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mRNAワクチンへの疑念ー脂質ナノ粒子が卵巣に蓄積?

はじめに

COVID-19-mRNAワクチンについては、主として安全性の面から、ツイッターなどのSNS上でさまざまな懸念や噂が広がっています。また、根拠のない明らかなデマと思われる情報までが飛び交っています。国や専門家は当然ながらこれらの噂やデマを否定し、ワクチン接種を推奨しています。河野担当大臣もデマ情報を打ち消す見解を自身のブログで示しました [1, 2]

しかし、ツイッターやブログ上での安全性への懸念のコメントは相変わらずです。新しいワクチンに対する懸念やデマはいつもあることですが、今回のmRNAワクチンは緊急使用許可された前例のないワクチンということで特別だと言えるでしょう。とくに、細胞がワクチンの生産工場となるプロセスに対する安全性の審査が行なわれないまま、接種が推奨されているということが手続き上問題だと言えます。いわば、今まさに世界中で人体実験中なわけです。

そして日本で言えば、感染リスクに対するワクチン接種の利益の程度が不明確なまま接種が行なわれています。医療従事者、高齢者、基礎疾患のある人に対するワクチン接種は利益があると思いますが、若年層、子供、妊娠可能な女性に対しては果たしてどうなのだろうか?という疑問があります。

前のブログ記事で、核酸ワクチン(とくにmRNAワクチン)に関する安全性について考察しました(→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考えるCOVID-19ワクチンは妊娠、生殖への影響があるか?)。国際的な専門家による、mRNAワクチンが妊娠や生殖に及ぼす悪影響は現在のところ認められない、という見解も紹介しました。

その上で、ここではあらためてmRNAワクチンの安全性に対する疑念や噂を考えてみたいと思います。

1. ファイザーワクチンに対する噂の経緯

ファイザー社のmRNAワクチンについてSNS上で噂されている情報の一つとして、「ワクチンの脂質ナノ粒子が卵巣に蓄積する」というのがあります。

事の始まりは、ゲルフ大学オンタリオ医科大学のウイルス免疫学者、バイラム・ブライドル(Byram Bridle)博士が、ファイザー社による薬物動態研究の極秘データのコピーを入手し、それを今月(6月)初めに公開したことによります。これは日本政府に対して、ファイザーの未公開データを求める情報公開請求を行った結果、入手したものだとされています。

その少し前、彼は、カナダのラジオ番組司会者アレックス・ピアソンのインタビューに応えています。そして「私たちは大きな間違いを犯した。スパイクタンパクは優れた標的抗原だと思っていたが、それ自体が毒素であり、それを知らないまま、ワクチンとして接種することで、誤って毒素を接種してしまった」という主旨発言をしました。

このブライドル博士の発言は、SNS上でまたたく間に拡散しました。他の専門家はすぐに反応し、こぞって彼の発言内容(スパイクタンパク質は毒素)を否定しました。また、多くのファクトチェックのサイトもおおむね「誤り」という判断を下しています [3, 4, 5]。とはいえ、彼が公開したファイザー社の未公開データは疑念をもつ内容になっています。

ちなみに、遊離のスパイクタンパク質自身の毒性に関わるような状況証拠を示す論文はいくつか出ています。プレプリント段階ですが、COVID-19患者では、循環中のスパイクタンパクの存在が凝固亢進の一因となっており、線溶の障害を引き起こしている可能性が示唆されています [6]。また、スパイクタンパク質単独でもACE2を低下させ、その結果、ミトコンドリア機能を阻害することで、血管内皮細胞にダメージを与えることが報告されています [7]

6月10日、mRNAワクチン技術の生みの親であるロバート・マローン(R. Malone)博士は、進化生物学者のブレット・ワインスタイン(B. Weinstein)博士とともに、Dark Horse Podcast で3時間にわたって対談し、ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンに関連する複数の安全性の懸念について議論しました。マローン博士については先のブログ記事で紹介しています(→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

このポッドキャストでは、マローン博士、ワインスタイン博士、技術起業家のスティーブ・カーシュ氏の3人が、物議を醸した日本由来のファイザー社の薬物動態研究データの意味について触れていますが、Defenderがこれを詳しく報じています [8]

このウェブ記事によれば、ファイザー社の研究が公開される前は、規制当局やワクチン開発者は、mRNAワクチンで生成されたスパイクタンパク質は、注射された肩に留まり、生物学的活性はないと信じていたか、少なくとも表面的にはそのように装っていたようです。

ところが、ブライドル博士が入手した極秘データによれば、ワクチンの脂質ナノ粒子は、注射された三角筋に留まらず、全身を循環し、脾臓、骨髄、肝臓、副腎、そして「かなり高い濃度」で卵巣を含む臓器や組織に高濃度で蓄積されていたことを示すものだと、Defenderは伝えています。これは、開発者が主張していることとはまったく異なるものです。

2. ファイザーの薬物動態研究の内容と解釈

それでは、ブライドル博士が公開した研究コピー「ファイザー薬物動態試験概要」を、実際に見てみましょう。これは、SARS-CoV-2 mRNA Vaccine (BNT162, PF-07302048) 2.6.4 と名付けられた文書のコピーであり、レイアウトが一部崩れ、クロ塗り部分もあって見づらいですが、当該部分だけを抜き出して考えてみたいと思います。この試験の概要は厚生労働省の報告書 [9] でも見ることができます。

世の中ではmRNAワクチンと一言で表されていますが、mRNAそのものは体内で"ワクチン"の本体であるスパイクタンパクを製造するように指示するものです。実際はmRNAを脂質でコーティングした脂質ナノ粒子として、腕の筋肉内に注射します。もし脂質ナノ粒子が臓器や組織の中に見つかれば、筋肉領域に留まらず、それぞれの場所に"薬"が届いたことになります。

ファイザーはこれをラットを使った動物実験で調べています。ルシフェラーゼをコードするmRNAを一部トリチウムで標識した脂質でコーティングし、その脂質ナノ粒子をラットに筋肉注射し、各臓器や組織にどのように到達するかを調べました。脂質の分布は各臓器・組織の放射性活性をシンチレーションカウンターで測定することで確かめました。また、UPLC-質量分析で脂質の分布や分解も追跡しています。mRNAの発現はルシフェラーゼ発光のイメージングで見ています。

表1に、主な臓器での分布を抜き出して示したデータを示します。

表1. ラットに模擬mRNAワクチン(脂質ナノ粒子)を接種した後の臓器・組織内の分布(ファイザー薬物動態試験概要に基づいて筆者作表)

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脂質ナノ粒子は、当然ながら注射筋肉部分での濃度が最も高く検出されましたが、4時間以内に全身を循環する全血中に検出され、その後、肝臓、脾臓、卵巣、骨髄、リンパ節に高濃度で定着しました(表1未表示)[8]表1左からは、時間経過とともに、脂質が肝臓、脾臓、卵巣に高濃度に蓄積されていることが見てとれます。しかし、48時間までのデータしか公表されていないので、それ以降どうなっているかはわかりません。

一方、投入量に対する相対放射性活性(%)で見ると、卵巣では特に値が低くなり、最も高い48時間後の数値(0.095%)でも、注射筋肉部位での0.004%にしかすぎませんでした(表1右)。このままだと非常に低い値に思えますが、これは、臓器.組織全体の大きさ・重量の違いによって、このような現れ方になることに気をつけなければなりません。

たとえば、ラットの肝臓と卵巣では約100倍の重量差があります [10]。単純に言い換えると、絶対量として卵巣では肝臓の1/100量しか溜まりようがないのです。したがって、卵巣の放射性活性の値を100倍(あるいは重量当たりの比活性)にすることで、初めて肝臓と比較できるということになります。

そうすると、表1左にある脂質重量の相対値と近くなります。つまり、卵巣に脂質ナノ粒子が蓄積しているということは表1右のデータからも揺らぎません。

事実、ファイザーの当該文書には以下のように記述されています。

"Other than the site of administration, the liver was the highest and then detected in the spleen, adrenal and ovaries"

(投入された部位以外では、肝臓での値が最も高く、次いで脾臓、副腎、そして卵巣に検出された)

厚労省の報告書でも、「投与部位以外で放射能が認められた主な組織は、肝臓、脾臓、副腎及び卵巣であり、投与8~48時間後に最高値(それぞれ26、23、18及び12 μg lipid eq./g)を示した」となっています [9

では、「卵巣に蓄積」の噂に対してデマだと言っている河野大臣がブログ [1] でどのように書いているか見てみましょう。図1注1に示すように「卵巣では0.095%以下と肝臓と比較して著しく低くなり、ピークも48時間でした」と述べ、「蓄積というのは明らかに誤りです」と断定しています。

しかし、これらの文章は二つの点で誤謬があります。一つは「ピークが48時間」と言っているところです。48時間以上は調べられていない(公表されていない)ので正確に言えばピークは分かりようがなく、「調べられた48時間の範囲内で」と述べるべきです。

もう一つは、肝臓18%、卵巣0.095%と放射性活性比率を単純に比較して、「肝臓と比較して著しく低くなり..」と言っているところです。上述したように、肝臓と卵巣の大きさ(重量)は100倍違うので、比較するなら重量当たりの脂質量(表1左)で述べるべきでしょう。

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図1. 衆議院議員河野太郎公式サイトの「ワクチンデマについて」([1]からの抜粋に加筆).

河野大臣のブログは、「ワクチン接種で遺伝子が組換えられる」、「治験が終わっていないので安全性が確認されていない」という噂や疑問に対しても答えていますが、それぞれ正確性に欠けます。

「mRNAは細胞の核の入ることができない」というのは、一般理論上ではそうです。しかし、レトロウイルス(逆転写活性をもつRNAウイルス)がDNAに変換されてヒトゲノムの中に入ることや、RNAウイルスのレトロポジション現象が知られている事実から言うと(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる)、厳密に言えば誤解を与えるメッセージです。

また、「リスクを上回る臨床的に意味のある有効性」については、リスクとしてのmRNAワクチンの重篤有害事象や死亡をほとんど評価不能として扱っている(つまりリスク評価データがない)厚生労働省の現状に基づけば、リスク/ベネフィット比(つまり、意味のある有効性)を述べることは実際難しいです。リスクを上回る意味のある有効性を言いたいなら、対象のリスクがきちんと評価されていなければなりません

有害事象が起こるということに関連して、上述したように、遺伝子情報を取り込んだ細胞でタンパク合成が起こるプロセスの安全性/有害性については、まったくヒト細胞で調べられていません。タンパク合成細胞自体が細胞性免疫の標的になる可能性(→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)やスパイクタンパクの毒性を容易に想像できるにも関わらず、です。

上述した河野大臣と同じ間違いは、ワクチンのプロパガンダサイトである「こびナビ」でも見ることができます [11]

3. Defenderの記事での指摘

Defenderの記事 [8] によれば、ファイザーのデータについて、精巣には脂質の蓄積があまりないため、卵巣のシグナルは不可解である、とマローン博士は述べています。また、脂質ナノ粒子が骨髄やリンパ節からも検出されていることから、ワクチン接種者の白血病やリンパ腫のモニタリングをすべきと指摘しています。しかし、そのようなシグナルは、半年から数年先まで現れないことが多いというモニタリングの難しさがあります。

また、マローン博士によれば、通常、このようなシグナルは動物実験や長期の臨床試験で検出できるものの、今回のmRNAワクチンでは調べられていないということです。そして、オリジナルのデータパッケージにはこの薬物動態研究情報が含まれていたということですが、実際は、世界中の規制当局が保護している非開示の範囲内として処理されていたと彼は言っています。

さらに、マローン博士は、遊離型スパイクタンパクの危険性をFDAに警告した多くの科学者の一人ですが、米国食品医薬品局(FDA)はスパイクタンパク自身が生物学的に活性であり、注射部位から移動して有害事象を引き起こす可能性があることを知っていたと述べています。

可能性として考えられるが自己免疫問題であり、自由に循環するスパイクタンパクが関係しているのではないかと彼は示唆しましたが、開発者はそのようなことは起こらないと断言しています。自己免疫の可能性を明らかにするためには、ワクチンによる自己免疫の影響を監視するための3相(フェーズIII)患者の2~3年のフォローアップ期間が必要ですが、ファイザー社とモデルナ社のワクチンでは、そのような検討はなされていません。

また、ポッドキャストの対談相手であるワインスタイン博士は、ファイザー社とモデルナ社は、適切な動物実験を行っていなかったと述べています。開発者のデータには、短期的には、どこに脂質があるのか、どこにスパイクタンパクがあるのかという点で、そして有害性や死亡率等の点で憂慮すべきシグナルがあり、著しく過少報告であると考えられる理由がそこにあると述べています。

ワインスタイン博士によると、ワクチンによる潜在的な害のひとつは、ウイルス学者のヴァンデン・ボッシュ(Vanden Bossche)博士によって明るみになりました。それは、ボッシュ博士が世界保健機関WHOに対して、世界規模の大規模なワクチン接種キャンペーンによって、潜在的な「制御不能な怪物」が世界に解き放たれる可能性があると、12ページの文書で呼びかけを行なったことです。制御不能な怪物とは免疫をかわすウイルスのことです。

すなわち、ロックダウンと、世界的な大規模なワクチン接種プログラムによるウイルスへの選択圧の組み合わせにより、短期的には感染者数、入院者数、死亡者数は減少するかもしれませんが、最終的にはより懸念される免疫逃避ウイルス変異体を多く生み出すことになり、制御不能な状態になる可能性があるということです。免疫逃避が起こると、ワクチン会社はワクチンをさらに改良しようとしますが、これはさらに選択圧を高めてしまい、これまで以上に感染性が高く、死に至る可能性のある変異体を生み出すことになります。

このような免疫回避の問題は、私も含めて薬剤耐性菌の実例を知っている微生物学者ならすぐに想像がつきます。抗生物質の使用によってそれが選択圧になり、もっと強力な薬剤耐性菌を生まれるという現実は、人類が直面している大きな問題です。COVID-19ワクチンが変異体の出現を促し、感染拡大させるというのはきわめて現実的なシナリオです。

おわりに

上述したように、公開されたファイザー社の薬物動態解析データからは、mRNAを包む脂質ナノ粒子を筋肉注射されたラットが、それを卵巣を含むさまざまな臓器に蓄積することが明らかなように見えます。これはmRNAワクチンの懸念される課題として、早急にヒトの臨床研究で検討されべきでしょう。

スパイクタンパク質の毒性についても、現段階では確実な科学的証拠はなく、デマ扱いされていますが、状況証拠は毒性の疑いが濃いものになっています。mRNAや作られた抗原タンパクの体内での動態とともに、緊急の検討を要する研究課題だと思われます。

そして、利権が絡むと、ウイルス変異体に応じて臨機応変にワクチンを改良することなく、言わば在庫処分のように、繰り返しの接種(ブースター)ということで対処することになるでしょう。これは非中和抗体の産生を促し、抗体依存性増強(ADE)や自己免疫疾患に繋がる可能性もあります。

いまワクチン接種はスラムダンク状態であり、国策に対してモノを言うことは、河野大臣のブログにもあるように、容易にデマ扱いされてしまうようなタフな行為です。リスクに対する利益を盾にワクチン接種を促す声は大きいですが、上述したようにワクチン接種に関わる重篤有害事象や死亡についてはほとんど評価されておらず、そのせいでリスク/ベネフィット比を定量的に論じること自体が日本では難しいです。だからこそ、ワクチン提供側や推進派、その情宣役のメディア [2] による逆のインフォデミックには注意したいものです。

引用文献・記事

[1] 衆議院議員河野太郎公式サイト: ワクチンデマについて.2021.06.24. https://www.taro.org/2021/06/%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%9E%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.php

[2] 籏智広太: 河野担当相、7つの「ワクチンデマ」をブログで否定。「医師にもかかわらず流す人も」と注意呼びかけ. BuzzFeed News 2021.06.24. https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/taro-kono-blog

[3] Kertscher, T.: No proof for researcher claim that COVID-19 vaccines’ spike protein is a ‘toxin’. POLITIFACT June 7, 2021. https://www.politifact.com/factchecks/2021/jun/07/facebook-posts/no-proof-researcher-claim-covid-19-vaccines-spike-/

[4] Carballo-Carbajal, I.: Byram Bridle’s claim that COVID-19 vaccines are toxic fails to account for key differences between the spike protein produced during infection and vaccination, misrepresents studies. Health Feedback June, 8, 2021. https://healthfeedback.org/claimreview/byram-bridles-claim-that-covid-19-vaccines-are-toxic-fails-to-account-for-key-differences-between-the-spike-protein-produced-during-infection-and-vaccination-misrepresents-studies/

[5] Dupuy, B.: Spike protein produced by vaccine not toxic. AP NEWS June 10, 2021. https://apnews.com/article/fact-checking-377989296609

[6] Grobbelaar, L. M. et al.: SARS-CoV-2 spike protein S1 induces fibrin(ogen) resistant to fibrinolysis: Implications for microclot formation in COVID-19. medRxiv Posted Mar. 8, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.03.05.21252960v1.full

[7] Lei, Y.: SARS-CoV-2 spike protein impairs endothelial function via downregulation of ACE 2. Cir. Res. 128, 128:1323–1326 (2021). https://doi.org/10.1161/CIRCRESAHA.121.318902 

[8] Redshaw, M.: Inventor of mRNA technology: Vaccine causes lipid nanoparticles to accumulate in ‘high concentrations’ in ovaries. Defender 2021.06.17. https://childrenshealthdefense.org/defender/mrna-technology-covid-vaccine-lipid-nanoparticles-accumulate-ovaries/

[9] 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課:審議結果報告書. 2021.02.12. https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000739089.pdf

[10] 田所作太郎ら:ラットの体重の臓器重量について. 北関東医学(北関東医学会) 12(7), 250–265 (1962). https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj1951/12/4/12_4_250/_pdf

[11] こびナビ: ワクチンQ&A:みなさんへ. https://covnavi.jp/category/faq_public/

引用した拙著ブログ記事

2021年6月27日 COVID-19ワクチンは妊娠、生殖への影響があるか?

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

2021年5月27日 mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出

2021年5月15日 新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

COVID-19ワクチンは妊娠、生殖への影響があるか?

