Dr. Tairaのブログ

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遮断されるパンデミック情報

カテゴリー:感染症とCOVID-19(2023年)

ジョンズ・ホプキンス大学(The Johns Hopkins University)は、COVID-19パンデミックが始まって以来、公に貴重な流行情報を提供してきました。しかし、今年3月10日でこの情報提供を終了したようです。NHKもニュースとして伝えています [1]

ジョンズ・ホプキンス・コロナウィルス・リソース・センター(The Johns Hopkins Coronavirus Resource Center, JHU CRC)のホームページを見ると、CRCの意義と更新終了理由が以下のように記されています(下図、翻訳文を載せます)。

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●JHU CRCは今どうなっているのか?

ジョンズ・ホプキンス・コロナウィルス・リソース・センターは、パンデミックデータをほぼリアルタイムで公に提供し、感染症追跡の新しい基準を確立した。これは、2020年1月22日、システム科学・工学センターと応用物理学研究所が運営するCOVID-19ダッシュボードとして始まった。しかし、この赤い点の地図は、公衆衛生上の大災害を監視するための世界的なハブへと急速に発展していった。2020年3月3日までに、ジョンズ・ホプキンスはこのサイトを、コロナウイルス・リソース・センター(CRC)として知られる生データと独立した専門家による分析の包括的なコレクションに拡大した。これは- ジョンズ・ホプキンス大学・医学部全体の世界的に有名な専門知識を活用した事業である。

●なぜ私たちは止めたのか?

CRCは、3年間にわたり24時間365日体制で運営されてきたが、米国各州の報告頻度が低下したため、データ収集活動を停止することにした。また停止の追加理由として、CRCの活動を終了しても大丈夫なくらいに連邦政府パンデミックデータの追跡も改善している。当初から、この取り組みは米国政府が提供すべきものであった。これは、ジョンズ・ホプキンスがパンデミックが終息したと考えていることを意味しない。そうではないのだ。この機関は、COVID-19に関する最先端の洞察を一般市民や政策立案者に提供するリーダー的な役割を維持することに引き続き尽力していく。詳細は下記を参照いただきたい。

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JHU CRCは、このようなデータベース事業は政府主導でやるべきだと強調しています。連邦政府パンデミックデータの追跡は改善された言っていますが、JHUのデータベースが更新されなくなることは、私たちにとってはきわめて残念であり、心細くなります。

JHU CRCは、「これは、ジョンズ・ホプキンスがパンデミックが終了したと考えていることを意味するものではない」と二度押しで述べています(以下引用)。

This does not mean Johns Hopkins believes the pandemic is over. It is not.

もちろん、パンデミックは継続中です。昨年中に見通しが立つだろうと言わば楽観視していた世界保健機構(WHO)も、いまは慎重な姿勢を崩していません。パンデミックの終息宣言ができるのはWHOのみです。

その意味で、JHU CRC のデータ更新終了は、世界の流行状況を掴むための一手段が無くなるということで痛いです。フリーに参照できるデータベースと言えば、Our World in Dataがありますが、こちらも感染者数、死者数など、どういうわけか3月7日から1週間更新されていません(図1)。これはデータソースになっているWHOのデータ [2] が、その日から更新されていないためと思われます。

図1. 過去1年間におけるG7諸国の累積人口比COVID-19死者数(Our World in Dataより転載、更新日2023年3月7日).

図1を見ると、米国とカナダの累積死者数のラインが途中から階段状になっています。これは、データがリアルタイムで報告されなくなり、一定期間ごとにまとめて報告されるようになったためです。

WHOは、最近の傾向として、各国がデータ照合を行い、総数から大量の症例または死亡を削除していると述べています [2]。そして、そのようなデータは、適宜、新規症例数/新規死亡数において負の数として反映されことがあり、そのような調整が行われた場合に、ユーザーが識別することができるだろうと述べています。

このように、ここにきて、各国のCOVID-19の統計と報告がいい加減になってきたこともあり、公的なデータベースの更新も従来ほどに意味をなさなくなっているということがあります。日本でもCOVID-19の感染症法上の5類移行が決定していますが、そうなれば日々の感染者数や死者数は報告されなくなり、流行状況はほとんどわからなくなります。私たちは、ますますパンデミック情報から遠くなってしまうという困難性に直面しているでしょう。

図1から分かるように、統計が不十分とは言え、この一年の欧米のCOVID-19死者数はほぼ直線的に累積されており、一定程度の流行が続いていることがうかがわれます。波を繰り返すも日本も然りで、この一年で人口比の死者数はG7の仲間入りをしました。翻って、日本の専門家は相変わらず、他国に比べて日本は人口比死者数が少ないという発言を繰り返しており、嘆かわしい限りです。これについて私は以下にようにツイートしました。

厄介なことに、COVID-19は人獣共通の感染症となりました(→スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染)。人類のパンデミックが収束したとしてもスピルオーバーによって、新しい変異体による流行波を繰り返す恐さがあります。

SARS-CoV-2自身、自然に進化したウイルスとは思えないほどきわめて特異的なゲノム構造を有します。スパイク塩基性解裂部位をもち、受容体としてのACE2に結合するだけでなく膜貫通型プロテアーゼTMPRSS2ニューロピリン1などの侵入因子があり、かつ核移行シグナルをもちます。その病態は全身性でかつ長期の疾患を起こすなど、過去に例がないほどの病原体です。

この先、人類や哺乳類の大悲劇とならないことを祈るばかりですが、これからパンデミック情報に触れる機会がぐっと減らされることが大きな懸念材料です。

引用記事

[1] NHK NEWS WEB: 世界の感染状況まとめてきた米大学 コロナ特設サイト更新終了. 2023.03.12. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230312/k10014005721000.html

[2] World Health Organization: WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard. https://covid19.who.int/data

引用したブログ記事

2022年3月9日 スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染

                    

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