Dr. Tairaのブログ

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抗イディオタイプ抗体が悪さをする?

SARS-CoV-2感染症(COVID-19) パンデミックが始まって以来、3年目になりましたが、依然としてその病態の理解はまだ不完全です。それはこの病気において、なぜ複数の臓器に影響が及ぶのか、ウイルス消失後においてもなぜ長期にわたって"Long COVID"症候群(いわゆる後遺症)が起こるのか、ということでも言えます。

パンデミックの抑制には、複数の有効なワクチンの開発が不可欠ですが、その有効性はSARS-CoV-2が変異し続けることによって、大きく制限を受けます。そして、ワクチンは標的外作用や毒性作用を伴う可能性があり、現行のワクチンの場合、アレルギー反応、心筋炎、免疫介在性血栓症、血小板減少症などの副作用(日本で言う副反応)が含まれます。接種後死亡の事例もかなり起こっています。

これらの現象の多くは、免疫介在性である可能性が高いですが、人によって異なるきわめて多様な免疫反応を、私たちはどのように理解したらよいのでしょうか。昨日(3月23日)のブログでは、遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞そのものが細胞性免疫の攻撃対象になるという自己免疫性の問題を指摘した論文を紹介しました(→遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる

ここでは、New England Journal of Medicineに掲載された論説 [1] を取り上げたいと思います、この論文では、ワクチンの免疫反応や副作用を理解する方法の一つとして、抗イディオタイプ抗体(Anti-idio-type antibody, Ab2抗体) の免疫反応の概念を適用することを提唱しています。Ab2抗体とは、抗体分子の抗原認識領域に結合する抗体です。このブログ記事では、この論文を翻訳、適宜要約しながら、以下に紹介します。

1974年、Niels Jerneはネットワーク仮説を提唱しました。これは、抗原に対する抗体反応そのものが、下流の抗原特異的抗体に対する抗体反応を誘導するというメカニズムです。抗原に対して特異的に誘導される抗体(Ab1抗体)は、免疫原性領域、特に可変領域抗原結合ドメインに、免疫グロブリン可変・多様・接合(VDJ)遺伝子間の遺伝子組換えによって生じる独自の領域を有します。この領域の独自性のおかげで、免疫グロブリンが抗原に特異的に結合できるわけです。

そして、VDJ遺伝子組換えの結果、イディオトープ(idiotope)と呼ばれる新しい免疫原性アミノ酸配列が生まれ、これがダウンレギュレーションの一形態としてAb1抗体に対する特異抗体(すなわちAb2)を誘導することができます。同様の考え方がT細胞にも提唱されています。

ここで問題になるのは、Ab1に特異的なAb2抗体のパラトープ(抗原結合ドメインは、元の抗原と構造的に類似するということです。つまり、Ab2抗原結合領域は、Ab1反応における最初の標的抗原の正確な鏡像となる可能性があるということです。これは、ワクチン研究において、Ab2抗体が抗原の代替物として使用可能か、検討されていることからも言えます。

しかし、このAb2の擬態は、元の抗原が標的としていたのと同じ受容体に結合する可能性があります(図1)。したがって、正常細胞上の本来の抗原の受容体に結合したAb2抗体は、特に長期的に、つまり本来の抗原そのものが消失した後でも、細胞に重大な影響を及ぼし、病理学的変化をもたらす可能性があるのです。

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図1. SARS-CoV-2あるいは遺伝子ワクチンによるスパイクタンパク質のACE2受容体結合および抵抗イディオタイプ(Ab2)抗体の概要(文献 [1] より転載).

