Dr. Tairaのブログ

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迅速抗原検査はオミクロン検出の感度が低い

はじめに

SARS-CoV-2の検査は、現在、プローブ・リアルタイムPCR(RT-PCRが標準法として使われています。一方、発症者を迅速に診断したり、感染をスクリーニングするための迅速(簡易)抗原検査(rapid antigen test, RAT)も多用されており、一部の国では国家検査戦略の重要な柱として実施されています。

しかし、RATはPCR検査に比べてかなり感度が低く、たとえば、PCR検査でのCt値>25の低ウイルス排出感染者では、陽性と判定できない場合があることも指摘されています。さらに、RATは一般にウイルスのクレオカプシドタンパク質を標的としていますが、ここに変異が入ると、検出感度がさらに低下することが懸念されています。例として、オミクロン変異体(B.1.1.529)ではそれまでの変異体に比べて検出感度が落ちることを報じたプレプリントを、先のブログ記事で紹介しました(→ステルスオミクロン)。

今年2月には、ドイツの研究チームが、RATのオミクロン検出感度について検討した結果を報告しました [1]。結論として、RATのオミクロン検出の感度が悪いこと、in vitroで拡大培養したウイルスストックでRATの性能評価することは当てにならないことを述べています。このブログ記事で、本研究を紹介したいと思います。

1. 研究の背景

論文に書かれたイントロダクションに沿って、研究の背景を述べます。

SARS-CoV-2検出のためのRATは、迅速かつ安価で、検査室に依存しないポイント・オブ・ケア診断(診療現場での検査診断)を提供することで重宝されています。これらの中には、一般人でも使用できるものが承認されており、公衆衛生上の介入のためのツールとして頻繁に使用されています。SARS-CoV-2のPCR検査の物理的環境がやや限られていることを考慮すると、RATからの検査結果だけで、COVID-19の確定診断、あるいは症状のない人の検疫や隔離を判定するための「非感染」「非感染」状態の証明として提案を行っている保健当局もあります。

一方、異なる検査組織による独立した評価とコクラン(Cochrane))メタ分析 [2] によると、RATの性能が非常に不安定であることが示されています。それゆえ、臨床診断や感染者のスクリーニング検出に対するRATの有用性については、現在も論争が続いています。

SARS-CoV-2のRATで標的となるのは、一般にヌクレオカプシドタンパク質です。RATの大半は、「懸念すべき変異体(VOC)」の出現前に開発されていますが、VOCはヌクレオカプシドタンパク質に異なる変異箇所を持つため、VOC特異的なRAT評価を行うことが必要です。

オミクロン変異体では、スパイクタンパク質に30以上の非同義変異があるほか、BA.1亜系統のヌクレオカプシドタンパク質には、オリジナルのWuhan-hu-1ウイルスの配列と比較して、P13L、DEL31/33、R203K、G204Rという4つの変異が、さらにBA.2ではS413Rの変異があります。これらの変異のうち3つ(P13L、DEL31/33、S413R)は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ型(B.1.617.2)にはないオミクロンに特有のものであり、RATの性能予測を困難なものにしています。

注目すべきことは、オミクロンのRATの臨床的および分析的性能に関する既往の報告に、一部矛盾があることです。すなわち、組織培養で得られるデルタまたはオミクロン分離株の比較研究では、10種類のRATの分析感度にVOC特有の違いはなく、オミクロンに対するこれらのRATの有効性を結論付けている [3] 一方で、培養VOCを用いた分析比較検証は、臨床検体評価に取って代わることはできないとも述べられています [4]

そこで今回、ドイツの研究チームは、SARS-CoV-2のヌクレオカプシドを検出する9種類のRATについて,臨床呼吸器材料と培養ウイルス(デルタ株およびオミクロン株)の両方を用いた分析性能を比較することにしました [1]

2. 結果の概要

2-1. 検体およびRATキットの特異性

今回の研究で使用されたRATキットは以下の9種類です。これらの中には日本の富士フィルム製のキットも含まれています。

Test 1: FUJIFILM COVID-19 Ag Test(富士フィルム

Test 2: Novel Coronavirus 2019-nCoV Antigen Test (Beijing Hotgen Biotech)

Test 3: NanoRepro SARS-CoV-2 Antigen Schnelltest (Viromed) (NanoRepro AG)

