Dr. Tairaのブログ

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mRNAワクチンで作られたスパイクタンパクは血管を駆け巡る

はじめに

COVID-19 mRNAワクチンを注射した際に、ヒト体内でどの程度抗原ができるか、その運命はどうなるのか、よくわかっていません。唯一の研究例として、ワクチンを接種した人の血液中にスパイクタンパク質を検出したOgataらの報告 [1] があります(→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)。

今回、米国の生物物理学と工学を専門とする研究チームは、光リング共振センサーチップとプラスチック製マイクロピラーカードを組み合わせたデバイスを開発し、このセンサーを用いて、ワクチンを受けた人の血液中からスパイクタンパク質を迅速検出することに成功しました [2]

1. 論文の要旨

まず、今回の論文 [2] がどういう内容か、以下に要旨を翻訳して示します。

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COVID-19用のmRNAワクチンは、実際に接種プログラムとして使用される前に、試験管内や動物で十分に研究され、多数の人での治験を経て適用性が調べられた。しかし、体内での抗原タンパク質の消長やその免疫誘導の正確なメカニズムはまだ解明されていない。これらのメカニズムを完全に理解するために必要な大規模なデータ収集、および異種集団間での変動性を理解するためには、ワクチン接種後の免疫反応に関わるさまざまなバイオマーカーを正確に測定する迅速な診断検査が必要である。当研究室では、ラベルフリーで迅速かつスケーラブルな診断を実現するために、新しい「ディスポーザブルフォトニクス」プラットフォームを開発した。これは、光リング共振センサーチップとプラスチック製マイクロピラーカードを組み合わせたものである。このシステムを用いて、ワクチンを接種した被験者の血清中にSARS-CoV-2スパイクタンパクが存在することを確認し、ワクチン接種後の抗SARS-CoV-2抗体の上昇を追跡することができた。スパイクタンパクは、ワクチン接種後1日目に最大濃度が検出され、10日以内に検出限界以下まで減少した。この結果は、SARS-CoV-2 mRNAワクチンに対する個々の患者の反応だけでなく、大規模なワクチンのメカニズムを理解するために必要なデータを取得するための、この迅速光センサー・プラットフォームの有用性を示している。

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2. 研究の背景

それでは、この論文 [2] のイントロダクションを翻訳しながら、適宜補足説明を加えながら、研究の背景を考えてみましょう。

現在の mRNAワクチンは、SARS-CoV-2特異的な抗体、および長期的な免疫を付与するB細胞とT細胞を生成する優れた能力を示しています [3, 4]。しかし,mRNAワクチン接種によって引き起こされる生理学的反応がどのようなものであるかについて、集団レベルでの詳細な理解はまだ得られていません。このような知識は科学的に重要であるだけでなく、まだ予防接種をためらっている人たちの警戒を減らすためにも重要な要素と言えます。

ファイザー/ビオンテック社やモデルナ社のmRNAワクチンは、従来の抗原を直接投与するというワクチンではありません。すなわち、その製造指令書(mRNA)を包んだ脂質ナノ粒子(LNP)をヒト体内に注入して、ヒト細胞自身に抗原(ワクチン)を作らせるという、これまでにないアプローチを採用しています。SARS-CoV-2の完全なスパイクタンパク質をコードするmRNA+LNPををヒトに注射すると、注射部位付近の宿主細胞(通常は樹状細胞 [5])がLNPを取り込み、mRNAをスパイクタンパクに翻訳し、合成します。これらのスパイクタンパクが、T細胞 [4] B細胞 [6] からの免疫反応を誘発し、その結果、抗体が産生されます。

しかし、宿主細胞で産生されたスパイクタンパクがどのような運命をたどるのかは不明であり、全身に行き渡るかどうかについても十分に検討されていません。また、スパイクタンパクのオフターゲット効果(=本来の目的以外の作用)は、mRNAワクチンに関しては、ヒトでは研究されていません。ここが重要な点で、以前のブログ記事でもこの問題点を指摘しています(→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

スパイクタンパクのS1サブユニットを比較的高濃度でラットに注入すると、血液脳関門が破壊されることが実証されています [7]。ファイザー社のラットを使った薬物動態試験では、mRNA+LNPが投入された部位以外だけではなく、比較的高濃度で肝臓、脾臓、副腎、そして卵巣に行き渡ることが示されています(→mRNAワクチンへの疑念ー脂質ナノ粒子が卵巣に蓄積?)。最近のOgataら研究 [1] では、mRNAワクチンを受けた人の血液中にSARS-CoV-2スパイクタンパクが存在することが判明しています (→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出。すなわち、体内で作られたスパイクタンパクは全身を駆け巡るということの状況証拠があります。

