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Twitter:

https://twitter.com/rplelegans

Google Scholar

https://scholar.google.co.jp/citations?user=hD1-GesAAAAJ&hl=ja&oi=ao

ResearchGate:

https://www.researchgate.net/profile/Akira_Hiraishi

新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

はじめに

私は日頃から新型コロナウイルスSARS-CoV-2COVID-19に関連する論文を注視していますが、最近、二つの論文がとくに目を引きました。一つは、ウイルスのRNAが患者のDNAの中に逆転写によって組み込まれるという現象を述べた論文 [1] であり、もう一つは、この論文も引用しながら、mRNAワクチンの長期的な負の影響の可能性を考えた論説です [2]

最初の論文は米国の共同研究グループによって米国科学アカデミー紀要(PNAS)に出版されたもので(プレプリントは昨年12月のバイオアーカイヴ)、ウイルスRNAのゲノムDNAへの組み込みに長鎖散在反復配列(long interspersed nuclear element, LINE)が関与していることを示唆しています。またこの現象によって、患者の体内に長期間ウイルスの逆転写DNAが残り、治癒した後もPCR検査でウイルスが検出される原因だとしています。

このブログでは、PNAS論文の内容を主に紹介しながら、mRNAワクチンのゲノムDNAへの組み込みの可能性も合わせて考えてみたいと思います。

1. LINEと移動機構

まずこのPNAS論文においてキーワードになっているLINEについて簡単に説明したいと思います。

生物はそれぞれが決まった長さと配列のDNA(ゲノム)をもっていますが、ヒトを含めて多くの真核生物ではそのDNA上を自由に移動することができる、レトロトランスポゾン(レトロポゾン、可動遺伝因子)とよばれるDNA断片群が存在します。レトロトランスポゾンは、末端に長い反復配列を有するLTR (long terminal repeat) 型と、それ以外の非LTR 型の2つに分けられます。LINEは後者に属するレトロトランスポゾンです。

ちなみに、ヒトゲノムの遺伝子としてコードする部分はわずか2%以下の領域にしか過ぎず、このためかつては残りの部分はDNAジャンク(ガラクタ)とよばれていました。しかし、実はこのジャンク部分にレトロトランスポゾンが存在し、ゲノム全体としては約半分も占めています。

レトロトランスポゾンはプロモーターやイントロンを含みませんが、逆転写酵素を含めたタンパク質をコードする遺伝子を有し、非タンパク質部分を含めて複写・転移ができます。どのようにしてDNA上を移動するかということを言えば、1) mRNAへの転写 → 2) タンパク質への翻訳 → 3) mRNAとタンパク質の複合体形成 → 4) mRNAの逆転写によるDNAへの組み込み、という順序で起こります。つまり、レトロトランスポゾンは、簡単に言えば、それがコピーされて新しいDNA部位へペーストされるということで移動(転移)が起こるということです。

多くのLINE配列はもはや転写および翻訳が起こらないほどの変異の蓄積がみられますが、ヒトゲノムに多く存在する LINE-1(ゲノムの約17%)では、転写、翻訳活性を有するのは80–100コピー程度と言われています [3]。ここで図1にLINE-1のDNA上の移動の概要 [4]を示します。

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図1. トランスレトロポゾンLINE-1の転移機構(文献[4]に基づいて作図).

まず、LINE-1の領域がmRNAとして写し取られます。この転写物が翻訳されて二つのタンパク質(ORF1とORF2)がつくられます。このうちORF2は、エンドヌクレアーゼ活性とmRNAからDNAを合成する逆転写活性をもっています。

次に、この二つのタンパク質とmRNAは複合体を形成します。すると、DNA修復タンパク質のPARP2が侵入場所を検知し、その場所でORF2がDNAを切断し、RPAとよばれるタンパク質がADPリボースを認識することによって、mRNAの逆転写が開始されます。最後に合成・挿入されたDNAをRPAが保護して、転移完了です。

このようにLINE-1は、細胞内のDNA修復タンパク質群と連携して効率よく転移していると考えられます。

2. 細胞内でのウイルスRNAの逆転写

以前から、COVID-19患者ではウイルスが直接分離されない状態になっても、治癒したと思われる後でもなおPCR検査でその遺伝子が検出されるということが報告されています。今回のPNAS論文の研究 [1] では、「ウイルスのRNAが逆転写されてヒトのDNAの中に組み込まれ、その転写物がPCRによって検出されるのではないか」という作業仮説を基に実験が進められました。

まず、研究チームは患者のゲノムDNAを鋳型とするPCRを行い、SARS-CoV-2のDNAを検出することに成功しました。今行なわれているPCR検査は、ウイルスのRNAを試験管内で逆転写し、そのcDNAを鋳型として増幅を行なっていますので、直接DNAを鋳型とするPCRではウイルスを検出することはできません。したがって、通常のPCRによるSARS-CoV-2のDNAの検出は、患者のDNAの中にその遺伝子が組み込まれていることを支持するする強い証拠になります。

研究チームは同時に、SARS-CoV-2の配列と隣り合わせでLINE-1のエンドヌクレアーゼに相当する重複配列が存在することを発見しました。これは、レトロトランスポゾンの転移機構でこの配列がゲノムDNAに組み込まれたことを強く示唆するものです。

さらに、いくつかのCOVID-19患者の組織細胞において広範囲のウイルスDNA配列が転写され、宿主配列とのキメラ的転写物を生じていることも突き止めました。この事実は、この転写物が通常のPCR検査で引っかかる可能性を示しています。

研究チームが患者のゲノム上で検出したウイルスDNAは、主として3'末端部分に偏りがあるサブゲノム配列でした。したがって、この患者のDNAから感染性のあるSARS-CoV-2が生じることはないと結論づけられています。

3. mRNAワクチンの長期的影響

上記のウイルスRNAがレトロトランスポゾンの転移機構によってゲノムDNAに組み込まれるという事実は新たな懸念を生んでいます。それは現在普及しているファイザーやモデルナ社製のワクチンがmRNAワクチンだからです。すなわち、ワクチンに使われているスパイクタンパク質のmRNAが、接種された人のDNAに組み込まれはしないか?という懸念です。

米国の研究チームは、最近、IJVTPRという、まだインパクトファクターも付与されていない新興電子ジャーナルに、mRNAワクチンが及ぼす長期的な負の影響に可能性について論説を発表しています [2]。その中の一つとして、スパイクタンパク質遺伝子が永遠にゲノムDNAに組み込まれる潜在性について論じています。

ヒトゲノム中の主なLINEであるLINE-1は、あらゆる種類の細胞で発現していますが、とくに精細胞でそれが顕著です。精子は外来性RNAをcDNAに逆転写できますので、このcDNAを卵子生殖細胞に移すことも可能です。逆転写活性は胚、免疫細胞、がん細胞でも高度に発現しています。

この論説では、mRNAワクチンのRNAがゲノムDNAに組み込まれたことを証明した研究はないとしながらも、外来mRNAによるゲノムDNA改変の潜在的危険性について考察しています。これ以外にもさまざまな懸念される影響を挙げていますので、次回のブログでまた紹介したいと思います。

おわりに

LINE-1によって外来RNAがゲノムDNA中に取り込まれ、それが転写されるという事実は、SARC-CoV-2のPCR検査において、結果を解釈する際の注意を換気しています。長期療養の患者や治癒後の検査においては考慮しなければならないことでしょう。

より重要なのは、いままさに世界的に実施されているということで、mRNAワクチン接種の影響に関することです。もし、ワクチンRNAがDNAに取り込まれるとしたら事は重大です。一般的に、外来性mRNAは宿主ゲノムに挿入されるリスクがないと言われていますが [5]、どうなのでしょう。LINE-1は自らのRNAのみならず、細胞内mRNAを標的として、プロセス型偽遺伝子をつくることが知られています [3]。現時点で、mRNAワクチンが宿主ゲノムに挿入されないと結論づけるのは早急と思いますが。

個人的には、少なくとも若年層のmRNAワクチンの接種は、よりデータが蓄積されてから行なった方がよいように思います。そして接種するにしても、現段階では人口の50%程度で留めるのがよいのではないでしょうか。

引用文献

[1] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[2] Seneff S. and Nigh G.: Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. Int. J. Vac. Theo. Prac. Res. 2, May 10, 2021, 402.
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23/34

[3] 朝長啓造: 2. ウイルス共進化:偽遺伝子としての内在性 RNA ウイルスエレメント. ウイルス. 70, 49–56 (2020). http://jsv.umin.jp/journal/v70-1pdf/virus70-1_049-056.pdf

[4] Miyoshi et al.: Poly(ADP-Ribose) polymerase 2 recruits replication protein A to sites of LINE-1 integration to facilitate retrotransposition. Mol. Cell. 75, 1266–1298 (2019). https://doi.org/10.1016/j.molcel.2019.07.018

[5] 位髙 啓史ら: mRNA 医薬開発の世界的動向. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,PMDRS,50, 242–249(2019).
http://nats.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20190717095649-6ABC2FA50410294C82EBEF7D74463510333BCF1FB717B3F864612BCB0CA9F6B2.pdf

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

全国都道府県の異常な真っ黄色状態が警告だった

はじめに

今日(5月7日)、5月11日までとされていた4都府県の緊急事態宣言が延長されると同時に、福岡と愛知が追加措置されることが発表されました。また、まん延防止措置の決定も行なわれ、結局14都道府県で緊急事態宣言の延長・追加とまん延防止措置の延長あるいは拡大となりました。

政府は短期集中という形容を用いて今回の緊急宣言を行なったわけですが、当初からなぜ5月11日が期限なのか、こんな短期間では効果は出ないという疑問はありました。5月17日のIOCバッハ会長の来日予定に合わせたのではないかという憶測もありました。この来日は見送りになったようですが。

