Dr. Tairaのブログ

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新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

2020.05.22更新

はじめに

私は日頃から新型コロナウイルスSARS-CoV-2COVID-19に関連する論文を注視していますが、最近、二つの論文がとくに目を引きました。一つは、SARS-CoV-2のRNAがヒト細胞のDNAの中に逆転写によって組み込まれるという現象を述べた論文 [1] であり、もう一つは、この論文も引用しながら、mRNAワクチンの長期的な負の影響の可能性を考えた論説です [2]

最初の論文は、米国ホワイトヘッド生物医学研究所/マサチューセッツ工科大学の研究グループによって米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたもので(プレプリントは昨年12月のバイオアーカイヴ [3])、ウイルスRNAのゲノムDNAへの組み込みに長鎖散在反復配列(long interspersed nuclear element, LINE)が関与していることを示唆しています。またこの現象によって、COVID-19患者のゲノムDNAにウイルスRNAが取り込まれ、その転写物を生じる結果として、治癒した後もPCR検査で陽性になる可能性を考察しています。

このブログでは、PNAS論文の内容を主に紹介しながら、mRNAワクチンのゲノムDNAへの組み込みの可能性も合わせて考えてみたいと思います。

1. LINEと移動機構

まずこのPNAS論文においてキーワードになっているLINEについて簡単に説明したいと思います。

生物はそれぞれが決まった長さと配列のDNA(ゲノム)をもっていますが、ヒトを含めて多くの真核生物ではそのDNA上を自由に移動することができる、レトロトランスポゾン(レトロポゾン、可動遺伝因子)とよばれるDNA断片群が存在します。レトロトランスポゾンは、末端に長い反復配列を有するLTR (long terminal repeat) 型と、それ以外の非LTR 型の2つに分けられます。LINEは後者に属するレトロトランスポゾンです。

ちなみに、ヒトゲノムの遺伝子としてコードする部分はわずか2%以下の領域にしか過ぎず、このためかつては残りの部分はDNAジャンク(ガラクタ)とよばれていました。しかし、実はこのジャンク部分にレトロトランスポゾンが存在し、ゲノム全体としては約半分も占めています。

レトロトランスポゾンはプロモーターやイントロンを含みませんが、逆転写酵素を含めたタンパク質をコードする遺伝子を有し、非タンパク質部分を含めて複写・転位ができます。どのようにしてDNA上を移動するかということを言えば、1) mRNAへの転写 → 2) タンパク質への翻訳 → 3) mRNAとタンパク質の複合体形成 → 4) mRNAの逆転写によるDNAへの組み込み、という順序で起こります。つまり、レトロトランスポゾンは、簡単に言えば、それがコピーされて新しいDNA部位へペーストされるということで移動(転位)が起こるということです。

多くのLINE配列はもはや転写および翻訳が起こらないほどの変異の蓄積がみられますが、ヒトゲノムに多く存在する LINE1(ゲノムの約17%)では、転写、翻訳活性を有するのは80–100コピー程度と言われています [4]。ここで図1にLINE1のDNA上の移動の概要 [5]を示します。

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図1. トランスレトロポゾンLINE1の転位(レトロトランスポジション)機構(文献[5]に基づいて作図).

まず、LINE1の領域がmRNAとして写し取られます。この転写物が翻訳されて二つのタンパク質(ORF1とORF2)がつくられます。このうちORF2は、エンドヌクレアーゼ活性とmRNAからDNAを合成する逆転写活性をもっています。

次に、この二つのタンパク質とmRNAは複合体を形成します。すると、DNA修復タンパク質のPARP2が侵入場所を検知し、その場所でORF2がDNAを切断し、RPAとよばれるタンパク質がADPリボースを認識することによって、mRNAの逆転写が開始されます。最後に合成・挿入されたDNAをRPAが保護して、転位完了です。

このようにLINE1は、細胞内のDNA修復タンパク質群と連携して効率よく転位していると考えられます。

2. 細胞内でのウイルスRNAの逆転写

以前から、COVID-19患者ではウイルスが直接分離されない状態になっても、そして治癒したと思われる後でも、なおPCR検査でその遺伝子が検出されるということが報告されています。今回のPNAS論文の研究 [1] では、「ウイルスのRNAが逆転写されてヒトのDNAの中に組み込まれ、その転写物がPCRによって検出されるのではないか」という作業仮説を基に実験が進められました。

この研究では、材料としてヒト胚性腎臓細胞 (Human Embryonic Kidney cell)HEK293にSV40 Large T抗原を発現させたHEK293T細胞が用いられています。これにより、 HEK293T細胞ではSV40複製起点を持つプラスミドベクターを使えるようになっており、タンパク質を大量発現できます。

