Dr. Tairaのブログ

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短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?–その2

はじめに

一昨日(3月15日)のブログで、オミクロン変異体による第6波流行においては、発症から短期間での重篤化や死亡が特徴であることを述べました。しかし、これはオミクロンの病態の特徴というよりも、mRNAワクチン接種の悪影響ではないかという個人的疑問をもちました(→短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?)。

その翌日、大阪府災害対策本部の第73回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議が開催され、大阪の感染流行に関する詳細な資料が公表されました [1]。そこで、この資料に基づいて、第6波における死亡までの日数短縮について、さらに考察してみたいと思います。

1. 死亡率と重症化率

資料の11ページ以降に重症・死亡例のまとめがありますので、そこからの図を適宜転載しながら考えてみたいと思います。

まず、大阪の死亡率ですが、以下に示すように、第1波を除いて、全般的に全国より悪いです。やはり、第6波でも全国最悪の被害を出しているように、大阪の感染対策のマズさは際立っているように思います。死亡は高齢者ほど起こりやすいことは、すべての流行の波で言えることですが、詳細については後述します。

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第1波 全国5.4% 大阪4.9%

第2波 全国1.0% 大阪1.5%

第3波 全国1.8% 大阪2.6%

第4波 全国1.9% 大阪2.8%

第5波 全国0.4% 大阪0.4%

第6波 全国0.19% 大阪0.23%

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一方、重症化率を見ると、やはり第1波から一貫して高齢者ほど顕著ですが、60歳以上で見ると、21.1%(第1波)、9.8%(第2波)、8.8%(第3波)、9.3%(第4波)、4.7%(第5波)、0.84%(第6波)と低下傾向にあり、とくにオミクロンでは重症化率が低くなっています。これはオミクロン変異体が重症化しにくいということに加えて、ワクチン接種も影響しているのではないかと思われます。

2. 第6波で短縮された死亡までの日数

ここから、本筋に入りますが、第6波になって死亡までの日数が短縮されたかどうかという点です。

図1は、第4波、第5波、および第6波における、診断から死亡までの日数および発症から死亡までの日数を示したものです。橙色は重症患者による死亡、水色は重症化以外による死亡を示します。第4波と第5波はあまり傾向が変わりませんが、第6波において診断あるいは発症から1〜7日で死亡に至っている事例が最も多く、日数が短くなっていることがわかります。さらに重症化患者の死亡においても短縮されていることが特徴です。

発症から7日以内の死亡の割合でみると、第4波で15.3%、第5波で25.4%、第6波で51.2%となっています。

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図1. 第4波、第5波、および第6波における診断から死亡(上)および発症から死亡(下)に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

次に、第4波、第5波、および第6波における、60代以下(水色)と70代以上(橙色)の発症から死亡までの日数をみたのが図2です。いずれの年代も第6波において1〜7日の死亡の割合が顕著に多くなっています。すなわち、第6波における死亡までの日数短縮は、すべての年齢層にみられる傾向であるということです。

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図2. 第4波、第5波、および第6波における60代以下(水色)および70代以上(橙色)の発症から死亡に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

図3は、基礎疾患のあるなしでの発症から死亡までの日数を示します。基礎疾患があった人(橙色)および基礎疾患がなかった人(水色)ともに、第6波において発症から3日で亡くなった人が多いことを示しています。

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図3. 第4波、第5波、および第6波における基礎疾患があった人(橙色)および基礎疾患がなかった人(水色)の発症から死亡に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

以上の結果から、第6波においては過去の流行の波と比べて、発症から短期間で亡くなる人が顕著に増えており、それは年齢や基礎疾患の有無に関係なく、当てはまるということが言えます。

3. 場所と死亡までの日数との関係

それでは、これらの人たちはどこで亡くなったのでしょうか。そして、亡くなった場所と死亡までの日数と関係があるのでしょうか。図4は、病院(紺色)、施設(橙色)、および自宅(薄緑ストライプ)で死亡した人の発症から死亡までの日数を示します。

目立つのは自宅で3日で死亡した人が多いことです。これは入院できずに、あるいは重篤化に気づかないまま亡くなったことを意味します。大阪府の感染対策の拙さや医療崩壊の一面が出ていると言えるでしょう。

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図4. 第4波、第5波、および第6波における基礎疾患があった人(橙色)および基礎疾患がなかった人(水色)の発症から死亡に至るまでの日数(文献 [1] から転載).

