Dr. Tairaのブログ

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mRNAワクチンの感染予防効果

カテゴリー:感染症とCOVID-19

はじめに

現在、先進諸国を中心に新型コロナウイルス感染症COVID19に対するワクチン接種が急速に進行中です。ワクチンの主体は、米製薬大手ファイザー社や米バイオ企業モデルナ社のmRNAワクチンです。思えば、このブログでmRNAワクチンに言及したのが去年の3月ですが(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)、その時はこんなにも早く接種が実現するとは想像もできませんでした。

1. 海外での成績

疾病対策センター(CDC)は、今年3月29日、ファイザーとモデルナのmRNAワクチンが発症や重症化抑制のみならず、感染防止にも有効だという暫定調査結果を発表しました [1]。この調査結果は日本の新聞も取りあげています [2]

CDCの調査は、米国6州の医療従事者ら3,950人を対象として、昨年12月14日から今年3月13日まで13週にわたって行なわれ、未接種の人、1回のみ接種した人、2回接種した人について感染割合が比較分析されました。感染の有無は、自主採取された参加者の鼻腔ぬぐい検体をリアルタイムPCR(RT-PCR)にかけて、SARS-CoV-2遺伝子が検出されるかどうかで判定しています。その結果、感染予防効果は1回目の接種から2週間以上経過した後に80%の参加者にみられ、2回目の接種から2週間以上たった後には90%の参加者にみられました。

ファイザーはすでに、イスラエルでの接種で無症状の感染を予防する効果が94%に上ったことを発表していますので、CDCの調査結果はこれに類似するということが言えます。今回の調査についてCDCの調査チームは、米国のワクチン接種の取り組みが効果を上げていることの証明としています。

mRNAのワクチンの感染予防効果は、今日のテレビの情報番組でも伝えていました。英国は最も早くワクチン接種(ファイザーおよびビオンテック)を開始した国ですが [3]、少なくとも1回接種を終えた人が人口の45.5%に達し、新規陽性者数、死者数とも急激に減少しています(図1図2)。この減少は、ワクチン接種率が10%をちょっと超えたヨーロッパの国々と比べると、その差が顕著です。

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図1. テレビ情報番組が伝えるmRNAワクチンの感染予防効果(2021.04.02. TBS「ひるおび」)

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図2. 英国、フランス、イタリア、ドイツ、スペインにおける100万人当たりの感染者数の推移(新規陽性者数の7日間移動平均、Our World in Dataより).

2. 日本の状況

一方、日本でもファイザー社のワクチン接種が開始されていますが、現在の接種率は人口の0.1%程度です。別のテレビ情報番組では、ワクチン接種が与える東京都の感染者数への影響に関するシミュレーション結果を示していました(図3)。それによれば、これから毎日11万5千人が接種を受けたとしても、5月中旬をピークとする第4波の感染拡大は避けられず、東京五輪(できるかどうかわかりませんが)後の第5波を避けられる程度であると示されていました。

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図3. テレビ情報番組が伝える東京都感染者数に与えるワクチン効果の影響のシミュレーション(2021.04.02. テレビ朝日「モーニングショー」).

ワクチン接種回数についてはこれから急増していくでしょうから、毎日11万5千人接種という低いレベルにはならないと思いますが、第4波流行はもとより、第5波流行の抑制にもワクチンの効果は到底期待できない(間に合わない)と、個人的には思います。そして流行の間隔が短くなってきていることを考えると、第5波はもっと早く襲来し、東京五輪を直撃すると予測します。

3. ワクチンの感染予防効果への疑問

ワクチン接種の主目的は発症を抑えること、発症しても重症化を防ぐことです。個人的に疑問に思うのは、それらに加えて、mRNAワクチンに感染予防効果があるとみなすのは時期尚早ではないか、あるいは過大な期待ではないかということです。米国の場合は被験者数が少なすぎるということがあります。イスラエルの場合は、感染しても発症が抑えられるならば、ワクチン接種によって多くの無症候性感染者を生じているということも意味します。

このようなワクチン・ブレイクスルー感染者が無症状なら、おそらく検査もされず、陽性者としてもカウントので、表面上、感染予防効果があるとみなされます。これらのワクチン接種済感染者の非感染者への伝播性はよくわかっていませんが、ブレイクスルー感染から二次伝播することは十分に可能性があることです。

加えて、ワクチン接種から日数が経ってくれば、おそらく効力も低下してきて、感染のリスクが上昇するものと思われ、近いうちにこれらのワクチン接種先進国の間でリバウンドが起こると予測されます。

