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ベランダでできる生ゴミ処理ー基本マニュアル

生ゴミ処理の生物学

生ゴミ処理各論

生ゴミ処理に関する拙著論文

                    

Akashi Taira Band

https://ameblo.jp/atb-2019/theme-10110603273.html

Twitter:

https://twitter.com/orientis312

Google Scholar

https://scholar.google.co.jp/citations?user=hD1-GesAAAAJ&hl=ja&oi=ao

ResearchGate:

https://www.researchgate.net/profile/Akira_Hiraishi

この夏の第7波?流行

このところ来る参院選の論戦が熱を帯びてきましたが、各政党の党首が掲げる公約にはコロナあるいはCOVID-19という言葉はほとんど出てきません。今は物価高で賃金も停滞のままですから、物価高対策に焦点が行くのは当然なのですが、それにしても国民の意識から遠ざけるようなことだけにはなってほしくありません。

世の中もコロナはもう終わったような雰囲気ですが、もちろんパンデミックはまだ収束していません。それどころか、新規陽性者数は下げ止まりの様相を見せ、リバウンド傾向にあります。COVID-19は全身性の長期症状をもたらし、神経変性疾患のリスクも高くなり、就労にも影響を与えるということがわかってきたいま、かつ高齢者にとっても依然として高い致死率を考えると、いま一度意識を引き締める必要があるのです。

このような状況を鑑みて、先日、私は以下のようにツイートしました。

リバウンド傾向はフランスをはじめとするヨーロッパ諸国で顕著であり、多くの国で新規陽性者数が増加傾向にあります(図1)。日本では、新型コロナウイルスの水際対策が6月1日から大幅に緩和され、6月10日からは入国制限緩和も始まりました [1]。海外からのウイルス持ち込みの機会はこれから激増するでしょう。

図1. ヨーロッパ諸国における感染事例の推移(Our World in Dataより転載).

そして、あまり専門家も指摘しないことですが、日本と米国の流行の波が連動している傾向があります。これについて、私は以下のようにツイートしました。米国からの観光客や帰国者に加えて、検疫を通らない米軍関係者の影響もあるかもしれません。米国でも感染者のリバウンドが起こっていますので、日本にその影響があるでしょう。

ヨーロッパで新たに感染者の急増を引き起こしているのが、SARS-CoV-2 オミクロン変異体の亜系統であるBA.4BA.5であり [2]、米国ではB2.12.1が主流です。これらの変異体は重症化度については不明ですが、感染力が従来のオミクロンより強いと言われています [3]

東京ではすでに感染者の10%以上をBA.5が占めており、宮城 [4]、大阪 [5]、鹿児島 [6]、沖縄 [7] を含む12の都府県で見つかっています。昨年の東京五輪大会前と同じように、これからの本格的な夏に向けて第7波の流行が襲ってくるでしょう。

医療専門家の間では、COVID-19を、感染症法における現在の2類相当から5類相当へ変更すべきという意見が出されています。また、医者のなかには、「新型コロナ感染症はすでに私たちの脅威ではなくなっています」、「よっぽどでないと簡易抗原も行いません。治ればよいのですから検査する必要はありません」ということを言い出す人もいます [8]

しかし、医者が、感染症の流行や病気を甘くみるような、一般人の油断を許すような個人的見解を軽々しく述べるべきではありません。上述したように、長期症状を起こし、高齢者・基礎疾患を持つ人のみならず幼児・小児にも時として重症化を呈するこの感染症は、その脅威を保ち続けています。鳴り物入りで導入された遺伝子ワクチンも、結局ゲームチェンジャーとはなり得ず、かえってネガティヴな影響を心配しなければならない状況になっています。決定的な治療薬もありません。

世界保健機関 (WHO) が制定した実験室生物安全指針では、病原体の危険性に応じて4段階のリスクグループが定められており、そのリスクに応じた取り扱い(バイオセーフティー、BSL)レベルが定められています。SASR-CoV-2は、SARSウイルス、MERSウイルス、鳥インフルエンザウイルスと同じく、上から2番目のリスクグループ3(BSLレベル3)に分類されています。ちなみに普通のインフルエンザウイルスのカテゴリーは、一つ下位のリスクグループ2(BSL2)です。

日本の感染症の取り扱いでは、これまでリスクグループ3による感染症は、すべて2–3類感染症として分類されています。リスクグループ3のウイルスは、それだけ、危険な病原体であるということです。その感染症が脅威でなくなったということは、少なくとも現時点ではありません。リスクグループ3の感染症が5類相当になった前例はありません

引用記事

[1] NHK首都圏ナビ: 入国制限緩和 外国人観光客も受け入れ再開 日本からの海外旅行は? 2022.06.07. https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220601b.html

[2] Roberts, M.: BA.4 and BA.5 Omicron: How worried should we be? BBC News June 15, 2022. https://www.bbc.com/news/health-55659820

[3] 国立感染症研究所: 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルスSARS-CoV-2)の変異株について (第17報). 2020.06.03. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11180-covid19-17.html

[4] 河北新報: オミクロン株派生型「BA・5」宮城初確認. 2022.06.17. https://kahoku.news/articles/20220617khn000030.html

[5] NHK NEWS WEB: 大阪府 新型コロナ 新たな変異ウイルス「BA.5」2人確認. 2202.06.20. https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220620/2000062530.html

[6] 南日本新聞: 鹿児島でオミクロン株派生型2種を初確認 BA・5とBA・2.12.1に計4人感染、全員軽症 新型コロナ. 2022.06.21. https://373news.com/_news/storyid/158083/

[7] 沖縄タイムス: オミクロンの新たな派生型「BA・5」沖縄で4人初確認 県「市中感染の可能性ある」2022.06.21. https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/978392

[8] 大和田潔: 「マスクは人の目を気にして着用するものではない」現役医師が"マスク離れ"できない人たちに伝えたいこと. PRESIDENT Online 2022.06.12. https://president.jp/articles/-/58491

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

SARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミロイド形成能

はじめに

SARS-CoV-2は、ホモ三量体の表面スパイクタンパク質(S-protein)を用いて、ヒト細胞の受容体(ACE2)に結合し、細胞内に侵入します。それゆえ、このウイルスのスパイクタンパクの機能や毒性は、パンデミックが始まって以来、多くの研究者の焦点となっており、COVIDワクチンの標的にもなっているわけです。

スパイクタンパクには、アルツハイマー病などの病気に見られるようなアミロイド線維を形成するためのモチーフがあると推測されています。また、一部の科学者は、スパイクタンパクの線維がCOVID-19の重症化や長期慢性疾患(long COVID)に関与しているのではないかと考えています。

最近、スウェーデンのリンケーピン大学(Linköping University)のSofie Nyström(ソフィエ・ニストロム)氏とPer Hammarström(パル・ハマルストロム)氏の研究チームが、スパイクタンパクのペプチドが実際にこれらの線維を形成することを明らかにしました [1]。JACS誌にCommunicationとして掲載されていますので(下図)、このブログでそれを紹介したいと思います。

1. 研究の背景

ヒトにおけるコロナウイルス感染症は一般的ですが、COVID-19以前では、呼吸器系の症状を示すウイルスが主でした。一方、COVID-19は呼吸器以外の臓器を含む様々な症状を示すことが特徴であり、病態は多因子性で複雑です。これらには、肺障害をもたらす自然免疫系の炎症反応による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム、心筋炎を含む心臓障害、腎臓障害、神経障害、血流低下をもたらす循環器系の障害、が含まれます。そして、長期慢性疾患としての様々な症状も知られています。Long COVIDとよばれるこれらの症状には、持続的な情緒障害や神経変性疾患に似た精神状態が含まれます。

このようなCOVID-19の病態の原因はまだよくわかっていませんが、S-タンパクの関わりが強く考えられています。

アミロイドとよばれる線維状の異常タンパク質によるアミロイドーシスは、全身性および局所性の障害として現れる病気ですが、多様な病態が報告されているCOVID-19の症状と被るところがあります。ARDSを含む重症炎症性疾患とS-タンパクの凝集が組合わさることで、全身性AAアミロイドーシスを誘発する可能性が提唱されています。COVID-19患者では、血流中の細胞外アミロイド線維凝集体に関連した血液凝固が報告されています。実際、S-タンパクを実験的にスパイクした健常人ドナーの血漿で、凝固亢進/線溶障が証明されています。

アミロイドーシスは、脳アミロイド血管障害、血液凝固障害、線溶系障害、FXII Kallikrein/Kinin活性化、トロンボイン炎症と関連しており,S-タンパクのアミロイド形成とCOVID-19の病態との関連性が示唆されています。

そこで、研究チームは、S-タンパクとアミロイド形成との間に分子的な関連性があるのではないかと考え、S-タンパクのはアミロイド形成能の証明と形成メカニズムの解明にチャレンジしました。

2. 研究結果の概要

研究チームは、SARS-CoV-2 S-タンパク(ProteinID:P0DTC2)全体のペプチドスキャンから、15個のアミノ酸からなる316のペプチドプールライブラリー(2つのサブプールに分かれている)を得ました。両方のペプチドサブプールでin vitroのアミロイド線維が形成されました。

この結果に気をよくしたチームは、繊維形成がS-タンパクのどの部位が関与しているのか、さらに探索することにしました。ルーヴェンカトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)のフレデリック・ルソー(Frederic Rousseau)とヨースト・シムコヴィッツJoost Schymkowitz)が開発したアルゴリズムを用いて、どのペプチドがアミロイドを形成する可能性が最も高いかを予測しました。その結果、S-タンパク内に7つのアミロイド形成性配列を確認することができました。

次に、ペプチドライブラリー混合物のアミロイド線維アッセイを行ないました。すなわち、これらの7つのペプチドを合成・単離し、37℃でインキュベーションしたところ、すべて凝集体を形成しました。このうち、スパイクタンパクの配列における最初のアミノ酸の位置から名付けられた Spike192 と呼ばれるものが、アミロイドを形成に特に優れていることがわかりました。

