Dr. Tairaのブログ

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変異ウイルスの市中感染が起きている

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の新規陽性者は、年末年始にかけて爆発的に増加しました。東京都の新規陽性者数でみると、12月31日にそれまでの過去最多となる1337人を数え、年が明けての1月7日には初の2000人超えとなる2447人を記録しました。

1月8日に開催された新型コロナウイルス感染症対策分科会後の会見において、押谷仁教授(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野)は、今回の東京都の陽性者急増について「疫学的に見ると異常な増え方」、「10日以内に2000を超えるというのは、普通には考えにくい状況」と述べました。その要因について彼が示した見解を、ウェブ記事 [1] から拾ったものが以下です。

            

ひとつは、年末年始の休みの間に検査されたものが報告されるという影響があったと思われる。もう一つの理由として、これまでも分科会等で若い人がなかなか検査を受けてくれないということを言ってきたが、年末年始にかけて起きたことを振り返ってみると、12月27日に政治家の方が亡くなった。同時に、自宅療養や自宅で亡くなっている人たちが増えたという報道が広くなされた。そうしたことで、今まで受けてくれなかった事前確率の高い人たちが検査を受けて、こういうことが起きている可能性もある。そこはきちんと精査しなければならず、今後の感染者の動向を見極めていく必要がある。

            

このように、感染者急増の要因として、検査数の増加や(感染に心当たりのある)若年層をも含めた被検者数の増加とみなすコメントです。しかし同時に検査陽性率も上昇しているので、単に検査数の増加で陽性者数が増加したというよりは、やはり市中感染が急激に拡大しているとみなした方が妥当のように思われます。いずれにしろ、数字が示すようにそれだけ感染者が増えているという事実は変わりません。

市中感染が急拡大した要因はわかりませんが、感染力が強い変異ウイルス流入していること、そして今後拡大していくことについては注視する必要があるでしょう。B.1.1.7系統の英国変異株(VOC 202012/01)は、従来の新型コロナウイルスよりも1.7倍の感染力があることが報告されており、英国における現在の感染拡大の原因になっています [2]。とはいえ、これに相当する変異株の市中感染の拡大については、国立感染研究所は今のところ認める見解は出していません。また、上記の押谷教授も、変異ウイルスについては一切触れていませんでした。

現在までに、スパイクタンパク質の構造を含めた表現型を変えるような変異株は、3系統が見つかっています。1月12日、国立感染症研究所は、ブラジル由来の変異株を含めた3つのSARS-CoV-2変異株についてスパイクタンパク質における変異部位について報告しました [3]。これら3変異株においては、図1に示すように、スパイク部分の上流2,000塩基ほどに集中して非同義置換や欠失が起こっています。

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図1. 国立感染症研究所が公開したスパイクタンパク質に変異が見られる3つのSARS-CoV-2株(N501Yで特徴付けられる英国、N501Y/E484Kで特徴付けられる南アフリカおよびブラジル由来. 文献[3]より転載).

そして、今日(1月18日)、静岡県において、海外渡航歴がない3人に英国変異株に相当するウイルスが見つかったと国立感染研は発表しました(図2)。これはN501Y変異ウイルスの市中感染が起こり始めていることを推測させるものです。

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図2. 静岡県内で英国変異株が検出されたことを伝えるNHKニュース.

変異株が見つかった一人(20代女性)は、1月3日に発症したとされています(図2左)。ということは、昨年12月にすでにこのウイルスに感染していたということになります。私は12月26日のブログ記事「流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握」で、今の対策として変異ウイルスの把握が重要だと述べましたが、まさにこの頃には市中感染が起こっていた可能性を示すものです。

もとより感染研のゲノム解析は、検疫での陽性者は全員を対象として行なわれていますが、国内感染者については全体から抽出した範囲のものであって、4%にしかなりません。変異株の見逃しがあったとしてもおかしくはありません。

上記の20代女性に伝播させたと思われる感染者は、静岡県外で陽性確認されています。しかしウイルス量が少なくて、ゲノム解析までには至らなかったとされています。つまり、PCRのプライマー/プローブを変異株検出用に設計変更することで、変異株検出には対応できているものの、その確定にはゲノム解析が必要というアプローチで進められているため、解析はウイルス量に依存するようです。

ことは迅速性を要することであり、変異ウイルス対策を強化する必要があるでしょう。私は、ゲノム解析を待たなくとも、簡単なマルチプレックスRT-PCR次世代シーケンサーによるアンプリコン解析、あるいはリアルタイムPCRの温度融解曲線解析で、変異株の市中感染状況を迅速に知ることができるのはないかと考えています。前のブログ記事「流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握」で指摘したように、迅速性と効率性を考えればゲノム解析を感染研に解析を集約するのではなく、自治体の研究所、大学病院、民間検査センターが同時に解析を進めるのが効率的でしょう。