したがって、実際のワクチン用量で接種した被験者の血中に、「スパイクタンパクがどの程度の濃度で、どのくらいの期間存在するのかを詳しく知ること」は、この新しいタイプのワクチンの免疫応答メカニズム、副反応、安全性を理解する上できわめて重要です。そして、先行研究のデータをさらに検証し、より広範な規模でこれを迅速判定できるプラットフォームを開発する必要があります。

論文の著者らはこのニーズに応えるために、フォトニクスをベースとした迅速診断プラットフォームを開発しました。このプラットフォームは、共鳴型の屈折率センシングを利用したフォトニック集積回路(PIC)とマイクロ流体工学を組み合わせた検出システムです。このシステムは、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)特異的抗体の存在を迅速に感知する能力があることが、すでに実証されています [8]

3. リング共振器センサーの感度と定量

共鳴型の屈折率センサーを利用したフォトニック集積回路(PIC)は感度が高く、ウェハスケールでの製造が可能という利点があります。研究チームは、バス導波路に近接して配置された、周囲の屈折率に基づいて特定波長で共振する光導波路構造からなるリング共振センサーを開発しました。それを、患者の体液サンプルを導入するマイクロ流路に組み込むという新しい方法で、測定に供試しています。すなわち、PICとパッシブ・マイクロ流体工学を統合した使い捨てセンサーという新しいプラットフォームであり、迅速かつ安価という測定技術を提供します。

研究チームはこのセンサーを用いて,ワクチン接種を受けた被験者の血清中のフルスパイクタンパク質とウイルスRBD抗体の存在を、わずか3分で定量測定しました。この点で著者らは、このプラットフォームがmRNAベースのワクチンに対する免疫反応を理解する上で重要で、より幅広い研究を可能するだけでなく、被接種者固有のオフターゲット効果を迅速に検出し、モニタリングできる可能性を示していると述べています。

図1にこのセンサーで得られた市販のスパイクタンパク質の検量線を示します。マイクロスケール(10 μg/mL 以上)程度のレベルでの検出ができるようですが、数字を見ただけでは思ったほどの感度はないように思います。定量抗原検査では pg/mL オーダーの精密分析ができますので [1, 9]、感度が100万分の1程度ということになります。

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図1. 光リング共振センサー測定による市販のスパイクタンパク質の検量線 [2]. 組換えスパイクタンパク質S1+S2 ECDを、20%FBSを含むAWBで既知の濃度に希釈し、抗スパイク抗体で機能化したチップ上に流した。各濃度で3回のアッセイを行った. エラーバーは各濃度の標準誤差を示す.

4. フォトニックセンサーによる血清中の抗原と抗体の測定

実際に、研究チームが被験者の血清の抗原量とRBD抗体量を追跡したのが図2です。これは、スパイクタンパクの光応答データを時間に対してプロットしたもので、0日目と21日目に2回のワクチン投与がなされています。

センサーの3分後応答の相対的なスパイクタンパク量は,-5~78 pmの範囲でした。.ワクチン接種前のサンプル(n=4)を用いてアッセイのノイズを測定したところ、平均相対シフト量は15 pm(95%信頼区間8.8-21.2 pm)であり(図2aの緑色の線と斜線)、図1の検量線に基づけば、これは最大濃度14.6 μg/mLに相当することになります。

4人の被験者では、最大濃度、タンパク質濃度がピークに達する時間、スパイクタンパク質が血中から完全に除去されるまでの時間に違いが見られました。しかし、明確な傾向として、各注射の直後(1〜3日)にスパイクタンパクが急激に増加し、1カ月以内にベースラインレベルに戻ることがわかりました。これは、Ogataらが報告した時間経過とよく一致しています。

さらに,ワクチン接種後の抗体産生の時間的経過を追跡するために,各サンプルの抗SARS-CoV-2抗体の有無を測定しました(図2b)。ここで見られるパターンも同様で、ほとんどの被験者において、最初の3週間で緩やかな増加が見られ、2回目の投与後には顕著な増加が見られました。抗RBD抗体で見られた3分間のシフトは、約75~600pmの範囲でした。

