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都道府県で異なるオミクロン死亡割合の要因は?

カテゴリー:感染症とCOVID-19(2023年)

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2023年5月8日、感染症法の分類における位置づけが5類になりました。この措置に伴って、様々な疫学・感染情報の報告が制限あるいは中止されることになりました。そして、ウェブ上にあるこれまでの統計情報も逐次変更・削除される可能性もあります。

日本はかねてより国の基幹統計データの取り方でいろいろと問題があることが指摘されてきたわけですが、ここにきて、コロナ関連の統計データも記録を止めるという情報薄弱の姿をまたもや露呈させてしまいました。G7諸国は、日単位(日、仏、独、伊)、週単位(加、米)、月単位(英)でCOVID死者数を報告してきましたが、その記録を放棄してしまった国は日本だけです。

このような中で、私は、関連する統計データや文書などが消去される前にできる限り残しておこうと、一ヶ月程前からかき集める作業を行なってきました。そうしたら、これらの過程でCOVID-19死亡について奇妙な傾向に気づきました。それは都道府県によってオミクロン波流行(とくに第7、第8波)の死亡割合が極端に違うということです。

よく知られているように、日本は流行の波を経るごとに、COVID死亡を増やしてきました(図1)。そして直近の第8波では過去最多の死者数となりました。政府もメディアも医療専門家もこの傾向について、「死亡が増えているのは高齢者死亡の割合が増えているためだ」とまるで言い訳のように述べていますが、第8波で現役世代や若者の死者数も最多となっています。

図1. パンデミック期間における日本のCOVID死者数の推移(白線が累計死者数、黄色が新規報告死者数/日)(資料 [1] より転載).

図1から分かるように、繰り返しますが、オミクロン波流行では、第6波、第7波、第8波となるにつれてCOVID死者数の増加が見られます。ところが、実は都道府県別で見ると、このパターンに大きな違いがあったわけです。

そこで、このブログ記事で、特に顕著である第7、8波における都道府県の死者数の増加割合の違いを紹介するとともに、その違いを生んでいる要因について考察したいと思います。

1. データソースと解析法

感染者数および死者数のデータは、すべて、JX通信社「新型コロナウイルス最新感染状況マップ」[1]NHK「新型コロナと感染症・医療情報」[2] から取得し、適宜厚生労働省のオープンデータで確認しました。ワクチン接種率に関するデータは、ウェブサイト「【都道府県別】新型コロナウイルスワクチン接種率の推移」[3] から取得しました。救急困難事例に関するデータは、「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の資料 [4] から取得しました。

解析にあたっては、第7波流行については2022年6月15日から10月12日までの範囲で、第8波流行については2022年10月13日から2023年4月24日までの範囲で累計感染者数を取得しました。死者数についてはそれぞれの期間の2週間遅れの範囲で集計しました。各パラメータの相関関係の分析、p 値の算出にはMicrosoft Excelを利用し、PowerPointを用いて図示化しました。

2. 分析結果

2-1. 大都市圏と地方との違い

まず、都道府県で異なる流行波の死亡数増加率について、典型的なパターンを図2に示します。図2左は、東京都、神奈川県、大阪府兵庫県の大都市圏のパターンを示し、図2右は、地方の代表的なものとして岩手、秋田、島根、鳥取の各県のパターンを示します。

大都市圏と地方を比べてみると、前者では累積死亡カーブが流行の波を経るごとに階段状に伸びていっているのに対し、後者では第7波以降(図中赤線以降)に急激に上昇し、特に第8波以降この傾向が著しいことがわかりました。

図2. 大都市圏(左)および地方(右)の都府県におけるCOVID死亡数の推移:新規報告死亡者数(黄色)と累計死亡者数のカーブ(白線)(資料 [1] からの転載). 赤線は第7波の死亡報告が始まる大まかな位置を示す.

図2左のパターンは、愛知、福岡などの大都市を抱える県でも見られる一方、地方の多くの県は図2右のパターンを示しました。例外的に、沖縄県図2左の大都市圏と同じようなパターンを示しました。都道府県におけるパンデミック期間の累計死者数に対する第7-8波の死者数の割合(%))を、図3まとめています

図3. 47都道府県におけるパンデミック全期間の死者数に対する第7-8波死者数の割合 (%).