そして網羅的にかつ効果的に変異株を把握するためには、下水監視(→下水のウイルス監視システムが有効ではないかと思います。上記のように2000塩基の範囲で網羅的に塩基配列を解読すればよいということになりますので、たとえば定期的に下水試料から標準PCRで標的部位を増幅し、クローン解析をすることも可能です。より短い領域なら、次世代シークエンサーで直接アンプリコン解析を行なうこともできるでしょう。

この下水監視は変異株の型と割合を知るためのものなので、リアルタイムPCRによる定量操作である必要はなく、より簡単なPCR操作で行なうことができると思います。感染者からの抽出操作によるバイアスも避けることができます。このようなアイデアはないのでしょうか。

いずれにせよ、ウイルスの進化の常識から考えて、今の日本の流行は急速にN501Y変異ウイルスによるものに置き換わっていく(正確に言えばN501Yが優占していく)ものと予測されます。そして、何も有効な対策がなければ、この春には変異ウイルスによる感染大流行という事態になるでしょう。その意味で、再度強調しますが変異ウイルスの解析体制の強化が急がれます。対策当事者の人たちは、ちょっとのんびりし過ぎではないでしょうか。

引用文献・記事

[1] Yahooニュース: 東京都の年末からの感染者急増は「疫学的に見ると異常な増え方」 東北大学・押谷教授. ABEMA TIMES. 2021.01.08. https://news.yahoo.co.jp/articles/00663ff629bd4af1d407b81bf513690a8becfb13

[2] ECDC: Rapid increase of a SARS-CoV-2 variant with multiple spike protein mutations observed in the United Kingdom. Dec. 20, 2020. https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/SARS-CoV-2-variant-multiple-spike-protein-mutations-United-Kingdom.pdf

[3] National Institute of Infectious Diseases, JAPAN: Brief report: New variant strain of SARS-CoV-2 identified in travelers from Brazil. 2021.01.12. https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/covid19-33-en-210112.pdf

引用した拙著ブログ記事

2020年12月26日 流行蔓延期の対策ーウイルス変異と市中無症状感染者の把握

2020年5月29日 下水のウイルス監視システム

              

カテゴリー: 感染症とCOVID-19

 

流行蔓延期の対策ー変異ウイルスと市中無症状感染者の把握

はじめにー現在の流行状況

今日(12月26日)、東京都におけるSARS-CoV-2の新規陽性者数は949人となり、過去最多を更新しました。周辺の神奈川県、埼玉県、千葉県でもこの数日で最多を更新し、かつ一頃より急激な増加を示しています(図1)。

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図1. 首都圏4都県の新規陽性者数の推移.

マスコミはほとんど報道しませんが、この今の日本の流行状況はWHOが分類している Western Pacific Region の国・地域の中で最悪です。図2に11月1日からの新規陽性者の数の推移を、図3に同じく死者数の推移を示します。

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図2. WHO Western Pacific Region の国・地域における新規陽性者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

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図3. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規死者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

後述するように、これから爆発的に感染者数が増える可能性があります。おそらく対策のキーポイントは、変異ウイルスの拡大の状況分析と市中無症状感染者の把握です。

1. 英国型変異ウイルスと入国者

この急激な感染者増加で気になるのが、英国発のSARS-CoV-2変異株が流入し、すでに拡大しているのではないかと言う懸念です。この変異ウイルスについては、詳しいウェブ記事があります [1]。また、国立感染症研究所は英国の変異株について以下のように述べています [2]

               

この系統に属する新規変異株(VUI-202012/01)は、武漢株と29塩基異なり、スパイクタンパクの変異(deletion 69-70、deletion 144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H)とその他の部位の変異で定義される。Nextstrain clade 20B、GISAID clade GR、B.1.1.7系統に属している。

               

ウイルスは時間軸に対して一定の確率で変異しています。正確に言えば宿主の体内で複製をする度に一定の確率でコピーミスが起こり、これが変異として受け継がれて行きます。SARS-CoV-2について言えば、1年間で約26箇所に変異が起こるとされています。それゆえ、時間が経つにつれて元の塩基配列をもつウイルスは次第に消失し、地域ごとに受け継がれた系統の中で変異の広がりとして残っていきます。

変異はウイルスの都合には関係なく、中立的にランダムに起こります。N501Y変異ウイルスの場合は、たまたまスパイクタンパク質をコードする遺伝子の部分で変異(つまり表現型を変えるような変異)が起こり、受容体ACE2との結合力に影響を及ぼし、感染力が強くなったと言われています。このため、このウイルスはVOC (variants of concern)と呼ばれています。つまり懸念すべき重要ウイルスという意味です。

先月から今月まで英国から入国し検査を受けた人は3,523人に上ります(図4)。 これは定量抗原検査によるチェックなので(なぜPCRにしないのか理解できませんが)、PCRよりも感度がやや低く、感染者をより見逃しやすいと考えられます。また、すでにVOCが見つかっているオーストラリアなどからの入国は自主待機が免除なので、感染者がたまたま抗原検査で陰性となり、感染力を保持したまま市中に至ることも十分に想定されます。

もとより日本の検疫システムは(特に隔離措置については)ユルユルです。日本にVOCが入り込んでいるとしても全然不思議ではないのです。たとえ、今はそうでなくとも、このN501Y変異ウイルスが日本中に広がるのは時間の問題でしょう。

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図4. 空港で検査を受けた入国者の国別人数(2020.12.24. テレビ朝日モーニングショー」より).