3種類の20アミノ酸長の合成スパイクペプチド(配列番号192-211, 601-620, 1166-1185)は、アミロイド線維基準である、ThTによる核形成依存重合速度、コンゴーレッド陽性、および超微細線維形態の3つを満たすものでした。

研究チームは、ヒト細胞の酵素(プロテアーゼ)がS-タンパクを分解して、この線維形成ペプチドを作るのではないかと考えました。そこで、S-タンパクとプロテアーゼである好中球エラスターゼ(NE)を in vitro で24時間インキュベーションしたところ、明らかな分岐を持つアミロイド様フィブリルが形成されることを確認しました。NEは S-タンパクを効率的に切断し、アミロイド形成セグメントを露出させ、最もアミロイド原性の高い合成スパイクペプチドの一部であるアミロイド形成ペプチド194-203を蓄積させました。

一般に、NEはウイルス感染による炎症部位で過剰発現しています。今回、一部の免疫細胞が感染時の炎症に反応して放出されるNEが、S-タンパクを切断して Spike192 とほぼ同じペプチドにすることが、実験で証明されたことになります。

これらのデータに基づいて、研究チームは、SARS-CoV-2 S-タンパクのアミロイド形成が内部タンパク分解(endoproteolysis)によって促進されるという分子機構を提唱しています。そして、COVID-19に関連した病態においてS-タンパクのアミロイド形成を考慮することが、この病気と long COVID を理解する上で重要だとしています。

3. 研究の意義

今回の研究 [1] の重要性は、SARS-CoV-2のS-タンパクの線維化を実験的に証明しているだけでなく、それが実際のCOVID-19患者のなかでどのようにして形成可能かという生成機構まで明らかにしていることです。すなわち、ウイルス感染時の炎症に反応して放出されるNEが、S-タンパクを切断してアミロイド線維形成に最適な大きさのペプチドにすることがわかったことです。

すでに、S-タンパクがCOVID-19患者の血栓の形成を誘導することが明らかになっていますが、今回の結果(スパイクペプチドを使って、フィブリノゲンのアミロイドを誘導できたこと)はこの現象の説明を補強するものです。研究チームは、重度のCOVIDとlong COVIDにおけるスパイクアミロイドと血栓形成の関係をさらに研究する予定だとしています。

おわりに

今回の論文を読んで個人的に思ったことは、スパイクタンパクで起こることならCOVID-19ワクチンでも起きることはないのか?ということです。つまり、mRNAワクチンによって体内で生成されたスパイクタンパクがNEによって切断され、アミロイドを形成することはないのか?ということです。

アミロイドーシスは、線維状の異常タンパク質(アミロイドとよばれる)が様々な臓器に沈着し、全身性および局所性の機能障害として現れる病気です。全身性アミロイドーシスとしては、 免疫グロブリン性アミロイドーシス、AAアミロイドーシス、老人性全身性アミロイドーシスなどがあり、限所性アミロイドーシスとしては、アルツハイマープリオンなどが知られています。プリオン病の代表としてはクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease、CJD)があります。

COVID-19患者がCJDを発症したケースリポート [2] やCOVID-19ワクチンの接種後のCJDの事例 [3, 4] もいくつかあります。セネフらは総説でワクチンによるプリオン病発症の懸念を示しています [5]。果たして、COVID-19ワクチンを接種してCJDあるいはプリオン病になることはないのか? CJD/プリオン病に限らず、ワクチン接種によってアミロイド形成・血栓形成につながることはないのか、疑問は尽きません。

引用文献

[1] Nyström, S. and Hammarström, P.: Amyloidogenesis of SARS-CoV-2 spike protein. J. Am. Chem. Soc. 144, 8945–8950 (2022). https://doi.org/10.1021/jacs.2c03925

[2] Tayyebi, G. et al.: COVID-19-associated encephalitis or Creutzfeldt–Jakob disease: a case report. Neuro. Dis. Manag. 12, 29-34 (2022). https://doi.org/10.2217/nmt-2021-0025

[3] Kuvandık, A. et al.: Creutzfeldt-Jakob Disease After the COVID-19 Vaccination. Turk. J. Intensive Care https://cms.galenos.com.tr/Uploads/Article_50671/TYBD-0-0.pdf

[4] Moret-Chalmin, C. et al.: Towards the emergence of a new form of the neurodegenerative Creutzfeldt-Jakob disease: Twenty six cases of CJD declared a few days after a COVID-19 “vaccine” Jab. https://www.researchgate.net/publication/358661859_Towards_the_emergence_of_a_new_form_of_the_neurodegenerative_Creutzfeldt-Jakob_disease_Twenty_six_cases_of_CJD_declared_a_few_days_after_a_COVID-19_vaccine_Jab?channel=doi&linkId=620e1cd5f02286737ca524ed&showFulltext=true

[5] Seneff S. and Nigh G.: Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. Int. J. Vac. Theo. Prac. Res. 2, May 10, 2021, 402.
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23/34

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

mRNAワクチンのブースター接種を中止すべき

はじめに

6月6日、日本ではCOVID-19ワクチンブースター接種(3回目)が、全人口の約60%に達したことが報道されました [1]。ワクチンとは言いながら、実体は抗原となるSARS-CoV-2スパイクタンパク質を宿主細胞に作らせるように設計されたmRNA型生物製剤であり、その利点と同時に、従来のワクチンとは異なるリスクがあることが懸念されてきました。にもかかわらず、日本の全人口の大半が完全接種を受け、ここに来てブースターが過半巣を軽く超えたことになります。

当初から懸念されているmRNAワクチンの問題は、抗体依存的細胞障害、自然免疫力低下、抗体依存性増強、スパイクタンパクの毒性などがあります。重篤な有害事象や接種後死亡例が多いことも特徴であり、心筋炎、心膜炎など副作用としての因果関係が認められているものもある一方、因果関係が不明とされるものが大部分です。加えて、局所最適化されたワクチンが、ウイルスの免疫逃避を促す選択圧的効果をもつ懸念もあります。

政府はCMによる情宣までしてワクチンを推進し、ワクチンや免疫の専門家もこぞって右にならえで進めてきたわけですが、ワクチン接種プログラムを中止すべきという専門家も国内外に少数ながらいます。このようななか、mRNAワクチンのブースター接種を中止すべきという、山本賢二氏(心臓血管外科下肢静脈瘤センター長、岡村記念病院、静岡)による見解(Comment)が、BMCジャーナルの一つに掲載されました [2](下図)。ここでは、この山本論文を紹介したいと思います。

1. 山本論文のアブストラク

アブストラクトは以下のとおりです。

最近、ランセット誌にCOVID-19ワクチンの効果と時間経過による免疫力の低下に関する研究結果が掲載された。この研究では、COVID-19ワクチンを2回投与した8ヵ月後のワクチン接種者の免疫機能は、ワクチン未接種者のそれよりも低いことが示さた。欧州医薬品庁の勧告によると、COVID-19のブースター接種を頻繁に行うと、免疫反応に悪影響を及ぼす可能性があり、効果が発揮できないかもしれない。免疫力の低下は、N1-methylpseudouridine、スパイクタンパク質、脂質ナノ粒子、抗体依存性増強、元の抗原刺激など、いくつかの要因によって引き起こされる可能性がある。これらの臨床的変化は、COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹との間に報告された関連性を説明できるかもしれない。安全対策として、今後のブースターワクチン接種は中止すべきである。また、患者のカルテに接種日を記録しておく必要がある。免疫力低下を防ぐための実際的な対策がいくつか報告されている。それらは、深部体温を維持するためのアセトアミノフェンを含む非ステロイド性抗炎症薬の使用制限、抗生物質の適切な使用、禁煙、ストレスコントロール、周術期の免疫抑制を引き起こす可能性のあるプロポフォールを含む脂質乳化剤の使用制限などである。以上より、COVID-19ワクチン接種は、重症患者における感染症の大きなリスクファクターであることがわかる。

2. 本論の内容

以下、当該論文 [2] を翻訳しながら、引用された文献も適宜挙げながら、内容を紹介したいと思います。

COVID-19の大流行により、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンなどの遺伝子ワクチン(正確には核酸型生物製剤)が広く使用されるようになりました。また、ブースター接種も行なわれていますが、オミクロン変異体に見られる高度に変異したスパイクタンパクに対する有効性は限定的です。

山本医師は、最近のランセット論文 [3] で示されたワクチン接種者における免疫低下を挙げています。この研究は、スウェーデンのワクチン接種者と未接種者を対象として行なわれ、COVID-19ワクチン2回接種後に8カ月経過したワクチン接種者の免疫機能は未接種者に比べて低下しており、特に高齢者や既往症のある人においてより顕著であることが示されました。ただし、この論文の結論は、ワクチンは時間経過とともに効力が低下するが、有効性はなお良好に維持されており、「ブースターとして3回目のワクチン接種を行うことの根拠を補強するものである」というものです。

欧州医薬品庁は、頻繁なブースター接種が免疫反応に悪影響を及ぼし、有用でない可能性を勧告しています [4]。各国はブースター接種に慎重な姿勢をとっており、イスラエル、チリ、スウェーデンなどいくつかの国では、4回目の接種をすべての人にではなく、高齢者やその他のグループのみに提供しています。

免疫力の低下はいくつかの要因によって引き起こされますが、山本医師は、まず、ワクチンmRNAにはウラシル塩基の代用してN1-メチルシュードウリジンが使われていることを挙げています、サイエンス雑誌に掲載された論文 [5] を引用しながら、この修飾されたmRNA(山本コメントではタンパク質となっている)は、制御性T(Treg)細胞の活性化を誘導し、結果として細胞性免疫の低下を招く可能性があるとしています。

通常のmRNAと比べて、修飾塩基が導入されたmRNAは、Toll様受容体 (TLR) と反応しにくく、細胞内の様々なRNAセンサー分子の感知(つまり、自然免疫の活性化)を回避できることが知られています。

