりは2021年後半には消滅してしまったが、その裏では作業は続行されているとナス(Nath)は言う。患者たちは、サイエンス誌の取材に応じ、NIHの撤退に困惑と失望したことを述べ、そしてNIHの研究者だけが自分たちを助けてくれていると話した。現在、long Covid 自体がまだ十分に解明されていないが、世界中の少数の研究者は、long Covidの生物学的現象がワクチン接種後の特定の副作用を引き起こす謎のメカニズムと重なるかどうかを研究し始めている。

すでに、COVID-19ワクチン接種に関連したより個別の副作用が認識されており、アストラゼネカとジョンソン&ジョンソンのワクチンについては、稀だが重度の凝固障害、ファイザーとモデルナのmRNAワクチンについては心臓炎症などがある。副作用の可能性を探ることは、研究者にジレンマをもたらす。それは、一般に安全で、有効で、命を救うのに大切なワクチンに対して、人々が拒絶反応を起こす危険性があるからだ。

COVID-19ワクチンと接種後合併症を結びつけることは、「非常に注意しなければならない」とナス(Nath)は警告する。「間違った結論を出す可能性があります。...その意味は大きいのです」。そして、ドレッセンのような複雑で長引く症状は、患者が明確な診断を受けられないことがあるため、研究はさらに困難になる。

同時に、これらの問題を理解することは、現在苦しんでいる人々を助け、もし関連性が解明されれば、次世代ワクチンの設計の指針となり、おそらく重篤な副作用のリスクの高い人々も特定することができるだろう。

カリフォルニア大学デービス校の免疫学者であるウィリアム・マーフィーは、「有害事象を嫌がるべきではありません」と言う。彼は、2021年11月に New England Journal of Medicine誌に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質によって引き起こされる自己免疫メカニズムが、long Covid の症状といくつかの稀なワクチンの副作用の両方を説明するかもしれないと提案し、可能な限りの関連を探るための基礎研究を増やすよう呼びかけている [2]。マーフィーによれば、「ワクチンを理解するために、研究上あらゆることが行われていると一般市民に安心させることが、単にすべてが安全であると言うよりも重要です」ということだ。他の人たちと同様、彼はワクチン接種を奨励し続ける。

●Long Covid のエコー?

ドレッセンのような副作用が、どれくらいの頻度で発生するかは不明である。オンライン・コミュニティには何千人もの参加者がいるが、公的には、誰もこのような症例を追跡していない。この症状には、疲労、激しい頭痛、神経痛、血圧の変動、短期記憶障害も含まれる。ナス(Nath)は、それらが 「きわめて稀なケース 」であると確信している。

一方、long Covid は、SARS-CoV-2感染者の約5%から30%が罹患すると言われている。研究者たちは、その基礎生物学の理解についていくつかの考えを持っており、暫定的ではあるが、一歩一歩前進している。ある研究では、ウイルスが組織内に留まり、継続的にダメージを与える可能性があることを示唆している。また、体からウイルスが消失した後でも、最初の感染による後遺症が関与している可能性を示す証拠もある。

たとえば、動物実験から得られた証拠は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク(多くのワクチンが防御免疫反応を引き起こすために使用しているのと同じタンパク質)を標的とする抗体が、付随的な損傷を引き起こすかもしれないという考えを支持している、とハラッド・プリュス(Harald Prüss)は指摘している。彼は、ベルリンのドイツ神経変性疾患センター(DZNE)とシャリテ大学病院の神経学者である。2020年、COVID-19に対する抗体療法を模索していた彼と同僚たちは、SARS-CoV-2に対して強力な効果を示す18の抗体のうち、4つがマウスの健康な組織も標的にしていることを発見した [4]。これは、自己免疫問題を引き起こす可能性があるという兆候であった。

初期の臨床データも同じような方向を示している。過去1年間、いくつかの研究グループは、SARS-CoV-2感染後の人々から、体自身の細胞や組織を攻撃できる、異常に高いレベルの自己抗体を検出している。イェール大学医学部の免疫学者アーロン・リングと岩崎明子らは、急性COVID-19患者から免疫系と脳を標的とする自己抗体を発見したと、2021年5月のネイチャー誌で報告した [5]。現在、彼らは自己抗体がどの程度持続するか、組織に損傷を与えるかについて研究している。今月、Cedars-Sinai Medical Centerの心臓専門医スーザン・チェン(Susan Cheng)とタンパク質化学者ジャスティナ・フェルト−ボーバー(Justyna Fert-Bober)は、自己抗体が感染後6カ月まで続く可能性があると Journal of Translational Medicine 誌に発表したが、自己抗体の持続と進行中の症状には相関がみられなかった。

この自己抗体が人に害を与えるかどうかを知るために、DZNEは long Covid 患者の脳脊髄液に、マウスの脳組織に反応する抗体があるかどうかを調べている。もし反応するならば、人間の神経組織も攻撃する可能性がある。プリュス教授らがまもなく投稿する論文では、患者の少なくとも3分の1で、マウスの神経細胞や他の脳細胞を攻撃する自己抗体が見つかったとしいる。一方、ノースウェスタン大学のグループは、2021年8月のプレプリントで、COVID-19後に神経学的合併症を起こした人々において、T細胞のサブセットが、進行中のSARS-CoV-2感染で起こるように持続的に活性化しており、何らかの異常免疫反応または残存ウイルスを示唆していると報告している。

一部の研究者は、long Covid のもう一つの原因として、血液中の微小な血栓に注目している。SARS-CoV-2の急性感染症では、小さな血栓が形成され、それが血管に並ぶ細胞を損傷する可能性がある。2021年8月、南アフリカのステレンボッシュ大学の生理学者であるレシア・プレトリウス(Resia Pretorius)と彼女の同僚は、感染が治まった後も微小な凝血塊が残る可能性があるという予備的な証拠を Cardiovascular Diabetology 誌に発表した [3]。この血栓は、酸素の運搬を妨げ、霧のような long Covid の症状を説明できる可能性がある。プレトリウスは現在、同僚たちとチームを組んで、この微小血栓の診断法を開発し、long Covid の治療法を研究している。

プレトリウスによれば、彼女らの同僚は、ワクチン接種後に慢性的な問題を抱える患者も診ているが、その数は20人以下と推定されている。これらのワクチン患者には、深部静脈血栓症のような血液凝固の心配だけでなく、脳霧(ブレイン・フォグ)といわれる long Covid のような症状も含まれているとのことである。アストラゼネカとジョンソン&ジョンソンのワクチン接種後の、非常に稀ではあるが重篤な凝血の原因はまだ不明である。

しかし、プレトリウスは、すべてのCOVID-19ワクチンも時には微妙な凝血問題を誘発するかもしれないと疑っている。彼女によれば、ワクチン接種によって微小血栓が発生する可能性がある予備的証拠があるとのことであるが、ほとんどの場合それは気づかれずにすぐに消えてしまうものであって、この影響は彼女と同僚がワクチン接種後に採取した自分の血液と他の健康なボランティア8人の血液で確認したものである。

●微妙な話題

Long Covid の研究は、ドレッセン夫妻をナス(Nath)にも引き合わせることになった。2021年1月、ブライアン・ドレッセンはナスに助けを求めた。ナスはすぐに対応し、ブライアン・ドレッセンに、彼が主導する「神経系の炎症性疾患の自然史の研究」に参加するよう依頼した。

ワクチン接種後の合併症について語る、さらに何十人もの患者が、ナスとNINDSの神経科医であるファリナッツ・サファヴィ(Farinaz Safavi)のもとにたどり着くことになった。サファヴィは、2021年3月、ダニス・ハーツ(Danice Hertz)に宛てて「あなたの問題や現在検討中の他の症例を報告することを約束します」と書いている。南カリフォルニアに住む、引退した胃腸科医のハーツは、ファイザーのワクチンを1回接種した後、体が衰弱する副作用を発症していた。このメールの cc には、米国食品医薬品局(FDA)、疾病管理予防センター、ファイザーなどの上級責任者が含まれており、ハーツはこれをサイエンス社と共有した。

2021年の前半、ナスとサファヴィはブライアン・ドレッセンらをNIHに招き、検査を行なうと同時に、場合によっては、高用量のステロイドや免疫反応を鎮めたり調節したりする静脈内免疫グロブリン(IVIG)などの短期治療を実施した。患者は少なくとも数日間、腰椎穿刺や皮膚生検を含む神経学的、心臓学的、その他の検査を受けることになった。

サイエンス誌に語った研究参加患者は4人であるが、そのうちの1人は、ファイザーワクチン接種後に症状が始まった当該医療従事者であり、NIHの研究者が「人々を助けようとしていた」と話す。ナスによれば、34人がプロトコルに登録され、そのうち14人はNIHで過ごし、他の20人は血液サンプルと、場合によっては脳脊髄液を送ったとのことである。

しかし、時間が経つにつれて、NIHの科学者は手を引いていったと患者は話す。ブライアン・ドレッセンが神経学的検査のために予約していた9月の訪問は、遠隔医療に変更された。12月になると、ナスは患者を送るのをやめるよう彼女に頼んだ。「このような患者には、地元の医師から治療を受けるのが一番です」と彼は彼女に手紙を出した。

患者にとっては、このようなNIHからの沈黙は苦痛であり、ケアをしてくれところを見つけるのに苦労していた。2021年春にNIHを訪れた患者は、「科学者たちはデータを取って、私たちを放置した」と話す。「治療法もなく、自分の体に何が起きているのかわかりません」。医師からは何も提供されるものがなく、時には症状を「気のせいだ」と断定することさえあったと、何人かの患者は語った。

ナスはサイエンス誌に対し、NIHの施設は多数の患者を長期的に治療するための設備が整っていないと語った。その努力について、患者である当該医療従事者は「NIHの2人の人間がやるには多すぎる 」と話した。

患者の症例を記録したNIHのデータは、まだ報告されていない。2021年3月にナスが最初に投稿した約30人のケースシリーズの論文を、2つの一流医学雑誌は掲載却下している。ナスはこの却下を理解しているという。データは "カット&ドライ "(決着のついたもの)ではなく、観察研究だったからだ。今月、研究グループは、三つ目の雑誌に23人のケースシリーズの論文を投稿したが、それはワクチンの副作用の患者を含めた long Covid のプロトコルの修正版だ、とナスは話している。

サイエンス誌は、規制当局とワクチンメーカーに、これらの副作用に関する情報を問い合わせた。ファイザーの広報担当者は、「私たちがモニターしているものであることは確認できる 」と書いている。モデルナ、アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソンの3社は、副作用を深刻に受け止め、受け取った報告を規制当局と共有していると述べた。FDAの広報担当者は、「COVID-19ワクチンの安全性の監視に強い焦点を当て続ける」と述べ、欧州医薬品庁は、「COVID-19治療とワクチンの安全性と有効性を監視するために臨床現場からの実データを使用するための措置をとっている」と発言している。 

他の研究者は、科学コミュニティがこのようなワクチンの影響について研究することに不安を感じていることを指摘している。プレトリウスは言う、「誰もがこの問題を避けているのです」、「私は多くの臨床医や様々な大学の研究者と話しましたが、彼らはそれに触れたくないのです」。

それでも、彼女のグループや他の研究者は、前を向いて進んでいる。プリュスは、ワクチン接種後の症状を持つ一部の患者で自己抗体を検出しているが、他の患者では検出されていない。いくつかのグループは、患者のワクチン接種後の症状が、スパイクタンパクが標的とするアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に対する自己抗体によるものかどうかを研究している。チェンらは、long Covid の患者とワクチン接種後の副作用を持つ患者の混合から、高度な画像診断と診断検査を含むケースシリーズを計画している。また、プレトリウスと同僚のシャントール・ヴェンター(Chantelle Venter)は、ワクチン接種前後の血液凝固パターンを研究するために、少なくとも50人を集めたいと考えている。

イェール大学では、岩崎はナスとの共同研究を計画しており、long Covid とワクチン接種後の影響との関連性を調べる予定であるという。岩崎は、ワクチンの影響があった患者と話をし、彼らから血液や唾液のサンプルを採取する予定である。マーフィーによれば、ワクチン接種に対する体の反応を追跡するために、動物モデルでもっと研究をする必要があるとのことである。「制御された状況でこれを見る必要があります」と彼は言う。

プリュスは、マウスでCOVID-19のワクチン接種後に自己抗体の有無を調べている。そして、彼はワクチン接種後と感染後の患者のケアを続けている。彼のクリニックでは、患者の血液からほとんどの抗体を除去する治療法の臨床試験を間もなく開始したいと考えている。しかし、たとえ効果があったとしても、この治療法は高価であり、広く普及しないかもしれない。

