Dr. Tairaのブログ

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COVID-19の年代別死者数の推移

カテゴリー:感染症とCOVID-19(2023年)

はじめに

COVID-19パンデミックでは、日本は流行波が襲来する度に健康被害と犠牲を大きくしてきたのは周知の事実です(図1)。特にオミクロン波が訪れて以降、感染者数が爆増し、第8波で死者数は最多となりました。これに対して、COVID-19は致死率が下がっているという錯視効果(→コロナ被害の認知的錯覚による誤解)で被害の実態を矮小化する意見や、「死んでいるのは高齢者」「寿命に近い人が後押しされて死んだだけ」という、言わば命の差別的論調も枚挙にいとまがありません。

これらはいずれも、COVID-19がこれまでもたらした、これから及ぼす可能性のある社会への悪影響とその対策を考える上では何の意味もない、むしろ害になる意見です。いまは、急性パンデミックのみならず、COVID-19のより本質であるこれからの社会の集団的障害を考えることが急務なのです [1]。何よりも、5類化に伴い疫学情報が不可視化されたいまでさえ、第9波流行の猛威の状況があちこちからこぼれ出てくる状況なのですから。

図1. 日本におけるCOVID-19死者数の推移(NewsDigestからの出典、現在このサイトは閉鎖).

日本ではオミクロン波で犠牲者数が最多になりましたが、実は第7、8波流行での死者数の増加割合においては都道府県で大きな違いがあることは、前回のブログ記事で指摘しました(→都道府県で異なるオミクロン死亡割合の要因は?)。COVID-19の致死率が高いのは圧倒的に高齢者層ですが、流行波ごとの死者数は年代別でも異なるはずです。しかし、このような観点から述べた論文、記事、報道は、これまでのところほとんど見当たらないようです。

COVID-19の年代別死者数については、厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報」のオープンデータが利用できます。ここでは、このデータソースを使って、 年代別死者数の推移について述べたいと思います。

1. 年代別のCOVID-19死者数の推移

データ入手が可能な、2020年9月2日の週を基点とする2023年4月25日までの週単位における年代別の累積COVID死者数の推移を図2–6に示します。各世代の傾向をよりわかりやすくするために、縦軸の累計死者数はノーマライズしてあります(各世代のグラフで最大値が大きく異なることに注意)。なお、累積のグラフで一部値が下がっているのは、統計データの集計の途中で下方修正があったためと思われます。

一見してわかることは、世代によって死者数の推移パターンの形が異なるということです。10代や10歳未満の小児においては、70週目前後(2022年1月のオミクロン第6波流行)から、急激に死者数が増加していることがわかります(図2)。

図2. 10歳未満(左)および10代(右)の累計COVID-19死者数の推移(2020年9月2日〜2023年4月25日までの週単位の累積数).

一方、20代では40週(2021年の第4波流行)あたりから波打ちながら急激に伸びていることがわかります(図3左)。30代から50代までの特徴は、55週目あたりで一気に死者数が増えていることです(図3右、図4)。これは2021年の第5波(デルタ波)流行によるものです。

図3. 20代(左)および30代(右)の累計COVID-19死者数の推移(2020年9月2日〜2023年4月25日までの週単位の累積数).

図4. 40代(左)および50代(右)の累計COVID-19死者数の推移(2020年9月2日〜2023年4月25日までの週単位の累積数).

60-70代でも第5波流行による死者数の増加が見られますが、下の世代と比べるとその影響は小さいです(図5)。そして高齢世代の上にいくほどオミクロン流行(70週目以降)での死者数の伸びが顕著になっています(図5、図6)。

図5. 60代(左)および70代(右)の累計COVID-19死者数の推移(2020年9月2日〜2023年4月25日までの週単位の累積数).

図6. 80代(左)および90歳以上(右)の累計COVID-19死者数の推移(2020年9月2日〜2023年4月25日までの週単位の累積数).

2. 各流行波における年代別の死者数

次に、具体的に各流行波ごとの年齢別死者数を見ていきたいと思います。各流行波の範囲を厳密に決めることは困難なので、流行の谷の部分で区切った6つの週期間で見ることにしました。各流行波(6つの週期間)における年代別のCOVID-19死者数を図7–10に示します。このなかで、69〜94週目は第6波と次に来た小さな山を6.5波(図1参照)として示してあります。上記と同じく、各世代の傾向をよりわかりやすくするために、縦軸の死者数はノーマライズしてあります。

死者数の推移パターンの特徴の一つとして、当初ほとんど亡くなることはないと言われてきた20代以下の若年・子ども世代において、流行波を経るごとに死者数が増えていることです(図7)。もちろん、総死者数のなかでは圧倒的に70代以上高齢者が占め(図10)、20代以下のそれは微々たる数字であるわけですが、それでも第8波でこれらの世代の最多の死者数になっていることは注視すべき事実でしょう。そして、10歳未満の小児においては、むしろ第7波で最多になっていることも特徴的です。第7波で最多の死者数を記録した世代はほかにはありません。

図7. 流行波ごとの週期間における20代以下の累計COVID-19死者数.

一方、30-50代では、第5波流行による死者数が最多であり、次いで第8波で多くなっています(図8、図9青グラフ)。60代以上では第8波で最多の死者数になっており(図9赤グラフ、図10)、70代以上に至っては第5波での死者数はむしろ小さくなっています(図10)。なお、第6、8に比べて第7波の週期間で死者数が少なくなっているのは、カウントしている週期間が17週と、前後の流行波の期間(26週)より短いことが影響しています。

図8. 流行波ごとの週期間における30–40代の累計COVID-19死者数.

