Dr. Tairaのブログ

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COVID-19ワクチン接種者はスーパースプレッダーになり得る?

-はじめに

前のブログ記事で、COVID-19ワクチン接種者のワクチン・ブレイクスルー感染について取り上げ、いま世界中の国が進めている大量ワクチン接種プログラムについて、デマやプロパガンダに踊らされない情報リテラシーをもつことの大切さについて述べました(COVID-19ワクチンとブレイクスルー感染:情報リテラシーが問われる)。

特に気をつけなければならないのは権力側からの情報です。ワクチンを打ったからと言って必ずしも感染防止ができるわけではないにもかかわらず、わが国では、あたかもそれで感染終息ができるような「あなたの家族や周りの人を守りしょう」的なプロパガンダが政府主導で進められている状況があります。

もとより、パンデミック下での大量ワクチン接種は人類史上初めてであること、使われている主要ワクチンも前例のないウイルス株特異的核酸ワクチン(mRNAワクチンアデノウイルスベクターワクチン)であること、変異を繰り返すウイルスについて未知の要素があることなどが、先行きをきわめて不透明にしています。加えて、新薬開発の裏には常に商業主義があり、利権も絡むことや時の政府の政治的思惑を考えると、特に権威側からの情報鵜呑みにすることは禁物です。

懸念されてきたように、最近、現行のCOVID-19ワクチンプログラムにいささか水をさすような、あるいは修正を迫られるような論文報告が相次いでいます。それらをここで紹介したいと思います。

1. ワクチン接種者のデルタ型への感染

まずは、先月にメドアーカイブ(medRxiv)に掲載されたプレプリント論文3編です [1, 2, 3]。いずれもデルタ変異体のブレイクスルー感染を報じたもので、ワクチン非接種の感染者と同じウイルス量を保持することも示されています。

米国ベイラー医科カレッジの研究チームの調査研究 [1] では、 ブレイクスルーが疑われる症例で検査陽性判定されたワクチン接種者6人の患者を対象として、検体中ウイルスの塩基配列が解読されました。これらの患者のうち1名は介入的モノクローナル抗体治療が施され、1名は死亡しています。

シークエンス解析の結果、6人の患者全員がデルタ変異体(B.1.617.2)に感染していることが明らかになりました。これらの事実は、デルタ型ウイルスがファイザー社のBNT162b2、モデルナ社のmRNA-1273、コバクシン社のBBV152を接種した患者の免疫回避能力を持っている可能性を示唆します。結論として、デルタ型は、現在流通しているSARS-CoV-2変異体の中で最もリスクが高く、急増するワクチン・ブレイクスルーは、世界の公衆衛生にとって大きな脅威となる可能性があると述べられています。

もう一つはやはり米国の研究グループによるもので、ワクチンの接種率が高い環境でウイルスがどのように、そしてなぜ広がっているのか、そして、ワクチン接種者が感染した場合に他の人にウイルスを伝播させる可能性があるかどうかを評価する目的で調査が行われました [2]

研究チームは、ウィスコンシン州でデルタ変異体が主流となった時期に,ワクチン接種状況と最終的な予防接種日を自己申告した人の検査陽性検体に含まれるSARS-CoV-2の量を比較しました。その結果、ワクチン未接種の感染者とブレイクスルー感染者を比較しても、ウイルス量に差は認められませんでした。さらに、ブレイクスルー感染者は、感染性ウイルスを排出する能力があると思われるウイルス量で陽性となることが多いことがわかりました。

今回の結果は、予備的なものではありますが、上述したプレプリント論文 [1] と同様に、ワクチン接種を受けた人がデルタ型に感染した場合、その人が他の人にSARS-CoV-2を感染させる原因となる可能性があることを示唆しています。

三つ目はシンガポールの研究チームによる報告で、デルタ型感染症で入院した患者を対象に、臨床的特徴,ウイルス学的および血清学的動態を,完全にワクチンを接種した人とワクチンを接種していない人とで比較しています [3]。.

調査したデルタ型感染者218名のうち、88名がワクチンを接種し(mRNAが84名、非mRNAが4名)、そのうち71名が完全ワクチン接種者でした。酸素補給を必要とするCOVID-19の重症化のオッズは、ワクチン接種者で有意に低下しました。診断時のPCR検査のCt値はワクチン接種群と非接種群で同程度でしたが、ウイルス量の減少はワクチン接種者の方が早いことがわかりました。ワクチン接種患者では,抗スパイクタンパク質抗体が早期に上昇しましたが、これらの抗体価は従来株に対するものと比較して有意に低いものでした。.

