Dr. Tairaのブログ

生命と環境、微生物、科学と教育、生活科学、時事ネタなどに関する記事紹介

SARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミロイド形成能

はじめに

SARS-CoV-2は、ホモ三量体の表面スパイクタンパク質(S-protein)を用いて、ヒト細胞の受容体(ACE2)に結合し、細胞内に侵入します。それゆえ、このウイルスのスパイクタンパクの機能や毒性は、パンデミックが始まって以来、多くの研究者の焦点となっており、COVIDワクチンの標的にもなっているわけです。

スパイクタンパクには、アルツハイマー病などの病気に見られるようなアミロイド線維を形成するためのモチーフがあると推測されています。また、一部の科学者は、スパイクタンパクの線維がCOVID-19の重症化や長期慢性疾患(long COVID)に関与しているのではないかと考えています。

最近、スウェーデンのリンケーピン大学(Linköping University)のSofie Nyström(ソフィエ・ニストロム)氏とPer Hammarström(パル・ハマルストロム)氏の研究チームが、スパイクタンパクのペプチドが実際にこれらの線維を形成することを明らかにしました [1]。JACS誌にCommunicationとして掲載されていますので(下図)、このブログでそれを紹介したいと思います。

1. 研究の背景

ヒトにおけるコロナウイルス感染症は一般的ですが、COVID-19以前では、呼吸器系の症状を示すウイルスが主でした。一方、COVID-19は呼吸器以外の臓器を含む様々な症状を示すことが特徴であり、病態は多因子性で複雑です。これらには、肺障害をもたらす自然免疫系の炎症反応による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム、心筋炎を含む心臓障害、腎臓障害、神経障害、血流低下をもたらす循環器系の障害、が含まれます。そして、長期慢性疾患としての様々な症状も知られています。Long COVIDとよばれるこれらの症状には、持続的な情緒障害や神経変性疾患に似た精神状態が含まれます。

このようなCOVID-19の病態の原因はまだよくわかっていませんが、S-タンパクの関わりが強く考えられています。

アミロイドとよばれる線維状の異常タンパク質によるアミロイドーシスは、全身性および局所性の障害として現れる病気ですが、多様な病態が報告されているCOVID-19の症状と被るところがあります。ARDSを含む重症炎症性疾患とS-タンパクの凝集が組合わさることで、全身性AAアミロイドーシスを誘発する可能性が提唱されています。COVID-19患者では、血流中の細胞外アミロイド線維凝集体に関連した血液凝固が報告されています。実際、S-タンパクを実験的にスパイクした健常人ドナーの血漿で、凝固亢進/線溶障が証明されています。

アミロイドーシスは、脳アミロイド血管障害、血液凝固障害、線溶系障害、FXII Kallikrein/Kinin活性化、トロンボイン炎症と関連しており,S-タンパクのアミロイド形成とCOVID-19の病態との関連性が示唆されています。

そこで、研究チームは、S-タンパクとアミロイド形成との間に分子的な関連性があるのではないかと考え、S-タンパクのはアミロイド形成能の証明と形成メカニズムの解明にチャレンジしました。

2. 研究結果の概要

研究チームは、SARS-CoV-2 S-タンパク(ProteinID:P0DTC2)全体のペプチドスキャンから、15個のアミノ酸からなる316のペプチドプールライブラリー(2つのサブプールに分かれている)を得ました。両方のペプチドサブプールでin vitroのアミロイド線維が形成されました。

この結果に気をよくしたチームは、繊維形成がS-タンパクのどの部位が関与しているのか、さらに探索することにしました。ルーヴェンカトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)のフレデリック・ルソー(Frederic Rousseau)とヨースト・シムコヴィッツJoost Schymkowitz)が開発したアルゴリズムを用いて、どのペプチドがアミロイドを形成する可能性が最も高いかを予測しました。その結果、S-タンパク内に7つのアミロイド形成性配列を確認することができました。

次に、ペプチドライブラリー混合物のアミロイド線維アッセイを行ないました。すなわち、これらの7つのペプチドを合成・単離し、37℃でインキュベーションしたところ、すべて凝集体を形成しました。このうち、スパイクタンパクの配列における最初のアミノ酸の位置から名付けられた Spike192 と呼ばれるものが、アミロイドを形成に特に優れていることがわかりました。

3種類の20アミノ酸長の合成スパイクペプチド(配列番号192-211, 601-620, 1166-1185)は、アミロイド線維基準である、ThTによる核形成依存重合速度、コンゴーレッド陽性、および超微細線維形態の3つを満たすものでした。