はじめに

COVID-19ワクチンについては、ネット上で様々なデマ情報が飛び交っています。最も有名になったデマ情報の一つは、2020年12月にアップされたブログ記事です。ファイザー社の上級社員が、ワクチン接種によってつくられる抗体が胎盤を攻撃する可能性があることを懸念しているというものです。この投稿はすぐに削除されましたが、またたく間にこの噂は拡散しました。

英国の市場調査会社である Find Out Now が実施した調査では、英国の若い女性の4分の1以上が、生殖能力への影響を懸念してワクチンを拒否していることがわかりました [1]。このようなワクチンと不妊を結びつける根拠のない噂は今回に始まったことではありません。2003年にはナイジェリア北部でポリオワクチンの接種がボイコットされ、最近ではヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を拒否する原因にもなっています。

日本でもSNS上を中心に根拠のないワクチンのネガティヴ情報が駆け巡り、河野担当大臣がmRNAワクチンについて、わざわざ自身のブログで安全性を強調するまでになっています。ウェブメディアとしてはBuzzFeedが「ワクチンが卵巣に蓄積、不妊の原因に、は誤り」という記事を出しました [2]

ここでは、このBuzzFeedの記事やネイチャー系総説雑誌に掲載された論説 [1] を中心に参照しながら、妊娠や生殖への影響に関するmRNAワクチンの情報の受け取り方について考えてみたいと思います。

結論から言えば、国際的な専門家の見解では、mRNAワクチンが妊娠や生殖に及ぼす悪影響は現在のところ認められない、ということです。その上で、mRNAワクチンのプラットフォーム自体に問題が残されており、「mRNAワクチンは安全だ」と言っている政府、専門家やウェブサイトの情報の信憑性にも注意を要するということを指摘したいと思います。

1. 妊娠した人の臨床試験

文献 [1] の論文は、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの生殖免疫学の専門家であるヴィクトリア・メイル(マレ)(Victoria Male)博士によって書かれたものです。ここではこの論文の翻訳を要約しながら紹介します。

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今回の核酸ワクチンに開発における臨床試験では、妊娠中の人は除外され、参加者は妊娠しないように求められていた。ところが、それにもかかわらず、英国ではこれまでに承認された3つのワクチンの試験で57件の妊娠が発生した。そのことから、意図せずして、ワクチンの妊娠への影響を知ることになった。

それらの経過観察の結果、ワクチン接種群の偶発的な妊娠の割合は対照群と比較して有意な差はなく、少なくともこの接種群においては、ワクチンがヒトの妊娠を妨げないことがわかった。同様に、流産率も両群間で同程度であり、ワクチン接種が妊娠初期に悪影響を及ぼさないことが示唆された。

また、COVID-19ワクチンが生殖能力に害を及ぼすかどうかという疑問に対しては、臨床試験そのものから得られた回答がある。すなわち、発育・生殖毒性試験では、ワクチンがメスのげっ歯類の妊娠を妨げたり、妊娠中に投与した場合に子犬に悪影響を与えたりしないことが明確に示されている。

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2. mRNAプラットフォームの問題

メイル博士は、下記のように、mRNAワクチンのプラットフォーム自体の問題についても取り上げています。

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ワクチンによる有害事象の大部分は臨床試験でチェックされ、それを除外するような対策がとられる。しかし、COVID-19の場合は臨床試験の期間が短いため、数十年先に発生する可能性のある事象を除外することは困難である。

実際、mRNAワクチンは比較的新しいプラットフォームであるため、今、具体的に受けることをためらう人も少なくないことは事実だ。こうした懸念に関しては当初からあったが、mRNAワクチンの最初のヒト臨床試験が2006年に開始されて以来、15年の歳月を経て、やっとプラットフォーム自体に起因する長期的な問題が明るみになったと言える。

COVID-19ワクチンが生殖能力を損なう可能性があるという噂の多くは、特にmRNAワクチンを巡っての話であり、おそらくファイザー/ビオンテック社のワクチンに関連して最初に浮上したものだと思われる。

噂の元になっている具体的な主張は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を認識する抗体が、ヒト胎盤タンパク質であるシンシティン(sincytin)と交差反応し、それによって胎盤を損傷するというものだ。もし、このような交差反応が起こるのであれば、自然感染やスパイクタンパク質を抗原とする、あらゆるプラットフォームのワクチンが胎盤の病態に関連することが予想される。

ところが、実際の自然感染ではどうであろうか。妊娠直前または妊娠初期にSARS-CoV-2に感染した人たちはいるが、感染していない人に比べて流産する可能性が高いという事実はない。SARS-CoV-2のスパイクタンパクとシンシティン1のアミノ酸配列には有意な類似性がなく、COVID-19患者が回復した後の血清はシンシティンと反応しないと考えられる。

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ちなみに、メイル博士の論文 [1] で紹介されているシンシティンは、母体と胎児との間で栄養素、ホルモン、ガスの交換に基本的な役割を果たし、正常な胚の成長に必要とされる胎盤タンパク質です。実は、シンシティン遺伝子の配列は、ヒト内在性レトロウイルス(human endogenous retroviruses、HERVs)エンベロープ遺伝子envの配列と相同であることが知られています [3]

HERVsとは、外来のレトロウイルス(逆転写活性を有するRNAウイルス)がヒトのゲノムに組み込まれて恒久的な配列になったものと考えられており、ヒトゲノムの5〜8%を占めると推定されています。シンシティンの場合は、組み込まれたレトロウイルスの遺伝子がヒトの機能としてポジティブに利用されるようになった例と言われています。

シンシティンがレトロウイルスのエンベロープ遺伝子の産物ということで、そこからSARS-CoV-2のスパイクタンパクとシンシティンが関係するという噂が出てきたのでしょうか。それとも、メイル博士は否定していますが、実際にスパイクタンパク質とシンシティンの類似性があるのでしょうか。

3. それで妊娠や生殖への影響は? 

結論としてメイル博士は、妊娠や生殖に対してのmRNAワクチン接種の安全性は今までのデータで支持されるとしており、妊娠中の人々にワクチンをより広く展開すべきかどうかについては、今後の研究で勧告を行うことができるという立場をとっています。

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mRNAワクチンについては、まだデータは少ないが、今のところそれは安心感を与えるものである。米国では、2021年2月10日までに2万人の妊婦がCOVID-19ワクチンの接種を受けており(6月現在では12万人)、懸念されるような問題は起きていない。 また、英国では、接種者数は少ないものの、状況は似ている。このため、英国、欧州連合、米国の規制機関は、メリットが潜在的なリスクを上回る場合には、妊娠中の人にもワクチンを提供すべきであると勧告している。

ワクチン接種者の広範なモニタリングに加えて、ワクチンを接種した妊娠中の人々の集団(コンホート)を追跡する正式な研究も進行中である。これは主に安全性と有効性を確認するためのものであるが、COVID-19のワクチン接種が妊娠中に特に有効である可能性についても検討されている。

また、妊娠中のワクチン接種が胎児に影響を与えるかどうかという疑問についても、さらなる研究が行われる予定である。もちろん、これらの研究は有害な影響を排除することを目的としているが、現時点で予想される影響の多くは有益なものだ。

あるケーススタディでは、母親が妊娠中にワクチンを接種した際、新生児から抗スパイクIgGが検出されている [4]。このような現象が広く見られるのだとしたら、胎盤を介して移行した抗体は、SARS-CoV-2感染やCOVID-19に対する保護機能を新生児に与えるのだろうか。同様に、スパイクタンパクに対するワクチンによって誘発された抗体がどの程度母乳に入るのか、そしてそれが母乳で育った乳児に何らかの保護効果をもたらすのかどうか、についても研究が進められている。

妊娠中におけるワクチン接種は、これまでのデータでは安全であることが示されている。また、妊娠中の感染リスクの増加を考慮して、多くの妊娠中の人々がワクチンの接種を受け入れている。これらの人々とその赤ちゃんの結果をモニターすることで、妊娠中の人々にワクチンをより広く展開すべきかどうかについて、証拠に基づいた勧告を行うことができるようになるだろう。では、それまでの間どうするかということだが、妊娠を計画している人は、ワクチン接種が生殖能力にも悪影響を与えないことを示す複数の証拠があるので、安心してほしい。

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4. BuzzFeedの記事

今回のBuzzFeedのワクチンに関する記事内容 [2]下図)は、メイル博士の論文 [1] をも含めておおむね既出文献の内容に沿った合理的なものと言えます。とはいえ、これまでPCR検査については「抑制論」とともに散々誤謬、詭弁、デマを展開してきたウェブメディアであり、その後修正記事も一切ないということもあり、その点注意して見て行く必要があります。

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この記事で引用されている「こびナビ」というウェブサイトも同様です。新型コロナやワクチンに関する正確な情報発信を推進する日米の専門家によるプロジェクトという位置づけらしいですが、メンバーをよく見ると、BuzzFeed同様にPCR検査について誤謬やデマを飛ばしてきた人達が含まれています。

当該記事は「こびナビ」の監修の下、ファクトチェックをしたとありますが、やはりBuzzFeed、「こびナビ」自体のファクトチェックも必要ではないかと思います。彼らの主張には、そう思うほどおかしな点もあります。その一つは以下の引用1の文です。

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引用1

新型コロナワクチンにおいて、遺伝子組込みの心配は現時点で不要と考えます。海外では特殊な環境下で新型コロナウイルスに感染させた細胞において『遺伝子組込み』が生じるとした論文がありましたが、人工的に生じたエラーではないかなどと多くの専門家から批判を集めています。ヒトで実際に起きるのかについての考察やデータは示されていません。

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これはZangらがPNAS誌に出した論文 [5] のことだと思います。最初この論文はプレプリントサーバーであるバイオアーカイブ(bioRxiv)に投稿されましたが、内容的に穴が大きく、ヒトゲノムに組み込まれたとする配列はアーチファクト(人工の産物)を拾った結果だという批判を許しました。この経緯は先のブログ記事でも示しています(→SARS-CoV-2の遺伝子がヒトDNAと組み込まれることを裏付ける新たな証拠)。

しかし、内容を強化した論文がPNAS誌に掲載され、アーチファクトという疑念は払拭されています(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる)。COVID-19患者の培養細胞からはSARS-CoV-2由来のマイナス鎖RNAが検出されています。つまり、ウイルスRNAがゲノムに取り込まれ、それが転写されているという証拠です。

新型コロナワクチンにおいて、遺伝子組込みの心配は現時点で不要」というBuzzFeedの見解はいいとして、あたかもZhangらの論文を否定するような言い方は恣意的というかミスリードでしょう。BuzzFeedによく見られる傾向です。

引用1に関連する以下の引用2の文も正しく書かれていないように思います。

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引用2

別の論文では、実際のCOVID-19に感染した患者の遺伝子配列解析結果から、感染後にも実質的にウイルスRNA配列がヒト細胞の染色体に組み込まれている現象は認められなかったとも述べられています。

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この別の論文というのが何を指しているのかよくわかりません。今年5月に Journal of Virology に掲載されたYanらの論文 [6] のことでしょうか? 

この論文では、ヒトのRNAとミバエなどの無関係な種のスパイクインRNAからRNA-seqライブラリを構築し、そのRNA-seqリードの結果から約1%が人工的にキメラ化していると推定しています。そこから、ZhangらのプレプリントにおけるSARS-CoV2のRNA-seqでは、ヒト・ウイルスのキメラ発生の頻度は、実際には、このバックグラウンドの"ノイズ"の範囲に含まれるとして、RNAウイルスのゲノムへの組み込みを否定しています。

しかし、Yanらの論文については、上記のバイオアーカイブプレプリントの掲載と同時に研究が進められたと思われ、ZhangらのPNAS論文 [5] の修正内容を見ないままに、投稿・受理されたものと思われます。事実、このPNAS論文は引用されていません。 

また、Frontiers in Microbiology に掲載された論文も、同様に、「RNA-seqデータに見られるヒト-SARS-CoV-2のキメラリードは、ライブラリの調製時に生じる可能性があり、必ずしもSARS-CoV-2の逆転写、宿主DNAへの組み込み、さらに転写を意味するものではない」と結論づけていますが、この論文もZhangらのPNAS論文を引用していません [7]

もし、BuzzFeedが言う引用2の論文がこれらの論文だとすれば、おそらく論文の内容をよく見ないまま、理解しないまま言及している可能性があります。

「こびナビ」

5. 何が問題か

まえがきで結論を述べていますが、mRNAワクチンによる妊娠や生殖への悪影響を示唆する科学的データは今のところないと思われます。一方で、上述したように、前例のないmRNAワクチンのプラットフォーム自体に関する問題があります

第一の問題は、先のブログ記事でも述べたように(→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える)、mRNAワクチンは、活性物質を投入するという本来のワクチンではなく、その前の指令書(遺伝子の転写物)を包んだ脂質ナノ粒子(LNP)注射して体内で"ワクチン"をつくらせるという"シロモノ"です。したがって、ワクチンと"遺伝子治療"の両面からの評価・規制がなされるべきだったということです。

現状は、米国FDAはmRNAワクチンに対して遺伝子治療としての審査を経ずして、緊急使用許可(Emergency Use Authorization: EUA)を与えています。つまり、1) 対象が生命を脅かす疾患である、2) ワクチンとして一定の有効性が認められる、3) ワクチンを使用した際のメリットが製品の潜在的なリスクを上回ると判断できる、4) 当該製品以外に適当な代替品がない、という面からEUA判断されたものです。

それゆえ、mRNAワクチンの誘発によるヒト体内の抗原タンパク質の生成量、残留期間、体内での循環性、スパイク自身の健康への影響などについては詳細なデータがありません。そしてmRNAを内包するLNP自体が、エクソソーム(細胞外小胞、exosome)にきわめて類似しており、後者と似たようなメカニズムで様々な臓器に取り込まれる可能性があります。しかし、その持続性や影響についてもまったくわかっていません。

このような疑問については、現段階では、どの専門家に訊いても確信をもって答えられないでしょう。今まさに、世界中で人体実験されている最中です。米国、英国、イスラエルなどでは様々な接種後の有害事象が報告されており、その中には稀ながら心筋炎や心膜炎も含まれています。これらの有害事象は現在調査中ですが、ひょっとしたらスパイク自身の影響かもしれません。

第二の問題は、これも先のブログ記事で示したように、英米のCOVID-19死者数/人口比、感染者数/人口比は日本の11〜16倍であり、リスク/ベネフィット比は日本よりも格段に低いです。ワクチンを打つ方が打たないよりもはるかに利益があるわけです。

一方、日本は現在、COVID-19死者数1万5千人のうち、20代は8人しかおらず、10代にいたってはゼロです。重症化率と死亡率が高い高齢者にとってはワクチンの利益はあると思われますが、若年層においては、ワクチンを打つことによる有害事象と死亡、将来の潜在的悪影響が不明ということを考慮して天秤にかければ、利益がそれほど高いとは思われません。

少なくとも、英米で言われているようなリスク/ベネフィット比をそのまま日本に持ち込むことは危険であり、より慎重に対処する必要があるでしょう。欧州の共同研究チームは、イスラエルでの実施調査に基づいて、ワクチン接種によって防止できる(感染の)3人の死亡に対して、ワクチン接種によって引き起こされる2人の死亡を受け入れなければならないとし、ワクチン接種政策の再考を促しています [8]。この論文における研究方法や結果の妥当性は別にして、日本においても独自のリスク/ベネフィット比を定量的に求める必要があると思われます。

第三の問題は、体格で勝る欧米人の治験結果の基準でつくられたワクチンの用量が、そのまま日本人に当てはめることができるかということです。ファイザー社ワクチン(コミナティ)の例で言えば、日本人治験データは160人分しかありません。特に日本人女性で言えば、英米男子の半分程の体重しかない場合が多いです。ポリエチレングリコールを含む脂質粒子の影響が大きかったり、余分にスパイクタンパクをつくることにならないでしょうか。

その上で、ワクチン接種はあくまでも個人の判断に委ねられるべきというのが私の現時点での見解です。その理由は、繰り返しますが、妊娠や生殖への悪影響を示す科学データはないという一方で、mRNAワクチンプラットフォーム自体の問題が残されているからです。子供の集団接種や同調圧力がかかりやすい職域接種などは避けるべきだと考えています。職場での集団接種を行なっているのは日本くらいなものでしょう。

いずれ不活化ワクチン組換えタンパク質ベースのワクチンが出てくるでしょう。それまで判断を待ってもいいような気がします。個人的には、国によるスパイクコードmRNAワクチンの集団接種プログラムは、高齢者に対してはまだしも、ほとんどの世代を対象とすることは「はやまった」政策だと考えています(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否 )。

おわりに

ワクチンに噂やデマ情報はつきものですが、それは健康な人に敢えて"治療"をするわけですから、当然のことと思います。しかし今回の核酸ワクチンについては、新興ワクチンということもあって様々な情報が飛び交い、ワクチンを拒否する人がけっこうな数に上り、ワクチン接種が進んだ国においても、2回接種済みが人口の5割を過ぎて頭打ちになっている場合が多いです。

mRNAワクチンの問題は上述したとおり、安全性評価が不十分な点にありますが、さらに付け加えるならば、ワクチンを推進する側の情報のいかがわしさも感じます。つまりワクチン推進側からのインフォデミックです。mRNAワクチンには分からないたくさんあるにもかかわらず、断定的に主張する推進側の情宣(ウェブ上のQ&Aサイトなど)には気をつけたいものです。

菅首相PCR検査拡大に消極的でしたがワクチンとなると途端にやる気を見せています。PCR検査抑制論を主張していた医療クラスターやメディアが、mRNAワクチンとなると一気に積極推進派に転じています。厚生労働省によればワクチン接種後の死亡例は現時点で355人となっていますが、ワクチンとの関係についてはほとんど全部が評価不能となっています。デマ情報に惑わされるなと言われても、これでは怪しさ満載です。

引用文献・記事

[1] Male, V.: Are COVID-19 vaccines safe in pregnancy? Nat. Rev. Immunol. 21, 200–201 (2021). https://www.nature.com/articles/s41577-021-00525-y?s=09

[2] 籏智広太:「ワクチンが卵巣に蓄積、不妊の原因に」は誤り。「一生妊娠できなくなる」とYouTube動画も拡散、若い女性に影響か. BuzzFeed News 2021.06.25. https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/vakzin-fc-4?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter 

[3] Luganini, A. & Gribaudo, G.: Retroviruses of the human virobiota: The recycling of viral genes and the resulting advantages for human hosts during evolution. Front. Microbiol. May 28, 2020. https://doi.org/10.3389/fmicb.2020.01140

[4] Paul, G. & Chad, R.: Newborn antibodies to SARS-CoV-2 detected in cord blood after maternal vaccination – a case report. BMC Pediatrics 21, article number 138 (2021). https://bmcpediatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12887-021-02618-y

[5] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[6] Yan, B. et al.: Host-virus chimeric events in SARS-CoV2 infected cells are infrequent and artifactual. J. Virol. May 12, 2021. https://doi.org/10.1128/JVI.00294-21 

[7] Kazachenka1, A. & Kassiotis, G.: SARS-CoV-2-Host Chimeric RNA-Sequencing Reads Do Not Necessarily Arise From Virus Integration Into the Host DNA. Front. Microbiol. June 2, 2021. https://doi.org/10.3389/fmicb.2021.676693

[8] Walach, H. et al. The safety of COVID-19 vaccinations—we should rethink the policy. Vaccines 9, 693 (2021). https://doi.org/10.3390/vaccines9070693 

引用した拙著ブログ記事

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

2021年6月9日 ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否

2021年5月26日 SARS-CoV-2の遺伝子がヒトDNAと組み込まれることを裏付ける新たな証拠

2021年5月15日 新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

カテゴリー:感染症とCOVID-19

はじめに

私は1年以上も前に、新型コロナウイルス感染症COVID-19パンデミックを終息させるものとして、ワクチンに期待するとの主旨のブログ記事を書きました(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)。そして今世界的にワクチン接種が進められているわけですが、この半年間の新たな情報を見聞きする中で、核酸(遺伝子)ワクチンについての根本的な疑問ももつようになりました。

その一つが、昨年12月にネイチャー姉妹誌に掲載された論文 [1] に驚きを受けたことです。この論文では、市販のCOVID-19スパイクのS1をマウスに注射すると、血液脳関門を容易に通過し、調べた11の脳領域すべてで確認され、脳実質空間(脳内の機能組織)に入っていくことが示されていました(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否)。

そのような中、最近、SNS上でRW Malone MD社のロバート・マローン(Robert W. Malone)博士の主張を見聞きする機会がありました。彼の主張は、私が抱いている疑問と重なる部分があるので、ここで紹介したいと思います。

あらかじめ断っておきますが、私は反ワクチン派ではありません。今のところ、核酸ワクチン接種は慎重にすべきであり、もし使うならリスク/ベネフィット比を十分に考慮して、高齢者や基礎疾患を持つ人から優先的に接種して、人口の50%くらい(50代より高齢の層)で留めておくべきではと考えています。年齢が若くなるほど、COVID-19よりもワクチンのリスク比が高くなると思われるからです。

現状では核酸(遺伝子)ワクチンよりも従来の不活化ワクチンを使用すべきと考えています(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否)。

1. 核酸ワクチンに対する疑問

ワクチンは、感染症の予防に用いる医薬品であり、感染症に対する免疫を獲得させるものです。従来の考えでは、対象となる病原体から作られた無毒化あるいは弱毒化されたものを抗原として接種することで、体内の病原体に対する抗体産生を促すものです。最近ではインフルエンザワクチンに見られるように、組換えタンパク質を抗原として注射するという方法に変わってきました。

ところが現在用いられているファイザー/ビオンテック社のワクチン(コミナティ)やモデルナ社のワクチンは、抗原を投与するのではなく、その指令書であるmRNAを脂質の膜に包んで注射するというものです。いわば、私たちの体をダマして、抗原であるタンパク質(ワクチン本体)を作らせるということであり、前例のない"ワクチン"です。

また、今回のワクチン開発は、ワープスピード作戦という、製造と治験を同時平行で行ない、従来の1/6に開発期間を短縮するという前例のないプロセスで進められました。しかもこの作戦を言い出したのが、およそ科学とは縁がないトランプ大統領であり、開発の総指揮をとったのが軍人です。

