Dr. Tairaのブログ

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SARS-CoV-2類似のコウモリウイルス発見の意義

はじめに

今月、ネイチャー誌の電子版(最終編集前暫定版)に、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)に類縁する新規ウイルスの論文が掲載されました [1]。これまでで最もSARS-CoV-2に近く、かつヒト細胞に感染性をもつコウモリコロナウイルスに関する論文です。掲載されたのは2月16日ですが、初稿の受付が昨年9月3日であり、サンプリングの時期が2020年になっていますので、デルタ型流行より以前に行なわれた研究です。

論文を報告したのはフランスのパスツール研究所ラオス国立大学の共同研究チームです。SARS-CoV-2に関連するコロナウイルスは、従来コウモリやセンザンコウから見つかっていますが、今回新しいのは、受容体に結合する領域においてSARS-CoV-2のオリジナル株(武漢株、Wuhan-Hu-1 China 2019)にきわめて高い相同性があり、かつ武漢株よりも効率よくヒト受容体タンパク質に結合し、細胞に侵入して複製を行なうコウモリウイルスが見つかったということです。

このブログで本論文の概要を紹介しながら、この研究の意味するところを考えたいと思います。

1. 論文の要旨

まずは本論文のアブストラクトの全翻訳を以下に示します。

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"Bat coronaviruses related to SARS-CoV-2 and infectious for human cells" by Temmam, S. et al. [1]

SARS-CoV-2については、R. affinisから分離された最類縁ウイルスであるRaTG13を含む、アジアのRhinolophusコウモリおよびセンザンコウで様々な関連ウイルスの報告がある。しかし、SARS-CoV-2の宿主動物については不明である。SARS-CoV-2はモザイク状のゲノムを有し、様々な祖先に由来する。スパイク配列は、細胞内のアンジオテンシン変換酵素2ACE2)受容体への結合親和性と受容体結合ドメインRBD)のアクセス性を決定し、宿主範囲を決定している。SARS-CoV-2に遺伝的に近く、ヒトACE2(hACE2)経路でヒト細胞に侵入できる祖先型コウモリウイルスは、流行の起源を理解する上で鍵となるであろうが、まだそれが何かは同定されてはいない。我々は、このようなウイルスが、インドシナ半島の北ラオス石灰岩のカルスト地形に生息する洞窟コウモリの間で実際に循環していることを、この論文で示す。これらのウイルスのRBDは、SARS-CoV-2のRBDとACE2との結合領域において1〜2残基だけ異なっており、ヒトの初期症例で分離されたSARS-CoV-2武漢株よりも効率よくhACE2タンパク質に結合し、ヒト細胞においてhACE2依存的に侵入と複製を行い、そして、これはSARS-CoV-2の中和抗体により阻害されることがわかった。これらのコウモリウイルスはいずれもスパイクにフーリンfurin)切断部位を有していなかった。本研究の結果から、インドシナ半島Rhinolophus属には、ヒトに感染する可能性のあるコウモリ由来のSARS-CoV-2様ウイルスが循環していることが示唆される。

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アブストラクトは以上です。

2. 研究の背景

次に、今回の研究の背景と動機を論文のイントロを翻訳しながら説明します。

SARS-CoV-2の起源、すなわち、このウイルスがどのようにしてヒトへ侵入するに至ったのかというルートは現在のところ不明です。SARS-CoV-2の出現以来、多くの動物種がウイルスのリザーバーおよび中間宿主として研究されており、その中には食虫性のコウモリであるRhinolophus属種も含まれています。

最近、様々なSARS-CoV-2関連ウイルスが報告されていますが、Rhinolophus属のコウモリでは、SARS-CoV-2により類似するウイルスの検出は困難でした。現在、SARS-CoV-2に最類縁のウイルスは、コウモリR. affinis由来のRaTG13株であり、全ゲノムレベルでの類似度は96.1%です。

また、いくつかの研究により、SARS-CoV-2の出現にセンザンコウコロナウイルスが関与していることも示唆されています。SARS-CoV-2 は、ヒトに出現して以来、散発的な変異や組換え事象を通じて進化してきましたが、そのうちのいくつかは、より強い伝播性や、中和抗体から逃れるための「体力増強」に繋がる変異をもつものです。