そしてもう一つの疑問というか、問題点は緊急宣言の発出が明らかに遅れたことです。1ヶ月前の私のツイートから拾ってみると、当時の感染状況が危険信号になっていたにもかかわらず、政府や専門家は対応が遅れ、認識が甘かったことがわかります。そこで、あらためてこの1ヶ月間のツイートを振り返りながら、政府の対策の問題点を指摘したいと思います。

1. 4月初旬の菅首相の認識ー第4波といううねりにはなっていない

まずは菅首相の対応を批判した4月5日のツイートです。この時点で全国的に完全に再燃状態(いわゆる第4波)に突入していました。緊急の対策を打つべき段階であったにもかかわらず、菅氏はまん延"防止"措置を「必要なら躊躇なく」と言っている呑気な状態でした。

そして、このときの菅首相は「第4波といった全国的には大きなうねりとはなっていない」という認識であり、事態を甘く見ていたことがわかります。 

結局この日、政府は大阪へのまん延防止措置の決定ということでお茶を濁しますが、明らかに緊急事態宣言発出の時期だったと思います。緊急宣言にできなかった理由は先のブログで述べたとおりです(→緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)。

4月12日の週はもう第4波の高さは相当顕著になっていました(前週で記録した陽性最多数は全国で約3800人、大阪で991人、東京で570人)。第3波流行が減衰した際のバックグランドは全国で約千人/日でしたから、もう4倍近い新規陽性者数になっていたわけです。しかし、依然として菅首相は第4波にはなっていないという、驚くべき認識でした。

2. 英国型変異ウイルスの拡大と専門家の見解

4月5日からの週は、大阪で変異ウイルスの拡大により新規陽性者が急増し、上記のように1000人/日に迫ろうかという勢いでした。4月7日の時点では東京でN501Y変異ウイルスの拡大の影響が出てきました。私は東京が大阪の比ではない惨状になる可能性に危惧を抱きました。

そして問題だったのは、専門家の多くが変異ウイルスの拡大に言及しながらも、この時点においても「対策は基本的に変わらない」と口を揃えて言及していたことです。一例として、4月8日のツイートを挙げます。変異ウイルスへの対応に関する記者や情報番組での司会者の質問に、専門家の一人は「何も変わることはない」と答えていました。

3. 全国が真っ黄色

そして、このブログ記事のタイトルにもなっている、全国の異常な"真っ黄色状態"が続くようになりました。私はNHK特設サイト「新型コロナウイルス」の全国感染状況を毎日観ていますが、4月14日に全国すべての都道府県で陽性者が出た(全国が真っ黄色になった)ことについて、以下のようにツイートしました。

4月16日は3日連続で全国真っ黄色という異常な状態になっていました。面的な広がりが顕著になっている証拠です。もう全国レベルでの緊急事態宣言を発出の時期はとっくに過ぎているという警告だったと思います。

4月21日には、全国の緊急事態宣言の段階ではないかということを再度述べました。この日には4都府県への緊急宣言発令手続きを4月23日に行なうというニュースが流れましたが、実にのんびりな対応です。

やっと4月25日に4都府県への緊急事態宣言が発出されたましたが、その後は九州、四国、北海道などに感染拡大しました。この週の陽性最多数は福岡で333人、北海道で160人であり、とくに私の故郷である福岡の状況は深刻でした。

ゴールデンウィーク中は検査数が減って、新規陽性者数も一時的に減りました。それにもかかわらず、全国への面的な広がりはますます顕著になりました。私は英国型(N501Y)のみならず、インド型(L452R)の変異ウイルスの拡大の可能性を考えて恐くなりました。5月5日には以下のようにツイートしています。

そして今日(5月7日)も全国真っ黄色です。これほど全国黄色が続くのは初めてであり、今の第4波がいかに脅威であるかということを物語っています。今日東京の新規陽性者は907人ですが、今後これを大きく上回り、最多を更新していくでしょう。他の県も同様で、パンデミック始まって以来の最多を更新していくと思います。

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図1. 5月7日における全国都道府県の新規陽性者数(NHK特設サイト「新型コロナウイルスより).

マスコミは、第4波流行における全国真っ黄色(すべての都道府県で感染者発生)の状態が続いていることをまったく報道していません。これまでの3回の流行にはみられなかった深刻な状況に気がついていないのでしょうか。

おわりに

今回の緊急宣言の延長と追加措置は感染拡大抑制策としてはきわめてチグハグです。そもそも、まん延防止措置から入って後で、より強い緊急事態宣言に移行するというところから間違っています。強い対策から入り効果が出たら緩めるというのが基本です。また、まん延防止措置を要請して適用が見送られた県(石川、茨城、徳島)があると思えば、宮城県のように解除された県もあります。北海道は緊急宣言相当と思われますが、まん延防止措置になりました。

延長に伴って、カラオケ店や酒提供は休業要請が継続される一方で、デパートのような大型施設はこれまで休業要請だったのが20時までの営業という緩和になりました(これは自治体によって独自に対応されるようですが)。イベントの原則無観客も上限5000人、収容人数は50%までと緩和になりました。

もとより感染拡大抑制策にはなっておらず、今回の延長と追加措置には政治判断が色濃く出ています。おそらく5月中には1万人を超える新規陽性者数になるのではないでしょうか。もう全国への緊急事態宣言の時期はとっくに過ぎています

引用した拙著ブログ記事

2021年3月23日 緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

政府による「山梨モデル」グリーン・ゾーン認証制度の全国拡大

毎日新聞は、昨日(5月2日)、政府が新型コロナウイルス感染防止を強化するため、飲食店が講じた対策を第三者が認証する制度を導入するよう、全国の都道府県知事に通知したことを伝えました [1]。この制度では、飲食店内の座席の間隔を1メートル以上確保すること、換気設備で必要換気量(1人当たり毎時30立方メートル)を確保するといった項目が示されており、地方創生臨時交付金(事業者支援分)を使い、換気設備やパーティションなど対策にかかる費用を補助することも要請しているとしています。

これはまさしく、山梨県が先行して実施しているやまなしグリーン・ゾーン認証制度 [2] (いわゆる山梨モデル)そのもであり、それを全国へ導入するというものです。今日のテレビのワイドショーでもそれを紹介していました(図1)

菅義偉首相はこの制度の導入の検討を指示していたとのことですが、政府がコロナ対策の基本的対処方針で、第三者認証制度の普及促進に言及したのが4月23日、首相と山梨県長崎幸太郎知事が面会したのが4月27日と伝えられています。そして、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室が同室長と厚生労働省生活衛生・食品安全審議官、農林水産省食料産業局長の連名で事務連絡を出したのが4月30日です(図1)

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図1. 政府によるやまなしグリーン・ゾーン認証制度の全国拡大についての経緯(2021.05.03. TBSテレビ「ひるおび」より).

私はこの経緯を見聞きしていて、またしても政府の対策は周回遅れではないかという感じを抱きました。なぜなら長崎知事がグリーン・ゾーン認証制度の構想を発表したのが1年前であり、すでに山梨県は半年前からこの制度を導入し [3]、成果を上げていたからです。そして、テレビも1ヶ月半前には山梨県の感染対策としての当該制度の有効性を伝えていました。

たとえば、3月23日のNHKのNEWS WATCH9によるグリーン・ゾーン認証制度の紹介を観て、私は以下のようにツイートしました。

その2日後には今度はテレビ朝日の「モーニングショー」が本制度を取りあげていました。これを受けて以下のようにツイートしました。 

テレビがグリーン・ゾーン認証制度を伝えていたのが、2回目の緊急事態宣言が解除された直後のことです。この時点で、本制度が少なくとも首都圏や関西圏で導入されていたら、第4波の始まりは後ろにずれ、その波の大きさも今よりも小さかったのではないかと思われます。少なくとも、対応策を準備する時間的余裕を与えたのは確かではないかと考えられます。感染が広がってからでは効果も半減します。

5月2日までの直近1週間での山梨県の感染者数は、10万人当たり12.45人で全国33位でです。変異ウイルスの影響でさすがに少し感染者数が増加気味ですが、それでも東京に隣接する県としては抑えられている方です。私は1ヶ月前には以下のようにツイートしました。

 政府による山梨モデルの全国拡大は歓迎したいところですが、どうせやるならもっと早くしてほしかったというのが実感です。これまで現政権は、早く、強く、そして短くという感染対策の基本とは無縁の姿勢をとり続けており、対策は常に優柔不断で曖昧です。それがことさら被害を大きく長期にわたってもたらしていることは明白でしょう。

引用文献・資料

[1] 梅田啓祐:「山梨モデル」を全国導入へ 飲食店にコロナ対策認証制度. Yahoo Japan ニュース/毎日新聞 2020.05.02. https://news.yahoo.co.jp/articles/1ffa45bdfbaf8bd98ffc4c997a60cd30c4759daf

[2] やまなしグリーン・ゾーン認証. https://greenzone-ninsho.jp/

[3] 甲府市:やまなしグリーン・ゾーン認証について. 2020.12.15. https://www.city.kofu.yamanashi.jp/shoko/gleen.html

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

「3密でなくても集団感染の恐れ」の今さら感

はじめに

今日、NHK WEB NEWSの「『3密でなくても集団感染のおそれ」という記事 [1] に目が止まりました。新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、「密閉・密集・密接」のいわゆる「3密」の場面で感染が広がりやすいとされていますが、この記事では、屋外での飲食などの、「3密」ではなくても感染が広がったとみられるケースが相次いでいることを取りあげていました。そして、専門家は「2密」「1密」であっても感染すると考え、対策を徹底してほしいと呼びかけていることを記事で紹介していました。

また、今日の新聞報道で「マスクして打ち合わせでも職場感染」というのもありました [2]