Test 4: CLINITEST Rapid COVID-19 Antigen Test (Healgen Scientific LLC)

Test 5: Lyher Novel Coronavirus (COVID-19) Antigen Test Kit (Hangzhou Laihe Biotech)

Test 6: COVID-19 Ag BSS self-test (Biosynex Swiss SA)

Test 7: rapid SARS-CoV-2 Antigen Test Card (Xiamen Boson Biotech)

Test 8: rapid SARS-CoV-2 Antigen Test Card (MP Biomedicals Germany GmbH)

Test 9: Medicovid-AG SARS-CoV-2 Antigen Rapid Test Card-nasal (Xiamen Boson Biotech)

上記のRATを適用した臨床検体は鼻咽頭スワブであり、あらかじめRT-qPCRと次世代シーケンシングによるデルタおよびオミクロン型の同定とウイルス濃度検定を行ないました。全てのRATの特異性を評価するために、PCR陰性の鼻咽頭スワブを検体として試験しました。その結果、9つのRATの特異性は、すべて100%(CI 96.3-100%)でした。

2-2. キットの種類ごとの感度

上記の臨床検体を対象として、9つのRATの分析感度を直接比較検討しました。デルタ変異体を含む検体を調べた場合、RAT感度は34.92~58.46%であり、その範囲は、PCR陽性の63検体中、22検体(最低値、テスト1)および38検体(最高値、テスト5, 8)に相当しました(表1)。オミクロン変異体を含む検体においては、全体の感度は22.22〜57.43%であり、PCR陽性101検体中、それぞれ22検体と58検体が正しくスコアリングされました(表2)。

表1. 9種類の迅速抗原検査キット(Test 1〜9)のデルタ変異体を含む臨床検体の検出感度(文献 [1] より転載)

表2. 9種類の迅速抗原検査キット(Test 1〜9)のオミクロン変異体を含む臨床検体の検出感度(文献 [1] より転載)

最近報告されたロジスティック回帰モデル [16] に基づいて、検出限界の50%(ピンクの縦縞の点線)と95%(黄色の縦縞の点線)を決定しました(図1)。

図1. 9種類の迅速抗原検査キット(Test 1〜9)のデルタ変異体およびオミクロン変異体に対する50%検出限界および95%検出限界を示すロジスティック回帰モデル(文献 [1] より転載)

図1に示すように、テスト1(富士フィルム製)では、デルタを含む検体のLoD50(50%検出限界)とLoD95(95%検出限界)のRNAコピー数は、それぞれ1.19×10^6と7.03×10^7でした。一方、オミクロンを含む検体では、LoD50 値は 1.11×10^7、LoD95 値は 7.12×10^9 となりました。他のRATキットでは、テスト1よりも感度がやや高くなるものの、デルタ試料に比べてオミクロン試料の方が高いRNAコピー数が必要という同様の傾向になりました。唯一、テスト9では、デルタ試料ではLoD50が1.82×10^5、LoD95が3.02×10^6、オミクロン試料では1.94×10^5、3.41×10^6となり、同程度の良好な分析結果となりました。

全体を要約すると、LoD50においては、デルタでは1.32×105~2.05×10^6 RNAコピーとなり、オミクロンでは1.77×10^6~7.03×10^7 となりました。すなわち、RATで陽性となるには,デルタ型に比べてオミクロン型では10倍(LoD50)または101倍(LoD95)の高いウイルス量が必要ということになります。

RT-PCRのCt値<25のウイルス量が高い検体においては、オミクロン検体の陽性率は31.4〜77.8%でしたが、中程度のCt値(25〜30)の検体では、0〜8.3%に減少しました。すなわち、Ct値>25のPCR(オミクロン)陽性検体では、RATは実質機能しないということです。

2-2. 細胞培養で増やしたウイルスストックにおけるRAT感度

先行研究では、in vitroで増やした異なるウイルス株は、RAT感度が同等であることが示されています [3]。そこで、細胞培養によるデルタ株とオミクロン株のストックについて、並行的感度評価を行いました。デルタ株(GISAID 3233464)は、ヌクレオカプシドタンパク質にD63G、R203M、D377Yの変異を持ち、さらに一般に報告されているG215C変異を持ちます。オミクロン株(GISAID 7808190、BA.1亜系)は、P13L、del31/33、R203KおよびG204R変異を保有しています。