2-2. 感染者数と死者数との関係

上記のように、大都市圏および沖縄と地方の自治体で第7、8波流行時の死者数増加に大きな違いが見られたわけですが、一方で感染者数はどうなのでしょうか。感染者数が増えれば、相対的に死者数も増えるのは自明ですが、果たして地方の県においてより感染者数の増加率が大きかったのでしょうか。

図4は感染者数の推移を表しています。図2と同様に、左に大都市圏の都府県、右に地方の県の感染者数のパターンを示します。地方ではやはり第8波における増加率が大きいことが見てとれる一方、大都市圏ではむしろ第8波で第7波よりも感染者数の伸びが小さいことがわかりました。しかし、大都市圏と地方とでは、図2の死者数のパターンほどには、あまり違いがないこともわかりました。

ただ、感染者数の統計の取り方は、流行波ごとに違っていること、過小評価されていることには留意しなければなりません。

図4. 大都市圏(左)および地方(右)の都府県におけるCOVID感染者数の推移:新規報告死亡者数(黄色)と累計感染者数(白線上)、要入院・療養者数のカーブ(白線下)(資料 [1] からの転載)

そこで、全都道府県において、全流行期間における第7-8波の死者数の割合(%)に対する感染者数の割合(%)をプロットしてみました。図5に示すように、両者は高い正の相関関係にあることがわかりました。そして地方の県(代表として島根、鳥取、秋田、岩手、山梨を図中明示)では、全期間中における第7–8波における割合が大都市圏の都府県(代表として東京、神奈川、大阪、兵庫を図中明示)よりも大きい傾向にありました。特徴的なのは沖縄県で、第7–8波の感染者数・死者数の割合は大都市圏と同様に低いことがわかりました。

図5の結果は、都道府県によって第7–8波における感染者数の大きさの違いはあるけれども、かつ全流行期間における第7–8波の割合も違うけれども、両波流行において感染者が爆発的に増えたことにより、相対的に死者数も増えたということを示しています。

図5. 47都道府県の全パンデミック期間中における第7–8波死者数割合(%)と第7–8波感染者数割合(%)との相関関係(r =0.8905, p =00000).

それでは、致死率の違いはどうでしょうか。地方の県で第8波における死亡者数の割合が高いということは、ひょっとして大都市圏よりも致死率が高かったということなのでしょうか。そこで、各都道府県における第7–8波の死者数の割合に対して同時期のCOVID致死率をプロットしてみました。

図6に示すように、両者には弱い正の相関関係がありましたが(p <0.005で有意性なし)、プロットはバラツキが大きいものでした(致死率は0.09–0.35%の範囲でバラツキがある)。そして、地方において高知、秋田、岩手などのように致死率の高い県(それぞれ0.35、0.31、および0.26%)もありましたが、一方で新潟、福井などのように最も小さい致死率の県(両県とも0.09%)もありました。したがって、地方において第7–8波の死者数の割合が高いことは、必ずしも致死率が高かったためとは言えないようです。

図6. 47都道府県の全パンデミック期間中における第7–8波死者数割合(%)と第7–8波におけるCOVID致死率との相関関係(r =0.3700, p =0.00963).

ちなみに、第7–8波における全国の致死率は0.18%ですが、首都圏4都府県のそれは千葉0.21%、埼玉0.19%、神奈川0.14%、東京0.13%であり、千葉のように致死率が比較的高い大都市圏の自治体もありました。千葉県はパンデミック全体でも致死率で全国ワースト5にランクしています。

ここで、注意しなければいけないことは、感染者数は検査数に依存するということです。致死率算出のための母数となる感染者数(実際は医療機関からの報告数)が多ければ多いほど、無症候性感染者も増えますので、自ずから致死率は下がります。オミクロン変異体の亜系統によって病毒性の違いがあることは指摘されていませんので、致死率の変化は、算出の母数の大きさや医療事情に影響を受けると考えられます。

そこで、大都市圏と地方、それに沖縄を加えた9都府県における第7波と第8波における致死率を算出してみました。その結果、いずれの自治体においても第8波において致死率が大きく(2倍程度あるいはそれ以上に)上昇していることがわかりました。ちなみに、第8波における致死率は第6波におけるそれ(約0.1%)に比べても大きく上回っています。

図7. 大都市圏(東京、神奈川、大阪、兵庫)、地方(岩手、秋田、鳥取、島根)、および沖縄における第7波および第8波流行時のCOVID致死率.