このサイエンス論文 [5] は、まさにT細胞に起因する抗原特異的な炎症による自己免疫病を、Treg細胞を誘導できる修飾mRNAワクチンを用いて抑える可能性を調べたものです。研究では、実験的に自己免疫性脳脊髄炎を誘導するポリペプチドアミノ酸11個)をコードする天然型および修飾型のmRNAを作り、これを脂質ナノ粒子(LNP)に包んでモデルマウスに静脈注射し、脾臓での炎症性サイトカインを調べました。その結果、天然型mRNAでは炎症性サイトカインが強く誘導されている一方、修飾mRNAではほとんど誘導がありませんでした。すなわち、修飾mRNAは、エフェクターT細胞の減少とTreg細胞の誘発(自然免疫抑制)を促すということです。

上記の性質があるため、mRNAワクチンが投与された後、発現したスパイクタンパク質はすぐに減衰するわけではないと山本医師は指摘しています。エクソソーム上に存在するスパイクタンパク質は、4ヶ月以上にわたって体内を循環しています [6]。さらに、ファイザーによるモデル動物を使った薬物動態試験では、LNPが肝臓、脾臓、副腎、卵巣に蓄積することが示されていますし、LNPに内包されたmRNAは炎症が強いこと [7] もわかっています。

さらにコメントで指摘されていることは、新しく生成されたスパイクタンパク質の抗体が、抗原タンパク質を生成するためにプライミングされた細胞や組織を損傷させること [8]、血管内皮細胞が血流中のスパイクタンパク質によって損傷を受けること [9]、これにより副腎などの免疫系器官が損傷を受ける可能性があること、抗体依存性増強が起こり、感染増強抗体が中和抗体の感染予防効果を減弱させること [10] などです。また、武漢型ワクチンの抗原原罪(original antigen sin) [11] も挙げられており、これらのメカニズムがCOVID-19の悪化に関与している可能性があります。

すでに、COVID-19ワクチンと帯状疱疹を引き起こすウイルスの再活性化との関連を示唆する研究もあります。この状態は、ワクチン後天性免疫不全症候群と呼ばれることもあります [12]

この山本論文では、静岡県立岡村記念病院心臓血管外科では、2021年12月以降、COVID-19以外にも、制御困難な感染症の症例に遭遇していることが述べられています。たとえば、開心術後に炎症による感染症が疑われ、複数の抗生物質を数週間使用しても制御できない症例が数例あったこと、患者に免疫低下の兆候が見られ、死亡例も数例あったことが述べられています。感染症のリスクが高まる可能性もあり、今後、術後予後を評価する様々な医療アルゴリズムの見直しが必要になるかもしれないとしています。

ワクチン投与による免疫性血小板減少症(VITT)などの有害事象は、これまでマスコミの偏向報道により隠されてきました。当該院では、このような原因が認められるケースに多く遭遇し、手術入院患者のヘパリン起因性血小板減少症(HIT)抗体スクリーニングをルーチンに実施するなどの対策をとっているものの、解決には至っていないこと、ワクチン接種開始以降、4名のHIT抗体陽性者が確認されていることが述べられています。このような頻度でHIT抗体陽性者が発生することは過去に例がなく、COVID-19ワクチン投与後のVITTによる死亡例も報告されています [13]

山本論文では、安全対策として、これ以上のブースター接種は中止することを提言されています。また、日本では本疾患群に対する医師や一般市民の認知度が低いため、インフルエンザワクチン接種のようにCOVID-19の接種歴が記録されないことが多いですが、患者のカルテには、接種日および最終接種からの経過を記録しておく必要があることが強調されています。さらに、免疫力の低下を防ぐために実施可能な対策として、深部体温を維持するためのアセトアミノフェンを含む非ステロイド性抗炎症薬の使用制限、抗生物質の適切な使用、禁煙、ストレスコントロール、周術期の免疫抑制を引き起こす可能性のあるプロポフォールを含む脂質エマルジョンの使用制限、などの報告があることが紹介されています。

これまで,mRNAワクチンのメリット・デメリットを比べながら,ワクチン接種が推奨されてきたわけですが、パンデミックの抑制が進むにつれて、ワクチンの後遺症も顕在化してきました。これに関連する仮説として、遺伝子ワクチンのスパイクタンパク質は、心血管疾患、特に急性冠症候群増加の起因となるというものがあります。また、免疫機能の低下による感染症のリスクのほか、循環器系を中心に、これまで明確な臨床症状として現れずに隠れていた未知の臓器障害のリスクも考えられます。

山本医師は、侵襲的な医療行為に先立つ慎重なリスク評価が不可欠であり、これらの臨床的観察を確認するために,無作為化比較試験がさらに必要であることを強調しています。結論として,COVID-19ワクチン接種は,重症患者における感染症の主要な危険因子であると結んでいます。

おわりに

今回の論文 [2] のように、現場の医師から、mRNAワクチンのブースター接種を中止すべきという声が出てきたことはきわめて重要です。確かに、ワクチン接種は、デルタ変異体による流行において発症、重症化、死亡リスクを減らす効果があったと考えられますが、最近では接種者と未接種者であまり差がないことが、アドバイザリーボードの資料でも明らかになっています。むしろ、ワクチン接種のデメリットや回数が増えることによるリスクの方が大きいことを示す研究が増えているような気がします。

テレビからは依然としてワクチン推奨のCMが流れてきます。各自治体もブースター接種を進めています。しかし、個人的には、もはやmRNA型生物製剤を健康体に打つメリットは、デメリットを上回ることはないと考えます。つまり、接種を避けるべきであるということです。

引用文献・記事

[1] NHK NEWS WEB: コロナワクチン3回目接種終了 全人口の59.8% (6日公表). 2022.06.06. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220606/k10013660061000.html

[2] Yamamoto, K..: Adverse effects of COVID-19 vaccines and measures to prevent them. Virol. J. 19, 100 (2022). https://doi.org/10.1186/s12985-022-01831-0

[3] Nordström, P. et al.: Risk of infection, hospitalisation, and death up to 9 months after a second dose of COVID-19 vaccine: a retrospective, total population cohort study in Sweden. Lancet 399, 814–823 (2022). https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)00089-7

[4] European Centre for Disease Prevention and Control: Interim public health considerations for the provision of additional COVID-19 vaccine doses. Sept 1, 2021. https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/covid-19-public-health-considerations-additional-vaccine-doses

[5] Krienke, C. et al.: A noninflammatory mRNA vaccine for treatment of experimental autoimmune encephalomyelitis. Science 371, 145–153 (2021). https://doi.org/10.1126/science.aay3638

[6] Bansal, S. et al. Cutting edge: circulating exosomes with COVID spike protein are induced by BNT162b2 (Pfizer–BioNTech) vaccination prior to development of antibodies: a novel mechanism for immune activation by mRNA vaccines. J Immunol. 207, 2405–2410 (2021). https://doi.org/10.4049/jimmunol.2100637

[7] Ndeupen, S. et al.: The mRNA-LNP platform’s lipid nanoparticle component used in preclinical vaccine studies is highly inflammatory. iScience 24, 103479 (2021). https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.103479.

[8] Yamamoto K. Risk of heparinoid use in cosmetics and moisturizers in individuals vaccinated against severe acute respiratory syndrome coronavirus. Thromb J. 2021. https://doi.org/10.1186/s12959-021-00320-8.

[9] Lei Y, Zhang J, Schiavon CR, He M, Chen L, Shen H, et al. SARS-CoV-2 spike protein impairs endothelial function via downregulation of ACE 2. Circ Res. 2021;128:1323–6. https://doi.org/10.1161/CIRCRESAHA.121.318902.

[10] Liu Y, Soh WT, Kishikawa JI, Hirose M, Nakayama EE, Li S, et al. An infectivity-enhancing site on the SARS-CoV-2 spike protein targeted by antibodies. Cell. 2021;184:3452-66.e18. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.05.032.

[11] Cho A, Muecksch F, Schaefer-Babajew D, Wang Z, Finkin S, Gaebler C, et al. Anti-SARS-CoV-2 receptor-binding domain antibody evolution after mRNA vaccination. Nature. 2021;600:517–22. https://doi.org/10.1038/s41586-021-04060-7.

[12] Seneff, S.et al.: Innate immune suppression by SARS-CoV-2 mRNA vaccinations: the role of G-quadruplexes, exosomes, and MicroRNAs. Food Chem. Toxicol. 164, 113008 (2022). https://doi.org/10.1016/J.FCT.2022.113008.

[13] Lee, E. J. et al. Thrombocytopenia following Pfizer and Moderna SARS-CoV-2 vaccination. Am J Hematol. 96, 534–537 (2021). https://doi.org/10.1002/AJH.26132.

