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Twitter:

https://twitter.com/rplelegans

Google Scholar

https://scholar.google.co.jp/citations?user=hD1-GesAAAAJ&hl=ja&oi=ao

ResearchGate:

https://www.researchgate.net/profile/Akira_Hiraishi

リアル実験によるマスク着用の効果

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このブログでは、COVID-19などの感染症予防対策としてのマスク着用の効果について何度か取りあげてきました(→新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効用あらためてマスクの効果についてコロナ禍で気になる若者の移動とマスクいわゆるウレタンマスク警察に思う)。今朝のNHKあさイチ」の番組では、リアル実験の結果に基づくマスクの種類による効果の違いについて紹介していました。ここでそれを振り返りたいと思います。

これまでもマスクの種類による効果の違いについて報告した研究例は多いですが、そのほとんどがコンピュータシミュレーションによるものであったり、固定したモノにマスクを着用した場合の効果であったりして、実際に着用した場合についてはどうなのかという確証についてはあまり報告されていません。

今回のNHKの取り組みは、実際に人にマスクを着用させ、「ぱぴぷぺぽ」のような半濁音(唇破裂音)が多い言葉を発生させて、そのときのエアロゾルの出方と相手方への侵入の度合いをカメラでとらえるというリアルな実験による検証です(図1)。使ったマスクは不織布マスク布マスクウレタンマスク(ポリエステル+ポリウレタン)の3種類です。もちろんいずれも正しく着用した場合での結果です。

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図1. 3種類のマスクを使ったそれらの効果のリアル実験(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

結論から言えば、エアロゾル侵入を防ぐ効果については布マスクとウレタンマスクはほぼゼロということでした(図2)。同様な結果は、これまでのコンピュータシミュレーションで示されていますが、リアルな実験ではさらに、布とウレタンのダメさ加減が浮き彫りになったように思います。

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図2. 3種類のマスクのエアロゾルの侵入を防ぐ力(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

エアロゾルの侵入と漏れについてマスクの種類ごとの効果をまとめたのが図3です。上述したように、侵入を防ぐ効果としては布とウレタンはほぼゼロである一方、不織布は30%減という結果になりました。漏れについては不織布が70%減になる一方、布とウレタンは効果は悪いという結果になりました(特にウレタンはダダ漏れ)。リアルな実験によれば、ウレタンマスク着用の効果はほぼないと言ってよいかもしれません。

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図3. マスクの種類ごとの着用の効果(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

鼻出しマスクの検証も行なっていましたが、鼻出しによってエアロゾルの漏れが格段に大きくなることが紹介されていました。

米国CDCは2重マスクとワイヤー入りマスク着用を推奨することをすでに報告していますが [1]、番組でも2重マスクの効果についても紹介していました。それによると、エアロゾル侵入防止については内側に不織布、外側にウレタンを着けるのが最も効果が高く、60–90%減となりました(図4)。内側に布あるいはウレタン、外側に不織布を着用する場合もある程度の効果がありました。これらはCDCの報告とほぼ同じです。

一方、布マスクとウレタンマスクの単独、あるいは組み合わせで2重にした場合は、ほぼ効果ゼロであることがわかりました。エアロゾルの漏れ出しについては、内側に不織布を着用した場合、いずれの組み合わせでも2重マスクの効果アップが確認されました。

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図4. 二重マスクの効果(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

2重マスクの効果は大きいですが、呼吸が苦しくなるため肺にダメージを与える可能性もあります。実際には、普段は不織布マスクを着用し、より感染リスクの高い場所で2重にするなどの対応が必要でしょう。

結論として、これまでの情報どおりに布マスクやウレタンマスクは効果が薄く、感染防止対策としてあまり奨められないということになります。普段は不織布マスクを着用し、感染リスクの高い場所で不織布の上に重ねる2重マスクで対応するというのが感染防止対策の基本ということになるでしょう。

引用文献

[1] Brooks, J. T. et al. Maximizing Fit for Cloth and Medical Procedure Masks to Improve Performance and Reduce SARS-CoV-2 Transmission and Exposure, 2021. MMWR Feburuary 10, 2021/70. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7007e1.htm?s_cid=mm7007e1_w

引用した拙著ブログ記事

2020年1月24日 いわゆるウレタンマスク警察に思う

2020年12月5日 コロナ禍で気になる若者の移動とマスク

2020年11月27日 あらためてマスクの効果について

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効用

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

第2波の流行をもたらした弱毒化した国内型変異ウイルス

はじめに

昨日(2月9日)、読売新聞は新型コロナウイルス感染症に関する興味深い記事を掲載しました [1]。昨年夏のいわゆる第2波の流行が、重症化しにくい変異ウイルスによる可能性があるという記事です。

記事の元ネタは、慶応大学の研究グループの研究成果 [2, 3] です。日本語による解説ウェブページも出ています [4]。この件については、昨年終わりのブログ記事「流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握」でも取りあげました。ここでCOVID-19流行抑制対策の上での変異ウイルスの解析の重要性を、再度考えてみましょう。

1. 日本の流行パターン

まず、これまでの日本の新規陽性者数と死者数の推移を比べてみましょう。図1上に見られるように2020年4月をピークとする第1波、8月をピークとする第2波、そして今年1月ピークの第3波と順を追って感染者数が増えています。一方で、死者数は第2波において、他の波よりも小さい傾向にあります(図1下)。確かに、第2波においては感染者数に対する死者数の相対比は低くなっているのです。つまり、重症化数もそれだけ小さくなっていると見ることができます。

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図1. 日本におけるSARS-CoV-2の新規陽性者数とCOVID-19新規死者数の推移(出典:worldometer).

第2波では、検査数が増えたことによって、第1波では見逃されていた若年層を中心とする無症状感染者数が大幅に増えました。東京都の例で見るとそれが顕著に現れています(図2)。

相対的には若年層の感染者数が増えたことによって、一見、重症化しやすい高齢者の感染者数が減って、重症化→死亡の例も減ったとみなすことができます。つまり検査数の拡大によって、若年層も含めた感染者が早く見つかるようになり(母数が増え)、医療の対応も早くなって重症化を防ぎ、致死率も下がったと言う見方です。

昨年9月、国立感染研究所は重症化、致死率の低下の理由として、 1) サーベイランス感度が高まり、より多くの感染者が確認できるようになったこと(検査体制の拡充、感染リスクの高い場所での積極的な検査の実施、診断までの日数の短縮等)、2) 若い世代が占める割合が高くなっていること、3) 高齢者であっても比較的健康な高齢者が含まれると考えられること、4) 標準的な治療法に基づく対応が進んでいると考えられること、を
あげていました [5]

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図2. 東京都におけるSARS-CoV-2感染者の年代別割合の推移(NHK 7News 2021.02.02).

ちなみに、今年の1月以降に急激に若年層の割合が下がり、高齢層の割合が上がっているのは無症状の濃厚接触者の追跡をあきらめ、医療施設、介護施設等を重点的に検査にするという検査方針の変更が影響しているものと思われます。したがって検査数が減るとともに、施設の従事者を中心とする陰性確認が増えているため、陽性率も下がっていると考えられます。

2. 第2波流行における弱毒変異ウイルスの優占-慶応大学の研究

ところが上記の感染研の9月見解とは異なる事実が出てきました。先のブログ記事でも紹介しましたが、慶應義塾大学の研究チームは臨床データ、ウィルスゲノムデータ、生化学実験データを統合して、第2波は「重症化しにくいウイルス」によるものという結論を導き出し、メドアーカイブに査読前論文として発表しました。11月に掲載された最初のプレプリント [2] と今年2月に掲載されたアップデート論文 [3] の見解を要約すると以下のようになります。

昨年の第2波で、初夏から秋にかけて国内でのSARS-CoV-2変異型B.1.1.284が急増しました。この系統(Japanese lineageは、メインプロテアーゼ酵素(3CLPro)に変異(Pro108S変異)があり、従来の株に比べるとその活性(基質結合能)が半減していました。B.1.1.284系統ウイルスに罹患した患者は重症化する割合が、従来株に感染した患者に比べて1/4程度であり、軽症となる可能性が高かったとされました。

慶応義塾大学医学部臨床遺伝学センターのウェブページから拾ってきた当該ウイルス変異株の系統樹図3です。系統樹上、薄茶色・橙の丸印で示されるのがB.1.1.284系統であり、横軸の時系列で見ると昨年の5月当たりから急拡大していることがわかります。そして、この変異型は第2波では増えたが、第3波では消退傾向にあるとしています。そして代わりにB.1.1.214系統(これも日本発の変異ウイルス)が主要になってきていることが示されています。

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図3. 日本変異型SARS-CoV-2の分子系統樹と時系列における検出(文献[4]より転載).

このB.1.1.284やB.1.1.214系統の変異ウイルスは、いま注目されているいわゆる英国変異株(B.1.1.7系統)とは異なり、スパイクタンパク質部分の非同義置換による変異がほとんどありません(図6の青色の部分)。すなわち、感染力の増強にかかわる変異は起こしていません。そして、弱毒化したB.1.1.284からまた元のB.1.1.214に戻っているのが第3波です。

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図4. 武漢起源のSARS-CoV-2に対する三つの系統ウイルス(B.1.1.284、B.1.1.214、B.1.1.7)の変異部分の比較(文献[4]より転載).

3. 国立感染研究所の分子系統解析

今年の1月終わりには、国立感染研自身がウイルスの変異型の系統解析のデータを公表しました [6]。それによれば、第2波においてはB.1.1.284系統ウイルスが優占的に検出され、第3波になるとそれがB.1.1.214系統にとって替わられたことが示されています(図5)。上記の慶応大学の研究結果とほぼ同様です。このデータは、感染研が9月に出していた第2波の見解を、自ら否定する結果になっています。

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図5. 中国武漢を発端とするウイルス流入からの時系列における異なるウイルス系統の分布 (文献 [6]より転載).