結論として、mRNAワクチンは,デルタ型感染に伴う症候性および重症のCOVID-19を予防するのに非常に有効であり、ワクチン接種がCOVID-19のパンデミックを抑制するための重要な戦略であると述べられています。つまり、デルタ型はブレイクスルー感染を起こす可能性はあるものの、ワクチン接種は重症化予防として有効だというニュアンスです。

デルタ変異体は,他の変異型に比べてウイルス量が多く、従来株に比べて1,000倍程と報告されています [4]。感染力は従来株の約2倍であり、死亡リスクは約2.3倍です。伝播性が高いだけでなく,ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体から部分的に逃れることもわかっています [5]。ワクチン接種は一時的には発症や重症化を防ぐ効果があるものの、デルタ型のような強力な変異ウイルスの出現は、世界的に進行しているワクチン接種プログラムを無力化していく可能性があります。

2. ワクチン接種者は脅威となる

さらに、2021年8月10日付でPreprints with Lancetに掲載されたプレプリント論文では、COVID-19ワクチンの展開に深刻な影響を与える憂慮すべき結果が示されました [6]。すなわち、ワクチン完全接種者は、ワクチン非接種と比べて高いSARS-CoV-2ウイルス量を鼻孔に保有している可能性があり、ワクチン接種者自身が感染源として周囲への脅威になることが示されたからです。

Defenderはこのプレプリントを取り上げて早速記事にしています [7]図1)。そこで、Defenderの記事も引用しながら、この脅威について述べたいと思います。

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図1. Chauらのプレプリント論文を論評したDefender記事 [7].

上記したように、現行のCOVID-19ワクチン接種の意義は、発症を和らげる、重症化を防ぐなどの感染の症状を緩和する有効性にあります。一方で、ワクチンを接種した人は、最初から病気になることが少ないので、無症状のまま異常に高いウイルス量を保持することができ、潜在的無症状スーパースプレッダーになる可能性があるというのがこのプレプリント論文の意味するところです。この示唆は、世界中のワクチン接種を受けた人々がワクチン接種後に起こっている衝撃的な感染急増の原因となっていることを説明しています。

このプレプリント論文の著者であるChauら [6] は、ベトナムホーチミン市の病院で厳重に管理された状況下で、ワクチン接種の失敗とも言えるブレイクスルー感染が広範囲に及んだことを実証しました。調査研究の対象者は、オックスフォード大学/アストラゼネカ社(AZ)のCOVID-19ワクチン(AZD1222)を受け、2週間病院に滞在していた医療従事者です。

調査の結果、当該医療従事者は完全ワクチン接種が終了した約2カ月後に、デルタ変異体に感染し、ウイルス保有者となり、おそらくワクチンを接種した同僚に感染させたことがわかりました。また、ワクチンを接種していない人(患者を含む)にも感染させた可能性があります。SARS-CoV-2を感染させたのは、従事者同士であることが、ウイルス株のゲノム解読の結果から確認されました。

ブレイクスルーとなったデルタ株感染症例の患者のウイルス量は、2020年3月~4月に検出された古い株に感染した症例のウイルス量の251倍になることがわかりました。診断からPCR陰性化までの期間は8~33日(中央値:21日)であり、症例のワクチン接種後および診断時の中和抗体レベルは、ワクチンを接種した非感染対照者よりも低いことがわかりました。

このように、ブレイクスルー型デルタ株感染症は、ウイルス量が多く、PCR陽性期間が長く、ワクチン誘発中和抗体レベルが低いことで特徴付けられ、ワクチン接種者間での感染を引き起こす危険性があるということです。

この調査研究の肝は、ワクチン完全接種者がスーパースプレッダーとなって、ワクチン接種者および非接種者の両方に感染を広げる可能性を示したというところにあります。この結果は、Farinholtら [1] やRiemersmaら [2] による米国での研究結果と基本的に一致しており、COVID-19ワクチンがSARS-CoV-2の感染を阻止できなかったことを認める米国疾病対策センター長のコメントとも一致しています。

Defender記事では、AZD1222ワクチンの有効性については、今年2月11日、世界保健機関(WHO)が63.09%と発表したことを述べながら、Chau論文 [6] の結論は、3種類のCOVID-19ワクチン接種による獲得免疫が、2020年のワクチン接種前のサンプルと比較して251倍のウイルス負荷をもたらすということを述べています。

そして、完全にワクチンを接種した人がCOVID-19の"患者"として参加することによって、"腸チフスのマリア"のような強力なスーパースプレッダーとして機能することになると述べています。ワクチン完全接種者は、濃縮されたウイルスを地域社会にまん延させ、新たなCOVID-19の急増に拍車をかけ、ワクチンを接種した医療従事者がほぼ確実に同僚や患者に感染させ、甚大な巻き添え被害を引き起こしていると考えられると、主張しています。

さらに記事では、ワクチン接種プログラムを続けることは、特に脆弱な患者をケアしている最前線の医師や看護師などの医療従事者の間で、この問題を悪化させるだけと指摘しています。その上で、医療機関は、ワクチンの義務化を直ちに取りやめ、現在ワクチンを接種している医療従事者がハイリスクの患者や同僚に対する潜在的な脅威となっていることの影響を考慮すべきであるとしています。