                       

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

ノババックス・ワクチンでも心筋炎か

COVID-19ワクチンとして、mRNAワクチンに続いて組換えタンパクを用いるノババックス社のワクチンが、今年4月19日に薬事承認されています [1]。薬事承認申請したのは武田薬品工業株式会社です。各自治体ではすでに接種が始まっています。

ところが、6月4日(現地時間)、米食品医薬品局(FDA)が当該ワクチンについて心筋炎などのリスクを懸念していることを、ロイター [2] やブルーバーグなどの海外のメディアが伝えました。このブログ記事ではロイターの記事を全翻訳して紹介します。なお、ロイターの日本語ウェブ記事 [3] も今日出ています。

以下、ロイター記事 [2] の翻訳文です。

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ノババックス社は、自社のワクチンが軽度から重度のCOVID-19疾患状況を低減できることをデータで示したが、それにもかかわらず、米食品医薬品局(FDA)は、当該ワクチンの心臓炎症のリスクの可能性について懸念している。

ノババックスによって、2020年12月から2021年9月にかけて実施された約3万人の患者を対象とした試験において、タンパク質ベースの注射後20日以内に心筋炎タイプの心臓炎症が4例検出された。

FDAスタッフは、「これらの事象は、mRNAワクチンで報告されたものと同様に、このワクチンとの因果関係の懸念を生じさせる」と、金曜日に発表された説明文書に記している。

ノババックス社の株価は、FDAによる同社の試験データの分析後、14%近く下落した。

FDAは、ノババックス社に対し、心筋炎ともう一つの心臓の炎症である心膜炎を「重要な確認リスク」として資料に明記するよう要求したという。同社はまだそのことに同意していない。

ノババックスは、FDAが指摘した安全性の懸念に対して、心筋炎は、十分に大規模なデータベースにおいては、自然発生的な事象として予想できると述べた。「NVX-CoV2373を支持するすべての臨床データの解釈に基づき、...因果関係を立証する証拠は不十分であると考えます」と同社は声明で述べている。

この試験では、プラセボ投与後に心筋炎を報告した患者が1名いた。

ノババックスは、NVX-CoV2373という注射が、これまで予防接種をためらっていた人たちのワクチン接種を促進する役割を果たすだろうとし、ワクチンの選択に関する教育的活動を開始したと述べている。

「認可または承認されたワクチンが広く利用可能であるにもかかわらず、SARS-CoV-2の流行は米国では十分にコントロールされていない...よく理解された技術プラットフォームを用いて開発されたワクチンへの要望がある」と語っている。

FDAは、オミクロンデルタ変異体が優勢になる前のノババックスの試験データを分析した。

「このワクチンの臨床試験における有効性の推定値に基づいて、このワクチンはオミクロンによるCOVID-19に対して、特により重症な疾患に対して、何らかの意味のあるレベルの防御を提供する可能性が高い」と、FDAスタッフは述べている。このワクチンは、米国とメキシコの成人を対象としたノババックスの試験で、90.4%の有効性を示した。

FDAのコメントは、5月7日に開催されるFDAの外部アドバイザーの会合に先立ち作成されたブリーフィングノートに記載されている。

このFDAコメントは、火曜日に、これらの外部アドバイザーによって検討され、ワクチン承認を推奨するかどうかについて決定される。FDAは外部の専門家の助言に従うことを義務づけられてはいないが、通常は従う。

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翻訳は以上です。

筆者あとがき

mRNAワクチン(正確にはmRNA型生物製剤)の心筋炎等の副作用はすでに確認されていますが、ノババックスの組換えタンパクワクチンについては、実例上まだ不明です。厚生労働省の安全性に関する説明では心筋炎については言及がありません(以下 [1])。

mRNAワクチンでは、スパイクタンパク質を合成する細胞自身が自己免疫の攻撃を受ける可能性がありますが、組換えタンパクではこの点は避けることができます。しかし、同じスパイクタンパク質を抗原と使うことは同じなので、心筋炎などの副作用がスパイクタンパク自身に関連することであるならば、同様のリスクはあると言えるでしょう。

引用記事

[1] 厚生労働省: 武田社の新型コロナワクチン(ノババックス)について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_takeda.html

[2] Mishra, M. et al.: U.S. FDA flags risk of heart inflammation after Novavax COVID vaccine. Reuters June 4, 2022. https://www.reuters.com/world/us/us-fda-staff-says-novavax-vaccine-lowers-covid-risk-2022-06-03/

[3] ロイター: 米FDA、ノババックス製コロナワクチンの心筋炎リスクを懸念. Yahoo Japan ニュース.2020.06.06. https://news.yahoo.co.jp/articles/07458c563b5796ae46f53cb9f4c199f6091c4dd5

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

地域社会のマスク着用向上がコロナ感染を減少させる

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の防御に、マスク着用が一定の効果があることは何となく理解されていると思いますが、実は学術論文レベルで見ると、「効果がある」というものと「効果はない」とする相反する報告がありました。最近、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に、これにケリを付けると思われる英国の研究グループの論文 [1] が掲載されましたので、ここで紹介したいと思います。結論は、「地域社会でのマスク着用率の上昇がSARS-CoV-2の伝播(実効再生産数、R)を減少させる」というものです。

1. 研究の背景とアプローチ

これまで、SARS-CoV-2の感染抑制におけるマスク着用の有効性については、賛否両論がありました。医療現場でのマスク着用は疾患感染を大幅に減少させることが知られていますが、社会環境における研究は一貫性のない結果を報告してきました。実は、このような研究の多くは、政府のマスク義務化によってどの程度感染が防御できるかということに焦点を当てて、マスクの有効性を判断したものでした。

しかし、そもそも義務化に関わらず世界的に自発的なマスク着用が広く行われていることは周知の事実です。日本を含む東アジア諸国では、義務化されずとも当初からマスク着用が高いことが知られています。このPNAS論文では、義務化に依存しない自発的なマスク着用やその他の要因の制限から、義務化の効果はマスク着用効果の代用にはならないことを発見しました。

この研究では、マスク着用行動に関する最大規模の調査(𝑛=2000万人)を含む、6大陸92地域をカバーする複数のデータセットを用いて、マスク着用がSARS-CoV-2感染に及ぼす影響を直接分析しました。ベイズ階層モデルを用いて、自己申告された着用レベルと各地域で報告された症例を関連付けし、移動性や大規模集会の禁止などの非医薬物介入(non-pharmaceutical intervention, NPI)を考慮しながら、不確実性を定量化し、マスク着用による感染への効果を推定しました。

今回の分析は、既往研究に比較して、マスク着用データの質、ランダムサンプリングによる規模(約100倍)、地理的範囲,半機械的感染モデル、結果の検証などにおいて大きく改善されており、信頼性が向上していることが特徴です。

2.分析結果の概要

この研究では2020年5月から9月までのデータを用いていますが、米国での第2波の始まりで終了する時期に当たります。この時期は、国によるNPIが地域ごとに細分化されているため、国自体の分析はあまり有益でなくなることが示されています。

この研究では、ベイズ型階層モデルを用いていますが、このモデルは R を介して、マスク着用レベルと各地域の患者報告数を関連付け、感染症非線形な指数関数的増大または減衰の性質を捉えることができます。既往研究に対する改善点として、NPIを考慮したことに加えて、移動度の変化も考慮しています。ウイルスの疫学的特性、地域間の伝播の違い、感染からCOVID-19の発症登録までのラグの影響など、事前分布を通じて多くの不確実性の要因を定量化しています。

図1は、今回の研究の結論を示す図で、マスク着用ゼロと100%着用の場合の R の差を表したものです。いくつかの公共の場において、マスク着用ゼロと、ほとんどの時間マスクをしていると自己申告した人(100%)の差は、平均で25%[95%範囲:6%、43%]の R 減少に相当することがわかりました(図1上 [B])。

実際には、100%のマスク着用は不可能であり、複雑な社会的・文化的要因に左右されます。そこで、このような違いを捉えるために、推定した着用効果の中央値(すなわち、図1上の事後値の中央値)に、各地域の着用率の中央値(時間平均)を乗じて表してみました。それが図1下(C)です。地域平均でみると、マスク着用によって平均19%の R の減少になりました。

図1. (上、B): マスク着用率(自己申告)が0から100%に増加した場合の R の減少の事後推定値(全ての国から算出). (下、C): 92地域のマスク着用による R の減少の事後平均値(Bの平均値に各地域の時間平均の着用率を乗じたもの). 文献 [1] より転載.

つまり、ある地域で人々が全くマスクをしない場合と100%装着した場合では、後者で少なくとも19%の感染減少になるということです。

研究グループは、マスク着用義務化の意義を再考するために、義務化が着用に対して瞬間的な効果を持つ、徐々に増加する効果を持つ、または義務化が発表されたがまだ実施されていないときに始まる効果を持つものとしてモデル化しました。その結果、義務化は平均8.6%しか着用率を増加させませんでした(図2)。

図2. マスク義務化の時期に対する自己申告のマスク着用状況(2020年5月~9月に新たに国のマスク義務化が行われた全地域の平均、破線は義務化開始日)(文献 [1] より転載).

図2の結果について、研究グループは、義務化のタイミングの問題ではなく、義務化が粗く、不均質であるためとしており、義務化の効果がマスク着用効果の代用にはならないことの根拠としています。

3. 考察と意義

今回の研究の第一の意義は、世界の92地域から得られた膨大なデータセットと最新のベイズ型階層モデルを用いて、マスク着用がSARS-CoV-2感染の顕著な減少に関連するという証拠を提示したことです。そして、マスク着用義務化の相関関係を分析した結果、義務化以外の要因が着用レベルに強く影響することが示したことが挙げられます。

とはいえ、マスク義務化が感染を抑制する上で何の役割も果たさないということを意味するものではありません。むしろ,大量のマスク着用が感染を減らすという証拠があり、その点で、義務化とその他のマスク着用促進要因が合わさって、マスクの使用を改善または増加させ、COVID-19感染を減らす可能性があることを著者らは強調しています。

第二の意義は、これまでマスクの効果に結論が出なかった過去の研究例を挙げ、これらがマスクの特性や装着行動に関する要因を考慮に入れていないことが一因であることを示したことです。これらの要因には、マスクの品質、マスクの装着性、装着の環境(たとえば、店舗、学校、公共交通機関)、マスクの再使用、リスク補償、文化規範・慣習などが含まれます。本研究では、これらの要因に派生する不確実性を十分に除去できていませんが、著者らが言うようにさらなる研究が必要でしょう。

今回の研究では、マスクの特性と行動を集計して、大量のマスク着用の効果を推定していますが、使用されているマスクのほとんどが最も効果の低い布製(またはその他の未評価マスク)であったとしています。日本や東アジア諸国では大部分が不織布マスクを使っています。したがって、著者らも指摘しているように、大量着用の実際の効果は、今回の推定(19%の R 減少)よりも大きいと思われます。