ちなみに、図6上に"Pangolin"とあるのは、マレーシアセンザンコウから分離されたベータコロナウイルスSARS-CoV-2が系統的に近い [7] のでこのようによばれています。

それにしても慶応大学と感染研はそれぞれ独自に解析を行なっていて、それで同じ結果になったというのでしょうか。そうだとすれば、ずいぶんと人、物、お金、時間の無駄を生じたということにならないでしょうか。お互い協力して解析を行なっていれば、もっと迅速かつ効率的にデータが得られ、対策にも生かされたと思いますが。

3. 変異ウイルスの動向

現在日本では、日本型ウイルスB.1.1.214を中心とする流行になっていると思われますが、広がりが懸念されているいわゆる英国変異型や南アフリカ変異型についても国内ですでに105人が感染を確認されています(図6)。田村厚生労働大臣は、2月9日、これらの変異ウイルスについて面的な広がりになっておらず、クラスターとしてリンクを追えていると述べました。

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図6. 国内における英国型および南アフリカ型変異ウイルスの検出.

気になるのは、慶応大学も国立感染研もゲノム解析を行なっているウイルス株は、患者から分離されたものに限定されています。はるかに多く存在すると思われる無症状感染者のウイルスは、技術的なこともあってまったく解析されていません。

現に国立感染研のゲノム解析の割合は全感染者数の4%と言われています。つまり96%は見過ごされているわけです。このような状況で、本当に変異ウイルスを含めた流行のパターンを追うことができるのか、いささか心配になります。

おわりに

ウイルスのゲノム分子疫学の成果によって、日本で発生した第1波、第2波、そして第3波の感染流行は、異なる変異型によってもたらされたことがわかりました。とくに第2波流行は、いわば弱毒化したB.1.1.284系統ウイルスによって起こったことが示され、その結果として重症化や致死率が下がったと推察されます。 

第2波では、検査数の拡大によって若年層も含めた感染者が早く見つかるようになり、医療の対応も早くなって重症化を防ぎ、致死率も下がったという見解が多くの医療専門家から出されていました。しかし、この見解は見当違いだったことがゲノム分子解析で示されたことになります。

この見当違いの解釈によってその後油断を招き、第3波での感染拡大を許し、多くの死者を出していることは否めないように思います。科学的証拠に基づかず、想像でものを言うことがいかに危険であるかを物語る教訓として、政府や専門家は心に留めておくべきでしょう。そして迅速かつ網羅的なウイルスのゲノム解析が、感染対策にとってもきわめて重要であることを私たちはあらためて知らされました。

引用文献・記事

[1] 読売新聞: コロナ第2波、重症化しにくい「変異」ウイルスの可能性…現在の第3波とは別タイプ. 2021.02.09. https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210209-OYT1T50116/

[2] Abe, K.: Severity of COVID-19 is inversely correlated with increased number counts of non-synonymous mutations in Tokyo. medRxiv posted Nov. 24, 2020. 

[3] Abe, K. et al.: Pro108Ser mutant of SARS-CoV-2 3CLpro reduces the enzymatic activity and ameliorates COVID-19 severity in Japan. medRxiv posted Feb. 2, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.24.20235952v2

[4] 慶応義塾大学医学部臨床遺伝学センター: 新型コロナウイルスゲノム解析. https://cmg.med.keio.ac.jp/covid19/

[5] 国立感染症研究所: 新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況等(2020年9月9日現在). 2020.09.18. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/9856-covid19-ab8th.html

[6] 国立感染症研究所: 新型コロナウイルスSARS-CoV-2ゲノム情報による分子疫学調査(2021年1月14日現在). 2021.01.29. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10152-493p01.html

[7] Tsan-Yuk Lam, T. et al.: Identifying SARS-CoV-2-related coronaviruses in Malayan pangolins. Nature 583, 282-285 (2020). https://www.nature.com/articles/s41586-020-2169-0

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

いわゆる"ウレタンマスク警察"に思う

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染の予防(飛沫防止)対策として、マスク着用が効果があることはすでに科学的に認められており、本ブログでも紹介してきました(→新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効用あらためてマスクの効果についてコロナ禍で気になる若者の移動とマスク)。とはいえ、マスク着用によって完全に飛沫防止ができるものでもなく、ある程度低減できる程度のものです。もちろんマスクは正しく着用することが前提になります。

最近、スパコン富岳による解析でも明らかにされているように、マスクの素材によって飛沫防止効果に違いがあることも明らかになっています。これは先のブログ記事「あらためてマスクの効果について」でも紹介した通りです。

厚生労働省のホームページを見ると、新型コロナのQ&Aのコーナーにマスクの効果に関する記述があります [1]。そこに一般用のマスクの素材について、不織布マスク布マスクウレタンマスクの順に効果が低下することがはっきりと述べられています(図1)。

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図1. 厚労省ホームページにあるマスクの効果に関する記述(一部、脱字[イルス→ウイルス]が見られる)[1].

そしてマスクの効果として、聞き手だけが着用した場合、話し手だけが着用した場合、そして両方が着用した場合について、図を使っての解説があります(図2)。

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図2. 厚労省ホームページにあるマスクの効果に関する図解 [1].

しかしながら、厚労省は自身のホームページで記述しておきながら、マスクの素材についてどれを推奨するということについては明確に言及していません。首相も厚労大臣も同じです。先日もテレビのニュースでも紹介していましたが、厚労省の担当者が「不織布マスクを奨めることはしない」「大事なのは正しい着用だ」と言っていました。

私はこれを聴いて正直意味がよくわからず、以下のようにツイートしました。

このような日本政府のあやふやな態度に比べてドイツ政府ははっきりしています。先日、新型コロナウイルス感染拡大が続く状況に苦慮するドイツ政府は、高機能な製品のマスク着用を国民に求める新たな対応策を発表しました [2]。高機能マスクとは、医療従事者らが使用する「FFP2」や「N95」と呼ばれるタイプのものです。この対応策は、新たな変異型ウイルスの出現への危機感が要因ともなっています。

いかにも合理的判断をするメルケル首相のドイツだと思うわけですが、本当にウイルスの暴露を防ぎたいと考えれば、このくらいのことをやらなければいけないのでしょう。果たして感染拡大は抑制できるのか、注視したいと思います。

日本政府や各自治体はことあるごとに、国民へ向けて感染防止対策の徹底を要請しています。それであるなら、「外出時や公共の場では不織布マスクを正しく着用」というのが、要請の一つとしてあってもよさそうなのですが、そのような動きはありません。ひょっとして、布マスクである、いわゆるアベノマスクを国民へ配布したことに対する考慮があるのでしょうか。

いずれにしろ、民間レベルでは不織布マスクを着用していないと入店できないお店や、ウレタンや布マスクをしている場合には、不織布に替えさせるお店も出てきているようです。このようななか「ウレタンマスク警察」などというものが出てきて、ちょっとしたトラブルになっています [3, 4]。電車内などでウレタンマスクを着用している人に対して、過度に注意を促す行為です。

私は高齢者の部類に入るので、やむおえず電車に乗る場合は、座席が空いていても座らず、ドア付近に立って用心するようにしています。それでもウレタンマスクを着けた複数の人が傍に寄って来てぺちゃくちゃしゃべられると、気になって、黙ってその場を離れます。私も電車内でウレタンマスクが気になることは確かです。若い人はまず高齢者に配慮などしません。平気で近寄ってきます。

性能よりもファッション性や呼吸が楽だからということでウレタンマスクを着けているのなら、もはや言うことはありません。しかし、もし肌触りなどで不織布マスクが嫌であってウレタンを好むのなら、少し工夫をした着け方もできるのではないでしょうか。

私もウレタンマスクや布マスクをしていますが、単独では使用しません。図3にあるように、ウレタンの外側に不織布マスクを重ねて使うか、あるいは、袋付きウレタンマスクに不織布を挟んで使うようにしています(この場合三重)。このように二重にすることで、マスクの肌触りを改善しながら、マスク効果をより高めることができると思います。

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図3. ウレタンマスクと不織布マスクを重ねた着け方.

また不織布マスクを単独で使う場合は、内側にキッチンペーパーやティッシュペーパーを二つ折りにして入れるようにしています。

ウレタンマスク警察の登場には、政府がマスク着用について科学的にはっきりとした態度を示していないことにも一因があると思います。あれだけ感染対策として国民への要請を繰り返している政府です。この際、不織布マスクの着用や二重マスクにも言及してもいいのではないでしょうか。感染力の強い変異ウイルスへの対策としては、なおさら合理的だと思います。

引用文献・記事

[1] 厚生労働省: 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け). 2020.01.20. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

[2] CNN: 感染衰えず国民に高機能マスクの着用指示、N95など 独.  2021.01.21. https://www.cnn.co.jp/world/35165396.html

[3] SPA!: 今度は「ウレタンマスク警察」。間近で怒鳴り声をあげてくる恐怖. Yahooニュース 2021.01.21. https://news.yahoo.co.jp/articles/b9603583859aa3c6d3193293861fb7773cd000ee

[4] Sponichi Annex: 大竹まこと “ウレタンマスク警察”の出現に愕然「世の中荒れてるけど、これも分断の原因になるのか」 Yahooニュース 2021. 01.21 https://news.yahoo.co.jp/articles/20755bf417af12ced3fdcdd7cb14c5f670e31d5e

 引用した拙著ブログ記事

2020年12月5日 コロナ禍で気になる若者の移動とマスク

2020年11月27日 あらためてマスクの効果について

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効用

                                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

変異ウイルスの市中感染が起きている

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の新規陽性者は、年末年始にかけて爆発的に増加しました。東京都の新規陽性者数でみると、12月31日にそれまでの過去最多となる1337人を数え、年が明けての1月7日には初の2000人超えとなる2447人を記録しました。

1月8日に開催された新型コロナウイルス感染症対策分科会後の会見において、押谷仁教授(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野)は、今回の東京都の陽性者急増について「疫学的に見ると異常な増え方」、「10日以内に2000を超えるというのは、普通には考えにくい状況」と述べました。その要因について彼が示した見解を、ウェブ記事 [1] から拾ったものが以下です。