2-3. 高齢化率との関係

上記のデータは、大都市圏よりも地方の県で、感染者数、死者数ともに第7波、第8で大きく増加したことを示していますが、これは必ずしも地方で致死率が高かったということではないようです(図6)。人口構成でみれば、年代構成、男女比、高齢化率は同じ自治体内であればパンデミック期間でほぼ同一条件になりますので、これらが第7波、第8の感染割合、死亡割合増加に影響したとも考えにくいです。

しかし、高齢者の割合が高い県は、感染者の爆発増加によって医療提供が間に合わず、高齢者の死亡を多くしてしまったことも考えられます(ただし、上記のように、致死率の上昇には必ずしもつながっていない)。そこで第7–8波死亡割合と高齢化率との関系を見てみました。

図8に示すように、第7–8波死亡割合と高齢化率との間には高い正の相関関係がありました。やはり、高齢化率の高い自治体ほどオミクロン波のダメージが大きかったようです。

図8. 47都道府県の全パンデミック期間中における第7–8波死者数割合(%)と高齢化率(都道府県内全人口に対する65歳以上人口の%)との相関関係(r =0.7595, p =6.071E–10).

2-4. ワクチン接種率

パンデミック期間において経時的に最も異なる要因はワクチン接種率です。図9に、大都市圏と地方の代表的な自治体における完全(2回)接種率(図9上左)、3回目接種率(図9上右)、4回目接種率(図9下左)、5回目接種率(図9下右)の推移を示します。図10には全都道府県におけるそれぞれの接種率を示してあります。

完全接種率(2回接種)は全国的にデルタ波後にほぼ完了し、都道府県における接種率の差は小さいものです。一方、3回目および4回目のブースター接種率の差はより大きく、オミクロンの第7波のピーク(2022年8月)、第8波のピーク(2023年2月)の前にプラトーに達していますの、第7–8波死亡への影響を見るには適していると考えられます。

図9. 大都市圏および地方におけるワクチン接種率(2回、3回、4回、および5回接種人口の全人口に対する比率)の推移(資料 [3] からの転載図に加筆、赤線は2022年1月および2023年1月の時点を示す).

図10. 全国および47都道府県のワクチン接種率(2回、3回、4回接種人口の全人口に対する比率)(資料 [3] よりの転載図に加筆、赤色の影をつけた).

図10から明らかなように、大都市圏においてワクチン完全接種率、ブースター接種率ともに低く、地方の県ほど高いことがわかりました。そして沖縄県は全国で最も低いワクチン接種率でした。

2-5. 死亡増加とワクチン接種率との関係

そこで、上述したワクチン接種率のうち、3回目と4回目の接種率と第7–8波死亡割合との関係を考えてみました。図11に3回目接種率との関係、図12に4回目接種率との関係を示します。両方の接種率ともに第7–8波死亡割合と正の相関関係が認められました。つまり、ブースター接種が進んだ地方の県ほど第7–8波で死亡者を沢山出していることになります。

図11. 47都道府県の全パンデミック期間中の第7+8波死亡者数割合(%)と3回目接種率との相関関係(r =0.5813, p =1.828E-05).

図12. 47都道府県の全パンデミック期間中の第7+8波死亡者数割合(%)と4回目接種率との相関関係(r =0.6329, p =1.817E–06).

さらに、最も多い死者数を記録した第8波の死亡割合に対する4回目接種率の関係を見てみました。その結果、両者の関係は上記(図11、12)よりもより高い相関関係になりました。

図13. 47都道府県の全パンデミック期間中の第8波死亡者数割合(%)と4回目接種率との相関関係(r =0.6754, p =1.914E–07).

ワクチン接種率は年齢によって異なります。そこで65歳以上の3回目接種率と第7-8波死亡割合との関係を調べてみましたが、両者に相関は認められませんでした。

図11-14の結果に基づくと、地方において第7波、第8波で死者数が増加した要因として、一見ブースター接種があるように思われます。しかし、地方においては全人口に対する高齢者の割合が高いためにブースター接種が進んだとも考えられます。そこで高齢化率と4回目接種率の関係を調べてみました。

図14示すように、両者は高い相関関係にありました。つまり、地方において第7–8波死亡割合が高いことは、ブースター接種が関係するというよりも高齢者が多いということに帰因するように思われます。

図14. 47都道府県におけるブースター(4回目)接種率と高齢化率との相関関係(r =0.7631, p =4.5045E–10).