●狭間にいる患者

ワクチン接種後に健康上の問題を抱える人々は、自分たちの苦境に注目が集まることを歓迎している。ブライアン・ドレッセンは言う「あなたには醜い汚れがついていて、疎外され、見捨てられているのです」。最初は、「ワクチン接種を躊躇させることを本当に恐れていました」と彼女は付け加えた。

他の患者は、ワクチン反対派が「ワクチンを接種することは愚かなのだから、死んで当然だ」と主張していることについて言及している。一方で、ワクチン支持者は、声を上げることで他の人を傷つけ、その人がワクチン接種を拒否し、COVID-19で死ぬかもしれないと主張する。「我々はこの恐ろしい狭間から抜け出せないでいる」と、昨年春にNIHを訪れた患者は言う。

ブライアン・ドレッセンは、自ら進んで公にすることに立ち向かった。彼女は、FDAを含む規制当局が、明らかな副作用を迅速に調査していないように見え、不満を覚えたと話している。彼女は、2021年6月、ワクチン接種に反対を表明しているロン・ジョンソン(Ron Johnson)上院議員ワシントン州選出)が開いたワクチンの副作用についての記者会見に参加した。「政治家と話すことは、私たちのプランAではありませんでした......全く違います」、「むしろプランJに近いものでした」とブライアン・ドレッセンは言う。

ヤナ・ルアレンダー(Jana Ruhrländer)も、引っかかりを感じている。ドイツ、カッセルの微生物学大学院生である彼女は、モデルナワクチンを1回投与した後、ブライアン・ドレッセンが経験した体内電気ショックの感覚、顔の部分麻痺、発作や脳卒中を恐れるほどの筋力低下、激しい口渇、心拍数や血圧の乱高下などの症状を呈した。

医師は「検査で異常は見つからなかった」と彼女を見放した。彼女は、自ら調べることで、自分の症状が、血圧や体液のバランスを調整するレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と呼ばれるホルモン系と重なっていること、ACE2が重要な役割を担っていることに気づいた。彼女は、このシステムを標的とする自己抗体が彼女の症状を引き起こしているのではないか、と考えている医師と、最近つながりができた。

そんな経験もあるにもかかわらず、ルアレンダーは「今でもワクチンは素晴らしいと思う」と話す。そして、mRNAの技術は「非常に大きな可能性を秘めている」と言う。しかし、彼女にとって、このような副作用は多少改善されたものの、消滅したわけではなく、きちんと認識され理解されるべきものであると話す。「私たちはそれについてオープンに話さなければなりません」。

サイエンス誌の取材に応じた患者の中には、免疫系を抑制する薬物療法によって、少なくとも一定の緩和が得られたと言う人もいる。ナスも同じ現象に気がついた。彼は、long Covid の患者を対象にIVIGとステロイドの静脈内投与を試験したNIHの臨床試験の結果が、"ワクチン関連の合併症に適用できるだろう "と期待している。サイエンス誌が話を聞いた患者の中では、完全に回復した人はいない。

ワクチン接種後の副作用を調査している研究者は、おしなべて、SARS-CoV-2感染による合併症のリスクが、ワクチンの副作用のリスクよりもはるかに高いことを強調している。「ワクチンによるリスクは10倍、100倍、1000倍も少ないのです」とプリュスは話す。しかし、ワクチン接種後の症状の原因を理解し、早期治療が長期的な問題の予防につながるかどうかを知ることは、より安全で効果的なワクチンを設計する上できわめて重要であり、また、long Covid の生態を知る手がかりになるかもしれないとマーフィーは言う。

チェンは、ワクチン接種後の慢性的な問題について語る何十人もの人々から話を聞き、彼らの症状と long Covid の症状との間に重なる部分があることを感じている。そして今、彼女はより慎重に、かつ科学的に答えを探したいと考えている。「私たちは厳密さを保たなければなりません」と彼女は言う。「データが全くないということです」。

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記事の翻訳文は以上です。

筆者あとがき

この記事では、ワクチンの long Covid 様副作用が稀に起こるものとして書かれていますが、従来のワクチンと比べれば、決して稀とは言えないと思います。様々な接種後有害事象や死亡例の多さを考えても、その異常さが理解できます。そして、ワクチン接種の副作用の関わる最も大きな懸念の一つは自己免疫問題でしょう。

スパイクコード遺伝子ワクチンでは、細胞によって抗原(スパイクタンパク質)がつくられ、それに特異的に結合する抗体ができます。ところが、さらにこの抗体の可変領域に特異的に結合する鏡体になる抗体(いわゆる抗イディオタイプ抗体)がつくられ、これが自己免疫反応に関わる可能性が指摘されています [2](→抗イディオタイプ抗体が悪さをする?

もう一つの大きな懸念は、記事にもあるように、血液凝固と血栓の発生がワクチンで誘発される可能性です。上記のように、SARS-CoV-2感染が治まった後も微小な凝血塊が残り、long Covidの原因となる可能性が疑われています [3]。外来RNAが体内に入ると血液凝固が起こりやすいことは、mRNAワクチンが開発されるずうっと以前に、動物実験で確かめられています [6](→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える)。

ワクチンの安全性に関わるこれらの問題は、スパイクタンパク質の毒性、スパイク合成細胞自身が細胞性免疫の標的となる可能性、抗体依存性免疫増強(ADE)とともに、緊急の研究を要する課題です。

それにしても、最も苦しんでいるのはワクチンの健康被害を受けている当事者であるはずなのに、ワクチン反対派からは「ワクチン接種は愚かであり自業自得」と言われ、推進派からは「被害の声を上げれば、ワクチン接種の機会を阻害し、COVID-19の死亡リスクを高くする」と責められるなど、まったく不合理としか言いようがありません。

さらに、研究者はできればワクチンの副作用には触れたくない、その研究を行なうことにも不安を感じるというのは、日本でも海外でも同じよう状況だということがわかります。そしてワクチンの副作用の研究を行っている一部の研究者も、ワクチンをポジティヴに受け止めている人たちです。

いずれにしても、遺伝子ワクチンを緊急使用許可をしたツケが、ここに至って、きわめて大きい問題に膨れ上がってしまったということになるかもしれません。長期的な悪影響については(もしあるにしても)、もちろん何もわかっていません。

引用文献

[1] Couzin-Frankel, J. & Gretchen Vogel, G. In rare cases, coronavirus vaccines may cause Long Covid–like symptoms. Science 375, 366-367. https://www.science.org/content/article/rare-cases-coronavirus-vaccines-may-cause-long-covid-symptoms

[2] Murphy, W. J. and Longo, D. L.: A possible role for anti-idiotype antibodies in SARS-CoV-2 infection and vaccination. N. Eng. J. Med. 386, 394-396 (2022). https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMcibr2113694

[3] Pretorius, E. et al.: Persistent clotting protein pathology in Long COVID/Post-Acute Sequelae of COVID-19 (PASC) is accompanied by increased levels of antiplasmin. Cardiovasc. Diabetol. 20, Article number 172 (2021). https://cardiab.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12933-021-01359-7

[4] Kreye, J. et al.: A therapeutic non-self-reactive SARS-CoV-2 antibody protects from lung pathology in a COVID-19 hamster model. Cell 183, 1058-1069.e19 (2020). https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.09.049

[5] Eric, Y. et al.: Diverse functional autoantibodies in patients with COVID-19. Nature 595, 283–288 (2021). https://www.nature.com/articles/s41586-021-03631-y

[6] Kannemeier, C. et al.: Extracellular RNA constitutes a natural procoagulant cofactor in blood coagulation. Proc. Natl. Acd. Sci. USA. 104, 6388-6393 (2007). https://doi.org/10.1073/pnas.0608647104

引用したブログ記事

2022年3月24日 抗イディオタイプ抗体が悪さをする?

2022年3月23日 遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

抗イディオタイプ抗体が悪さをする?

SARS-CoV-2感染症(COVID-19) パンデミックが始まって以来、3年目になりましたが、依然としてその病態の理解はまだ不完全です。それはこの病気において、なぜ複数の臓器に影響が及ぶのか、ウイルス消失後においてもなぜ長期にわたって"Long COVID"症候群(いわゆる後遺症)が起こるのか、ということでも言えます。

パンデミックの抑制には、複数の有効なワクチンの開発が不可欠ですが、その有効性はSARS-CoV-2が変異し続けることによって、大きく制限を受けます。そして、ワクチンは標的外作用や毒性作用を伴う可能性があり、現行のワクチンの場合、アレルギー反応、心筋炎、免疫介在性血栓症、血小板減少症などの副作用(日本で言う副反応)が含まれます。接種後死亡の事例もかなり起こっています。

これらの現象の多くは、免疫介在性である可能性が高いですが、人によって異なるきわめて多様な免疫反応を、私たちはどのように理解したらよいのでしょうか。昨日(3月23日)のブログでは、遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞そのものが細胞性免疫の攻撃対象になるという自己免疫性の問題を指摘した論文を紹介しました(→遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる

ここでは、New England Journal of Medicineに掲載された論説 [1] を取り上げたいと思います、この論文では、ワクチンの免疫反応や副作用を理解する方法の一つとして、抗イディオタイプ抗体(Anti-idio-type antibody, Ab2抗体) の免疫反応の概念を適用することを提唱しています。Ab2抗体とは、抗体分子の抗原認識領域に結合する抗体です。このブログ記事では、この論文を翻訳、適宜要約しながら、以下に紹介します。

1974年、Niels Jerneはネットワーク仮説を提唱しました。これは、抗原に対する抗体反応そのものが、下流の抗原特異的抗体に対する抗体反応を誘導するというメカニズムです。抗原に対して特異的に誘導される抗体(Ab1抗体)は、免疫原性領域、特に可変領域抗原結合ドメインに、免疫グロブリン可変・多様・接合(VDJ)遺伝子間の遺伝子組換えによって生じる独自の領域を有します。この領域の独自性のおかげで、免疫グロブリンが抗原に特異的に結合できるわけです。

そして、VDJ遺伝子組換えの結果、イディオトープ(idiotope)と呼ばれる新しい免疫原性アミノ酸配列が生まれ、これがダウンレギュレーションの一形態としてAb1抗体に対する特異抗体(すなわちAb2)を誘導することができます。同様の考え方がT細胞にも提唱されています。

ここで問題になるのは、Ab1に特異的なAb2抗体のパラトープ(抗原結合ドメインは、元の抗原と構造的に類似するということです。つまり、Ab2抗原結合領域は、Ab1反応における最初の標的抗原の正確な鏡像となる可能性があるということです。これは、ワクチン研究において、Ab2抗体が抗原の代替物として使用可能か、検討されていることからも言えます。

しかし、このAb2の擬態は、元の抗原が標的としていたのと同じ受容体に結合する可能性があります(図1)。したがって、正常細胞上の本来の抗原の受容体に結合したAb2抗体は、特に長期的に、つまり本来の抗原そのものが消失した後でも、細胞に重大な影響を及ぼし、病理学的変化をもたらす可能性があるのです。

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図1. SARS-CoV-2あるいは遺伝子ワクチンによるスパイクタンパク質のACE2受容体結合および抵抗イディオタイプ(Ab2)抗体の概要(文献 [1] より転載).