            

ひとつは、年末年始の休みの間に検査されたものが報告されるという影響があったと思われる。もう一つの理由として、これまでも分科会等で若い人がなかなか検査を受けてくれないということを言ってきたが、年末年始にかけて起きたことを振り返ってみると、12月27日に政治家の方が亡くなった。同時に、自宅療養や自宅で亡くなっている人たちが増えたという報道が広くなされた。そうしたことで、今まで受けてくれなかった事前確率の高い人たちが検査を受けて、こういうことが起きている可能性もある。そこはきちんと精査しなければならず、今後の感染者の動向を見極めていく必要がある。

            

このように、感染者急増の要因として、検査数の増加や(感染に心当たりのある)若年層をも含めた被検者数の増加とみなすコメントです。しかし同時に検査陽性率も上昇しているので、単に検査数の増加で陽性者数が増加したというよりは、やはり市中感染が急激に拡大しているとみなした方が妥当のように思われます。いずれにしろ、数字が示すようにそれだけ感染者が増えているという事実は変わりません。

市中感染が急拡大した要因はわかりませんが、一つとして感染力が強い変異ウイルス流入、拡大したことが想像されます。B.1.1.7系統の英国変異株(VOC 202012/01)は、従来の新型コロナウイルスよりも1.7倍の感染力があることが報告されており、英国における現在の感染拡大の原因になっています。とはいえ、これに相当する変異株の市中感染の拡大については、国立感染研究所は今のところ認める見解は出していません。また、上記の押谷教授も、変異ウイルスについては一切触れていませんでした。

現在までに、スパイクタンパク質の構造を含めた表現型を変えるような変異株は、3系統が見つかっています。1月12日、国立感染症研究所は、ブラジル由来の変異株を含めた3つのSARS-CoV-2変異株についてスパイクタンパク質における変異部位について報告しました [2]。これら3変異株においては、図1に示すように、スパイク部分の上流2,000塩基ほどに集中して非同義置換や欠失が起こっています。

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図1. 国立感染症研究所が公開したスパイクタンパク質に変異が見られる3つのSARS-CoV-2株(英国、南アフリカ、ブラジル由来)[2].

そして、今日(1月18日)、静岡県において、海外渡航歴がない3人に英国変異株に相当するウイルスが見つかったと国立感染研は発表しました(図2)。これは変異ウイルスの市中感染が起こっていることを推測させるものです。

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図2. 静岡県内で英国変異株が検出されたことを伝えるNHKニュース.

変異株が見つかった一人(20代女性)は、1月3日に発症したとされています(図2左)。ということは、昨年12月にすでにこのウイルスに感染していたということになります。私は12月26日のブログ記事「流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握」で、今の対策として変異ウイルスの把握が重要だと述べましたが、まさにこの頃には市中感染が起こっていた可能性を示すものです。

もとより感染研のゲノム解析は、検疫での陽性者は全員を対象として行なわれていますが、国内感染者については全体から抽出した範囲のものであって、4%にしかなりません。変異株の見逃しがあったとしてもおかしくはありません。

上記の20代女性に伝播させたと思われる感染者は、静岡県外で陽性確認されています。しかしウイルス量が少なくて、ゲノム解析までには至らなかったとされています。つまり、PCRのプライマーを変異株検出用に設計変更することで、変異株検出には対応できているものの、その確定にはゲノム解析が必要というアプローチで進められているため、ウイルス量に依存するようです。

ことは迅速性を要することなので、私は、ゲノム解析を待たなくとも、簡単なPCRダイレクトシークエンシングPCRクローニングアンプリコン解析で、変異株の市中感染状況を知ることができるのはないかと考えています。

そして網羅的にかつ効果的に変異株を把握するためには、下水監視(→下水のウイルス監視システムが有効ではないかと思います。上記のように2000塩基の範囲で網羅的に塩基配列を解読すればよいということになりますので、たとえば定期的に下水試料から標準PCRで標的部位を増幅し、クローン解析をすることも可能です。より短い領域なら、次世代シークエンサーで直接アンプリコン解析を行なうこともできるでしょう。

この下水監視は変異株の型と割合を知るためのものなので、リアルタイムPCRによる定量操作である必要はなく、より簡単なPCR操作で行なうことができると思います。感染者からの抽出操作によるバイアスも避けることができます。このようなアイデアはないのでしょうか。

引用文献・記事

[1] Yahooニュース: 東京都の年末からの感染者急増は「疫学的に見ると異常な増え方」 東北大学・押谷教授. ABEMA TIMES. 2021.01.08. https://news.yahoo.co.jp/articles/00663ff629bd4af1d407b81bf513690a8becfb13

[2] National Institute of Infectious Diseases, JAPAN: Brief report: New Variant Strain of SARS-CoV-2 Identified in Travelers from Brazil. 2021.01.12. https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/covid19-33-en-210112.pdf

引用した拙著ブログ記事

2020年12月26日 流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握

2020年5月29日 下水のウイルス監視システム

              

カテゴリー: 感染症とCOVID-19

 

流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握

はじめにー現在の流行状況

今日(12月26日)、東京都におけるSARS-CoV-2の新規陽性者数は949人となり、過去最多を更新しました。周辺の神奈川県、埼玉県、千葉県でもこの数日で最多を更新し、かつ一頃より急激な増加を示しています(図1)。

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図1. 首都圏4都県の新規陽性者数の推移.

マスコミはほとんど報道しませんが、この今の日本の流行状況はWHOが分類しているWestern Pacific Regionの国・地域の中で最悪です。図2に11月1日からの新規陽性者の数の推移を、図3に同じく死者数の推移を示します。

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図2. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規陽性者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

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図3. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規死者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

後述するように、これから爆発的に感染者数が増える可能性があります。おそらく対策のキーポイントは、変異ウイルスの拡大の可否の分析と市中無症状感染者の把握です。

・英国変異ウイルスと入国者

この急激な感染者増加で気になるのが、英国発のSARS-CoV-2変異株が流入し、すでに拡大しているのではないかと言う懸念です。この変異ウイルスについては、詳しいウェブ記事があります [1]。また、国立感染症研究所は英国の変異株について以下のように述べています [2]

               

この系統に属する新規変異株(VUI-202012/01)は、武漢株と29塩基異なり、スパイクタンパクの変異(deletion 69-70、deletion 144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H)とその他の部位の変異で定義される。Nextstrain clade 20B、GISAID clade GR、B.1.1.7系統に属している。

               

ウイルスは時間軸に対して一定の確率で変異しています。正確に言えば宿主の体内で複製をする度に一定の確率でコピーミスが起こり、これが変異として受け継がれて行くのです。SARS-CoV-2について言えば、1年間で約26箇所に変異が起こるとされています。ので、時間が経つにつれて元の塩基配列をもつウイルスは次第に消失し、地域ごとに受け継がれた系統の中で変異の広がりとして残っていきます。

変異はウイルスの都合には関係なく、中立的にランダムに起こります。B.1.1.7系統のウイルスは、英国ではVOCと呼ばれていますが、VOCの場合は、たまたまスパイクタンパク質をコードする遺伝子の部分で変異が起こり、受容体ACE2との結合力に影響を及ぼし、感染力が強くなったと言われています。

先月から今月まで英国から入国し検査を受けた人は3,523人に上ります(図4)。 これは定量抗原検査によるチェックなので(なぜPCRにしないのか理解できませんが)、PCRよりも感度がやや低く、感染者をより見逃しやすいと考えられます。また、すでにVOCが見つかっているオーストラリアなどからの入国は自主待機が免除なので、感染者が検査で陰性となり、感染力を保持したまま市中に至ることも想定されます。

日本にVOCが入り込んでいるとしても全然不思議ではないのです。

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図3. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規死者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

12月23日に放送されたテレビ朝日の「モーニングショー」によれば、国立感染研の脇田隆字所長は、これまで全国の感染者の約1割に当たる14,077検体と空港検疫の384検体のウイルスを解析し、すべてでVOCに相当する変異ウイルスは見当たらなかったと言っているようです。

しかし、この分析は有症状者と濃厚接触者に限ったものであって、感染の主体的役割を果たしている大部分の無症状感染者の分析は行なわれていないと思われ、上記の残りの9割にたまたま変異株が存在した可能性もあります。また、ウイルス日々変異しているものであり、感染力に影響するような変異が国内で起こっているとしても不思議ではありません。

・国内でのウイルスの変異

変異ウイルスに関してより高い可能性として考えられるのが、国内におけるウイルスの変異です。慶応大学の研究チームは、査読前の論文の段階ですが、第2波の流行拡大は弱毒化した重症化しにくいウイルスによるものだという説を発表しました [3]。これは第2波において、メインプロテアーゼ酵素(3CLPro)に変異(Pro108S変異)のあるSARS-CoV-2の系統B.1.1.284が国内で急速に増えたため、その酵素活性の低下から重症化する患者の割合が低くなったとするものです。

一方、国立感染症研究所の鈴木基センター長は、「検査対象の拡大により無症状や軽症例が多く見つかるようになったため致命率が下がった」という見解を示し、ウイルスの弱毒化説については否定しています [4]。そして、第2波の数値が病気の実態をより表している可能性があると述べています。

確かにその一面はあるものの、全面的に検査拡大の影響とする見方はいささかナイーヴ過ぎるような気がしますし、対策を見誤る危険性もあります。具体的に致死率でみると、第1波は5月末時点で5.8%、第2波は8月19日時点で0.9%、70歳以上で見れば第1波で24.5%、第2波で8.7%と大幅に下がっています [4]

この大幅な下がり方は検査拡大以外の要因もあるとするのが自然ではないでしょうか。逆に検査拡大の要因だけだとすると、第1波の検査方針は完全な失敗だったということを認めることになります(事実そうですが)。