著者らは、レトロトランスポジションの可能性を高くするために、HEK293T細胞にLINE1発現プラスミドを導入しました。ここがこの研究の一つのミソです。この改変細胞にSARS-CoV-2を感染させ、感染2日後にDNAを分離し、当該ウイルスのヌクレオカプシド(NC)配列を標的とするPCRを行ないました。このPCR産物をサブクローニングし、サンガーシークエンシングで解読し、宿主細胞にウイルスDNA配列が組み込まれていることを確かめました。

次にSARS-CoV-2配列が宿主ゲノムに組み込まれていることを直接的に証明するために、抽出DNAのナノポアロングリードシークエンシングを行ないました。その結果、完全長のNCサブゲノムRNA配列(1662塩基)がX染色体に組み込まれ、その両側を宿主DNAが取り囲んでいることを認めました。

重要なこととして、この隣接領域(フランキング配列)にはLINE1によるレトロインテグレーションの特徴と思われる20塩基の反復配列が含まれていました。そして、ウイルスゲノムの断片コピーはすべての染色体で見つかり、フランキング配列部分の67%にLINE1エンドヌクレアーゼ認識配列(TTTT/A)が含まれていました。これらの結果はLINE1による逆転写によるウイルスRNAの宿主ゲノムへの挿入を示唆するものです。

ウイルス配列の約71%は細胞のイントロンまたは遺伝子間に挟まれ、29%はエクソンに挟まれていました。このようなウイルス配列とエクソンとの密着ぶりは、単なるゲノムへのランダムな組み込みと予測されるよりもはるかに高く、エクソンに関連する標的部位への優先的な組み込みを示唆していると著者らは述べています。これは、従来、LINE1がエクソンに優先的に導入されることはないとされてきた見解とは、異なる結果です。

また、ウイルスと宿主細胞の境界は、細胞内遺伝子の5′または3′非翻訳領域(UTR)の近くにあることが多く、この実験系ではプロモーターまたはポリ(A)サイトの近くに優先的に組み込まれることを示唆しています。

著者らはさらに、LINE1を導入したHEK293T細胞およびSARS-CoV-2を導入したHEK293T細胞から分離したDNAを、Tn5ベースのライブラリ構築法(Illumina Nextera)を用いて、Illuminaペアエンド全ゲノムシークエンシングで解読しました。結果はナノポアシークエンスのそれとほぼ一致しました。

検出されたSARS-CoV-2の配列の約32%は、LINE1認識部位の証拠がない状態で短鎖散在反復配列、または長い末端反復配列(LTR)として組み込まれていました。このことは、おそらくリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)に急性感染した細胞で報告された逆転写/組み込みメカニズムと類似するものだろうと著者らと述べています。

著者らはまた、逆転写酵素を過剰発現していない感染細胞でもウイルスRNAの組み込みが起こるかどうかを確かめています。すなわち、酵素発現プラスミドを導入しないウイルス感染細胞からDNAを分離し、シークエンス解析を行ないました。その結果、宿主ゲノムDNA配列に融合した合計7つのSARS-CoV-2配列が検出され、すべてにおいてヒト-SARS-CoV-2配列接合部に隣接してLINE1認識配列が確認されました。

研究チームが培養細胞のゲノム上で検出したウイルスDNAは、主として3'末端部分に偏りがあるサブゲノム配列でした。したがって、患者のDNAから感染性のあるSARS-CoV-2が生じることはないと結論づけられています。

3. DNAに組み込まれたウイルス配列の転写

細胞DNAに組み込まれたSARS-CoV-2の配列が果たして発現しているのかどうかは重要ですが、著者らはこれを確かめるために、SARS-CoV-2感染細胞のRNA-seqデータを解析してキメラ転写産物があるかを調べています。その結果、培養細胞や肺・心臓・脳・胃の各組織のオルガノイドなど、複数のサンプルで多数のヒト-ウイルスキメラ配列が検出されました。そしてそれらの量は、サンプルの種類にかかわらず、ウイルスのRNA量と正の相関にありました。

しかしながら、最近の研究では、SARS-CoV-2感染細胞から得られたRNA-seqリードの最大1%が、RNA-seqライブラリの調製におけるcDNA合成ステップ中に起こりうるアーチファクトに由来する可能性があることも指摘されています。

4. COVID-19患者の陽性反応はDNAの転写物由来?

このPNAS論文でもう一つ興味深いのは、COVID-19患者由来の組織におけるSARS-CoV-2のシークエンス解析の結果です。すなわち、全ウイルスリードの最大51%、ヒト-ウイルスキメラリードの最大42.5%がマイナス鎖のRNAに由来し、重症のCOVID患者の肺気管支肺胞洗浄液(BALF)のシングルセル解析でも、全ウイルスリード最大40%がマイナス鎖のRNAに由来していました。ちなみに、SARS-CoV-2は他のコロナウイルス同様プラス鎖のRNAウイルスです。

さらに、一部の患者の組織におけるマイナス鎖RNAの割合は、急性感染した細胞やオルガノイドにおける割合よりも桁違いに高く、これらのサンプルでは、ウイルスの繁殖がほとんど認められませんでした。

