Dr. Tairaのブログ

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この夏の第7波?流行

このところ来る参院選の論戦が熱を帯びてきましたが、各政党の党首が掲げる公約にはコロナあるいはCOVID-19という言葉はほとんど出てきません。今は物価高で賃金も停滞のままですから、物価高対策に焦点が行くのは当然なのですが、それにしても国民の意識から遠ざけるようなことだけにはなってほしくありません。

世の中はコロナはもう終わったような雰囲気もあり、脱マスク論も声高々になってきていますが、もちろんパンデミックはまだ収束していません。それどころか、新規陽性者数は下げ止まりの様相を見せ、リバウンド傾向にあります。COVID-19は全身性の長期症状をもたらし、神経変性疾患のリスクも高くなり、就労にも影響を与えるということがわかってきたいま、かつ高齢者にとっても依然として高い致死率を考えると、いま一度意識を引き締める必要があるのです。

このような状況を鑑みて、先日、私は以下のようにツイートしました。

リバウンド傾向はフランスをはじめとするヨーロッパ諸国で顕著であり、多くの国で新規陽性者数が増加傾向にあります(図1)。日本では、新型コロナウイルスの水際対策が6月1日から大幅に緩和され、6月10日からは入国制限緩和も始まりました [1]。海外からのウイルス持ち込みの機会と感染リスクはこれから激増するでしょう。合わせてこれからの選挙戦は感染拡大を促進します。

図1. ヨーロッパ諸国における感染事例の推移(Our World in Dataより転載). 一部の国(英国など)は感染者の全数把握を止めているので注意. 4月終わりから高い感染レベルに至っているポルトガルは図示せず.

そして、あまり専門家も指摘しないことですが、日本と米国の流行の波が連動している傾向があります。これについて、私は以下のようにツイートしました。米国からの観光客や帰国者に加えて、検疫を通らない米軍関係者の影響もあるかもしれません。米国でも感染者のリバウンドが起こっていますので、日本にその影響があるでしょう。

ヨーロッパで新たに感染者の急増を引き起こしているのが、SARS-CoV-2 オミクロン変異体BA.2から派生した亜系統のBA.4BA.5であり [2]、米国ではB2.12.1が主流です。これらの変異体の重症化度については現段階で不明ですが(ただデルタと同じL452R変異をもつ)、感染力が従来のオミクロンより強いと言われています [3, 4]

東京大学医科学研究所の佐藤圭教授の研究グループは、細胞培養実験およびハムスターを用いた感染実験により、BA.4/5はオリジナルのBA.2よりも病原性が高く、L452R/M/Qを持つBA.2関連オミクロン変異体(特にBA.4とBA.5)の世界に及ぼす健康リスクは、BA.2より大きい可能性があることを報告しています [3]

東京ではすでに感染者の10%以上をBA.5が占めており、宮城 [5]、大阪 [6]、鹿児島 [7]、沖縄 [8] を含む12の都府県で見つかっています。B2.12.1も増えていますが、いずれBA.5に置き換わるでしょう。つまり、欧州と米国から侵入したそれぞれの変異体が、いま日本でまん延し始めているという状況が見えているわけです。昨年の東京五輪大会前と同じように、これからの本格的な夏に向けて、BA.5による第7波の大流行が襲ってくるのです。

過去最大の被害となった第6波の二の舞だけにはなってほしくありませんが、それも淡い願望に終わるでしょう。なぜなら、もはや国による感染対策の介入がない成り行き任せの現状、改善されていない検査・防疫システム、前のめりの経済優先の姿勢、国民の馴れと嫌気から来る気の緩みなどが、伝播力を増したBA.5の爆発的感染を許すからです。そして、救急医療を含めた医療ひっ迫、医療崩壊が繰り返されるでしょう。

高齢化率の高いポルトガルでの先行事例(感染者数に対する致死率が高い)を見れば、第6波以上の犠牲者が出る可能性があります。日本は世界断トツの高齢化が進んだ国です。しかし、政府も政府系専門家も全くと言っていい程警戒感が感じられません。早期検査・診断・治療の体勢づくり、および医療提供体制を今まで以上に強化しなければならないにも関わらずです。