おそらく、十分な科学的根拠に基づいて進めるというよりも、スピード重視と政治的思惑で戦略的に行なわれた感があります。感染拡大が世界一顕著であった米国にとって、リスク・ベネフィット比で少しでも後者が上回れば、それで作戦成功ということになるのでしょう。

しかし、一般的にワクチンとして成立するためには、十分な治験に基づく安全性と副反応に関する基礎データが必要であり、それに基づいて規制もかけられるべきだと思います。核酸ワクチンについては、個人的に以下の6点が、実用化の前提条件になると考えてきました。

・抗原となるタンパク量を制御できること

・生成したタンパクが注射部位の細胞に留まること

・スパイクタンパク質自身に毒性がないこと

・変異したタンパクができないこと

・mRNAやスパイクタンパク質が長時間残留しないこと

・mRNAを包むポリエチレングリコールの安全性

まず、タンパク量を制御できるかどうかという点ですが、従来の不活化ワクチンや組換えタンパクであれば、接種量は一定となり、注射後はそれ以上体内で増えることはなく、分解して行くだけです。一方、mRNAワクチンはどれだけ翻訳活性があるか、それが持続するかに依存しますので、個人差がきわめて大きいと考えられます。そして、タンパク合成を行なう細胞自身が、持続性が高いほど、そしてその範囲が広いほど、自己免疫系の標的となる可能性があります。

この面で作られる中和抗体と同様に、作られる抗原タンパクの量、その行方、残留期間も調べられる必要があると思います。さらには、ポリエチレングリコールを含む脂質ナノ粒子(LNP)の安全性も問題になります。

しかしながら、すでにmRNAワクチンの集団接種プログラムが進行しているにも関わらず、上記の6点について公表された有力な科学的な知見はほとんどないように思います。これが私が疑問に思っていることです。

2. マローン博士の主張

RW Malone MDのウェブサイト [2] によると、マローン博士はin-vivoトランスフェクション実験を設計・開発し、mRNAワクチン接種に関する多くの論文と10件以上の特許を取得したとあります(下図)。そして、バイオディフェンス、臨床試験開発、リスク分析などの分野でコンサルティングと分析を行うRW Malone MD社を設立したとあり、2001年10月の設立以来、同社の最高経営責任者を務めています。また、様々な准教授職、ディレクター職、編集者職を歴任してるようです。

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マローン博士は、最近、タッカー・カールソンのフォックス・ニュース・ショーへ出演し、それに続くデイリー・メール紙によるインタビューが記事で紹介され、一躍注目されるようになりました [3]。それは彼自身がmRNAワクチン、DNAワクチン、脂質を介したネイキッドRNAトランスフェクション技術を発明したと述べているからです。

フォックス・ニュースでカールソン氏は、マローン博士がmRNAワクチンに関する専門家として「最も適格な唯一の人物」であると紹介しました。それは彼が関連技術に精通しているからです。ただ、T. カールソンという気候変動の影響も否定するような司会者のコテコテの保守系メディアでの紹介ですから、おそらくそちらの筋から刺激的に伝えられたのだろうと推測します。デマ情報を得意とするデイリー・メールでの記事も然りです。

とはいえ、マローン博士の発言の主旨は、「人々はワクチンを受け入れるかどうかを決める権利がある。なぜなら、これは実験的なワクチン(experimental vaccines)であるから」ということです [3]。これは個人的に一聴に値すると思います。

しかし、彼の主張はワクチン推進派や科学者からは異端視されてようです。そして、彼がCOVID-19のmRNAワクチン技術の発明者であるという主張は、関連する知的財産権の状況を報告している研究者によって受け入れられていません [3]。とはいえ、マローン博士は、大学院生時代にmRNAワクチンやmRNA治療薬開発の先駆けとなる研究成果を上げ、1989年に論文として発表してします [4]

マローン博士は、昨日、以下のようにツイッター上で核酸ワクチンを遺伝子治療ベースのワクチン(gene therapy-based vaccines)と形容しながら、リンクトイン(Linkedin)に「なぜそのように呼ぶべきか」についての彼の解答を示しています。

マローン博士がワクチンを遺伝子治療と呼んでいるところは、mRNAワクチンの潜在的悪影響を指摘したセネフらの論文と同じです(→mRNAワクチン接種は実験的遺伝子治療?)。ここでリンクトインに示された彼の見解を紹介したいと思います。

核酸ワクチンはいずれも、ワクチンを受ける人の細胞に外来の遺伝子を導入し、その細胞を体内でワクチン抗原を製造するミニチュア工場にするという技術を採用しています。これがなぜ問題なのかというと、ワクチンとしての「活性物質」は遺伝子治療ベクターではなく、接種後に細胞内で製造されるタンパク質だからだ、とマローン博士は述べています。

そのため、彼が強調していることは、米国食品医薬品局(FDA)による認可・規制の観点からは、従来のワクチンの審査にはない、「遺伝子治療」製品に適用される規制「ワクチン」に適用される規制の両面から、これらの製品を審査する必要があったということです。 つまり、FDAは、ワクチンを受けた人の体内で、どのくらいの量のスパイクがどのくらいの期間作られているかについて十分に把握されているかを主張すべきであったということです。これは簡単なことですが、 とても重要なことです。

しかし、FDAはそのように考えてはいなかった、あるいは考えようとはしなかった、 これらの製品を他のワクチンと同じように扱ったのだと、マローン博士は指摘しています。

この背景として、FDAには既存のチェックリストがあり、かつ彼らの考え方では、製剤化されたmRNAとアデノウイルスベクターが有効な医薬品であるという認識がありました。すなわち、製品開発者に対して、抗原となるスパイクが体内でどれくらいの量、どれくらいの期間生成されるのかを特性評価することを要求する必要はなかったのだ、と加えて述べています。

様々な抗原を発現する組換えアデノウイルスベクターワクチンは、何年も前からヒトの臨床試験で研究されています。 ところが、それらのワクチンによって引き起こされた凝固の問題については、知られていない(知らなかった)、だから、今回の凝固との問題は、抗原にあると結論づけるのが妥当であると、彼は述べています。

ただし、2007年に発表された論文では、外来性(細胞外)のRNAによって血液凝固促進反応が引き起こされることが報告されています [5]。この論文で示されているのはウサギを使った実験なのですが、真核生物および原核生物のさまざまな形態のRNAが血液凝固のプロモーターとして機能するという証拠が得られています。

最後にマローン博士は、FDAは開発者に対して、スパイクの量や生産期間に加えて、生成されたスパイクタンパク質が生物学的に活性ではないこと、そのレベルが安全であること、ACE2と結合しないこと、血液脳関門を通らないこと、細胞毒性がないことなどを証明することを要求すべきだったと強調しています。同じ論理がmRNAワクチンにも当てはまります。

マローン博士は、このような彼の見解の上に、スパイクタンパク質について細胞毒性や体内循環の可能性があるというニュアンスでメディア、SNS上で主張しているようです。

3. マローン博士の主張の否定

ロイター通信は、マローン博士らが主張する「mRNAワクチンにつくるスパイクタンパク質には細胞毒性がある」ということについて、最近、ファクトチェックを行ないました [3]。結論として、COVID-19ワクチンのスパイクタンパク質が細胞毒性を持つという証拠はないということになりました。この結論は、他の多くの情報源によっても裏付けられていると伝えており、マローン博士らの主張が最初にある程度の支持を得た理由も説明されています。

さらに、医薬品開発に携わる有機化学者デレク・ロウ(Derek Lowe)博士は最近発表した論説で中で、マローン博士の「スパイクが駆け巡る」という主張を否定し、疑念を振り払っています [6]。この論説には現時点で420もの賛否両論のコメントが寄せられており、関心の高さがうかがわれます。

この論説では、ワクチンは筋肉注射であり、静脈内ではないので、スパイクタンパクが被接種者の血流中を「自由にさまよう」ことはありえないと述べられています。言い換えると、注射部位に静脈や動脈が当たりやすいことを避けるために、三角筋のような厚い筋肉組織をターゲットにしているとしています。

そして、このタンパク質は、実際のコロナウイルス感染症で起こるように、感染力のあるウイルス粒子に組み立てられるのではなく、細胞の表面に移動し、そこに留まっているとし、そこで細胞表面に侵入した異常なタンパク質として、免疫系に認識されるとしています。

スパイクタンパク質は、膜貫通型のアンカー領域を持っているため固定化され、それだけでは血流中を自由に歩き回ることはできないと述べています。ウイルスの中でも、人間の細胞でも同じだと指摘しています。

しかし、ロウ博士が言っていることが当たらないことは、文献 [1の研究結果がありますし、mRNAワクチンを受けた人の血液から、S1やスパイクタンパク質が長期間にわたって検出されている事例もあります。これらについては先のブログ記事(→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)で紹介したとおりです。

おわりに

フォックス・ニュースやデイリー・メールにマローン博士が応えていることはいかにも怪しげな感じは受けますし、彼の主張が米国でデマ扱いされている現状も見え隠れします。しかし、彼がリンクトインで言っていることは、私が普段から思っていたことと重なる部分が多く、誰もが思う疑問ではないでしょうか。

彼による「実験的ワクチン」という形容はまさに言い当てているというべきであり、mRNAワクチンの特に安全性に関する手続きの不完全さを物語っているように思います。にもかかわらず、日本では海外で開発された核酸ワクチンの接種を、ほぼ無条件で脇目もふらずに進めている現状は心配になります。

そもそも米英と日本のワクチンについてのリスク/ベネフィット比は異なるはずです。100万人当たりのCOVID-19の死者数は米国1860人、英国1877人に対して日本は116人です(2021年6月25日時点)。すなわち、米英は日本の約16倍の死者数/人口比になります。同様に100万人当たりの感染者数でみると米国16.5倍、英国11倍になります。 ワクチン接種に伴う有害事象や死亡が同じように起こるとすれば、日本におけるリスク/ベネフィット比は米英に比べて格段に高くなります。そしてCOVID-19死亡例が少ない若い人ほどリスクは高くなります。

しかも、欧米人の治験に基づいて決められたワクチンの用量が、人種・体格などが違う日本人(特に女性や子供)にそのまま当てはめられていることも疑問に感じざるを得ません。

そして、そもそも重症化リスクを減らすために進められているワクチン接種が、日本ではあたかもそれで感染・伝播させないような(あなたの家族や周囲の人達を守りましょう的な)プロパガンダ風の言い方をされているのは問題だと思います。

引用文献・記事

[1] Rhea, E. M.: The S1 protein of SARS-CoV-2 crosses the blood–brain barrier in mice. Nat. Neurosci. 24, 368–378 (2021). https://www.nature.com/articles/s41593-020-00771-8

[2] RW Malone MD. https://www.rwmalonemd.com/

[3] Cooke, B.: Who is Dr Robert Malone? Meet the physician who invented MRNA technology. The Focus 2021.06.25. https://www.thefocus.news/lifestyle/who-is-dr-robert-malone/

[4] Malone, R. W. et al.: Cationic liposome-mediated RNA transfection. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86, 6077-6081 (1989). https://doi.org/10.1073/pnas.86.16.6077

[5] Kannemeier, C. et al.: Extracellular RNA constitutes a natural procoagulant cofactor in blood coagulation. Proc. Natl. Acd. Sci. USA. 104, 6388-6393 (2007). https://doi.org/10.1073/pnas.0608647104

[6] Lowe, D: Spike protein behavior. Sci. Trans. Med. May 4, 2021. https://blogs.sciencemag.org/pipeline/archives/2021/05/04/spike-protein-behavior

引用した拙著ブログ記事

2021年6月9日 ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否

2021年6月4日 mRNAワクチン接種は実験的遺伝子治療?

2021年5月27日 mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出

2020年3月21日 集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

下げ止まりの時こそ行なうべき強化策

前のブログ記事(→感染五輪の様相を呈してきた)で、このまま6月20日緊急事態宣言が解除されて東京五輪が開催されれば、デルタ型変異ウイルスによるリバウンド(感染拡大)につながる感染五輪になることを指摘しました。感染拡大を表面的に抑える効果的対策はワクチン接種ですが、接種が進むであろう高齢者の発症と重症化を防ぐ効果はあっても、それ以外にはとても間に合いそうもありませんし、ワクチン作戦に感染抑制効果としての過大な期待を寄せることも禁物です。

今は全国的に新規感染者に減少しつつありますが、東京では下げ止まりの傾向が見られ、20–30代に限ればすでにリバウンドが始まっているようです。こういう時だからこそ、今のうちに政府や東京都は強化策を打ち出し、五輪開催による人流増加に伴う感染被害を最小限に留める必要があるでしょう。

図1は東京都の新規陽性者数の推移を示します。これまで4回のピークを示す流行の波がありましたが、その谷間にある期間の週間移動平均最低値は昨年の5月で約20人、10月で約150人、今年3月で約300人であり、現在は約380人です。このように谷間のバックグランド値は流行を重ねるごとに高くなっており、かつ間隔が短くなっています

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図1. 東京都における新規陽性者数の推移(2021.06.14. テレビ朝日「モーニングショー」より、筆者加筆).

流行の谷間の値が高ければ高いほど次にくる流行ピークは高くなる傾向にありますが、第4波は第3波ほどの高さにはなりませんでした。これは、東京では緊急事態宣言の発出が早めに行なわれたことで人流がある程度抑制されたことと、N501Y変異ウイルス(アルファ変異体)の侵入が遅れたためと考えられます。

一方で、緊急事態発出が遅れた大阪や周囲の関西県では、最悪の感染拡大と医療崩壊を招きました。感染流行の下げ止まりのときに緊急宣言を解除したまま何も強化策を打たなければリバウンドを招くと、このブログでも警鐘を鳴らしましたが(大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)、残念ながらそのとおりになってしまいました。

ここに強い教訓があります。感染がまん延してしまえば積極的疫学調査による追跡・検査はお手上げ状態になります。感染者数が少なくなった時こそ、この調査を拡大する残されたチャンスと言えます。ではどのように行なうべきか、ここで考えてみたいと思います。防疫対策として追跡・検査をする場合の重要な点は以下の4点です。

一つ目は現行の濃厚接触の定義の縛りを外して、マスク着用に関わらず一次感染者と15分以上の接触していた人にまで検査を広げるべきです。不思議なことに、現在はマスク着用していれば濃厚接触者に該当しません。感染力の強い変異ウイルスによる空気感染の可能性を考えれば、これはおかしいですし、この縛りによって被害を拡大しかねません。

5月には「感染者の85%がマスクなしで会話や飲食で感染」と福井県知事が発言し、菅首相が大いに参考にすべきと賞賛していましたが [1]、何のことはない、マスクをしていれば濃厚接触者になりませんので最初から調べていない可能性が高いのです。自ずから検出される陽性者の大部分はマスクなしになります。

二つ目は、これはもう1年以上前から指摘していますが(→あらためて日本のPCR検査方針への疑問)、スーパースプレッダーが発生した周辺は、濃厚接触者に関わりなく、面的に徹底的に調べることです。スーパースプレッダーかどうかは、リアルタイムPCR閾値サイクル数(Ct値)である程度判断できます。たとえばCt値20以下の陽性者が発生した場合には、濃厚接触者のみならず、その陽性者の職場や関係する場所にまで検査対象を広げることが重要です。

前のブログ記事(→感染者の2%がウイルス伝播の90%に関わる)でも紹介したように、ウイルス感染の90%は、たった2%の無症状のスーパースプレッダーによって拡散している可能性があります [2]。ここを抑えるのが肝です。日本のクラスター対策も同様な理屈によるものですが、クラスター発生という事後になって対応していることと、検査を限定してクラスター周辺に面的に広げていないことが失敗でした。クラスター発生にかかわらず、低いCt値を有する感染者を検出できたら、即座にその周辺を徹底的に調べるということが重要です。

この方法を効果的にするものとしてブール式検査があります。コスト的にもメリットがありますが、採用している自治体はほとんどないようです。陽性率が低いブール検査では、簡易抗原検査よりもむしろコスト安になる可能性があります。

三つ目は、検査・追跡の機能していることを保障する指標としての検査陽性率をできる限り下げることです。世界保健機構(WHO)は、たとえば、流行を制御できている陽性率として5%を挙げていますが、できれば3%以下にすることが望ましいです。このためには一定水準の検査数を維持する必要がありますが、なぜか東京都は5月のピーク時から検査数を減らし続けており(図2左)、減少率は1週間の移動平均で約30%にもなります。陽性率も4%と依然として高いです(図2右)。

東京都の場合、いま400人前後の新規陽性者数だとすれば、陽性率3%とするには1日13,000件以上の検査数を維持することが必要になります。

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図2. 東京都における検査数と陽性率の推移(2021.06.14. TBSテレビ「Nスタ」より) .

陽性率を下げるためには(つまり、検査不足を解消してより幅広く感染者を見つけ出すためには)、保健所を通す行政検査のあり方を見直すことも考えられます。濃厚接触者に近い疑いのある人に対しては保健所の判断を待たなくとも検査に回すとか、市中の民間検査の検査数と陽性結果を届け出制にして、行政検査のシステムに紐づけるということが考えられます。

四つ目は変異ウイルスの検査対象を拡大し、監視体制を強化することです。現在の陽性者中のデルタ型変異ウイルス検査割合はまったく足らず、デルタ型や他の変異型の広がり方を察知する体勢になっていません。陽性者の半分は検査する必要があるでしょう。そして、スーパースプレッダー周辺およびデルタ型検出周辺の検査を徹底的に追跡・検査することが重要です。

加えて、変異ウイルスのゲノム解析の割合を高めることが必要です。とくに検疫での陽性者、スーパースプレッダー、長期入院のウイルス排出者(免疫不全者など)などの集中的な追跡解析が考えられます。日本は英国などと比べるとゲノム解析による変異体の監視体制が脆弱です。国立感染症研究所、大学病院、自治体の衛生研究所、民間検査会社をネットワーク化して、迅速なゲノム解析と情報共有を行なうべきですが、現状はどうなのでしょうか。

いずれにせよ、第5波はデルタ変異体による感染流行になることは確実であり、早期情報共有、早期介入、早期対策が、少しでも被害を少なくする鍵になります。

現在、東京都の新規陽性者の6割以上は感染経路不明であり、上述したように、年代別では20代の感染者が増加しています。これは行動範囲の広い若者が、たとえマスクをしていたにもかかわらず、どこで感染したかわからないというケースが増えていることを暗示します。空気感染を起こす、伝播力の強いデルタ変異体の感染がひそかに広がっている状況を示しているのではないでしょうか。

この状況を考えると、従来の3密などのクラスターが発生しやすい場所だけに拘泥していると、デルタ型による空気感染の広がりを見過ごしてしまうこともなりかねません。満員電車、デパートなどの商業施設、競技スタジアムなどの人が集まりやすい場所について今まで以上に気をつける必要があると思います。

商業施設では、仮にお客同士のクラスターが発生していたとしてもわかりようがありません。しかし、空気感染どころか"fleeting" infection(すれ違い感染)にさえ注意しなくてはならないかもしれません。商業施設では、店員に伝播してクラスターが検出されるようになってからでは遅いです。たとえば、デパートの地下売り場などの人が混む場所では、換気対策、お客数の制限など強化する必要があるでしょう。

菅首相の頭には、感染対策としてもうワクチンしかありません。そして、マスコミのワクチン接種加速の報道が、すぐにでも感染拡大抑制に向かうような国民への誤ったメッセージにもなりかねない状況です。ワクチンでは、これから本格化するデルタ型ウイルスの流行は抑えられません。そもそも現行のワクチン戦略は、感染拡大抑制には通用しないのです。

ワクチンどころか、今早急にやらなければいけない重要なことは、上記の検査・追跡に加えて医療供給体制の強化と保健所の担当部署の増員です。今からでもよいので、新型コロナの治療に携わってこなかった医療従事者(たとえば開業医)を感染・医療対策に組み込むことや、自宅療養と入院の間を繋ぐ、治療を可能とする臨時の大規模宿泊療養施設、あるいは臨時病院の設置・拡大を行なうべきでしょう保健所がひっ迫することも目に見えていて、増員は喫緊の課題です。医療資源・医療従事者を五輪につぎ込むことには熱心なのに、この点についてはまだ動きが鈍いです。

政府や五輪組織員会は、どうも観客を入れた五輪開催に突き進もうとしています。マスコミや専門家の口から出てくるそれらに対する感染対策も、有観客にするか、無観客にするか、人流をどうするかなどに焦点が当てられ、検査・追跡の拡大や医療提供体制の強化は忘れられている感さえあります。

