Dr. Tairaのブログ

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COVID-19パンデミックにBA.4/BA.5変異体がもたらすもの

いま、欧州諸国において、オミクロン変異体の亜系統であるBA.4およびBA.5の流行が拡大しています。日本においてもこの夏はBA.5による大流行(いわゆる第7波)に襲われることは確実です(→この夏の第7波?流行)。政府は第7波につながりかねないとして警戒を強めているとのことですが、全国旅行支援に関しては「もう少し感染状況を見守りたい。特に期限は区切っていない」と、開始のタイミングを慎重に検討する方針を示すなど、相変わらずののんびり対応です [1]

過去最大の被害と犠牲者を出した第6波の失敗を繰り返さないためにも、政府には緊急の対策をお願いしたいところです。先行事例として、5月からのポルトガルの流行を参考にできます。また、先月下旬にはネイチャー誌に、「BA.4/BA.5の台頭でパンデミックがどのようになるか」という記事が掲載されています [2]。この記事には、東京大学医科学研究所佐藤啓教授のコメントも載っています。

このブログ記事では、ポルトガルの事例を挙げながら、このネイチャーの記事を紹介したいと思います。合わせて第7波への対策を考えたいと思います。

1. ポルトガルでのBA.4/BA.5流行波から学ぶこと

まずは、ポルトガルにおけるオミクロンの感染者数と死者数の推移を図1に示します。この冬に起きた初期のオミクロン流行(BA.1)に比べると、4月下旬からのBA.4/BA.5流行では感染者の数は少ないことがわかります。一方で、死者数は冬の流行と今回の流行とであまり変わらないように見えます。

この原因は何なのでしょうか。現在までのところ、BA.4/BA.5は従来のオミクロンと比べて伝播力は強いけれども重症化度には変化がないと言われています。かつ免疫逃避の性質が強くなっている可能性も言われています。そうすると、個人的に勝手に思うのは、ワクチン接種の影響もあるのではないかということです。後述するように、ポルトガルはワクチン完全接種率(87%)もブースター接種率(66%)も高い国です。ブースターの効力が失われているか、ひょっとしたらワクチンの負の面が出ているかもしれません。あるいは、実際にBA.5はこれまでのオミクロンに比べて重症化しやすいのかもしれません。

図1. ポルトガルにおけるオミクロンの初期波およびBA.4/BA.5波の感染者と死者数の推移(日本の流行を比較して図示、Our Word in Dataより転載).

ポルトガルはイタリアと並んで海外では高齢化率が高い国です。ワクチン接種率や高齢化率で似ている日本は、ポルトガルでの先行例を大いに参考にすることができます。懸念されることは、第7波で感染者の絶対数が増えると同時に高齢者の死亡が増え、第6波以上の被害になることです。

最近投稿されたプレプリントでは、オミクロンの急増が始まって以来、成人の3回目接種の集団には、目に見えるようなワクチン効果はないことが示されています [3]。ここで言えることは、第7波では偏に感染拡大防止に努め、ワクチン接種の有無にかかわらず、早期検査、早期治療を徹底し、特に高齢者の感染と重篤化を防ぐことです。急増すると思われる自宅療養者については、しっかりとしたモニタリングと医療ケアを行ない、容態急変、重篤化を見逃さないことが重要です。

2. ネイチャーの記事

先月下旬、ネイチャー誌は、「うんざりするほど続編を次々と発表するハリウッド映画のように、オミクロンが帰ってきた」と評しながら、オミクロン亜系統BA.4/BA.5に関する記事(NEWS EXPLAINER)を掲載しました [2]。同誌は、BA.4とBA.5の台頭がパンデミックどのような意味をもつのか探っている、としています。

ここでその記事を翻訳しながら紹介したいと思います。適宜引用文献も添えます。

オミクロンBA.2型が世界的に急増したわずか数週間後に、さらに2つのオミクロンスピンオフ型が世界的に増加しています。これらがBA.4とBA.5です。4月に南アフリカの科学者によって最初に発見され、その後の感染者数の増加を見せている、オミクロン亜型ファミリーの最新メンバーです。現在、これらのウイルスは世界の数十カ国で検出されています。

BA.4およびBA.5亜型は、他の流行性オミクロン亜型(主にBA.2、今年の初めに感染者数を急増させた)よりも伝播力が強いため、世界中で急増しているのです。しかし、これまでのところ、これらの最新オミクロン亜型は、旧来の亜型に比べて死亡や入院の数が少ないようです。これは、ヒト群集の免疫力の向上が、COVID-19急増の直接的な影響を和らげていることを示しています。

●BA.4とBA.5とは何?

