Dr. Tairaのブログ

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高齢者で高まるブレイクスルー感染のリスク

私は8月16日のブログ記事「デルタ変異体の感染力の脅威」において、雨天続きによるエアロゾルの減少人々の外出控え・自粛行動、それにワクチン未接種のリザーバーの縮小によってCOVID-19の第5波流行は減衰していくだろうと予測しました。事実、8月中旬以降、首都圏の新規陽性者数は急速に減少していきました。これを受け、9月7日のおよび9月28日のブログ記事(第5波感染流行が首都圏で減衰した理由感染流行減衰の要因:雨とエアロゾル消長)で、あらためて流行減衰の要因について考察しました。

最近では昨年の同時期のレベルまで新規陽性者数は激減しています。これについて、私は昨日以下のようにツイートしました。

つまり、8月の長雨によるエアロゾルの減少と人流低下で空気感染の機会が激減し、一気の実効再生産数Rtが1を切る状況が生まれ、かつSARS-CoV-2が感染可能なワクチン未接種リザーバーの縮小で、首都圏のような人口密度の高い地域でその影響が効果的に出てきたものと考えています。地方では元々首都圏よりも人口密度が低いので、未接種リザーバーの縮小の効果は首都圏程ないと考えられます。これが、地方よりも首都圏や大都市圏で感染者数の減少が目立つ理由でしょう。

今日の全国の新規陽性者巣は369人で、東京はわずか49人(全国の13%)です(図1)。1週間前はそれぞれ602人、87人(全国の14%)でした。東京では、8月13日に5,773人という最多の新規陽性者数を記録しましたが、このときの全国に対する割合は28%でした。地方よりも急速に東京の割合が減っていることがわかります。

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図1. 10月11日の全国の新規陽性者数(NHK 7 NEWSより).

とはいえ、ゼロコロナの県数は今日でさえまだわずか9県しかありません。これだけ感染者数が減ったのに、まだ一桁ということは。これまでの流行のパターンから考えると奇妙です。何かの要因があるはずです。

いまワクチン完全接種者は64%を超え、65歳以上に限って言えば約90%に達します。このようにワクチン完全接種者優占する状況では、もはやSARS-CoV-2感染の主要な相手はワクチン接種者に移行していると考えられます。しかし、ワクチンのおかげで罹っても発症が抑えられている、軽症で気づいていないということがあり、また、検査されていない、あるいは検査陽性でもブレイクスルー感染として具体的に報告されていないということがあるでしょう。

現在の感染状況においては見かけ上ワクチンが効いている状態になっており、事実スーパースプレッダーからブレイクスルー感染したとしてもそこで歯止めになっている可能性があります(高いCt値のウイルス排出量しかない)。とはいえ、時間とともに歯止め効果は低下し、無症状、軽症のブレイクスルー感染者が二次感染させるポテンシャルは次第に大きくなっていくでしょう。→COVID-19ワクチン接種者はスーパースプレッダーになり得る?)。

これから懸念されることは、行動制限緩和、経済活動促進、GoTo事業の促進に伴って人流が増え、ブレイクスルー感染が次々と起こることです。もとより政府の感染症対策はきわめてお粗末です。そして、重要なことは、免疫力が落ちてくる(ワクチンの抗体価が低下してくる)高齢者からそのリスクが高まってくるということです。その意味で医療従事者も同様です。それでもワクチンの効果で重症化のリスクは低減されていますが、感染者数が増えれば増える程一定の割合で重症者も死亡者も出てきます。

その兆候はすでに現れているように思います。図2は東京都における年齢別の新規陽性者数の割合の推移を示したものです。注目すべきことは、8月上旬まで減っていた高齢者の割合が、第5波流行が減衰するとともにまたじわじわと増えていることです。これはワクチン効果が低下したブレイクスルー感染者の増加を示唆しているのではないでしょうか。

ちなみに8月上旬の10日間の65歳以上の新規陽性者数の割合はわずか3.2%でしたが、10月上旬の10日間のその割合は12.7%と4倍に増えています。

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図2. 東京都における新規陽性者数の年齢別割合の推移(東京都モニタリング会議の資料より).

日本はいまや流行収束のムードで経済活動促進に舵を切っています。しかし、忘れてならないのは防疫対策や医療提供体制は一向に改善されないまま、いきなりウィズコロナというスローガンの下で行動制限緩和されていることです。次の波に対して何も準備はできていないのです。

北海道ではすでに下げ止まりの傾向が出ているようです。寒くなり、乾燥し、室内に閉じこもる時期になれば自ずからリバウンドが始まるでしょう。このままだと、この冬に向けてイスラエルシンガポールの失敗を日本は後追いすることになります。特にデルタ変異体のいくつかの亜系統ウイルス(AY.12, AY.23, AY.25, AY.4など)[1] は要注意です。また、全く新しい変異ウイルスが可能性もあります。分科会専門家もワクチン・検査パッケージなんてのんびり言っている場合じゃないのです。いわゆるワクチンパスポートは防疫対策としては無意味ですから。

引用文献

[1] Bai, W. et al.: Epidemiology features and effectiveness of vaccination and non-pharmaceutical interventions of Delta and Lambda SARS-CoV-2 variants. China CDC weekly 3, 863-868 (2021). http://weekly.chinacdc.cn/fileCCDCW/journal/article/ccdcw/newcreate/CCDCW210195.pdf

引用したブログ記事

2021年9月28日 感染流行減衰の要因:雨とエアロゾル消長

2021年9月7日 第5波感染流行が首都圏で減衰した理由

2021年8月26日 COVID-19ワクチン接種者はスーパースプレッダーになり得る?

2021年8月16日 デルタ変異体の感染力の脅威

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19