このような免疫細胞応答の制御は、1983年にPlotzがウイルス感染後に生じる自己免疫の原因として提唱し、その後、Ab2抗体の直接導入により実験的に支持されています。また、エンテロウイルス Coxsackievirus B3 に対するマウスAb2抗体は、筋細胞抗原と結合して自己免疫性心筋炎を起こし、抗イディオタイプ反応はアセチルコリン受容体アゴニストとして作用してウサギの重症筋無力症症状を引き起こすことが知られています。さらにAb2単独では、ウイルス抗原の鏡像としての作用により、ウイルス粒子自体の有害な作用も模倣できることが、牛ウイルス性下痢ウイルス抗原によって示されています。

SARS-CoV-2感染では、スパイク(S)タンパク質と細胞内に侵入するためにアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体が焦点になります。Sタンパク質自身は、様々なメカニズムによってACE2シグナルを抑制する直接的な作用を持ち、また、直接toll様受容体に対するトリガーとなって、炎症性サイトカインを誘導することができます。

しかしながら、SARS-CoV-2ワクチンに対する抗体反応の前臨床および臨床評価は、もっぱらAb1反応とウイルス中和効力にのみに焦点が当てられてきました。とはいえ、潜在的な抗イディオタイプ反応を定義することは、抗体のポリクローナルな性質と動態、Ab1抗体とAb2抗体の同時存在などにより、実際困難です。さらに、細胞や組織内でのACE2の発現は変動する可能性もあります。

mRNA、DNA、アデノウイルスベクター、組換えタンパク質などの異なるワクチンコンストラクトは、Ab2誘導において、あるいは感染に対する反応とは異なるワクチン効果において、それぞれ異なる(あるいは差がある)影響を及ぼす可能性があります。オフターゲット効果(本来ではない別の効果)の中には、Ab2反応と直接関連しないものもあります。たとえば、若い女性におけるいくつかのSARS-CoV-2ワクチンとの血栓事象の関連や、抗血小板因子4-ポリアニオン抗体の病因的役割は、アデノウイルスベクター接種による結果であると考えられます。

ところが、mRNAワクチン投与後の心筋炎の発生は、いくつかのウイルス感染後に引き起こされるAb2抗体による心筋炎と著しい類似性があると言えます。ACE2の神経組織での発現、SARS-CoV-2感染による特異的な神経病理学的変化、他のウイルスモデルで見られるAb2による神経学的影響との類似性から、Ab2抗体はSARS-CoV-2感染の場合のみならず、ワクチン接種後の神経学的影響も媒介すると思われます。

それゆえ、ウイルスやワクチンに対するすべての抗体およびT細胞反応を、経時的なAb2反応を含めて、完全に特性評価することが賢明であると考えられます。huACE2トランスジェニックマウスを使って、自己免疫や他のヒトの病理学的状態に素因を持つマウス系統と交配させて調べることも、重要な洞察を与えることができるでしょう。また、潜在的なAb2反応を理解することで、Ab1の維持や有効性、抗体医薬の応用に関する知見が得られるかもしれません。

しかし、ワクチンを接種した場合に、液性免疫反応と細胞性免疫反応の両方における免疫調節が、好ましくない副作用に繋がる可能性があることを明らかにするには、さらに多くの基礎科学研究が必要でしょう。

以上がNEJM論文の内容ですが、今回はAb2抗体反応を通じて、またまたスパイクコード遺伝子ワクチンの問題点が露にされたような感じです。すなわち、SARS-CoV-2の自然感染で誘発されるAb2抗体反応が遺伝子ワクチンの接種でも起こり、それが様々な副作用や長期的後遺症の原因になっている可能性があるということです。

論文中でもあるように、mRNAワクチンについてはこれまで中和抗体のレベルばかりに焦点が当てられ、それ以外の免疫反応や負の影響については、全くと言っていいほど問題にされてきませんでした。というより、すでに安全性は確かめられているというのがワクチン推進派の言い分だったと思います。緊急使用許可された遺伝子ワクチンですが、やはりここで一旦立ち止まる必要があると思います。

引用文献

[1] A possible role for anti-idiotype antibodies in SARS-CoV-2 infection and vaccination. N. Eng. J. Med. 386, 394-396 (2022). https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMcibr2113694

引用したブログ記事

2022年3月23日 遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる

                                                  

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる

はじめに

これまでのブログ記事で、私は、現行の遺伝子ワクチンmRNAワクチンアデノウイルスベクターワクチン)が失敗ではないかということを述べてきました(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考えるmRNAワクチンへの疑念ー脂質ナノ粒子が卵巣に蓄積?)。

ワクチンの問題の一つとして、遺伝情報を取り込んだ細胞自身が細胞性免疫の標的となる可能性があり(→ mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)、産生されたスパイクタンパク質の毒性の可能性もあります。従来、考えられてきた以上に、体内でのスパイクタンパク質の広がりと持続性が高いことも明らかになっており(→ワクチンmRNAと抗原タンパクは2ヶ月間体内で持続する)、ワクチンの安全性について赤信号が灯り始めました。

最近、これらの遺伝子ワクチンの問題を指摘するレター(Letter to Editor)が、Scandinavian Journal of Immunologyに掲載されました [1]。これは、イタリアのNational Research Councilに所属するパナギス・ポリクレティス(Panagis Polykretis)博士の執筆によるものです。

ポリクレティス氏については私はまったく知らなかったのでオーキッド(ORCiD)で調べてみましたが、15報ほどの論文が出てくるのみでした。ワクチンや免疫の専門家ではないようです。ただ、コンピュータサイエンスの専門家であるステファニー・セネフ氏がmRNAワクチン批判の論文を書いたように(→mRNAワクチンの潜在的悪影響を示唆するSeneffらの論文の意義)、この手の論説は、ワクチン推進の立場である世界の主要研究者や専門家では到底書けないでしょうし、書いたとしても著名雑誌には掲載拒否されるでしょう。

とはいえ、書簡の内容はきわめて本質的で遺伝子ワクチンについて私が常々心配していたことが、簡潔にまとめられていますので、ここに翻訳しながら紹介したいと思います。

以下、筆者による全翻訳文を示します。適宜、引用されている文献もあげます。

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"Role of the antigen presentation process in the immunization mechanism of the genetic vaccines against COVID-19 and the need for biodistribution evaluations"

COVID-19に対する遺伝子ワクチンの免疫機構における抗原提示過程の役割と生体内分布評価の必要性

従来のワクチンのメカニズムは、あらかじめ不活性化(熱処理など)または弱毒化(最適でない増殖条件での複数回の継代など)させたウイルスを接種することで成り立っている。急性感染を引き起こす能力を失ったそのようなウイルスは、免疫システムが外来病原体として認識し、特異抗体メモリーTリンパ球の産生することを促す。 

今回、EUで使用許可を取得したCOVID-19に対する遺伝子ワクチン、すなわち、アデノウイルスベクターワクチンアストラゼネカ社、ジャンセン社製)およびmRNAワクチンファイザー/ビオンテック社、モデルナ社製)は、ヒト細胞がウイルス抗原を生成できるよう遺伝情報をコード化したものであり、ヒト細胞はこのコード化されたウイルス抗原を得ることができる。

より正確に言えば、前述のワクチンは、ヒト細胞のタンパク質合成機構を誘導し、SARS-CoV-2のウイルスカプシドのスパイクタンパク質を翻訳させる。リボソームによる翻訳後、スパイクタンパクはゴルジ装置で処理され、2つの形態で免疫系に提示される。i)タンパク質全体として細胞膜上に表示され、B細胞ヘルパーT細胞に認識される(図1A)、または ii)主要組織適合遺伝子複合体I(MHC I)に負荷された断片の形で、CD8+Tリンパ球に内在性抗原を提示する(図1B)。免疫系は外来抗原を認識し、炎症反応を開始し、その後、B細胞による特異的抗体産生に至る一連のプロセスを経る。

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図1. 遺伝子ワクチンの抗原提示の模式図(文献 [1] より転載). (A) mRNA含有脂質ナノ粒子(LNP)を取り込み、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を翻訳して、B細胞のB細胞受容体(BCR)に提示するヒト細胞. (B) mRNA含有LNPを取り込み、スパイクタンパク質を翻訳し、MHC I抗原提示プロセスを介してCD8+リンパ球のT細胞受容体(TCR)に提示するヒト細胞. (C)MHC Iは、内因性タンパク質のプロテアソーム分解に由来するペプチドをCD8+リンパ球のT細胞受容体(TCR)に提示. (D) CD4+リンパ球のT細胞レセプター(TCR)に外来性タンパク質のプロテアソーム分解から派生したペプチドを提示するMHC II.

ヒト細胞では、抗原提示プロセスはMHC IとIIが関わるが、このメカニズムは細胞媒介免疫に不可欠である。MHC Iは、すべての有核細胞の膜上に存在するタンパク質複合体であり、細胞内タンパク質のプロテアソーム分解に伴って生成される内因性抗原の断片をCD8+リンパ球に提示する [2]図1C)。この機構により、免疫系は、体内のすべての有核細胞のタンパク質合成活性を常にスクリーニングし、ウイルスタンパク質の合成を検出する。MHC II はマクロファージ、単球、B細胞、樹状細胞などの機能的に分化した細胞に抗原提示する(図1D)。場合によっては、炎症性シグナルの結果として、MHC II分子は内皮細胞上にも見られることがある [2]

CD8+またはCD4+リンパ球が、ウイルス遺伝子(例:感染による)、変異遺伝子(例:がんによる)、または外来遺伝子(例:移植による)を発現している細胞を検出すると、MHCに結合し、免疫反応を活性化して異常細胞の破壊に至る。

上記のプロセスは、抗原提示の観点から、「従来の」ワクチンと「遺伝子ワクチン」の違いを理解する上で不可欠である。従来のワクチンは、一般にヒト細胞に対してウイルスタンパク質を産生するように誘導しない。したがって、この場合、ヒト細胞はタンパク質合成活性に由来するウイルス抗原を露出することはない。一方、COVID-19遺伝子ワクチンは、ヒト細胞にスパイクタンパクを産生させることを誘発し、本質的なこととして、遺伝情報物質を取り込んでタンパク質合成を開始したすべての細胞に及ぶ自己免疫反応に関わる。

生体内分布試験は、注射された化合物がどの組織や臓器に移動し、蓄積されるかを調べるための基本的な試験である。筆者の知る限り、現在までに緊急承認されたCOVID-19ワクチンのいずれについても、ヒトに対してそのような評価は行われていない。

ファイザー/ビオンテックのBNT162b2ワクチンに関しては、三角筋に注射され、主に腋窩リンパ節に排出される。理論的には、mRNAが封入された脂質ナノ粒子(LNP)は、排出される腋窩リンパ節を標的として、非常に限定された生体内分布を示すはずである [3]

しかし、ファイザーが日本の規制当局のために実施したラットを使った薬物動態試験によると、LNPは脾臓、肝臓、下垂体、甲状腺、卵巣などの臓器やその他の組織に蓄積し、標的外への分布を示すことが分かっている [4]。同様に、欧州医薬品庁(EMA)の評価報告書では、ファイザー/ビオンテックおよびモデルナが使用したLNPが、試験動物(げっ歯類)の肝臓などの臓器に標的外分布することが示されている [5, 6]

もう一つの有害なものとして、スパイクタンパクそのものが毒性源であることが分かっている。ある研究では、モデルナ mRNA-1273 ワクチンの接種者から採取した血漿サンプルを経時的に測定したところ、接種数日後の血漿中に、切断されたS1サブユニットと同様に、かなりの量のスパイクタンパクが検出されることが分かった [7]。この研究の著者らは、接種後数日経ってから起こるT細胞の活性化によって引き起こされる細胞性免疫応答が、スパイクタンパクを提示する細胞の死滅につながり、血流中に放出されるという仮説を立てている。

スパイクタンパクが血流中に放出されるということは、APCによるウイルスタンパクの体内への取り込みにより、MHC IIを介した抗原提示プロセスまで関与していることになる(図1D)。

現在までに、1000件を超える査読付き研究が、COVID-19ワクチン接種者に多数の有害事象が発生したことを証明している [8]。これらの研究では、血栓症、血小板減少症、心筋炎、心膜炎、不整脈、神経系障害、その他の変化など、ワクチン接種後の重篤な有害事象が報告されている。

また、重要なこととして、前述の副作用のいくつかは、情報公開法(FOIA)手続きの一環として公開された機密の承認後累積分析で、すでに報告されていた。それは、2020年12月14日から2021年2月28日までにファイザーが記録した死亡および有害事象のデータを提供している [9]

結論として、LNPを取り込んでウイルスタンパク質を翻訳する細胞(mRNAワクチンの場合)、あるいはアデノウイルスに感染してウイルスタンパク質を発現・翻訳する細胞(アデノウイルスベースのワクチンの場合)は、必然的に免疫系に脅威として認識され、攻撃されることを強調する必要がある(図1参照)。

このメカニズムに例外はないが、その結果生じる損傷の深刻さと健康への影響は、関与する細胞の量、組織の種類、そしてその後の自己免疫反応の強さによって異なる。たとえば、LNPに含まれるmRNAが心筋細胞に取り込まれ、その細胞がスパイクタンパクを産生した場合、炎症は心筋の壊死につながり、その程度は取り込んだ細胞の数に比例する可能性がある。