このDefender記事はやや過激な論調になっていますが、注意しなければならないことは、Chauら [6] が報告したワクチン接種者と非接種者(ワクチン接種前の時代)のウイルス量の比較は、SARS-CoV-2の2つの異なる変異体のものであるということです。つまり、デルタ株に感染したワクチン接種者と非接種者を比較したものではありません。したがって、この2つのグループの違いは、必ずしもワクチン接種の状況だけによるものではないと考えられ、Defenderの記事は曲解です。

3. ワクチン先進国の状況

ここで、ワクチン接種先進国の状況を見てみましょう。図2に、直近10ヶ月間における米国、英国、イスラエル(ワクチン接種率6-7割)の新規陽性者数と死者数の推移を示します。一時期抑えられていた新規感染者数が直近2ヶ月で急増しており、この前の冬のレベルに近づいていることがわかります(図2上)。死者数は比較的抑えられていますが、それでも増加傾向にあります(図2下)。

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図2. 米国、英国、およびイスラエルにおける新規陽性者数と死者数の推移(2020年11月から現在まで、出展: Our World in Data).

これらの国の新規陽性者数の増加は、ワクチン非接種者を中心に広がった結果であるとの報道が一時期されていましたが、特にイスラエルにおいてはほとんどがブレイクスルー感染であることがわかっています。このため3回目の接種(ブースター)を進められています。

おわりに

当初の予想どおり(→mRNAワクチンの感染予防効果)、COVID-19ワクチンによる感染予防効果は、過大な期待であったことが明白になってきました。それどころか、ワクチン接種者がスーパースプレッダーになる可能性も出てきました。

ワクチン接種プログラムが進んでいる現在の世界の状況は、ボッシュ博士の仮説どおりに展開しているような気がします。すなわち、ワクチン接種が進むと免疫逃避変異ウイルスの出現を促し、まず非接種者の感染リスクが高まり、そのリザーバーが減少すると、次にワクチン接種者がウイルスの標的になるというものです。SARS-CoV-2は、想定以上のスピードで変異しているため、当初の楽観論に基づく防疫上のワクチン戦略はすでに通用しません。

ワクチンを受けて獲得免疫ができると、発症も抑えられるために、その人が発症しない限り感染を自覚しにくくなることは容易に考えられます。そのために、ワクチン接種者は自分は感染していない、感染するはずがないと錯覚し、周囲にウイルスを拡散する危険性も予測できます。特に、ベトナムでの症例のように、ワクチンを接種した医療従事者がこの立場になると、脆弱な患者にウイルスを伝播し、発症させることもあるかもしれません。

無症状のワクチン接種感染者がスーパースプレッダーとなった場合、一番被害を受けるのはワクチン未接種の人たちです。ワクチン接種が進めば進むほど、ワクチン未接種の感染者が急拡大していきます。そしてこれは、見かけ上感染が未接種者に限定されることで、ワクチンが感染防止に効いているように錯覚する危険性があります。

ワクチン接種による一時的な感染拡大抑制はあるにせよ、それは単に発症を抑えていることと見分けがつきません。いまのデルタ変異体のまん延は免疫逃避変異の兆候をうかがわせるもので、ひとまずデルタ型で行きついた感もあります。とはいえ、この先ワクチン接種が進んでくると、新たな変異体の脅威が訪れることも覚悟しておく必要があるでしょう。

引用文献・記事

[1] Farinholt, T. et al.: Transmission event of SARS-CoV-2 Delta variant reveals multiple vaccine breakthrough infections. medRxiv Posted July 12, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.06.28.21258780v4

[2] Riemersma, K. K. et al.: Vaccinated and unvaccinated individuals have similar viral loads in communities with a high prevalence of the SARS-CoV-2 delta variant. medRxiv Posted July 31, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.07.31.21261387v1

[3] Chia, P. Y. et al.: Virological and serological kinetics of SARS-CoV-2 Delta variant vaccine-1 breakthrough infections: a multi-center cohort study. medRxiv Posted July 31, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.07.28.21261295v1

[4] Li, B. et al.: Viral infection and transmission in a large, well-traced outbreak caused by the SARS-CoV-2 Delta variant. medRxiv Posted July 23, 2021. 

[5] Planas, D. et al.: Reduced sensitivity of SARS-CoV-2 variant Delta to antibody neutralization. Nature 596, 276–280 (2021).  https://www.nature.com/articles/s41586-021-03777-9

[6] Chau, N. V. V. et al.: Transmission of SARS-CoV-2 delta variant among vaccinated healthcare workers, Vietnam. Reprints with Lancet, Posted August 10, 2021. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3897733

[7] McCullough, P: Study: Fully vaccinated healthcare workers carry 251 times viral load, pose threat to unvaccinated patients, co-workers. Defender 2021.08.23. https://childrenshealthdefense.org/defender/vaccinated-healthcare-workers-threat-unvaccinated-patients-co-workers/

引用したブログ記事

2021年7月29日 COVID-19ワクチンとブレイクスルー感染:情報リテラシーが問われる

2021年4月2日 mRNAワクチンの感染予防効果

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19