結果として、テスト1、5、8および9は、デルタおよびオミクロンのウイルス株を2.5×10^6 RNAコピーまで検出できましたが、他の5キットは感度が低く、陽性と判定するために最大で8倍以上のウイルス RNAが必要でした。興味深いことに、細胞培養で増やしたオミクロンはデルタに比べて、特にテスト2、4、6、7でわずかに検出率が高い傾向がみられました。

要約すると、この解析では、「in vitroで増やしたオミクロンとデルタのウイルスストックはRATによって同等の感度で検出される」という、先行研究の結果を追認するものでした。しかし,これは上記の臨床検体の評価とは明らかに異なり,ウイルス量が同程度のCOVID-19患者においては、実際、オミクロン感染の検出感度が低下していることが示されました。

3. 考察と意義

今回のドイツの研究 [1] の限界は,呼吸器スワブを採取した個人のワクチン接種状況、過去の感染症、症状またはCOVID-19の病期に関する情報がないこと、加えて研究の検査条件とポイントオブケア環境と異なることです。それらを踏まえた上で、この研究成果には二つの意義があります。一つは、もともと PCRに比べてRATの性能は劣るのですが、その感度は市販キットの種類によって大きく異なり、かつオミクロンにおいてはさらに感度が悪くなっていることを示したことです。もう一つは、組織培養で増やしたウイルス株のストックを検体とした場合と臨床検体を用いた場合とでは、感度の結果が異なることを示したことです。

臨床検体とウイルス株培養ストックとの間で、およびデルタとオミクロンとの間でRATの性能が異なる理由は、今のところ不明である、と著者らは述べています。その上で、以下のような4つの可能性を推測しています。すなわち、(1) 宿主の免疫反応によって引き起こされるウイルス誘発性細胞死または細胞溶解の程度が、呼吸器粘膜に見られるVOC特異的なヌクレオカプシドタンパク質のレベルに寄与している可能性、(2)COVID-19のウイルスRNAあたりのヌクレオカプシド比率がオミクロンよりもデルタで高い、(3) 組織培養ウイルスストックでは、より生理的な環境と比較して、ウイルスRNAに対するヌクレオカプシドタンパクの比率におけるVOC固有の差異が平準化される可能性、(4)COVID-19患者の特異的抗体反応が、ワクチン接種や過去の感染履歴で、RATのVOC特異的陽性率に異なる影響を与える可能性、という推測です。

一般に、高ウイルス量のオミクロン感染者は、市販RATキットによって確実に検出されると広く伝えられています。しかし、このような一般的な主張に根拠を与えるような公的機関の評価は、全てのRATキットについてなされていないし、通常のヒト−ヒト間の相互作用条件下で「本当に」感染性のある個人またはスーパースプレッダー候補のグループを確実に特定するということも、科学文献によって立証されてはいないと著者らは述べています。そして、感染力を増したVOCが出現する以前に、Ct値≧27の明らかなスーパースプレッダーが出現した例 [5] や、Ct値≧35の検体からウイルス培養した例 [6, 7] を挙げています。

実験的研究により、新しい宿主への感染には千個程度のウイルス粒子で十分であると推定されていますが、RATによる陽性スコアに必要なウイルス量は千倍以上にも及ぶとされています。予備的な報告によると、オミクロン感染者は、以前のVOC感染者よりもさらに少ないウイルスしか排出しない(少ないウイルス量で感染成立する)可能性があります。著者らは、大半のRATキットの分析感度の低さを考慮すると、オミクロンの臨床診断性能をさらに悪化させる可能性があると述べています。

モデリング研究によれば、感染者を識別するためのRATの感度の低さは、複数回の繰り返し検査によって補われる可能性があるとされています。これは、RATの「再校正された絶対感度」が約80%であるという主張に基づいていますが [8]、独立した実験室ベースまたはフィールド研究の大多数によって支持されていません。SARS-CoV-2迅速抗原検査の性能について、国際機関およびPaul-Ehrlich-Instituteが示した最低要件は、80%以上の総合感度および97%以上の特異度です。このことから、著者らは、これらの基準を満たさないRATは、直ちに市場から撤去されるべきである、と主張しています。