ワクチン接種後の抗体濃度はよく知られているため、研究チームは抗体の反応曲線は作成していません。しかし、抗体とスパイク全体のタンパク質の大きさが似ていることから(抗体は約150kDa、S1+S2は134.6kDa)、抗体のフォトニックレスポンスが高いのは、循環している抗体の濃度が非常に高いからだと述べています。これは、COVID-19患者の回復期における抗RBD抗体を記録した研究チームの以前の研究と一致しているとしています。

1人の被験者(図2赤点)については、73日目の最終タイムポイントが、スパイクタンパクと抗RBD抗体の両方の測定で異常値を示しました。この被験者は、この最後のサンプリングと同時に風邪をひいたと伝えてきました。著者らは、これらの異常な測定値は、被験者の血流中の免疫活動の増加と、OC43などの一般的な風邪のコロナウイルスのスパイクタンパクとの交差反応によるものかもしれないと述べています。

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図2. 4人の被験者におけるスパイクと抗スパイク抗体の時間経過 [2]. (a) スパイクタンパク質は各投与後に急速に増加し、1-2週間以内にベースラインに戻って減少する. ワクチン接種前の陰性コントロールのシフト(緑の線、緑の斜線=95%信頼区間)は、アッセイノイズを示す. (b) 同じ時間経過における抗SARS-CoV-2 RBD抗体の消長. 臨床試験とよく一致しており、1回目の投与後に抗体の緩やかな増加を示し、2回目の投与後に高力価に達していることを示す.

Ogataらの研究 [1] では,Quanterix社 Simoa 自動イムノアッセイシステムを用いて、同様のタイムスケールで血液中スパイクタンパクを 50 pg/mL 未満の濃度で測定しています。今回のフォトニックアッセイとOgataの研究との間に大きな相違(約100万倍)があったことについては、研究チームは、検量線作成に使った市販タンパク質の構造とセンサーの応答性に関係があるのではと考察しています。

今回の校正データは、市販のS1 + S2 ECDタンパク質から得られたものです。一方、BNT162b2 mRNAワクチン接種後に生体内で生成されるタンパク質は、プレフュージョンで安定化された完全長スパイクタンパク質です [3]。Ogataらが用いたSimoa抗原測定法は、S1とS2の両方のサブユニットに抗体が結合しするとシグナルを検出できるように設計されているので、切断されたSタンパクは検出できません。一方で、今回のセンサーでは分解されて生じるS1、S2タンパクも検出できている可能性があります。

3. 研究の意義

以下、本論文 [2] の考察を参照しながら、今回のセンサー研究の意義を考えたいと思います。

COVID-19ワクチン接種後の血中スパイクタンパクの存在についてのデータは、その重要性にも関わらず、ほとんどありません。さらに、ヒトの血液中でスパイクタンパクがどのように分解されるかについても、知見に乏しいです。現在、米国疾病管理センター(CDC)の情報サイトでは、血流中のスパイクの寿命は「不明であり、数週間である可能性がある」とされており、今回のような研究の必要性が強調されています。

先に述べたように,ワクチンには,膜貫通ドメインを含むスパイクタンパク質の全長の配列が含まれています。このため、スパイクタンパク質が宿主細胞の膜に付着するだけなのか、その後どのように宿主細胞から切り離されるのか、血流に乗るのかなど、免疫反応の正確なメカニズムについては多くの疑問があります。

しかし、今回のデータは、ワクチン接種に反応して生成されたスパイクタンパク質が実際に血流に入り、1週間以上持続し、1か月以内に消失することを確認し、全体的な反応を理解するための重要な第一歩を示しています。また、抗体の生成や長期的な免疫には、循環する免疫細胞が関与していることが示唆されていますが、これを確認するにはさらなる研究が必要です。

今回の研究では、迅速フォトニックセンサーとマイクロピラーカードの組み合わせが、診断用の有望なプラットフォームを構成できることが明らかになりました。 研究チームが提示したアッセイの現在の感度は、臨床的に広く利用するためには改善が必要です。とはいえ、プラスチック製のマイクロピラーマイクロ流体カードの流入特性と再現性が改善されれば、その多くは達成可能であると著者らは述べています。

当該センサーの特徴としてサイズが非常に小さいことが挙げられます(200 μm以下)。このため、チップのフットプリントが小さくて済み、多重化の可能性もあります。 この技術が開発されれば、病気の進行状況やワクチンの効果に関するデータを早期に入手することができ、将来のパンデミックの抑制に役立つことが期待されます。

