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日本での第9波のなか、下水データは米国での新たな流行の始まりを示す

カテゴリー:感染症とCOVID-19(2023年)

はじめに

今日、COVID-19に関する興味深いウェブ記事 [1] に目が留りました。「日本では第9波流行が席巻する中、下水データは米国での新たな流行の始まりを示す」(As ninth COVID wave sweeps Japan, wastewater data show another surge beginning in the US)という題目の記事です。内容は、米国の新規流行の兆候と昨今の日本における第9波流行に触れながら、日本が感染対策を放棄していることを批判し、合わせて世界的な流行の傾向について警鐘を鳴らしています。

記事の最後には、資本主義社会に否定的な見解をもつ筆者の記述があり、資本主義がもたらす矛盾と破壊という問題について「科学的社会主義の革命的原則で武装した労働者階級だけが、全人類の前に設定された最も緊急な課題に取り組む能力を持っている」と結んでいます。

反体制政党である第四インターナショナル国際委員会(ICFI)のウェブサイトでの掲載なので、当然そのような思想的背景のある記事ということはありますが、COVID-19については的を得た記述だと思われますので、ここで紹介したいと思います。

以下、翻訳文です。

             

過去3週間、バイオボット社が提供したCOVID-19を監視する下水データから、米国におけるウイルス感染数が50%増えたことがわかった。これは大きな増加であり、米国はパンデミックの新たな波の初期段階にある可能性を示している。

科学者であり、疾病モデラーでもある J. P. ウェイランド(Weiland)の推計によれば、これらの下水データは、現在、1日あたりおよそ28万人の感染があることを示している。言い換えれば、米国では毎日およそ1,180人に1人が感染しており、平均感染期間がおよそ10日間であることを考えると、現在118人に1人がCOVID-19に感染していることになる。

公衆衛生当局によるCOVID-19の公式検査やデータ収集、メディアによるパンデミックに関する報道が完全に停止されたことを考えると、個々の科学者の努力に頼ることが不可欠となっている。

この夏の感染者の波は米国だけにとどまらず、日本にも新たな波が押し寄せている。日本の厚生労働省は最近、5,000の定点把握指定医療機関から報告されたCOVID-19感染者の平均数が、5月第1週から7月第1週にかけて4倍に増加したと発表した。今回の流行の震源地である沖縄県の数値は全国平均の7倍である。

世界保健機関(WHO)の西太平洋地域事務所長を務めたことのある尾身茂・日本地域医療機構理事長は、先月の記者会見で「第9波が始まったかもしれない」と述べた。「人との接触が増え、感染者が増えているのは予想どおりだ。感染者数が第8波を超えるかどうかはわからないが、死亡者数を減らし、社会活動を継続させることに注力すべきだ」と語った。

言い換えれば、日本は公衆衛生よりも経済関係を優先させるという 「集団免疫 」政策を続ける一方で、高齢者や社会的弱者を深刻な感染症から守るというリップサービスを行っているのである。

日本で2番目に大きな島であり、最北の都道府県である北海道では、先週5つの高校がCOVID感染のために休校を余儀なくされた。221の医療機関を調べると、深川市と札幌市の患者数が最も多く、前週より10%増加していた。地元当局は、先週末に実施されていた学園祭が、こうした 「屋内イベント」での感染者を増やすのではないかと懸念している。

沖縄の南西に位置する八重山諸島では、島の政治的・文化的中心地である石垣市にある基幹病院が、重度のCOVID感染に苦しむ患者の治療に対応するため、手術や基本的な医療処置といった通常のサービスを制限せざるを得なくなっている。また、600人の職員のうち約10%が、COVID-19感染に対処するため休職している。

沖縄県では、医療センターが定員割れやそれに近い状態にあり、病人や体調不良の患者が、治療のための交通手段や利用可能な医療センターを見つけられないという危機的な状況が続いている。

地元紙「沖縄タイムス」は、最近、豊見城市の友愛メディカルセンターで 「高齢者が倒れ、意識不明の様子だった 」と報じた。消防署は現場に医師を派遣するよう要請し、救急部長が患者の手当てに向かった。このような救急隊が出動する事故は5倍に急増しており、沖縄のような資源に乏しい地域では大変な負担となっている。

山内正直医師は地元紙に対し、「何度も受け入れを拒否した昨夏のような事態は避けたい」と語った。

ある看護師は認めているが、これらの症例はCOVID-19に関連している可能性がある。しかし、もはや無症状の人を検査したり診察したりすることはなく、重症度の高い人を優先的にケアしている状況である。「出口の見えないトンネルの中を歩いているようなものです。正直なところ、コロナウイルスに遭遇しない方が肉体的にも経済的にも楽なのですが、そうも言っていられません」とその看護師は語っている。

日本で3番目に大きな島である九州の他の県では、鹿児島、宮崎、熊本、佐賀などでCOVID感染の増加が報告されている。2022年7月、BA.5オミクロン亜変異体の急増により、日本全国で1日の感染者が26万人を超えた。現在、オミクロンXBB.1.5とXBB.1.16の2つの亜型が支配的であり、これは世界の多くの国で見られることである。

WHOが5月上旬、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の終了を突然かつ非科学的に宣言したのに伴い、日本政府は、COVID-19のサーベイランス・カテゴリーを2類相当から季節性インフルエンザと同等の5類にいきなり引き下げた。これにより、欧米の疾病対策予防センター(CDC)の勧告と同様に、全症例数を報告しない定点把握(Sentinel surveillance)への移行が進められた(下図)。

