Dr. Tairaのブログ

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ワクチン完全接種者は未接種者よりもコロナ死亡率が高い?

はじめに

いま、テレビをはじめ主要メディアは、ロシアによるウクライナ侵略の報道で一色です。また、COVID-19の流行状況についても、日本のテレビはほぼ毎日報道していますが、新規陽性者数や重症者数、病床の状況などのリアルタイムでの流行状況が主体であり、ワクチンの効果に関するものはほとんどないようです。

一方、海外に目を向けると、英国健康安全保障局(UKHSA)が、毎週COVID-19ワクチンサーベイランス報告書を発行していて、ワクチン接種状況別のCOVID-19患者、入院、死亡に関する数字を掲載しています。最新のレポート「Week 9 - 2022」は、2022年3月3日(現地日付)に発行されました [1]

私を毎回これに目を通していますが、今回、英国の匿名ウェブメディアである"The Exposé"が「Week 9 - 2022」を取り上げて、おもしろい記事 [2] を配信していましたので、ここで紹介したいと思います。記事の主旨は「ワクチン完全接種者は未接種者よりもCOVID-19の死亡率が高い」というものです。

1. Exposéとは

Exposéについては、実は私はよく知りません。ウェブ情報を探ってみましたが、これといった情報は出てきませんでしたし、ウィキペディアのページもありませんでした。Exposéのウェブページで判断するしかないのですが、そこを見ると、彼らのポリシーでは、大手メディアが伝えない事実や隠していることを「事実」として発信するのがミッションであるように受け取れます。

ただ、世界の科学者のネットワークで構成されるNPO団体"Heath Feedback"によれば、Exposéが配信しているいくつかの記事について「不正確」、「ミスリード」していると烙印を押しています [3]。その点や匿名集団であることを考慮すると、Exposéの記事はかなり注意しないといけないようです。

どうも過激にセンセーショナルに取り上げるのがExposéの特徴なようですので、その点に注意しながら、今回の記事を「Week 9 - 2022」と比べながら読んでみました。記事の結論は、「人口10万人当たりのCOVID-19による死亡率に基づくと、イングランドにおける高齢者ワクチンの完全接種者は非接種者に比べて最大3.2倍COVID-19で死亡しやすいことが確認されている」というものです。

2. Exposeの記事

今回の記事 [2] の冒頭では、「2年間にわたるノンストップのプロパガンダと嘘の報道の後、いま主流メディアからCOVID-19が姿を消し、集中的な戦争報道がなされているが、これは国民の目をそらすためである」という主旨の記述をしています。しかし、これはいささか大げさでしょう。このメディアの過激さがうかがわれます。

今回、Exposéが取り上げたのは、UKHSAのレポートの変更に関するものです。UKHSAは、18歳未満から80歳以上までの年齢層別に、ワクチン未接種者とワクチン接種者の患者数、入院数、死亡数、10万人当たりの死亡率を提示してきました。ところが、なぜか「Week 3 – 2022」から、2回ワクチン接種者の10万人当たりの死亡率の公表をやめています。今回、Exposéは、この完全接種者のデータの非公表について当局にとって都合が悪いからだと指摘し、その理由として完全接種者と非接種者の死亡率の差をあげているのです。

ここで、「Week 9 - 2022」に掲載されているデータを見てみましょう(表1)。小さい文字で見にくいですが、右端の二つのカラムに検査陽性から28日後以内、および60以内に死亡したブースター(3回)接種者と未接種者の年代別割合(10万人当たり、week 5からweek 8の期間)が示されています。

たとえば、60日以内死亡では、80歳以上でブースター接種者で119.8、未接種者で190.2となっており、未接種者で死亡率が高いです。これはすべての年代で見られる傾向です。

表1. ワクチン(ブースター)接種者と未接種者のCOVID-19感染率、入院率、および死亡率の比較 (文献 [1] より転載)

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しかし、Exposéの記事の目的は、ブースター接種者ではなく、2回接種者だとしています。その観点から、この記事では、ワクチン未接種者と2回接種者の死亡者数を比べています(図1)。ここに見られるように、この期間のCOVID-19による死亡数は、30-39歳を除くすべての年齢層で、2回接種者が未接種者を大きく上回っています。

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図1. ワクチン未接種者と2回接種者のCOVID-19死亡数(2022年1月31日〜2月27日、記事 [2] より転載).