BA.4/BA.5変異型は、昨年末にほとんどの国でオミクロン波を引き起こしたBA.1よりも、BA.2に似ていることが分かっています。その中には、スパイクタンパク質のL452RとF486Vの変異が含まれており、宿主細胞に付着する能力や免疫反応を回避する能力を変えている可能性があります。

5月に発表されたプレプリントが記すところでは、BA.4とBA.5が初期のオミクロン変異体と起源を同じくすることが判明しています。しかし、進化遺伝学者ベット・コルバー(Bette Korber)氏とウィリアム・フィッシャー(William Fischer)氏(ニューメキシコ州ロスアラモス国立研究所)が主導した分析(未発表)では、これらの変異体はおそらくBA.2から派生したものであることが示唆されています。

また、コルバーとフィッシャー両氏は、公開データベースでBA.2と分類されているゲノム配列の多くが、実際にはBA.4またはBA.5であることを発見しました。その結果、BA.2型が現在も増え続けていることや、BA.2型が持つ変異の多様性を過小評価している可能性があることがわかりました。彼らは、ネイチャー誌に電子メールを送り、「パンデミックにおけるこの瞬間、これらを正しく呼称することが重要である」と書いています。

●なぜ世界的に増加しているのか?

ウイルスがより多くの人々に、より速く感染することを可能にするような遺伝的変異を起こせば、その変異体が感染に有利になることがあります。しかし、BA.4とBA.5の増加は、むしろ初期のオミクロンや他の亜型に免疫があった人々に感染させる能力に起因しているようだと、ベルン大学の計算疫学者クリスチャン・アルタウス(Christian Althaus)氏は述べています。

アジア以外のほとんどの国では、SARS-CoV-2の対策はほとんどなされていないので、BA.4とBA.5の増加、そして必然的な減少は、ほぼ完全にヒト群集の免疫によって引き起こされるとアルタウス氏は付け加えています。

BA.4の有病率が低いスイスでBA.5が増加していることから、アルタウス氏はスイスでは約15%の人が感染すると推測しています。しかし、COVID-19の流行歴やワクチン接種率が異なるため、現在では各国の免疫プロファイルが異なる可能性があります。その結果、BA.4とBA.5の流行波の規模は場所によって異なるかもしれません。「ある国では5%かもしれないし、別の国では30%かもしれない。それはすべて、その国の免疫プロファイルに依存する」と彼は述べています。

●BA.4とBA.5は社会にどのような影響を与えるのか

どのような影響を及ぼすかは、これも国によって異なります。ヨハネスブルグにある南アフリカ国立感染症研究所の公衆衛生専門家、ワシーラ・ジャサット(Waasila Jassat)氏と彼女の同僚は、南アフリカにおけるBA.4とBA.5の流行期間中、同国の以前のオミクロン波と比較して、入院率は同等であるが死亡率はわずかに低いことを見いだしました。これらオミクロンの両波は、以前の猛烈なデルタ波と比較して、入院や死亡の面ではるかに穏やかであることが証明されています。これらの知見は、近々メドアーカイヴ・プレプリントサーバーに投稿される予定です。

一方で、COVID-19のワクチン接種率とブースター接種率が非常に高いポルトガルでは、最新のBA.4/BA.5波による死亡と入院のレベルは、最初のオミクロン波によるものと類似しています(上記図1参照)。この差異は、ポルトガルの人口動態に起因している可能性があるとアルタウスは述べています。つまり、高齢者が多ければ多いほど、病気も重くなるし、その国の免疫の性質も結果の違いを説明できるというわけです。

南アフリカの成人の約半数がワクチン接種を受けており、ブースターを受けたのはわずか5%です。しかし、このことと以前のCOVID-19の流行による感染率が非常に高いことが相まって、「ハイブリッド免疫」の壁が築かれ、特にワクチン接種を受けた可能性が最も高い高齢者において、重症化から強く保護されていると彼女は付け加えています。

●ワクチンはどの程度効果があるのか?