政府は緊急事態宣言解除の後はまん延防止措置で対応しようとしているようですが、上記のような検査・追跡の強化策がなければ、必ずや、解除後の人流増加とともに1ヶ月以内に本格的なリバウンドを許すことになるでしょう。それもデルタ型変異ウイルスによる強烈な感染拡大になるはずです。まさに、デルタウイルス蔓延の中でお祭り騒ぎをしている感染五輪と化すことでしょう。もうその兆候は出ています。

切望することは、制御不能なくらいに感染拡大して時すでに遅しとならないことですが、やっぱり今の政府では期待できないのでしょうね。

引用文献・記事

[1] NHK NEWS WEB: 福井県 感染者の85%がマスクなしで会話や飲食で感染か. 2021.05.15. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210515/k10013033081000.html

[2] Yang, Q. et al.: Just 2% of SARS-CoV-2−positive individuals carry 90% of the virus circulating in communities. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2104547118 (2021). https://doi.org/10.1073/pnas.2104547118

引用した拙著ブログ記事

2021年6月13日 感染五輪の様相を呈してきた

2021年5月25日 感染者の2%がウイルス伝播の90%に関わる

2021年3月23日 緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念

2021年2月25日 大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請

2020年4月6日 あらためて日本のPCR検査方針への疑問

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

感染五輪の様相を呈してきた

2021.06.15更新

はじめに

この2、3日、SARS-CoV-2の新規陽性者数は千人台になってきましたが、全国への面的広がりは相変わらずであり、感染再拡大の不安材料になっています。私は昨日以下のようにツイートして、感染再拡大を懸念しました。

このブログ記事で、もう少し上記の不安要素(リバウンドの原因)を見ていきたいと思います。私は感染状況を考えると、無論五輪中止が妥当と考えていますが、ここでは五輪が行なわれると仮定して話を進めます。不安要素(原感染拡大の原因)は、1) 面的広がりと高いバックグランド、2) デルタ型変異ウイルスの脅威と検査体勢、3) 五輪のよる人流増加と気の緩み、そして4) 政府の念力主義と呪文です。

1. 面的広がりと高いバックグランド

まず東京都と大阪府の新規陽性者数の推移を図1に示します。

東京都における、3月23日の緊急事態宣言解除のときの日当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は約300人でした(図1上参照)。一方、大阪府における、2月28日の緊急事態宣言解除のときのそれは約80人でした(図1下参照)。今日までの新規陽性者数(7日間移動平均)は東京都約380人および大阪府約110人であり、緊急事態宣言解除時の陽性者数で割ると、東京約1.3倍大阪約1.4倍になります。

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図1. 東京都(上)および大阪府(下)における新規陽性者の推移(Yahoo Japan ニュース「新型コロナウイルス感染症まとめ」より転載)

政府は6月20日に緊急事態宣言解除を予定しているようです。しかし、そこまであと1週間しかなく、この間大幅に感染者数が減るとは思われません。図1のデータは常に1〜2週間前の感染状況を表していると考えられるので、状況としては現在下げ止まりと考えた方が妥当です。東京の20代ではすでにリバウンドしているとも言われています。つまり、先の緊急事態宣言解除の時に比べて、今回は1.3–1.4倍程度のバックグランドで解除しようとしているわけです。これはパンデミック開始以来最も高いバックグランドです。

全国への面的な広がりを比べてみましょう。前回、6府県解除となった2月28日における新規陽性者数は999人、陽性者ゼロは13県(青森、岩手、秋田、山形、富山、福井山梨、長野、鳥取島根高知宮崎鹿児島)でした。そして、4都府県解除となった3月21日の新規陽性者数は1118人、陽性者ゼロは11県秋田福井山梨鳥取島根、山口、香川、高知、大分、宮崎鹿児島)でした。ちなみに両日ともゼロは8県(水色で表示)ありました。

一方、現在を見ると、先のツイートの添付図でも示されているように、千人台の陽性者数になってはいるものの、陽性者ゼロの自治体はこの1週間内で最大でも5県しかないのです。6月20日に緊急事態宣言が解除されるということは、全国の面的広がりにおいても、大都市圏における感染者のバックグランドとしても、これまでの解除の中では、最悪の条件ということになりそうです。つまり、最も高い発射台から感染力を増した変異ウイルスによるリバウンド(第5波)が起こるということです。

2. 変異ウイルスと検査体勢

リバウンドで懸念されるのがデルタ型ウイルス感染の拡大です。表1に示すようにデルタ型ウイルスは、スパイクタンパク質受容体結合領域(RBD、→前ブログ記事参照)のL452Rと呼ばれる遺伝子変異(ロイシン [L]→アルギニン[R])で特徴付けられます。感染力は従来株に比べて、約1.8倍と推定されており、すでに東京都や神奈川県では、空気感染と思われる集団感染も発生しています [1]

表1. アルファ型およびデルタ型ウイルスの比較([1]より改変)

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デルタ型はワクチンの効果を弱めるとされていますが、不明な部分が多く、重症化リスクが高い証拠も現段階では示されていませんが、重症化のスピードは速いと言われています。特に、感染力の強さとともに、50代以下の若年層での重症化の速さも報告されていますので、若い人たちへの感染の広がりが今までと比べて格段に多くなると予測されます。

L452R変異は、日本人の6割が持つ白血球の型であるHLA–A24による細胞免疫から逃れるとの報告があり [2]、もしこれが影響するなら、感染力増強とともに大きな懸念材料です。もしこれがファクターXだったとしたら、今回は効きません。デルタ変異体は、日本人および日本社会にとって、これまでの変異ウイルスよりもはるかに危険であることを認識すべきでしょう。すでに起こっているインドやヴェトナムでの感染拡大を見れば、最大限に警戒しなければならないことは自明です。

厚生労働省によると、6月7日時点で確認されたデルタ型ウイルスの陽性者は12都府県の87人であり(図2)、増加ペースが加速しています [1]。7月中旬には新規感染者の過半数を占めるとの試算もあります。

しかし、これは極めて限られた検査件数での報告であり、実態としては市中感染が急速に広がっていると考えてよいでしょう。検査陽性者の半数以上がゲノム解析に向けられている英国と比較すると、今さらながら日本での脆弱な変異ウイルス解析体勢には脱力感を抱かざるを得ません。

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図2. デルタ変異型ウイルスの感染状況(2021.06.07時点、NHK特設サイト「新型コロナウイルス感染症」より転載).

日本への海外からの変異ウイルスの侵入に対する検疫と検査体勢については脆弱であり、これまで第1波の欧州型、第3波の英国型の例に見られるように悠々と侵入と拡大を許してきました。検疫でPCRではなくて感度が低い抗原検査を採用していることも謎ですが、何よりも変異ウイルスの追跡と検査のスピードが遅く、変異型の検査の割合もきわめて低いです。

東京都の検査数でみれば、5月のピーク時の1万5千件強から現在は7、8千件まで減っており、なぜこれだけ減らすのか意味がわかりません。その上陽性率は4%台と依然として高く、十分に感染者を追跡できているとは思えません。せめて3%を切る陽性率と、陽性者の半分程度の変異ウイルス検査を達成しなければならないと思いますが、まったく程遠いです。

変異ウイルスの猛威は、日本は第4波のアルファ型(英国型)で嫌という程経験しているはずです。にもかかわらず、東京都の検査体勢のお粗末ぶりは何なのでしょうか。変異ウイルスの検査・ゲノム解析の脆弱ぶりと合わせて、この先デルタ型変異体によるリバウンドの検知に遅れをとるのではないかと心配になります。

この状況は、厚生労働省医系技官と旧政府専門家会議を中心とするの感染症コミュニティ、その周辺医療クラスターによる当初の検査抑制論がいまだに尾を引いていると言わざるを得ません。このような検査抑制論を積極的に情宣してきた、BuzzFeed Newsをはじめとするウェブメディアや出版界も責任が重いと言えます。

3. 五輪による人流増加・気の緩みとシミュレーション 

SARS-CoV-2はヒトを宿主として増えるので、人と人との接触や人流が増えればそれだけ感染が拡大するということは、科学的に自明です。東京五輪開催となれば海外から選手、関係者、マスコミ関係など数万人の来日があり、国内では選手、組織委員会関係者、ボランティア・アルバイト、宿泊、輸送などに関係する20万人近くの人流が増えると言われています。これに観客をいれるとすれば全国からの観客の動きが上乗せされます。

政府や組織委員会の専門家は、五輪を中止する場合と開催した場合の人流の違いに伴う感染者数の増加についてしっかりシミュレーションし、それを公開しておくべきだと思います。それは都合のよい前提条件ではなく [3]、最悪の場合を想定したシミュレーションであるべきです。しかしながら、このような試みはまだメディアには具体的には出ていないようです。

先月、東京大学仲田泰祐准教授によるシミュレーション結果がテレビ(報道特集)で紹介されましたが、それによれば五輪開催で人流が6%増えた場合は、五輪中止の場合に比べて感染者数が約2倍になると推測されていました。それについて、私は以下のようにツイートしました。 

なお、このシミュレーションでは、変異ウイルスの増加は考慮されておらず、最悪を想定した条件にはなっていません。デルタ型ウイルスの影響を考えれば、リバウンドの立ち上がりははるかに早くなり、五輪開会式の前にはもう顕著になっているでしょう。たとえば、従来株に比べたデルタ型の約2倍の感染力を考慮すると、シミュレーションの結果にある五輪開始直前の約600人の新規陽性者数は2倍になり、軽く千人を超えることは容易に予測できます。

仮に現在の新規陽性者数380人/日(前記)のレベルを、6月20日からの週からスタートさせて、毎週30%増しで増加していくと予測すると、東京の新規陽性者数は7月4日の週には642人、7月18日の週には1,085人、8月1日の週には1,830人となり、東京五輪が終わる前には、第3波の最高レベルである約2,500人に達することになります。これは大会に観客を入れるかどうかに関係なく、これまで最も高いバックグランドからデルタ型変異ウイルスの感染拡大が起こる場合という、単純な(しかし現実的な)考え方に基づくものです。

実際は、30%増しの定率ということはなく、デルタ変異体の拡大に応じて、2倍、3倍の増加率になることも予測されます。2倍になれば五輪大会終了の頃には5,000人に達することになります。

一方、東京オリパラ大会組織委員会が、三菱総研に依頼して実施した試算 [3] はまったく現実味がありません。五輪を開催した場合、都内の新規感染者は7月中旬の約300人を底に増加に転じ、五輪開幕後の8月以降に急増して同月下旬に約1,000人となるというのですが、どのようにしたらこんなシミュレーションになるのでしょうか。

おそらくメディアの報道もそうですが、五輪ムードの高まりは国内の人流増加と気の緩みを促し、きわめて感染リスクを高めることは間違いありません。大会直前になればメディアは五輪一色となり、世の中の自粛生活への"飽き"もあって、たとえ緊急事態宣言が発出されたとしても、無観客の五輪大会になったとしても、お祭り気分で人流抑制効果は限定的になるでしょう。このことが感染拡大を加速させると思われます。

4. 念力主義と呪文

今朝のテレビ「サンデーモーニング」ではコメンテータの二人が、それぞれ念力主義呪文という形容で政府と大会組織委員会の姿勢を批判していました。それは何度となく繰り返される首相の「国民の命を守る」、大臣や大会幹部の「安全安心の大会」というフレーズです。

「安全」という言葉は、科学根拠が示され、それに基づいた客観的基準が示されて初めて成立するものです。一方「安心」は受け手の主観的感情であり、安全の科学的基準が示され、かつそれが信頼性に足りえると判断できる時に出てくる感情です(→食の安全と安心)。

安全の基準が示されなければ、それは逆に「危険かもしれない」となり、かつ安心感は得られずに「不安」となります。現に国民はそのような状況になっています。その安全と安心の関係とそれが発生するメカニズムを政府と組織委員会はまったく理解しておらず、念力と呪文で何とかなるという精神主義に陥っています。この根拠のない楽観論は、科学的な公衆衛生対策を立てる上で一番厄介なもので、被害を拡大させる大きな要素です。

おわりに

以上四つの要素と原因で、大方の専門家の意見と同様に、この夏はデルタ型ウイルスの拡大といっしょの感染五輪になると私は予測します。政府の思惑とは裏腹に、おそらく1ヶ月も経たないうちに4度目の緊急事態宣言発出になる可能性大です。

菅首相の頭の中はワクチン一辺倒ですが、ワクチン戦略が到底間に合うはずもありませんし、医療従事者から高齢者、基礎疾患のある人という優先順位をつけていたワクチン接種でさえここに来て崩壊気味です。このままだと、若年層への感染力を増したデルタ型ウイルスによるリバウンドに伴って、40–50代の年齢層(特に基礎疾患を抱えた人)が、最もリスクが高くなるということが考えられます

願わくば私の予測が外れてほしいですが、状況はきわめて厳しく、予測どおりの結果に向かって事態は進行しています。

加えてメディアの報道の偏向ぶりが目に余るようになりました。必要な情報を伝えず、事実も正確に伝えていません。ワクチン推進と五輪関係の記事が増え、民衆の自粛疲れからくる気の緩みと開放感に拍車をかけています。今日もG7の日米首相協議で、バイデン大統領が「東京五輪支持」とメディアは伝えていますが [4]ホワイトハウスの表明は微妙に違います。

ホワイトハウスのウェブページでは、「バイデン大統領は、アスリート、スタッフ、観客に対して必要なすべての公衆衛生対策がなされた上での東京五輪への支持を表明した」となっており、公衆衛生対策必須ということに釘をさしています(以下赤線部)。

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その意味で、尾見茂分科会長をはじめ、有志の専門家の皆さんが、G7の前に五輪開催に関する提言を行なっていれば、海外のメディアにも取り上げられ、もう少し状況が違っていたのではないでしょうか。しかし、ステークホルダ間で危機を共有するというリスクコミュニケーションのなさは、この国の当初からの深刻な問題点です。

政府と組織委員会は東京オリパラ開催に向けて一直線であり、時すでに遅しの感があります。繰り返しますが、何も手を打たなければ、この夏は第3波流行をはるかに超える、デルタ型変異ウイルスの全国拡大といっしょの感染五輪、スーパ−スプレッダー五輪になり、大会終了後は災害級の流行になっていることは間違いないでしょう。

東京五輪大会が、物理的にも対策的にも、感染症対策に負の影響を与えることは確かです。つまり、五輪大会のバブル方式が機能するかどうかを問わず、それにかまけている間に、日本全国がデルタ変異体の感染流行になるということです。

6月15日更新:文献 [2] を加えました。

引用文献・記事 

[1] JIJI.COM: インド変異株、拡大ペース加速 各地で感染、クラスターも 7月中旬に主流化か. Yahoo Japnニュース, 2021.06.13. https://news.yahoo.co.jp/articles/41b976fa96380558838f4bc0941966ba6c22cc73

[2] Motozono, C. et al.: SARS-CoV-2 spike L452R variant evades cellular immunity and increases infectivity. Cell Host Microbe Published online June 14, 2021. https://doi.org/10.1016/j.chom.2021.06.006

[3] 原田遼: 五輪開催で感染者が急増、東京1日1000人に…政府が試算 パラリンピック開幕を直撃. 東京新聞 2021.06.11. https://www.tokyo-np.co.jp/article/110157

[4] JIJI.COM: バイデン氏、東京五輪支持 日米首脳が協議 G7サミット, Yahoo Japan ニュース, 2021.0613. https://news.yahoo.co.jp/articles/0bb04e52ed1353282b44b715e0f343bfe24fa006?tokyo2020

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否

カテゴリー:感染症とCOVID-19

はじめに

今日(6月9日)開かれた党首討論で、菅義偉総理大臣は「強制的に検査を行なうことができない中でどうやってやるのだ」と枝野幸男代表(立憲民主党)に逆質問していた一方で、「ワクチンは切り札」と述べていました。つまり、検査は積極的(強制的)にできないと言い訳している一方で、ワクチンは1日100万回接種を目指せと号令をかけているわけです。理屈になっていません。

それはともかく、COVID-19感染の発症や重症化予防にとってワクチンそのものが効果的であることは間違いなく(とはいえ、感染収束の切り札かどうかはもう少し待たないとわからない、おそらく切り札にはならない)、遅ればせながら日本でも急速にワクチン接種が進み、6月8日時点で少なくとも1回接種で約1450万人に達しています(図1)。

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図1. 日本国内のワクチンを受けた人の累計数(NHK 特設サイト「新型コロナウイルス感染症」より転載).

その一方で、ワクチン接種後の有害事象についてもチラホラ報道されています。その中でも最悪は死亡例です。このブログでは、ワクチン接種の有害事象とSARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードする核酸配列を用いた現行ワクチンとの関係について、既出の文献も参考にしながら個人的所感を述べたいと思います。

結論を述べれば、全スパイクタンパクを設計図・指令書とするいまの遺伝子ワクチン(正確にはワクチンではなく修飾mRNA型生物製剤は時期尚早だったということです(はっきり言えば失敗、理由は後述)。あるいは、そもそも、健康体にスパイクを抗原として作らせるmRNA生物製剤プラットフォーム戦略自体が間違っているのではないかということです。以前のブログ記事(→mRNAを体に入れていいのか?)で懸念していたことが、現実のものになろうとしています。

1. ワクチン接種に伴う死亡例

厚生労働省は、これまでのワクチン接種に伴う85人の国内死亡例をひっそりと報告しましたが、それを女性セブンが取り上げていました [1]。それを私は以下のようにツイートしました。FT(Finatial Times)が報道した英国のAZ(アストロゼネカ)社ワクチンの接種に伴う死亡例(3300万人中56人)[2] と比較して、日本の死亡例(1400万人中85人)が多いのでは?という印象を述べたものです。

同時に厚労省の資料を再確認していたら、5月26日以降に新たに54件の死亡例があって計139件に増えたこと、そしてさらに6月4日までに57件に事例が加わり、合計196件の死亡例になったと記す新規資料が出されていました [3]。この資料についてはすぐに上記ツイートのリプライとして紹介がありました。

少なくとも1回の接種人口約1450万人に対する合計死亡例196人を考えると、100万人当たり約14人という割合になります。これは上記の英国の例(100万人当たり約2人)と比べると明らかに多いです。

米国では、2020年12月14日~2021年1月13日の期間、合計13,794,904回のワクチンが接種され(61.2%が女性)、6,994件の有害事象が報告されています [4]。全報告のうち,6,354 件(90.8%)が非重篤,640 件(9.2%)が重篤と分類され,そのうち 113 件(1.6%)が死亡となっています。したがって、接種後死亡率は100万人当たり約8人となり、日本と比べると低いです。

どの国もそうですが、死亡例として報告されているすべてがワクチン接種との因果関係について明確になっているものでないので、一概に比較するのも慎重にならざるを得ないところがあります。日本ではほとんどが評価不能とされています。しかしそれを考慮しても、日本の死亡の割合は高いような気がします。接種後数時間で亡くなった例もあります。

ここで国内のインフルエンザワクチンの有害事象例と比べてみましょう。厚労省平成28年度のデータを例として出しますが、接種者52,845,556人に対して重症報告者数が163人、死亡報告数が10人です [5]。死亡率は100万人当たりでは約0.2人となります。つまり、COVID-19ワクチンはインフルエンザワクチンに対して70倍の接種後死亡率になり、因果関係評価云々に関わらず、事象だけ比較すれば圧倒的に高いです。

そして、mRNAワクチンについては、そもそも副作用(ワクチン用の言い方では副反応)の程度と数が従来のワクチンと比べて異常なくらい大きいことも問題です。もし、これがインフルワクチンであったら打つのを躊躇するだろういうレベルで起こっています。副作用は免疫反応の強さが現れていると説明する専門家もいますが、mRNAワクチンだったらなぜそれが許されるのかという矛盾があります。

いずれにせよ、重篤な有害事象や死亡例については原因をきちんと追跡調査することが必要でしょう。問題は厚労省がきちんとそれができるか、情報を逐次公開できるかというということですが。どうも厚労省は、今後とも、ワクチンとの因果関係を認めるつもりはないのではないかというフシが見られます。メーカーとの契約が絡んでいるのでしょうか?