それでは、図1のデータを人口10万人当たりの死亡者数に換算するとどうなるでしょうか? 記事では、この算出のために、まず、2回接種者全体の人口規模を割り出してみました。それが図2です。ここで見られるように、2回接種者は高齢になるほど著しく少なくなりますが、これはブースター接種を受けている人が多いためです。

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図2. ワクチン完全接種者の年齢別人数(記事 [2] より転載).

このことがわかったので、あとはそれぞれの人口規模を10万人で割って、それぞれのグループの完全接種者の死亡者数を算出すればよいことになります。その結果が図3です。図からわかるように、2回接種者は、現在、すべての年齢層で未接種者よりもCOVID-19で死亡する確率が統計的に高く、30-39歳の年齢層でさえも、ワクチン接種者で多くなっています。

このデータは、70歳以上の高齢者層でみれば、ワクチン完全接種者が、未接種者に比べて、COVID-19で死亡する確率が少なくとも3倍であることを示しています。一方、60-69歳で見れば、完全接種者は未接種者に比べて死亡確率が2.4倍になります。

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図3. ワクチン未接種者と2回接種者の10万人当たりのCOVID-19死亡数(2022年1月31日〜2月27日、記事 [2] より転載).

この結果から、記事では、COVID-19の注射が死亡に対して負の効果を持つことが証明されたことを意味し、その負の効果が各年齢層でどの程度悪いかを示していると述べています。

さらに、実際のワクチンの効果について、ファイザー社のワクチン効果の計算式を使って、次のように簡単に計算することができるとしています。

ワクチン未接種による死亡率 - ワクチン接種による死亡率 / ワクチン未接種による死亡率 = 死亡に対するワクチンの有効性

この計算結果に基づいて、残念ながら、ワクチンを接種した人たちの死亡に対するワクチンの効果は、現在、80歳以上ではマイナス221.7%、18-29歳ではさらにマイナス80.255%と低くなっている、と述べています。

結論として、遺伝子ワクチンの原理に触れながら、「当局が『ワクチンの効果は時間とともに弱まる』と述べているのは、本当の意味は、『免疫システムの性能が時間とともに弱まる』ということなのです」と主張しています。そして、最後に次のように述べています。

「つまり、ファイザーが2021年4月に執筆した機密文書で認めたワクチン関連強化型疾患の理論上のリスクは、もはや理論上ではなく、英国で非常に現実的なものになっているようです。あるいは、COVID-19ワクチンによる後天性免疫不全症候群の新しい形が見えてきたか、どちらかでしょう」。

おわりに

今回のExposéの記事は、敢えて2回接種者に焦点を合わせることで、おもしろい結果を見いだしたと思います。ただし、注意しなければならないところは、この完全接種群の母数が高齢者できわめて少なく(ほとんどはブースター接種者)、その分サンプルサイズのバイアスがあるかもしれないということです。そして、ブースター接種者も合わせれば、やはり未接種者はよりCOVID-19の死亡リスクが高いということになります。

とはいえ、もし2回目接種者で死亡リスクが高くなることが事実とすれば、ワクチンの効力切れ(抗体価の低下)になったときの免疫力に負の影響を与えている可能性は捨てきれないです。Exposéは、これを後天性免疫不全症候群という言葉で表していますが、HealthFeedは過去の記事でこれを不正確(ミスリード)としています。

もし、ブースター接種者で効力が落ちてきた時に、同じようなCOVID-19死亡確率が高くなれば、その可能性は考慮しなければならないでしょう。そして免疫不全というよりは、抗体依存性免疫増強(ADE)の方が考えやすいかもしれません。

少なくとも、UKHSAが2回目接種者のデータを公表しなくなったことは事実です。なぜでしょうか。Exposéが述べるような理由からでしょうか。

引用文献・記事

[1] UK Health Security Agency: COVID-19 vaccine surveillance report Week 9. March 3, 2022. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1058464/Vaccine-surveillance-report-week-9.pdf

[2] The Expose: Russia’s invasion, the UK Gov. published data confirming the Fully Vaccinated are now up to 3.2x more likely to die of Covid-19 than the Unvaccinated. March 4, 2022. https://dailyexpose.uk/2022/03/04/russia-distracts-uk-gov-reveal-vaccinated-more-likely-to-die-covid/

[3] Health Feedback: Reviews of articles from: The Exposé. https://healthfeedback.org/outlet/the-expose/
                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)