研究チームは、ヒト細胞の酵素(プロテアーゼ)がS-タンパクを分解して、この線維形成ペプチドを作るのではないかと考えました。そこで、S-タンパクとプロテアーゼである好中球エラスターゼ(NE)を in vitro で24時間インキュベーションしたところ、明らかな分岐を持つアミロイド様フィブリルが形成されることを確認しました。NEは S-タンパクを効率的に切断し、アミロイド形成セグメントを露出させ、最もアミロイド原性の高い合成スパイクペプチドの一部であるアミロイド形成ペプチド194-203を蓄積させました。

一般に、NEはウイルス感染による炎症部位で過剰発現しています。今回、一部の免疫細胞が感染時の炎症に反応して放出されるNEが、S-タンパクを切断して Spike192 とほぼ同じペプチドにすることが、実験で証明されたことになります。

これらのデータに基づいて、研究チームは、SARS-CoV-2 S-タンパクのアミロイド形成が内部タンパク分解(endoproteolysis)によって促進されるという分子機構を提唱しています。そして、COVID-19に関連した病態においてS-タンパクのアミロイド形成を考慮することが、この病気と long COVID を理解する上で重要だとしています。

3. 研究の意義

今回の研究 [1] の重要性は、SARS-CoV-2のS-タンパクの線維化を実験的に証明しているだけでなく、それが実際のCOVID-19患者のなかでどのようにして形成可能かという生成機構まで明らかにしていることです。すなわち、ウイルス感染時の炎症に反応して放出されるNEが、S-タンパクを切断してアミロイド線維形成に最適な大きさのペプチドにすることがわかったことです。

すでに、S-タンパクがCOVID-19患者の血栓の形成を誘導することが明らかになっていますが、今回の結果(スパイクペプチドを使って、フィブリノゲンのアミロイドを誘導できたこと)はこの現象の説明を補強するものです。研究チームは、重度のCOVIDとlong COVIDにおけるスパイクアミロイドと血栓形成の関係をさらに研究する予定だとしています。

おわりに

今回の論文を読んで個人的に思ったことは、スパイクタンパクで起こることならCOVID-19ワクチンでも起きることはないのか?ということです。つまり、mRNAワクチンによって体内で生成されたスパイクタンパクがNEによって切断され、アミロイドを形成することはないのか?ということです。

アミロイドーシスは、線維状の異常タンパク質(アミロイドとよばれる)が様々な臓器に沈着し、全身性および局所性の機能障害として現れる病気です。全身性アミロイドーシスとしては、 免疫グロブリン性アミロイドーシス、AAアミロイドーシス、老人性全身性アミロイドーシスなどがあり、限所性アミロイドーシスとしては、アルツハイマープリオンなどが知られています。プリオン病の代表としてはクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease、CJD)があります。

COVID-19患者がCJDを発症したケースリポート [2] やCOVID-19ワクチンの接種後のCJDの事例 [3, 4] もいくつかあります。セネフらは総説でワクチンによるプリオン病発症の懸念を示しています [5]。果たして、COVID-19ワクチンを接種してCJDあるいはプリオン病になることはないのか? CJD/プリオン病に限らず、ワクチン接種によってアミロイド形成・血栓形成につながることはないのか、疑問は尽きません。

引用文献

[1] Nyström, S. and Hammarström, P.: Amyloidogenesis of SARS-CoV-2 spike protein. J. Am. Chem. Soc. 144, 8945–8950 (2022). https://doi.org/10.1021/jacs.2c03925

[2] Tayyebi, G. et al.: COVID-19-associated encephalitis or Creutzfeldt–Jakob disease: a case report. Neuro. Dis. Manag. 12, 29-34 (2022). https://doi.org/10.2217/nmt-2021-0025

[3] Kuvandık, A. et al.: Creutzfeldt-Jakob Disease After the COVID-19 Vaccination. Turk. J. Intensive Care https://cms.galenos.com.tr/Uploads/Article_50671/TYBD-0-0.pdf

[4] Moret-Chalmin, C. et al.: Towards the emergence of a new form of the neurodegenerative Creutzfeldt-Jakob disease: Twenty six cases of CJD declared a few days after a COVID-19 “vaccine” Jab. https://www.researchgate.net/publication/358661859_Towards_the_emergence_of_a_new_form_of_the_neurodegenerative_Creutzfeldt-Jakob_disease_Twenty_six_cases_of_CJD_declared_a_few_days_after_a_COVID-19_vaccine_Jab?channel=doi&linkId=620e1cd5f02286737ca524ed&showFulltext=true

[5] Seneff S. and Nigh G.: Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. Int. J. Vac. Theo. Prac. Res. 2, May 10, 2021, 402.
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23/34

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)