したがって、COVID-19に対するワクチンの正確な生体内分布を決定し、脅威となりうる組織を特定するためには、ヒトにおける薬物動態の評価が不可欠である。

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翻訳文は以上です。

筆者あとがき

この書簡 [1] に述べられていることは、特段新しいことではありません。しかし、繰り返しますが、ワクチン接種後、体内でウイルスタンパク質を合成する細胞は、必然的に細胞性免疫に脅威として認識され、攻撃されることは、容易に想像されることであり(→mRNAを体に入れていいのか?)、すでに有力な仮説の一つとして提唱されています [7](→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)。特に繰り返しの接種で、自己免疫性疾患が顕著になることが危惧されます。そして、作られたスパイクタンパク質の毒性の問題もあります。ワクチン接種後の数々の大小の副作用.有害事象、死亡事例は、これらを物語っていると言えます。

厚生労働省やワクチン推進の専門家は、mRNAワクチン接種後の中和抗体の力価や有効性ばかりを強調し、タンパク翻訳・合成プロセスのリスクを完全に無視してきました。mRNAやスパイクタンパク質の持続性についても、科学的根拠なく「すぐに消える」と言い続けてきました。このような非科学的態度は改めて、少なくとも、ヒト細胞でのワクチンタンパク合成に関わる安全性(リスク)評価試験を至急行なうべきです。

オリジナルの武漢ウイルスをもとに設計されたmRNAワクチンをひたすら打ち続けるということはもとより、遺伝子ワクチンそのものがもはや有害でしかないかもしれないのです。

引用文献

[1] Polykretis, P.: Role of the antigen presentation process in the immunization mechanism of the genetic vaccines against COVID-19 and the need for biodistribution evaluations. Scand. J. Immunol. First published: 17 March 2022. https://doi.org/10.1111/sji.13160

[2] Rock, K. L. et al.: Present yourself! By MHC Class I and MHC Class II molecules. Trends Immunol. 37, 724-737 (2016). https://doi.org/10.1016/j.it.2016.08.010

[3] Polack, F. P. et al.: Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine. N. Engl. J. Med. 383, 2603-2615 (2020). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2034577

[4] SARS-CoV-2 mRNA Vaccine (BNT162, PF-0 7302048): 2.6.5.5B. Pharmacokinetics: organ distribution continued, report number: 185350. Page 6. Accessed 23 July 2021. Available at: https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/672212000_30300AMX00231_I100_1.pdf

[5] European Medicine Agency: Assessment report Comirnaty Common name: COVID-19 mRNA vaccine (nucleosidemodified) [WWW Document]. 2020. Accessed 3.14.21. https://www.ema.europa.eu/en/documents/assessment-report/comirnaty-epar-public-assessment-report_en.pdf

[6] European Medicine Agency: Assessment report COVID-19 vaccine moderna common name: COVID-19 mRNA vaccine (nucleoside-modified) [WWW document]. 2020. Accessed 3.14.21. https://www.ema.europa.eu/en/documents/assessment-report/covid-19-vaccine-moderna-eparpublic-assessment-report_en.pdf

[7] Ogata, A. F. et al: Circulating severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) vaccine antigen detected in the plasma of mRNA-1273 vaccine recipients. Clin. Infect. Dis. 74, 715-718 (2022). https://doi.org/10.1093/cid/ciab465

[8] Informed Choice Australia: 1000 Peer Reviewed Studies Questioning Covid-19 Vaccine Safety. March 7, 2022. https://www.informedchoiceaustralia.com/post/1000-peer-reviewed-studies-questioning-covid-19-vaccine-safety

[9] Public Health and Medical Professionals for Transparency: Cumulative Analysis of Post-Authorization Adverse Event Reports of PF-07302048 (BNT162B2) received through 28 February 2021. https://phmpt.org/wp-content/uploads/2021/11/5.3.6-postmarketing-experience.pdf

引用したブログ記事

2022年2月22日 ワクチンmRNAと抗原タンパクは2ヶ月間体内で持続する

2021年6月28日 mRNAワクチンへの疑念ー脂質ナノ粒子が卵巣に蓄積?

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

2021年6月9日 ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否

2021年6月1日 mRNAワクチンの潜在的悪影響を示唆するSeneffらの論文の意義

2021年5月27日 mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出

2020年11月17日 mRNAを体に入れていいのか?

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

ロシアの科学は鎖国化と衰退へ向かう

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、様々な民間会社がロシアでの営業を停止していますが、科学界でも制裁の動きが出ています。今月12日には、米国に本社をおく文献情報サービス会社クラリベイト・アナリティクス(Clarivate Analytics)社が、ロシアでの営業停止を決定しました。

クラリベイトの声明によれば、国際法の支配を尊重・支持する立場から国際社会とともにロシアのウクライナ攻撃を非難し、ロシアにおける商業活動を停止するとしています [1]。そして、停戦、敵対行為の停止、民間人の保護、そしてあらゆる相違を平和的に解決するための交渉による解決を求め、ウクライナの人々にとってこれ以上不必要な破壊と人命の損失を避けることを引き続き支持すると述べています。声明にはハッシュタグ #StandWithUkraine が添えられています。

クラリベイトは、世界で最も大きい文献データベースの一つである Web of Science (WOS) を運営しています。世界で出版されている主要学術誌には、掲載論文がどのくらい引用されているかを示すインパクト・ファクター(Impact Factor, IF)という指標が付与されており、IFがどのくらいのスコアかでその雑誌のレベルを知る一つの目安になっています。このIFが付与されるためには、WOSにその雑誌がインデックス化される必要があるのです。したがって、WOS雑誌に論文を投稿し、WOSにその論文の引用数が掲載されるというのが、(特に理工系の)科学者の研究活動の一つの目標になっています。

ただし、WOSにインデックス化されている雑誌は、世界で発行されている雑誌のごく一部でしかなく、さらに日本語で発行されている雑誌はWOSに取り上げられませんので、WOSの引用数だけでは(特に人文・社会科学系の)研究者の研究業績を評価することはできません。

そして昨日(3月21日)、ロシア連邦科学・高等教育省は、テレグラムチャンネルを通じて、ロシアの科学者は今年の国際会議に参加しないことを明らかにしました。これを米国の技術系ニュースメディアであるザ・ヴァージ(The Verge)が伝えています [2]

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以下にこの記事を簡単に紹介したいと思います。

ロシアのこの決定は、先のクラリベイトのロシアでの商業停止決定を含む、国際的な研究コミュニティとロシアの科学界との関係がぎくしゃくしていることを受けたものであることは明らかです。ヴァレリー・ファルコフ(Valery Falkov)大臣は、大学との会合の中で、科学校はもはや、自らの出版物が2つの主要な国際科学データベースを通じてインデックス化されたことを強調すべきではないと述べたと、同省のテレグラム・チャンネルを通じて伝えられています。

世界にはWOSとScopusという2つの主要商業データベースがありますが、ロシアの科学者がこれらにインデックス化された国際誌に研究を発表することは禁止されていません。しかし、今回のロシアの決定は、研究論文の質の指標として、また科学研究の相対的な重要性を評価するために、これらのデータベース掲載を強調すべきでないということです。

この10年間、ロシアは自国の研究機関の国際競争力を高めるために国際的な学者を積極的に採用し、科学団体にWOSやScopusの指標に基づいて研究者の研究を審査するよう働きかけてきました。大学や研究機関の国際的ランキングは、これらのデータベースから得たデータを使って作成することができますが、ある分析によれば、ロシアの科学者の国際的な学術誌への発表は、この後押しのおかげで、2013年から2016年にかけて上昇したそうです。

しかし2週間前、ロシア政府は、WOSやScopusの索引を持つ学術誌に掲載された科学研究をより高く評価することを止めることを決定しました。また、政府の研究プログラムからの助成金で行われた研究を、インデックス化雑誌で発表することを義務付けないとも述べています。

クラリベイトだけではなく、いくつかの研究機関もロシアの関係を断ち切る決定をしています。たとえば、欧州原子核研究機構(CERN)は、ロシア連邦との協力は行わないとしています。国際数学者会議は、予定通りロシアで開催されるのではなく、7月にバーチャルで開催されることになりました。

そして、多くのウクライナの科学者たちはこの数週間、ロシア人科学者の研究の受付を禁止するよう雑誌に呼びかけています。また、ロシアの科学者を国際会議に招待すべきではないと述べています。

ただ、スプリンガー・ネイチャーなどの著名商業誌の会社は、学術交流を阻害することは望んでいないと、出版ボイコットに反発しているようです。Journal of Molecular Structure など、少なくとも一握りの雑誌は、ロシアの研究機関からの研究を受け入れないと述べています。

以上が、ヴァージに書かれている内容です。

今回の戦争を受けて、科学界は、自分の商業主義を優先するか、研究を優先するか、その前に人間としての人道を優先するかというせめぎ合いのなかで、揺れ動いているというところでしょう。一方、ウクライナの科学者は研究どころではないです。それを思えば、クラリベイトの決定は当然かもしれません。

ロシアからは、これから沢山の有能な科学者や研究者が国外へ流出することになるかもしれません。中長期的にロシアの科学は鎖国化と衰退に向かうことは間違いないでしょう。

引用記事

[1] Clarivate: Clarivate to Cease all Commercial Activity in Russia. March 11, 2022. https://clarivate.com/news/clarivate-to-cease-all-commercial-activity-in-russia/

[2] Wetsman, N.: Russian government bars its scientists from international conferences. The Verge 2022.03.21. https://www.theverge.com/2022/3/21/22988994/russia-science-publication-database-conferences

              

カテゴリー:社会・時事問題

カテゴリー:科学技術と教育

短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?–その2

はじめに

一昨日(3月15日)のブログで、オミクロン変異体による第6波流行においては、発症から短期間での重篤化や死亡が特徴であることを述べました。しかし、これはオミクロンの病態の特徴というよりも、mRNAワクチン接種の悪影響ではないかという個人的疑問をもちました(→短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?)。

その翌日、大阪府災害対策本部の第73回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議が開催され、大阪の感染流行に関する詳細な資料が公表されました [1]。そこで、この資料に基づいて、第6波における死亡までの日数短縮について、さらに考察してみたいと思います。

1. 死亡率と重症化率

資料の11ページ以降に重症・死亡例のまとめがありますので、そこからの図を適宜転載しながら考えてみたいと思います。

まず、大阪の死亡率ですが、以下に示すように、第1波を除いて、全般的に全国より悪いです。やはり、第6波でも全国最悪の被害を出しているように、大阪の感染対策のマズさは際立っているように思います。死亡は高齢者ほど起こりやすいことは、すべての流行の波で言えることですが、詳細については後述します。

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第1波 全国5.4% 大阪4.9%

第2波 全国1.0% 大阪1.5%

第3波 全国1.8% 大阪2.6%

第4波 全国1.9% 大阪2.8%

第5波 全国0.4% 大阪0.4%

第6波 全国0.19% 大阪0.23%

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一方、重症化率を見ると、やはり第1波から一貫して高齢者ほど顕著ですが、60歳以上で見ると、21.1%(第1波)、9.8%(第2波)、8.8%(第3波)、9.3%(第4波)、4.7%(第5波)、0.84%(第6波)と低下傾向にあり、とくにオミクロンでは重症化率が低くなっています。これはオミクロン変異体が重症化しにくいということに加えて、ワクチン接種も影響しているのではないかと思われます。

2. 第6波で短縮された死亡までの日数

ここから、本筋に入りますが、第6波になって死亡までの日数が短縮されたかどうかという点です。

図1は、第4波、第5波、および第6波における、診断から死亡までの日数および発症から死亡までの日数を示したものです。橙色は重症患者による死亡、水色は重症化以外による死亡を示します。第4波と第5波はあまり傾向が変わりませんが、第6波において診断あるいは発症から1〜7日で死亡に至っている事例が最も多く、日数が短くなっていることがわかります。さらに重症化患者の死亡においても短縮されていることが特徴です。

発症から7日以内の死亡の割合でみると、第4波で15.3%、第5波で25.4%、第6波で51.2%となっています。

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図1. 第4波、第5波、および第6波における診断から死亡(上)および発症から死亡(下)に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

次に、第4波、第5波、および第6波における、60代以下(水色)と70代以上(橙色)の発症から死亡までの日数をみたのが図2です。いずれの年代も第6波において1〜7日の死亡の割合が顕著に多くなっています。すなわち、第6波における死亡までの日数短縮は、すべての年齢層にみられる傾向であるということです。

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図2. 第4波、第5波、および第6波における60代以下(水色)および70代以上(橙色)の発症から死亡に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

図3は、基礎疾患のあるなしでの発症から死亡までの日数を示します。基礎疾患があった人(橙色)および基礎疾患がなかった人(水色)ともに、第6波において発症から3日で亡くなった人が多いことを示しています。

