Dr. Tairaのブログ

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オミクロン変異体が意味するもの

2021.12.11:08:10更新

インターネットで科学記事を検索していたら、フォーブス紙に寄稿したウイルアム・ハセルタイン(Williams A. Haseltine)氏の記事 [1] が目に留まりました(下図)。彼は、ハーバード大学医学部の元教授でエイズHIV/AIDS研究で有名な科学者です。

この記事では「オミクロンとは何か?」という点について、簡潔に彼の見解が述べられています。オミクロンは、懸念される変異型(variants of concern, VOC)として、いま世界中で最も注視されているSARS-CoV-2の変異体です。このブログで、このフォーブス記事を紹介したいと思います。

キーポイントは「オミクロンはこれまでのSARS-CoV-2とパンデミックの常識を変える」です。

 

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以下、筆者による記事 [1] の全翻訳文です。

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オミクロンのデータはまだ十分ではないので、この新しい変異型の正確な性質を明確に予測することはできない。しかし、この株についてはその本質的な意味を理解するのに十分な情報が得られている。オミクロンは、はっきりとしたメッセージを発している。それは、このウイルスには、これまでに考えられていたよりもはるかに多くの変化と多様化が可能であり、それは何度となく私たちを悩ませることになるだろうということだ。

進化生物学の観点からは、オミクロンは予想されていたことだった。一般的にコロナウイルスは、何百万年もかけて複製を続けながら、複数の種に感染・再感染するように、多種多様な戦略を展開し、適応してきた。コロナウイルスは、コウモリなどの長寿で免疫力の高い生物で進化した。ウイルスが生き残るためには、免疫力を低下させたり、初期の免疫防御を回避したり、複数回の再感染を可能にするために姿を変えたりと、いろいろな技を習得しなければならなかった。

コウモリは、少なくとも行動面では、人間と非常によく似た種であり、密集した共同体で生活しているが、ある共同体から別の共同体へと移動することができ、その過程で他の動物や種と交流することができる。コロナウイルスは、宿主だけでなく、いかに近隣の種にも感染すできるかという方法も身につけている。これまでに少なくとも7種類のコロナウイルスが動物から人間に感染しているが、SARS-CoV-2は、動物に戻って再び出現し、人間に侵入することができることを示した。

しかし、このウイルスの能力はそれだけではない。コウモリなどから発生したコロナウイルスのゲノムを詳細に調べてみると、オミクロンや既知のSARS-CoV-2の変異体に見られる点変異(point mutaion)に加えて、これらのウイルスは互いに容易に(ゲノムを)組み換えることができることがわかった。 組換え(recombination)は、インフルエンザでも知られているが、私たちの免疫システムがこれまで見たことのない成分を取り込むことで、非常に迅速に、より毒性の強い変異体を生み出すことができる。

世界中がオミクロンに関心を寄せている中、このウイルスがさらに何を持っているかを多くの人が見落としている。SARS-CoV-2のウイルスゲノム上の変異を見ると、このウイルスが感染力を高めるために使える手段がまだたくさんあることがわかる。制御タンパク質の変化は、ウイルスが人間の免疫系を抑制する能力を高める。構造タンパク質や非構造タンパク質の変異は、ウイルスの複製能力を高めるのに役立つ。スパイクの変化は、すでに我々が見てきたように、その親和性を高め、私たちの細胞により簡単に結合できるようになる。

私は、公衆衛生上の措置や、ワクチン、薬剤、診断テストなどの医学的介入を組織的に適用して、このウイルスをコントロールしない限り、無限の将来にわたって、継続的な変異体の嵐が予想されると考えている。私はこれまで何度もCOVID-19対策のためのマルチモーダルなアプローチについて書いてきたが、今でも十分な数の国が耳を傾けていないのではないかと危惧している。

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以上が翻訳です。

筆者あとがき

Wangら [2] は、SARS-CoV-2の変異誘発の原動力を三つにカテゴリーに分類しています。すなわち、1)分子スケールのメカニズム、2)生物スケールのメカニズム、3)集団レベルのメカニズムの3つです。

突然変異を起こす初期駆動源としては、ウイルスのRNAポリメラーゼの翻訳エラーと校正がありますが、これらは分子スケールのメカニズムに属します。一方、宿主の免疫システムによる制御、宿主のAPOBECによるRNA編集、そして、まれに起こる宿主トランクリプトームとウイルスの組換えウイルス同士の組換えなどは、生物・スケールのメカニズムです。  

このような分子スケールと生物スケールのメカニズムにより、SARS-CoV-2ゲノムには多数の変異が存在することになりますが、どのような変異が優占するかを決定するのは、集団スケールと自然選択のメカニズムです。

オミクロン変異体は、生物スケールに該当する宿主とウイルス、あるいはウイルス同士の組換えによって生まれたと推定されていますが [3](→SARS-CoV-2の組換えによる変異-オミクロン変異体の出現、今回のフォーブスの記事は、これをわかりやすく解説したものと言えます。ハセルタイン氏は、このウイルスによる感染流行のコントロールに失敗すれば、継続的な変異体の出現に私たちは脅かさせると警告していますが、全く同感です。

そして、オミクロン変異体の制御に失敗すればという以前に、免疫回避能力を獲得した潜在的な感染力(伝播力)の強さから、このウイルス流行自身の制御がきわめて難しく、これまでのパンデミックの常識を変えてしまう懸念があります。つまり、ウイルスの病毒性、病気の重症度、致死率などを凌駕してしまう、制御不能なオミクロン流行(日本では第6波相当)における甚大な健康被害・社会被害が予想されるわけです。

そして、ワクチンの集団接種や治療薬投与が、このようなスーパー変異体の出現を促しているという懸念があります(→ワクチンと治療薬がスーパー変異体の出現を促す?SARS-CoV-2の組換えによる変異-オミクロン変異体の出現を促す?)。

2021.12.11:08:10更新

このブログ記事を公開した直後に彼のツイートを見つけました。ここで引用しておきます。

引用文献・記事

[1] William A. Haseltine: What is the meaning of Omicron?. Forbes December 9, 2021. https://www.forbes.com/sites/williamhaseltine/2021/12/09/what-is-the-meaning-of-omicron/?sh=43771ce64d6b

[2] Wang, R. et al.: Mechanisms of SARS-CoV-2 evolution revealing vaccine-resistant mutations in Europe and America. J. Physic. Chem. Lett. 12, 11850–11857 (2021). https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.1c03380

[3] Venkatakrishnan , A. J. et al.: Omicron variant of SARS-CoV-2 harbors a unique insertion mutation of putative viral or human genomic origin. OSF Preprints. December 3, 2021. https://doi.org/10.31219/osf.io/f7txy

引用したブログ記事

2021年12月5日 SARS-CoV-2の組換えによる変異-オミクロン変異体の出現

2021年11月22日 ワクチンと治療薬がスーパー変異体の出現を促す?

                

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