以上のことから、著者らは、SARS-CoV-2陽性細胞の総数が少ない患者由来の組織では、ウイルスの配列の大部分が宿主ゲノムに組み込まれたSARS-CoV-2配列から転写されている可能性が高いとしています。

この研究から言えることは、COVID-19患者が長期間PCR検査で陽性になる、あるいは治癒した後でも検査陽性に理由として、LINE1によるレトロトランスポジション現象が関わっている可能性があるのではないかと言うことです。

5. mRNAワクチンの長期的影響

上記のウイルスRNAがレトロトランスポゾンの転位機構によってゲノムDNAに組み込まれるという事実は新たな懸念を生んでいます。それは現在普及しているファイザーやモデルナ社製のワクチンがmRNAワクチンだからです。すなわち、ワクチンに使われているスパイクタンパク質のmRNAが、接種された人のDNAに組み込まれはしないか?という懸念です。

このような観点から、不幸にして、上記のPNAS論文は特に米国の反ワクチン派の人達に格好の材料を与えてしまったようです。この論文原稿がプレプリントサーバーに投稿されたときは [3]、「反ワクチン派の片棒を担ぐのか」「論文を取り下げるべきだ」という批判の渦が起こりました。しかし、論文の著者らは、mRNAワクチンによってスパイクタンパク質が細胞のDNAに組み込まれることを意味するものではない、と強調しています。

米国の研究チームは、最近、IJVTPRという、まだインパクトファクターも付与されていない新興電子ジャーナルに、mRNAワクチンが及ぼす長期的な負の影響に可能性について論説を発表しています [2]。その中の一つとして、スパイクタンパク質遺伝子が永遠にゲノムDNAに組み込まれる潜在性について論じています。

ヒトゲノム中の主なLINEであるLINE1は、あらゆる種類の細胞で発現していますが、とくに精細胞でそれが顕著です。精子は外来性RNAをcDNAに逆転写できますので、このcDNAを卵子生殖細胞に移すことも可能です。逆転写活性は胚、免疫細胞、がん細胞でも高度に発現しています。

この論説では、mRNAワクチンのRNAがゲノムDNAに組み込まれたことを証明した研究はないとしながらも、外来mRNAによるゲノムDNA改変の潜在的危険性について考察しています。これ以外にもさまざまな懸念される影響を挙げていますので、次回のブログでまた紹介したいと思います。

おわりに

LINE1によって外来RNAがヒトゲノムDNA中に取り込まれ、それが転写されるという事実は、SARC-CoV-2のPCR検査において、結果を解釈する際の注意を換気しています。まだ推測の域を出ませんが、長期療養の患者や治癒後の検査においては考慮しなければならないことでしょう。

より重要なのは、いままさに世界的に実施されているということで、mRNAワクチン接種の影響に関することです。もし、ワクチンRNAがDNAに取り込まれるとしたら事は重大です。一般的に、外来性mRNAは宿主ゲノムに挿入されるリスクがないと言われていますが [6]、どうなのでしょう。LINE1は自らのRNAのみならず、細胞内mRNAを標的として、プロセス型偽遺伝子をつくることが知られています [4]

このPNAS論文の著者らは、ワクチンのmRNAがゲノムに統合されることはないと主張していますが、現時点でそうだと結論づけるのは早急のように思います。念のために、少なくとも宿主ゲノムに挿入されないということを追試する必要があるでしょう。

個人的には、スパイクタンパク質自身の負の影響もあることも推測されることから、少なくとも若年層のmRNAワクチンの接種は、よりデータが蓄積されてから行なった方がよいように思います。そして接種するにしても、現段階では年齢が高い層から順に人口の50%程度で留めるのがよいのではないでしょうか。

引用文献

[1] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[2] Seneff S. and Nigh G.: Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. Int. J. Vac. Theo. Prac. Res. 2, May 10, 2021, 402.
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23/34

[3] Zhang, L. et al.: SARS-CoV-2 RNA reverse-transcribed and integrated into the human genome. bioRiv Posted December 13, 2020. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.12.12.422516v1

[4] 朝長啓造: 2. ウイルス共進化:偽遺伝子としての内在性 RNA ウイルスエレメント. ウイルス. 70, 49–56 (2020). http://jsv.umin.jp/journal/v70-1pdf/virus70-1_049-056.pdf

[5] Miyoshi et al.: Poly(ADP-Ribose) polymerase 2 recruits replication protein A to sites of LINE-1 integration to facilitate retrotransposition. Mol. Cell. 75, 1266–1298 (2019). https://doi.org/10.1016/j.molcel.2019.07.018

[6] 位髙 啓史ら: mRNA 医薬開発の世界的動向. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,PMDRS,50, 242–249(2019).
http://nats.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20190717095649-6ABC2FA50410294C82EBEF7D74463510333BCF1FB717B3F864612BCB0CA9F6B2.pdf

               

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