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図3. 第4波、第5波、および第6波における基礎疾患があった人(橙色)および基礎疾患がなかった人(水色)の発症から死亡に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

以上の結果から、第6波においては過去の流行の波と比べて、発症から短期間で亡くなる人が顕著に増えており、それは年齢や基礎疾患の有無に関係なく、当てはまるということが言えます。

3. 場所と死亡までの日数との関係

それでは、これらの人たちはどこで亡くなったのでしょうか。そして、亡くなった場所と死亡までの日数と関係があるのでしょうか。図4は、病院(紺色)、施設(橙色)、および自宅(薄緑ストライプ)で死亡した人の発症から死亡までの日数を示します。

目立つのは自宅で3日で死亡した人が多いことです。これは入院できずに、あるいは重篤化に気づかないまま亡くなったことを意味します。大阪府の感染対策の拙さや医療崩壊の一面が出ていると言えるでしょう。

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図4. 第4波、第5波、および第6波における基礎疾患があった人(橙色)および基礎疾患がなかった人(水色)の発症から死亡に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

しかし、病院においても施設においても発症から1週間〜10日以内に亡くなっている人が多く、とくに第4波において1〜4週間の死亡割合が高いこと(図1)と比べると対照的です。つまり、医療崩壊の影響で自宅で早期に死亡した人が多いとは言え、入院患者さえも第4波、第5波と比べると早期に死亡しているということになります。入院が遅れたということもあるでしょうが、流行の波による違いは顕著だと言えます。

4. ワクチン接種との関係

それではワクチン接種の履歴と死亡までの日数の関係はどうでしょうか。図5に、3回接種(紺色)、2回接種(橙色)、および1回接種+未接種+不明(水色)の人の発症から死亡までの日数を示します。目立つのは、1回接種+未接種+不明のカテゴリーの人の3日での死亡です。しかし、残念なのは、1回接種、未接種、不明が一括りにされているため、完全接種やブースター接種に比べて明確な傾向がみえにくくなっていることです。ここは一括りにするべきではありません。

完全接種やブースターでみても、やはり発症から1週間〜10日以内での死亡の割合が多く、第4波の1〜4週間の死亡割合が高いことと比べると、明らかに死亡までの日数が短縮されています。

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図5. ワクチンの3回接種(紺色)、2回接種(橙色)、および1回接種+未接種+不明(水色)の人の発症から死亡までの日数を(文献 [1] から転載).

すなわち、第6波においては、年齢や基礎疾患の有無やどこで療養・治療していたかに関わりなく、発症から死亡までの日数が短縮されており、これはワクチン接種を受けていても当てはまるということになります。

5. 専門家はどうみたか

それでは、今回の大阪府新型コロナウイルス対策本部会議において、出席した専門家の委員(座長のみであとは書面提出)はどのような死亡分析をしているでしょうか。

まず、朝野和典座長は、死亡までの日数短縮が起こったことについて、「オミクロン株の病原性が弱いため、あるいはワクチンの影響で肺炎やそれに伴うサイトカインストームが死亡原因ではない」、「高齢者が多いために、発熱や倦怠感の症状が明確ではなく診断が遅れた」、「診断時に自宅にいる人の割合が多いことから、自宅での気づくのが遅れた」などと分析しています。その上で、「死亡者の半数以上はワクチンを打っていないか不明の人のため、データからはワクチンの死亡抑制効果は明らかである」と述べています。

しかし、資料 [1] では、ワクチン未接種者と不明者がなぜか一括りにされています。ワクチンの効果を論じるには、この点をはっきりさせる(区別する)必要があります。

資料にはそのほかの4人の専門家のうち、3人の死亡分析のコメントがありますので、それを図6に示します。死亡までの日数が短縮されたことについては、オミクロン株では「初期に軽症・無症状であることも多い」、「コロナ感染の診断の遅れ」、「コロナが重症化する以前に早期死亡に至った」、「死因についてもっと詳細な検討が必要である」などの意見が見られます。

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図6. 第73回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議における専門家委員による死亡分析(文献 [1] から転載したものに筆者加筆).

しかし、これまでの流行の波と比べて、オミクロンでは重症化率が低いにも関わらず、なぜ死亡までの日数短縮が起こったかについては明確な説明はないように思われます。朝野座長は、第6波での死亡例にワクチン未接種者が多いことに言及していますが、第4波では全員が未接種であるにも関わらず、早期死亡例は第6波よりはるかに少ないです。

おわりに

オミクロン変異体による第6波において早期死亡例が多いということは、大阪府の分析でも明確になりました。しかし、会議資料を見てもなぜそうなのかということははっきりしません。自宅療養の高齢者が気づくのが遅れたとか、診断が遅れたなどという理由付けがなされていますが、入院患者の場合でも、明らかに以前の流行と比べて早期死亡例が増えています。大阪の感染対策の不備はもちろんありますが、それだけではないようにも思われます。

つまり、上記したように、年齢、基礎疾患の有無に関わらず、そしてワクチン完全接種者やブースター接種者においてさえも、以前の流行(ワクチン接種前)と比べて早期死亡例が増えているのです。第6波では重症化率や死亡率は格段に減っているわけですから、早期死亡はオミクロンの帰因するとは考えにくいです。

ほかに理由を考えるとするなら何があるでしょうか。やはり、ワクチンの効力低下、あるいは武漢型mRNAワクチンの繰り返し接種による悪影響(たとえば抗体依存性免疫増強や免疫不全)が出てきた(→短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?)とは考えられないでしょうか。

引用文献

[1] 大阪府災害対策本部: 第73回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議. 2022.03.16. https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/38215/00423092/ikkatsu4.pdf

引用したブログ記事

2022年3月15日 短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

予測不能な病毒性をもつSARS-CoV-2の出現

はじめに

ウイルスのゲノム(DNAまたはRNA)の変異はランダム変異であり、時間軸に対して一定の確率で起こっています。その変異は彼ら自身にとって良くも悪くもなく中立的ですが、そのなかで環境(宿主)に適応したものだけが生き残っていきます(自然選択説)(→流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?)。

そして変異がアミノ酸の置換を伴うような非同義置換であると、そこからつくられるタンパク質の形や機能も変わり、表現型が変化する場合があります。これが進化です。ゲノムの変異はあるのに表現型は変わらないということもあり得ます。

新型コロナウイルスSARS-CoV-2)も同様に中立的に変異しているはずですが(RNAポリメラーゼの複製エラーや紫外線などの変異原の影響)、宿主の免疫やRNA編集機能の圧力を強く受けているので、宿主との相互作用が大きく進化に影響します。ワクチンは宿主の免疫に大きく影響しますので、ワクチンもウイルスの進化への強い選択圧として作用するはずです(→ボッシェ仮説とそれへの批判を考える)。

最近、ネイチャー誌に、SARS-CoV-2の「懸念すべき変異体、variants of concern, VOC」の進化に関する論説が掲載されました [1]イタリア、英国、ドイツの研究者の共同執筆によるもので、ウイルスの抗原進化によって、この先予期せぬ病毒性をもつ新しいVOCが出現するかもしないということが焦点になっています。

この論文は、「ウイルスは宿主を生かすために毒性を弱めるように進化する」という一部の考え方を神話にしかすぎないと切り捨てており、ウイルスの抗原性の変異とともに、伝播力、重症度、および免疫逃避の相互作用の観点から、新しい重症性のVOCの出現に懸念を示しています。

このブログ記事で、この論説を翻訳しながら紹介したいと思います。少し前に、関連する記事(→エンデミック(風土病)の誤解)を書いています。

1. 論説の翻訳文

以下、筆者による全翻訳文を示します。適宜、論文中で引用された文献も示します。

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Antigenic evolution will lead to new SARS-CoV-2 variants with unpredictable severity, by Markov, P. V. et al.

オミクロン変異体による感染が比較的軽症であること、集団免疫レベルが高いことから、パンデミックが減衰することが期待されている。私たちがここで主張したいことは、オミクロンの重症度が低いのは偶然であり、現在進行中の急速な抗原進化が、免疫を逃避しより重症化する可能性のある新しい変異体を生み出すかもしれないということである。

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)は、その感染しやすさ、免疫力の低下、抗原進化、そして多くの潜在的動物リザーバーにより、ヒトで継続的に流行することが予想されている [2]。この継続的な循環の疫学的・臨床的パラメータおよびCOVID-19の将来の人口への影響(負荷)を予測することが重要な課題である。

懸念すべき変異体(VOC)の最新型であるオミクロンが、これまでのVOCと比較して比較的穏やかなレベルの疾病を発生させたことにより、ウイルスの疫学と進化に関するさまざまな希望的観測が再燃している。これらの考え方は、「無害な」流行についての誤った早とちり理論 [3] から、免疫の広がりによって流行の波が安全になるという期待、そしてウイルスが良性に進化するという希望まで、多岐にわたっている。

ウイルスは、宿主を生かすために毒性を弱めるように進化するという考え方は、病原体の進化をめぐる最も根強い神話の一つである。強い進化圧を受けているウイルスの免疫逃避や感染性とは異なり、病原性は通常、宿主と病原体の両方の要因の複雑な相互作用によって形成される副産物である。 たとえば、ウイルスの量が多くなると、伝播性が促進されるだけでなく重症度も高くなる。その場合、病原体はより高い病原性を持つように進化する可能性がある。

もし、SARS-CoV-2が、インフルエンザウイルス、HIVC型肝炎ウイルス、その他多くのウイルスのように、典型的な潜伏期間を経て重症化が感染後期に現れる場合、ウイルスの増殖力が感染伝播の適合性において果たす役割は限られており、進化上選択されないかもしれない。 

病原性の進化を予測することは複雑な作業であり、オミクロンの重症度が低いということが、将来の変異体を予測できる指標にはなりにくい。将来、免疫逃避による再感染能力と高い病原性を併せ持つVOCが出現する可能性は、残念ながらきわめて高い。

また、ワクチンや自然感染による免疫の広がりにより、将来的にSARS-CoV-2感染の軽症化が保証されるという考え方もある。しかし、この考えは、SARS-CoV-2の生物学の中心的特徴である抗原進化、すなわち、宿主の免疫圧に反応してウイルス抗原プロファイルが絶えず変化していることを無視している。 

抗原性の進化が激しいと免疫逃避という結果になり得る。すなわち、再感染を防ぐ宿主の免疫系の能力が低下し、そして重症化する可能性がある。集団レベルでは、抗原進化と免疫逃避は、再感染率と重症化率を増加させ、負担を増大させる可能性がある(図1)。

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図1. VOCにおける伝播力、重症度、および免疫逃避の相互作用が及ぼすSARS-CoV-2集団への影響(文献 [1] より転載).