著者らは、最も一般的な種類の一つである布製マスクを対象とした既往研究はほとんどなく、臨床研究に基づく保護効果は実際の効果を反映していない可能性があることも指摘しています。さらに、マスク着用が文化的要因に強く左右されるにもかかわらず、ほとんどの研究は特定の社会的条件のみで実施されており、それらの妥当性に限界がある可能性も指摘しています。

重要なことは、今回の研究のマスク効果推定は、調査によるマスク着用の自己報告に依存していることです。したがって、マスク着用率100%の真の効果は、過大申告の量に比例して、今回の推定値よりも大きくなることが予想されます。他方で、メリーランド大学の調査にあるように、「マスク着用」の定義は厳密ではなく、公共交通機関のみ布製マスクを着用する人が半分以上いる一方、外出時は常にN95呼吸器を着用する人が1割強とされています。このことは、今回のデータでマスク着用率が非常に高いと報告されている地域でも、よりマスク着用率を高める余地がある、と著者らは述べています。

結論として、地域社会でのマスク着用率の上昇が感染の顕著な減少に関連していることになります。パンデミックが始まってからの世界的なマスク着用率の向上には、義務化以外の要因が寄与してことも浮き彫りになりました。たとえば、自発的な着用がすでに高い水準にある場合、政策立案者は他の手段を用いてマスクの効果を高めることができると著者は指摘します。これには、正しいマスクのつけ方、品質に関する教育、感染リスクが高い環境における義務付けなどです。

おわりに

マスクの感染防止効果については、マスク自体の飛沫・エアロゾル防止のシミュレーションや多くのリアル実験によって確かめられてきました。大方の結論は、マスクの材質の如何を問わず、SARS-CoV-2の空気感染を多少なりとも防ぐことができるというものです [2]

一方で地域社会でのマスク着用率の上昇がどの程度感染防止に繋がるかについては、明確な結論がありませんでした。そのなかで、2020年から2021年にかけてバングラデシュで行われた大規模な調査研究がサイエンス誌に掲載され [3]、マスク着用がSARS-CoV-2感染の減少に効果があることを示す最も説得力のあるものとして広く賞賛されています。

ところが、懐疑的な研究者は、この研究における統計解析や様々な側面における弱点を指摘し、結果の重大性に疑問を投げかけました。たとえば、ベイズ型因果関係モデリングのアプローチを用いて厳密な分析にかけると、COVID-19感染に対するマスク介入の明確な効果はなかったというFenton [4] の主張があります。

今回のPNAS論文 [1] で示された大規模調査研究は、これらの論争に一応の決着をつけるものとして高く評価できるものです。普段、着用の習慣がなく、着用率が低い国での義務化後のデータも幅広く考慮したことで、マスクの有効性に関するより妥当な結論が得られたと思います。これがもともと自主着用率が高い日本で調査したら、このような結論は導き出せないでしょう。

日本では、このところ脱マスク論も盛んになり、特に子供に対するマスク着用の是非についても議論されていますが、地域社会のマスク着用率の高さがSARS-CoV-2の感染防止を有効にするものとして、改めて認識したいところです。

引用文献

[1] Leech, G. et al.: Mask wearing in community settings reduces SARS-CoV-2 transmission. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 119, e2119266119 (2022).
https://doi.org/10.1073/pnas.2119266119

[2] Ueki, H. et al.: Effectiveness of face masks in preventing airborne transmission of SARS-CoV-2. mSphere 5, e00637-20 (2020). 
https://doi.org/10.1128/mSphere.00637-20

[3] Impact of community masking on COVID-19: A cluster-randomized trial in Bangladesh”. Science 375, eabi9069 (2022). https://doi.org/10.1126/science.abi9069 

[4] Fenton, N. The Bangladesh Mask Study provides no evidence that masks reduce Covid-19 infection. May 3, 2022. https://www.normanfenton.com/post/the-bangladesh-mask-study-provides-no-evidence-that-masks-reduce-covid-19-infection

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

COVID-19対策に対する反省なき見解、誤謬、そして詭弁

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の専門家会議、アドバイザリーボード、分科会のメンバーの幾人かはメディア上でもお馴染みですが、その中の1人が押谷仁教授(東北大学大学院医学研究科)です。パンデミック下における彼をはじめとする政府系専門家の努力には本来なら敬意を表したいところですが、それさえも躊躇うくらいに、PCR検査の限定使用というお粗末な感染対策を先導し、被害を拡大したことは否めないでしょう。

最近、押谷氏は「COVIDの日本からの教訓:適切なメッセージが市民を力づける」と題する記事をネイチャー誌に寄稿しました [1]下図)。私は早速これを読んでみましたが、過去に蓋をするような、相変わらず反省なき見解だなというのが率直な印象です。そして誤謬、あるいは詭弁と思われる箇所も見られます。

押谷氏や専門家会議のメンバーの感染対策に対する見解については、このブログでも当初から何度も批判してきました(→COVID-19に関するNHKスペシャルを観て感染症学会のシンポジウムを視聴して思ったこと専門家会議の5月29日記者会見とその記事への感想)。ここでは、押谷氏によるネイチャー記事 [1] を全翻訳して紹介し、どこに誤謬や詭弁があるかを指摘したいと思います。

以下翻訳文です。

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日本におけるCOVID-19の6流行波を通して、一人当たりの患者数および死亡数は、他のG7諸国と比較して有意に少ないことが分かった。世界で最も高齢者が多く、人口が密集しているにもかかわらず、である。確かに、日本は特に高齢者のワクチン接種率が高いし、マスク着用も普通のことである。しかし、どちらも完全な説明にはなっていない。ワクチン接種が始まる前から死亡者数は少なく、アジア全域でマスクは一般的である。

日本は、この病気の広がりとリスクを理解し、社会的・経済的活動を維持しながら、死亡や入院を最小限に抑えることに適用することを追求してきた。しかし、これらは不安定なトレードオフに支えられている。強い社会的圧力が、マスク着用などの防護策を後押しし、危険な行動を最小限に抑えることにつながったと思われる。全体として、政府は国民に保護行動をとるための情報を迅速に提供し、硬直的な処方箋を避けた。

2003年、私は世界保健機関(WHO)の西太平洋地域事務所で新興感染症担当官として、重症急性呼吸器症候群SARSの発生を担当した。中国で肺炎を起こした人から同様のコロナウイルスSARS-CoV-2)が検出されたことを初めて知ったとき、おそらくこの大流行も同じような経過をたどるだろうと思った。

しかし、私はすぐに別の点に気がついた。SARSではほとんどの人が重症化した。しかも、SARSと違って、病気にならずに感染を広げることができるという点だ。つまり、COVID-19は「見える化」されていないため、封じ込めが難しい。

日本では憲法上、厳重なロックダウンが禁じられているため、感染を抑えるために別の方策が必要だった。パンデミックに先立ち、日本では400の保健所において8000人以上の保健師が、結核などの病気の感染経路を特定するための「遡及的」コンタクトトレーシングを行っていたが、このシステムはすぐにCOVID-19に応用された。

2020年2月末までに、科学者たちは多くの感染クラスターを特定し、ほとんどの感染者は誰にも感染させず、少数の人が多くの人に感染させていることに気づいた。私はこれまでの研究で、呼吸器系ウイルスは主にエアロゾルを介して感染することを知っていた。そこで、同僚と私はスーパースプレッダー現象に共通する危険因子を探し、より効果的な公衆衛生メッセージを考えた。このメッセージには、SARS-CoV-2がエアロゾルを介して伝播する可能性があるという早めの指摘が折り込まれた

そこで、密閉、密集、密接に接触する環境という「3C(3密)」を警戒するようになった。他国が消毒に力を入れる中、日本ではカラオケ店やナイトクラブ、屋内での食事など、リスクの高い行為を避けるように呼びかけ、大々的に情宣した。その結果、多くの人々がそれに従った。アーティスト、学者、ジャーナリストで構成される委員会は、2020年の日本の流行語大賞に「さんみつ (sanmitsu)」を選定した。

私たちは、パンデミックの発生以来、スーパースプレッダー現象がどのように異なるかを追跡してきた。他国では、経済的な理由から感染制限を完全に解除し、「通常の状態に戻る」ことを試みているが、再び感染者が急増し、多数の死者が出ている。特権階級や免疫力のある人たちだけを助ける単純な解決策は、弱い立場の人々がそのような政策の矢面に立たされる一方で、「ニューノーマル」として受け入れられることはないのである。

現在のデータは、日本国民が適応していることを示唆している。4月下旬から5月上旬にかけて、日本ではゴールデンウィークがあった。今年は、飲食店の閉店時間やアルコール提供の有無など、特別な制限はほとんどなかった。人出も増えたが、流行前の数年に比べれば少なく、風通しの良い場所を確保するなどの注意事項が強調された。以前の大流行では、感染者が減ると人々は元の状態になり、次の大流行を促す結果となった。しかし、今年の初めに急増した後の行動は、制限的な措置が講じられていないにもかかわらず、今までとは異なっているように思われる。

状況はより複雑になってきている。ワクチンの普及率が高く、オミクロンの致死率が低いため、患者が急増しているにもかかわらず、人々は厳しい措置を受け入れることを躊躇している。特に日本のような高所得国では、ブースターワクチン、抗ウイルス剤、より良い臨床ケア、公共施設の換気を把握するためのCO2モニターなどの公衆衛生対策など、より多くの介入方法が可能だ。

しかし、ウイルスを一掃する銀の弾丸はない。確かに、日本の対応は完璧ではなく、批判もある。確かに、日本の初期検査能力は限られていたが、広範囲な検査をするだけでは感染の抑制には十分ではない

科学者と政府のアドバイザーは、長期的な視点での適切なバランスがまだわかっていないという事実に取り組まなければならない。彼らは、ウイルスと人々の行動が変化することを理解し、そのような変化の展開に応じて勧告を調整しなければならない。