図9. 流行波ごとの週期間における50–60代の累計COVID-19死者数.

図10. 流行波ごとの週期間における70代以上の累計COVID-19死者数.

3. 流行波による年代別の死者数の違いの理由

COVID-19の致死率は当初の4%から現在では0.1%程度にまで低下しています。しかし、特にオミクロン以降(第6波以降)、SARS-CoV-2ウイルスの感染力と免疫逃避能が高くなってきましたので、その分感染者数が増え、母数が大きくなった分、亡くなる人も増えてきたと言えます。それが如実に反映されているのが図1です。

ただ、上記したように、流行波によって年代別の死者数が大きく異なっています。まず特徴的なのは、これはメディアでもよく取り上げられてきたことですが、第5波流行で30–50代の現役世代の死者数が最多になっていることです(図8、9)。この流行をもたらしたデルタ変異体の高い病毒性によって、本来高齢者層に集中する致死的影響が、より下の世代にまで広がった結果だと考えられます。この時期、高齢者層には先行してワクチン接種が行き届き、重症化や死亡を防ぐ効果があった(図10)のに対し、ワクチン接種が間に合わなかったより若い世代に致死的影響が及んだと考えられます。

次に特徴的なのは、20代以下の若年世代の死亡が流行波を経るごとに増加し、第8波において最多になっていることです(図7)。この事実は専門家もメディアもほとんど触れることはなく、もっぱら「第8波で死んでいるのは高齢者だ」と報じられることで、影に隠れた感じになっています。この世代はワクチン接種率が低く、感染者数の増大に応じてその分犠牲が及んだと考えられます。ただ、10歳未満の子どもの死亡が第7波で最大になっていることなどを考えれば、他の要因もあるかもしれません。

高齢者の死者数が第8波で最多になっていることは、これまで何度となくメディアでも取り上げられてきました。この高齢者の死亡が全体の死者数のパターン(図1)に大きく影響していますが、前の記事(→都道府県で異なるオミクロン死亡割合の要因は?)で指摘したように都道府県で累計死者数の推移パターンは大きく異なっていました。地方は図6に近い累積パターンを示す一方、都市圏や沖縄では図4、図5に近いパターンを示しました。つまり、地方では第8波での高齢者が死者数増加、都市圏ではより若い世代の死者数増加が全体のパターンに影響しているのではないかということが考えられます。

ただ、都市圏に比べて地方においてなぜ第8波の死者数の割合が増えているのか、理由はわかりません。高齢化率の影響は全流行波においてあるはずです。高齢化率が高いことはあっても同時にワクチン、ブースター接種率も高いので、第8波の死者数割合の上昇の理由解明については詳細な分析が必要でしょう。

おわりに

専門家やメディアは、オミクロン流行では「致死率や重症率は下がっている」とか「亡くなっているのは高齢者と基礎疾患を持つ人だ」と散々強調してきました。第8波で死者数が最多となったことについて、「高齢者が亡くなっているためだ」とわけのわからない理由も聞こえてきました。高齢者が亡くなっているのは、パンデミック全期間を通じて言えることであり、第8波で死者数が最多になった理由にはなりません。

政府の感染対策の検証もなしに、もっぱら「高齢者が亡くなっている」、「高齢化の日本で高齢者が亡くなることは仕方のないこと」などと短絡的に述べること、致死率や重症化率などの病気の質のみで語ることは、COVID-19の本質と実害を見えなくしてしまいます。実際は、数の上では小さいですが、20代以下の若年世代の死者数も流行を経るごとに増加し、第8波で最多になっているのです。

これらのデータを見ていて感じることは、感染拡大を許し、感染者数の母数が大きくなれば、分子の死者数も大きくなり、自ずから被害は大きくなるということです。この意味で、感染拡大をいかに抑えるか、感染しないようにするかが、当初から重要であることには変わりはありません。これは、COVID-19回復者の将来の健康、長期コロナ症(long COVID)の社会的影響、経済的負担の大きさ [1, 2, 3, 4, 5] を考えてもきわめて重要になります。

最後に、COVID-19の健康被害と犠牲については、専門家によるより詳細な分析を待ちたいところです。

引用文献

[1] Suran, M.: Long COVID linked with unemployment in new analysis. JAMA. 329, 701-702 (2023). https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2801719

[2] Bach, K.: New data shows long Covid is keeping as many as 4 million people out of work. Brookings August 24, 2022. https://www.brookings.edu/articles/new-data-shows-long-covid-is-keeping-as-many-as-4-million-people-out-of-work/

[3] Iacurei, G.: Long Covid has an ‘underappreciated’ role in labor shortage, study finds. January 30, 2023. https://www.cnbc.com/2023/01/30/long-covid-has-underappreciated-role-in-labor-gap-study.html

[4] Joi, P.: Long COVID has had a brutal effect on the workforce, study finds. VaccinesWork January 26, 2023. https://www.gavi.org/vaccineswork/long-covid-has-had-brutal-effect-workforce-study-finds

[5] Alwan, N. and Ayoubkhani, D.: Thousands of people in the UK are out of work due to long COVID. The Conversation May 22, 2023. https://theconversation.com/thousands-of-people-in-the-uk-are-out-of-work-due-to-long-covid-200297

引用したブログ記事

2023年5月20日 都道府県で異なるオミクロン死亡割合の要因は?

2022年9月4日 コロナ被害の認知的錯覚による誤解

       

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