これまでの研究によると、ワクチン接種によって生じた抗体は、BA.1やBA.22-6といった初期のオミクロン亜型を阻止するのに比べ、BA.4やBA.5を阻止する効果が低いことが一貫して示されています。このため、ワクチンを接種して免疫力を高めた人でも、複数のオミクロンに感染する可能性がある、と科学者たちは一応に考えています。ワクチン接種とオミクロンBA.1への感染によるハイブリッド免疫を持っている人でさえ、BA.4とBA.5を無効にするのには苦労するでしょう。この原因は、この変異型のL452RとF486Vのスパイク変異であると研究チームは考えています。

この説明のひとつは、ワクチン接種後にBA.1に感染すると、SARS-CoV-2の祖先株(ワクチンの基となった武漢株)を認識する感染阻止型の「中和」抗体が、オミクロン変異体を認識するよりも強く働くらしいといものです [4, 5]。英国ケンブリッジ大学のウイルス学者であるラビンドラ・グプタ(Ravindra Gupta)氏によれば、BA.1に感染すると中和抗体反応が起こりますが、それは予想よりも少し狭く、結果としてBA.4やBA.5といった免疫逃避型の変異体に対する感染を許してしまうということです。

●次に何が来るか?

この問いに対して「それは誰にもわからない」と東京大学のウイルス学者佐藤啓氏は答えています。 オミクロン亜型のパレードは続き、新しい亜型は既存の免疫の穴をさらに開けるかもしれません。「BA.4/5が最終型とは誰も言えない。オミクロンの亜型がさらに出現する可能性は高い」と彼は述べています。研究者たちは、ワクチンや過去の感染によって誘発される抗体のスパイクタンパク質へのいくつかの認識スポットを特定していますが、これらが将来のオミクロン亜型で変異する可能性があることも想定しています。

科学者たちは、オミクロンやアルファなどの変異体は、おそらく数ヶ月に及ぶSARS-CoV-2の慢性感染から生まれたと考えるようになってきています。しかし、オミクロンとその亜系統が支配的であればあるほど、慢性感染から全く新しい変異体が出現する可能性は低くなると、英国オックスフォード大学のウイルス進化学者マハン・ガファリ(Mahan Ghafari)氏は述べています。

ウイルスが成功するためには、将来の変異体は免疫を回避する必要があります。しかし、そのような変異体には、他にも私たちにとって気がかりな性質があるかもしれません。佐藤教授のチームは、BA.4とBA.5がハムスターではBA.2よりも致死率が高く、培養肺細胞への感染力も強いことを発見しています [6]。ジャサット教授が主導した疫学研究によれば、COVID-19の一連の波は穏やかになりつつあるようです。しかし、この傾向を鵜呑みにしてはいけないと、佐藤教授は注意を促しています。つまり、ウイルスは進化することで必ずしも致死率が下がるわけではないということです。

また、次の亜型がいつ登場するかも不明です。BA.4とBA.5はBA.1とBA.2のわずか数ヵ月後に南アフリカで出現し始め、このパターンは現在英国や米国を含む地域で繰り返されています。しかし、ワクチン接種と感染の繰り返しで世界的な免疫ができてくると、SARS-CoV-2の波の頻度も少なくなってくるとアルタウス氏は予想しています。

SARS-CoV-2の将来の可能性としては、他の4つの季節性コロナウイルスのように、季節によってレベルが変動し、通常冬にピークを迎え、通常3年おきくらいに再感染するようになることだとアルタウス氏は述べています。大きな問題は、COVIDの症状がどんどん軽くなって、long COVIDの問題が徐々に消えていくのかどうかです。「もし、今のような状態が続くのであれば、深刻な公衆衛生上の問題となる」と彼は述べています。

以上がネイチャー記事 [2] の内容です。

おわりに

ポルトガルでの先行流行には大いに学ぶべきものがあります。ネイチャー記事では、南アフリカポルトガルの被害の差異は、人口動態や免疫プロファイルの違いによるものとしています。ただ、ポルトガルにおけるBA.1とBA.4/BA.5の流行とで後者で死亡率が上がっているのは、高齢化率だけでは説明できません。ワクチン接種・ブースター接種が進んでいるほど、致死率が高くなっているとも考えられます。