私はこれらを読んでいて「何を今さら」という感じで少々気抜けする思いになりました。それは、当初から「3密」の3つの条件がそろわなくても感染は起きるとされていたからであり、世界では相当以前からSARS-CoV-2の空気感染についての指摘があったからです。私が「3密回避が誤ったメッセージになる」ことを指摘したのはもう1年以上も前のことです(→新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果

加えて今年に入ってからは、感染力が強いN501Y変異ウイルスの拡大で、3密に関わらない感染が余計に懸念されるようになってきました。それにもかかわらず、社会はまだ3密回避=安全、マスク着用=感染しない、に拘泥していたのかという思いを抱きました。

上記のNHKウェブ記事を読んでいたら、ちょうどNHKテレビの7時のニュースでもこの話題を取りあげていました。両者の報道を合わせながらここで紹介したいと思います。

1. NHKニュースでとりあげた3密に関わらない集団感染事例

横浜市では、密閉に条件に当てはまらない、河原で開いた大人数での飲み会で集団感染(クラスタ)が起こりました。感染したのは、大学のダンスサークルの学生たちで、参加した90人以上のうち、数日後に9人の感染がわかり、最終的には飲み会の参加者や関係者など、およそ60人の感染が確認されました(図1左)。

この集団感染は変異ウイルスではなかったと保健所は報告しています。つまり、野外のような開放系であっても、多数が集まって近接で会話する条件が揃えば、感染が広がるということです。

もう一つのケースとしては、演劇関係者の集団感染です。先月下旬、東京都区内の劇場で稽古をしていた演劇関係者に感染の疑いのある人がいることがわかり、検査したところ、20代から60代の男女9人の集団感染が判明しました(図1右)。このケースでは、全員がマスクを着用し、2メートル以上の対人距離をとって稽古をしていたそうなので、3密のうちの「密閉」の条件しかありませんでした。

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図1. 3密に関わらない集団感染の事例(2021.04.30 NHK 7 NEWSより).

保健所によると、この演劇関係者のケースについては民間の検査機関で感染が確認されたこともあり、変異ウイルスかどうかの検査は行われていないということです。しかし、たとえ感染力の強い変異ウイルスでなかったとしても、このような3密に関係ない感染リスクは常にあるということでしょう。

2. 最近の集団感染事例の特徴

さらに記事 [1] では、これまでには感染がほとんど見られなかった場面でも集団感染が発生していることを取りあげています。

神戸市では、今月初めの段階で90%以上が変異ウイルスに置き換わっていましたが、屋外でのいわゆるマスク会食での感染事例がありました。すなわち、中高生が部活が終わった後に屋外で車座になってジュースを飲んでいたのですが、これ以外はマスクをつけて話していたにもかかわらず感染が起こってしまいました。また、大学生のサークル活動の後での屋外での飲み会で感染した事例もあり、検査すると変異ウイルスだったということです。

現在の第4波流行では、感染者に占める若い世代の割合が多く、感染者の集団、クラスターは3密の条件がそろいやすい飲食店だけでなく、学校や職場などでの発生が多くなっています。先日は小学校での変異クラスターの報道があったばかりです。

東京都が4月28日発表したデータによると、東京都内で感染者のうちの20代と30代の割合は、2回目の緊急事態宣言が出たあと、2月15日の時点ではおよそ33%だったのが、解除後から再び増え始め、4月に入ってからはほぼ半分を占めています。厚生労働省の専門家会合でも、20–30代を若年層において全国的に感染拡大の傾向がみられ、飲食店に限らず、職場や部活、サークル活動などでの感染が報告されているとしています。

専門家会合で報告された最新の解析結果では、4月1日−23日の期間で全国各地で報告された5人以上のクラスターは463件であり、このうち、職場が96件(21%)と最も多くなっています(図2)。さらに、高齢者施設の86件に続いて、学校・教育施設での60件(13%)が目立っています。

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図2. 最近の集団感染の場所(2021.04.30 NHK 7NEWSより).

職場でのクラスターは、今年1月はおよそ11%でしたが、2月は13%、3月は18%、そして4月で21%と割合が増える傾向となっています。学校での感染事例は、今年2月にはおよそ7%だったのが、3月はおよそ10%になり、4月13%とさらに増えていることになります。学校では、部活やクラブ、サークルなどでの発生が大学でおよそ44%、高校ではおよそ22%にのぼっています。

3. 政府や専門家のリスクコミュニケーションの欠落

「3密」の条件がそろうところで特に集団感染のリスクが高いと言い出したのは旧専門家会議と厚生労働省です。しかし、3密の条件が揃わなくても感染リスクは常にあるというのも1年前からある話です(→新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果)。にもかかわらず、政府も自治体もメディアも3密に拘泥しながら市民の行動変容を促してきたことは、逆に被害を大きくしたことも否めないと思います。

上記記事 [1] では、東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授の話を伝えています。すなわち、賀来氏は「従来から屋外のバーベキューなどでの感染はあったが、変異ウイルスは感染力が強いので『2密』や『1密』であっても感染すると考えなければならない。マスクをきちんと着ける、人との距離をさらに取る、屋外でマスクを着用していても飲酒を伴う会食は避けるなど、さらに対策を徹底する必要がある」と話しています。

この時期になって、屋外で感染する事例はあったとしながら、「2密や1密であっても感染すると考えなければならない」とはどういう意味でしょうか。屋外感染事例の段階で(もっと言えば1年前に)言うべきことではないでしょうか。

日本は変異ウイルスの脅威に対して(→変異ウイルスの市中感染が起きている第2波の流行をもたらした弱毒化した国内型変異ウイルス)、時期的な遅れも含めて明らかに対応を誤りました。テレビに出てくる専門家と称する人たちは、口を揃えて「変異ウイルスだからといってやるべきことは変わらない」と言っていたことを覚えています。

彼らが言っていたことは、ひたすら3密回避、マスク着用、手指衛生であり、このような抽象的表現のままでは誤解を与えます。変異ウイルス対応なら、より具体的な事例(→感染力を増した変異ウイルスと空気感染のリスク)もあげながら、マスク着用(→変異ウイルス対応のマスクのつけ方)や行動変容についてもっと具体的に教示すべきでしょう。

政府と分科会の間、そして国民との間におけるリスクコミュニケーションの欠落を強く感じます。そしてそのことが、日本の新型コロナの被害をことさら大きくしていると思われます。

おわりに

今月半ば、英国と米国の共同研究グループは、「SARS-CoV-2の空気感染を支持する10の理由」という論説をランセット誌に掲載しました [3]。筆頭著者のオックスフォード大学Greenhalgh教授は、この論説に対する批判について丁寧に回答し、以下のようにツイートしています。

翻って、厚生労働省は(言葉の問題だとして)空気感染を依然として認めていません。政府系の専門家(たとえば押谷仁教授)もそうです。 3密を強調する一方で、空気感染の警鐘をならすことを避けている政府や専門家の姿勢は、国民の誤解を生むものとしてきわめて責任重大です。

引用文献

[1] NHK NEWS WEB: 「3密」でなくても集団感染のおそれ. 2021.04.30. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210430/k10013006461000.html

[2] 堀川勝元「マスクして打ち合わせ」でも職場感染 変異株の影響か. 朝日新聞DIGITAL 2021.04.30. https://digital.asahi.com/articles/ASP4Z6HCZP4ZOIPE02K.html

[3] Greenhalgh, T. et al.: Ten scientific reasons in support of airborne transmission of SARS-CoV-2. Lacet 397, 1603–1605.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00869-2/fulltext

引用した拙著ブログ記事

2021年4月13日 感染力を増した変異ウイルスと空気感染のリスク

2021年4月10日 変異ウイルス対応のマスクのつけ方

2021年2月10日 第2波の流行をもたらした弱毒化した国内型変異ウイルス

2021年1月18日 変異ウイルスの市中感染が起きている

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果

               

カテゴリー: 感染症とCOVID-19

 

全国への感染拡大と政治的思惑に支配されるコロナ対策

新型コロナウイルス感染症第4波全国に拡大し、今日(4月21日)新規陽性者数は5000人を超えました(図1)。全国自治体の新規陽性者数を示す黄色のマークは、連日埋まった状態で空白がありません。そして図1のなかで赤色で示すように、関西圏を中心に新規陽性者数最多を更新した自治体が5府県に及びました。すでに全国へ緊急事態宣言を発出する段階に来ていると個人的には思います。

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図1. 4月21日の全国自治体の新規陽性者数(2021.04.21. NHK NEWS WATCH9より).

思えば、大阪は緊急事態宣言解除後に何も強い対策を打たなければ、感染急拡大すると予測したのが約2ヶ月前(→大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請)、そして首都圏も宣言解除後は後を追うだろうと指摘したのが約1ヶ月前です(↓(→緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)。予測は外れてほしいと思いながらも、しばらくフリーランスの仕事ができなくなるのではと不安も抱えていましたが、残念ながら予測と不安が的中してしまいました。

大阪府の吉村知事の緊急事態宣言解除の判断とその後の対策の認識は、きわめて甘かったと思います。今でこそ「従来型と現在の変異ウイルスの対策では違う」と言っていますが、緊急事態宣言解除の時点でなぜそれを考えられなかったのか疑問であり、逆にいまそのように言っていることがその時々のパフォーマンスにしかすぎないことを現しているような気がします。 

そして、緊急事態宣言をいち早く要請しながら「迅速に対応している」という印象を与えていますが、ヤッテル感以上のものではないと思えます。なぜなら、これまでの彼自身の対応のまずさから感染は拡大し、甚大な健康被害に至り、医療崩壊に起こしているからです。いま大阪は重症者用病床以上の重症者数に至り(図2)、自宅療養中に亡くなる人も続出しています。

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図2. 大阪府における重症者用病床数と重症数の推移(2021.04.21. NHK NEWS WATCH9より).