検査拡大以外の要因としては、慶応大学の発表に見られるように、夏には弱毒化した変異ウイルスが流行をもたらしたけれども、今また毒性が強いウイルスに替わっているということも考えられます。そして、冬の訪れとともにウイルスの感染力が増し、感染拡大が急激に起こり、毒性の高いウイルスに戻ったことで重症化も死亡も増えているとも考えられるのです。

いずれにせよ、ウイルスの変異は流行拡大に大きな影響を与える可能性があるので、より網羅的なウイルスの解析が行なわれる必要があると考えられます。リアルタイムでの迅速なウイルスのゲノム解析が鍵です。たかだか3万塩基しかないウイルスゲノムですから、それは可能なはずです。

・従来の衛生学的対策で大丈夫か

もし今回の感染者急増が感染力の変異ウイルスによるものだとしたら(あるいは気温低下による感染力増強の場合でも)、従来の衛生学的対策も見直す必要があります。菅首相が言ったような単なるマスク着用、手洗い、3密回避(→菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発)ではなく、効果的なマスクへの切り替え(ウレタン、布などの1層から3層不織布マスクへの切り替え)や対人距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保をより徹底する必要があるでしょう。

街を歩いていても、今これらの対策には人々は無頓着に見えます。効果が薄い1層ウレタンマスクは若い人を中心に流行ですし、対人距離を意識してとっている人もほとんど見かけません。電車内で距離をとって座っていると、平気で肩を寄せて座ってきます。

マスク着用などの衛生学的導入が必ずしも感染予防に繋がらない例として、NEJM誌の海兵隊新兵無症状者1848人の隔離実験の報告 [5] があります。これは先日のモーニングショーでも紹介されていたので、すぐにツイートしました。

この実験では、海兵隊の新兵1848人を自宅に2週間隔離し、発熱等の症状がないことを確認した後、閉鎖された大学のキャンパス内に移動・隔離し、マスク着用や検温などの衛生・健康管理を施して、感染者が出るかどうかについて追跡されました(図5)。

その結果、隔離2日以内で16人、7日目で24人、14日目で11人の合計51人がPCR検査で陽性となりました。このうち46人は無症状で、残りの5人はほぼ無症状でした。

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図2. 米国海兵隊新兵の隔離実験とPCR検査結果(2020.12.24 TV朝日「モーニングショー」より).

この間、食事と就寝以外はマスク着用と対人距離の確保をしたということなので、たとえ衛生学的対策を導入したとしても、共同で生活することや複数人を特定の場所に囲うことは感染伝播の危険性があるということが証明されたことになります。

つまり、マスク着用等の衛生学的対策を導入したとしても条件によっては感染リスクが高くなり、変異ウイルスに対してはさらにそのリスクが高くなると言えましょう。そして、感染の媒介者が無症状者が主体であることは、市中での感染リスクを今まで以上に警戒する必要があるのではないかと考えられます。

・無症状感染者を拾う自主検査

日本ではいまや市中感染が蔓延し、これまでのクラスター対策と濃厚接触者の追跡システムはまったく機能しません。ここまできたら、諸外国で見られるような街角の民間検査所(無料がベストですが)を徹底的に増やし、市民が自主的に検査が受けることで市中感染者を拾うような検査・隔離にシステムが必須と考えられます。

民間の格安検査場はいま広がりつつありますが、問題は陽性者が出た場合に、行政がきちんとこれをフォローアップせず、隔離(自宅隔離)まで結びつかないことです、この面で厚生労働省は民間と協力して行政検査をバックアップするシステム構築に舵を切ってほしいのですが、必ずしも積極的ではありません。いまだに民間検査を蔑視し、突き放したような態度が見られます。

おわりに

菅首相は、いまだに緊急事態宣言については発出する段階ではないと言っています。しかし、今の指数関数的増加をシミュレーションすれば、全国の1日の陽性者数はすぐに5千人を超え、来月には1万人に達するかもしれないことは誰でも計算できます。そして医療崩壊が顕著になります。これはとんでもない危機的状況であり、自宅待機中に死亡する事例も増えてくるでしょう。簡単に予測、想像できることなのですが、なぜ菅首相や政府分科会はそこに考えが及ばないのでしょうか。

勝負の3週間からの緊急事態宣言発出の遅れによって、これから先、死ななくてはよい人たちが多数犠牲になることが懸念されます。現にいま死亡者数は増加の一途をたどっています。

もとより菅政権の危機管理能力の欠如と無策ぶりは目を覆うばかりですが(→菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発)、それにしても能がなさすぎます。もはや現政権に感染症対策を任せる方が愚かなのでしょうね。国民も政権担当能力のなさにそろそろ気づくべきです。

そして、変異ウイルスがすでに国内に侵入している、あるいは表現型に変化を与えるような変異を国内で繰り返していると想定して、対策を考えるべきです。。海外渡航歴のない人から海外からの変異ウイルスが検出されることも、時間の問題だと思われます。

引用文献・記事

[1] 三ツ村崇志: イギリスで猛威の新型コロナ変異種。国立感染症研究所の見解は? BUSINESS INSIDER 2020.12.23. https://www.businessinsider.jp/post-226752

[2] 国立感染症研究所: 英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について (第1報)2020.12.22. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10074-covid19-27.html

[3] Abe, K.: Pro108Ser mutant of SARS-CoV-2 3CLpro reduces the enzymatic activity and ameliorates COVID-19 severity in Japan. Posted Nov. 24, 2020. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.24.20235952v2

[4] 日テレニュース: 第2波コロナ致死率「0.9%」大きく減る.2020.09.24. https://www.news24.jp/articles/2020/09/04/07714117.html

[5] Letizia, A. G. et al.: SARS-CoV-2 transmission among marine recruits during quarantine. N. Eng. J. Med. 383, 2407-2416 (2020).  https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2029717

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発

はじめに

日本では本格的な冬を迎え、新型コロナウイルス感染者が急増しています。お隣の韓国でも新規陽性者が増えていますが、日本の感染者増加は、東アジア・西太平洋先進諸国の中でも突出しており、最悪です(図1)。

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図1. 日本と東アジア・西太平洋先進諸国における新規陽性者数の推移(Our World in Dataより).

専門家の多くは5月の段階でこの冬における大流行を予測し、私もこのブログ(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)で再三再四警鐘をならしてきましたが、残念ながら予測が的中してしまいました。脱力感この上ないです。

今朝のテレビ朝日「モーニングショー」では、新型コロナウイルス感染症流行に関して菅政権の危機管理能力をテーマとして伝えていました。ここではその内容を取りあげながら、政権の姿勢がこの先のさらなる感染爆発をもたらす危険性について論じたいと思います。

1. リーダーシップに求められること

国や政策担当者のトップにリーダーシップとして求められることは、合理性に裏付けされた決断力、説得力(発信力)、そして責任力です。この面で、海外のいくつかの先進諸国・地域ででは為政者がリーダーシップを果たし、感染拡大抑制に成功しています。例としてあげれば台湾やニュージーランドです。アーダーン首相の国民へメッセージには、常に説得力があります。

感染増大に至った場合では、その抑制に向けてさらに国のトップの発信力がものを言います。印象的だったのはドイツのメルケル首相です。物理学専攻の博士でもあり、普段は合理的判断で冷静なメルケル首相が、身振り手振りで感染拡大抑制へ向けて国民に熱く訴えていた姿がテレビでも報道されました(図2)。

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図2. 危機を訴えるメルケル首相の姿とメッセージ(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

一方で日本の菅首相はどうでしょうか。パンデミックは世界共通の危機なので、各国のリーダーの対応と比べることが容易ですが、彼の姿勢はきわめてお粗末です。

9月の就任以来、首相の記者会見は9月16日と12月4日の2回だけです(図3左)。海外のトップが常に国民に直接発信しているのと比べると、いかにも少ない印象です。しかもこれだけ感染が増大しているのに(図1)、相変わらず、マスク着用、手洗い、三密回避のお願いだけという物足りなさです。この会見の一週間前には、政府分科会の尾見茂会長が「個人の努力だけで感染拡大の状況を沈静化させることはむずかしい」と述べています(図3右)。

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図2. 菅首相の記者会見のメッセージと分科会尾見会長の発言(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

また、感染症対策に提言する責任者である尾見会長自身の発言にも、一貫性がみられません。感染拡大の要素として人の動きを挙げておきながら、GoToトラベルがその主要な要因であるとのエビデンスはないと言っています(図3左)。米国立感染症研究所のファウチ所長が一貫して自らの立場に沿った意見を述べているのとは対照的です(図3右)。

この尾見会長の「エビデンスはない」の受け売りで、菅首相はネット番組でも「いつの間にかGoToが悪いということになってきたが、移動では感染はしない」と述べていました。ここにも危機感や緊張感が感じられません。

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図3. 分科会尾見会長と米国立感染症研究所のファウチ所長の発言の比較(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

尾見会長の発言には、分科会の位置づけが曖昧であり、権限も不明確なことが影響していることは明らかです。つまり、政府の「経済優先」という意向を横目で見ながら、それに配慮しながら提言するという状態が続いているのでしょう。

そもそも、感染症対策の対策担当が西村経済再生担当大臣というのが、最初から間違っているように思います。感染対策と経済活動の両立と言いながら、実のところ、希望的予測の下に経済活動を優先して続けるという楽観的・非合理的姿勢ですから、両立などできるはずがありません。

この期に及んで、尾見会長の発言とともに、西村大臣の「多くの地域はステージ2のレベル」、「GoToトラベルの再開は年明けのしかるべきタイミングで判断」という発言は、何と的外れな発言でしょう(図4)。これからさらに感染大爆発に至るということに想像が行かないのでしょうか。

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図3. 分科会尾見会長と西村大臣の「GoToトラベル再開」に関するの発言(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

GoTo再開などに言及している場合ではないのです。緊急事態宣言とともに強力な対策をすでに打ち出しているべき段階なのです。もっと言えば、前のブログ記事「為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く」で指摘したように、1ヶ月前に緊急宣言とともに強い対策をとっているべきだったのです。