最近NEJM誌に掲載された書簡(Correspondence)では、ワクチン接種によるオリジナル株(WA1/2020株)に対する中和抗体価と比較すると、BA.1に対して6.4倍、BA.2に対して7.0倍、BA.2.12.1に対して14.1倍、BA.4あるいはBA.5に対して21.0倍低くなっていることが示されています [7]。一方、自然感染とワクチン接種の場合は、それぞれの変異体に対する中和抗体価の低下はより緩やかです。

南アフリカの事例と比べてポルトガルで死亡例が増えていることは、上記のようなハイブリッド免疫とワクチン接種による中和抗体価の差異だけで説明できるのでしょうか。もう一つの可能性として、ブースター接種の負の影響は考えられないでしょうか。すなわち、修飾型mRNAワクチン接種による細胞性免疫の抑制 [8](mRNAワクチンのブースター接種を中止すべき感染増強抗体(NTD抗体)の増強です。BA.5では、スパイクタンパクにさらに変異が加わって中和抗体価は低下しているのに対し、NTD(N-teminal domain)には変異がないのでNTD抗体(いわゆる悪玉抗体)は増強される可能性があるのです。

BA.5がもつL452Rはデルタ変異体と同じで、感染力と病毒性が高まっている可能性もあります。この変異により、日本人に多いHLA-A24による細胞免疫から逃避する可能性もあります。

日本の第7波では、感染者・自宅療養者の絶対数の増加、ブースター接種を済ませた高齢者、基礎疾患のある人の感染が特に要注意でしょう。政府や専門家は4回目の接種を推奨していますが、果たして大丈夫でしょうか。政府、専門家がよく言う重症者数が大事という主張、そしてBA.5は重症化しにくいという従来の主張パターンが単に繰り返されるようでは、今回も失敗を重ねることになります。オミクロンは従来の基準の重症化を経ずに、軽症からいきなり衰弱して死に至る場合があるのです。そして、全国旅行支援などの経済対策については、早めの規制が必要と考えられます。

引用文献・記事

[1] JIJI COM: 政府、感染「第7波」警戒 全国旅行支援、なお判断保留 新型コロナ. Yahoo Japanニュース 2022.07.02. https://news.yahoo.co.jp/articles/d808ef7806afec756e8744033cdeec8596d42026

[2] Callaway, E.: What Omicron’s BA.4 and BA.5 variants mean for the pandemic. Nature 606, 848–849 (2022). https://www.nature.com/articles/d41586-022-01730-y

[3] Emani, V. R. et al.: Increasing SARS-CoV2 cases, hospitalizations and deaths among the vaccinated elderly populations during the Omicron (B.1.1.529) variant surge in UK. medRxiv Posted June 28, 2022. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.06.28.22276926v1

[4] Cao, Y. et al.: BA.2.12.1, BA.4 and BA.5 escape antibodies elicited by Omicron infection. Nature Published  June 17, 2022. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04980-y

[5] Reynolds, C. J. et al.: Immune boosting by B.1.1.529 (Omicron) depends on previous SARS-CoV-2 exposure. Science Published June 14, 2022. https://www.science.org/doi/10.1126/science.abq1841

[6] Kimura, I. et al.: Virological characteristics of the novel SARS-CoV-2 Omicron variants including BA.2.12.1, BA.4 and BA.5. bioRxiv Posted May 26, 2022. https://doi.org/10.1101/2022.05.26.493539 

[7] Hachmann, N. P. et al.: Neutralization escape by SARS-CoV-2 Omicron subvariants BA.2.12.1, BA.4, and BA.5. N. Eng. J. Med. Published June 22, 2022. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2206576

[8] Krienke, C. et al.: A noninflammatory mRNA vaccine for treatment of experimental autoimmune encephalomyelitis. Science 371, 145–153 (2021). https://doi.org/10.1126/science.aay3638

引用したブログ記事

2022年6月21日 この夏の第7波?流行

2022年6月7日 mRNAワクチンのブースター接種を中止すべき

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)