東京都小池知事も似たようなところがあって、これまでの数々の言葉遊びのような感染対策スローガンを見ていると、やはりパフォーマンスが目立つという印象は拭えませんし、さまざまな発言の裏には政治的思惑が透けて見える場合もあります。

各メディアは、今夜、東京都が政府に対して緊急事態宣言を出すよう要請したことを報道しました [1]。それによれば、宣言の期間は4月25日から5月9日あるいは11日までとする案を軸に、政府と協議を行う方針であるとなっています。

私はテレビでこれを視聴していて「あれっ?」という感じを受けました。東京都が感染の急拡大を防ぐため、政府に対して緊急事態宣言を要請するのは当然なのですが、宣言の期間があまりにも短すぎではないか?それで効果が出るのか?という疑問です。

報道によれば、今回の宣言要請は、大型連休の人出を大幅に減らすことを念頭にということのようです。小池知事も直前に記者団に対して「大型連休の前のタイミングで緊急事態宣言をぴしっと出すことも必要だ」、「期間は協議するが、私の感覚として、ずっと長いと途中でだれてしまう。今回はできるだけ効果が高く、だらだらしない方法がいいのではないかと考えている」と述べていました。

しかし、3週間も経たずして緊急事態宣言を解除というのは、効果の点からみたら性急すぎるでしょう。おそらくは、この短い緊急事態宣言の期間の裏には、表向きの発言と違う政治的思惑があるのでは?とふと思いました。それはバッハIOC会長の来日です。来日は5月17日ですが、それまでに緊急事態宣言を解除したいという思惑が見え見えな感じです。

一方の菅首相ですが、緊急事態宣言発出のタイミングについてのモタモタぶりは相変わらずです。元々、迅速かつ合理的に判断するという能力の問題に加えて、東京や大阪の知事のパフォーマンスに振り回されることを嫌っている面もあるのではないでしょうか。この点について私は以下のようにツイートしました。

今回の緊急事態宣言は、おそらく東京や大阪など一部の都府県に限定して実施され、5月10日の週で解除ということになるでしょう。短期集中といえば聞こえはいいですが、菅首相の頭には東京五輪や休業補償などがあることは当然でしょう。緊急事態なのに発出が緊急ではないというのはいつものことですが。

いずれにしろ、政府や自治体のトップの政治的思惑やパフォーマンスで感染症対策が決められていると思えばやりきれません。結局被害を受けるのは国民です。 

引用文献

[1] NHK NEWS WEB: 東京都 緊急事態宣言を出すよう政府に要請. 2021.04.21. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210421/k10012989281000.html

引用した拙著ブログ記事

2021年3月23日 緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念

2021年2月25日 大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請

               

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遅すぎたそして的外れの"感染再拡大防止の新指標"の提言

はじめに

政府の分科会は、4月8日、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染拡大の兆しを捉えて強い対策を早く行うための新たな指標についてまとめました [1]。分科会は去年8月に感染状況を見るための「ステージ」の指標を提言しましたが、それが十分機能しなかったことによる見直しと思われます。私もこのステージの指標に対する疑問をこのブログで示しました(→政府分科会が示した感染症対策の指標と目安への疑問)。

この新しい指標については今日(4月15日)、分科会の尾身茂会長が会見を開いて公表しました [2](図1)。ここでそれを紹介しながら、中身を検証してみたいと思います。一言で表すなら、この見直しは「遅すぎた」という印象です。そしていまだに分科会の考え方は的外れではないかということを感じざるを得ません。というのは「医療ひっ迫を防止したい」と言いながら、指標や分科会の姿勢がそのようになっていないということです。

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図1. 4月15日の政府分科会尾見会長の記者会見 [2].

1. 見直しの背景

分科会が昨年8月に示した「ステージ」は、感染状況(病床使用率やPCR検査の陽性率などの項目)に応じて4段階に分けられていました。しかしこれまでは、国と自治体、専門家との間でこの認識が迅速に共有されず、感染が拡大しそうなときに急ブレーキをかけるための「サーキットブレーカー」として機能しないこともあったと、今回の提言で尾見会長は述べました。今回の見直しは、このような背景に踏まえ、感染が拡大する兆しをより早く捉えて対策につなげるために行なったということです。

しかし、ステージの指標がサーキットブレーカーとして機能しなかったことは中身の問題ももちろんありますが、そもそもステークホルダー間のリスクコミュニケーションの欠如という日本特有の問題が大きいように思います。つまり、感染症対策の当事者である専門家と政策決定者である政治家との間のコミュニケーションの悪さがあると言えます。加えて、厚生労働省官僚が政策の無謬性に拘泥するあまり、しばしば情報の恣意的操作や隠蔽を図ることが、国民への正確な情報伝達を阻害しているということがあるでしょう。

その端的な例が、厚労省といわゆる"感染症コミュニティ"を発信源とする検査抑制論です。彼らは検査を医療資源としてのみ捉え、かつ2009年のパンデミック後に提言を受けたはずの検査拡充をサボり続けてきたことのゴマカシとして、その限定的使用を打ち出し、ことさらPCR検査の精度が悪いというデマ情報を流してきました。それによって日本の感染症対策は危機的というくらいに遅れ、被害を拡大したことは明らかであり、その責任はきわめて重いと言えます。

それはさておき、分科会が示した見直しの内容をここでチェックしていきましょう。

2. 新しい指標の提言

今回の見直しでの大きな変化は、これまでの「ステージ」の指標に加え、「感染拡大の兆しを早期に捉えるための指標」と「強い対策をとるタイミングの指標」が新しく設けられたことです(図2)。

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図2. 政府分科会が示した新しい指標(2021.04.15. NHK NEWS WATCH9より).

具体的には、「感染拡大の兆しを早期に捉えるための指標」として、感染が若い世代を起点に高齢者に広がることから、20〜30代の若年層を中心とした感染者数の動向PCR陽性率歓楽街の夜間の人出などの5つの項目があげられています。また、強い対策をとるタイミングの指標」として、都道府県が最大限確保する病床が2〜4週間で満床に達することが想定される場合や、夜間の人出が2週連続で大きく増加した場合などの3項目を示されています。

尾身会長は「新しく決めた指標は、病床のひっ迫を防ぐことにより重点を置いたものだ。感染拡大が一定以上進めば早晩、医療がひっ迫するおそれがあり、先手を打ってまん延防止等重点措置などを実行に移す必要がある。タイミングが遅れれば医療のひっ迫が深刻になるため、行政には今回の指標をもとにした迅速な判断を求めたい」と述べました [2]

私はこれを聴いていて、相変わらず勘違いしているのではないかと率直に感じました。図1にも示すように「感染者を減らしたいのはもちろんだが、一番重要なのは医療のひっ迫を防ぐこと」と尾見会長は述べています。これは矛盾した言い方です。収容できる病床数は有限ですから、結局は感染者数を抑えることが最重要課題なのです。以下に具体的に2つの点を挙げます。

まず1点目ですが、単純な話、感染者が増えなければ患者も重症者も増えず、医療もひっ迫することはありません。つまり、医療ひっ迫を防ぐためには、前線の感染者数を抑えることが第一であり、そのための監視体制の強化と感染拡大防止のための強い対策を早めに打つことが重要なのです。尾見氏が言う「先手を打つ」、「タイミングが遅れれば医療のひっ迫」というのは正論ですが、であるなら、それを実行できるような指標とその運用法にしなければなりません。

監視機能として有効なのは、新規陽性者の数と検査陽性率であることは誰にも理解できることと思います。仮に今分科会が掲げているステージIIIの新規陽性者数(15人/10万人)を基準とすれば、東京で1日約300人、大阪で1日約190人に相当します。 検査陽性率で言えば、WHOは5%以下が感染流行が制御されている(検査と隔離が機能する)段階という一つの目安を出していますし、韓国では2%以下を目標としています。

そこで仮に間をとって検査陽性率を3%以内となるように日常的に検査を実施するとしましょう。そうすると、東京で10000件/日、大阪で6800件という検査を毎実施していればよいということになり、この条件で東京で7日移動平均で300人/日、大阪で190人/日になったら、強い対策をとるタイミングであるという目安をつくることができます。

実に単純な話で、医療をひっ迫させたくないなら、まずここを死守することが重要なのです。翻って東京や大阪で、上記の数字に基づいてこれまで何か強い対策がとられたことがあるでしょうか? 否です。今回の第4波で言えば、大阪でこのステージIII基準(15人/10万人)の数字になったのは3月26日です。しかしこの時点では何も対策がとられず、10日後になってやっとまん延防止措置の適用が始まったという体たらくです。しかもまん延防止というからには、防止機能がなければいけないのに、すでにまん延させてからの措置するというギャグみたいな話です。

次に2点目ですが、医療ひっ迫を防ぐことが重要と言いますが、日本は構造的に医療提供体制が感染症拡大に対応しておらず、医療ひっ迫は必然的なものと考えられます。まず欧米に比べて病床数は格段に多いものの、医療従事者(とくに看護師)の数が不足しています。これは収益性をあげるために人員整理をし効率化を図ったためです。そして、感染症を治療することと、軽症、中等症、重症者を診るという病院ごとの役割分担ができていないということが問題なのです。

民間病院は多くても感染症を診るための設備とスタッフの整った大病院は少なく、今COVID-19患者の治療に当たっている病院でも、軽症、中等症患者と重症者患者をいっしょに入院させている場合も多く、非常に非効率的に患者対応を行なっている状況です。

これが日本が欧米に比べて圧倒的に感染者数が少ないにもかかわらず、すぐに医療ひっ迫になってしまう理由です。したがって単に病床を増やせばいいという問題でも、民間病院を活用すればよいというも問題でもなく、人手不足と医療体制のアンバランスというきわめて深刻な構造的な問題があるために、実際に機能する病床数を簡単には増やせないということなのです。仮に、大阪府医療崩壊だからという理由で、他府県に看護師を要請してもすぐにはそのようには対応してもらえないでしょう。