ウイルスの脅威と無縁だった時代を懐かしむ人々によって、「出口戦略」や「元通り」といったフレーズがしばしば使われる。しかし、私たちは今、正常な状態に戻っているわけではない。各国は、感染の抑制と社会・経済活動の維持の最適なバランスを追求し続けなければならない。どのように?文化、伝統、法的枠組み、既存の慣行など、手元にあるあらゆる手段を用いて、世界中の人々の苦しみを最小限に抑えるのだ。

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翻訳は以上です。

押谷記事の冒頭にある、日本の一人当たりの患者数および死亡数は、他のG7諸国と比較して著しく少ないというのは事実です。しかし、世界全体や東アジア・西太平洋諸国と比べて優れているかと言えば、必ずしもそうとも言えません。

現時点での日本の人口当たりの感染者数は世界131位で、ほぼ世界平均です。日本より下位にある東アジアの国としては順にタイ、フィリピン、ラオスインドネシアミャンマー、中国が並び、ネパール、インドも日本より下位です。日本の人口当たりの死者数は若干順位を下げ、世界148位です。これより下位に位置する東アジア・西太平洋諸国としては、順にシンガポールニュージーランド、台湾、ラオス、中国があります。

押谷記事で抜けているのは、他のG7諸国と比べて日本は唯一オミクロン流行で死者数を増やしてしまったことです。図1に示すように、世界平均と比べても、日本は第6波以降で被害を拡大していることがわかります。つまり、過去に学ばず、対策に生かすことをしてこなかったということの現れかと思います。

当初からの最大の悪手であった検査抑制策がたたり、第6波では検査資源不足まで引き起こし、挙げ句には全国に向けて「検査を増やすな」という号令まで出したこと(→国が主導する検査抑制策)によって、患者の発見と治療の遅れに繋がったことは否めないでしょう。その結果、オミクロン変異体の特性も見誤ったことと合わせて、最大の死亡数になったと言っても過言ではありません。

図1. 日本と世界におけるCOVID-19感染者数(上)と死者数(下)の推移(Our World in Dataより転載).

このように、第1波から第6波まで一貫した検査抑制策が、日本の被害を大きくしてしまったことは疑いようのない事実だと思います。押谷記事の後半部分にある「日本の初期検査能力は限られていたが、広範囲な検査をするだけでは感染の抑制には十分ではない」というのは、検査の乏しさを彼自身が認めている言述だと思います。同時に、「検査だけでは感染の抑制には十分でない」と飛躍した引用をし、検査抑制を正当化しているともとれます。これは、いわゆるストローマン論法であり、詭弁です

この押谷記事で私が最も驚いたのが「SARS-CoV-2がエアロゾルを介して伝播する可能性があるという早めの指摘が織り込まれた」という部分です。これは本当でしょうか。ここで2020年2月24日の専門家会議の見解 [2] を見てみましょう(図2)。

図2注2に示すように、「飛沫感染接触感染が主体です。空気感染は起きていないと考えています」とあります。つまりエアロゾル感染(空気感染)を当初から考慮していたということはこの文章からは読み取れません。むしろ空気感染を否定しているともとれます。専門家会議や分科会は、つい最近までエアロゾル感染を「マイクロ飛沫感染」と言っていたくらいですから、当初からエアロゾルで伝播するということを考えていたとは到底思えません。

図1. 専門家会議による新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解(これまでに判明してきた事実、2020年2月24日)[2].

また、図2注1、注3、注4は、症状と感染とは相関しないこと、無症状感染者から伝播する可能性があることを認めながら、PCR検査抑制(重症になるそうな患者への限定使用)を正当化していることが読み取れます。

記事にもあるいわゆる「3密対策」は日本発のオリジナルとして評価すべきものと思いますが、それをエアロゾル感染や検査と結びつけられず、国民へのリスクコミュニケーションとして十分に機能させられなかったことは反省すべき点です。

このように、押谷記事は「3密対策」や「正常に戻っているわけではない」という正論の中に、従前対策への無反省のままに誤謬、詭弁、ウソが巧妙に折り込まれ、憲法まで持ち出して、自説の正当化に終始しているというのが印象です。World Viewというこの記事ですが、世界のネイチャーの読者の目にはどのように映ったでしょうか。

引用文献・記事

[1] Oshitani, H.: COVID lessons from Japan: the right messaging empowers citizens. Nature 605, 589 (2022). https://doi.org/10.1038/d41586-022-01385-9

[2] 厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解. 2020年2月24日 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00006.html

引用したブログ記事

2022年2月14日 国が主導する検査抑制策

2020年5月30日 専門家会議の5月29日記者会見とその記事への感想

2020年4月19日 感染症学会のシンポジウムを視聴して思ったこと

2020年4月13日 COVID-19に関するNHKスペシャルを観て

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

CDCの研究:COVID-19生存者の20%以上が長期症状を経験

米国疾病管理予防センター(CDC)は、最近、long Covid に関する大規模な研究の結果を発表しました [1]。Long Covid は、SARS-CoV-2の初感染後、急性症状の回復後に、数ヶ月またはそれ以上続く可能性のある一連の症状を表す用語です。ここでは仮にコロナ長期症状とよぶことにします。

今回のCDCの報告によれば、COVID-19生存者のなかで、65歳未満の5人に1人が、65歳以上の4人に1人が何らかのコロナ長期症状を発症しているとしています(下図)。

この報告のアブストラクトを翻訳して以下に示します。

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●このトピックについて、すでに知られていることは何か?

SARS-CoV-2への曝露および感染者が増加するにつれ、急性COVID-19後に持続的な症状や臓器機能障害を経験し、COVID後の発症患者の報告が増加している。

●この報告での新知見は?

COVID-19生存者は、肺塞栓症または呼吸器系疾患の発症リスクが2倍になる。18-64歳のCOVID-19生存者の5人に1人65歳以上の生存者の4人に1人が、以前のCOVID-19罹患に起因すると考えられる疾患を、少なくとも1つ発症している。

●公衆衛生対策への影響は?

コロナ長期症状の発生率と影響を減らすために、COVID-19の防疫戦略の実施と、COVID-19生存者におけるCOVID後の状態についての日常的な評価が非常に重要であり、特に65歳以上の成人について必須である。

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このCDCによる報告は、ニューヨーク・タイムズ、フォーブス誌などの米メディアに取り上げられ、わかりやすく紹介されています。このブログ記事では、ニューヨーク・タイムズの記事を紹介したThe Indian Expressの記事 [2] を翻訳して紹介したいと思います。タイトルは、”More than 1 in 5 adult Covid survivors in US may develop long Covid, CDC study suggests"「CDCの研究によれば、米国の成人Covid生存者の5人に1人以上がlong Covidを発症する可能性がある」

以下翻訳文です。

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米国疾病対策予防センターの大規模な新規研究によると、米国における65歳未満の成人Covid生存者の5人に1人が、コロナ長期症状(long Covid)と考えられる健康状態を少なくとも1回は経験していることがわかった。65歳以上の患者の場合は、その数はさらに多く、4人に1人である。

この研究論文の著者であるCDCのCOVID-19緊急対応チームのメンバーは、連邦保健機関がコロナ長期症状の問題をいかに深刻にとらえているかを示すために、「COVID-19生存者のCovid後の状態について日常的に評価する」ことを推奨している。

コロナ長期症状(long Covid)は、最初のコロナウイルス感染後、数ヶ月またはそれ以上続く一連の症状を表す用語である。研究者らは、心臓、肺、腎臓を含む多くの異なる臓器にCovid後の健康問題があることを確認している。また、血液循環、筋骨格系、内分泌系にも問題があり、消化器系、神経系、精神系の症状も確認されている。

65歳以上、65歳未満のどちらの年齢層でも、Covid患者は非感染者に比べて、肺塞栓症を含む呼吸器症状や肺の問題を発症するリスクが2倍であることがわかった。65歳以上のCovid後の患者は、腎不全、神経疾患、およびほとんどの精神疾患を発症するリスクが、若いグループよりも高かった。

VAセントルイス医療システムの研究開発主任で、セントルイスワシントン大学の臨床疫学者であるジヤド・アルアリ(Ziyad Al-Aly)博士は、この研究には参加していないものの、「この研究結果を見て、臓器機能障害の広さと問題の大きさを改めて認識し、気が重くなった」と述べた。

このCDCの研究では、約200万人の電子カルテを評価し、コロナウイルスに感染した人とそうでない人を比較している。Covid感染後に最も多く見られた症状は、年齢に関係なく、呼吸器系の問題と筋骨格系の痛みであった。

アル・アリは、この研究結果について、「潜在的には、何百万人もの人々が新たに糖尿病、心臓病、腎臓病、神経学的問題を抱えるようになる可能性がある。これらは生涯続く病態であり、確かに管理は可能だが、治るというものでもない」と述べている。

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翻訳は以上です。

筆者あとがき

コロナ長期症状については少しは理解していたつもりですが、発生率が20%以上というCDCの報告は、あらためて衝撃的です。CDCは、コロナ長期症状の発生とその影響を抑制するために、あらためて防疫戦略の立て直しが必要であることを述べています。つまり、急性の健康被害はもとより、コロナ長期症状を抑えるためには、感染しないことが重要だということです。

翻って日本の状況はどうでしょうか。コロナ長期症状の人がどのくらいいるのか、科学論文も公的な報告もありません。COVID-19については、もはや収束気味のような雰囲気すら感じられますが、もちろん全く終わっていません。いまなお、1日あたり数万人の新規陽性者と数十人の死亡者が出ています。日本は、防疫戦略については誠にお粗末の一言であり、ましてやコロナ長期症状抑制を目指した方針・戦略については皆無でしょう。オミクロン流行で最悪の被害を出した日本ですが、コロナ長期症状でも被害拡大しないことを望みたいものです。

引用文献・記事

[1] Bull-Otterson, L. et al.: Post–COVID Conditions Among Adult COVID-19 Survivors Aged 18–64 and ≥65 Years — United States, March 2020–November 2021. MMWR 71, 713–717 (2022). https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7121e1.htm

[2] Belluck, P.: More than 1 in 5 adult Covid survivors in US may develop long Covid, CDC study suggests. The Indian Express May 25, 2022. https://indianexpress.com/article/lifestyle/health/more-than-1-in-5-adult-covid-survivors-in-us-may-develop-long-covid-cdc-study-suggests-7935844/

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

マスクをやめる、もちろん検査もしない?