しかし、病院においても施設においても発症から1週間〜10日以内に亡くなっている人が多く、とくに第4波において1〜4週間の死亡割合が高いこと(図1)と比べると対照的です。つまり、医療崩壊の影響で自宅で早期に死亡した人が多いとは言え、入院患者さえも第4波、第5波と比べると早期に死亡しているということになります。入院が遅れたということもあるでしょうが、流行の波による違いは顕著だと言えます。

4. ワクチン接種との関係

それではワクチン接種の履歴と死亡までの日数の関係はどうでしょうか。図5に、3回接種(紺色)、2回接種(橙色)、および1回接種+未接種+不明(水色)の人の発症から死亡までの日数を示します。目立つのは、1回接種+未接種+不明のカテゴリーの人の3日での死亡です。しかし、残念なのは、1回接種、未接種、不明が一括りにされているため、完全接種やブースター接種に比べて明確な傾向がみえにくくなっていることです。ここは一括りにするべきではありません。

完全接種やブースターでみても、やはり発症から1週間〜10日以内での死亡の割合が多く、第4波の1〜4週間の死亡割合が高いことと比べると、明らかに死亡までの日数が短縮されています。

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図5. ワクチンの3回接種(紺色)、2回接種(橙色)、および1回接種+未接種+不明(水色)の人の発症から死亡までの日数を(文献 [1] から転載).

すなわち、第6波においては、年齢や基礎疾患の有無やどこで療養・治療していたかに関わりなく、発症から死亡までの日数が短縮されており、これはワクチン接種を受けていても当てはまるということになります。

5. 専門家はどうみたか

それでは、今回の大阪府新型コロナウイルス対策本部会議において、出席した専門家の委員(座長のみであとは書面提出)はどのような死亡分析をしているでしょうか。

まず、朝野和典座長は、死亡までの日数短縮が起こったことについて、「オミクロン株の病原性が弱いため、あるいはワクチンの影響で肺炎やそれに伴うサイトカインストームが死亡原因ではない」、「高齢者が多いために、発熱や倦怠感の症状が明確ではなく診断が遅れた」、「診断時に自宅にいる人の割合が多いことから、自宅での気づくのが遅れた」などと分析しています。その上で、「死亡者の半数以上はワクチンを打っていないか不明の人のため、データからはワクチンの死亡抑制効果は明らかである」と述べています。

しかし、資料 [1] では、ワクチン未接種者と不明者がなぜか一括りにされています。ワクチンの効果を論じるには、この点をはっきりさせる(区別する)必要があります。

資料にはそのほかの4人の専門家のうち、3人の死亡分析のコメントがありますので、それを図6に示します。死亡までの日数が短縮されたことについては、オミクロン株では「初期に軽症・無症状であることも多い」、「コロナ感染の診断の遅れ」、「コロナが重症化する以前に早期死亡に至った」、「死因についてもっと詳細な検討が必要である」などの意見が見られます。

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図6. 第73回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議における専門家委員による死亡分析(文献 [1] から転載したものに筆者加筆).

しかし、これまでの流行の波と比べて、オミクロンでは重症化率が低いにも関わらず、なぜ死亡までの日数短縮が起こったかについては明確な説明はないように思われます。朝野座長は、第6波での死亡例にワクチン未接種者が多いことに言及していますが、第4波では全員が未接種であるにも関わらず、早期死亡例は第6波よりはるかに少ないです。

おわりに

オミクロン変異体による第6波において早期死亡例が多いということは、大阪府の分析でも明確になりました。しかし、会議資料を見てもなぜそうなのかということははっきりしません。自宅療養の高齢者が気づくのが遅れたとか、診断が遅れたなどという理由付けがなされていますが、入院患者の場合でも、明らかに以前の流行と比べて早期死亡例が増えています。大阪の感染対策の不備はもちろんありますが、それだけではないようにも思われます。

つまり、上記したように、年齢、基礎疾患の有無に関わらず、そしてワクチン完全接種者やブースター接種者においてさえも、以前の流行(ワクチン接種前)と比べて早期死亡例が増えているのです。第6波では重症化率や死亡率は格段に減っているわけですから、早期死亡はオミクロンの帰因するとは考えにくいです。

ほかに理由を考えるとするなら何があるでしょうか。やはり、ワクチンの効力低下、あるいは武漢型mRNAワクチンの繰り返し接種による悪影響(たとえば抗体依存性免疫増強や免疫不全)が出てきた(→短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?)とは考えられないでしょうか。

引用文献

[1] 大阪府災害対策本部: 第73回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議. 2022.03.16. https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/38215/00423092/ikkatsu4.pdf

引用したブログ記事

2022年3月15日 短期間での重篤化・致死はオミクロンの特徴?

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)