3. 4段階のステージ

今回の分科会の提言では、去年8月に発表した感染状況を4段階の「ステージ」に分ける考え方に変更はありませんでした(表1)。

表1. 感染状況の4段階のステージと内容

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分科会ではこれまでステージを判断する指標として、「医療提供体制等の負荷」、「監視体制」、「感染の状況」の3つのカテゴリーに以下の6つの項目を示していました。

医療提供体制等の負荷
1. 病床のひっ迫具合
2. 療養者数
監視体制
3. PCR陽性率
感染の状況
4. 新規報告数
5. 直近1週間と先週1週間との比較
6. 感染経路不明割合

それが今回の提言ではの上記の「5. 直近1週間と先週1週間との比較」がなくなって5項目に減り、「医療のひっ迫具合」に新たに入院率(すべての療養者に占める入院できている人の割合)が加わりました。

この入院率とは、COVID-19患者のなかで実際に入院している人の割合を示します。本来入院する必要があるのに、入院できずに自宅や施設で療養する人が増えると「入院率」は低くなります。すなわち、数値が低いほど受け入れることができない患者が増え、医療がひっ迫している可能性があることになります。

表2に旧ステージ指標と新しいステージ指標を比較して示します。

表2. 政府分科会による感染状況の変化に対応した対策の実施に関する指標及び目安についての新旧対比(赤字部分は変更されたところ)

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今回新しくなったのは、入院率が加えられてステージIIIで40%以下、ステージIVで25%以下となったこと、療養者数がステージIVで30人以上/10万人と引き上げられたこと、そしてPCR陽性率がステージIIIで5%と引き下げられたことです。

提言では、基本的にはステージIIIになれば感染が拡大しそうなときに、それを阻止するために「サーキットブレーカー」として速やかにまん延防止等重点措置を含む強い対策を早期に講じることが重要であるとし、感染が急拡大する兆しが見られる場合は、ステージIIの段階から用いることも考えられるとしています。

特に今は、感染力の高いN501Y変異ウイルスの出現でこれまで以上に医療がひっ迫しやすくなっているため、先手を打って強い対策を講じる必要があるとしました。そのためにはさまざまな指標を総合的に判断する必要があるとして、分科会は感染拡大の予兆を早期に探知するための指標を新たに設定したということです。

4. 再度、分科会提言指標が機能しない理由

今回のパンデミック感染症対策で最も重要なのは、特に日本では医療提供体制が十分でないことを鑑みて、感染者数を増やさないことです。つまり医療提供体制への圧迫を避けるためには、ステージII以下の感染状況を維持することが重要です。その上で分科会が提言する指標がうまく機能しない理由をここで再度まとめてみます。大きく以下の三つの理由が挙げられます。

               

1) 指標が多すぎる(複雑すぎる)

2) タイムラグがある監視体制と医療提供体制の指標が同列で考えられている

3) 指標の基準が甘い

               

1)については、指標が多すぎると、どうしてもそれらを総合的に判断せざるを得ず(事実尾見会長は指標を総合的に判断する必要があると言っている)、すべての指標において赤信号が点滅する段階になって初めて強い対策を考えるということになりがちです。したがって、指標を多くすることは、判断をわざわざ遅らせるようなものです。

2)については根本的な問題ですが、感染者数が増えると入院患者数が増え、それから重症者が増え、病床が埋まるということになるので、これらを時系列を同じにして考えてはいけないのです。監視体制・感染状況の指標が赤信号になったら即座に強い対策をとり、病床のひっ迫を防ぐということがまず第一です。そして、さらに医療提供体制に赤信号がついたらさらに強い対策をとるという二段構えが必要です。

3)については、依然として監視体制や感染状況の基準が甘いということです。旧ステージIII、IVの指標ではPCR陽性率10%という、とんでもない数値が掲げられていました。これは感染が広がりすぎて検査が機能しなくなっている段階です。新しい指標ではステージIIIで5%に引き下げられましたが、上述したようにここは3–4%程度に、そしてステージIVを5–6%程度に厳しくするべきでしょう。新規陽性者数もステージIIIおよびIVでそれぞれ10人/10万人、20人/10万人に引き下げられるべきです。

さらに依然として感染経路を50%としているのもおかしいです、この数字は検査・追跡・隔離ができていないレベルの話であり、このままでは市中感染を許しすぐに再燃させる危険性があります。ステージIIIではせめて30%程度に引き下げられるべきでしょう。

具体的に、関西の感染拡大の兆候が見られた3月23日から28日での6指標の数値変化を首都圏、関西圏、福岡、沖縄で示したのが図3です。この間に大阪府兵庫県では医療提供体制(指標1、2、3)がステージIVの段階になっています。にもかかわらず、監視体制(PCR陽性率)はすべての自治体でクリアし、新規感染者数も感染経路不明も大阪がステージIII以外はほとんどのクリアされているのです。一方で病床利用率においては、半数以上がステージIII以上になっています。

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図3. 3月23日から28日における都道府県の6指標数値の変化(NHK特設サイト「新型コロナウイルスより転載).

つまり、監視体制や感染状況を飛び越えて先に医療提供体制に赤信号が点滅しているような状況なのです。監視体制や感染状況の数値基準が甘いために、本来の機能を果たせず、いきなり医療ひっ迫という事態になる可能性が高いにもかかわらず、全体の指標を総合的判断するために、それに気づかない(対応が遅れる)という状況になっているわけです。

結局、分科会が新しく設けた図2の基準のほとんどはなくても済む話であり、逆に新たに指標を増やすことで、余計に"総合的判断"と対策が遅くなる可能性があります。上記表2で言えば、監視体制と感染状況に当たる項目3、4、5のみで十分に感染拡大予防策として成立します。

ここで、大阪府の例を出しながら、いつ強い対策を出すべきだったかを検証したいと思います(図3)。大阪府は吉村知事の要請を受けて2月末をもって緊急事態宣言が解除されました(左端の赤矢印)。しかしこの解除は危険であり、直ぐに再燃を許すことになることをこのブログで指摘しました(→大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請)。

なぜなら、この時点で新規陽性者数は下げ止まりになっており、感染経路不明者が50%を超え(すなわち市中感染が起こっており)、そしてN501Y変異ウイルスの拡大が予測されていたからです。緊急事態制限を解除するならこの時点で一気に検査を拡大し、変異ウイルス感染者も含めて陽性者を徹底的に検出・隔離すべきでした。

次のチェックポイントは、上記したように3月23−28日の間です。3月26日(真ん中の赤矢印)、旧ステージIIIの感染状況の3指標(15万人/10万人、直近1週間が先週より多い、感染経路不明50%)すべてにおいて基準を超えました(図3参照)。これ以降ずうっと15万人/10万人超えが続くことになります(図4、薄赤の影部分)。強い対策を打つなら正にこの時点でしたが、結局まん延防止措置が導入されたのはおおよそ10日後になりました。

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図4. 大阪府の新規陽性者の推移(NHK特設サイト[3]からの転載図に加筆、黒線は7日間移動平均、赤矢印は左から緊急事態宣言解除、指標15人/10万人超え、まん延防止等重点措置開始をさす).

このようになぜ判断が遅れるかと言えば、繰り返しますが、表2にあるように指標が多すぎて(かつ感染状況の数値基準が甘い)、すべて(あるいは大部分)が赤点滅になるまで待ってしまうからです。監視体制と医療提供体制は時間的ズレがありますので、医療提供体制の基準を超えた時にはもう手遅れということが起こります。表2の医療提供体制の指標は基準を超えるまで、判断を保留してはいけないのです。

そして流行を予測するという意味では、地域全体の検体プール検査とも言える下水検査がきわめて有効だと言えましょう(→下水のウイルス監視システム下水検査の現状)。分科会自身も下水検査という発言をしたことがありますが、相変わらず積極的に押し進める様子はありません。

おわりに

私は毎日NHKの特設サイト「新型コロナウイルス[3] を見ていますが、そこでは新規陽性者が出た都道府県は地図上で黄色で示されます。この2日間連続で全都道府県において陽性者がゼロでなかったことを確認して、今日以下のようにツイートしました。

おそらく明日以降も全国真っ黄色の状況が続いていくのではないでしょうか。 それだけ今の変異ウイルスによる第4波がこれまでの流行の波のなかで最悪であるということです。

政府はまん延防止措置の拡大でお茶を濁していますが、そんなことでよろしいのでしょうか。分科会の新指標の提言が遅すぎたように、政府のやることも何もかも遅すぎます。かつ対策も甘過ぎです。

今や、関西や首都圏は緊急事態宣言発出で緊張感を高めた上で、具体的な数値を伴った大規模接触削減や人流制限を行なうべきであると思います。しかし、菅首相はバイデン大統領に会うことで頭がいっぱいと推察しますし、この先東京五輪や総選挙もあります。これらが足かせになって、とても緊急事態宣言発出をするようなマインドにはなっていないのでしょう(だから代わりにまん延防止措置を用意したということではないでしょうか)。

引用文献・資料

[1] NHK NEWS WEB: “感染拡大の兆し 早めに捉える指標に” 政府分科会で提言案. 2021.04.08. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210408/k10012963961000.html

[2] NHK NEWS WEB: 新型コロナ 政府分科会 感染再拡大防止の新指標 提言まとめる. 2021.04.15. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210415/k10012976261000.html

[3] NHK: 特設サイト「新型コロナウイルス」 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/#infection-status

引用した拙著ブログ記事

2021年3月30日 下水検査の現状

2021年2月25日 大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請

2020年8月8日 政府分科会が示した感染症対策の指標と目安への疑問

2020年5月29日 下水のウイルス監視システム

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

感染力を増した変異ウイルスと空気感染のリスク

はじめに

現在関西を中心に、B.1.1.7系統N501Y変異ウイルス(いわゆる英国型ウイルス)の感染拡大が顕著です。今日は大阪府で初めて1,000人を超える新規陽性者数になりました。緊急事態宣言解除が誘発した"気の緩み"が春先の人流増加を促し、感染拡大に繋がったという可能性が大です。首都圏も数週間遅れでこれに続くでしょう。

