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オミクロンの重症化率、致死率は従来の変異体と変わらない?

オミクロン変異体はこれまでのSARS-CoV-2変異体と同様に重症化度が高い、とする研究成果を、5月6日付けのロイター記事が紹介しました [1]。この研究は、米国マサチューセッツ総合病院ミネルバ大学ハーバード大学医学部の共同研究グループによるもので、今月2日、プレプリント(査読前の短報)として報告されています [2]。本研究は、ワクチン接種、人口統計、併存疾患で調整・補正すると、オミクロンは以前の流行の波と同程度の致死率であることが判明したとしてします。

このブログでは、このロイターの記事(下図)に沿って、この研究を紹介したいと思います。結論から言うと、ワクチン接種や治療薬の進展のおかげで、オミクロンが従来の変異体に比べて軽症に見えているだけだということです。

オミクロン変異体(B.1.1.529系統)は、他の SARS-CoV-2 変異体よりも感染力は強いけれども重症度は低いと、以前から報告されてきました。研究グループは、この仮説を検証するために、米国マサチューセッツ州の 13 病院を含む大規模医療システムの電子カルテと州レベルのワクチン接種データをリンクさせました。そして、13万人以上のCOVID-19患者を対象に、SARS-CoV-2の流行の波に応じた入院と死亡のリスクを比較する統計分析(加重ケースコントロール研究)を実施しました。

入院率および死亡率を調整しないでそのままみると、オミクロンよりも以前の波でそれらは高いように見えました。しかし、医療利用は一定とした上で、様々な人口統計、シャルソン併存疾患指数スコア、ワクチン接種状況などの複合因子を加味して調整・補正すると、入院および死亡のリスクは、全パンデミック期間でほぼ同じであることが分かりました。

研究グループは、この分析結果に基づいて、オミクロン変異型の本質的な重症度は、これまでの変異型と同様である可能性を示しているとしています。これは、感染力は強いが重症度は低いという、これまでの研究での仮定とは相容れないものです。

この研究は、ワクチンの影響を考慮した上でオミクロンの重症度を推定したものですが、専門家は予防接種とブースターショットの重要性を強化するものであると述べています。つまり、ワクチン接種のおかげで、オミクロンの急増時の入院や死亡は、過去の変異型と比較して低く抑えられたというわけです。

イェール大学医学部およびイェール大学アウトカム研究・評価センターのArjun Venkatesh医師は、COVID患者13万人の記録に基づくこの新しい研究はユニークで「かなり強力」だと述べています。先行研究では、死亡や入院の数だけを見てきましたが、この研究では、患者のワクチン接種の状況や医学的な危険因子を考慮し、類似のグループを比較していることをVenkatesh氏は指摘しています。

プレプリントの著者らは、自宅での迅速検査を行った患者を除外したため、より最近のCOVID波におけるワクチン接種患者数および総感染者数が過小評価された可能性など、本報告に潜在する限界を挙げています。一方、Venkatesh氏は、この研究では、モノクローナル抗体や抗ウイルス剤など、「入院を減らすことが知られている」治療を患者が受けたかどうかは考慮されていないと指摘しています。もし、これらの治療法がなかったら、オミクロンはさらに悪化していた可能性があるということです。

世界中の国々は、明らかに致死的な変異体が急増した時でさえ、国民のかなりの割合がCOVIDワクチンを接種したがらないことを経験しています。オミクロン変異体が2021年後半に初めて確認されたとき、公衆衛生当局は、感染者の大多数ではるかに軽い症状になることを述べました。そのことが、ワクチンをためらう人たちに、注射の必要性が低いことを促したのかもしれません。

しかし、Venkatesh氏は、このプレプリントは、ワクチンがオミクロンの最悪の影響から人々を免れるのに役立ったという証拠を付け加えているとしています。「ワクチンやブースターが重要でないと考えるのは間違いだ」と彼は述べています。

以上がロイター記事の内容ですが、この記事を読んで感じることは、ワクチンのおかげでオミクロンは軽症になっており、ワクチンは重要だという結論になっていることです。確かに、ワクチンやブースターのおかげで、全体的にオミクロン感染患者の症状が軽くなったことはあるのでしょうが、個人的にはワクチンの有効性を過大評価しているような気がします。

ここで、先月終わりに開催されたわが国の新型コロナウイルス感染症アドバイザリーボード会合の資料 [3] から、新規陽性者、重症者、および死亡者における年代別ワクチン接種状況を示します(図1)。

図1. 新規陽性者、重症者、および死亡者における年代別ワクチン接種状況(文献 [3] より転載).

オミクロン変異体による状況は2022年からですが、この図を見ると、65歳未満では、ワクチン未接種、完全接種、およびブースター接種で、重症化率や死亡にあまり差異がないように思われます。オミクロンによる死亡の大部分は65歳以上ですが、この年代においても、重症化防止、死亡抑制に対するワクチン接種の劇的な効果というには程遠く、感染者の中でワクチン未接種者の重症化・死亡割合が若干増えている程度にしか見えません。

確かに、デルタ変異体の流行においては重症化・死亡抑制にワクチンの効果はあったでしょう。しかし、オミクロン流行においては、ワクチンの効果はかなり低く、実際にはワクチン接種によって死亡を早めた例もあるのではないか、そして、ワクチンの正の効果と相殺されているのではないかという感じもします。

引用文献・記事

[1] Strasser, Z. et al.: SARS-CoV-2 Omicron variant is as deadly as previous waves afteradjusting for vaccinations, demographics, and comorbidities. Res Square Posted May 2, 2022. https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1601788/v1

[2] Ghosh, S. and Lapid, N.: Omicron as severe as other COVID variants -large U.S. study. Reuters May 6, 2022. https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/omicron-severe-previous-covid-variants-large-study-finds-2022-05-05/

[3] 第82回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(鈴木先生提出資料) 2022.04.27. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000934786.pdf

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)