結論として、培養ウイルスストックを用いた in vitro 試験で、RATの臨床的性能の予測価値を求めることは疑問だということが述べられており、RATによるオミクロン感染の検出率低下に対する認識を高めると同時に、最低限の性能を満たす適切なRATのリストを速やかに公開する必要があるとしています。

おわりに

迅速抗原検査(RAT)がPCR検査に比べてかなり感度が悪いことは、当初から知られている事実です。問題は、市販のRATキットが数々のVOC変異体が出現する前に設計・開発されていることで、標的とするヌクレオカプシドタンパクに変異を有するVOCに対してはさらに検出感度が悪くなり、実用性に適うかという懸念でした(→ステルスオミクロン)。

今回の論文は、まさにこの懸念が現実のものとなっていることを示したということでしょう。オミクロン変異体については、RATは、Ct値>25となるようなウイルス濃度の検体については実質機能せず、それよりも濃度が高い検体についても、半分以上は見逃す可能性があるのです。現在、オミクロンBA.1/BA.2に対して、69/70欠失、L452R, F486V変異を有するRA.4、RA.5変異体も出現していますが [9]、基本的にRAT検出感度は同様に低いと考えられます。

日本でのSARS-CoV-2検査体勢は、海外と比べるときわめてお粗末ですが、RATの検査割合もかなり高いので、感染の見逃しは大きいのではないかと推測します。東京都で言えば、全体の検査数の約3割はRATが使われているようなので、特にオミクロンの流行になってからの検出精度は低くなっているでしょう。

RATはウイルス排出量が多い場合には検出できるので、社会活動で感染させないという使用目的には適うのではないかと個人的に考えてきました。実際、多数の人に会う仕事に向かう場合は、その度にRATで陰性を確かめてから出かけてきましたが、オミクロン流行になってからは、考えを改めるようになりました。

なお、日本の空港検疫では、PCRではなく抗原定量検査が用いられていますが、同様にヌクレオカプシドタンパクを標的としています。RATで起きている現象が当てはまるとするなら、オミクロン流行になってから、検疫での検出感度が悪くなっていることも考えられます。

引用文献

[1] Osterman, A. et al.: Impaired detection of omicron by SARS-CoV-2 rapid antigen tests. Med. Microbiol. Immunol. Published Feb. 20, 2022. https://doi.org/10.1007/s00430-022-00730-z

[2] Dinnes, J. et al.: Rapid, point-of-care antigen and molecular-based tests for diagnosis of SARS-CoV-2 infection. Cochrane Database Syst. Rev. 3, CD013705 (2021). https://doi.org/10.1002/14651858.CD013705.pub2

[3] Deerain, J. et al.: Assessment of the analytical sensitivity of ten lateral flow devices against the SARS-CoV-2 omicron variant. J. Clin. Microbiol. Feb. 16, 2022. https://doi.org/10.1128/jcm.02479-21

[4] Bekliz, M. et al: Analytical sensitivity of seven SARS-CoV-2 antigen-detecting rapid tests for Omicron variant. medRxiv. Posted January 17, 2022. https://doi.org/10.1101/2021.12.18.21268018

[5] Lin, J. et al.: A super-spreader of COVID-19 in Ningbo city in China. J. Infect. Public Health 13, 935–937 (2020). https://doi.org/10.1016/j.jiph.2020.05.023

[6] Liu, L.-T. et al.: Isolation and identification of a rare spike gene double-deletion SARS-CoV-2 variant from the patient with high cycle threshold value. Front Med. Jan. 6, 2022. https://doi.org/10.3389/fmed.2021.822633

[7] Singanayagam, A. et al.: Duration of infectiousness and correlation with RT-PCR cycle threshold values in cases of COVID-19, England, January to May 2020. Euro Surveill. 25, 32 (2020). https://doi.org/10.2807/1560-7917.Es.2020.25.32.2001483

[8] Petersen, I. et al.: Recalibrating SARS-CoV-2 antigen rapid lateral flow test relative sensitivity from validation studies to absolute sensitivity for indicating individuals shedding transmissible virus. Clin. Epidemiol. 13, 935–940 (2021). https://doi.org/10.2147/clep.S311977

[9] 国立感染症研究所: 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルスSARS-CoV-2)の変異株について (第16報). 2022.04.29. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11119-covid19-16.html

引用したブログ記事

2022年1月24日 ステルスオミクロン

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)