2. 政府に必要な危機管理体制

当該モーニングショーには、元内閣官房参与の田坂広志氏が出演していて、危機管理に関するさまざまな意見と提言を述べていました。彼の意見を拾いながら、ここであらためて述べてみたいと思います。

まず第一に挙げられるのは、リスク・コミュニーケーションの重要性です。仮に政府がどれほど有効な対策を打ち出していたとしても、そのことが迅速に、かつ分かりやすく説得力を持って伝えられない限り、国民は安心を感じられないということが挙げられます。日本政府のリスク・コミュニーケーションのなさは、以前から世界保健機構WHOにも指摘されているとおり、致命的欠陥であると言えます(→新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本)。

田坂氏は、コミュニケーションの8割は非言語的なメッセージが機能すると指摘していました。それは直接的な言葉の内容ではなく、表情、声色、行動から伝わる印象の方がより訴える力を持つということです。この点においてはメルケル首相などに比べて菅首相は印象が薄いと言えましょう。そして、それが国民に対して、自由に移動・会食をしてもいいのでいいのではないか、という非言語のメッセージとして伝わっている可能性を指摘していました。

第二に重要なことは、事態の想定と強力な初期対策です。原発事故やコロナ危機など致命的状況をうみかねない有事においては、常に最悪の事態を想定して初期から強力な対策を準備・実行する必要があります。そして、たとえ対策が空振りに終わったとしても周囲や国民はそれを後から批判しないことが重要です。

しかし政府は、経済優先に前のめりになり、常にこの程度の事態で推移するだろうという希望的観測や願望的予測によって、中途半端な対策を小出しにすることを繰り返してきました。冬に本格的に流行することは、第1波の頃から多くの専門家が予測していたにもかかわらず、政府の想像力の欠如が、強力な対策を推し進めることを拒んできたわけです。

第三として田坂氏は、「経済」と「安全」の分離・独立の原則を指摘していました。資本主義社会では、極端に言えば儲からなければ飢えた人々にさえ食料は回らず、たとえ人を殺す道具であっても儲かれば武器がどんどん売られます。つまり、生物学的価値を貨幣価値に置き替えてしまった現代社会では、常に安全性よりも経済が優先されます。

この両方の考え方がいっしょになった現在の政府分科会では、当然ながら、いくら安全性に立脚したとしても、両立を図ると言ったとしても、経済が優先するということになります。田坂氏は、安全を考える分科会と経済を考える分科会を分けて進める必要があったと強調していました。

おわりに

田坂氏も述べていましたが、「エビデンスは存在しない」というのは詭弁であって、それに基づいて都合良く解釈するという正常性バイアスが、政権や人々の行動を緩ませてしまいます。「危機を煽る」、「コロナは恐れることはない」という言い方も同様であり、有事に対しては万全に備えるという姿勢が必要であるのに、まさしくコロナ禍という有事に直面しても不作為の状態に陥り、被害を拡大させているのが菅政権と言えるでしょう。

列強国に侵略されると言いながらも、常に楽観的に非合理的に物事を進め、日本を壊滅的状態にしてしまった旧日本軍部と同じ思考回路とも言えます。

このままでは、感染大爆発に至り、現在1日3千人の新規陽性者が5千人、さらに1万人を超えるとしてもまったく不思議ではありません。死亡者もこの冬累計であっさり中国を追い抜いてしまうでしょう。もう時すでに遅しなのですが、今すぐに緊急事態宣言を発出し、強力な対策を打ち出さなければ、年明けには日本は延焼がますます拡大し、やがて焼け野原になってしまいます。その時になって気づいてももう遅いです。

引用した拙著ブログ記事

2020年11月19日 為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く

2020年8月30日 新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本

             

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

コロナ禍で気になる若者の移動とマスク

一昨日(12月3日)、新型コロナウイルス感染症対策対策アドバザリーボードの会合が開かれました。その時の資料を見ていて気になったというか、やはりというか、若者の移動が主体的に二次感染を引き起こしているという事実についてです。今朝の日本テレビ「ウェークアップ」でもこの事実を紹介していました。

図1はアドバイザリーボードの資料から転載したもので、国内移動症例における年代別の二次感染の割合を示しています。これは、移動歴を一定程度以上公表している自治体のデータに基づいた解析結果で、対象は1月13~8月31日の期間の全症例67,690例中、25,276例となっています。ここで目立つことは、移動によって感染した人たちの中では10–50代の割合が高いこと(85%)、そして、二次感染の大半(約90%)も10–50代の若年層によってもたらされているということです。とくに20代の若者の占める割合が高いことが顕著です。

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図1. 国内移動症例における年代別の二次感染の割合(厚労省HPからの転載図).

つまり感染して移動している症例数も移動によって感染する例も、圧倒的に若者が多いということを示しています。これは今実施中の、政府の観光支援事業「GoToトラベル」でも言えることではないでしょうか。そして、検査には現れない、若者を中心とする相当数の無症候性感染者の移動があり、それが感染拡大につながっていることが想像されます。

菅首相は、観光庁の報告に基づいてGoToを利用した人のうち感染した人は200名程度であるとして、GoToが感染拡大に寄与したとするエビデンスはないと述べました。しかし、実際に重要なのは、二次感染させる人の移動であり、図1のデータを考慮すればGoToトラベルが感染拡大に影響したと推察する方がより妥当でしょう。

お昼の日本テレビの「中居正広のニュースな会」を観ていたら、またまた気になることが紹介されていました。それはマスクです。いま売れ筋No.1として紹介されていたのが「さらマスク」です(図2)。ファッション性や素材に関係するフィット感もあって、とくに若者に人気があります。このマスクはポリエチンレン95%とポリウレタン5%の混合からなる、いわゆるウレタンマスクです [1]

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図2. テレビで紹介されていた「さらマスク」.

ウレタンマスクは着けてみたらわかりますが、ピッタリと顔に密着する割には(いわゆる3Dタイプ)、楽に呼吸ができます。しかし呼吸が楽ということは、マスクがスカスカであるということになります。ウレタンマスクは1層しかありません。

先のブログ↓でも紹介しましたが、ウレタンマスクは飛沫防止と感染予防の両面で、標準ある不織布マスクにかなり劣ります。飛沫防止という面では、不織布マスクが推奨されるべきでしょう。その意味で、テレビがウレタンマスクを宣伝するような放送をしていいものか?とちょっと疑問に思いました。

rplroseus.hatenablog.com

とくに若年層の間は、ファッション性を気にしてウレタンマスクを着けている人が多いですが、感染させないという面からは、極論すると気休め程度にしかなっていないとも言えます。ウレタンマスクを着けて県をまたぐ移動をするということは、それだけ感染拡大に寄与しているのでは?と懸念します。

東京都は、12月2日、GoToトラベルの都内発着分をめぐり、65歳以上の高齢者と基礎疾患がある人への利用自粛要請を正式決定しました。しかし、図1を見れば明らかなように、要請すべきは10-50代の若年層の移動を止めること、つまり、国がGoToそのものを止めることでしょう。高齢者はもともと自粛しています。

引用記事

[1] LIMO Life&Money: イオングループから12色の新作「3枚1500円さらマスク」登場。セラミド加工で保湿効果も. YAHOO JAPANニュース.2020.08.18.
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ec5861141927d712bb45ec0f8c30e5ad343dae4?page=1

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

経済と重症者数重視の影に隠れる死亡者の実態

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、第1波に比べて第2波以降は患者が早く見つかるようになり、医療的な対処法も改善されて重症化をより防ぐことができるようになったと言われています。そして、軽症のうちに対応できることによって、致死率も低くなったと言われています [1]

確かにその面はありますが、私は少し違和感を持ちながら、これらの報道を見てきました。なぜなら、後述する厚生労働省の死者数の統計データを見ると、2月5日から1,000人の死者を出すまでの期間よりも、1,000人から2,000人の死者を出す期間の方が短くなっているからであり、相変わらず新型コロナで亡くなる人が続いていて、8月初旬以降死亡者ゼロの日はなかったからです。しかもこのところ急増しています。

この感染症の究極の被害は亡くなることですが、一方で、連日の報道で強調されるのは新規陽性者数とともに重症者数であり、死者数は割とさらっと流されることが多いように思います。私はこれらのモヤモヤしたものがあったので、11月25日には以下のようにツイートしました。

連日強調されている重症者の数の重要性は、それがICUの病床を占めるため、他の重篤な病気の治療との関連で医療を圧迫してしまうことにあります。そしてオーバーフローしてしまえば、医療崩壊に至ります。敢えて誤解を承知で言ってしまえば、コロナ患者が時間をかけずに次々と亡くなっていけば、病床を圧迫せず、医療崩壊も起きません。だからというわけでもないでしょうが、政府もメディアも、重症者数を圧倒的に取りあげる機会が多いようです。

政府が常々強調するのは経済の推進であり、感染症対策の指標としての重症者数と病床占有率の重要性です。しかし、この影に隠れて、究極の被害である亡くなる人々の実態についてはほとんどわかっていないように思います。少々勘ぐれば、政府はある程度の犠牲者が出ても、経済活動が推進されればそれでよいと考えているのでは?とさえ思ってしまいます。ここで新型コロナ死亡の意味と実態を再考してみたいと思います。

1. 経済を救うなら、まず人を救え

今朝(12月2日)のTV朝日モーニングショーで、コメンテータの玉川徹氏がINET(Institute of New Economy Thinking)の報告らしきものを引用しながら、感染症対策と経済活動は両立せず、感染抑制と経済の二兎を追うものは一兎も得ないとコメントしていました。そして、根絶を目指すか、死者を増やして経済をとるかの選択という主旨の発言をしていました。

