Dr. Tairaのブログ

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重症者が増えなければよいという方針で死亡者増

今年の大型連休(GW)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策についてまん延防止措置などの行動制限の規制が全くない状況です。これに関して、昨日の民放の番組「池上彰のニュース解説」で、昨年の同時期に比べてはるかに感染者数が多いのに、なぜ行動制限がないのかということを同氏が説明していました。要するに、第6波流行をもたらしたオミクロン変異体は従来のデルタ型などと比べて軽症者が多く、重症者数が少ない分、医療崩壊することがないので、行動制限する必要がないという説明でした。

とはいえ、図1に示すように、第6波以降これまで最多の感染者数と死者数を記録しており、最大の被害になっていることは周知の事実です。感染者数が爆発的に増えれば、その分死者数が増えることも当初から想像できたことであり、事実そうなりました(→「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態)。

図1. 日本におけるCOVID-19の死者数の推移(7日間の移動平均値、Our World in Dataより).

私は上記のテレビ番組を観ながら、その感想を以下のようにツイートしました。

死者数は2月をピークに急速に減りつつありますが、BA.2変異体による現流行になってからも、依然としてデルタの第5波に近いレベルを保っています。テレビは、日々の陽性者数や重症者数を重点的に伝えても、死者数についてはサラッとした感じで流すか、全く報じないこともあります。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾見茂会長の弁にも代表されるように、政府や専門家はことあるごとに重症者数が大事と言ってきましたが、これは上述のように、病床のひっ迫や医療崩壊を防ぐための考え方であったと言えます。つまり、人々を感染から守る、罹った人を守るということではなく、「医療システムを守る」ということなのです。都合がよいことに、オミクロンによるCOVID-19は重症化しにくい傾向があり、その結果、患者を入院させるのではなく、自宅療養や施設療養を優先する方針がとられました。

もちろん、オミクロン感染者数が爆発的に増加し、自動的にその都度の病院収容がままならない状態になったことも影響しています。軽症なのになぜ医療がひっ迫したかというのもこの理由です(→オミクロンは軽症なのになぜ病院をひっ迫させるのか?)。

ところが、オミクロン患者では重篤化に至らないまま、いきなり亡くなる事例が増えました。軽症だという理由で、自宅療養や施設療養が優先された結果、ある日突然悪化して亡くなったり、慌てて病院に収容されたもののそのまま亡くなるというケースが多くなったのです。この傾向は現在まで続いています。これがオミクロン流行でパンデミック以来の最多の死者数を記録している理由の一つです。

敢えて誤解を恐れず言えば、感染患者が次々と亡くなっていけば、病院は全くひっ迫せず、医療崩壊も起きません。「重症者が増えなければよい」という重症者数抑制自体が目的化してしまった上に、「オミクロンはほとんどが軽症」という認識が加わって、自宅・施設療養が優先され、かえって死亡事例を増やしているのです。

つまり、リスクコミュニケーションにおける「重症者数が大事」、「オミクロンは重症化率が低い」という情報流布は、犠牲者の実態が見逃されやすいということだけでなく、流行状況が軽視されることで感染患者を爆発的に増やし、かえって医療を圧迫させ、医療崩壊に至るということでも問題なのです。

そしてここがまさに詐欺的と思えるのが、重症者の定義がオミクロンが流行る前の状態のままで「重症者数が大事」と尾見氏をはじめとする感染症コミュニティが言い続けていることです。すなわち、従来は肺炎を起こせば中等症人工呼吸器やECMOを装着すれば重症という定義でしたが、いまのオミクロンCovidは全身性の疾患であることがわかっており、肺炎や人工呼吸器をすっ飛ばしていきなり重篤化し、亡くなるというケースが増えているのです。さらに、人工呼吸器やECMO装着を望まない高齢者もいて、亡くなるということも頭に入れておかなければなりません。

日本がオミクロン流行で最多の死者数を出したのとは対照的に、欧米先進諸国は流行の波を重ねるごとに死者数を減らしています。特にワクチン接種が進んだ以降は、それが顕著です。図2は、フランス、ドイツ、イタリアの死者数の推移を示していますが、オミクロンの流行では最も死者数が減っていることがわかります。

図2. 日本と比較した欧州3国(フランス、ドイツ、イタリア)の日別死者数の推移(7日間の移動平均値、Our World in Dataより).

図3には英国での死者数の推移を示します。上記欧州3国とはちょっとパターンが違いますが、やはりデルタ流行以降急激に死者数を減らしています。英国では規制が全面的に解除されているため、最近ではやや死者数が上昇気味です。

図3. 図2. 日本と比較した英国の日別死者数の推移(7日間の移動平均値、Our World in Dataより).

図4は米国とカナダの死者数の推移を示しています。欧州と比べて流行の波を経るごとの死者数低下は顕著ではありませんが、オミクロンで際立って死亡が増えているということはありません。

図4. 日本と比較した北米2国の日別死者数の推移(7日間の移動平均値、Our World in Dataより).

すなわち、流行を重ねるごとにウイルスと病態について学び、ワクチン接種を含めた感染症対策が改善され、最悪の被害を少なくするという方向に一応向かっている欧米諸国に対し、日本は逆に最悪の被害を増やしているのです。日本は、もともと検査を含めた防疫・感染対策がお粗末なことや医療アクセスが狭い上に、「重症者が増えなければよい」、「オミクロンは軽症で自宅・施設療養でよい」という安易な方針が、そうさせてしまったということでしょう。

栃木県では、基礎疾患のない10歳未満の女子がCOVID-19で亡くなったことが報道されました [1]。県は「死亡した女の子は当初は軽症で基礎疾患がなかったため、自宅療養という判断は妥当だったと考えている。基礎疾患のない子どもでも死亡することがあることを知っていただき、引き続き感染対策をお願いしたい」と述べたそうですが、何をか言わんやです。これでは亡くなった女の子が浮かばれません。

国や専門家の「重症者数が大事」、「オミクロンは軽症」という言葉の裏にある真の意味を、私たちは注意深く読み取る必要があります。これらは詐欺的フレーズと考えた方がよいのです。そして、これらの言葉に安易に広報的に伝えるメディアにも注意しなければなりません。これらのフレーズが強調される限り、次の流行波(第7波)で感染者を爆発的に増やし、医療を圧迫させ、さらに医療崩壊に至り、これまで以上に犠牲者を増やすことが繰り返されるでしょう。

引用記事

[1] NHK NEWS WEB: 新型コロナ 基礎疾患ない10歳未満の女児死亡 栃木県. 2022.05.01. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220501/k10013608211000.html 

引用したブログ記事

2022年2月1日 オミクロンは軽症なのになぜ病院をひっ迫させるのか?

2022年1月27日 「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)