日本では、ここにきて、にわかに脱マスク論が盛んになってきました。脱マスクに「メリハリをつけて」という言葉も添えられています。海外のように、マスク着用を義務化、時間が経ったら義務化を解除、というならメリハリのあるわかりやすい話ですが、日本は推奨はされてはいても、元々義務化されてはいませんので、メリハリも何もないでしょう。みなさん、自主的に着用しているわけです。

専門家の説明も、対人距離が十分にとれる場合や会話が少なければマスクをしなくともよいという、いずれも定性的な曖昧な表現です。もっと定量的で具体的な説明にしてほしいところです。

なぜ、このタイミングで脱マスクなのか、はっきり言ってよく分かりません。ワクチン接種が進んだとは言え、感染状況をみても、オミクロン流行で過去最多の感染者数と死者数を記録し、今なお3万人前後の新規陽性者数と数十人の死亡者を毎日出しています。この感染者の統計情報もはっきり言って信頼性がありません。行政検査は減り続け、PCR検査の診療点数の引き下げの影響を受けて民間検査も減り、元々感度の悪い迅速抗原検査はオミクロンに対してはさらに感度が低下し、その上で検査陽性率は今なお30%前後と高いからです。

今日テレビでは、東北大学大学院教授小坂健氏が、現在の感染状況やオミクロンが重症化しないことなどを鑑みて脱マスクに踏み切ったということを述べていましたが、上記のように、被害は過去の波と比べても顕著な状況であり、今ひとつ説得力がありません。私は以下のようにツイートしました。

メディアも「ワクチン接種」や「重症化リスク」などを挙げながら、脱マスク論を展開しています。たとえば、産經新聞 [1] は以下のように伝えています。

ワクチン接種が進み、コロナ感染による重症化リスクは低くなっている。それでも、日本人が屋外ですらマスクを着け続けるのは「みんながそうしているから」という同調圧力があるからだ。

ここでは同調圧力という言葉も出てきていますが、マスク着用の「同調圧力」はあるとしても、国民はまず自主的に着用しているところが大きいのではないでしょうか。逆に学校におけるマスク着用については、「脱マスクをしなければ」という同調圧力さえ感じられます。

このような日本における脱マスク論を聞いていると、マスク一辺倒の話になっていて、感染対策全体のバランスが置き去りにされていることに気づきます。特に検査というツールがすっぽり抜けていることがわかります。日本は当初からPCR検査抑制論が幅を利かしてきた経緯がありますが、もちろん「検査もしない」が、最後の砦である「マスクもしない」という状況になりつつあります。

脱マスクでは欧米が先行しているイメージがありますが、米国ではマスク着用を復活させることも出てきたり、当局(米国疾病管理予防センター、CDC)が検査をはじめとするしっかりとした感染対策の指針を出しているところは注視すべきでしょう。学校における検査の指針もその一つです [2]下図)。

日本では、このような学校に対する指針はありません。それこそ、脱マスク一辺倒の話になっていて、検査など望郷の彼方という感じです。

ここで、CDCの"School Testing for COVID-19"にある概要を翻訳して、以下に示します。

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幼稚園から高校までを通じて、学校を休むことなく、生徒と教職員がCOVID-19から健康で安全に過ごせるように安全対策をとることが非常に重要である。重要な対策の1つは、学校での定期的なCOVID-19検査である。

ワクチン接種、物理的な距離、および適切なマスクの着用と併用することで、学校での定期的なCOVID-19検査は以下のことを可能にする。

 ●COVID-19の地域的な広がりを抑え、学校を開いて生徒を教室にとどめ、生徒と教職員を保護するのに役立つこと

●学校がCOVID-19の症例を早期に発見し、発生を未然に防ぐための早期の警告

●COVID-19検査を受けることができない家族に、検査を受ける機会の提供

●対面学習やその他の活動を継続することで、生徒、保護者、学校スタッフの信頼を増すこと

CDCは、地区内の学校でCOVID-19検査プログラムを実施し、保護者や職員のプログラムへの参加を支援・奨励するよう要請する。

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以上が簡単に翻訳したものですが、このCDCのページには動画の説明もあります(以下)。

www.youtube.com

以上、日本における昨今の脱マスク論議について、個人的所感を述べました。マスクを外す代わりとして、検査に言及した専門家はこれまで皆無です。パンデミックは、もちろんまだ終わっていませんし、コロナ長期症状(long COVID)はもとより、最近では原因不明の小児肝炎やサル痘もあります。脱マスク論も含めて、国や専門家にはより慎重な感染対策の議論を望みたいものです。

引用文献・記事

[1] 五十嵐一:脱マスクはなぜ必要?子供へのリスク直視を 大阪大特任教授・大竹文雄氏. 産經新聞ニュース. 2022.05.19. https://www.sankei.com/article/20220519-P77GN7P5O5PSDG54ENOZIJJFTQ/

[2] CDC-Centers for Disease Control and Prevention: School Testing for COVID-19. Updated Mar. 24, 2022. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/community/schools-childcare/school-testing.html

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

小児急性肝炎にSARS-CoV-2のスーパー抗原が関わる?

2022.05.16更新

先のブログで記事で、私は、いま世界的に注目されている原因不明の小児急性肝炎について新型コロナ感染(長期症状)との関係を考えるべきではないかという見解を示しました(→世界的な謎の小児肝炎はコロナ関連症状か)。以下のように、ツイッターでもその見解を示しました。

そうしたら、つい最近、「小児急性肝炎についてSARS-CoV-2スーパー抗原を検討すべき」という内容の論説(書簡)がランセット系雑誌の一つに掲載されているのを見つけました [1](下図)。スーパー抗原とは、抗原のなかでも免疫反応に過剰な刺激を与えて、免疫の主役となるT細胞を異常に増殖させ、多大な炎症をもたらすものを言います。スーパー抗原としては、ブドウ球菌の毒素(エンテロトキシン)が有名ですが、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質にもこのモチーフがあることが明らかにされています [2, 3]

当該ランセット論説 [1] は短い書簡なので、ここで翻訳して紹介したいと思います。以下、筆者による翻訳文です。適宜引用されている文献も示します。

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最近、英国、欧州、米国、イスラエル、日本において、重篤急性肝炎を発症した小児患者の報告がなされている。ほとんどの患者は消化器症状を呈し、その後黄疸に進行し、場合によっては急性肝不全に至る。これまでのところ、一般的な環境暴露は見つかっておらず、感染性媒体が最も有力な原因であろう。

これらの患者では肝炎ウイルスA、B、C、D、Eは見つかっていないが、英国で重症急性肝炎の検査を受けた小児の72%からアデノウイルスが検出され、英国でその亜型診断された18例のうち、すべてがアデノウイルス41Fと同定された。これは珍しいサブタイプではなく、主に幼児や免疫不全の患者が罹患する。しかし、私たちの知る限り、アデノウイルス41Fが重症急性肝炎を引き起こすことは、これまで報告されていない。

SARS-CoV-2は、英国で報告された症例の18%で確認されており、データがあるイングランドでの97例のうち11例(11%)が入院時にSARS-CoV-2陽性であり、さらに3例が入院前8週間以内に陽性となった。血清学的検査を継続することで、過去にSARS-CoV-2に感染した、あるいは現在感染している重症急性肝炎の小児がより多く見つかると思われる。イスラエルの患者12人のうち11人は、最近数ヶ月の間にCOVID-19に感染していたと報告されている [4]。また、報告された肝炎の症例のほとんどは、COVID-19ワクチンの接種対象にはならない幼い患者だった。

SARS-CoV-2に感染すると、ウイルスのリザーバーが形成される可能性がある [5]。このウイルスが消化管内に持続して存在すると、腸管上皮を通過してウイルスタンパク質が繰り返し放出され、免疫活性化を引き起こす可能性がある。このような免疫活性化の繰り返しは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の中にある、ブドウ球菌エンテロトキシンBに類似したスーパー抗原モチーフによって媒介されている可能性があり [2]、それは広範囲かつ非特異的にT細胞の活性化を誘発すると考えられる。このスーパー抗原を介した免疫細胞の活性化は、小児の多系統炎症症候群の原因メカニズムとして提唱されている [5, 6]

急性肝炎は多臓器不全症候群の小児において報告されているが、他のウイルスの共感染については調べられていない。最近報告された小児の重症急性肝炎の症例についての私たちの仮説は、過去にSARS-CoV-2に感染し、ウイルスリザーバーを保有する小児の腸管親和性によるアデノウイルス感染の結果ではないかということだ。

マウスでは、アデノウイルス感染により、その後のブドウ球菌エンテロトキシンBを介した毒性ショックが感作され、肝不全に至り死亡している [7]。この結果は、アデノウイルスによって誘発された1型免疫の偏りで説明された。すなわち、ブドウ球菌エンテロトキシンBに反応して、過剰なIFN-γ産生とIFN-γを介した肝細胞のアポトーシスを引き起こした結果による。

現在の状況に置き換えて考えれば、急性肝炎の小児について、ふん便中のSARS-CoV-2の残存、T細胞受容体の偏り、IFN-γのアップレギュレーションを調べることが求められる。それらは、アデノウイルス41Fに感作された宿主におけるSARS-CoV-2のスーパー抗原機構の証拠となり得るためだ。

もし、スーパー抗原による免疫活性化の証拠が見つかったら、重症急性肝炎の小児において免疫調節療法を検討すべきである。

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以上が翻訳文です。

筆者あとがき

いまだ原因不明とされる世界的な小児急性肝炎ですが、SARS-CoV-2感染とそのウイルスリザーバーの影響を示唆する見解が増えています。もし、それが証明されるようなことになると、これまで以上にSARS-CoV-2は厄介なウイルスという認識になるでしょう。Long COVID(コロナ長期症状)のリスクもあり、現段階での風土病的な風潮も払拭すべきだと思います(→Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう)。