おわりに

今回の光リング共振センサーでの測定で私が驚いたのは、mRNAワクチンを受けた人の血清中に、先行研究の結果とは桁違いのスパイクタンパク量が検出されていることです。Ogataらの論文 [1] と比較すると、その検出量は100万倍のスケールでの高い濃度になります。それが1週間から数週間血流に乗って体内を駆け巡るわけです。

これは、上述したように、スパイクタンパク質全体を検出しているのか、その分解物を検出しているのか、の測定技法の違いに由来するのかもしれません。後者だとしたら、ワクチン接種後数週間は、高濃度のスパイクタンパク質の分解物が全身に存在することになります。

従来のワクチンに比べて、COVID-19 mRNAワクチンでは副反応、有害事象、接種後死亡がきわめて多く発生していますが、これは個人によって抗原の合成量と残存性が大きく異なることと関係があるような気がします。つまり、mRNAワクチン戦略は分子生物学の理論上の話だけで進められたプラットフォームであり、実際の応用にあたっては抗原量が制御不可になることで予期しない状態に陥る可能性もあるということです。中和抗体を作る以前の問題です。治験ではこの問題はスキップされています。

考えてみれば、体内で抗原タンパクがどのくらいできるかもわからずに、そのタンパクがどこへ行くかもわからずに、そしてタンパク合成工場である細胞自身が自己免疫(細胞性免疫)の攻撃対象になるかどうかもわからずに(ろくに調べもせずに)注射しているわけですから、無茶な話です。

仮にmRNAワクチンに重大な薬害があったとしても、それを科学的に、リアルタイムで見つけることは難しく、国策で進められている現状では、システム上・政治的にも困難です。事実、ワクチン接種後の死亡例はほとんどすべて評価不能とされています。それを承知の上で、抗原制御不可のワクチン接種が進められています。その意味で、老若男女の不特定多数を相手に一律に進められる大量mRNAワクチン接種プログラムは失敗であると個人的には思います。mRNAプラットフォームは個人レベルでの治療や予防に限定すべきだと考えます。

高齢者の発症、重症化防止に対しては明らかに効果があるmRNAワクチンですが、若年層に対するリスクははるかに高いです。mRNAワクチンよりも、抗ウイルス経口薬とそれを飲むタイミングを早期診断する検査のセットがこれから重要になると思います。

引用文献

[1] Ogata, A. F. et al. Circulating severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) vaccine antigen detected in the plasma of mRNA-1273 vaccine recipients. Clin. Infect. Dis. ciab465, May 20, 2021. https://doi.org/10.1093/cid/ciab465

[2] Cognetti, J. S. et al.: Monitoring serum spike protein with disposable photonic biosensors following SARS-CoV-2 vaccination. Sensors 21, 5857 (2021). https://doi.org/10.3390/s21175857

{3] Polack, F. P. et al. Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine. N. Engl. J. Med. 383, 2603–2615 (2020). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2034577

[4] Sahin, U. et al.: COVID-19 vaccine BNT162b1 elicits human antibody and TH1 T-cell responses. Nature 586, 594–599 (2020). https://www.nature.com/articles/s41586-020-2814-7

[5] Liang, F. et al. Efficient targeting and activation of antigen-presenting cells In vivo after modified mRNA vaccine administration in Rhesus Macaques. Mol. Ther. 25, 2635–2647 (2017). https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2017.08.006

[6] Goel, R. R. et al. Distinct antibody and memory B cell responses in SARS-CoV-2 naïve and recovered individuals following mRNA vaccination. Sci. Immunol. 6, eabi6950 (2021). https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.abi6950?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

[7] Rhea, E. M. et al.: The S1 protein of SARS-CoV-2 crosses the blood–brain barrier in mice. Nat. Neurosci. 24, 368–378 (2021). https://www.nature.com/articles/s41593-020-00771-8

[8] Cognetti, J. S. et al. Disposable photonics for cost-effective clinical bioassays: Application to COVID-19 antibody testing. Lab Chip 21, 2913–2921 (2021). https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/lc/d1lc00369k

[9] 谷本佳彦ら: SARS-CoV-2検出検査のRT-qPCR法と抗原定量法の比較. 国立感染症研究所 IASR 42, 126-128 (2021). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10464-496d03.html

引用したブログ記事

2021年6月28日 mRNAワクチンへの疑念ー脂質ナノ粒子が卵巣に蓄積?

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

2021年5月27日 mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19