最も危惧されるのは、ウイルス変異体の出現です。一般的に、RNAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)は合成におけるフィデリティ(複製の忠実度)が低く、エラーが入りやすいといわれていますが、コロナウイルスではRdRp(Nsp12)の機能をNsp14 による校正機能でそのエラー頻度を下げていると予測されています [4]

しかし、SARS-CoV-2を見ているとそんなことはなく、きわめて高頻度に表現型として現れるような変異を生じているように思われます。これは宿主とウイルスの相互作用(抗ウイルス活性 [RNA編集] とその選択圧)がウイルス変異の主因になっているからだと思われます [5]。英国で猛威を振るったB.1.1.7系統N501Y変異ウイルス(いわゆる英国型ウイルス)は、いま関西圏を中心に広がり始めていますし、インドでは新たな変異体(B.1.617系統)によるものと思われる感染爆発が起こっています(図4)。

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図4. インドおよび日本における新規感染者数の推移と現在の感染拡大(Our Word in Dataより).

このような、これから次々と変異体が現れることによって、ワクチンの免疫逃避が起こることもきわめて可能性が高いと考えられます。現在のmRNAワクチンは特異性が高い局所最適型のプラットフォームになっていますので、免疫逃避を許しやすいことが容易に考えれます。

おわりに

mRNAワクチンは今のところ、感染予防効果があるという結果が顕著に出ています。しかし、上述したように、SARS-CoV-2とワクチンの両方の性質を考えた場合、感染予防ということへの過大な期待は禁物です。ワクチン・ブレイクスルーは次々と起こるのではないでしょうか。

一方で、ワクチンの意義は別にして、日本はワクチン戦略に政策的に失敗し、先進諸国と比べて完全に出遅れてしまいました。第4波、第5波に向けて、しばらくは強力な感染症対策を進めるしかありませんが、当初から検査・隔離も含めた防疫対策はきわめて心もとないです。 

そして、mRNAワクチンおよびその他のCOVID-19ワクチンが行き渡ったとして、果たしていい方向でのゲームチェンジャーになり得るのか、この先のワクチンとウイルスの戦いを見極める必要があります。つまり、いわゆるブースター接種やワクチンの設計変更で対応したとしても果たして、集団免疫効果をもたらすかということです。

これはいくつかの論文でも指摘されていますが、これだけパンデミックの規模が大きくなるとワクチンによる集団免疫は期待できないでしょう。これはワクチン接種率とウイルスのリザーバーのムラを生じるためであり、この間に免疫逃避変異体の出現を促すためです。そして、ワクチンが感染防止にも有効だという過大な期待(つまりワクチン至上主義)が、日本の感染防止策に誤った方向に進めるのではないかと危惧します。

加えてmRNAワクチンの安全性への疑問があります(→mRNAを体に入れていいのか?)。このワクチンは、体内がスパイクタンパク質の生産工場になることを前提としていますが、そのプロセスの安全性については、全く検証されていません。しかし、いまや政府、全ての専門家、医療従事者が「ワクチンは安全」「ワクチンの利益が感染のリスクを上回る」という一色で染まっているように思います。

引用文献・資料

[1] Centers for Disease Control and Prevention (CDC): CDC Real-World Study Confirms Protective Benefits of mRNA COVID-19 Vaccines. Mar. 29, 2021. https://www.cdc.gov/media/releases/2021/p0329-COVID-19-Vaccines.html

[2] 蒔田一彦: ファイザー製とモデルナ製、ワクチンが感染も予防…2回接種で効果90%. 読売新聞 2021.03.30. https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210330-OYT1T50125/

[3] BBC News Japan: イギリスで新型コロナウイルスのワクチン接種開始 米ファイザー製. 2020.12.08. https://www.bbc.com/japanese/55226431

[4] 神谷亘: 1. コロナウイルスの基礎. ウイルス 70, 29-36 (2020). http://jsv.umin.jp/journal/v70-1pdf/virus70-1_029-036.pdf

[5] Simmonds, P.: Rampant C→U Hypermutation in the genomes of SARS-CoV-2 and other coronaviruses: Causes and consequences for their short- and long-term evolutionary trajectories. mSphere 5, e00408-20 (2020). https://doi.org/10.1128/mSphere.00408-20

引用した拙著ブログ記事

2020年11月17日 mRNAを体に入れていいのか?

2020年3月21日 集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流

               

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