INETは、11月20日、"To Save the Economy, Save People First"という題目の論文を発表しました [2]。この論文では、世界のCOVID-19対策において、ウイルスを封じ込めて経済活動を再開している国々と、ある程度の犠牲には目をつむりながら経済活動を優先してきた国々があるとし、結局、経済再開に成功と言えるのは前者の国々であることを指摘しています。そして、政府が優先して費用をかけるべきことは、感染拡大を抑えて命を救うことだと、結論づけています。

論文中で、素早くウイルスを封じ込め、経済活動再開に成功している国々として挙げられているのが、中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドアイスランドシンガポール、ヴェトナム、そしてタイです。

日本経済新聞は、経済コメンテータであるマーティン・ウルフ氏の記事を載せていますが、そこでもINETの論文が以下のような文章で引用されています [3]

                

各国の新型コロナ対策は2つに分かれたことを示している。ウイルスを抑制するか、あるいは経済のために一定の死者数を許すかだ。大まかに、前者の方が経済、死者のいずれにおいても被害が少なかった。一方、人命を犠牲にした国は大抵、多くの死者と大きな経済的被害を出している。

                

上記のINET論文も日経新聞の論説も、「第一に感染を抑制し、命を救うことが、経済を救うことである」というのが結論です。もはや経済の専門家でさえ、まずは感染拡大を防ぐことにお金をかけるべきであり、それが経済回復への道だと言っているわけです。

然るに日本では、感染症対策と経済活動の両立を名目に、実質は前者の方策など何もなく、GoToトラベル事業に代表される経済対策のみをやってきたと言っても過言ではありません。その結果が、感染拡大と減らない死者数です。最近では重症者とともに死者数も急増しています。昨日は重症者が493人、死者数が41人/日と過去最高になりました(後述図2)。

2. 重症数と死者数の推移

ここで重症者と死亡者の推移を見てみましょう。まずは、厚生労働省のボームページにある重症者数と死者数の最新データを見てみたいと思います。重症者数は493人、累積死亡者数は2,138人となっていますが(図1)、本ブログ執筆時点では、後者は2,193人です。

不思議なのは、厚労省が示すほとんどのパラメータについては、日ごとの数字の推移のデータがあるのですが、死者数については累計しかありません。恣意的に、死亡については目立たなくしているのでしょうか。

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図1. 日本における重症者数と死者数の推移(2020.12.01 0:00現在、厚生労働省HPより)

一方、今朝のモーニングショーでは、毎日の重症者と死者数の推移を並べて紹介していて、現況がよく理解できるようになっていました(図2)。昨日の時点で重症者数、死者数ともに過去最高になっており、現在の流行が、いわゆる第1波を超える被害を出していることがよくわかります。

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図2. 日本における重症者数と死者数の推移(2020.12.02. TV朝日「モーニングショー」より).

INETの論文 [1] では、上述したように、感染症対策が成功し、ウイルスを封じ込めている国として中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドアイスランドシンガポール、ヴェトナム、タイの国名を挙げています。そこで、これらの国々と日本の感染状況を比較してみました(表1)。そうすると、確かに日本の状況は悪く、陽性者数で1位、死者数で2位、百万人当たりの死者数で3位になっています。

ヨーロッパとファクターXの恩恵があると思われる東アジアの国々とは、死者数/百万人で10–100倍の差があるというのが一般認識ですが、日本のそれはヨーロッパと比較しても、数倍の開きに縮まっています(cf. アイスランド)。

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より最近の状況を理解するために、日ごとの新規陽性者数と新規死者数の推移を表したのが、それぞれ図3および図4です。図では上記9カ国に加えて、日本と地理的に近い韓国を加えてあります。図から分かるように、これらの国の中で日本が断トツに悪いことがよくわかります。

そして図1とも合わせてみれば、当たり前のことですが、日本では感染者が増えると重症者数と死者数も増えており、さらに重要なことは、これらが経済活動推進の中で起こっていることです。

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図3. 感染拡大抑制に成功した国々と日本におけるCOVID-19新規陽性者数の推移(7月15日−12月1日、出典: Our World in Data).

f:id:rplroseus:20201202215204j:plain図4. 感染拡大抑制に成功した国々と日本におけるCOVID-19死者数の推移(7月15日−12月1日、出典: Our World in Data).

多くの国々ではいわゆる第2波を多かれ少なかれ経験していますが、重要なのはその知見と経験を対策に生かして、感染拡大を抑え込んでいることであり、経済活動再開に至っていることです。

3. COVID-19重症者患者の治療と死亡率

上で重症者も増えれば死亡者も増えると言いましたが、一般人は、死亡者のほとんどは重症者の中から出てくると考えるでしょう。ところが、ツイッター上でも指摘されていますが、実際は事情がちょっと異なるようです。

日本COVID-19対策ECMOnet」では、ECMO治療と人工呼吸器治療の重症患者の成績の累計データを公表しています。それを見ると、ECMO治療で死亡に至ったのが86例(図5)、人工呼吸器治療で亡くなったのが274例(図6)あります。すなわち、重症患者が死亡した事例は360人しかなく、全死者数2,193人の17%にしかならないということになります。

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図5. ECMO治療の成績の累計(日本COVID-19対策ECMOnetより).

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図6. 人工呼吸治療の成績の累計(日本COVID-19対策ECMOnetより).

では、多くの死亡例は重症患者以外、すなわち中等症や軽症患者から出ているのか?という疑問が出てきます。これに関連することとして、11月27日のモーニングショーでは、大阪の死亡例と患者の症状との関係を取りあげていました(図7)。それによると、重症からの死亡が6人、軽・中等症からの死亡が45人となっており、前者は全死亡数の12%にしかならないことを伝えていました。

どうやら、単純に記録上の重症者から死亡者が出ていると考えるのは早計のようです。

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図7. 大阪府におけるCOVID-19患者の症状の重篤度と死亡との関係(10月10日−11月23日、2020.11.17 TV朝日「モーニングショー」より).

番組では、大阪府保険医療室感染対策課の説明として、軽症・中等症からの死亡例に2つのパターンがあることを紹介していました。一つは容態が急変して死亡する事例、もう一つは気管挿管を望まない事例です。大阪府の医師のコメントもありましたが、患者本人の意思だけではなく、寿命に近い高齢という場合は、家族が気管挿管を望まなかったりする例もあるようです。

気管挿管が必要なほどに症状が悪化しているのに、それをしないということになると、一体公表されている重症者の数というのは何なのかということになりますね。そして今、医療現場で、ギリギリの命の選択が行なわれている現実もあるということでしょう。

とはいえ、敢えて人工呼吸処置などの高度治療を望まない例があったとしても、重症者以外からの死亡が約80%というのは異常に高いように思います。そこで年齢別の死亡者の割合を見てみると、平均寿命に近い80代以上が6割弱になります(図8)。少々乱暴な仮定ですが、これらすべてが記録上中等症・軽症患者扱いであり、気管挿管を望まないで死亡したとしても、最大60%にしかならないのです。実際は重症者が多いので、高度治療を望まない例など、はるかに割合は低いでしょう。

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図8. COVID-19死亡者の年齢別の割合.

死亡の4割は70代から下の年齢ということになり、この部分については、とても寿命だから気管挿管をしないというものでもないように思えます。つまり、重症者以外からの死亡は、かなりの部分が軽症・中等症からの急変によって起こったものとも推察されますが、詳細については報告されていないようです。

おわりに

第1波を経験して、検査も治療も改善されて死者数が少なくなったと、一時テレビなどで報道されてきたましたが、最近の新規陽性者数と死者数の急増で、それもやや影を潜めるようになりました。とはいえ、日頃の重症者数と病床占有率の重要性の報道に押されて、死亡という被害の大きさと実態については相変わらず不透明なままです。そして公表される重症者の数というのも何だか怪しい限りです。

政府の経済優先の方針で感染拡大と死者数を増やしている状況は、INETの論文の主旨「経済を救うなら命を救え」から考えれば、まったく不合理な反対の道を進んでいる結果ということになるでしょう。コロナ死者と自殺者を対比させて、自殺者を無くすためには経済活動を優先すべきだという見方もありますが、まったくの筋違いです。コロナ死亡はもちろんのこと、自殺者も感染症対策の失敗による感染拡大に帰因するものです。

菅政権の方針は、感染症に対してある程度の犠牲はかまわないから、あるいは大したことにはなりそうにないと高をくくって、それともそもそも関心がないから、医療崩壊にならない程度までは経済活動を推進するというものでしょうか。自分の頭の中の政策だけを強引にやり通そうとする姿勢は、まるで共産主義国家の指導者のようです。

そもそもマスコミは、いま日本が東アジア・西太平洋諸国の中で最悪の状況にあることを報道しません。GoToトラベル事業に代表される経済推進とその対策の修正、重症者数の重要性のかけ声に押されて、「東アジアで突出する日本の被害の大きさと実態」が、余計わかりにくくなっているような気がします。

引用文献・記事

[1] 忽那賢志: 新型コロナ 海外でも第2波は第1波より致死率が低いのはなぜか? YAHOO JAPAN ニュース. 2020.09.12. https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200912-00197712/

[2] Alvelda, P. et al.: To Save the Economy, Save People First. INET Nov.18, 2020. https://www.ineteconomics.org/perspectives/blog/to-save-the-economy-save-people-first

[3] 日本経済新聞: 人命重視が経済も救う チーフ・エコノミクス・コメンテーター マーティン・ウルフ. 2020.12.02. https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66876460R01C20A2TCR000

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:社会・時事問題

 

あらためてマスクの効果について

2020.11.28: 08:07更新

はじめに

3月18日の本ブログ記事「新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効用」で、感染リスクを下げる効果としてのマスク着用の重要性を述べました。当時は第1波が立ち上がり始めた頃で、世界保健機構WHOがマスクの効果は薄いという見解を示したり、日本の医療専門家の中にもテレビで「新型コロナはインフルエンザ並みでおそれることはない」、「マスクの効果はない」という人がいて、疑問を感じたものです。