緊急事態宣言解除後は、何も強い対策を打たない限り感染が拡大するであろうということは、当初から予測されたことであり、各自治体知事らの判断の責任は重大です(→大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)。とくに大阪府における重症化病床使用率はほぼ満杯であり、この先医療崩壊が起こり、その被害をどれだけ最小限に留めるかという段階になっています。

今回の感染流行は、疫学・ウイルス学的には感染力を増した変異ウイルスの伝播によるところが大きいですが、国や自治体の感染症対策としては、ウイルスの空気感染(エアロゾル感染)を軽視したことにもあるのではないかと思っています。厚生労働省のホームページの一般向けQ&Aを見ても、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染様式としてあるのは、依然として飛沫感染接触感染のみであり、空気感染については触れていません(→緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)。

1. マスク会食による感染事例

空気感染軽視の最たるものがマスク会食の勧めです。神奈川県黒岩知事や大阪府の吉村知事が盛んに勧めている感染防止対策です。マスク会食自体はいいのですが、やはり対人距離の確保や換気量の確保などがセットになっていないと、感染リスクは高くなります(→マスク会食の是非)。

今日のテレビ朝日の「モーニングショー」では、マスク会食で感染したと思われる事例を紹介していました。ここで感染の対象者となったのはAさんです。彼は先月1人で飲食店へ行きましたが、4日後に濃厚接触者の連絡を受け、検査を受けた結果、変異ウイルス陽性が判明し、入院となりました。

感染場所となった飲食店は一見さんお断りの店であり、入店時にはマスク着用と検温チェック、それに消毒がありました(図1)。

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図1. マスク会食での感染事例-1(2021.04.13 TV朝日「モーニングショー」より).

お店でAさんは何も食べず、お酒を2杯飲んだだけで、飲む時だけマスクを下げていました。滞在時間は1時間弱です。店主も常にマスクをつけており、この間一回もマスクを外していないということでした(図2)。したがって、陽性が判明した時に、感染経路についてわからないというのがAさんの実感でした。

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図2. マスク会食での感染事例-2(2021.04.13 TV朝日「モーニングショー」より).

結局感染源は店主であり、マスク越しに会話をしたAさんに伝播し、そしてAさんとマスクをして会話した他の客にも感染したということが判明しました(図3)。

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図3. マスク会食での感染事例-3(2021.04.13 TV朝日「モーニングショー」より).

ここにマスク会食を過信した店主やAさんの不幸があったと思います。お店には窓はなく換気は不十分でした。客の間にはアクリル板などの遮蔽物はありませんでした。その結果、このお店では客と従業員併せて14人の感染者(いわゆるクラスター)を出してしまいました。

マスクは飛沫をある程度防止し、暴露を防ぐ効果も少なからずありますが、材質によってその効果は大きく異なり(ウレタンマスクや布マスクでは効果半減)、不織布マスクの場合はとくに上と横からの漏れが起こります。そのためにマスクをつけた会話でも相当量エアロゾルを発生し、換気が悪い閉所空間や対人距離がないところで長くいることは、空気感染を起こすリスクが高いのです。しかもマスク会食では、マスクをしない時間が相当長く発生するということが重要で、感染リスクを高めます。

2. 無症状感染者からの感染リスク

ここで空気感染のヒントになるような世田谷区の社会検査のデータがあります [1]。モーニングショーではこの世田谷区のデータを図として取りあげていました。ここでは、モーニングショーで紹介されたデータの図のオリジナル(3月26日記者会見資料)を図4として示します

これは世田谷区の無症状者を対象とした社会検査(リアルタイムPCR)で陽性となった78件について、Ct値と件数、ウイルス量の関係について示したものです。ここで注目すべきことは、無症状者でありながらCt値=15から24の範囲に27件(約35%)の陽性があったことです。この中で、17件はCt=19.84–24.13の範囲にあり、10件はCt=15.55–19.84という範囲にありました。

Ct=15.55–24.13は、0.01 mLあるいはそれ以下のミストで感染させるくらいの高いウイルス量に相当します。これはマスクなしでの会話や会食で容易に感染が成立する、極めて感染リスクが高いレベルです。

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図4. 世田谷区の社会検査における陽性者の件数とウイルス量 [1].

ミスト0.01 mLという量は実感がつかみにくいと思いますが、バクテリアなら最大10個程度、ウイルス(SARS-CoV-2)なら最大100個程度の数が含まれる容積に相当します。

図4について、児玉龍彦教授(東京大学先端科学技術センター)は、無症状者がスプレッダーになる可能性があることを示す結果として重要だという見解を示しています(図5)。また、西原広史教授(慶應大学医学部)は、同様に無症状者がスーパースプレッダーになる可能性を指摘しています。

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図5. 世田谷区の社会検査の結果に対する専門家の見解 [1].

3. あらためて空気感染の重要性

前述したように、厚労省のホームページには新型コロナの空気感染についての記述がありません。一方、米国CDCはSARS-CoV-2の空気感染について明確に示しています [2]。とはいえ、感染は主に近接での飛沫感染によって起こるという説明があり、空気感染はずっと少ないという見解です。飛沫感染の場合、感染者からのどのくらいの距離で、どのくらいの時間的ズレで感染するかについては確固たる証拠はないとしています。

空気感染が起こる場合として、図6に示すように、閉所空間、長時間のエアロゾルへの暴露、不適切な換気の3点をあげています。これらは私たちがすでに常識として持っているものだと言えます。

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図6. 米国CDCが示す空気感染が起こりやすい条件 [2].

上記のモーニングショーが取りあげたマスク会食での感染の事例は、CDCが示す閉所と換気の悪さの2点が該当し、さらに大声ではないものの、会話をしていたということであればエアロゾルへの暴露も相当するでしょう。しかし、会話時はマスクをしていたということなので、すくなくともN501Y変異ウイルスの場合においては、CDCが示す条件以上に空気感染は起こりやすいものだという認識が必要ではないでしょうか。

それと最近、これまで考えられてきた接触感染、飛沫感染、空気感染の3様式の中で、接触感染はほとんど起こらないという見方が広まってきました [3]。米国CDCも同様な見解を示しています。

しかし、私の個人的見解ではこれは少し短絡過ぎるのではないかと思います。微生物の専門家だったら経験していることですが、微生物のリアルタイムの(即時的な)コンタミネーションというのは容易に起こります。これは微生物に直接触れるか、汚染されたものに触れることで起こるわけですが、時間的経過とともに、接触による微生物汚染の確率は低下していきます。

ウイルスにおいても同様なことが言えると思います。つまり閉所空間で感染者がいるような場合、飛沫やエアロゾルによってあらゆるものがウイルスで汚染され、同時にあるいは時間的ラグが短い間にそこに非感染者がいる場合、接触感染も起こりやすいと考えられるのではないでしょうか。

SARS-CoV-2の伝播や感染様式に関する論文を読んでいても、感染力のあるウイルスが固体表面にどの程度残存するかということに焦点が置かれ、リアルタイムでの接触感染にはほとんど触れられていないように思えます。そもそも空気感染か接触感染か、あるいは同時に起こっているかを証明することもきわめて難しいです。

WHOも各国の感染症対策当局も手指衛生を勧め、私たちが手洗いや手の消毒に努めるのは接触感染に対する防御です。空気感染、飛沫感染接触感染は即時的には一体化して起こるものとして考えるべきでしょう。

おわりに

日本の新規陽性者の中では感染経路不明という数が非常に多いです(だいだい半分程度)。クラスター以外の追跡調査をきちんとやっていないとか、疫学調査に非協力的な濃厚接触者もいるとは思われますが、多くの人はどこで感染したか心当たりがないということ(マスクをしていたのに感染した)が実状でしょう。この事実は、空気感染や接触感染が割と多いのではないかということを推測させるものです。

今は感染力を増したN501Y変異ウイルスが猛威をふるい始めています。これまで以上に空気感染への警戒が必要と思われますし、マスクのつけ方一つとっても改善の余地があるでしょう(→変異ウイルス対応のマスクのつけ方)。

引用文献・資料

[1] 世田谷区: 令和2年度第11回世田谷区長 定例記者会見. 2021.03.26. https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/001/002/003/d00190932_d/fil/siryou.pdf

[2] Centers for Disease Control and Prevention: Science brief: SARS-CoV-2 and potential airborne transmission. Updated Oct. 5, 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/scientific-brief-sars-cov-2.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fcoronavirus%2F2019-ncov%2Fmore%2Fscientific-brief-sars-cov-2.html

[3] Lewis, D.: COVID-19 rarely spreads through surfaces. So why are we still deep cleaning? Nature Jan. 29, 2021. https://www.nature.com/articles/d41586-021-00251-4

引用した拙著ブログ記事 

2021年4月10日 変異ウイルス対応のマスクのつけ方

2021年4月6日 マスク会食の是非

2021年3月23日 緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念

2021年2月25日 大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

ワクチン後進国の日本

はじめに

昨年末から、各国において新型コロナウイルス感染症COVID-19に対するワクチン接種が始まりました。主流は米国ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンです。そこであらためて明らかになったのが、日本のワクチン対策の遅れです。ここでその現状と問題点についてふれたいと思います。

1. 世界のワクチン接種率の比較

Our World in Data(OWD)にアクセスすると、これまでの世界各国のワクチン接種状況を知ることができます。現在ワクチン接種率でトップを走るのがイスラエルです。これに主要先進国OECD加盟国を加えて、日本との人口比ワクチン接種率を比較したのが図1です。日本では今年2月から医療従事者を対象にワクチン接種が始まりましたが、現時点で1%未満の接種率であり、図1の中では最低のランクです。

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図1. 世界主要先進国OECD加盟国におけるワクチン接種率(少なくとも1回接種)の推移(Our World in Dataより).