SARS-CoV-2の起源を解明するためには、動物コロナウイルス、特にコウモリコロナウイルスの多様性を明らかにすることが不可欠です。コウモリ中のSARS-CoV-2の確認は大きな目標ではありますが、より現実的な目標は、そのゲノムのモザイク化に寄与している配列を同定することです。

この面で、スパイク配列は、細胞内のACE2受容体に対するRBDの結合親和性とアクセス性を決定し、宿主範囲に関与することから、必須の標的になります。現在までに確認されている最類縁のコウモリ株(RaTG13)は、SARS-CoV-2とのRBD配列相同性が低く、保存されているhACE2接触アミノ酸残基も11/17と非常に限られているため、hACE2との親和性は非常に低いです。

さらに、SARS-CoV-2は、これまで調べられた範囲ではコウモリやコウモリの細胞への感染性が低いことがわかっています。たとえば、SARS-CoV-2 RBDはR. macrotis ACE2にhACE219よりも低い親和性で結合します。また、コウモリのSARS-CoV-2様ウイルスがhACE2を使って効率よくヒトの細胞に侵入することは示されておらず、ヒトでの病原性上昇に関連するフーリン切断部位を提示するウイルスも知られていません。したがって、「SARS-CoV-2のRBDモチーフに近く、かつhACE2と高親和性で結合できるコウモリウイルスの存在」という重要な情報が欠落しています。

そこで今回、研究チームは、インドシナ半島の中国、ラオスベトナムに共通する石灰岩のカルスト地形に生息するコウモリから、このタイプのウイルスが確認できるのではないかと考えて、この調査研究を始めました。そして、SARS-CoV-2のRBDと1〜2個の接触残基のみが異なるSARS-CoV-2に近いサルベコウイルスが存在し、それがhACE2タンパク質に強く結合し、hACE2依存的にヒト細胞への侵入と複製を媒介することを確認しました。それが今回の論文です。

なお、サルベコウイルスというのは、SARS-CoV-2が属するベータコロナウイルスBetacoronavirus)の亜属です。すなわち、SARS-CoV-2は、階層分類上ニドウイルス目(Nidovirales)、コルニドウイルス亜目(Cornidovirineae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、オルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)、ベータコロナウイルスBetacoronavirus)、サルベコウイルス亜属Sarbecovirus)に分類されるウイルス種です。

3. 研究の概要

3-1. コウモリコロナウイルスの分離と系統解析

今回の研究では、6科46種に属する計645頭のコウモリが調べられました。ラオス北部で捕獲されたものから、247の血液サンプル、608の唾液、539の肛門・糞、157の尿スワブを採取し、コロナウイルス共通を標的とするnested RT-PCR法でスクリーニングしました。その結果,Decacovirus, Pedacovirus, Rhinacovirus亜属のアルファコロナウイルスNobecovirus, Sarbecovirus亜属のベータコロナウイルスの配列が同定されました。これらの中で、サルベコウィルスに感染した個体はすべてビエンチャン県フエン地区のものでした。

次世代シークエンシング(NGS)とサンガー法により、7つのサルベコウイルスのうち5つの完全なゲノム配列が得られました。これらのうち、メタゲノム上の3株(R. malayanus BANAL-52、R. pusillus BANAL-103、R. marshalli BANAK-236)は、S1ドメイン(NTD、RBD)またはS2領域においてSARS-CoV-2と類似していることが判明しました。ヒトSARS-CoV-2のA系(Wuhan/IME-WH01)とB系(Wuhan-Hu-1)、およびコウモリとセンザンコウの代表的なサルベコウイルスのRDBドメインについて系統解析を行ったところ、これら3株はSARS-CoV-2に近いと同時に、2019年に採取されたセンザンコウコロナウイルスの2つにも類縁であることがわかりました(図1B)。

これから分かるように、非常によく似たSARS-CoV-2様ウイルスが異なるコウモリ種で共有されており、同じ洞窟に同所的に生息する異なる種間でウイルスが循環している可能性があります。