また、当時の厚生労働省も、政府専門家会議も、テレビも、対面時、会話時におけるマスクの着用の重要性についてはほとんど言及していませんでした。これらも「果たしてこれでいいのか?」と思ったものです。感染源となる飛沫を防止するという意味で、マスクの効果はいまでは常識になっていますが、当時でもそれまでの科学知見に基づけば、十分にマスクの効果を強調できたはずですが、そうではなかったということになります。

そのときのブログでも述べたのですが、当時は不織布マスク不足ということもあって、ウレタンマスクを着けている人が多かったことを記憶しています。しかし、ウレタンマスクは、感染予防効果として効果はより低いのではないかと疑問に思いました。いまは不織布マスク不足も解消されています。

先日久しぶりに東京都区内で電車に乗ったときにも、ウレタンマスクをしている人が、想像以上に多くて驚いたものです。それを以下のようにツイートしました。

今日のテレビの情報番組は、マスクの活用や効能について触れていましたが、ここでその一部を紹介しながら、あらためてマスクの効果について考えてみたいと思います。

1. ウレタンマスクについて

上述のように、とくに若い人を中心にウレタンマスクをしている人が多いですが、メリットは3Dマスクとも言われているように、伸び縮みすることでピタッとしたフィット感があり、ファッション性もあるということだと思います。顔との隙間が少なくなるので、花粉症対策としても人気のあるマスクです。

スーパーや薬局を訪れてチェックしてみましたが、ウレタンマスクや3Dマスクと言われて言うものは、実際はポリエステルとポリウレタンの混合製品が多いようです(図1)。

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図1. ウレタン3Dマスク製品(ポリエステル+ポリウレタン)の表示.

私はウレタンマスクを着けて外出したことはないですが、購入して着けてみるとやはりピッタリとした感じと、呼吸が楽というのを感じます。しかし、それだけスカスカしているということで、感染対策としてはやはり大丈夫か?という印象をもってしまいます。

今朝のテレビの情報番組(TBS「あさチャン」)で、3Dスキャン自分専用マスクについて紹介していましたが、ウレタン製の基本的に1層構造のマスクであり、果たしてこの感染拡大時期に宣伝してよいのか、という気もしました。

2. マスクの素材と構造

もう一つ、今朝のテレビの情報番組「モーニングショー」で、マスクの素材と構造による効能の違いについて紹介していました。ここでは、具体的に一般的な不織布マスク布マスク、およびウレタンマスクについて特徴や効果を比較していました(図2)。これらの中では、不織布マスクがもっとも性能が高いということになります。

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図2. 不織布、布、およびウレタンマスクの特徴(2020.11.27 TV朝日「モーニングショー」より).

性能と通気性という面から3つのマスクと医療用のN95マスクをみると、図3のようになります。基本的に通気性がよいものほど、性能は悪くなると思っていいようです。つまり、着けてみて呼吸が楽なものほど、効果は落ちるということで判断してもよさそうです。

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図3. 不織布、布、およびウレタンマスクの性能と通気性(2020.11.27 TV朝日「モーニングショー」より).

なお番組中で、松本哲哉主任教授(国際医療福祉大学)が出ていて、図3の中で、N95の位置が違うと指摘していました。すなわち、通気性が悪いので、図中もっと右側に置くべきだという指摘です。

放送では、スーパコンピューター「富岳」のシミュレーション結果も紹介していました(図4)。不織布、布、ウレタンマスクを着けた場合の飛沫・エアロゾルの拡散について比べたものですが、布、ウレタンではマスク前面からの漏れが見られる一方(図2青い点)、不織布ではほとんど漏れが防止できること(図2赤い点)が示されていました。一方で、着け方が悪いと、隙間から上部への拡散が見られること(図2黄色の点)も紹介されていました。

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図4. 不織布、布、およびウレタンマスクからの飛沫・エアロゾルの拡散の比較(赤色: マスク内に捕捉されるもの; 黄色, マスクと顔の隙間からの漏れ; 青色: マスクからの拡散、2020.11.27 TV朝日「モーニングショー」より).

富岳のシミュレーション結果は、これまでの定説どおりの結果ですが、不織布マスクではやはり上部のワイヤーを利用してピッタリと顔に着けないと、上部からの漏れが多くなるということがあらためてわかりました。

10月30日、豊橋技術科学大学は上記シミュレーションの結果を踏まえて、マスクの効果についてPress Releaseを行ないました [1]。飛沫の吐き出し、および吸い込みの両方において、一般用マスク・シールドとしては、不織布マスクが最も優れていることが示されています。ウレタンは不織布に比べて1/2–1/3に効果が落ちるということになるでしょうか。

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図5. さまざまなマスクおよびフェイスシールド、マウスシールドの効果の比較(文献[1]からの転載図).

4. マスクの選択の重要点

これまで、いくつかの論文でもマスクの構造と効果の関係が報告されていますが、物理的捕捉静電吸着という2つのメカニズムが働いて、マスクの効果を最大限に発揮できるということになります(図5[2]不織布マスクはこの構造と効果を満たすものとして、一般人向けには最も推奨されるものでしょう。 

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図5. エアロゾルを防ぐためのマスクの基本(物理的捕捉と静電吸着)[2].

市販のマスクのパッケージには図6に示すような説明図がついているものがあります。私たちは、このような説明書きを参考にして、選択することができます。不織布マスクの材質はポリプロピレンです。選択のキーワードは、「不織布」、「3層構造」、「ポリプロピレン」です。

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図6. 不織布マスク市販品に添付されているフィルター機能の説明図.

5. マスク着用はワクチン接種と同様な効果をもつ?

以上のように、適切な材質と構造のマスクを正しく着ければ、他の人に感染させるリスクを減らす効果があることは、すでに世界的に共有されていることです。一方、マスク着用の感染予防効果については、富岳による飛沫のシミュレーション結果はあるものの、よくわかっていません。とはいえ、すべての人が着用すれば、ウイルスの暴露量も明らかに減るでしょう。

米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の感染症専門家、モニカ・ガンジー(Monica Gandhi)博士は、マスクの効果について興味深い仮説を述べています。すなわち、マスク着用はある程度の免疫を付与し、ワクチンまで実用化までの"つなぎ役"を果たせるかもしれないという仮説です [3, 4]

この仮説は、体内に入るウイルス量が多いほど症状が重くなるという前提で立てられていますが、マスクの着用によって吸入するウイルス量が減り、その結果、不顕性感染率が上昇し、免疫獲得につながるというものです。不顕性感染は、白血球の一種のTリンパ球による免疫反応と関連しているので、これがCOVID-19に対しても有効な可能性があるという主張です。

ガンジー博士の言説はまだ仮説の段階であり、批判もあります。しかし、もし本当であれば、マスクの着用は、ワクチン接種と同じような効果があると言えるかもしれません。

おわりに

一般用に市販されているマスクは、その「穴」の大きさからみたらウイルスよりはるかに大きく、基本的にウイルスを全部カットできるものではありません。しかし、図5に示すようなメカニズムによって、かなりの割合で飛沫に含まれるウイルス粒子を捕捉できることが考えられます。異なるタイプのマスクのシミュレーション結果(図6)は、それを裏付けています。

つまり、マスクは着けた方が、飛沫阻止、暴露防止の両面で絶対的に良いということになります。マスクには、鼻やのどの保湿・保温効果もあります。そして性能から見れば、布やウレタンよりも不織布マスクが推奨されるということになるでしょう。

しかし、国も政府分科会も国民に向けて盛んにマスクの着用を要請している割には、そしてマスクの素材や構造からみた効果を違いを認識しながらも、不織布マスクの推奨についてはあまり強調していないように思います。アベノマスク(ガーゼ製布マスク)の効能を貶めるような説明は、国民に対してできなかったということでしょうか。

引用文献

[1] 飯田明由: コロナウイルス飛沫感染に関する研究. 国立大学豊橋技術科学大学 Press Release 2020.10.15. https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf

[2] Konda, A. et al.: Aerosol filtration efficiency of common fabrics used in respiratory cloth masks. ACS Nano Apr. 24, 2020: acsnano.0c03252.
Published online 2020 Apr 24. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7185834/

[3] Gandhi, M. et al.: Masks do more than protect others during COVID-19: reducing the inoculum of SARS-CoV-2 to protect the wearer. J. Gen. Int. Med. 35, 3063–3066 (2020). https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-020-06067-8

[4] Gandhi, M. and George W. Rutherford, G. W.: Facial masking for covid-19 — potential for “variolation” as we await a vaccine. N. Eng. J. Med. 2020; 383, e101 (2020). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2026913

引用した拙著ブログ記事

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効用

             

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:生活・健康と科学

 

無症状者から広がるウイルス感染とGoToトラベルへの示唆

2020.11.24: 20:08更新

はじめに

今朝(11月24日)のテレビ朝日「モーニングショー」を観ていたら、コメンテータの玉川徹氏が、無症状者(無症候性+発症前無症状)からの新型コロナウイルスの感染についてコメントしていました。無症状者が媒介するウイルス感染はすでに常識になっており、今回のパンデミックを招いた要因として大きな問題になっています。

ここで、無症状者からのSARS-CoV-2の二次感染に関する世界での認識を踏まえながら、GoToトラベル事業が招いた感染拡大の可能性について考えてみたいと思います。

1. CDCの見解

玉川氏は、番組中で、新型コロナ感染の24%は無症者が関わるという、具体的な数字を挙げて述べていました。私は直ぐに、「ああ、CDCが公表しているデータを引用している」と思いました。このデータは米国CDCが公表しているスライド [1に書かれているもので、"Community use of cloth masks to control the spread of SARS-CoV-2"という11月20日(現地)付けの記事 [2] の中に、"more information"として紹介されています。

それによれば、新型コロナ感染はの大部分(59%)が無症状者によって広がり、そのうち無症候性(symptomatic)感染者が24%、発症前(pre-symptomatic)無症状者が35%を占めるとされています(図1)。そして感染力のピークは感染5日前後とされています。

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図1. 大部分のSARS-CoV-2感染は無症状者から広がる [1].