2. ワクチン接種の効果と影響ー欧米と日本の差異

個人的に思っていることとして、ワクチンの効果と影響については欧米と日本は少し異なるのではないかということです。今日付けのworldometerの統計値を見ると、100万人当たりのSARS-CoV-2陽性者数は、米国102,952、英国66,487であり、日本の6,071に比べるとそれぞれ17倍、11倍です。

米国、英国ではワクチンを受ける前から既に感染していた人が多く、ある程度の免疫ができていたことが考えられます。つまり、"生ウイルスワクチン"を受けたその上で1回目の核酸ワクチン接種を受けたということであり、その場合の効果や影響については、日本とは少し異なるかもしれません。

もとより、西洋諸国や日本で使われている現行のワクチンは、AZ社のアデノウイルスベクターを利用したDNAワクチン、またはファイザー/ビオンテック社、モデルナ社のmRNAワクチンという、DNAとRNAの差はありますが、いずれもスパイクタンパク質をコードする核酸配列を体に入れるものです。体の中で実際に「スパイクが作られることによって及ぼされる影響」についてはよくわかっていないところがあります。

そして、主として欧米人の治験データに基づいて決められた用量を、体格、体重が異なる日本人にそのまま適用しているのも問題だと思います。特に女性や若年者の場合は、副作用や有害事象の程度が大きくなる可能性があります。

3. 核酸ワクチンへの懸念ーDefenderの記事から

すでに、AZのDNAワクチンでは血栓を生じる問題が明らかになり、接種を中止している国もあります。血栓を作るメカニズムも明らかにされており、そのメディア報道もあります [2]。すなわち、細胞核内でスパイクタンパクをコードするDNAの一部がスプライシングされることで変異体が作られ、重要な免疫を司る細胞に結合することができなくなり、浮遊した変異型タンパク質が細胞から血管内に分泌され、血栓を誘発するというメカニズムです。この現象は10万人に1人の割合で起こるとされています。

ここで疑問なのは、変異型タンパクで血栓を生じるなら、mRNA翻訳物のスパイクタンパクやその分解物でも生じるように思えるのですが、それを否定できる証拠はあるのでしょうか。つまり、ワクチンmRNAはヒトのRNA編集(APOBECによるC→U変異 [6])の影響を受けて、変異タンパク質をつくることはないのでしょうか。

mRNAワクチンについては、時期的に少し前(2021年2月10日)になりますが、Defenderが懸念を示す記事を出しています [6]。それをここで紹介したと思います。以下の3.1〜3.4は、筆者が記事を翻訳したものをまとめたものです。

3.1 小児リウマチ専門医の警告

小児リウマチ専門医のJ・パトリック・ウィーラン博士(J. Patrick Whelan)は、2020年12月、米国食品医薬品局(FDA)に対して公開資料を送り、SARS-CoV-2スパイクタンパクに対する免疫を作るために設計されたmRNAワクチンが、かえって傷害を引き起こす可能性について注意を促しました。ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンは、まだ安全性試験で評価されていない面として、脳、心臓、肝臓、腎臓に微小血管障害(炎症や微小血栓と呼ばれる小さな血の塊)を引き起こす可能性があると警告しました。

残念ながら、ウィーランの警告は深刻に受け取られず、米政府は限られた臨床試験のデータに頼ることになりました。特に小児に対するワクチンの安全性を保証するための追加試験は求められませんでした。

では、なぜウィーランは、mRNAワクチンが血栓や炎症を引き起こすことを心配したのでしょうか?

SARS-CoV-2に感染した場合、肺以外の多くの臓器に広範な障害が発生するという、特異かつ致命的な症状があります。世界中の臨床医は、このウイルスが心臓の炎症、急性腎臓病、神経障害、血栓、腸管障害、肝臓障害などを引き起こす可能性を示す証拠を目にしてきました。しかし、意外なことに、肺以外の臓器でのウイルスの存在は非常に限られているか、観察されないという事実があるのです。ここが重要なポイントです。

3.2. COVID-19による心血管合併症

COVID-19は当初、呼吸器系の感染症と考えられていましたが、その後、この感染症が心臓をも脅かすことが明らかになってきました。COVID-19で入院した人の約4分の1が心筋梗塞を起こし、多くの人が不整脈血栓塞栓症を発症することが報告されています。

COVID-19から回復した100名の患者を追跡調査した研究では、78%の患者でMRIスキャンによる心臓の病変が認められ、60%の患者で心筋の炎症が進行していることがわかりました [7]。これらの所見は、感染症の重症度、病気の全体的な経過、最初の診断からの時間とは無関係でした。

2020年10月、研究者らはCOVID-19による死亡後の心臓をより詳細に調査し、心臓の損傷は一般的であるけれども、炎症よりも血栓によるものが多い、ミクロトロンビ(小さな血栓が頻繁に見られる ことを明らかにしました [8]。そして、心筋の壊死や微小血栓を作ることにおいて、ウイルスの心臓への直接侵襲が大きな役割を果たしているとは考えにくいとされました。

イェール大学の循環器内科医であるHyung Chun博士は、血管を覆う内皮細胞が炎症性サイトカインを放出する可能性があり、それが身体の炎症反応をさらに悪化させ、血栓の形成につながると指摘しています。「炎症を起こした」内皮は、COVID-19の回復を遅らせるだけでなく、心筋梗塞脳卒中のリスクに寄与する重要な因子であると考えられます。

その後、先月発表された研究では、COVID-19の感染により死亡した40名の患者において、微小血栓による心筋細胞の壊死が確認され、心筋梗塞の主要な原因であることが明らかになりました。

3.3. COVIDによる神経系の合併症

COVID-19患者には、頭痛、運動失調、意識障害、幻覚、脳卒中脳出血などの膨大な数の神経学的症状が見られます。一方で、剖検調査では、ウイルスが患者の脳に侵入したという明確な証拠はまだ見つかっておらず、研究者たちは、SARS-CoV-2が神経症状を引き起こすという原因については、別の説明が必要と考えています

昨年4月に病院で死亡した神経症状を呈するCOVID-19患者18人を対象とした研究では、患者の脳の中でわずか5人から、かつ非常に低いレベルのウイルスRNAしか検出されませんでした [9]。このRNA濃度の低さから、人々が経験している深刻な神経症状がウイルスの直接侵入によるという可能性は低いとしています。

2021年2月4日付の New England Journal of Medicine 誌に掲載された分析では、COVID-19で死亡した患者の脳に微小血管の損傷が見られましたが、ウイルスの証拠はなかったと、国立神経疾患・脳卒中研究所の研究者が報告しています [10]。著者らは、「COVID-19で死亡した患者のサンプルにおいて、磁気共鳴顕微鏡、病理組織学的評価、および対応する切片の免疫組織化学的分析を行なったところ、脳と嗅球に多巣性の微小血管損傷が観察されたが、ウイルス感染の証拠はなかった」と報告しました。

3.4. スパイクタンパク質の悪影響の可能性

COVID-19に関連して肺より遠方のさまざまな臓器に傷害を与える原因は、ウイルス感染ではないとしたら、ほかに何が考えられるでしょうか?

最も可能性の高い原因は、ウイルスの外殻から血中に放出されるスパイクタンパク質であると考えられます。後述の研究 [11] では、COVID-19患者において、ウイルスのスパイクタンパク質が遠方の臓器に損傷を与えるきっかけとなる一連の事象を引き起こすことが報告されています。そして、懸念されることは、いくつかの研究では、ウイルスの痕跡がなくても、スパイクタンパクだけで、体全体に広範な損傷を引き起こす能力があることが分かっていることです。

脳に霞がかかったようなと称される神経症状(いわゆるブレイン・フォグ [brain fog])も、スパイクタンパクの影響によるものと推察されますが、これからの研究で明らかになっていくでしょう。

これらの症例の関係で非常に困るのは、モデルナ社とファイザー社の COVID-19 mRNAワクチンが、私たちの細胞にSARS-CoV-2のスパイクタンパクを製造するようにプログラムされていることです。つまり、体の中にスパイクタンパク質をもつ細胞が存在するようになることです。これらのワクチンは、完全長のスパイクタンパク質を生成するmRNAで構成されています。

2020年12月16日付けで Nature Neuroscience 誌にオンライン掲載された研究論文では、市販のCOVID-19スパイクタンパク(S1)をマウスに注射すると、血液脳関門を容易に通過し、調べた11の脳領域すべてで発見され、脳実質空間(脳内の機能組織)に入っていくことが実証されています [11]

翻訳を中心としたDefender記事の説明は以上です。

4. mRNA型生物製剤プラットフォームの問題

前のブログ記事(→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)でも示したように、mRNAワクチンの接種で、スパイクタンパクだけでなく、その分解物であるS1が注射部位と関連する局所リンパ節を超えて全身に広がることが報告されています。その持続性は2週間とされていますが、mRNAとともに、もっと長期間にわたることもあり得るでしょう。いまは、十分に調べられていないだけです。

最も危惧されることとして、従来のワクチン(生ワクチンや不活化ワクチン)と遺伝子ワクチンの根本的な違いであり、後者において、スパイクタンパクを産生する細胞そのものが、細胞性免疫の攻撃対象になりはしないかということです。スパイクの分解物が全身から検出されるということは、それを暗示しています(→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)。

つまり、メチルシュードウリジン修飾のワクチンmRNAが、宿主のRNA感知センサーを回避し、免疫抑制を行なう(抑制性T細胞を誘導する) [12] ことで合成スパイクの寿命が延び、スパイクを抱えたエクソソームが全身に広がることが考えられます。一方で、一旦特異的抗体産生能を獲得すると、今度は追加接種に応じて自然免疫の攻撃を受けるチャンスも広がるという矛盾した複雑な関係が生まれます。

すなわち、1回目の接種はまだいいですが、液性免疫が成立した(抗体を獲得した)後の追加接種は、スパイクを産生する全身の細胞が抗体依存的に自然免疫の攻撃を受ける抗体依存的細胞傷害(ADCCが起きる可能性があります。このような自己免疫性疾患は、抗体依存性免疫増強(ADE)の可能性やスパイクタンパクの毒性とともに、mRNAワクチンの根本的欠陥を示しているように思われます。

COVID-19のmRNAワクチンの開発が始まったのは1年以上も前です(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)。おそらく、その時点では、細胞のタンパク質合成プロセスのリスクやスパイクタンパク自身の毒性や悪影響については何も情報がなく、分子生物学と免疫学の理論上の話と局所最適化という技術面だけでそれが抗原として選択され、mRNAが設計された可能性があります。そして、1年経過してスパイク自身の問題点が徐々に明らかになってきたと言えますが、緊急性とリスク/ベネフィット比を考えて、もはややり直しは効かず、突っ走ったということでしょう。ワクチンを巡る利権もあるでしょう。

しかし、やはり、有害事象や副作用を十分に検証する時間がなかったという意味では、時期尚早であった、あるいは根本的に戦略が間違っていたということではないでしょうか。

米国の研究チームは、mRNAワクチンは、急性の有害事象を示さなければ、基礎疾患を持つ高齢者にも有益であるはずだが、特に健康な人や若年層、子供に接種した場合には、長期的な影響を慎重に検討する必要があると指摘しています [13]。そして、SARS-CoV-2の感染者やスパイクタンパク質ベースのワクチンを接種した人から得られるデータを評価するだけでなく、ヒト細胞や適切な動物モデルにおけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質の影響をさらに調査する必要があると述べています。

米国CDCは最近、mRNAワクチン接種に伴う若年層の心筋炎心膜炎の発生を報告しています [14]。しかし、現在のところ、稀なケースでもあり、すぐに回復することやCOVID-19ワクチン接種の既知および潜在的な有益性は、これらの有害事象の可能性を含む既知および潜在的なリスクを上回るとして、12歳以上の接種を推奨しています。ただ、この事象については緊急会合を開き対応を協議するようです。

局所最適化と特異性を向上させたmRNAワクチン戦略は、理論的、技術的には妥当でも未知の危険性の可能性の検証を時間的・政治的都合で排除したという面においては、そもそも間違いだったという気がしますし、人間の浅はかさを見るような思いもします。病気の治療に使うと言うならまだしも、健康体にmRNAを接種してタンパク質を作らせるというのは、やはり大きなリスクを伴うということでしょう。

これまで上市されている遺伝子治療用の核酸医薬品は、すべて数十塩基の配列として作られており、遺伝子の異常を修復して、体に必要なタンパク質を正常に作らせるものです [15]。一方、いまのmRNAワクチンは、もともと体にない、かつ毒性の疑いがあるタンパク質を接種者の細胞に作らせるものです。この意味で全く新しい試みであり、当初からリスクを伴うものであった(それが分かっていた)と言えます。

おわりに

厚労省が発表したmRNAワクチン接種後の死亡例では、原因がくも膜下出血脳出血脳梗塞、急性心不全心筋梗塞など、素人目にも明らかに循環器系統の障害が目立っています [3]。上記のCOVID-19の症例やスパイクタンパク質に関する研究を考えると、体内で翻訳・合成されたスパイクタンパクの影響、あるいはスパイク合成細胞への自己免疫反応を疑わせるものですが、現在は評価不能となっています。この先ずうっと評価不能とすることで、「ワクチンが原因で死亡したと認められた事例はない」という詭弁を展開するものと予想されます。

ワクチン接種先進国であるイスラエルと英国では新規陽性者数が減少していますが、部分的ロックダウンの影響もあるので、ワクチンによる感染予防ができた、それが維持できると見なすのは早計です。事実英国ではリバウンドの傾向が見えています。イスラエルもこれに続くでしょう。特異性を高めたmRNAワクチンと液性免疫(中和抗体)が長続きしないコロナウイルスの宿命のような気がします。

免疫の同調性や持続性を得ることが難しい中で、このパンデミックが終息するためには、結局、ほとんどの人が自然感染するか、徹底的な非医薬的介入を行なうしかないように思います。mRNAワクチンが、たとえ一時的には重症化や死亡の防止には有用であったとしても、副作用の頻度や大きさを考慮すれば、敢えて接種する必要はないと感じるところです。これがこのワクチン戦略が失敗と思う理由です。

最後に、mRNAドラッグブラットフォームは、病気治療や健康障害の遺伝子治療に向けられるもので、健康な大勢の人(特に若者や子供)に接種するワクチンという使い方は避けるべきと思います。抗体価が長続きしないという問題を、繰り返しの接種(ブースター接種)で解決しようとする意図も間違いだと思います。これから、健康な人のmRNAワクチン接種後の体調不良やlong-COVID(→"Long COVID"という病気に似た事例が急増するのではないかと懸念します。

ワクチンはスパイクコードのmRNA/DNAではなく、国内産の不活化ウイルスワクチン、あるいは複数の抗原エピトープをカバーする組換えタンパクを広めるのが(たとえ効力は落ちても)賢いやり方だと個人的には思います。不活化ワクチンは、今のmRNAワクチンンに比べて、特異的にスパイク中和抗体を誘発する能力は小さいと思われますが、幅広いタンパク質に対する細胞性免疫を誘発でき、ウイルスの変異に対しても、持続性があると想像できます。少なくとも、タンパク質合成細胞自身が自己免疫の攻撃対象になることは防止できるし、国内産であれば、外国のメガファーマの思惑や契約に縛られるということは軽減できるでしょう。

引用文献・資料

[1] NEWポストセブン:新型コロナワクチン 接種直後に急死した日本人85人詳細データが公表. 2021.06.04. https://www.news-postseven.com/archives/20210604_1665296.html?DETAIL

[2] Gross, A.: Scientists claim to have solved Covid vaccine blood-clot puzzle. Finatial Times May 27, 2021. https://www.ft.com/content/f76eb802-ec05-4461-9956-b250115d0577

[3] 厚生労働省: 新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要. 2021.06.09. https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000790071.pdf

[4] Centers for Disease Control and Prevention (CDC): First month of COVID-19 vaccine safety monitoring — United States, December 14, 2020–January 13, 2021. MMWR 70, 283–288 (2021). https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7008e3.htm

[5] 厚生労働省平成28年シーズンのインフルエンザワクチン 接種後の副反応疑い報告について. 医薬品・医療機器等安全性情報 No.349, 2017.12.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000189772.pdf

[6] Simmonds, P.: Rampant C→U hypermutation in the genomes of SARS-CoV-2 and other coronaviruses: causes and consequences for their short-and long-term evolutionary trajectories. mSphere. 5, e00408-20 (2020). https://doi.org/10.1128/mSphere.00408-20

[6] Redwood, L.: Could spike protein in Moderna, Pfizer Vaccines cause blood clots, brain Inflammation and heart attacks? Defender. Feb. 10, 2021. https://childrenshealthdefense.org/defender/moderna-pfizer-vaccines-blood-clots-inflammation-brain-heart/

[7] Puntmann, V. O. et al.: Outcomes of Cardiovascular Magnetic Resonance Imaging in Patients Recently Recovered From Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiol. 5, 1265–1273 (2020). https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2768916

[8] Phend, C.: COVID heart autopsies point more to clot damage than myocarditis. MEDPAGE Today Oct. 15, 2020.
https://www.medpagetoday.com/meetingcoverage/tct/89143

[9] Zimmer, K.: COVID-19’s effects on the brain. The Scientist. Jan. 20, 2021. https://www.the-scientist.com/news-opinion/covid-19s-effects-on-the-brain-68369

[10] Lee, M.-H. et al.: Microvascular Injury in the Brains of Patients with Covid-19. N. Eng. J. Med. 384, 481–483 (2021). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2033369#_blank

[11] Rhea, E. M.: The S1 protein of SARS-CoV-2 crosses the blood–brain barrier in mice. Nat. Neurosci. 24, 368–378 (2021). https://www.nature.com/articles/s41593-020-00771-8

[12] Krienke, C. et al.: A noninflammatory mRNA vaccine for treatment of experimental autoimmune encephalomyelitis. Science 371, 145–153 (2021). https://doi.org/10.1126/science.aay3638

[13] Suzuki, Y. J. & Gychka, S. G.: SARS-CoV-2 spike protein elicits cell signaling in human host cells: Implications for possible consequences of COVID-19 vaccines.  Vaccines 9, 36 (2021). https://doi.org/10.3390/vaccines9010036

[14]  Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Myocarditis and pericarditis following mRNA COVID-19 vaccination. Updated May 27, 2021. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/myocarditis.html

[15] 井上貴雄ら: 核酸医薬開発の現状と今後の展望. Drug Delivery System 34, 86–98 (2019). https://doi.org/10.2745/dds.34.86

引用したブログ記事

2021年5月27日 mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出

2020年11月17日 mRNAを体に入れていいのか?

2020年10月12日 "Long COVID"という病気

2020年3月21日 集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

SARS-CoV-2のPCR検査陽性はリアルタイムの感染を意味しない?