これまでSARS-CoV-2と最類縁とされてきたRaTG13(96.1%類似性)と同じく、BANAL-52コロナウイルスはゲノムの全長にわたってSARS-CoV-2と高い塩基類似性(96.8%)を示し、これは類似性プロット解析とよく一致する結果となりました(図1C)。そして、興味深いことに、BANAL-52はスパイクのS1ドメイン、特にスパイクのN末端ドメイン(NTD)とRBDにおいて、RaTG13よりも高いレベルの塩基とアミノ酸保存性を示しました(図1D)。

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図1. ラオスのコウモリ由来サルベコウィルスのゲノム記載(文献 [1] より転載).(A)サンプリング地点の地図. すべてのBANAL分離株は同じ場所(サイト1)から収集. (B)ラオスおよび代表的なヒト、コウモリ、センザンコウのサルベドウイルスの受容体結合ドメインのタンパク質配列に基づく系統樹. 配列はMAFFT49の "auto "モードで多重アライメントし、LG+G置換モデルのNGPhylogeny portal50で実行されたPhyMLを使って最尤系統樹を作成. 分岐サポートは aBayes パラメータで評価. 配列名には、登録番号とコウモリの種を記載.  (C) SARS-CoV-2ヒトプロトタイプ株の全長ゲノム配列(NC_045512、Wuhan-Hu-1)を比較対照とした、ラオスおよび代表的コウモリ・センザンコウの類似性プロット解析. SimPlotプログラム、バージョン3.5.151を用い、Kimura-2パラメータモデル、ウィンドウサイズ1,000塩基対、ステップサイズ100塩基対で解析. (D)ヒトSARS-CoV-2系統B(NC_045512)と比較した代表的なヒト、コウモリ、センザンコウサルボウイルスにおけるタンパク質レベルの同一性のヒートマップ. スパイクタンパク質を機能ドメインに分割し、RBDドメインの同一性の割合に応じて配列を並べた.

ゲノム類似性プロット解析の結果は、ヒトSARS-CoV-2と代表的なコウモリやセンザンコウコロナウイルスとの間のアミノ酸の同一性を支持しており、いくつかのウイルスのORF8を除いて、高いレベルの保存性が見られます。一方で、スパイクのS1ドメイン(特にN末端ドメイン)は、いくつかのコウモリコロナウイルスにおいて低い保存度を示しており、このドメインがウイルスの哺乳類宿主への相対的適応度を反映している可能性が示唆されました(図1D)。

3-2. コウモリ・サルベコウイルスの進化史

研究チームは、進化系統解析を行なった結果、サルベコウイルスの進化における14の潜在的組換えブレークポイントを同定し、さらにその組換え点によって定義される15の配列断片を確認しました。しかし、組換え点に特異的なsignatureは確認されませんでした。

SARS-CoV-2はモザイク状のゲノムを有しますが、その中には既往の研究および本研究で決定された配列と近い配列が5つ以上含まれていました。それらは、2019年に中国で見つかったR. malayanus RmYN02とR. pusillus RpYN06ウイルス、2013年に中国で見つかったR. affinis RaTG13コロナウイルス、2020年に北ラオスで見つかったR. malayanus BANAL-52およびR. pusillus BANAL-103 (本研究)です。一方、SARS-CoV-2の起源の組換え事象と関連すると思われるセンザンコウコロナウイルスの配列は存在しませんでした。

興味深いことに、SARS-CoV-2ゲノムのいくつかの組換え点ごとの断片の起源は、ユニークなドナー配列ではなく、いくつかのドナー配列に割り当てることができました。たとえば、RBDとS2の始まりからなるSARS-CoV-2の下流には、SARS-CoV-2の姉妹クレードを形成するBANAL-52、BANAL-103、および BANAL-236ウイルスが関与していると考えられる配列が見られました。

ヒトACE2と相互作用する17残基のうち、カンボジアコウモリR. shameliウイルスではSARS-CoV-2と13残基、中国コウモリ R. affinis RaTG13では11残基しか保存されていません。一方、BANAL-52またはBANAL-103とSARS-CoV-2との間では16残基が保存されており(1つのミスマッチ、H498Q)、BANAL-236とSARS-CoV-2間では15残基で保存されていました(2つのミスマッチ、K493QとH498Q)。