2-6. 救急搬送困難事例

第7、8波において地方でより感染者数が増加し、そして死者数が高くなったことが言えそうですが、特に致死率が高かった県においては、救急搬送や入院が遅れて死亡者を多く出してしまったということはないでしょうか。そこで大都市圏と地方における救急搬送困難事例の推移について見てみました。

図15に示すように、救急搬送困難事例は常に大都市圏において高く、第7、8波においてそれが地方で増えたという傾向はないように思われました。第7波、第8波において致死率が高かった岩手や秋田においても、救急搬送困難事例が以前の流行波に比較して顕著に特に増加したということはありませんでした。

図13. 大都市圏(東京、神奈川、大阪、兵庫)および地方(岩手、秋田、鳥取、島根)における救急搬送困難事例の発生(文献 [4] からの転載).

3. 考察

オミクロン波流行になって、全国的に感染者数と死者数が増加したことは周知の事実です。特に死者数は第6、7、8波と経るにつれて増加しました。ところが、この記事で示したように、第7、8波における死者数の増加率については、大都市圏と都府県と地方の県とでは大きく異なることがわかりました。すなわち、地方において圧倒的に増加率が高かったということです(図2、図3)。たとえば、鳥取や島根では、パンデミック期間の死亡の90%以上が第7–8波に集中していました。

都道府県での第7–8波死亡の割合が異なる要因として、ここでは感染者数の増加、高齢化率、致死率、ワクチンブースター接種率を考慮しました。これは大都市圏と地方とでの異なる要因は何か、オミクロン前とオミクロン後(特に第7、8波以降)で異なる要因は何か、という点から考えた選択です。

まず要因としての感染者数ですが、第7、8波で感染者数が爆発的に増え、それに伴い死者数が増えた、そしてその傾向は大都市圏よりも地方でより顕著だったということは言えそうです。問題は、なぜ大都市圏よりも地方でより感染者数の経時的割合が増えたのかということです。この要因についてははっきり分かりませんが、よく言われているように、大都市圏よりも地方の方がそれまでの自然感染率が低く(免疫性がなく)、第7、8波で感染しやすかったということでしょうか?

高齢化率では地方自治体の方が大都市圏よりも高く、感染者数が増えればそれだけ重症化・死亡リスクが高くなったと言えます。第7-8波死者数の割合と高齢化率は高い相関関係にあり(図8)、高齢者の相対割合が高い地方がよりダメージを受けたということが言えそうです。

そうなると、第7-8波流行においては死者数の割合とCOVID致死率に相関があってもよさそうですが、その相関関係は弱いものでした(p <0.005で有意性なし)。そして高齢化率が高い地方でのCOVID致死率が高くなっているという傾向も顕著ではありませんでした。地方においても、きわめて低い致死率の県がいくつか見られました。

地方において第7-8波死亡が増加したことと高齢化率、あるいは致死率との関係は、実際の死亡者の年齢構成を大都市圏のそれと比較しながら詳しく見る必要があります。とはいえ、致死率については、第7波から第8波において2倍程度に上昇しており、そしてこれは都道府県に関係なく見られる傾向でした。なぜこのようなことになったのでしょうか。

第8波での全国的な致死率の上昇は、第一に考えられることとして、検査が抑えられて実際の感染者の母数が小さくなったこと(サイレント・キャリアーが多く存在した)が推察されます。第6波において、検査抑制と同時に濃厚接触みなし陽性が行なわれるようになりましたが、第7波以降では濃厚接触者のトレーシングが行なわれなくなりました。したがって無症状の陽性者(無症候性感染者)はカウントされなくなり、(知人の医者の情報によれば)みなし陽性も一部カウントされていない可能性があります。

さらには、第8波では高齢者や基礎疾患を有する人以外の感染者はすべて自宅療養となり、自主検査の結果も申告登録となりましたので、申告をしない人や軽症で検査をしなかった人もカウントから外れます。このようにして感染者の母数が実態よりも小さくなった可能性があるのです。厚労省のオープンデータにある新規陽性者数は、実際は流行の波を経るにつれて数え方が異なっていると推察されます。

第二点として、検査の遅れのために入院・治療が遅れたこと、救急搬送困難事案が増えて自宅死や手遅れの死が増えたことなどが影響したと考えられ、これらは多少なりとも致死率の上昇の要因になっているかもしれません。救急搬送困難事案は実際は大都市圏で圧倒的多かったわけですが(図13)、地方においては県によって大きな違いがあった可能性もあります。