オミクロンは、SARS-CoV-2が比較的短期間にかなりの抗原性逃避が可能であることを明確に示した。この変異体は、祖先のWuhan-Hu-1基準株と比較して少なくとも50のアミノ酸変異を有し、以前のVOCsとは抗原的に大きく異なっている。それが免疫力の高い集団で爆発的に広がったことは、これらの変異が、すでに感染やワクチン接種で免疫力を持っていたはずの個体にウイルスを容易に感染させることを明らかにした。 

オミクロンの亜系統間では遺伝的差異が著しく、この分岐の機能的重要性は、BA.2系統の比例的増加によって示されている。

2020年9月、当初は比較的進化的に安定していたSARS-CoV-2変異体が、祖先型ウイルスからかなりの抗原差異を持つ変異体に分岐し始めた [4]。少なくとも初期の3つのVOC、ベータ、ガンマ、デルタは免疫逃避変異を備えており、現在のところ、抗原進化が鈍化するといういかなる証拠もない。それどころか、VOCは「進化の氷山」の一角に過ぎないのだ。何百ものSARS-CoV-2の系統は、時間の経過とともに絶えず互いに分岐しており、そして進化理論は、将来、免疫逃避変異体が生まれる可能性が高くなると予測している。

ウイルスの適応力は、実効再生産数(Rt)によって適切に定量化される。Rt は、1つの感染例が集団に生み出す二次感染の総数である。つまり、最も適応性の高いウイルスとは、最も多くの宿主に感染するウイルスである。誰もが感染しやすいナイーヴ集団では、ウイルスはより感染力を高めることでこれを達成することができる。

初期のVOCはこの方法で進化した。アルファ、デルタはそれぞれ先祖の約50%増の伝播力を持ち、それぞれが母集団で優位に立つために急速にその座を奪っていったのである。しかし、免疫力の高い集団では、宿主の感染抵抗力が障害となるため、本質的な感染力が増加しても、伝播力への寄与は相対的に小さくなる。したがって、SARS-CoV-2は、ヒト集団が高免疫レベルに移行するにつれて、高感染性であることよりも、免疫保持者に再感染する能力を磨くことによって、その伝播性(Rt)を最適化していくことが予測される。

つまり、宿主の免疫レベルの向上は抗原進化を加速させ、再感染のリスクと再感染時の重症化率を高める可能性がある。オミクロンの急速な広がりは、免疫のある個体に再感染するその並外れた能力によって促進されたものであり、この進化戦略の例といえるだろう [5]

オミクロンは、他の循環株よりも病毒性が低い最初のVOCであり、これはパンデミックの終息が近づいている兆候であると熱狂的に解釈されている。 しかし、オミクロンの病毒性が低いのはラッキーな偶然に過ぎない。これまでのVOCは病毒性が強いものが多かったが、オミクロンは例外のように見える。免疫の逃避は、常に変化する標的を攻撃する必要がある。オミクロンが多くの人に感染した後、次の変異体は、オミクロンやこれまでのVOCに対する免疫を克服するために、できるだけ抗原的に異なるものである必要がある。

過去に優勢となったVOCは、いずれもその時点で優勢な系統に由来するものではなく、将来のVOCも同様であろう。これまでの抗原変異体がどのような経緯で生まれたのか、ほとんど分かっていないため、将来の変異体の発生時期や抗原性・ウイルス性を予測することは困難である。

より病原性の高い将来のVOCは、オミクロンを一掃し、その重症度を低くする特徴(肺組織よりも上気道を好む、細胞-細胞融合を誘発する傾向が低い)と共に置き換わるだろう。

分子時計分析では、オミクロンが他のSARS-CoV-2系統から分かれたのは、流行開始の1年以上前であることがわかった。このことは、抗原的に分岐した他の変異体が現存する、あるいは現在形成されている、まだ出現していない可能性を示唆するものである。

COVID-19の将来の影響(負荷)を理解するためには、抗原性逃避と疾患の重症度との関係を探るほかに、抗原性の高い分岐した変異体の生成機構とその出現の背景を精査する必要がある。これには、免疫不全者における抗原進化パターンや、ヒトに近接したSARS-CoV-2感染動物種における抗原進化パターンを調べることが含まれる。これらの要因を理解することで、ヒトにおける将来の集団感染リスクをより確実に評価し、計画を立て準備することが可能になる。

筆者あとがき

ワクチン接種プログラムが進行し、感染流行の主体が「軽症」、「重症化しにくい」と言われるオミクロン変異体に替わって、主な先進諸国は規制緩和に転じています。お隣の韓国も数十万人の新規陽性者数を出しながら、重症化は増えていないという理由で規制緩和を行なっています。

パンデミックで楽観主義に陥りやすいのは、経済活動が頭にある時の為政者や感染対策担当者の常ですが、医療専門家でさえ、「無害な流行へ移る」という考えとともにこの手の傾向が見られ、今回の論説ではこれを「早とちり理論」と揶揄しています。

SARS-CoV-2は常に進化し、ワクチンや治療薬が変異を免疫逃避の方向へいくことを促し(→ボッシェ仮説とそれへの批判を考えるワクチンと治療薬がスーパー変異体の出現を促す?)、抗原性の変異が病害性の程度と関係ないことも、今回も含めて論文上で指摘されています。そして、SARS-CoV-2が感染が野生動物の間に広がることによって、新たな変異体が出現する機会も広がっていると考えられます(→スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染 )。数理モデルを使った先行研究では、抗原性シフトが、宿主の死亡率(病原性)を高める、より感染率の高い急性感染症を選択することを明らかにしています [6]

この先の新たなウイルス変異体の出現について、その病毒性に関してはまったく予測不能であり、そのリスクが減るということは断定できないでのです。つまり、現時点でエンデミックになるという主張は、まったくの寓話にしかすぎません。

引用文献

[1] Markov, P. V. et al.: Antigenic evolution will lead to new SARS-CoV-2 variants with unpredictable severity. Nat. Rev. Microbiol. Published March 14, 2022. https://doi.org/10.1038/s41579-022-00722-z

[2] Shaman, J. & Galanti, M.: Will SARS-CoV-2 become endemic? Science 370, 527–529 (2020). https://www.science.org/doi/full/10.1126/science.abe5960

[3] Katzourakis, A.: COVID-19: endemic doesn’t mean harmless. Nature 601, 485 (2022). https://www.nature.com/articles/d41586-022-00155-x

[4] Tao, K. et al. The biological and clinical significance of emerging SARS-CoV-2 variants. Nat. Rev. Genet. 22, 757–773 (2021). https://www.nature.com/articles/s41576-021-00408-x

[5] Meng, B. et al.: Altered TMPRSS2 usage by SARS-CoV-2 Omicron impacts tropism and fusogenicity. Nature Published Fbruary 2, 2022. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04474-x (2022). https://www.nature.com/articles/s41586-022-04474-x

[6] Sasaki, A. et al.: Antigenic escape selects for the evolution of higher pathogen transmission and virulence. Nat. Ecol. Evol. 6, 51–62 (2022). https://doi.org/10.1038/s41559-021-01603-z

引用したブログ記事

2022年1月31日 エンデミック(風土病)の誤解

2022年10月31日 流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?

2021年8月14日 ボッシェ仮説とそれへの批判を考える

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?

オミクロン変異体による第6波流行において、いくつかの病態の特徴が示されています。その一つが、患者が肺炎を起こさず、短期間で重篤化し死亡する事例が多いことです。テレビで、ある医療専門家が、「あっという間に亡くなる」とコメントしていたことが耳に残っています。

新聞は、国立感染症研究所が、1月14~24日に重症か死亡の報告があった81人の患者を調査したことを伝えました [1]。それによれば、多臓器不全や重い肺炎は1割前後しかない一方、症状の進行が速く、発症からの日数の中央値は重篤まで4日、死亡までは3日だったとされています。鈴木基・感染研感染症疫学センター長は、「数が少なく結論は出せないが、デルタ株より短い印象だ」と語っています。 

オミクロンによる被害で最悪なのが、第4波でも大きな被害を出した大阪です。ここでも発症3日以内の死亡が増加していることが報道されています [2]。大阪の最悪状況はそもそも吉村府政に帰因するところも大きいのですが、それにしても3日以内の死亡が増えているというのは異常です。

私はこれがずうっと気になっていて、「肺炎を起こしにくい」はまだ理解できるけれども、「あっという間に死亡する」というのはどういうことか、と疑問に思ってきました。多くの医療専門家からは、主な要因として、「高齢者や基礎疾患をもつ患者の死亡が多いから」とか「ワクチンの効力が弱まった」とか説明されていますが、それは第1波からずうっと言えることです。そして、第1〜第4波における重症化や死亡は、ワクチン接種前のことであり、それらと比べれば、第6波で「ワクチンの効力が弱まった」は理屈になっていません。今ひとつ説得力に欠けます。

そこで、実際に各流行の波における新規陽性者数と死者数のピークを比べてみれば、何らかの傾向が見えるのではないかと、Our Word in Dataからのデータを探ってみました。実際は、個々の患者の事例について感染・発症日から死亡に至るまでの日数をとればよいのですが、私たちがそのデータを見ることは不可能です。そこで、それを近似すると考えられる新規陽性者数と日あたりの死者数のピークを比べるということを考えたわけです。

しかし、ここで問題となるのが、日本の統計崩壊です。とくに第6波では、みなし陽性が導入され、国よる検査抑制策もあって1月終わりから統計が崩れており、新規陽性者数のピークが実際より早く出ている可能性があります(→国が主導する検査抑制策統計崩壊で起こった第6波流行ピークのバイアス )。神奈川県のように検査数と陽性率を公表しないというとんでもない自治体も出てきて、統計がめちゃくちゃになっています。

とはいえ、前のブログ(→統計崩壊で起こった第6波流行ピークのバイアス)でも書いたように、統計崩壊の状況でも新規陽性者数のピークを検査陽性率のピークで近似できる可能性があります。

そこで、各流行における二つの感染ピークの指標(新規陽性者数および陽性率のピーク)と死者数のピークのズレを分析してみました(表1)。ここでは、関西と関東で1ヶ月の流行ピークのズレがある第4波は除きました。表に見られるように、統計崩壊した第6波を除くと、陽性者数のピークと陽性率のピークはほぼ一致するか、若干後者が早く出る傾向にあります。これは日本以外の国でも当てはまります(→統計崩壊で起こった第6波流行ピークのバイアス

表1. 各竜流行の波における新規陽性者数(7日間移動平均)および検査陽性率(7日間移動平均)のピークからの日あたり死者数ピーク(7日間移動平均)のズレ(Our World in Dataのデータを参照して作成)*

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*脚注: 表に示したピークはすべて7日間移動平均値なので、実際の統計のピークとは異なり、数日遅れて出ていることに注意.

ここで、新規陽性者数と死者数のピークのズレ(表1、A-C)および陽性率と死者数のピークのズレ(表1、B-C)の平均値(右端カラム赤字)で話を進めます。

まず、第2波と第3は25日前後のピークのズレの値で似ています。第1波はこれよりも5日程度小さいですが(19.5日)、実は第1波では、「37.5℃で4日間待つ」という悪名高かった検査の目安があったため、検査が非常に遅れたことを考慮しなければなりません(→無症状の濃厚接触者はPCR検査を受けられない)。

そうすると、他の流行の波と比べて、(検査確定)陽性者数のピークと死者数のピークの間が少なくとも4日間は短くなっている可能性があります。つまり、実際の第1波は、第2、3波と同じ程度のピークのズレ(25日前後)であった可能性が大きいのです。

これらの流行の波と比べると、第5波は6日間ほど短くなっており、第6波ではさらに短くなっていることがわかります。第6波では、検査減らしのために陽性者ピークが早く出ている可能性があり、真のピークは陽性率の方が近いと考えられます。そこで陽性率のピークで考えると、ピークのズレは12日となり、ワクチン未接種だった第1−3波のほぼ半分に短縮されることになります。

確かに第6波で、死亡までの日数は短縮されていることがわかりましたが、これは何だかおかしいです。果たして、発症から死亡までの短縮は、ウイルス変異体の違いによる病害性の影響でしょうか。オミクロン変異体は強毒性とは言われておらず(むしろ当初軽症と言われた)、そうだとしたら、いきなり重篤になり、死亡するというのは変です。

ここで、死亡までの日数が第5波で短縮され、第6波でさらに短縮されたことに注目したいと思います。第5波、第6波と第1-3波の違いは、ウイルス変異体の型を別にすれば、ワクチン接種があったかなかったかの違いです。そうです、ウイルスの病毒性でないとするなら、ワクチンの影響では?と考えたくなるような現象です。

第5波、第6波における死亡者とワクチン接種との関係については、手元にデータがないので何とも言えません。しかし、少なくとも第6波で死亡した高齢者には、多くのワクチン完全(2回)接種済みの人が含まれると考えられます。そして、大部分が昨年の夏で接種済みになっていますので、接種後半年以上を経過し、効力が低下していると考えられます。効力が低下したところに、オミクロンに感染し、短期間で亡くなったという状況が考えられるわけです。

前のブログで紹介したように、英国のあるウェブメディアは、英国におけるワクチン完全接種者は未接種者よりも新型コロナ感染による死亡リスクが全年齢層において高くなっていることを報告しています(→ワクチン完全接種者は未接種者よりもコロナ死亡率が高い?)。そして、この原因としてワクチンの効力が低下した場合の後天性免疫不全の可能性を挙げています。この仮説はフェイク扱いされていますが、少なくとも、ワクチンとして使われている修飾型mRNAが細胞性免疫を抑えることは、サイエンス誌上で報告されています [3]

私は、オリジナルの武漢株のスパイクタンパク質に基づいて設計されたmRNAワクチンを受けた後、時間的な効力低下が起こり、そこに(デルタ型や)オミクロン型に感染したことにより、抗体依存性免疫増強(ADE)が起こった可能性もあるのでは?と考えています。すなわち、第6波における短期間での重篤化、死亡は、オミクロンの特徴というわけではなく、ワクチンの効力が低下したというわけでもなく、mRNAワクチンが及ぼす負の影響ではないかという疑念があるわけです。

もし、ADEあるいは免疫不全の可能性があるとするなら、この先、新たな変異体による感染が起こった場合、mRNAワクチンを完全接種した全年齢層において死亡リスクが高くなる懸念があります。英国での事例はその先駆けではないかと思われるわけです。ADE、その他のワクチンの負の影響の可能性について、専門家による研究と検証を強く願うものです。

mRNAワクチンの主要メーカーの一つ、ファイザー社のアルバート・ブーラCEOは、オミクロン変異体への現行ワクチンの効果について、入院や死亡はかなり予防できるものの、3回接種後も感染予防はあまり期待できず持続期間も長くないと語り、4回目接種の必要性に言及しています [4]。いやはや、あたかも在庫処分のように、4回目の接種を進めるとは..という感じです。武漢型の現行ワクチンについては、利権や金儲けが絡むこともあって、メーカーやワクチン推奨者の話はもはや信用できなくなりました。

引用文献・記事

[1] 東京新聞: オミクロン株の特徴が明らかに 重症化率は低いが短期間で重篤化 高齢者には脅威. 2022.02.14. https://www.tokyo-np.co.jp/article/158067

[2] NHK NEWS WEB: 大阪府 新型コロナ第6波分析 発症3日以内に死亡の割合増加. 2022.03.15. https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220315/2000058896.html

[3] Krienke, C. et al.: A noninflammatory mRNA vaccine for treatment of experimental autoimmune encephalomyelitis. Science 371, 145–153 (2021). https://doi.org/10.1126/science.aay3638

[4] CNN.co.jp: ファイザーCEO、4回目接種は「必要」 全変異株対応のワクチン開発も. 2022.03.14. https://www.cnn.co.jp/business/35184839.html

引用したブログ記事

2022年3月6日 ワクチン完全接種者は未接種者よりもコロナ死亡率が高い?