全スパイクタンパク質レベルでは、R. affinis RaTG13とpangolin-2017 P4Lウイルスは、R. malayanus BANAL-52よりもSARS-CoV-2に類縁に見えましたが、この効果はS2での保存度が高いことによるものと考えられました。これらのウイルスはすべて、フーリン切断部位(PRRA [プロリン–アルギニン–アルギニン−アラニン])がないこと内部融合ペプチドが保存されていることにおいて共通性が認められました図2)。

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図2. フーリン切断部位領域の塩基配列の多重アラインメント(上部に予測アミノ酸を示す. 文献 [1] より転載). (A) 代表的なコウモリSARS-CoV-2様コロナウイルスの完全なヌクレオチドおよびアミノ酸スパイク配列をGenBankおよびGISAIDからダウンロードし、MAFFT (G-INS-I parameter) でアラインメント. (B) CLC Main Workbench (Qiagen) を用いてアラインメントを手作業で編集.

3-3. BANAL RBDとACE2との相互作用

研究チームは、hACE2とBANAL-52/103(受容体結合モチーフに同一の残基を持つ)、BANAL-236およびSARS-CoV-2のRBD(残基233-524)との相互作用について調べました。BLI(Biolayer interferometry) 解析の結果、BANAL RBDはSARS-CoV-2と比較して3倍低い解離定数Kdを示しました。この高い親和性は、SARS-CoV-2 RBDのhACE2に対する親和性を高めると報告されているQ498Hのミスマッチに起因すると考えられ、またSARS-CoV-2およびSARS-CoV-2様ウイルスの宿主域拡大に関与している可能性もあります。

次に、SARS-CoV-2、BANAL-236およびBANAL-52/103 RBD/hACE2複合体の結晶構造およびホモロジーモデルに基づく分子動力学(MD)シミュレーションを行ない、これらのRBDとhACE2の間の界面における変異の影響を調べました。MD軌道クラスター解析の結果は、RBD-hACE2界面において、BANAL-52/103シミュレーションの1つがRBD残基S443-Y449のコンフォメーション変動をより大きく示しましたが、それ以外は、両BANAL複合体はSARS-CoV-2のRBD/hACE2複合体と2ÅバックボーンRMSD以内で一致しました。そして、経験的スコアリング関数により、3つの複合体すべてにおいてRBD/hACE2の結合エネルギーは同程度であると予測されました。

さらに、水素結合と塩橋の持続性を解析することで、RBD/hACE2界面における置換の影響について調べました。BANAL-52/103とBANAL-236の両方のRBDに存在するH498Qのミスマッチは、RBD Q498とhACE2のK353およびQ42の間の水素結合を阻害しました。しかし、これらの水素結合はSARS-CoV-2複合体においてのみ一過性に形成されました。この領域のより持続的な水素結合(RBD T500 - hACE2 D355、RBD G502 - hACE2 K353、RBD Y505 - hACE2 E37)は影響を受けませんでした

これらの相互作用の分子的な詳細については、BANAL-236 RBDとhACE2ペプチダーゼドメインの複合体の結晶構造を2.9Åの分解能で決定されました。このRBDの全体的な構造は、SARS-CoV-2の構造と同じでした(RMSD 0.360 Å、150 Cα)。唯一の大きな違いは、アミノ酸D363とS375の間の領域のみでした。

要約すると、SARS-CoV-2 RBD/hACE2複合体で観察された相互作用のほとんどは、BANAL-236 RBD/hACE2複合体の構造にも存在するということです。これらの結合界面では、3つの主要な相互作用のクラスター(1〜3)が存在しますが、配列のミスマッチは、クラスタ2(塩橋を作るRBD K493 - hACE2 E35)と3(RBD H498とD38の間の水素結合)にあります。K493-E35の相互作用は複合体の安定化に寄与していますが、両方のBANAL RBDが同様のKd値を持つため、hACE2への結合には劇的な影響はないと考えられるようです。