さらに、図1の右下にもあるように、無症状感染者の割合を24%–30%として、感染後4日−6日の感染が起きたとすれば、無症状者からの二次感染は51%–70%の範囲になる、としています。すなわち、新型コロナ感染の大半は無症状者から起こっているということになります。

5月にサイエンス誌に発表された数理モデル解析の論文では、無症状者からの二次感染は全体の52%(無症候性感染6%+発症前感染46%)とされていました [3]。その後、米国科学アカデミー紀要に出版されたMoghadasらの論文では、無症候性感染の貢献度がより高く見積られました [4]。今回のCDCの報告 [1, 2] (図1)は、このMoghadas論文とJahanssonらの投稿中データも踏まえた見解です。

上記したように、そして前のブログ「無症状感染者は発症者と同じウイルス量を保持する」、「発症前から発症時の感染者のウイルス伝播力が強い?」でも述べましたが、発症前後(感染後5日前後)で感染力は高くなり、ウイルス排出量は無症状、有症状に関係ないことが報告されています [5, 6]

2. WoW! Koreaのウェブ記事

昨日出た日本語のウェブニュースを見ていたら、米CDC「新型コロナ患者の半数は“無症状者”からの感染」という、WoW! Korea(エイアイエスイー株式会社)の記事が出ていました [7]。当該記事は「米CDCは去る20日(現地時間)に改定した“新型コロナ拡散を統制するための布マスク使用指針書”で「新型コロナウイルスは、主に人々が咳・くしゃみをするときに出る飛沫を通して拡散するが、対話や歌、呼吸だけでも拡散する可能性がある」と伝えた」と紹介しています。

この記事は、上記のCDCの記事 [2] のことを紹介しているものと思われますが、出典のリンクがありませんでした。原題を考えれば、「使用指針書」というのは少しニュアンスが違います。そして、「CDCによると、新型コロナウイルスを他人にうつした中で 24%は咳・発熱などの症状が全くなく、35%は症状が出る前の段階で、残りの41%だけが症状が出ていたということであった」、「CDCは「マスクの着用と個人衛生の徹底などを強調する地域社会の努力が、新型コロナの拡散を減らすのに役立つだろう」と伝えた」と記述しています。

日本語のウェブ記事の悪いところですが、二次情報としての記述をする場合に、オリジナルの出典へのリンクがほとんどありませんし、引用論文の記載もありません。これでも情報が正しく伝えられているか、真偽のほどを判断するのが容易でありません。先日NHKが、オバマ前大統領の回顧録に出てくる鳩山元首相に関する記述を誤訳して伝えたことなど、メディアによる二次情報の間違いは枚挙にいとまがありません。

WoW! Koreaの記事はほぼ正確に伝えていましたが、ウェブメディアには出典へのリンクを是非お願いしたいものです。

3. GoToトラベルによって感染が拡大した?

菅首相は、GoToトラベルの一時停止を決めたことに関し、「延べ4千万人が利用しているが、その中で現時点での感染者数は約180人だ」と述べ、トラベル事業が感染拡大の原因との見方に否定的な考えを示しました [8]

上記モーニングショーにおける玉川氏の発言は、このGoToトラベルによる感染拡大の可能性に関するものです。つまり、報告ベースの感染者の実数は180人かもしれないが、4千万人の利用者の中には感染の自覚がない無症状者が相当いて、旅行によって感染を広げたのではないか、と言うのが彼の指摘です。

玉川氏の指摘を待つまでもなく、これ以外にも、相当数の濃厚接触者やGoToトラベル事業そのものに関わって感染した人もいるでしょう。日本医師会中川俊男会長は「感染者増とGoToトラベルの関連についてはエビデンスがなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と述べましたが [9]、当然のことでしょう。

ウイルスは人と人との接触によって伝播します。そして、GoToによって旅行を促進するということは、人の移動と行動範囲を広げ、接触機会が増えることは自明であり、感染の機会が増えることにも想像が行きます。その特徴を踏まえた上で、GoToトラベル利用者の直接的な感染だけではなく、その利用者から2次感染、3次感染した被害者、それらすべての濃厚接触者、さらに旅行者が訪れた周辺の地域への影響なども考慮しなければなりません。

4. 西浦氏の論説

医療維新(11月22日付)記事には、「GoToトラベルと感染拡大の因果関係について考える、無防備なヒトの移動で感染拡大は自明」という題目の、西浦博教授(京都大学大学院)の記事が出ていました [10]。この記事では、いわば為政者のGoToトラベルの影響に関する想像力となさと、分析の欠如が批判されています。

西浦氏は、「GoToトラベルを実施すると、通常の心理としては「旅行してもいいのだ」として緩和ムードが増したと感じることにつながる」、「それによって利用者以外も含めて移動が活発化する」、「直接的因果ではないが、間接的な政策的インパクトが確かならば為政者はその点に配慮して分析・判断すべきなのは当然である」と述べています。

さらに、そもそも論としての見解を強調しながら、「ヒトが無防備に移動をすると感染症の流行が空間的に拡大することは理論的・定性的に自明のことである」、「それは理論疫学におけるメタ個体群流行モデルを取り出さなくても想像することができる」と述べています。

この記事には専門的な内容も出てきますが、結論は上記のそもそも論に集約されており、まさに、GoTo推進を一刀両断という感じで批判しています。

記事では、「GoToにお墨付きを与えた」新型コロナウイルス感染症対策分科会にも触れています。分科会が「人の動きそのものが感染拡大の主要因とはならない」というような見解を持っていたときに、適時助言を与えられなかった後悔の念が述べられています。そして、「そう言った傾向は、理論疫学の科学的側面を十分に理解した立場からすればあまりにも為政者に気を遣ったものであったと思う」と、批判的に述べています。

西浦氏がいう「無防備に移動」というのは、何も感染症対策をとらないで移動した場合という意味です。実際は、マスク着用、手洗い、対人距離の確保などの個人レベルでとれる対策とともにGoToトラベルは実施されたわけであり、その万全の対策の上でも感染拡大を抑えるのはむずかしかったというトーンで、記事は書かれています。

とはいえ、政府自身の感染拡大抑制対策については触れられていません。つまり、社会政策としての検査や、検査とセットのGoTo推進の可能性については、多くの人が提言しているわけですが、「検査」に関することは記事には出てきません。西浦氏の記事はできる限りフォローするようにしていますが、この記事に限らず、どういうわけか検査の意義に関する言述は見たことがありません。さらには、無症候性感染に関することも記事にはありませんでした。

おわりに

新型コロナウイルス感染症は、無症状の人が無自覚のまま感染を広げるということを前提しなければならないことは、これまでの多くの知見の中で言えることです。これは個人レベルでの行動変容で抑制できるというものではありません。 マスク着用、手洗い、消毒、対人距離の確保、換気、遮蔽などに加えて、検査による安全確保の基に、経済を回すという考え方が必要です。そして感染増加の間は、決して経済も回りません。

社会政策としてのマス・スクリーニング下水監視システムなどの施策があれば、安全に経済を回すということがより可能になるでしょう。たとえば、できる限り陰性者を確保した上でビジネスやイベントを行なう、下水からウイルスが検出されたらその地域でのGoToトラベルの出入は一時停止する、などの方策が考えられます。

不幸にして、GoToトラベルキャンペーンは政府による具体的な感染抑制対策がないままに始められてしまいました。そして、今度は札幌市と大阪市を対象から外すという措置がとられています。手遅れ感もありますし、措置も中途半端です。ゴマカシの効かない容赦ないウイルスに対して、政府も各都道府県知事もどこまでも想像力がないように思えます(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)。

引用文献・記事

[1] Centers for Disease and Control and Prevention (CDC): The science of masking tocontrol COVID-19. Nov. 16, 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/science-of-masking-full.pdf

[2] Centers for Disease and Control and Prevention (CDC): Scientific Brief: Community use of cloth masks to control the spread of SARS-CoV-2. Nov. 20, 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/more/masking-science-sars-cov2.html

[3] Ferretti, L. et al.: Quantifying SARS-CoV-2 transmission suggests epidemic control with digital contact tracing. Science 368, eabb6936 (2020). https://science.sciencemag.org/content/368/6491/eabb6936

[4] Moghadas, S. M. et al. : The implications of silent transmission for the control of COVID-19 outbreaks. Proc. Natl. Acd. Sci. USA. 117, 17513-17515 (2020); first published July 6, 2020. https://doi.org/10.1073/pnas.2008373117

[5] Lee, S. et al.: Clinical course and molecular viral shedding among asymptomatic and symptomatic patients with SARS-CoV-2 infection in a community treatment center in the Republic of Korea. JAMA Intern. Med. Published online August 6, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2769235

[6] Singanayagam, A. et al.: Duration of infectiousness and correlation with RT-PCR cycle threshold values in cases of COVID-19, England, January to May 2020. Euro Surveill. 25, pii=2001483 (2020). https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.32.2001483#html_fulltext

[7] YAHOO JAPANニュース: 米CDC「新型コロナ患者の半数は“無症状者”からの感染」と推定. WoW Korea. 2020.11.23. https://news.yahoo.co.jp/articles/0219be0098a92ed78b27f653347edc023722cc87

[8] 時事ドットコムニュース: 菅首相、トラベル感染原因に否定的. 2020.11.23. https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112300258&g=pol

[9] 井上靖史:「Go To」感染拡大のきっかけ 日本医師会長 「コロナ甘くみないで」. 東京新聞 2020.11.19. https://www.tokyo-np.co.jp/article/69221

[10] 西浦博:「GoToトラベル」と感染拡大の因果関係について考える「無防備」なヒトの移動で感染拡大は自明. 医療維新 2020.11.22. https://www.m3.com/news/iryoishin/845371

引用した拙著ブログ記事

2020年11月19日 為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く

2020年8月15日 発症前から発症時の感染者のウイルス伝播力が強い?

2020年8月10日 無症状感染者は発症者と同じウイルス量を保持する

             

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