ワクチン接種は、死亡や致死率に複雑な影響を与えています。2021年春にCOVID-19ワクチンが広く普及してから、ワクチン未接種者とワクチン接種者の間で死亡者数に大きな開きが出てきました。そして、2022年の終わりごろには、世界的にCOVID-19による死亡者のほとんどがワクチン接種者であることがデータで示されました。しかし、これはワクチンやブースターが効果がないわけではなく、ワクチン接種人口が大きく増えたために、死亡者も非接種者よりも相対的に増えただけのことだと思われます。

上記したように、第7-8波死亡割合の増加とブースター接種率とは、見かけ上、高い正の相関がありました。これだけを見ていると、あたかもブースター接種によって死亡を促進したように思いますが、高齢化率が高い県ほどブースター接種も進んでいるので、第7-8波死亡割合の増加は高齢化率との関係とみなすべきでしょう。第7-8波死亡割合とブースター接種率の高い相関関係は二次的なものだと思われます。

米国疾病管理予防センター(CDC)の報告によると、COVID-19ワクチンの一次接種およびブースター接種を受けた人と非接種の人を比べると、後者で有意に死亡リスクが高くなっています [5]。COVID-19のワクチン接種は、感染による死亡リスクを完全に排除するものではありませんが、そのリスクを減少させることにおいて重要だと思われます。

ただ不思議なのは、オミクロン波になってから、特に7–8波において、多くの高齢者や持病持ちの人たちが重症化する(重度の肺炎になる)ことなく、全身衰弱であっという間に亡くなっていることです。これが地方で増えたということでしょう。これに対してはよく「コロナで直接死んだのではない」という言い方がされますが、いつまでも「コロナ死=肺炎死」、「重症化患者=人工呼吸器装着、ICU患者」という定義に拘泥して、犠牲を矮小化する風潮はいかがなものかと思います。

詳しいデータが手元にないので何とも言えないところはありますが、これらの死亡者の多くはブースター接種を受けていたと思われます。結局、基礎疾患がある人や高齢者には接種の効果はなかったということになりますが、本当のところはどうなのでしょう。死亡者の接種履歴との検証が必要だと思います。

結局のところ、図2、3で示したような地方における第7-8波での死亡割合の増加の原因はよくわかりません。地方のワクチン接種率は高いので、せいぜい自然感染率の低さや高齢化率が影響しているのでは?と考えるのが関の山です。

おわりに

今回の分析のまとめを以下に記します。

パンデミック期間における累計死者数に対する第7–8波死者数の割合の増加は、大都市圏よりも地方において顕著だった

第7–8波死者数の割合は感染者数のそれと相関があったが、感染者数の増加率自体は大都市圏と地方との差はより小さかった

第7–8波死者数の割合とCOVID致死率は弱い相関があった

第7波に比べて第8波では致死率が2倍ほどに上昇した

第7–8波死者数の割合は高齢化率と相関があった

第7–8波死者数の割合はワクチンブースター接種率と相関があった(第8波死者数割合と4回目接種率でより相関が高い)

高齢化率とブースター接種率も相関があり、第7–8波死者数の割合とブースター接種率との相関は二次的なものと考えられた

パンデミック全期間中、第7-8波の死亡割合が地方で高かったことは、専門家による詳細な解析を期待したいところです。残念ながら、政府アドバイザリボードの資料 [6] にはこの視点がありません。この要因究明が、今後のCOVID流行や新しいパンデミックにおける防疫・感染対策の立案に有用な情報をもたらすと考えます。

参考文献・資料

[1] JX通信社: 新型コロナウイルス最新感染状況マップ. https://newsdigest.jp/pages/coronavirus/
[2] NHK: 新型コロナと感染症・医療情報. https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

[3] 厚生労働省: オープンデータ. https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html

[3]【都道府県別】新型コロナウイルスワクチン接種率の推移. https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/japan_vaccine.html?d=2&a=1

[4] 厚生労働省: 第121回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年4月19日). 資料3-5 中島先生提出資料. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001088926.pdf

[5] Johnson, A. G. et al.: COVID-19 incidence and mortality among unvaccinated and vaccinated persons aged ≥12 years by receipt of bivalent booster doses and time since vaccination — 24 U.S. Jurisdictions, October 3, 2021–December 24, 2022. MMWR 72, 145–152 (2023). https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/mm7206a3.htm

[6] 今村顕史ら: オミクロン株による第8波における死亡者数の増加に関する考察. 第117回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2023.02.22. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001062650.pdf

                     

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