はじめに

COVID-19患者が、初感染から回復してから時間が経ち、ウイルスに再暴露されていないにもかかわらず、PCR検査で陽性となるというのは、このパンデミックの初期からの不可解な謎でした。この謎を解く論文が米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたのは先月(2021年5月)です [1]。前のブログ記事でもそれを紹介しました(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる)。

先行のプレプリントは昨年の12月にバイオアーカイヴbioRxivで公開されていますが [2]、このPNAS論文では、その内容の問題点を解決し、発展する形で出版されています。すなわち、ヒト培養細胞を使って、感染したSARS-CoV-2のRNAが逆転写されてゲノムに組み込むこまれ、患者由来の組織でも発現することができるということを証明しています。

この論文の責任著者である米国ホワイトヘッド研究所/マサチューセッツ工科大学(MIT)の生物学教授、ルドルフ・イェーニッシュ博士とリチャード・ヤング博士(ともに米国科学アカデミー会員)は、この研究の経緯についてGEN-GEN-Genetic Engineering & Biotechnology Newsの独占インタビューに答えています [3](下図)。ここではこのインタビュー記事を翻訳しながら、紹介したいと思います。

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1. PNAS論文の研究の経緯と意義

イェーニッシュは、上記のCOVID-19患者の回復時におけるPCR検査の再陽性の現象に非常に驚いたと言っています。「私たちは、通常のライフサイクルでゲノムに統合されるレトロウイルスを研究してきたので、通常それが起こらないSARS-CoV-2が、レトロウイルスのようなトランスポゾン因子に乗っ取られて組み込まれるのではないか、その結果、感染力のあるウイルスが存在しなくても、PCRで検出可能なウイルス配列が長期間にわたって発現する可能性があると考えた」とインタビューに答えています。

イェーニッシュらの研究チームは、3つの独立した塩基配列決定法(→ブログ記事参照)を用いて、感染させたヒトHEK293T細胞の培養液や患者由来の組織に、ヒト-ウイルスのキメラ転写産物が存在することを示し、SARS-CoV-2のゲノムRNA配列の断片のDNAコピーがヒトゲノムに組み込まれ、さらにRNAに転写されることを実証しました。

この統合が起こるメカニズムの少なくとも1つは、LINE1因子が関与したものです。LINE1とは、RNAを鋳型としたDNAへの逆転写によってゲノム部位に自分自身(および他の配列)を挿入することができる自律的なレトロトランスポゾンです。研究員らは、組み込まれたウイルス配列に隣接するヒトのDNA配列の大部分に、コンセンサスまたはさまざまなLINE1認識部位が存在することを見いだしました。

これらの斬新な発見は、パンデミックの中にあるということでまったく当然のごとく、科学界で激しい議論と批判を巻き起こしました。

まずは、オーストラリア国立大学の科学者であるガエタン・バージオGaetan Burgio博士は、コンソーシアム研究チームを率いて、イェーニッシュのチームによる初期の研究を再現しようと試みましたが、失敗に終わりました。

バージオはGENに対して次のように述べています。「ヒトゲノムに挿入されたウイルスの断片は、ゲノムに付着したランダムなウイルス断片のようなものだ。これらの配列は、ライブラリの調製、PCRでのコンタミ、および配列決定の際のアーチファクトであると考えられる。たとえば、これらの配列では、ウイルスゲノムのpoly(A)テールが欠落しており、ウイルスゲノムの3'末端もこれらのキメラ配列には見当たらない。ウイルスゲノムが組み込まれるということは、ナンセンスだ」。

また、最近公開されたバイオアーカイブプレプリントでは、RNAシークエンシングによって検出されたヒトSARS-CoV-2キメラ転写産物は、真の逆転写、統合、発現ではなく、サンプル前処理によるアーチファクトとして生じた可能性が高いと指摘されています。

エール大学医学部実験医学科の助教授であるエレン・フォックスマンEllen Foxman博士は、同様な懸念があるとし、「この論文についての私の全体的な見解として、データはSARS-CoV-2ゲノムの断片がヒト細胞に統合されることを示しているが、著者たちの考察以外の説明も可能であるということだ」と述べました。ただ、彼女は探索的な基礎研究は、長期的には非常に重要であり、私たちの体やウイルスがどのように機能するのかをより深く理解するのに役に立つ」と付け加えています。

イェーニッシュは、先行して公開されたプレプリントの結論は「不運」であり、その知見は強力な証拠に裏付けられていなかったことを認めています。つまり、配列決定のためにcDNAライブラリを調製する際に、キメラRNAが人工的に生成される可能性があり、ゲノムに組み込まれたことを示す直接的な証拠がなかったということです。しかし、今回のPNAS論文は、LINE1を介したレトロポジションによってゲノムへの組み込みが起こる明確な証拠を示しており、他者からは反論の余地がありません。

イェーニッシュ氏のチームが探るべき重要な問題は、ウイルスの配列が患者のゲノムに組み込まれ、発現するかどうかということでした。ゲノムDNAにまれに起こる統合現象を直接証明することは技術的に困難であるため、この疑問には間接的にしか答えられません。しかし、細胞内でより多くのコピー数で存在する、転写されたウイルスRNAの配列の「センス」または「方向性」を分析すれば、重要な手がかりが得られます。

SARS-CoV-2のRNAは、そのままmRNAとなり得るポジティブセンスRNA鎖(5'-3')です。したがって、SARS-CoV-2が宿主細胞に感染して複製する際には、プラス鎖が優勢となります。「SARS-CoV-2が宿主細胞に感染して増殖するとき、プラス鎖が優勢になるはずだが、そうではなかった。DNA解析の結果、半々であることがわかった」とイェーニッシュは言っています。

すなわち、ウイルスが活発に複製されている感染細胞では、マイナス鎖のウイルスRNA数は1,000以下でしたが、ウイルス複製の臨床的証拠がない患者由来の組織では、ウイルス転写物の最大50%がマイナス鎖であることがわかったのです。

これは、2つの結論を導く非常に説得力のある証拠だった。1)患者の体内には、実際にこれらのウイルス配列が組み込まれている可能性があること、2)それらが発現する可能性があること、という結論だ」とイェーニッシュは述べています。著者らは、感染したヒトHEK293T細胞と患者由来の組織の両方から、マイナス鎖RNAを含むキメラ配列を検出しました。

ヒトの細胞培養で得られたウイルス統合の証拠に関する懸念の1つは、生体内でも同じことが言えるのかということです。イェーニッシュは、マイナス鎖のウイルスRNAに融合したヒトの細胞内RNAは、ゲノム統合以外の説明ができない、DNAではむずかしいけれどもRNAはコピーをたくさん作るので検出しやすい、と述べています。つまり、ウイルスのゲノムへの組み込みが起こり、転写されていることを示唆しています。

ヒト細胞における逆転写システムの生理的レベルは非常に低く、SARS-CoV-2の細胞内統合には不十分であると主張する人もいます。イェーニッシュのチームは、まれな組み込み現象を検出するために、SARS-CoV-2を感染させる前にHEK293T細胞にLINE1をトランスフェクトし、その発現レベルを高めています。このため、検出されたキメラ転写産物の生物学的関連性を疑問視する声も上がりました。

バージオは、これらの組み込み事象は、LINE1の転位因子が強く過剰発現している状況下で発見されたものであって、現実の環境では見られない、と述べました。

しかし、LINE1の発現は、ストレスを受けた細胞で誘導されるとイェーニッシュは反論しています。「ストレスは、ウイルスの感染、サイトカインの暴露、加齢、がんなどによって引き起こされる。つまり、患者がSARS-CoV-2に感染すると、LINE1が誘導され、それによってゲノム組み込みが促進されると言えるのではないか...非常に明快な可能性だ」。研究チームは、ウイルス感染によるLINE1の誘導を裏付ける証拠を提示していますが、同様の結果は、他のグループでも観察されています。

ヤングは、「ここでの合理的な仮説は、ウイルス感染のストレスが逆転写酵素のレベルを上昇させたということだ」と付け加えました。ホワイトヘッドチームは、この仮説を確認するための実験を進めているようです。

これらのウイルス断片の統合部位に特異性があるかどうかは、技術的な問題が主な原因で、現在のところ未解決です。「これらは稀な組み込みである。細胞が死んでしまうので、これらの細胞をクローン化することはできない。集団のスナップショットがあるだけだ。レトロウイルスでできるような実験は、ここではできない」とイェーニッシュは述べています。また、ヤングは、予備的なデータでは、統合の部位がたくさんあることが示唆されていると付け加えています。

2. 懸念の表明

このように統合されたウイルス配列が、感染性ウイルスを生成し、宿主のDNAを変化させて悪影響を及ぼす可能性については、多くの議論がなされています。

フォックスマンは、この論文で提案されているような極めて稀な現象が、人間の健康に害を及ぼしたり、生きたSARS-CoV-2ウイルスが生成されたりするという証拠は示されていないと述べています。イェーニッシュもこれに同意し、発見された統合DNAは最大でウイルスゲノムの5%、1,600塩基であるであることを挙げながら、これらの配列から感染性ウイルスが作られることは、絶対にありえない、と強調しています。

しかし、SARS-CoV-2のPCR検査の解釈は、今回の結果を受けて、さらに複雑なものとなりました。つまり、PCR検査が陽性であっても、ウイルスを排出していることを意味するものではない、というのが明確な結論です。つまり、検査陽性が、必ずしもウイルスが排出されていて感染しているということにはならないということです。

もう一つ、今回の研究が大きな反響を呼んだのは、mRNAワクチンが同様にヒトのDNAに組み込まれて悪影響を及ぼす可能性があるかどうか、という大きな議論があったからです。

フォックスマンは、「今回のような議論を呼ぶ結果は、新しい分野の研究の動機付けとしては重要であり、最終的には大きな発見につながる。しかし、この論文が現在のパンデミックにおける患者の治療やワクチンに重要な意味を持つと過剰に解釈するのは間違い」と述べています。"

いかなるワクチンのmRNAにおいても、同じことが起こると考える理由は全くない。ウイルスのスパイクタンパク質のmRNAは、ごく一部である。ワクチンはLINE因子の逆転写酵素を誘導するものではない」とヤングは述べています。同時に彼は、ワクチンは、長期にわたる深刻な衰弱性疾患や死の可能性から守っているというベネフィットを強調しています。

イェーニッシュらのプレプリントをめぐる騒動は、科学的プロセスにおけるプレプリントの有用性についても疑問を投げかけています。イェーニッシュはプレプリントの有用性は認めつつも、論文の公開を前提とした査読の議論をすることは望んでいなかったにもかかわらず、実際に公開の議論になったことは非常にトラウマになった、と語っています

科学的批判は真実についての見解を得るための重要な部分であり、それがプレプリントの形で起こるかどうかは関係ないけれども、一部の科学的観察が政治的またはその他の目的のために利用されている感情的な環境では、議論の有用性は曲げられてしまう、とヤングは付け加えています。

ホワイトヘッド・チームの研究結果は、多くの疑問を残しています。イェーニッシュは、「重要な疑問は、これらの統合された配列は翻訳されているのか、ということである。もし翻訳されていれば、細胞表面に提示され、自己免疫反応を引き起こす可能性がある」と述べています。すでに、COVID-19の患者の中には、新しい自己抗体のレベルが上昇しているという研究結果もあります。

イェーニッシュとヤングの研究チームは、患者のどの組織にウイルス配列が発現しやすいかを明らかにすることを目的として、Brigham and Women's Hospitalと共同でヒトの組織サンプルの分析を進めています。

ヤングは、「既知のプロセスの理解に適合しないアイデアは、新しい理解を探る上で非常に貴重だ。これらのコロナウイルスがゲノムに統合する手段を持っているとは考えられていなかった。私たちは、それがLINE1/逆転写を介したメカニズムで起こりうることを提案したわけだ。当然のことながら、興味深い議論を引き起こすことになるだろう。私たちはその議論を歓迎する」と述べています。

同時に「私たちは科学的な議論を歓迎するが、政治的な動機による歪曲は歓迎しない」とイェーニッシュは述べています。

おわりに

今回のインタビュー記事を読んでみると、あらためて、イェーニッシュらPNAS論文の研究の経緯と彼らの考え方がよく理解できます。論文で明らかになったこと、そして考えられることをまとめると、以下のようになると思います。

・ウイルスのRNAがレトロポジション現象でヒトゲノムに組み込まれる

・COVID-19患者がすでにウイルスを排出していないにも関わらず、DNAに組み込まれたウイルス断片が転写され、PCR検査で陽性になる

・もし、DNAに統合されたウイルス断片からタンパク質ができるとするなら自己免疫疾患を引き起こす可能性がある

気になったのは、LINE1はストレスで誘導され、SARS-CoV-2の感染はその一つであると言っていますが、mRNAワクチンでは誘導されないと断定しているところです。mRNAワクチンがストレスにならないという理由はどこにあるのでしょうか。彼らが使ったHEK293T細胞にmRNAワクチンを導入して確かめたのでしょうか? もしそうでないなら、同じ実験系で確かめるべきではないでしょうか。 

引用文献・記事

[1] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[2] Zhang, L. et al.: SARS-CoV-2 RNA reverse-transcribed and integrated into the human genome. bioRiv Posted December 13, 2020. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.12.12.422516v1

[3] Sarker, A.A.: Eminent MIT Scientists Defend Controversial SARS-CoV-2 Genome Integration Results. GEN-Genetic Engineering & Biotechnology News. May 13, 2021. https://www.genengnews.com/insights/eminent-mit-scientists-defend-controversial-sars-cov-2-genome-integration-results/

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

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mRNAワクチン接種は実験的遺伝子治療?

はじめに

いま世界中でCOVID-19用のワクチンが拡大しつつあり、日本でも急速に接種が進められています。この中でもmRNAワクチンが優先的に用いられており、ファイザー製とモデルナ製がその中心です。メディア報道では、パンデミック終息への切り札(game changer)になると期待されています。

一方で、mRNAワクチンは、ワープスピード作戦という前例のない短縮治験を経て緊急使用許可(emergency use administration)されたワクチンであり、mRNAの人体導入という人類初の試みであることも忘れてはいけません。だからこそ、未知の負の影響があるかもしれないということも想像されるわけですが、現段階では誰にもそれはわかりません。リスク/利益比が圧倒的に小さいというスラムダンク状態では、専門家がワクチンの負の影響についてまともに言い出すこともないでしょう。

そのような中、前のブログ記事でも取り上げたように(→mRNAワクチンの潜在的悪影響を示唆するSeneffらの論文の意味)、ワクチン接種の負の効果を推測したステファニー・セネフ(Stephanie Seneff)博士らの総説論文 [1] は一石を投じています。この論文ではmRNAワクチンについて「mRNAワクチンは、スパイクタンパク遺伝子をヒトのDNAに組み込む可能性のある実験的な遺伝子治療」と評しています。生命科学やワクチンの専門家であれば絶対言わないような、ある意味無謀な推論がこの総説には書かれており、だからこそ逆に一読しておくことも必要だと思われます。

ここでは、論文中で最後のセクションとして書かれている"Potential for Permanent Incorporation of Spike Protein Gene into human DNA"(スパイクタンパク質遺伝子のヒトDNAへの永続的な組み込みの可能性)について、全翻訳をあげながら紹介したいと思います。

以下、筆者による翻訳ですが、分かりやすくするために適宜補足説明や意訳を加えている他、原総説にあるいくつかの引用文献も示しています。

                  

Potential for Permanent Incorporation of Spike Protein Gene into human DNA

mRNAを用いたワクチンは、標的抗原タンパク質をコードする遺伝子をDNAウイルスに組み込んだDNAワクチンに比べて、より安全といわれている。それは、RNAが不用意にヒトのゲノムに組み込まれることがないとされているためだ。しかし、それが正しいかどうかはまったく不明である。DNA→RNA→タンパク質という古典的なモデル(セントラルドグマ)は今では通用しない。議論の余地がないことであるが、RNAを相補的なDNA(cDNA)に逆転写する遺伝子を持つ、レトロウイルスと呼ばれる大きなグループのウイルスが存在するという事実がある。 1975年、ハワード・テミン(Howard Temin)、レナート・ダルベッコ(Lenato Dulbecco)、デビッド・ボルティモア(David Baltimore)の3人は、RNAからDNAを合成する逆転写酵素およびそれを有するレトロウイルス(ヒト免疫不全ウイルス、HIV)の発見で、ノーベル生理学・医学賞を共同受賞した。その後、逆転写酵素はレトロウイルスに特有のものではないことが判明した。ヒトゲノムの3分の1以上は、SINELINE(それぞれ短鎖長鎖散在反復配列)と呼ばれる謎の移動性DNA因子によって占められている。LINEはRNAをDNAに変換するための逆転写酵素の機能を提供し、SINEはDNAをゲノムに組み込むためのサポートを行う。このように、これらの因子はRNAをDNAに変換してゲノムに組み込み、新しい遺伝子を後世に残すために必要なツールを提供する。

SINEとLINEは、レトロトランスポゾンと呼ばれる遺伝的因子の一種である。レトロトランスポゾンは、RNAを介してDNAをゲノム上の新しい位置にコピー&ペースト(転位)することができる。一方で、その過程で遺伝子に変化をもたらす可能性もある。レトロトランスポゾンは、「ジャンプ遺伝子」とも呼ばれ、50年以上前にニューヨークのコールド・スプリング・ハーバー研究所の遺伝学者バーバラ・マクリントック(Barbara McClintock)によって初めて発見された。彼女は、1983年、この研究でノーベル生理学・医学賞を受賞している。

驚くべきことに、レトロトランスポゾンは、世代を超えてその領域を拡大することができる。LINEとSINEは、協働しながら、DNAのRNAへの転写、DNAへの逆転写を通じてゲノムのATリッチ領域に侵入するという、新しいゲノム部位への転位を起こす。LINEとSINEは、長い間、ジャンクDNAと考えられてきたが、その重要な機能が認識されるにつれ、その考えは払拭されてきている。 重要なことは、外因性のRNAを宿主のDNAに取り込む働きがあることが明らかになっていることだ。マウスのゲノムに見られるレトロウイルス様の反復配列であるIAP(intracisternal A particle)は、ウイルスのRNAをマウスのゲノムに取り込むことができることがわかっている。外来の非レトロウイルス性RNAウイルスとIAPレトロトランスポソンの組み換えにより、ウイルスRNAが逆転写され、宿主のゲノムに組み込まれる [2]

さらに、後述するように、新しいSARS-CoV-2ワクチンに含まれるmRNAは、精子に発現したLINEやプラスミドに封入されたcDNAの助けを借りて、世代を超えて受け継がれる可能性もある。この予測可能な現象の意味するところは不明だが、広範囲に影響を及ぶ可能性がある。

1. 外因性および内因性レトロウイルス

また、mRNAワクチンに含まれるRNAが、レトロウイルスの助けを借りてヒトのゲノムに移行することも懸念されている。レトロウイルスは、ゲノム情報をRNAの形で保持しているが、そのRNAをDNAに逆転写して宿主のゲノムに挿入するための酵素を持っている。そして、宿主の既存の自然の道具を頼りに、DNAをRNAに戻す翻訳によってウイルスのコピーを生成している。すなわち、転写されたウイルスRNAが翻訳されてタンパク質がつくられ、その部品をもとに新しいウイルス粒子に組み立てられる。

ヒト内因性レトロウイルス(HERV)は、レトロウイルスに酷似したヒトのDNA内の良性の配列である。それは、もともと外因性レトロウイルスであったものが組み込まれる過程で、ヒトゲノム内の恒久的な配列になったと考えられている。内在性レトロウイルスは、すべての有顎脊椎動物に豊富に存在し、ヒトではゲノムの5〜8%を占めると推定されている。胎盤と子宮壁との融合や、受精時の精子卵子の融合ステップに必須となっているシンシチン(syncytin)というタンパク質は、内在性レトロウイルスタンパク質の好例である。シンシチンは、最近同定されたヒト内在性欠損レトロウイルスHERV-Wのエンベロープ遺伝子でコードされている。妊娠中における胎児は別の内在性レトロウイルスであるHERV-Rを高レベルで発現しており、母親からの免疫攻撃から自らを保護しているようである [3]。内在性レトロウイルス因子は、レトロトランスポゾンによく似ている。その逆転写酵素が発現すれば、理論的にはmRNAワクチンからスパイクタンパク質RNAをDNAに変換することができる。

2. 外来レトロウイルス遺伝子のDNAへの永続的統合

ヒトには数多くの外因性レトロウイルスが寄生しているが、これらのウイルスは多くの場合、宿主に害を与えず、共生していることさえある。外来性ウイルスは実験室で内在性ウイルスに変換することができる。すなわち、ウイルスを宿主のDNAに永久に組み込むことができる。ルドルフ・ヤーニッシュ(Rudolf Jaenisch)は、着床前のマウス胚にモロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)を感染させた。この感染した胚から生まれたマウスは白血病を発症し、ウイルスのDNAが生殖細胞系列に組み込まれて子孫に伝わったという。ウイルスDNAの宿主ゲノムへの組み込み以外にも、DNAプラスミドをマウス胚の核にマイクロインジェクションすることで、実際に繁殖できるトランスジェニックマウスを作製できることが1980年に示された。プラスミドDNAは、既存の自然なプロセスによってマウスの核ゲノムに組み込まれ、新たに獲得した遺伝情報を子孫のゲノムに残すことができた。この発見は、それ以来、新たに獲得したヒト遺伝子を発現するように設計されたトランスジェニックマウスは、多くの遺伝子工学実験の基礎の材料となっている [4]

3. LINE-1は広く発現している

LINEはヒトゲノムの20%以上を占めている。最も一般的なLINEはLINE-1であり、基本的な生物学的プロセスを制御する逆転写酵素をコードしている。LINE-1は多くの種類の細胞で発現しているが、特に精子では発現レベルが高い精子細胞は、精子を介した遺伝子導入アッセイにより、外因性DNAおよび外因性RNA分子のベクターとして使用することができる。精子は、外因性のRNAを直接cDNAに逆転写し、このcDNAをパッケージ化したプラスミドを受精卵に送り込むことができる。これらのプラスミドは、胎児の体内で自己増殖し、胎児の多くの組織に存在することができる。実際、これらのプラスミドは、成人になっても染色体外構造として存在し、子孫に引き継がれる。これらのプラスミドは転写能力があり、含まれるDNAによってコードされるタンパク質の合成に使用することができる [5]

精子だけでなく、着床前の胚も逆転写酵素を発現しており、その活性阻害は発生停止の原因になる。LINE-1はがん細胞でも発現しており、RNA干渉を介してヒトLINE-1をサイレンシングすると、多くのがん細胞株で分化が誘導される。逆転写酵素は、がん細胞でも生殖細胞でも、新たな遺伝情報の生成に関与している。多くの腫瘍組織では、高レベルのLINE-1が発現しており、核内に多くの染色体外プラスミドが存在することがわかっている。悪性神経膠腫は中枢神経系の原発腫瘍である。悪性グリオーマは中枢神経系の原発腫瘍であり、これらの腫瘍からはDNA、RNA、タンパク質を含むエクソソームが放出され、それが通常の循環に乗ることが実験的に示されている。また、LINE-1は、全身性エリテマトーデス、シェーグレン、乾癬などの自己免疫疾患の免疫細胞でも高発現している。

4. ヒトゲノムへのスパイクタンパク遺伝子の統合 

特筆すべきこととして、アルツハイマー患者の脳から採取した神経細胞には、アミロイド前駆体タンパク質APPをコードする遺伝子の複数の変異体がゲノムに組み込まれており、これらは体細胞遺伝子組み換え(SGR)と呼ばれるプロセスによって作られることが明らかになっている [6]SGRには、遺伝子の転写、DNA鎖の切断、逆転写酵素の活性化が必要であり、これらすべてがよく知られているアルツハイマー病危険因子によって促進される可能性がある。APPをコードするDNAは、RNAに逆転写された後、再びDNAに転写され、鎖状に切断された部位でゲノムに組み込まれる*1RNAは突然変異を起こしやすいので、モザイク状にコピーされたDNAには多くの変異型遺伝子が含まれている。つまり、モザイク状になった細胞はAPPの複数の変異型を生み出すことができる。アルツハイマー病患者の神経細胞の染色体には、5億塩基対もの過剰なDNAが含まれていた [7]

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*筆者注1この文章は原文は以下のとおりですが、明らかに"reverse transcribed"と"transcribed"を取り違えていると思われます。

The DNA coding for APP is reverse transcribed into RNA and then transcribed back into DNA and incorporated into the genome at a strand break site.