20022.05.16更新

このブログ記事を書いた後に、米国の研究チームが、COVID-19に感染した小児の肝臓障害について、メドアーカイブプレプリント [8] として報告しているのを目にしました。アラニンアミノトランフェラーゼ(ALT)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)などをマーカーとして調べたものです。

私たちの健康診断の血液検査でもお目にかかる ALT(GPT)や AST(GOT)の酵素活性は、肝臓障害のマーカーとして使われています。健康な場合、血液中には少量しか含まれませんが、肝細胞が変性・壊死すると、AST、ALTが循環血液中に流れ出して高い活性が検出されます。

研究チームは、COVID-19に罹った小児は、他の呼吸器感染症に感染した小児と比較して、ALT または AST の上昇(ハザード比またはHR:2.52、95%信頼区間またはCI:2.03-3.12)および総ビリルビン(HR:3.35、95% CI:2.16-5.18 )で表されるリスクが大幅に上昇した、と報告しました。これらの結果は、小児患者におけるCOVID-19の急性および長期の肝障害を示唆するものです。

研究チームは、本研究で報告したCOVID-19関連後肝障害が、現在増加している原因不明の小児肝炎症例と関連している可能性を示唆しながらも、これを明らかにするためにはさらなる研究が必要であると述べています。

引用文献

[1] Brodin, P. and Arditi, M.: Severe acute hepatitis in children: investigate SARS-CoV-2 superantigens. Lancet Gastroenterol. Hepatol. published May 13, 2022. https://doi.org/10.1016/S2468-1253(22)00166-2

[2] Cheng, M. H. et al.: Superantigenic character of an insert unique to SARS-CoV-2 spike supported by skewed TCR repertoire in patients with hyperinflammation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 117, 25254-25262 (2020). https://doi.org/10.1073/pnas.2010722117

[3] Brown, M. and Bhardwaj, N.: Super(antigen) target for SARS-CoV-2. Nat. Rev. Immunol. 21, 72 (2021). https://doi.org/10.1038/s41577-021-00502-5

[4] Efrati, I.: Israel examining 12 cases of kids' hepatitis after WHO warning. HAARETZ April 21, 2022. https://www.haaretz.com/israel-news/israel-examining-12-cases-of-kids-hepatitis-after-who-warning-1.10752779

[5] Brodin P.: SARS-CoV-2 infections in children: understanding diverse outcomes. Immunity 55, 201-209 (2022). https://doi.org/10.1016/j.immuni.2022.01.014

[6] Porritt, R. A. et al.: HLA class I-associated expansion of TRBV11-2 T cells in multisystem inflammatory syndrome in children. J. Clin. Invest. 131, e146614 (2021). https://doi.org/10.1172/JCI146614

[7] Yarovinsky, T. O. et al.: Increased sensitivity to staphylococcal enterotoxin B following adenoviral infection. Infect. Immun. 73, 3375-3384 (2005). https://doi.org/10.1128/IAI.73.6.3375-3384.2005

[8] Kendall, E. K.: Elevated liver enzymes and bilirubin following SARS-CoV-2 infection in children under 10. medExiv Posted May 14, 2022. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.05.10.22274866v1

引用したブログ記事

2022年5月14日 Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう

2022年5月5日 世界的な謎の小児肝炎はコロナ関連症状か

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう

現地時間の昨日(5月13日)、米ワシンントン・ポスト紙に、「Long COVIDのリスクを無視するのはやめるべきだ」というオピニオン記事が掲載されました(下図) [1]。筆者はペンシルバニア大学のエゼキエル・J・エマニュエル(Ezekiel J. Emanuel)教授です。彼は腫瘍学者で医療倫理学者であり、バイデン-ハリス政権移行時のCOVID-19諮問委員会の委員を務めた人物です。

日本では、いま、海外のコロナに関する数々の規制解除を紹介しながら、脱マスクの論調が盛んになっていますが、一方で、米国でも上記のような意見があるということで、このブログで全文翻訳して紹介したいと思います。

以下、筆者による翻訳文です。

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「COVID-19のパンデミックは終わった」。マイアミで開催されるF1のために詰めかけ、バスケットボールのスタジアムはチケット完売し、レストランをマスクなしで満席にするとき、ほとんどの米国人はそう信じているように見える。

この世間一般の通念は重大な誤りである。私はこれからもN95マスクを着用し、飛行機や電車での移動を制限し、屋内のレストランでの食事は避けるつもりでいる。教えるときはHEPAフィルターをかけ、学生にもN95マスクの着用を義務付けるつもりだ。

なぜか?その大きな理由は long COVIDコロナ長期症状)だ。

多くの米国人は、私のことを馬鹿か愚か者だと思うだろう。彼らは、米国人の約60%がすでにオミクロンや他のコロナウイルス変異体に感染していることを示唆する最近のデータを指摘するだろう。つまり、COVID は風土病なのだ、と彼らは主張するはずだ。避けられないことは受け入れるしかないということだ。

この考え方は、こうであってほしいという願望がデータを無視した姿である。COVID-19が単なる風邪や軽いインフルエンザでないことは、豊富な証拠が示している。深刻な感染症なのだ。実際、オミクロンは初期の変異体よりも軽症であるという考え方は間違っていた。それは、致命的なものだった。

しかも、心配な合併症を伴う。もちろん、現在ではワクチンや治療薬など、急性疾患や死亡を防ぐための効果的な介入方法がある。しかし、最初の感染後に起こる合併症については、まだ十分に分かっていない。

コロナ長期症状は、2020年5月に最初に記述されたものの、この症状のコンセンサスとなる定義すらない。しかし、ブレイン・フォグ、最小限の労力で起こる疲労、極端な息切れ、不眠、めまいなど、多くの壊滅的な症状が数カ月間続くことが明らかになっている。

コロナ長期症状のリスクが低いのであれば、マスク着用などの予防策をやめるべきということには同意する。しかし、正確な頻度はわからないが(国立衛生研究所や生物医学研究者の怠慢)、決して稀な症状ではないことは明らかだ。推定値は感染の0.5%から30%まであり、よく引き合いに出されるリスクは10%である。さらに、初感染時の重症度とコロナ長期症状の発症確率には相関関係がないと思われる。症状が軽くても苦しんでいる人はたくさんいる。

ワクチンはコロナ長期症状のリスクを減らすのに役立つように思えるが、そのリスクが珍しいものになることはない。ここでもデータに大きなばらつきがある。退役軍人省の研究では、ワクチン接種によってリスクが13%低下すると推定され、英国の2つの研究では、リスクが40〜50%低下すると推定されている。最も優れた研究では、24万人以上の米国人患者を対象としたもので、ワクチンによってコロナ長期症状のリスクをおよそ17%から3%に減らすことを示唆している。これは珍しいことではない。

さらに悪いことに、この病気に対する治療法がない。NIHは、抗ウイルスの長期使用、免疫調整剤、抗コレステロール剤や抗うつ剤のような闇雲な治療法を試みているが、これらを評価するための強固な臨床試験を迅速に実施するプラットフォームをまだ確立していないのである。

そして、「より長い」long COVID もあるかもしれない。感染から数ヶ月あるいは数年後に心臓発作を起こしたり、糖尿病を発症したりするリスクがあることが分かってきたところだ。COVIDに罹った妊婦は、入院、集中治療室への入院、早産のリスクが高まった。また、勃起不全は新たに報告されたリスクだ。COVID 罹患が脳に及ぼす長期的な影響については十分に確立されていない。しかし、うつ病灰白質の喪失が記録されており、それらがどの程度深刻で一般的なものになるかはわかっていない。

私は心配性ではない。喜んでリスクは取るし、家族に言わせれば、取り過ぎかもしれない。私は電動バイクに乗っているが、このバイクで死ぬ確率は10万分の1だ。交通事故の死亡確率は、通常の年で1万6,000分の1である。

しかし、33分の1という確率(あるいはコロナ長期症状で3%の確率)で、ブレイン・フォグや衰弱性の疲労、息切れなどの深刻なコロナ後の症状が出るというのは、簡単な予防策をやめる引き換えにしては高すぎる。

先週、食品医薬品局(FDA)がジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの使用を制限したのは、約1900万回接種のうち60人が血液凝固症候群を発症し、9人が死亡したためだということを考えようではないか。これは、30万分の1の確率で血液凝固症候群が起こり、200万分の1の確率で死亡することになる。同様に、大きな警戒心を抱かせる原因となったファイザーワクチンとモデナワクチンによる若年成人男性の心筋炎のリスクは、それぞれ約15,000分の1、4,000分の1である。コロナ長期症状のリスクは、これらのどの結果よりもはるかに大きいのだ。

また、重度の慢性症状を抱える何百万人もの米国人が、働くことができず、医療面でのケアやサポートを必要としていることも思い起こすべきだ。この結果、医療保険障害者手帳の支払いで、私たち全員が負担することになる。COVID が過去のものであるかのように振舞うことは、将来への深刻な負担を生むことになるのだ。

皆と同じように、私もこのパンデミックの悪夢が終わることを望んでいる。しかし、このまま精神的に衰弱していくのも怖い。それを避けるために、マスクの着用やHEPAフィルターの稼働などの防護策を続けることは、さほど無理なことではないだろう。

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以上が翻訳全文です。

日本のメディアは、あたかもCOVID-19が風土病化したような感じで、脱マスクなどの緩和策の方向を盛んに伝えていますが、海外でもこのような記事があることも伝えてほしいと思います。

引用記事

[1] Emanuel, E. J.: Opinion Stop dismissing the risk of long covid. Washington Post. May 13, 2022.  https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/05/12/stop-dismissing-long-covid-pandemic-symptoms/

                    

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