Dr. Tairaのブログ

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風邪で活性化したT細胞の新型コロナに対する交差反応性免疫応答

英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究グループは、風邪で活性化した既存のモリーT細胞が、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)感染を防御する交差反応性免疫応答を示すという研究結果を発表しました。下図はこの研究のプレス発表のトップ画面です [1]

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要約すれば、普通の風邪と闘う免疫細胞の活性レベルが高いと、COVID-19に感染しにくくなるということを示す研究結果です。これは、過去に罹ったコロナウイルス性の風邪でメモリーT細胞が活性化されており、これがSARS-CoV-2にも免疫応答するというわけですが、その交差反応は表面のスパイクタンパク質よりも内部のクレオカプシドに特異的に起こるというものです。

この研究結果は、電子ジャーナルであるNature Communications誌に1月10日付けで掲載されています [2]。以下に、論文のアブストラクトの筆者による翻訳を示します。

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"Cross-reactive memory T cells associate with protection against SARS-CoV-2 infection in COVID-19 contacts" by R. Kundu et al.

アブストラク

SARS-CoV-2に対する交差反応性免疫応答がpre-pandemicコホートで観察され、宿主の保護に寄与することが提唱されている。ここでは、SARS-CoV-2曝露後の最も早い時点での免疫反応をキャッチするために、52人のCOVID-19の家庭内接触者を調べた。我々は、末梢血単核細胞のdual cytokine FLISpotアッセイを用いて、ヒト常在コロナウイルスと交差反応するスパイク、ヌクレオキャプシド、膜、エンベロープおよびORF1 SARS-CoV-2エピトープに特異的なT細胞頻度を計数した。PCR陽性の接触者(n = 26)に比べ、PCR陰性の接触者(n = 26)では、交差反応性(p = 0.0139)およびヌクレオカプシド特異的(p = 0.0355)IL-2分泌メモリーT細胞の頻度が高く、スパイクに対する反応頻度に有意差は観察されず、スパイク交差反応型T細胞の保護機能は限定的であると示唆された。したがって、我々の結果は、既存の非スパイク交差反応性メモリーT細胞がSARS-CoV-2に接触した人を感染から守っていることと一致し、第2世代のワクチンに非スパイク抗原を含めることを支持するものである。

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ロイター [3] 下図)やブルームバーグ [4] などのメディアは、早速この論文の内容とインパクトを伝えています。

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ここではブルームバーグの記事 [4] を翻訳して紹介したいと思います。以下筆者による翻訳です。

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英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンが月曜日(1月10日)に発表した研究結果によると、COVID-19に感染した人と同居していても、感染しなかった人たちは、特定の風邪に対するT細胞のレベルが高いことが判明したという。これらの風邪は、SARS-CoV-2に関連する他のコロナウイルスによって引き起こされたものだ。

この研究結果は、Nature Communications誌に掲載され、T細胞による防御効果をさらに証明するものである。この免疫システムは、パンデミックが3年目に入り、オミクロンなどの新しい変異体がワクチン防御を侵していることから注目されている。

本論文の筆頭著者で、インペリアル国立心肺研究所のリア・クンドゥ(Rhia Kundu)研究員は、「SARS-CoV-2ウイルスに曝露されても、常に感染するとは限らない。その理由を明らかにすることが重要だ」、「我々は、風邪のような他のヒト・コロナウイルスに感染したときに、体内で作られる既存のT細胞が、高いレベルで防御できることを発見した」と述べている。

研究グループは、COVID-19に陽性反応を示した人と同居していた52人の血液サンプルを分析したが、そのうち半数は感染しなかったという。

T細胞による交差反応の証拠は今回が初めてではなく、この理解がより良いワクチンの開発にどのように役立つか、さらなる研究が必要であると、ブルームバーグ・インテリジェンスのシニア医薬品アナリスト、サム・ファゼリ(Sam Fazeli)氏は話す。

T細胞は抗体と比較して、体内でより長く生存する傾向があり、感染した細胞を殺すことが出来るので、重症化を防ぐことができる。英国医師会の公衆衛生医学委員会の前委員長であるピーター・イングリッシュ(Peter English)は、英国の科学メディアセンターで発表した声明の中で、「T細胞はまた、抗体よりも広範囲の関連病原体を攻撃する傾向があり、異なるウイルスや株に対してより高度な交差防御を可能にする」と述べている。