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マサチューセッツ工科大学ハーバード大学の研究者たちは、2021年に世の中を騒動に巻き込む論文を発表した [8]。その論文は、SARS-CoV-2のRNAがDNAに逆転写され、ヒトのDNAに統合されるという強力な証拠を示していた。彼らの研究の発端は、COVID-19患者においてウイルスが体内から消失した後も多くが検査陽性反応を示していたことであり、そこから彼らのアイデアの検証が始まった。彼らは、COVID-19から回復した患者から、ウイルスのDNA配列と細胞のDNA配列が融合したキメラ転写産物を発見した。COVID-19は、重症化するとサイトカインストームを引き起こすことが多いため、サイトカインを含む細胞培養液を用いた in vitro 試験で、逆転写酵素の活性が高まっている可能性を確認した。その結果、サイトカインに反応して、内因性LINE-1の発現が2~3倍に増加することがわかった。ヒトのDNAに取り込まれたウイルスの外因性RNAは、感染が解消された後もウイルスタンパク質の断片をいつまでも生成する可能性があり、PCR検査では偽陽性となる*2

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*筆者注2:この「偽陽性」は"臨床診断上"の偽陽性という意味です。分析上では陽性です。また、ウイルスタンパクの断片(原文:fragments of viral proteins)と言っていますが、文脈から考えると"fragments of viral RNA"と言い換えた方が適切だと思います。

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5. 牛のウイルス性下痢症

BVD(Bovine Viral Diarrhea)は、世界中でみられる、牛が罹患するウイルス性の感染症である。病原体は小型で球形の一本鎖のエンベロープRNAウイルスであり、ペスティウイルスの一種である。この病気は、消化器系、呼吸器系、生殖器系の病気と関連している。BVDのユニークな特徴は、ウイルスが妊娠中の雌親の胎盤を通過することである。その結果、子牛は、細胞内のウイルス粒子を「自分自身」と勘違いしたまま生まれてくる。その子牛の免疫システムは、ウイルスを外敵として認識することを拒否する。その結果、子牛は生涯にわたって大量のウイルスを排出ことになり、牛群全体に感染させる可能性がある。このため、このようなキャリアの子牛を特定し、牛群から淘汰する感染抑制策が広く用いられるようになった。

女性がSARS-CoV-2のmRNAワクチンを接種し、その直後に子供を妊娠するという危険な状況が発生する可能性は、将来十分に考えられる。精子は、ワクチンからRNAを埋め込んだリポソームを自由に取り込み、LINE-1を使ってDNAに変換するかもしれない。その精子はスパイクタンパク質のコードを含むプラスミドを生成し、このプラスミドが上述のプロセスを経て受精卵に取り込まれる可能性がある。生まれてきた赤ちゃんは、免疫システムがスパイクタンパク質を「自己」とみなすことで、抗体を作ることができない可能性がある。万が一、その乳児がSARS-CoV-2に感染した場合、乳児の免疫システムはウイルスに対する防御機能を持たないため、ウイルスは乳児の体内で自由に増殖すると考えられる。このような状況では、論理的には乳児はスーパースプレッダーとなりえる。もちろん、これは現時点では推測の域を出ないが、レトロトランスポゾン、精子、受精、免疫系、ウイルスについての知見から、このようなシナリオを否定することはできない。本来プラスミドであるはずのDNAベクターワクチンの遺伝子因子が、宿主のゲノムに組み込まれることは、すでにマウス実験で実証されている [9]。実際、このようなプロセスは、後天的な形質の継承と定義されるラマルク進化の根拠として示唆されている。

かつて「ジャンクDNA」と呼ばれていたものがジャンクではないことがわかったのは、フラクタルゲノミクスに基づいた人間の言語、生物学、遺伝学の新しい哲学的パラダイムから生まれた成果の一つである [10]このパラダイムは、ペリオニシスが「真の物語表現」(TNR)の関わりと結びつけたものであり、人体の複雑な構造が正常に発達という高度な反復プロセスにおいて、「フラクタルテンプレートの反復」として実現されている*3。これらのプロセスは、肺、腎臓、静脈や動脈、そして最も重要な脳に数多く存在する。 mRNAワクチンは、SARS-CoV-2のスパイクタンパクのコードをヒトのDNAに組み込む可能性のある実験的な遺伝子治療である。このDNAコードは、大量のタンパク質性感染粒子のコピーの合成を指示するかもしれず、展開される物語に複数の偽シグナルを挿入し、予測不可能な結果をもたらす可能性がある。

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*筆者注3

この部分の英文(以下)はよく理解できませんでした。したがって、翻訳もいささか意味不明なものになっています。

a paradigm that Pellionisz has linked to the involvement of "true narrative representations" (TNRs), realized as “iterations of a fractal template” in the highly repetitive processes of normal development of the many branching structures of the human body.

                  

筆者あとがき

上記のように、セネフらの総説 [1] は、mRNAのヒトゲノムへの統合についてもきわめて興味深い考察を展開しています。ただ一言で表せば、想像と飛躍も混じった推論以外の何ものでもないということはあります。ところどころ既出論文の知見の上辺だけを抽出してきて、都合良く自らの推測の材料にしていることも否めません。

たとえば、引用文献 [8] にある「SARS-CoV-2のRNAの逆転写によるヒトのDNAへの統合」については、基本的にLINE-1の発現量を上げた培養細胞HEK293T細胞を用いてレトロポジション現象を再現しています。著者ら自身も「mRNAワクチンがコードしているスパイク遺伝子が細胞のDNAに組み込まれることを意味するものではない」と強調しています。ここはセネフらの総説ではスキップされています。とはいえ、COVID-19患者の治癒後の組織からマイナス鎖のウイルスRNAが検出されたことは事実です。

また、プラスミドベクターDNAワクチンの遺伝子が、宿主マウスのゲノムに組み込まれることが実証されているという部分 [9] では、ベクターDNAの導入にエレクトロポレーションが使われていることに注意が必要です。強制的にプラスミドDNAが導入されることで、細胞内に大量の外来DNAが存在する状態になり、この条件でマウスゲノムへのDNAの組み込みが起こったということです。ここも総説では省略されています。

とは言え、「RNAが不用意にヒトのゲノムに組み込まれることがないとされていることが正しいかどうかはまったく不明である」というのも事実です。いろいろな文献情報やウェブ上の情報をくまなく探しても、「mRNAがヒトのDNAに入ることはない」というワクチン推進派の人達の断定的主張が説得力をもつに足りうる実験的証拠は見当たりません。何もわかっていないという方がいいかもしれません。少なくともその理由として「ヒトには逆転写活性がないから」としばしば言われていることは、明らかに間違いです。

セネフらの論文は現状では専門家にほとんど無視されていますが、荒唐無稽だとして片付けることは、逆に科学的態度ではないという気がします。少なくとも彼女らが「結論」部分で提言しているmRNAワクチン接種後の追跡調査(→mRNAワクチンの潜在的悪影響を示唆するSeneffらの論文の意味)は必要でしょう。

ちなみに、日本医学連合では、COVID-19ワクチンについて提言を行なっており、その提言のなかに「長期的なワクチンによる有害事象の観察が必要です」という項目があります [11]。そこで「ファイザーとモデルナのCOVID-19ワクチンに含まれるmRNAは、分解されやすいため長期間細胞内に残存することはなく、またヒトの染色体に組み込まれることもないので、比較的安全性は高いことが予想されます」と強調しながらも、「mRNAを今後繰り返し投与する場合の安全性や脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle, LNP)に含まれる脂質の長期的な安全性はまだ明らかになっていません」と述べています。

引用文献

[1] Seneff S. and Nigh G.: Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. Int. J. Vac. Theo. Prac. Res. 2, May 10, 2021, 402.
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23/34

[2] Geuking, M. B. et al.: Recombination of retrotransposon and exogenous RNA virus results in nonretroviral cDNA integration. Science 323, 393-396 (2009). https://doi.org/10.1126/science.1167375

[3] Luganini, A. & Gribaudo, G.: Retroviruses of the human virobiota: The recycling of viral genes and the resulting advantages for human hosts during evolution. Front. Microbiol. 11, 1140 (2020). https://doi.org/10.3389/fmicb.2020.01140.

[4] Bouabe, H. & Okkenhaug, K.: Gene targeting in mice: a review. Methods in Mol. Biol. 1064, 315-336 (2013). https://doi.org/10.1007/978-1-62703-601-6_23

[5] Pittoggi, C. et al.: Generation of biologically active retro-genes upon interaction of mouse spermatozoa with exogenous DNA. Mol. Reprod. Dev. 73, 1239-1246 (2006). https://doi.org/10.1002/mrd.20550

[6] Kaeser, G. E. & Chun, J.: Mosaic somatic gene recombination as a potentially unifying hypothesis for Alzheimers disease. Front. Genet. 11, 390 (2020). https://doi.org/10.3389/fgene.2020.00390

[7] Bushman, D. M. et al.: Genomic mosaicism with increased amyloid precursor protein (APP) gene copy number in single neurons from sporadic Alzheimers disease brains. eLife 4, e05116 (2015). https://doi.org/10.7554/eLife.05116

[8] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can iIntegrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118. https://doi.org/10.1073/pnas.2105968118

[9] Wang, Z. et al.: Detection of integration of plasmid DNA into host genomic DNA following intramuscular injection and electroporation. Gene Therapy 11, 711-721 (2004). https://doi.org/10.1038/sj.gt.3302213

[10] Pellionisz, A. J.: The decade of fractogene: From discovery to utility -proofs of concept open genome-based clinical applications. Int. J. Syst. Cyber. Inform. 12-02, 17-28 (2012). http://www.junkdna.com/pellionisz_decade_of_fractogene.pdf

[11] 一般社団法人日本医学連合: COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言. 2021.03.29. https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/03/20210329163647.pdf

引用した拙著ブログ記事

2021年5月31日 mRNAワクチンの潜在的悪影響を示唆するSeneffらの論文の意義

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

mRNAワクチンの潜在的悪影響を示唆するSeneffらの論文の意義

カテゴリー:感染症とCOVID-19

2021.06.03更新

はじめに

前のブログ記事で、最近出版された論文の中で気になっているものの一つとしてステファニー・セネフ(Stephanie Seneff)博士とグレグ・ナイ(Greg Nigh)博士の総説 [1] を挙げました(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる)。今世界中で接種が行なわれているCOVID-19ワクチン(mRNAワクチン)の潜在的な負の影響について述べた論文であり、タイトルはずばり"Worse than the Disease?...."です。

International Journal of Vaccine Theory. Practice, and Researchという新興雑誌に掲載されたこの論文ですが、掲載に至った経緯の苦労が彼女の以下のツイートからわかります。3回の査読プロセスで6人の査読者の審査を経て受理されたことが見てとれます。

一言で表せば、いま世界中で国をあげて戦略的に実施されているmRNAワクチンについて、論文で批判的に書くことは極論すれば無謀というものです。おそらくこの論文もどこかに投稿して一度や二度却下されているのではないかと想像されます。とはいえ、筆頭著者の彼女がコンピュータサイエンスの専門家(学部では生物学専攻)[2] という、ワクチンに関わる専門から離れた位置にいる立場だからなせるワザとも言えます。これが生命科学・医学をはじめとして、ウイルス、RNA、ワクチンの専門家だったらとても書けないでしょう。

この論文に対しては、ツイートのリプライにもありますが「コンピュータサイエンティストが何言ってるんだ?」というような、批判も多いです。著者らが環境問題や自然食に傾倒していることも偏見を生んでいるように思えます。

というわけで、SARS-CoV-2RNAがヒトゲノム中に組み込まれる論文 [3] があれだけSNS上で騒がれた件とは対照的に、このセネフらの論文はほとんど注目されていないように思われます。専門家はほとんどがガン無視という感じです。では読むに値しない荒唐無稽な論文かと言えばそうでもなく、ところどころ飛躍気味の推論はあるものの、個人的にはとても面白く感じました。

というわけでこのブログでは、この論文を翻訳して紹介したいと思います。この総説は序論、結論を含めて以下の12セクションに分けて、懸念事項が書かれています。

・序論
・ワクチンの開発
・mRNAワクチンの技術
アジュバントポリエチレングリコールアナフィラキシー
・mRNAワクチン、スパイクタンパク質、抗体依存性増強(ADE)
・病原性プライミング、多系統炎症性疾患、自己免疫疾患
脾臓、血小板、血小板減少症
・スパイクタンパク質の毒性
プリオン病と神経偏性疾患
SARS-CoV-2の新規変異型の出現
・スパイクタンパク遺伝子のヒトゲノムへの永続的組み込みの可能性
・結論

総説なのでとても長文であり、引用されている文献も含めてほぼ全文読解するすのに3週間近くかかりました。すべての翻訳文を一度に載せることはできないので、まずは、序論"Intoduction"、ワクチンの開発"Development of vaccine"、および結論"Conclusion"の三つのセクションのみを紹介したいと思います。

以下、1.序論、2.ワクチンの開発、および3.結論の順に筆者による翻訳文ですが、分かりやすくするために適宜捕捉の言葉を添えています。また必要に応じて原論文で引用されている文献を添えています。

1. 序論

ワープスピード作戦(Operation Warp Speed、OWS)は、COVID-19に関していくつかの前例のないことを打ち立てた。まず、アメリカ国防総省アメリカの保健省が直接協力してワクチンを配布することになった。次に、米国国立衛生研究所(NIH)がバイオテクノロジー企業のモデルナ社と協力して、伝令RNA(mRNA)ベースの技術を利用した前例のない感染症ワクチンを上市した。これらの前例のない出来事が重なったことで、感染症に対する新しい武器としてのmRNAワクチンの将来性と可能性が急速に世間に知られるようになった。同時に、定義上、リスクや期待される効果、安全性、そして公衆衛生への積極的貢献としての長期的な実行可能性を十分に評価するための歴史や背景がない、ということも前例がない。

この論文では、これらの未曾有の出来事のうち、SARS-CoV-2と呼ばれる感染症に対するmRNAワクチンの開発と展開について簡単に総説したい。ここで提起する問題の多くは、将来、他の感染症に対するmRNAワクチンや、がんや遺伝性疾患に関連するmRNAの応用にも適用できると考えるし、現在実施されているコロナウイルスのサブクラスに対するmRNAワクチンに特に関連するものもある。この技術の有望性は広く情宣されているものの、一方では客観的に評価されたリスクや安全性の懸念についてはほとんど注目されていない。この総説では、感染症関連のmRNA技術の分子的な側面についていくらか考察し、これらを既に報告されている、あるいは潜在的に想定される病理学的影響と関連付けて考えたい。

2. ワクチンの開発

感染症に対するmRNAワクチンの開発は、いろいろな面で前例がない。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が主催した2018年の出版物では、ワクチンは3つのカテゴリーに分けられている。すなわち、Simple(単純)、Complex(複雑)、Unprecedented(前例なし)に分けられる。単純なワクチンと複雑なワクチンは、既存のワクチン技術の標準的なアプリケーションと修正されたアプリケーションを意味する。「前例がない」とは、以下のカテゴリーを表す。つまり、これまでに適切なワクチンが存在しなかった病気に対するワクチンである。たとえば、HIVマラリアに対するワクチンがこれに当たる。彼らの分析によると、図1に示すように、前例のないワクチンの開発には12.5年かかると予想されている。さらに不吉なことに、第2相試験(有効性の評価)に成功する確率は5%、そのうち第3相試験(集団の有益性の評価)に成功する確率は40%と推定されている。つまり、前例のないワクチンが、第3相臨床試験に至る段階で成功する確率は2%と予測されているのだ(図1赤丸)。著者が端的に言っていることは、「特に前例のないワクチンの成功確率は低い」ということである。

f:id:rplroseus:20210606110958j:plain

図1. ワクチン開発におけるの三つのカテゴリー(単純、複雑、前例なし)のコスト、期間、および成功確率(原論文の図をリトレース).

それを踏まえた上で、(今回のmRNAワクチンについては)2年後には90~95%の有効性が報告された前例のないワクチンとして登場しているということになる。実際、こうした有効性の報告が、ワクチン接種導入を国民が支持する主要な動機となっている。これは予測だけでなく、期待にも反している。COVID-19ワクチンの有効性に対する懸念を訴える声を掲載している伝統的著名医学誌は、BMJBritish Medical Journal)だけかもしれない。確かに、有効性の推定値は再評価される必要があると考えられる理由がある。

BMJの副編集長であるピーター・ド−シPeter Doshiは、ワクチンメーカーがFDAに公開した生データのうち、高い有効性を主張する根拠となったデータについて、2編の重要な分析結果を発表した [4, 5]。残念ながら、これらはBMJのブログに掲載されたもので、査読付きの論文ではない。 しかし、ドーシ氏は、BMJの別の査読付きコンテンツで、ワクチンの有効性とワクチン試験のエンドポイントの有用性の疑問に関する研究を発表している [6]

より最近の分析では、相対的なリスク低減と絶対的なリスク低減の問題に特に注視して検討されている。高く見積もられたリスク低減効果は、相対的なリスクに基づいているが、絶対的なリスク低減効果がより適切な指標になる。それは、一般の人々がワクチン接種によって個人的に意味のあるリスク低減効果が得られるかどうかを判断するということだ。当該分析ではワクチンメーカーからFDAに提供されたデータを利用しているが、中間分析の時点でモデルナワクチンは1.1%(p=0.004)の絶対的リスク低減効果を示し、一方、ファイザーワクチンの絶対的リスク低減効果は0.7%(p<0.000)だった。

また、COVID-19ワクチンの開発に関して重要な疑問を投げかけている論文もある、それは、この総説で述べているmRNAワクチンに直接関連する重要な疑問だ。たとえば、ハイデレら(Haidere, et.al.)は、これらのワクチンの開発に関連する疑問に対して、以下のように四つの「重要な質問」を明確化している。これらはワクチンの安全性と有効性の両方に関連するものだ。

・ワクチンは免疫反応を活性化するのか? 
・ワクチンは持続的な免疫の耐久性をもたらすのか?  
SARS-CoV-2はどのように変異するのか?  
・ワクチンの逆効果に対する準備はできているのか?