このような免疫細胞応答の制御は、1983年にPlotzがウイルス感染後に生じる自己免疫の原因として提唱し、その後、Ab2抗体の直接導入により実験的に支持されています。また、エンテロウイルス Coxsackievirus B3 に対するマウスAb2抗体は、筋細胞抗原と結合して自己免疫性心筋炎を起こし、抗イディオタイプ反応はアセチルコリン受容体アゴニストとして作用してウサギの重症筋無力症症状を引き起こすことが知られています。さらにAb2単独では、ウイルス抗原の鏡像としての作用により、ウイルス粒子自体の有害な作用も模倣できることが、牛ウイルス性下痢ウイルス抗原によって示されています。

SARS-CoV-2感染では、スパイク(S)タンパク質と細胞内に侵入するためにアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体が焦点になります。Sタンパク質自身は、様々なメカニズムによってACE2シグナルを抑制する直接的な作用を持ち、また、直接toll様受容体に対するトリガーとなって、炎症性サイトカインを誘導することができます。

しかしながら、SARS-CoV-2ワクチンに対する抗体反応の前臨床および臨床評価は、もっぱらAb1反応とウイルス中和効力にのみに焦点が当てられてきました。とはいえ、潜在的な抗イディオタイプ反応を定義することは、抗体のポリクローナルな性質と動態、Ab1抗体とAb2抗体の同時存在などにより、実際困難です。さらに、細胞や組織内でのACE2の発現は変動する可能性もあります。

mRNA、DNA、アデノウイルスベクター、組換えタンパク質などの異なるワクチンコンストラクトは、Ab2誘導において、あるいは感染に対する反応とは異なるワクチン効果において、それそれ異なる(あるいは差がある)影響を及ぼす可能性があります。オフターゲット効果(本来ではない別の効果)の中には、Ab2反応と直接関連しないものもあります。たとえば、若い女性におけるいくつかのSARS-CoV-2ワクチンとの血栓事象の関連や、抗血小板因子4-ポリアニオン抗体の病因的役割は、アデノウイルスベクター接種による結果であると考えられます。

ところが、mRNAワクチン投与後の心筋炎の発生は、いくつかのウイルス感染後に引き起こされるAb2抗体による心筋炎と著しい類似性があると言えます。ACE2の神経組織での発現、SARS-CoV-2感染による特異的な神経病理学的変化、他のウイルスモデルで見られるAb2による神経学的影響との類似性から、Ab2抗体はSARS-CoV-2感染の場合のみならず、ワクチン接種後の神経学的影響も媒介すると思われます。

それゆえ、ウイルスやワクチンに対するすべての抗体およびT細胞反応を、経時的なAb2反応を含めて、完全に特性評価することが賢明であると考えられます。huACE2トランスジェニックマウスを使って、自己免疫や他のヒトの病理学的状態に素因を持つマウス系統と交配させて調べることも、重要な洞察を与えることができるでしょう。また、潜在的なAb2反応を理解することで、Ab1の維持や有効性、抗体医薬の応用に関する知見が得られるかもしれません。

しかし、ワクチンを接種した場合に、液性免疫反応と細胞性免疫反応の両方における免疫調節が、好ましくない副作用に繋がる可能性があることを明らかにするには、さらに多くの基礎科学研究が必要でしょう。

以上がNEJM論文の内容ですが、今回はAb2抗体反応を通じて、またまたスパイクコード遺伝子ワクチンの問題点が露にされたような感じです。すなわち、SARS-CoV-2の自然感染で誘発されるAb2抗体反応が遺伝子ワクチンの接種でも起こり、それが様々な副作用や長期的後遺症の原因になっている可能性があるということです。

論文中でもあるように、mRNAワクチンについてはこれまで中和抗体のレベルばかりに焦点が当てられ、それ以外の免疫反応や負の影響については、全くと言っていいほど問題にされてきませんでした。というより、すでに安全性は確かめられているというのがワクチン推進派の言い分だったと思います。緊急使用許可された遺伝子ワクチンですが、やはりここで一旦立ち止まる必要があると思います。

引用文献

[1] A possible role for anti-idiotype antibodies in SARS-CoV-2 infection and vaccination. N. Eng. J. Med. 386, 394-396 (2022). https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMcibr2113694

引用したブログ記事

2022年3月23日 遺伝子ワクチンを取り込んだ細胞は免疫系の攻撃標的になる

                                                  

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)