Dr. Tairaのブログ

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ウィズコロナでは終息しないパンデミック

カテゴリー:感染症とCOVID-19(2023年)

2023年新年度が始まりました。テレビからは「コロナ前の日常に戻りつつあります」というメッセージがよく聞こえてきますが、ウィズコロナと言っている間はコロナ前には戻れないでしょう。なぜなら、以下のツイートのように日常的に"with the coronavirus"なわけですから。無論、戻りたい気持ちは誰もが持っていますが。

なかなか終息しないパンデミックの一因として、SARS-CoV-2の感染力の強さがあります。オリジナルの武漢型の基本再生産数が2〜3と言われていますから、次々と現れる変異体の感染力の増強を考慮して掛け算していくと、いまのXBB変異体(XBBについては「スピルオーバーに警鐘を鳴らすWHO専門家」に記述)では10倍程度の感染力になります。季節性インフルエンザウイルスの比較すれば、約20倍です。5類に移行しからと言って、感染力が弱まるわけではありません。これについて先日、以下のようにツイートしました。

日本人の新型コロナに対する抗体獲得率は4割と言われていますが、欧米と比べればかなり低いです(たとえば英国では9割以上)。この程度の自然感染率では、まだまだ感染可能リザーバーに余裕があり、感染対策緩和の状況もあって、これからも多少なりの流行は続くということです。単純に欧米と比べてはいけないのです。第9波流行は5類化とともに本格化するでしょう。

メディアの報道の影響もありますが、私たちはパンデミックにもう慣れっこになっていて、今の流行状況がどの程度のものか分からなくなり、いささかの終息感とともに感覚がマヒしているところもあるでしょう。

実態はすでに全国的には感染者数は下げ止まりになっており、東京、北海道をはじめとするいくつかの都道府県では上昇の傾向にあります。第9波の兆候が見えるわけですが、どのくらいの規模になるかは予想がつきません。どのXBB亜系統が優占してくるかにかかってくるでしょう。

ここで昨日(4/1)報告の感染者数(図1)とデルタ波(第5波)後の収束時の感染者数(図2)を比較してみましょう。昨日の全国の感染者数は7478人です。第7波以降、感染者数ゼロの都道府県はなく、どこも二桁以上の感染者数がずうっと続いています。

図1. 全国の新規陽性者数(2023年3月31日、NHK特設サイト「新型コロナウイルス」より).

一方、デルタ波収束時の10月22日における全国の感染者数は325人であり、10以上の県において感染者数ゼロになっていました。この時はワクチン完全接種が進んでいた時期でもあり、自然感染とワクチンの一時的な集団免疫効果で一気に感染者数が減った時期でもありました。

図2. デルタ波収束時の全国の新規陽性者数(2021年10月22日、NHK特設サイト「新型コロナウイルス」より).

図1図2を比べてみれば、現在の感染者数は20倍以上になっており、いかに今の流行の下げ止まりが高いレベルにあるかがわかると思います。しかも、濃厚接触者の検査も含めて全数把握を行なっていたデルタ波の時期と比べて、今は検査限定した状況かつ申告制による感染者数なので、大きく過小評価されていることを考慮する必要があります。

この10日間の平均COVID-19死亡者数は約30人/日です。死亡報告のタイムラグを考慮する必要はありますが、単純にCOVID-19の致死率を0.1%とすれば、推定感染者数は約3万人になります。いかに日々の感染者数が過小評価されているかが想像できます。

では日本人の自然感染率が高まっていった時にどうなるかは、今の英米の状況を見ればある程度想像できます。両国とも報告されている感染者数は全く当てになりませんので、COVID死者数の推移で見ることにしましょう。英米では、直近一年間の死者数は、多少のオシレーションはありますが、ほとんど変動していません。すなわち、100万人当たり1前後、あるいはそれ以上のレベルで死者数が推移しています(図3)。これは日本の第7、8波の中程度の流行規模に相当します。

図3. 英米における直近1年間のOCIVD-19死者数の推移(日本との比較、Our World in Dataより)

G7諸国でのこの一年の累積死者数の伸びで比べるとどうなるでしょうか。日本を除くG7諸国はほぼ直線的に死者数が伸びており、一部の国ではなだらかになってきてはいますが、今しばらくは死者数はこのまま増えていくでしょう(図4)。

日本は、一年前当初は世界平均並みでしたが、第7、8波の死者数増加でG7諸国に追いついてしまいました。ここ一年を見れば、欧米諸国と比べて死者数が抑えられているということはないのです。

図4. この一年におけるG7諸国のCOCIVD-19累計死者数の推移(Our World in Dataより)

このようにして欧米と比較してみれば、今しばらく日本でも多少の流行が続き(エンデミックにはならず)、自然感染率の高まりとともに欧米のように死者数が定常状態になっていくのではないかと推察します。ただし、依然としてマスクの着用率は欧米に比べて圧倒的に高いので、その分、感染者数と死者数は抑えられるかもしれません。

とはいえ、5類移行とともにマスク着用も含めた感染対策は大幅に緩和される可能性がありますので、その分、第9波は大きな波になるかもしれません。学校ではすでに新学期と同時に「マスク着用を求めない」方針になっています [1]。

将来最も懸念されることの一つは、今の亜系統の流行ではなく、スピルオーバーが起きることです(→スピルオーバーに警鐘を鳴らすWHO専門家)。すなわち、ある程度パンデミックが収束した後、野生動物の間で組換え、変異を起こした新規の強力な変異体が人類の方へ戻ってくることです。第一のスピルオーバーはおそらくオミクロン変異体で起こったと考えられます。次はいつになるでしょうか。

そして、次々と蓄積される新しい科学的知見は、個人はもとより、社会の集団的健康を考えれば、SARS-CoV-2自身に感染してはいけないという認識をあらためて強く抱かせるものです。

急性症状に関わらず長期症状(long COVID)を起こす可能性があること、DNAやエピゲノムに影響を与え、クロマチン構造を変え、DNA修復機構を阻害すること、そして軽症/無症状であったとしても過去に感染し潜在化している内因性レトロウイルスの再活性化のトリガーになり、慢性疲労症候群を起こす可能性があることなど、きわめて質の悪いウイルスだということを再認識すべきでしょう。

引用記事

[1] 文部科学省: 令和5年4月1日以降の専修学校等におけるマスク着用の考え方の見直しと学修者本位の授業の実施等について(周知). 2023.03.17. https://www.mext.go.jp/content/20230317-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf

引用したブログ記事

2023年3月26日 スピルオーバーに警鐘を鳴らすWHO専門家

             

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