さらに、世界保健機構WHOの基準による西太平洋諸国における日本の接種状況を比較したのが図2です。断トツはシンガポールであり、接種率が20%に達しているので図2には加えてありません。またOWDには中国の正式なデータはありません。図2を見ても、日本の接種率は芳しくなく、韓国、マレーシア、ニュージーランドに遅れをとり、フィリピンと肩を並べている状況です(オーストラリアについては直近のプロットがないのに注意)。

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図2. 西太平洋諸国(WHO基準)におけるワクチン接種率(少なくとも1回接種)の推移(Our World in Dataより).

なお、日本よりワクチン接種率が低いタイ、台湾、ヴェトナムはいずれも感染拡大抑制に成功している国であり、woldometerにある世界の219の国・地域の中での比感染者数は、それぞれ世界198位、211位、212位と最低レベルです(表1)。

つまり、東アジア・西太平洋諸国を見渡しても、感染拡大抑制に成功しているか、あるいは感染者数を増やしている場合ではワクチン接種に手を打っているというのがほとんどであり、そのどちらでもない(感染拡大を許し、ワクチン対策でも遅れている)のが日本なのです

表1. 西太平洋諸国(WHO基準)における100万人当たりの累計陽性者数と世界での順位移(2021年4月10日時点、worldometerのデータより作成)

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2. ワクチン接種率と感染状況

mRNAワクチンの感染予防効果は先のブログで紹介したとおりです(→mRNAワクチンの感染予防効果)。ここで図1に示したワクチン接種率のトップ4の国の新規陽性者数の推移を見てみましょう(図3)。接種率1位のイスラエル、2位の英国では新規陽性者数の激減が顕著であり、最近では日本の新規陽性者数を下回っています。

一方、チリと米国では感染者減という傾向はまだみえていません(後者では下げ止まり)。米国では少なくとも高齢者施設の感染者数と病院内の重症者数は激減していると言われています。ワクチン接種の時期や他の感染症対策にも影響するので、この時点で一概に比較するのはむずかしいかもしれません。

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図3. ワクチン接種率トップ4(現時点)の国における新規陽性者数の推移(Our World in Dataより).

いま主流のmRNAワクチンは、SARS-CoV-2のスパイクタンパクの遺伝子を転写物(mRNA)として細胞内に送り込み、その発現でつくられるスパイクタンパク質を認識して抗体をつくらせるというものです。この特異的な獲得免疫が作用する場合、元々の自然免疫系への負の影響も少なからずあると思います。ウイルスの免疫逃避の問題もあります。mRNAワクチンが感染抑制をもたらす一義的効果については異論はないとしても、実際にはmRNAワクチン接種と感染者数の関係には、複雑な要因が絡んでいると思われます。

3. 国内の状況

河野太郎ワクチン担当大臣は、4月6日の記者会見で、4月12日に開始する高齢者(約3600万人)へのワクチン接種をめぐり、一部自治体で接種の予約が殺到していることを受けて「接種を希望する人は確実に打てるから、慌てずにお願いしたい」と述べました [1]

しかし、感染拡大を許し、ワクチン対策でも遅れをとっているのは日本政府であり、その不始末でこのような状況になっていることも事実です。混乱の原因はひとえに、国から自治体へ伝えられる供給スケジュールが曖昧だからと言えます [2]。河野大臣が国民に向かって「確実に打てるから慌てるな」という言い草はなく、もう少し丁寧な言い方をしてもらいたいです。

しかも先行している医療従事者へのワクチン接種は、まだ完了には程遠い状態です。厚生労働省によれば、対象者480万人への2回接種分供給が完了するのは5月となっています(図4)。現在の医療従事者の接種率がまだ約1割と言われていますが、この段階で高齢者への接種を始めるというのは、やはり政府のヤッテル感を演出するためではないかと思いたくなります。

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図4. 厚生労働省による医療従事者等への接種についての通知 [3].

そしてやはり気になるのが、ワクチン接種における人員確保も含めた運用体制です。ワクチンの輸入量はもちろんのこと、供給スケジュールの行方は不透明な場合でも、ワクチンの搬送・保管体制を整えなければなりません。超低温冷凍庫のコールドチェーンを構築したとしても、ワクチンの有効期限(ファイザーの場合6ヶ月)までに接種を完了しなければなりません。

この面で日本は人員確保と接種スケジュールの設定ができているのか、非常に不安になります。足りない分にはまだしも、有効期限内に接種しきれず廃棄ということがないようにしてもらいたいです。

4. ワクチン対策の遅れの理由

日本発のワクチン開発が遅れている理由としてはいろいろとあげられています。たとえば、「ワクチンの安全性や有効性に対する慎重な国民性」、「ワクチンの副反応をめぐる過去の薬害訴訟を受けてのワクチン開発に対する国の及び腰」、「感染症ワクチン開発企業の減少」、「新規医薬品の治験に関わる医療機関の体制の脆弱性」などがあげられています。

田村厚労大臣は、日本は欧米に比べて感染者数が少なく、治験できる体制が十分にできなかったと述べましたが、それはいい訳にしかすぎないでしょう。日本はこれまで約50万人の感染者を出し、感染者数で世界39位につけています。日本よりはるかに感染者数が少ない中国では自国のワクチンを開発し、海外に向けてワクチン外交を展開しています。単に、いつのまにか日本は迅速に自国ワクチンを開発できないくらいに国力(科学技術力+政治力+民度)が低下してしまっているということでしょう。

おわりに

世界でのワクチン接種は始まったばかりですが、mRNAワクチンの接種が進んでいる国々でその後の感染拡大や感染抑制に差があるように見えることは気になるところです。上述したとおり、この要因は複雑であり、果たして国民全員に接種していいものかという不安感を個人的には抱いています。しかし、ワクチン対策の遅れはこれとは別の話です。

今回の日本の主なワクチン対策は、米国企業による製品を輸入し、日本国民に接種するというものです。この調達の遅れは、ひとえにワクチン戦略の失敗と政治力のなさによるものです。感染症対策においては予防、診断、治療という基本があるわけですが、検査(予防、診断)で遅れ、医療体制(治療)で遅れ、そしてワクチン(予防)出遅れてしまった日本であり、それがこれまでのCOVID-19の被害と現在の第4波の感染拡大に現れているといっていいでしょう。

引用記事

[1] 産經新聞: ワクチン「確実に打てるので慌てずに」予約殺到に河野担当相. 2021.04.06. https://www.sankei.com/politics/news/210406/plt2104060011-n1.html

[2] 日刊ゲンダイ: ワクチン接種“大渋滞”…予約殺到し医療従事者は後回し、供給もグジャグジャで菅政権は仕切り最悪. Yahooニュース 2021.04.06. https://news.yahoo.co.jp/articles/66da7d83a575a6654ff10e000a4cec55306ca6f3

[3] 厚生労働省: 医療従事者等への接種について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_iryoujuujisha.html

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

変異ウイルス対応のマスクのつけ方

今朝起きてTwitterを見ていたら、物理学者のE. Topol氏のツイートが目に留まりました。新型コロナウイルス感染症のような呼吸器系感染症に対するより安全で確実なマスクのつけ方について紹介しているものでした。

このツイートの引用図にあるように、一般人の安全なマスクのつけ方として以下の三つあります。いずれも前提となるのはポリプロピレン性マスク(不織布)であることであり、マスクからの漏れをよりなくす方法として示されているものです。

1) 横漏れ防止のマスクをつける

2) 二重マスクにする

3) マスクの上にフィッター(brace)をつける

米国CDCはマスクのつけ方について具体的に説明し、その情報を日々アップデートしています [1]。最新版は4月6日に更新されていました。Topol氏がツイートしたものと基本的に同じマスク着用の方法が指南されています。

まずは、マスクの効果を高める重要な以下の2点が強調されています(図1)。一つ目は顔面に密着させてマスクをつけること(漏れを防ぐこと)、二つ目は多層構造(例:不織布)のマスクをつけることです。

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図1. マスクの効果を高めるための重要ポイント(CDCのページ[1]からの転載).

そして具体的にどうやってマスクをつけるかが図解付きで示されています。図2にあるように、1) 不織布の上に布(あるいはウレタン)を重ねる、2) 不織布の上にフィッターをつける、3) ワイヤーと横絞りのマスクで漏れを防ぐ、の三つです。

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図1. マスクの効果を高めるための三つの方法(CDCのページ[1]からの転載).