現在供給されている2つのmRNAワクチンについては、標準的かつ長期的な前臨床試験臨床試験がまだ行われていないため、これらの疑問には時間をかけて答えていく必要がある。これらの疑問を解決するためには、一般市民にワクチンを広く届けることで得られる適切な生理学的・疫学的データの観察あるのみである。そしてこれは、結果の公平な報告に自由にアクセスできる場合にのみ可能である。ただ、何としても成功を宣言しなければならないという必要性から、ワクチン関連情報の検閲が広く行われていることを考えると、このようなことはいささかあり得ないことのようにも思える。

第3相臨床試験を経て、現在、一般の人々に提供されている2つのmRNAワクチンは、モデルナ社とファイザー社のものである。これらのワクチンには多くの共通点がある。どちらも、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質をコードするmRNAをベースにしている。どちらも相対的な有効性は94〜95%とされた。予備的知見によれば,3カ月後にも抗体が存在することが示されている。どちらも3~4週間の間隔をあけて2回投与することが推奨されており、最近では年1回のブースター注射が必要との報告もある。どちらも筋肉注射で投与され、RNAが分解しないようにディープフリーザーによる保存が必要である。これは、安定している二本鎖DNAとは異なり、一本鎖のRNA製品は、常温では損傷したり、効き目がなくなったりする傾向があり、潜在的な有効性を維持するためには極低温で保存しなければならないからである。ファイザー社のワクチンは、-70度での保存が必要であるとメーカーは強調しており、最終的に投与されるまでの間の冷凍サプライチェーンとしての工夫がいる。モデルナワクチンは、-20度で6ヶ月間保存することができ、解凍後30日間は冷蔵庫で安全に保存することができる。

他にも、ジョンソン&ジョンソン社のワクチンとアストラゼネカ社のワクチンが、緊急時に投与されている。どちらもmRNAワクチンの技術とは全く異なるベクターDNA技術に基づいている。 これらのワクチンも十分な評価を経ずに市場に投入されているが、本総説のテーマではないので、開発の経緯を簡単に説明するだけにする。これらのワクチンは、風邪の原因となる二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの不活性品をベースにしている。このアデノウイルスは、重要な遺伝子を欠損させることにより複製できないように遺伝子改変されており、さらにSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のDNAコードをゲノムに追加したものである。アストラゼネカのワクチン生産では、HEK293とよばれる不死化したヒト胚性腎臓細胞株を使っているが、それはこのアデノウイルス欠損株とともに培養されている [7]。 HEK細胞株は、1970年代に、欠損ウイルスの複製に必要な欠落した遺伝子を供給するアデノウイルスの配列でDNAを補強することにより、遺伝子改変が行われた。ジョンソン&ジョンソン社も、胎児の網膜細胞を使った同様の技術を採用している。これらのワクチンの製造には、遺伝子改変したヒト腫瘍細胞株が必要であるため、ヒトのDNAがコンタミする可能性があり、また、他の多くの"汚染物"が混入する可能性もある。

メディアはこの革新的な技術に大きな関心を寄せている。しかし、懸念されることとして、スパイクタンパクに対する抗体を作らせるために体をだますという単純な目的をはるかに超えて、外来mRNAやワクチンに含まれる他の成分に対して体が反応する可能性の複雑さを、我々は認識していないかもしれないということがある。

この総説で我々は、まず、mRNAワクチンの技術について詳しく説明する。そして、予測可能な悪影響と予測不可能な悪影響の両方の可能性に関して、我々が懸念するmRNAワクチンの特別な側面について、いくつかのセクションを設けて述べる。最後に、SARS-CoV-2に対してできるだけ多くの人々にワクチンを接種するという現在の事業に、より慎重に取り組むことを政府や製薬業界に訴える。

3. 結論

実験的に開発されたmRNAワクチンは、大きな利益をもたらす可能性があると言われてきたが、その一方で、悲劇的、あるいは破滅的な不測の事態を招く可能性も秘めている。SARS-CoV-2に対するmRNAワクチンは既に大々的に導入されているが、その普及においては懸念すべき点が多く存在する。この総説では、それらの懸念事項のすべてではないが、いくつかについて言及した。これらの懸念事項は潜在的に深刻であり、何年も、あるいは世代を超えても明らかにならない可能性があることを強調したいと思う。この論文で述べたような有害な可能性を十分に排除するためには、少なくとも以下のような研究・監視方法を採用することを勧める。

・豊富な資金を投入して全国的に取り組むべきものとして、mRNAワクチンに関連する有害事象の詳細なデータを収集すること、ワクチン接種後の最初の数週間を超えて追跡すること

・ワクチンを受けた人たちの自己抗体検査を繰り返すこと。検査する自己抗体は標準化することができるものであり、過去に記録された抗体やスパイクタンパクによって誘発される可能性のある自己抗体に基づいているべきである。これらには、リン脂質、コラーゲン、アクチン、チロペルオキシダーゼ(TPO)、ミエリン塩基性タンパク質、組織トランスグルタミナーゼなどに対する自己抗体が含まれる。

・サイトカインのバランスと関連する生物学的効果に関連する免疫学的プロファイリング。最低でもIL-6、INF-α、D-ダイマー、フィブリノーゲン、C-反応性タンパク質などの検査を行うこと

mRNAワクチンを接種した集団とそうでない集団を比較して、ワクチンを接種した集団では感染率が低下し、症状が軽快することが予想されることを確認するとともに、同じ2つの集団で様々な自己免疫疾患プリオンの発生率を比較する研究

・ワクチンを接種していない人が、ワクチン接種者からワクチン特有の形のスパイクタンパク質を近接条件下で取得することが可能かどうかを評価する研究

mRNAナノ粒子が精子に取り込まれ、cDNAプラスミドに変換されるかどうかを評価するin vitro試験

・妊娠直前にワクチンを接種することで、スパイクタンパクをコードするプラスミドが子孫の組織に存在したり、ゲノムに組み込まれる可能性があるかどうかを調べる動物実験

脳、心臓、精巣などに対するスパイクタンパクの毒性を解明することを目的としたin vitro研究

集団ワクチン接種をめぐる公共政策は、一般的に、新規mRNAワクチンのリスク/公益比が「スラムダンク」(=当然のこと)であるという前提で進められてきた。COVID-19の国際的な緊急事態宣言下で、大規模なワクチン接種キャンペーンが積極的に行なわれる中、我々は世界規模でのワクチン実験に突入した。少なくとも、これらの実験で得られたデータを活用して、この新しい未検証の技術についてもっと知るべきだと思う。そして、将来的には、新しいバイオテクノロジーに対して、政府はより慎重に対応することを求めたい。

最後に、明らかなことだが、悲劇的に無視されている示唆として、政府は国民に対して、安全で手頃な方法で自然に免疫システムを高めることを奨励すべきである。たとえば、ビタミンDレベルを上げるために日光を浴びること、化学物質を含む加工食品ではなく、主に有機栽培された全粒粉の食品を食べることなどである。また、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンK2の供給源となる食品を食べることも奨励すべきである。これらのビタミンが欠乏すると、COVID-19による悪い結果につながる。

筆者あとがき

前述したようにこの総説にはところどころ飛躍した言述や理解できないところがあったり、「自然に免疫システムを高めることを奨励すべき」というような、直接主旨とは関係ないような部分あって全面的には支持しかねるのですが、ところどころの主張には見るべきものがあります。

その一つは、国家的な戦略で、過去人類が経験したことがないmRNAの集団接種が行なわれていることに何の疑問も持たず、前のめりに進む姿勢を批判していることであり、これはむしろ当然のことだと思います。これは別に反ワクチンということではなくて、見切り発車されたmRNAワクチンに対して、より慎重な姿勢を求め、言わば壮大な人体実験を進めているわけだからこそ、その功罪の検証も積極的に進めて行こうという科学的な態度だと思います。

ワクチン推しの政府や医療専門家は、パンデミック下で「緊急承認された」かつ「前例がない」mRNAワクチンであるという意味を忘れているような気がします。重要なことは、スパイクコードmRNAワクチンの健康体への悪影響について免疫学、分子生物学観点からの研究を押し進めるとともに、ワクチン接種後の長期の4相試験を実施し、有害事象に対する適切な評価を行うことです。

今、世界的にはワクチンを受けた人の中和抗体を中心に調べられているように思いますが、抗原タンパクの生成と行方スパイクタンパクそのものの影響mRNA配列の行方(とくに宿主ゲノムへの組み込み)宿主によるRNA編集やキメラ的配列の生成の有無タンパク合成細胞の細胞性免疫の攻撃、抗体依存性増強(AED病原性プライミング自己免疫疾患に繋がるようなキメラタンパクの生成の有無、がん化への影響など調べることはたくさんあるように思います。

特に今専門家を中心に「mRNAがゲノムに取り込まれることはない」と断定的に言われていることは気になります。今ひとつ説得力がありません。遺伝子コードどおりのタンパクが合成されるかも調べられていません。すでに米国の研究チームは、mRNAワクチンによって全身にスパイクタンパク質が行き渡ることを報告しています(→mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出)。

懸念することは、このようなワクチンの負の影響も含めて調べようとすることに、国やメーカーや科学者さえからも圧力がかかることであり、さらにメタデータ情報がオープンにされないことです。

セネフらの論文におけるmRNAの宿主ゲノムDNAへの組み込みに関するセクションやその他のセクションについては、次のブログで紹介したいと思います。

引用文献

 [1] Seneff S. and Nigh G.: Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. Int. J. Vac. Theo. Prac. Res. 2, May 10, 2021, 402.
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23/34

[2] MIT Computer Science & Artificial Intelligence Lab: Stephanie Seneff.
https://www.csail.mit.edu/person/stephanie-seneff

[3] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[4] Doshi, P.: Peter Doshi: Pfizer and Moderna's “95% effective” vaccines—we need more details and the raw data. BMJopinion. Jan. 4, 2021. https://blogs.bmj.com/bmj/2021/01/04/peter-doshi-pfizer-and-modernas-95-effective-vaccines-we-need-more-details-and-the-raw-data/

[5] Doshi, P.: Clarification: Pfizer and Moderna's “95% effective” Vaccines --we need more details and the raw data. BMJopinion. Feb. 5, 2021. https://blogs.bmj.com/bmj/2021/02/05/clarification-pfizer-and-modernas-95-effective-vaccines-we-need-more-details-and-the-raw-data/

[6] Doshi, P.: Will COVID-19 Vaccines save lives? Current trials aren't designed to tell us. BMJ 371, m4037 (2020). https://doi.org/10.1136/bmj.m4037

[7] Dicks, M. D. J. et al.: A novel chimpanzee adenovirus vector with low human seroprevalence: Improved systems for vector derivation and comparative immunogenicity. PLoS ONE 7, e40385 (2012). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0040385

引用した拙著ブログ記事

2021年5月27日 mRNAワクチンを受けた人から抗原タンパクと抗体を検出

2021年5月15日 新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

ヒトのゲノムに組み込まれる?

前のブログ記事で、新型コロナウイルスRNAがヒトの細胞にDNAとして組み込まれるという現象を報告した論文(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる)、およびその解説記事(→SARS-CoV-2の遺伝子がヒトDNAと組み込まれることを裏付ける新たな証拠)を紹介しました。これらの論文・記事が出た直後に、今度はそれらの批評記事がサイエンスの姉妹雑誌であるScience Translational MedicineにBiological Newsとして掲載されました [1]有機化学・薬学の専門家であるデレク・ロウ(Derek Lowe)博士による批評です。そこで、その全文を訳したものをここに載せたいと思います。

以下、筆者による全文翻訳ですが、わかりやすくするために適宜意訳したり、補足する言葉を入れたりしています。

            

Integration Into the Human Genome? by Derek Lowe

私は、最近出版されたPNAS論文 [2] について、いくつかのコメントを求められていた。この論文は、SARS-CoV-2RNA配列のヒト細胞への組み込みについて述べたものである。喜んでコメントさせていただくが、まず最初に、この論文が注目されているのは(悲しいことに)反ワクチン活動家によるものが多いようである。彼らは、ワクチンを接種すると永久にコロナになるという恐怖心を煽っている。これは、以下に示すようにナンセンスである(この部分は最後まで読んでほしい!)。

この論文自体の背景については、こちらの記事(John Cohen, Science May 6, 2021 [3])が参考になるので、それを勧める。コロナウイルスRNAウイルスなので、細胞のDNAゲノムに組み込むには大きな障壁があることをまず念頭に置く必要がある。つまり逆転写酵素が必要ということである。通常のテープを逆に走らせるように、代わりにRNAの配列からDNAを作る酵素だ。ヒトは逆転写を行なわないが、ウィルスには逆転写を行うものがたくさんある。何千年もの間、私たちは多くのウイルスに感染してきたが、それらのウイルスのガラクタが、私たちのゲノムにかなりの量として詰め込まれている。もしそれを知ったら驚いてしまうだろうが、私たちのゲノムDNAの約520%は、古代のレトロウイルスの残骸であることは事実だ。なぜか、"インテリジェント・デザイン"の人たちがこのことを無視していることは不思議だ。これらの多くは大昔に起こったことであり、元のいい状態を保っているというわけではない。しかし、その中には人間の病気に関わっているものもあり、場合によっては、ウイルスのタンパク質の一部を継続的に発現させている可能性もある [4]

その証拠としてレトロトランスポゾンが挙げられる。レトロトランスポゾンはレトロウイルスが起源となっていると考えられ、内在性レトロウイルスのように働くことができる。私たちのDNAの中にはレトロトランスポゾンがたくさん内蔵されているが、それはレトロウイルスが自分自身をコピーできるからだ。特によく研究されているのがLINE1配列である。ゲノムの中にはたくさんのLINE1配列があり、そのほとんどは劣化して不活性化している。しかしその中にはタンパク質として発現できるものがあり、その一つとして、LINE1 DNAを作成してゲノムに挿入することができる、逆転写酵素がある。哺乳類においては、これらの配列は細胞内で進化を遂げているようで、長期にわたる「軍拡競争」の歴史が示されている。

したがって、私たちの細胞は逆転写酵素そのものを必要としていないが、LINE1のおかげで逆転写酵素が走り回っている。今回PNAS誌に掲載された論文では、ある条件下で、この酵素が感染中のコロナウイルスRNAを拾い、その配列からDNAを作り、それを細胞のゲノムに挿入し直すことができるという証拠が示されている。しかし、この論文では、その条件として、通常よりもLINE1の量が多くなるように細胞株を改変したことが示されており、そのことが実験結果を実際の感染症にまで拡大することができない理由のつになっている。また、この論文のプレプリントの段階では、検出されたヒトとウイルスのキメラ配列がアーチファクトとして作られる可能性があるという批判を受けていたが、今回の最新バージョンでは、こうした懸念の多くが解消されているようだ。

また、重要なこととして、ウイルス感染によってLINE1の活性が実際に抑制解除される可能性もあり、このメカニズムを排除できない(今回のコロナウイルスだけに当てはまるわけではなく、他のRNAウイルスでも起こりうる)。もしこれが起これば、ヒトとウイルスの混合タンパク質断片が生成されることで、(おそらく)自己免疫疾患を引き起こす可能性がある。また、ウイルスの配列が内在化することで、ウイルス配列を標的とする診断テストが混乱する可能性もある。これらのことはまだ解明されておらず、一般的に言えば、研究する価値はあるだろう。とはいえ、今のところ、コロナウイルスに感染した患者でこのプロセスが起こっているという確たる証拠はない。

今回使用された細胞培養条件であっても、著者らは、ウイルスゲノムの一端(3′側)からの可変長の挿入を見ているにすぎないことにも注意が必要である。このプロセスでは、感染力のあるウイルスは生成されない。また、この結果は、「mRNAワクチンによってスパイクタンパク質が細胞のDNAに組み込まれることを意味するものではない」と著者自身が述べていることも重要である。ワクチンに含まれるmRNAは、ウイルスゲノムの3′末端とは似ても似つかぬものであり、非翻訳領域(UTR)も全く異なるし、何よりスパイクタンパク自体が実際のウイルスゲノムの3′末端には存在しない。ワクチンを接種すると、免疫システムが将来的に働くようになるが、これは規模的にも多くの細かい部分においても、ウイルスに感染したのとは違う。

このPNAS論文の研究が反ワクチン派に取り上げられていることに著者らは不満を感じているようだが、私はその研究者らに同情する。私も頭にきている。同時に、一般的に言ってウイルス感染症については、可能性は低いが、調べる価値のある仮説だとは思う。また、反ワクチン運動のために何でも掴む人がいることは、一般的に残念なことだ。もしこの論文がなければ、彼らは他のことで盛り上がっていたに違いない。

            

筆者あとがき

ここで紹介した批判記事も含めてこれまでの文献・記事をと、論点を二つに分けなければならないように思います。一つはPNAS論文 [2] で報告された培養細胞におけるウイルスRNAのレトロポジション現象が、実際にSARS-CoV-2の感染者で起こりえるかということです。 

もし、それが起こるとするなら、感染性のあるウイルスが再生産される可能性は非常に低いとしても、ヒトとウイルスのキメラタンパク質が作られ、それが自己免疫疾患の原因になりはしないかという問題が考えられます。また、ウイルスRNAがゲノムDNAに組み込まれることで、ウイルスを標的とするPCR検査で陽性になり、診断に混乱を及ぼす可能性もあります。これはロウ博士の批評記事で述べられているとおりです。

もう一つの論点は、今使われているようなmRNAワクチンのスパイクタンパク質がゲノムDNAに取り込まれる可能性はないかという疑問です。PNAS論文の著者らの主旨は「mRNAワクチンがDNAに組み込まれることを意味するものではない」という言い方であって、必ずしもそれを否定しているわけではありません。ロウ博士の批評もこの点は曖昧であり、mRNAワクチンのレトロポジションが起きない理由をはっきり述べているわけではありません。組み込まれたウイルスの3'側の可変領域とワクチンのスパイク配列が全く違うと言っているだけです。

はっきりしていることは反RNAワクチン派があたかもmRNAが害があるように煽っていることは間違いであり、そしてPNAS論文が反ワクチン派の主張にお墨付きを与えているということもないということです。この点に対するロウ博士の批判ははっきりしています。

いずれにしろ、前のブログ記事でも述べましたが、mRNAワクチンのレトロポジションがあるかどうかは、ワクチンを受けた人達のDNAを調べればわかることなので、念のためにその追跡調査はやるべきでしょう。そうでなくても、PNAS論文 [2] で用いられた同じアッセイ系、あるいは他のモデル細胞系でmRNAワクチンの導入実験をやれば、ある程度(少なくとも逆転写が起こるかどうかの程度)の結論は出るでしょう。

そして逆転写酵素活性は特に精子細胞などで発現していることが知られているので、万が一のことを考えて若い人たち(特に20歳以下)へのワクチン接種は、少し待った方がいいと個人的には思います。

ただ、ワクチン接種者のDNAを調べるとなると、それだけで国やメーカーや研究者から圧力がかかったり、批判されたりしそうですね。それを危惧します。

引用文献・記事

[1] Lowe, D.: Integration Into the human genome? Sci. Trans. Med. May 10, 2021. https://blogs.sciencemag.org/pipeline/archives/2021/05/10/integration-into-the-human-genome

[2] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[3] Cohen, J.: Further evidence supports controversial claim that SARS-CoV-2 genes can integrate with human DNA. Science May 6, 2021. https://www.sciencemag.org/news/2021/05/further-evidence-offered-claim-genes-pandemic-coronavirus-can-integrate-human-dna

[4] Donohue, B.: Genes from ‘fossil’ virus in human DNA found to be active. UW Medicine. Nov. 4, 2019. https://newsroom.uw.edu/news/genes-%E2%80%98fossil%E2%80%99-virus-human-dna-found-be-active

                 

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