事実上、毎日のCOVID感染と入院を追跡調査するのではなく、パンデミックの影響は、指定された医療機関での感染率を監視することによってのみ記録されることになる。感染の詳細とその結果は、もはや公衆衛生システムにはわからない。これは、"forever COVID"(永遠にCOVIDを)という政策を推進するためにはたらくということであり、そしてそれは既に "forget COVID"(COVIDを忘れる)に変化しているのである。

実際、日本におけるCOVID-19パンデミックに関する「データで見る私たちの世界」のウェブサイトを見ると、2023年5月10日に「毎日新たに確認されたCOVID-19の症例」が突然終了している。すべてのリアルタイム・サーベイランスが突然終了したとき、現在進行中の感染の波はかなり進行していたことがわかる。

2022年夏、日本全国でCOVIDによる公式死者が1万人を超えた。パンデミックの深刻な追跡調査がすべて終了した2023年5月までに、75,000人近くの日本人が公式記録として死亡した。パンデミックに関連した超過死亡者数は現在、公式発表の約3倍にあたる22万人強と推定されており、その大部分はパンデミックのオミクロン期間の最後の12ヶ月間に発生している。

このような傾向は、日本に大きな影響を与えている。パンデミック開始当初、日本が感染に対して限定的な緩和主義的アプローチをとっていたことを考えると、これはまた、人口におけるSARS-CoV-2に対する抗体の血清保有率が、欧米の半分近くとかなり低いままであることを意味する。

日本の厚生労働省によると、2023年2月までに日本の人口の42.3%が感染していたのに対し、イギリスでは76%であった。つまり、国民全体、特に高齢者や免疫不全者がオミクロン型COVIDに感染しやすい状態がずっと続いていたのである。

このことは、WHOの完全な怠慢と世界的なパンデミック終息宣言がさらに目につくものになる。変異型の進化は衰えることなく続いており、日本と米国における現在の流行は、XBB変異型の組み換えによって引き起こされている。事実上、WHOやCDCなどの世界的な公衆衛生機関は、乾燥地帯の森でくすぶる炎が燃え続ける中、消防士たちを帰宅させてしまったことになる。

6月までに、オミクロンXBB亜変異型は世界で流通しているSARS-CoV-2の95%を占めるまでに増えたが、一方で新たな亜型も出現している。オーストラリアではデルタ型の変異を持つXBC亜型が増加している。EG.5は、スパイクタンパクのF456L変異を持つXBB.1.9.2亜型であり、免疫逃避を増加させる。2023年2月にインドネシアで初めて塩基配列が決定され、2023年3月に米国で初めて観測されたEG.5は、6月までに全変異体の5%を占めるまでに至っている。

2022年6月に南アフリカで初めて確認された変異型XAYは、デルタとオミクロンの組み換えで、2023年初めにヨーロッパ、特にデンマーク流入し始めた。3月末までに、GL.1とXAY.1.1.1がそれぞれ2つの変異を追加してスペインに出現し、5月までにポルトガルアイルランドイングランドウェールズオーストリア、イタリアに伝播した。

しかし、世界的にシークエンス解析が激減しているため、まるで大雪の中で足跡を追うように、ウイルスの進化を追うことは難しくなっている。

ウイルスの塩基配列の決定と追跡により多くのリソースを振り向ける具体的な取り組みがなく、公衆衛生が完全に放棄されていることを考えると、日本の状況はパンデミックの現状における現在の危険性を象徴している。実際、世界中で何百万人もの人々を危険にさらしかねないパンデミックの軌道修正の前触れかもしれない。

これらの警告は、単なる誇張や恐怖を煽るものではない。これらの警告は、パンデミックの初期段階から、そしてこれらの病原体がもたらす危険に対して資本主義政府が行ってきた犯罪的対応について、注意深く分析することによって導き出されたものである。予防原則は、このような病原体やその他の社会的脅威に対する社会的対応に反映される。

しかし、資本主義関係の崩壊が進んでいる現状では、帝国主義大国が、パンデミックや戦争や地球の破壊を食い止めるために、彼らの無秩序で錯乱した努力によってできることはほとんどない。科学的社会主義の革命的原則で武装した労働者階級だけが、全人類の前に示された最も緊急な課題に取り組む能力を持っている。

             

翻訳は以上です。

筆者あとがき

この記事の筆者であるベンジャミン・マテウス博士は医師であり、彼のツイート を見ると政治やCOVID-19について多くコメントしていることがわかります。

この記事のCOVID-19に関する科学的考察は概ね同意できるものです しかし、最後に突然資本主義体制の批判が出てきて、いささか唐突な感じを受けざるを得ません。とはいえ、パンデミックに限らず、気候変動・地球温暖化のようなグローバルな危機に立ち向かうためには、永遠の利潤追求を是としながら経済活動を優先する特質をもつ資本主義体制がきわめて不向きであることも理解できます。非常に興味深く読みました。

引用文献

[1] Mateus, B.: As ninth COVID wave sweeps Japan, wastewater data show another surge beginning in the US. World Social WebsiteJuly 16, 2023. https://www.wsws.org/en/articles/2023/07/17/covi-j17.html

               

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