2022年2月24日 統計崩壊で起こった第6波流行ピークのバイアス

2022年2月14日 国が主導する検査抑制策

2020年4月7日 無症状の濃厚接触者はPCR検査を受けられない

                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

カテゴリー:ウイルスの話

はじめに

新型コロナウイルスSARS-CoV-2)の起源については、コウモリやセンザンコウに類縁のウイルスが知られているものの [1](→SARS-CoV-2類似のコウモリウイルス発見の意義)、依然として謎であり、中間宿主についても特定されていません。この観点から、野生動物におけるSARS-CoV-2の分布探索は非常に重要です。また、野生動物においてSARS-CoV-2が存在するとなると、ヒトー動物の異種間感染 宿主乗り換えスピルオーバー、spillover)の可能性があり、この点でも調査・監視が必須です。

これまで、COVID-19大流行の間に、ヨーロッパでは飼育されているミンクからヒトにSARS-CoV-2が感染し、発症に至った事例があり [2]、香港ではペットショップの従業員がハムスターからSARS-CoV-2に感染した事例が報告されています。このように、ヒトからペット動物や野生動物にウイルスが伝播することはすでに多くの事例で知られており、スピルオーバーの可能性への懸念が示されてきました [3]

このような中、カナダの政府および学術機関の研究者32人からなる研究チームによる最新の研究で、SARS-CoV-2が北米に生息するオジロジカOdocoileus virginianus)からヒトに感染した可能性が高いことが明らかになりました [4, 5]。先行研究では、オミクロン変異体が、ヒトからネズミの感染し、それがまたヒトへ戻ってきたとする二次スピルオーバーの可能性も指摘されています [6, 7]

このブログでは、ヒト−動物間のすスピルオーバーに関するこれらの研究を紹介するとともに、その意味と波及効果について考えたいと思います。

1. シカ−ヒト間の感染

この研究成果は、プレプリントサーバー「バイオアーカイブ」(bioRxiv)に2月25日付けで公開された査読前論文の中で報告されています [4]。これは、野生動物ーヒト間のSARS-CoV-2のスピルオーバーとしては初の報告となります。ナショナルジオグラフィックも、早速この成果を紹介しました [5]

この研究では、2021年11月から12月にかけて、カナダ、オンタリオ州南西部と東部においてハンターに仕留められたオジロジカの約300頭の死体から213の鼻腔スワブと294の後咽頭リンパ節の組織が検体として採取され、RT-PCRによるSARS-CoV-2 RNAの検出が行なわれました。その結果、検査した検体の6%にあたる17頭において、SARS-CoV-2が検出されました。

さらに鼻腔スワブ検体から、5つの高品質ゲノムと2つの部分ゲノムが回収されました。これらのゲノム配列は、ヒト RNAse PのPCRおよび非SARS-CoV-2アンプリコンリードの解析から、ヒトのSARS-CoV-2汚染の可能性は極めて低いことが示されました。

最尤法と最大節約法に基づく系統解析の結果、これらのオジロジカ由来ゲノムはB.1 PANGO系統/20C Nextstrain系統の中で高度に分岐したクレードを形成しました(図1)。オジロジカのクレードは非常に長い枝を形成する新規変異体であり、祖先SARS-CoV-2(Wuhan Hu-1)に対して76の保存塩基変異を、他のゲノムとの最も近い共通祖先に対して49の保存塩基変異をもっていました。最類縁の分岐ゲノムは、約1年前(2020年11月・12月)にサンプリングされた米国ミシガン州のヒト由来配列でした。

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図1. オンタリオ州オジロジカ(white-tailed deer)の検体から得られたゲノム配列の系統樹(文献 [4] からの転載図に加筆)

これらの結果は、この新規変異体が、デルタやオミクロン変異体よりも前から存在していたことを意味します。さらにこの変異体が既存のCOVID-19ワクチンを回避する可能性があるかどうかを分析したところ、ワクチンの予防効果に大きな影響はないことがわかりました。

SARS-CoV-2が米国のオジロジカの間で広がっていることは、先行研究によってわかっていました [8, 9]。米農務省の研究者らは、2021年1〜3月に米ミシガン州イリノイ州ニューヨーク州ペンシルベニア州で検査したオジロジカの4割から、SARS-CoV-2の抗体を検出していました [10](→新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える)。しかし、オジロジカが保有するウイルスは近くに居住している人がもっていたウイルスと非常によく似ていたため、単にヒトからシカに感染したと考えられていました。

ところが、今回の研究では、オジロジカの中で、ヒトに見られないウイルス変異体の系統が存在すること、そしてオンタリオ州でオジロジカと密接に接触していた人が、まだ1人だけですが、シカと同じ変異体に感染していたことも明らかになりました。

オジロジカがどのようにしてSARS-CoV-2に感染したのかも、まだ解明されていません。しかし、上記の事実から、SARS-CoV-2はシカの間で感染拡大しながら変異を繰り返しており、そのうちの一つが最終的にヒトに感染したことが示唆されています。ゲノム解析の結果は、シカと感染者の間のウイルスの系統の一致を示しており、ヒトへの直接感染が「最も可能性の高いシナリオ」だと研究チームは考えています。

2. 研究の意義と波及効果

現時点では、オンタリオ州のオジロジカと1人のヒトから見つかったウイルスが、シカからヒトへ何度も感染している証拠や、この変異体がヒトからヒトへ持続的に感染が広がっている証拠はないとされています。しかし、論文の著者らも主張しているように、種の壁を越えたSARS-CoV-2の感染を引き起こしうる保有宿主の特定は、ますます重要になるでしょう。すなわち、人間におけるウイルス伝播の監視だけではなく、動物におけるモニタリングも必須になってくるわけです。

今回の研究で明らかになったオジロジカの変異体は、これまで得られているヒトの変異体とは大きく系統が異なっています。ここで気になるのが、いま世界で流行しているオミクロン変異体が系統的に大きく異なるということです。つまり、重要なことは、系統的に大きく離れたウイルス変異体が患者から検出された場合には、それがスピルオーバーによる二次感染である可能性が高いということを意味するのではないかということです。

冒頭でも述べましたが、中国の銭文峰教授らによる研究チームが発表した論文では、オミクロン変異体がネズミから始まったという主張を展開しています [6]。この変異体がヒトの中で進化したのではなく、その祖先変異体が一旦動物に入り、そこで進化してオミクロンとなり、それがヒトに逆流して広がったという、スピルオーバー発生の主張です。この研究では、オミクロン変異体の先祖がヒトからネズミに感染した時期を2020年中頃とみて、そこで1年ほど突然変異を経た後、2020年末に再びヒトに感染したと推定しています。

なぜ、このようにヒトと動物間でSARS-CoV-2で感染が広がっていくかと言えば、一つはウイルスの感染力に関する特性にあると推論できます。SARS-CoV-2は、ヒトのACE2を主要な受容体として宿主細胞へ侵入するので、ACE2とスパイクタンパク質の相互作用が宿主の感染範囲を大きく制限要因となっていると考えられます。

野生型SARS-CoV-2およびSタンパク質中のフーリン切断部位を欠くSARS-CoV疑似型ウイルスを用いて、異なる動物種の14種のACE2オルソログの受容体活性について調べた結果では、幅広い動物種においてACE2を利用した宿主細胞に侵入が見いだされています [11]。これらはアカゲザル、マウス、ハクビシンフェレットアナグマ、ネコなどです。

また、フーリン切断部位を欠いた変異体の実験では、ヒト呼吸器細胞株での複製が減少し、ハムスターおよびhACE2トランスジェニックマウスにおいて病原性が減弱することが示されていますので、この部位が感染力増強に寄与していることは間違いないでしょう [12]。想像するに、SARS-CoV-2がフーリン切断部位を獲得した後の最初の感染対象がヒトであり、そこを起点にヒトと野生動物間で広がったのではないでしょうか。

おわりに

このように野生動物の間でSARS-CoV-2が広がっていくと、ヒトー動物間の新たな感染が懸念されます。もしパンデミックが収まったとしても、野生動物の変異体からヒトへの新たな感染が起こり、それが新たなパンデミックを引き起こす危険性もあるわけです。野生動物にウイルスが広がれば、ワクチン戦略もより困難性を伴います。厄介になってきました。

SARS-CoV-2は人獣共通感染症(zoonotic infectious disease、zoonosis)としての認識が必要です。そして、考えたくはないですが、ウイルスによる哺乳類種の大量絶滅に繋がる可能性もでてきました。

これから動物におけるSARS-CoV-2の監視が非常に重要になると思われます。それと同時に、ますますSARS-CoV-2の起源に関する探索が難しくなるかもしれません(もっとも人為起源なら半永久的にわからない)。

引用文献

[1] Temmam, S. et al.: Bat coronaviruses related to SARS-CoV-2 and infectious for human cells. Nature, published Feb. 16, 2022. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04532-4

[2] Oude Munnink, B. B. et al.: Transmission of SARS-CoV-2 on mink farms between humans and mink and back to humans. Science 371, 172–177 (2021). https://www.science.org/doi/10.1126/science.abe5901

[3] Meekins, D. A. et al.: Natural and experimental SARS-CoV-2 infection in domestic and wild animals. Viruses 13, 1993 (2021). https://doi.org/10.3390/v13101993

[4] Pickering, B. et al.: Highly divergent white-tailed deer SARS-CoV-2 with potential deer-to-human transmission. bioRxiv posted February 25, 2022. https://doi.org/10.1101/2022.02.22.481551 

[5] ナショナル ジオグラフィック日本版: シカからヒトに新型コロナが感染、初の報告、カナダのオジロジカ. menuニュース 2022.03.09. https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/natgeo/world/natgeo-0000Aqoc

[6] Wei, C. et al.: Evidence for a mouse origin of the SARS-CoV-2 Omicron variant. J. Gen. Genomics 48, 1111–1121 (2021). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1673852721003738

[7] チョ・ホンソブ: 中国の研究チーム「オミクロン株、ヒト→ネズミ→ヒトと宿主を変えた」. HANKYOREH 2022.01.07. http://japan.hani.co.kr/arti/politics/42211.html?_ga=2.165474431.1396263221.1646959158-1822165932.1645591781

[8] Kuchipudi, S. V. et al.: Multiple spillovers and onward transmission of SARS-CoV-2 in free-living and captive white-tailed deer. bioRxiv Posted November 6, 2021. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.10.31.466677v2

[9] Hale, V. L. et al.: SARS-CoV-2 infection in free-ranging white-tailed deer. Nature 602, 481–486 (2022). https://www.nature.com/articles/s41586-021-04353-x

[10] Chandler, J. C.: SARS-CoV-2 exposure in wild white-tailed deer (Odocoileus virginianus). bioRxiv Posted July 29, 2021. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.07.29.454326v1

[11] Zhao, X. et al.: Broad and Differential Animal Angiotensin-Converting Enzyme2 Receptor Usage by SARS-CoV-2. J. Virol. 94, e00940-20 (2020). https://doi.org/10.1128/JVI.00940-20

[12] Johnson, B. A. et al.: Loss of furin cleavage site attenuates SARS-CoV-2 pathogenesis. Nature 591, 293–299 (2021). https://www.nature.com/articles/s41586-021-03237-4

引用したブログ記事

2022年2月17日 SARS-CoV-2類似のコウモリウイルス発見の意義

2021年8月5日 新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

カテゴリー:ウイルスの話

ワクチン完全接種者は未接種者よりもコロナ死亡率が高い?