万能ワクチン

COVID-19ワクチンによって誘発される抗体は、ウイルスが細胞内に侵入する際に使用するスパイクタンパク質をブロックする。オミクロン変異体のようにスパイクに大きな変異がある場合、これらのワクチンは効果を失ってしまう。

一方、他のコロナウイルスに反応して作られたT細胞は、SARS-CoV-2の内部のタンパク質を標的としている、と科学者たちは述べている。同様のアプローチは、現在および将来の変異型からの感染を防ぐことができる万能ワクチンの開発に役立つ、と著者らは述べている。

1つのワクチンですべてのコロナウイルスに対処することは、それほど遠い話ではない。「今回同定された防御T細胞が標的とする内部タンパク質は、変異が非常に少ない」とクンドゥ研究員は述べている。「これらの保存された内部タンパク質を含む新しいワクチンは、現在および将来の変異体から保護するために、広くT細胞応答を誘導することができる」。

この知見には注意点がある。この研究は小規模であり、参加者の88%がヨーロッパ系の白人であったということだ。COVID-19から身を守る最善の方法は、ブースター接種を含む完全なワクチン接種を受けることである、とクンドゥ研究員は述べた。 

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以上が記事の翻訳です。

筆者あとがき

獲得免疫系の免疫記憶については液性免疫(メモリーB細胞)を中心に以前のブログでも紹介しました(→mRNAワクチンと免疫記憶)。また、T細胞の記憶免疫については、日本人に多いヒトは血球抗原HLA-A24に結合するSARS-CoV-2のスパイクタンパク質中のエピトープが同定され、このエピトープを季節性コロナウイルスに対する記憶免疫キラーT細胞(細胞傷害性T細胞)が交差認識することを紹介しました(→ファクターXの候補としての交差反応性T細胞)。

今回の研究 [2] は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質ではなく、内部にあるコロナウイルス共通で保存性の高いタンパクに交差反応するメモリーT細胞の機能が明らかにされたということで、一歩進んだ段階に至ったと言えます。既存の獲得免疫によるSARS-CoV-2に対する交差反応性免疫応答は以前から提唱されていますが、今回の研究は、SARS-CoV-2の無症候性感染者が多いことの一つの説明になることや、ユニバーサル(万能)ワクチンの開発も示唆することできわめて重要です。

とはいえ、SARS-CoV-2感染が無症状になる免疫機構が示唆されているにも関わらず、私たちはスパイクコードmRNAワクチンを繰り返し打たなければならないのでしょうか。現在のmRNAワクチンが入院や重症化を防いでいる効果はもちろんありますが、従来のワクチンに比べて副作用(副反応)や有害事象が格段に多く、未知の負の影響の可能性が高いことは事実です。

「COVID-19から身を守る最善の方法は、ブースター接種を含む完全なワクチン接種」というクンドゥ研究員の言葉は、何だか釈然としないものがあります。

引用文献・記事

[1] Head, E.: T cells from common colds cross-protect against infection with SARS-CoV-2. Imperial College London, January 10, 2022. https://www.imperial.ac.uk/news/233018/cells-from-common-colds-cross-protect-against/

[2] Kundu, R.: Cross-reactive memory T cells associate with protection against SARS-CoV-2 infection in COVID-19 contacts. Nat. Commun. Published January 10, 2022. https://www.nature.com/articles/s41467-021-27674-x

[3] Smout, A.: T-cells from common colds can provide protection against COVID-19 - study. Reuters 2022.01.10. https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/t-cells-common-colds-can-provide-protection-against-covid-19-study-2022-01-10/

[4] Loh. T. & Lauerman, J.: T cells triggered by common cold fend off Covid in study. Bloomberg 2022.01.10. https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-01-10/t-cells-triggered-by-common-cold-also-fend-off-covid-in-study

引用したブログ記事

2021年12月6日 ファクターXの候補としての交差反応性T細胞

2021年10月5日 mRNAワクチンと免疫記憶

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)