3-4 ヒト細胞におけるウイルス複製

BANAL-236スパイクタンパク質がヒトACE2を発現する細胞への侵入を媒介できるかどうかを評価するために、WuhanまたはBANAL-236スパイクで疑似化したレンチウイルス粒子とVeroE6細胞を用いて確かめました。その結果、このスパイク擬似型レンチウイルスのスパイクを介した細胞への侵入が確認されました。

このヒト細胞に効率的な侵入は、SARS-CoV-2を中和する血清により阻止されました。したがって、BANAL-236の中和は、SARS-CoV-2のスパイクと共通するエピトープに特異的であることが示されました。

3-5. 考察

今回の結果に基づいて、著者らは、既往の中国株であるR. pusillus RpYN06、R. malayanus RmYN02、Rhinolophus sp. PrC31と、今回のラオスで分離されたR. malayanus BANAL-52、 R. pusillus BANAL-103、および R. marshalli BANAL-236の類縁系統は、SARS-CoV-2ゲノムの異なる領域の発生に寄与していると考えています。より近いウイルスゲノムの寄与はまだ確認されておらず、センザンコウウイルスはコウモリコロナウイルスよりも遠縁のウイルスと思われると述べています。

研究チームは、今回、SARS-CoV-2の潜在的な組換え部位を特定し、組換え点によって定義された相同領域間で、初期の分離SARS-CoV-2株の系統的歴史を再構築することを可能にしました。SARS-CoV-2のRBDの始点に組換え点があり、RBD、フーリン切断部位、S2のN末端領域からなるウイルストロピズムと宿主スペクトルの鍵となる下流断片が存在することを確認しました。これらに基づく系統学的な再構成により、今回のラオスのメタゲノム株(BANAL-52、BANAL-103、およびBANAL-236)が、現在知られているSARS-CoV-2に最も近い系統であることを明らかにしました。

このなかで、ORF8はSARS-CoV-2関連ゲノムの間で高い分岐性を示しますが、BANAL-52、BANAL-103、BANAL-236のORF8は、RaTG13のそれと同様に、センザンコウ株よりもSARS-CoV-2に近いことがわかりました。ORF8は免疫回避に関与するとされるタンパク質をコードしており、2020年3月以降に出現した多くのSARS-CoV-2株で欠失しています [2] 。これは2003年のSARS流行の際に確認された欠失を彷彿とさせるものであり、したがって、ORF8の存在は、コウモリがSARS-CoV-2の初期株の自然な宿主として機能していることと一致すると、著者らは述べています。

今回のラオス株では、SARS-CoV-2に非常に近いとはいえ、RDBドメインにおけるhACE2と相互作用するアミノ酸が1個(H498Q [BANAL-103およびBANAL-52])または2個(K493QおよびH498Q [BANAL-236])置換されています。しかし、構造生物学、機能生物学的解析により、これらの変異が、相互作用を不安定にすることはないことが示されました。

これらの知見に基づいて、著者らは、SARS-CoV-2がもともと東南アジアや中国南部の広大な鍾乳洞に生息するRhinolophus 属コウモリにあらかじめ存在する配列の組み換えによって生じたという仮説を支持するものだと述べています。そして、新型コロナ出現前のセンザンコウのような中間宿主におけるhACE2に対するRBD親和性の増加に関する組み換えや自然選択、出現後のヒトにおける自然選択という仮説は不要であると主張しています。

一方で、これらのSARS-CoV-2関連ウイルスのいずれにもフーリン切断部位が見られません。このフーリン切断部位の欠如というギャップについては、著者らは、コウモリのサンプリングが不十分である(探索の見逃しがある)可能性を挙げるとともに、SARS-CoV-2に存在するフーリン切断部位が、コウモリに共存するSARS-CoV-2関連コロナウイルス間の組み換え事象に由来する可能性を文献 [3, 4] を挙げて指摘しています。さらに、フーリン切断部位は、別の宿主におけるウイルスの継代や、ヒトで症状が報告されない初期の循環の間に獲得された可能性もあるとしています。

今回、BANAL-236のスパイクectodomainのACE2に対する高い親和性から予想されるように、これを発現する疑似ウイルスは、ACE2依存性の経路で内在性hACE2を発現するヒト細胞に効率的に侵入することができました。そして、SARS-CoV-2を中和する血清により侵入が阻止されました。結論として、SARS-CoV-2のオリジナル株(武漢株)と同様に、ヒトに感染する可能性があると思われる新規のコウモリサルベコウイルスの存在を突き止めた意義が述べられています。