はじめに

いま、テレビをはじめ主要メディアは、ロシアによるウクライナ侵略の報道で一色です。また、COVID-19の流行状況についても、日本のテレビはほぼ毎日報道していますが、新規陽性者数や重症者数、病床の状況などのリアルタイムでの流行状況が主体であり、ワクチンの効果に関するものはほとんどないようです。

一方、海外に目を向けると、英国健康安全保障局(UKHSA)が、毎週COVID-19ワクチンサーベイランス報告書を発行していて、ワクチン接種状況別のCOVID-19患者、入院、死亡に関する数字を掲載しています。最新のレポート「Week 9 - 2022」は、2022年3月3日(現地日付)に発行されました [1]

私を毎回これに目を通していますが、今回、英国の匿名ウェブメディアである"The Exposé"が「Week 9 - 2022」を取り上げて、おもしろい記事 [2] を配信していましたので、ここで紹介したいと思います。記事の主旨は「ワクチン完全接種者は未接種者よりもCOVID-19の死亡率が高い」というものです。

1. Exposéとは

Exposéについては、実は私はよく知りません。ウェブ情報を探ってみましたが、これといった情報は出てきませんでしたし、ウィキペディアのページもありませんでした。Exposéのウェブページで判断するしかないのですが、そこを見ると、彼らのポリシーでは、大手メディアが伝えない事実や隠していることを「事実」として発信するのがミッションであるように受け取れます。

ただ、世界の科学者のネットワークで構成されるNPO団体"Heath Feedback"によれば、Exposéが配信しているいくつかの記事について「不正確」、「ミスリード」していると烙印を押しています [3]。その点や匿名集団であることを考慮すると、Exposéの記事はかなり注意しないといけないようです。

どうも過激にセンセーショナルに取り上げるのがExposéの特徴なようですので、その点に注意しながら、今回の記事を「Week 9 - 2022」と比べながら読んでみました。記事の結論は、「人口10万人当たりのCOVID-19による死亡率に基づくと、イングランドにおける高齢者ワクチンの完全接種者は非接種者に比べて最大3.2倍COVID-19で死亡しやすいことが確認されている」というものです。

2. Exposeの記事

今回の記事 [2] の冒頭では、「2年間にわたるノンストップのプロパガンダと嘘の報道の後、いま主流メディアからCOVID-19が姿を消し、集中的な戦争報道がなされているが、これは国民の目をそらすためである」という主旨の記述をしています。しかし、これはいささか大げさでしょう。このメディアの過激さがうかがわれます。

今回、Exposéが取り上げたのは、UKHSAのレポートの変更に関するものです。UKHSAは、18歳未満から80歳以上までの年齢層別に、ワクチン未接種者とワクチン接種者の患者数、入院数、死亡数、10万人当たりの死亡率を提示してきました。ところが、なぜか「Week 3 – 2022」から、2回ワクチン接種者の10万人当たりの死亡率の公表をやめています。今回、Exposéは、この完全接種者のデータの非公表について当局にとって都合が悪いからだと指摘し、その理由として完全接種者と非接種者の死亡率の差をあげているのです。

ここで、「Week 9 - 2022」に掲載されているデータを見てみましょう(表1)。小さい文字で見にくいですが、右端の二つのカラムに検査陽性から28日後以内、および60以内に死亡したブースター(3回)接種者と未接種者の年代別割合(10万人当たり、week 5からweek 8の期間)が示されています。

たとえば、60日以内死亡では、80歳以上でブースター接種者で119.8、未接種者で190.2となっており、未接種者で死亡率が高いです。これはすべての年代で見られる傾向です。

表1. ワクチン(ブースター)接種者と未接種者のCOVID-19感染率、入院率、および死亡率の比較 (文献 [1] より転載)

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しかし、Exposéの記事の目的は、ブースター接種者ではなく、2回接種者だとしています。その観点から、この記事では、ワクチン未接種者と2回接種者の死亡者数を比べています(図1)。ここに見られるように、この期間のCOVID-19による死亡数は、30-39歳を除くすべての年齢層で、2回接種者が未接種者を大きく上回っています。

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図1. ワクチン未接種者と2回接種者のCOVID-19死亡数(2022年1月31日〜2月27日、記事 [2] より転載).

それでは、図1のデータを人口10万人当たりの死亡者数に換算するとどうなるでしょうか? 記事では、この算出のために、まず、2回接種者全体の人口規模を割り出してみました。それが図2です。ここで見られるように、2回接種者は高齢になるほど著しく少なくなりますが、これはブースター接種を受けている人が多いためです。

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図2. ワクチン完全接種者の年齢別人数(記事 [2] より転載).

このことがわかったので、あとはそれぞれの人口規模を10万人で割って、それぞれのグループの完全接種者の死亡者数を算出すればよいことになります。その結果が図3です。図からわかるように、2回接種者は、現在、すべての年齢層で未接種者よりもCOVID-19で死亡する確率が統計的に高く、30-39歳の年齢層でさえも、ワクチン接種者で多くなっています。

このデータは、70歳以上の高齢者層でみれば、ワクチン完全接種者が、未接種者に比べて、COVID-19で死亡する確率が少なくとも3倍であることを示しています。一方、60-69歳で見れば、完全接種者は未接種者に比べて死亡確率が2.4倍になります。

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図3. ワクチン未接種者と2回接種者の10万人当たりのCOVID-19死亡数(2022年1月31日〜2月27日、記事 [2] より転載).

この結果から、記事では、COVID-19の注射が死亡に対して負の効果を持つことが証明されたことを意味し、その負の効果が各年齢層でどの程度悪いかを示していると述べています。

さらに、実際のワクチンの効果について、ファイザー社のワクチン効果の計算式を使って、次のように簡単に計算することができるとしています。

ワクチン未接種による死亡率 - ワクチン接種による死亡率 / ワクチン未接種による死亡率 = 死亡に対するワクチンの有効性

この計算結果に基づいて、残念ながら、ワクチンを接種した人たちの死亡に対するワクチンの効果は、現在、80歳以上ではマイナス221.7%、18-29歳ではさらにマイナス80.255%と低くなっている、と述べています。

結論として、遺伝子ワクチンの原理に触れながら、「当局が『ワクチンの効果は時間とともに弱まる』と述べているのは、本当の意味は、『免疫システムの性能が時間とともに弱まる』ということなのです」と主張しています。そして、最後に次のように述べています。

「つまり、ファイザーが2021年4月に執筆した機密文書で認めたワクチン関連強化型疾患の理論上のリスクは、もはや理論上ではなく、英国で非常に現実的なものになっているようです。あるいは、COVID-19ワクチンによる後天性免疫不全症候群の新しい形が見えてきたか、どちらかでしょう」。

おわりに

今回のExposéの記事は、敢えて2回接種者に焦点を合わせることで、おもしろい結果を見いだしたと思います。ただし、注意しなければならないところは、この完全接種群の母数が高齢者できわめて少なく(ほとんどはブースター接種者)、その分サンプルサイズのバイアスがあるかもしれないということです。そして、ブースター接種者も合わせれば、やはり未接種者はよりCOVID-19の死亡リスクが高いということになります。

とはいえ、もし2回目接種者で死亡リスクが高くなることが事実とすれば、ワクチンの効力切れ(抗体価の低下)になったときの免疫力に負の影響を与えている可能性は捨てきれないです。Exposéは、これを後天性免疫不全症候群という言葉で表していますが、HealthFeedは過去の記事でこれを不正確(ミスリード)としています。

もし、ブースター接種者で効力が落ちてきた時に、同じようなCOVID-19死亡確率が高くなれば、その可能性は考慮しなければならないでしょう。そして免疫不全というよりは、抗体依存性免疫増強(ADE)の方が考えやすいかもしれません。

少なくとも、UKHSAが2回目接種者のデータを公表しなくなったことは事実です。なぜでしょうか。Exposéが述べるような理由からでしょうか。

引用文献・記事

[1] UK Health Security Agency: COVID-19 vaccine surveillance report Week 9. March 3, 2022. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1058464/Vaccine-surveillance-report-week-9.pdf

[2] The Expose: Russia’s invasion, the UK Gov. published data confirming the Fully Vaccinated are now up to 3.2x more likely to die of Covid-19 than the Unvaccinated. March 4, 2022. https://dailyexpose.uk/2022/03/04/russia-distracts-uk-gov-reveal-vaccinated-more-likely-to-die-covid/

[3] Health Feedback: Reviews of articles from: The Exposé. https://healthfeedback.org/outlet/the-expose/
                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)

モロトフ・カクテル

ロシアのウクライナ全面侵攻(full-scale invasion)から4日経ちましたが、私はニュース源としてもっぱらBBCやCNNなどの海外メディアの報道やSNS発信(Kyiv Independentなど)に頼っています。2月27日には、New York Timesが、ベルリンでのデモの様子をツイートしていました。

日曜日、ベルリンで行われたウクライナ支援のための平和集会とデモには、10万人以上が参加した。平和団体環境保護団体、労働組合、教会などの主催者は、2万人の参加を見込んでいた。

そのツイートに記されているURLに入ると、逐次アップデートされた情報に触れることができます。そのトップ画面に、「日曜日にウクライナのドニプロの駐車場で、モロトフ・カクテル(Molotov cocktail)に使う空き瓶を仕分けする市民ボランティアたち」という説明入りの写真が掲載されていました。

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テレビでもモロトフ・カクテルを準備するウクライナ市民の姿を伝えていました。モロトフ・カクテルとは、もちろん火炎瓶のことですが、この語源が旧ソ連の戦争に由来するというのがまた皮肉です。

私が、モロトフ・カクテルの名称を最初に知ったのは、高校生の時の世界史の授業です。世界史の授業と言っても、担当の先生は、ほとんどの時間を19世紀以降の歴史の話に当てていて、いわゆる「受験用の授業」とは無縁でした。その時は「フィンランド冬戦争」を含む第二次世界大戦開始当時の授業であり、火炎瓶の話が出てきました。

モロトフ・カクテルの語源については、これもNew York Timesの記事に出ていますので、ここでそれを翻訳して紹介します。

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Dean, E. J.: How the Molotov Cocktail Got Its Name. New York Times. November 12, 1986.

モロトフ氏の追悼記事(11月11日付)には感銘を受けたが、彼の名を今日に伝えるエピソードが詳述されていないのは残念である。

ロシアとフィンランドの「冬戦争」(1939-1940)の初期に、ロシアはヘルシンキに爆弾と焼夷弾を投下した。フィンランドの報道機関がこれを伝えると、モロトフは「それは間違いだ、ロシア人は仲間に食べ物や飲み物を落としている」と反論したとされている。

モロトフ焼夷弾と飲み物を同一視したことから、複数の焼夷弾を表す「モロトフ・ブレッドバスケット (Molotov breadbasket)」、ガソリンを使った焼夷弾を表す「モロトフ・カクテル」というブラックユーモアあふれる造語が生まれる結果になり、現在では「モロトフ・カクテル」という言葉が定着した。フィンランド人は、当時自国に侵攻してきたソ連軍戦車に対して、これらの兵器を効果的に使用した。

ちなみに、フィンランド人がこの兵器を普及させたのは確かだが、使用されたのは冬戦争が初めてではない。1937年には、中国軍が上海周辺の戦闘で、ガソリンを入れたビール瓶を日本軍の戦車に投げつけ、1938年には、第二次世界大戦の多くの兵器の実験場となったスペイン内戦で使用された。

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記事の翻訳は以上です。

火炎瓶と言うと、今の日本の世代には、安保闘争安倍晋三元首相の火炎瓶事件などのイメージしかないかもしれませんが、歴史的には、侵略者に対する抵抗のシンボルというとらえ方ができます。それを高校で学んだような気がします。

いまロシアのウクライナ侵攻を見ていると、歴史は繰り返すという言葉を思い出します。ウクライナの人々も歴史に学んでいるということでしょうか。それはともかく、一日も早くこの侵攻が終わってほしいです。

              

カテゴリー:社会・時事問題