医療専門家の間では、COVID-19を、感染症法における現在の2類相当から5類相当へ変更すべきという意見が出されています。一般の病気の一つとして考えようという意図なのでしょうが、一般の病気がパンデミックを起こすはずがありません。このようなマインドからは、全く不十分な診療へのアクセスと医療提供体制、検査資源不足の問題を改善・解決しようという動きは起こらず、この夏に予測される第7波の蔓延で太刀打ちできなくなった時に、また「一般の病気」、「オミクロンは軽症」という言い訳が持ち出されるでしょう。

医者のなかには、「新型コロナ感染症はすでに私たちの脅威ではなくなっています」、「よっぽどでないと簡易抗原も行いません。治ればよいのですから検査する必要はありません」という呑気なことを言い出す始末です [9]

しかし、医者が、感染症の流行や病気を甘くみるような、一般人の油断を許すような個人的見解を軽々しく述べるべきではありません。医療ひっ迫や医療崩壊を起こすような今の防疫体制と医療提供体制のアンバランスな状態で、5類相当へ変更とか、季節性インフルエンザ並みとか、脅威がなくなっているとか言い出すべきではないのです。当たり前ですが、法的変更や願望だけで、病気の性質が変わるわけでもパンデミックが収まるわけでもありません。

上述したように、長期症状を起こし、高齢者・基礎疾患を持つ人のみならず幼児・小児にも時として重症化し、容態急変するこの感染症は、その脅威を保ち続けています。鳴り物入りで導入された遺伝子ワクチンも、結局ゲームチェンジャーとはなり得ず、かえってネガティヴな影響を心配しなければならない状況になっています。決定的な治療薬もありません。

世界保健機関 (WHO) が制定した実験室生物安全指針では、病原体の危険性に応じて4段階のリスクグループが定められており、そのリスクに応じた取り扱い(バイオセーフティー、BSL)レベルが定められています。SASR-CoV-2は、SARSウイルス、MERSウイルス、鳥インフルエンザウイルスと同じく、上から2番目のリスクグループ3(BSLレベル3)に分類されています。ちなみに普通のインフルエンザウイルスのカテゴリーは、一つ下位のリスクグループ2(BSL2)です。

日本の感染症の取り扱いでは、これまでリスクグループ3による感染症は、すべて2–3類感染症として分類されています。リスクグループ3のウイルスは、それだけ、危険な病原体であるということです。その感染症が脅威でなくなったということは、少なくとも現時点ではありません。リスクグループ3の感染症が5類相当になった前例はありません

引用記事

[1] NHK首都圏ナビ: 入国制限緩和 外国人観光客も受け入れ再開 日本からの海外旅行は? 2022.06.07. https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220601b.html

[2] Roberts, M.: BA.4 and BA.5 Omicron: How worried should we be? BBC News June 15, 2022. https://www.bbc.com/news/health-55659820

[3] Kimura, I. et al.: Virological characteristics of the novel SARS-CoV-2 Omicron variants including BA.2.12.1, BA.4 and BA.5. bioRxiv Posted May 26, 2022. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.05.26.493539v1

[4] 国立感染症研究所: 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルスSARS-CoV-2)の変異株について (第17報). 2020.06.03. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11180-covid19-17.html

[5] 河北新報: オミクロン株派生型「BA・5」宮城初確認. 2022.06.17. https://kahoku.news/articles/20220617khn000030.html

[6] NHK NEWS WEB: 大阪府 新型コロナ 新たな変異ウイルス「BA.5」2人確認. 2202.06.20. https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220620/2000062530.html

[7] 南日本新聞: 鹿児島でオミクロン株派生型2種を初確認 BA・5とBA・2.12.1に計4人感染、全員軽症 新型コロナ. 2022.06.21. https://373news.com/_news/storyid/158083/

[8] 沖縄タイムス: オミクロンの新たな派生型「BA・5」沖縄で4人初確認 県「市中感染の可能性ある」2022.06.21. https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/978392

[9] 大和田潔: 「マスクは人の目を気にして着用するものではない」現役医師が"マスク離れ"できない人たちに伝えたいこと. PRESIDENT Online 2022.06.12. https://president.jp/articles/-/58491

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)