著者らは最後に、これらの新規ウイルスの感染の可能性について述べています。すなわち、洞窟の中で過ごす特定の修行僧や洞窟を訪れる観光客は、特に感染する危険性があるとし、もし感染しているとしたら、これらのウイルスのいずれかに感染しているかどうか、また感染によってその後のSARS-CoV-2感染に対する防御が可能かどうかについては、さらなる調査が必要であるとしています。

おわりに

今回のネイチャー論文は、メタゲノム上の新規ウイルスの発見と解析結果を踏まえて、SARS-CoV-2はいくつのコウモリウイルスの組換えで出現した可能性を、文献も挙げて指摘しています。SARS-CoV-2ゲノムのいくつかの組換え点に見られる断片は、ユニークな配列ではなく、いくつかのドナーウイルス株に割り当てることができるというのが、その主張の根拠の一つです。

しかし、私はこれを読んでいて、逆にSARS-CoV-2の人為的改変ウイルス説(→新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える)をますます浮かび上がらせる結果ではないかと思いました。つまり、既存のあるコウモリウイルス株をバックボーンとして、リバースジェネティック系を用いて、これまた既存のウイルスの断片を繋ぎ合わせて作ったウイルスではないかということです。

SARS-CoV-2がもつフーリン切断部位は、宿主のセリンプロテアーゼであるフーリンによる分断(塩基性アミノ酸解裂部位の後ろを切断)を効果的にし、ウイルスの感染力と宿主の範囲を決定づける要因となっていると考えられています(→新型コロナウイルスは人為的改変体ではない?。この核心部分であるフーリン切断部位挿入の謎は、やはり今回の研究でも解決されていません。

当該論文を含めて、組換えで起こりえるという主張がありますが、それならフーリン切断部位をもつ野生サルベコウイルス株が見つかってもよさそうなものですが、これだけ精力的にコウモリやセンザンコウの類縁コロナウイルスの探索が行なわれていながら、見つかったものはすべて切断部位が欠落しています。

フーリン切断部位はほかのベータコロナウイルスにも見つかっていますが、塩基性アミノ酸解裂部位RRに見られる-CGG-CGG-というきわめて特異な塩基配列図1参照)は、依然としてSARS-CoV-2にしかありません。したがって、人為的に組み込まれた配列と考えれば納得がいきやすいですが、それは永遠にわからないでしょう(当事者しか知らない)。そして、もし人為改変ウイルスであるならば、野生生物の中にSARS-CoV-2を探し出す、あるいは中間宿主を探すという努力は無駄に終わるのかもしれません。

それはともかく、今回の研究成果は、フィールドワーク、生態学、進化系統学、分子生物学、構造生物学、機能生物学の多相的アプローチによる国際共同研究よって成し遂げられたものです。このような俯瞰的な探究心と力技による分野融合的研究は、いまの日本からは生まれないだろうというのが率直な感想です。

引用文献

[1] Temmam, S. et al.: Bat coronaviruses related to SARS-CoV-2 and infectious for human cells. Nature, published Feb. 16, 2022. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04532-4

[2] Su, Y. C. F. et al. Discovery and genomic characterization of a 382-nucleotide deletion in ORF7b and ORF8 during the early evolution of SARS-CoV-2. mBio 11, e01610-20. https://doi.org/10.1128/mBio.01610-20

[3] Zhou, H. et al. Identification of novel bat coronaviruses sheds light on the evolutionary origins of SARS-CoV-2 and related viruses. Cell 184, 4380–4391.e14 (2021). https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.06.008

[4] Lytras, S. et al.: The Sarbecovirus origin of SARS-CoV-2’s furin cleavage site. https://virological.org/t/the-sarbecovirus-origin-of-sars-cov-2-s-furin-cleavage-site/536

引用したブログ記事

2021年8月5日 新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える

2020年3月19日 新型コロナウイルスは人為的改変体ではない?

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜) 

カテゴリー:ウイルスの話