さらに二重マスクについては、してはいけないことにも説明があります。一つは、サージカルマスク(不織布マスク)などの同じタイプの使い捨てマスクを二重にしてはいけないということです。これは、サージカルマスクを重ねても密着度が向上するわけではないためです。もう一つは、N95マスクのように1枚だけで十分な効果があるマスクの場合は、上から重ねることに意味はないということです。

このようにマスクのつけ方について、国民がそれを励行するかどうかは別問題として、国の機関が具体的に示していることが重要な点です。ワクチン接種で日本よりはるかに先行している米国ですが、なお感染症対策についても怠らないという姿勢がみられます。

一方、日本はどうでしょうか。いま関西を中心にB.1.1.7系統N501Y変異ウイルスの感染拡大が顕著ですが、マスク着用も含めて一般人に対する国の感染症対策の指針はきわめて観念的、抽象的です。上記のCDCのマスクの指針についての忽那賢志医師の解説記事も出ていますが、二重マスクについて「両端の隙間をなくしフィットさせるための方法」として折角挙げているのに、最後には「マスクが二重かどうかよりも、正しく装着することが大事」と詭弁もどきの曖昧な説明になっています [2]

そして、テレビに出てくる医療専門家でさえ"正しいマスク着用"の方法について何ら言及するでもなく、口を揃えて「今までの対策をきちんと行なうことが重要です」を繰り返すばかりです。これでは何のメッセージにもなっていません。

マスク着用で言えば、富岳のシミュレーション解析を行なった理化学研究所の担当者が「マスク1枚を正しくつけていれば2重マスクは必要ない」と言っていましたが、これは誤ったメッセージになった可能性があります(→マスク着用シミュレーション結果のミスリード)。自治体の知事らが何ら具体的指示もせずマスク会食を勧めていますが、これも感染リスクを考慮しない誤った指示と言えるでしょう。おまけに医療専門家が「(マスク会食において)マスク着用は飛沫防止になる」と軒並み言っていることも、論点がズレています(→マスク会食の是非)。

上記変異ウイルスは感染力が強いことが知られており、この先のますますの感染拡大が懸念されます。検査で遅れ、医療体制で遅れ、ワクチンで遅れるという近代の感染症対策に失敗した日本ですが、100年前の"スペイン風邪"でも考えられた「マスクの効果」でさえまともに指南できない状況では、被害を拡大させるばかりではないでしょうか。

引用文献

[1] Center for Disease Control and Prevention: COVID-19/Improve How Your Mask Protects You. Apr. 6, 2021. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/effective-masks.html

[2] 忽那賢志: 感染防止のために「二重マスク」にすべきなのか? Yahoo JAPAN ニュース 202.02.13.
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210213-00222371/

引用した拙著ブログ記事

2021年4月6日 マスク会食の是非

2021年3月5日 マスク着用シミュレーション結果のミスリード

                                     

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マスク会食の是非

大阪府兵庫県は4月5日、「まん延防止等重点措置」が適用されたことを受け、対象地域の飲食店などに営業時間を午後8時までとするよう要請しました。さらに大阪府では併せて、飲食店でのマスク会食を義務づけることを発表しました。大阪府のホームページの冒頭には、知事からのメッセージとして、マスク会食に関する以下の指示が並んでいます(図1)。

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図1. 大阪府のホームページにあるマスク会食を含む感染症対策に関する知事からのメッセージ.

吉村知事は、「飛沫感染を防ぐ、口元を防いでいかなければいけない。マスク会食の義務化が1つのポイント」と述べています。マスク会食を義務化し、大阪市内の飲食店が命令に応じない場合過料を科すことができます。一方、これに対して、兵庫県神戸市の久元市長は、「食事中にマスクを着けたり外したりすると、マスクに付着したウイルスを触る可能性がある」として、否定的な見解を示しました [1]

これらを見ていて、私は、マスク会食に対する疑問として3日前に次のようにツイートしました。マスク会食に否定的なことは久元市長と同様ですが、マスクに触って危険というよりも、実効性や空気感染の観点から批判しました。

 今日のテレビの情報番組でもマスク会食を取りあげていました。それらも踏まえて、今一度マスク会食の効果について考えてみたいと思います。

マスク会食の是非で言えば、私の結論は「非」です。その理由の第一は、マスクの着脱着と人間の行動生態から考えて実効性がきわめて低いからです。マスクをつけて入店まではよいですが、お店内での飲食時には頻繁にマスクを外すことになります。これが問題なのです。マスク会食という言葉からはあたかもマスクをつけているいうイメージを持ちやすいですが、飲食をすればするほどマスクをつけない無防備な状態(しかも近接対面)で過ごす時間が長くなります

人間である限り、特にお酒が入った状態で、マスクなしの状態で深い息やすべての会話を避けるということはまず無理です。マスクの着脱着と会話の制御を徹底することは限りなく難しいと言えましょう。

第二の理由は、空気(飛沫核)感染汚染感染の問題です。マスク会食とはいえ、エアロゾル・飛沫核は必ず発生し、仮に近接対面で1時間飲食を行なったとすると(3密の密閉、密接条件下)相当量のエアロゾルに暴露されることでしょう。空気感染のリスクはきわめて高くなります。そして目の前の料理やマスクを外したときはその内側もエアロゾルで汚染されることになります。マスクに手を触れなかったとしても、密接とマスクなしの状態で、空気とマスクと料理からウイルスを体内に入れる危険性があるのです。

第三の理由は上記と関係がありますが、マスクの種類やつけ方によっては飛沫さえも防げないということです。マスクの効果については、以前のブログ記事で何度となく取りあげていますが(→マスク着用シミュレーション結果のミスリードリアル実験によるマスク着用の効果あらためてマスクの効果について新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果)、ここで理化学研究所を含めた共同研究チームのマスク効果のシミュレーション結果を再度示します [2]図3)。

図3に示すように、不織布、ポリエステル、布のいずれのマスクを正しくつけたとしても、上部隙間からの飛沫の漏れがあります(黄色の点)。そして、ポリエステル(ポリウレタン相当)や布ではマスク正面からの漏れ(青色の点)も生じます。

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図2. マスクの種類による飛沫防止効果とエアロゾルの漏れ [2]

さらに、図2は正しくマスクを着用した場合ですが、実際には不織布マスクを密着させてつけることはほぼ不可能であり、横漏れが起こります。このため米国CDCは、不織布の上にウレタンを重ねる二重マスクを勧めているほどです。

上記のマスクの材質による飛沫排出と吸い込みの防止効果を定量的に示したのが図4です。これは理研と共同研究を行なった豊橋技術科学大学が、昨年10月プレスリリースしたデータです。それによれば、飛沫の吐き出しは不織布で80%、布で66–82%、ウレタンで50%防止できるとされています。一方、吸い込みは不織布で70%、布で35–45%、ウレタンで30–40%の防止効果となっています。これも理想的にマスクをつけた場合です。

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図3. マスクの種類による飛沫防止とエアロゾル吸い込み防止効果 [3].

豊橋技科大の研究グループは、飲食で唾液の分泌が高まる結果、通常の会話よりも飛沫量が3-4割増加することを報告しています [3]。これに感染力の強い変異ウイルスという条件が加われば、さらに感染リスクが高まります

さらに、ウェブ記事から西村秀一医師(国立病院機構仙台医療センター)のマスクの素材別の効果に関する実験結果を拾うことができました [4]。私は、西村氏のPCR検査に対する考え方には必ずしも賛同しないのですが、彼の実験結果は妥当性があると思うので、ここで載せます(図5)。基本的には図4と同じ結果であり、不織布マスクに比較して、布、ポリエステル、ウレタンマスクの効果が顕著に落ちるということです。

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図4. マスクの種類による飛沫およびエアロゾルの防止効果 [4].

このようにマスクと言っても素材によって効果は大きく異なり、布やウレタンマスクでマスク会食することはきわめて危険であることが言えるでしょう。リアルな実験によってもそれは確認されています(→リアル実験によるマスク着用の効果)。マスク会食と一絡げにしていますが、マスク効果が素材で大きく異なることは留意しなければならないことです。

不織布マスクについても飛沫防止効果は(理想的につけた状態で)70–80%と考えてよく、実際は隙間からのエアロゾルの漏れは相当あると考えてよさそうです。これが近接対面で1時間以上というような長時間条件であれば、かなりのエアロゾルを浴びることになると予測されます.

ちょっと驚くのは、テレビに出てくる医療専門家がいずれも飛沫防止になるとして、マスク会食を勧めていることです。今日のTBS「ひるおび」では北村義浩氏(日本医科大学特任教授)がマスク会食を勧めていたのに始まり、倉持仁氏(インターパーク倉持呼吸内科院長)、小坂健氏(東北大学医学部教授)、三鴨廣繁氏(愛知医科大学教授)の3人による、マスクに触ることに神経を尖らすことは無意味という主旨見解を紹介していました(図5)。

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図5. マスク会食に関する医療専門家の見解(2021.04.06. TBS「ひるおび」より).

医療専門家によるマスクが飛沫防止になる、マスクに触ることは問題にならないというのはちょっと論点を矮小化しすぎではないでしょうか。 要約しますが、マスク会食の問題点は、頻繁にマスクを外すこと、マスクの素材によっては効果が低いこと、マスクをつけたとしてもエアロゾルは発生し、空気(飛沫核)感染の危険性があること、そしてそもそも人間の行動生態からみてマスク会食が徹底できないことです。

その点、テレビ朝日の「モーニングショー」でふじみの救急病院クリニックの鹿野晃院長が「マスク会食は徹底するのが難しい」と述べていたことは印象的でした。

実に不思議なマスク会食ですが、それを為政者が率先して勧めているのは、世界を見渡してみても日本だけです。マスク会食を勧めるにしても、まずは対人距離の確保、対面の回避、入店人数の制限、換気などを優先して進めるべきだと思います。そして、「マスク会食が効果がある」ということについては科学データもない状態なので、まずは科学的な検証が必要でしょう。

引用文献・資料

[1] FNNプライムオンライン: ”マスク会食”…神戸市長「かえって危険」 大阪府は飲食店に”周知を要請”も 自治体で”温度差” 2021.0402. https://www.fnn.jp/articles/-/164067

[2] 理化学研究所計算科学研究センター: 飛沫やエアロゾルの飛散の様子を可視化し有効な感染対策を提案 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その1. https://www.r-ccs.riken.jp/highlights/pickup2/

[3] 国立大学法人豊橋技術科学大学 Press Release: 令和2(2020)年度第3回定例記者会見. 2020.10.15. https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf

[4] 島沢優子: 実験で新事実「ウレタンマスク」の本当のヤバさ. 東京経済ONLINE. 2021.02.03. https://toyokeizai.net/articles/-/409607

引用した拙著ブログ記事

2021年3月5日 マスク着用シミュレーション結果のミスリード

2021年2月15日 リアル実験によるマスク着用の効果

2020年11月27日 あらためてマスクの効果について

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果

                                    

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