12月23日に放送されたテレビ朝日の「モーニングショー」によれば、国立感染研の脇田隆字所長は、これまで全国の感染者の約1割以下に当たる14,077検体と空港検疫の384検体のウイルスを解析し、すべてでVOCに相当する変異ウイルスは見当たらなかったと言っているようです。

しかし、この分析は有症状者と濃厚接触者のごく一部に限ったものであって、感染の主体的役割を果たしている大部分の無症状感染者の分析は行なわれていませんし、上記の残りの9割以上にたまたま変異株が存在した可能性もあります。また、ウイルス日々変異しているものであり、感染力や免疫反応に影響するような変異が国内で起こっているとしても不思議ではありません。

2. 国内でのウイルスの変異

変異ウイルスに関しては国内におけるウイルスの変異も考えなければなりません。慶応大学の研究チームは、査読前の論文の段階ですが、第2波の流行拡大は弱毒化した重症化しにくいウイルスによるものだという説を発表しました [3]。これは第2波において、メインプロテアーゼ酵素(3CLPro)に変異(Pro108S変異)のあるSARS-CoV-2の系統B.1.1.284が国内で急速に増えたため、その酵素活性の低下から重症化する患者の割合が低くなったとするものです。

一方、国立感染症研究所の鈴木基センター長は、「検査対象の拡大により無症状や軽症例が多く見つかるようになったため致命率が下がった」という見解を示し、ウイルスの弱毒化説については否定しています [4]。そして、第2波の数値が病気の実態をより表している可能性があると述べています。

確かにその一面はあるものの、全面的に検査拡大の影響とする見方はいささかナイーヴ過ぎるような気がしますし、対策を見誤る危険性もあります。具体的に致死率でみると、第1波は5月末時点で5.8%、第2波は8月19日時点で0.9%、70歳以上で見れば第1波で24.5%、第2波で8.7%と大幅に下がっています [4]

この大幅な下がり方は検査拡大以外の要因もあるとするのが自然ではないでしょうか。逆に検査拡大の要因だけだとすると、第1波の検査方針は完全な失敗だったということを認めることになります(事実そうですが)。

検査拡大以外の要因としては、慶応大学の発表に見られるように、夏には弱毒化した変異ウイルスが流行をもたらしたけれども、今また毒性が強いウイルスに替わっているということも考えられます。そして、冬の訪れとともにウイルスの感染力が増し、感染拡大が急激に起こり、毒性の高いウイルスに戻ったことで重症化も死亡も増えているとも考えられるのです。

いずれにせよ、ウイルスの変異は流行拡大に大きな影響を与える可能性があるので、より網羅的なウイルス解析が急務です。リアルタイムでの迅速なウイルスのゲノム解析が鍵です。たかだか3万塩基しかないウイルスゲノムですから、それは可能なはずです。ゲノムワイドな解析でなくても、プライマー・プローブ設計変更すれば、温度融解曲線を利用すればPCRレベルでも変異ウイルスの解析は可能です。

そして迅速性と効率性を考えれば、感染研にウイルス解析を集約するのではなく、地方自治体の研究所、大学病院、民間検査センターなどに幅広く変異ウイルスを解析する拠点を設け、ネットワーク化して対策を強化することが急務です。

3. 従来の衛生学的対策で大丈夫か

もし今回の感染者急増が感染力の変異ウイルスによるものだとしたら、あるいは気温低下による感染力増強の場合でも、従来の衛生学的対策も見直す必要があります。そうでなくても、年が明けて春に向かうにつれて、国内でN501Y変異ウイルスが急速に広がっていく可能性は高いです

だとしたら、菅首相が言ったような単なるマスク着用、手洗い、3密回避(→菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発)ではなく、効果的なマスクへの切り替え(ウレタン、布などの1層から3層不織布マスクへの切り替え、気密性を高める2重マスク)や対人距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保、換気対策をより徹底する必要があるでしょう。"3密回避"はきわめて誤解を生みやすいメッセージなので、この際止めるべきだと思います。

街を歩いていても、今これらの対策には人々は無頓着に見えます。効果が薄い1層ウレタンマスクは若い人を中心に流行ですし、対人距離を意識してとっている人もほとんど見かけません。電車内で距離をとって座っていると、平気で肩を寄せて座ってきます。

マスク着用などの衛生学的導入が必ずしも感染予防に繋がらない例として、NEJM誌の海兵隊新兵無症状者1,848人の隔離実験の報告 [5] があります。これは先日のモーニングショーでも紹介されていたので、すぐにツイートしました。

この実験では、海兵隊の新兵1848人を自宅に2週間隔離し、発熱等の症状がないことを確認した後、閉鎖された大学のキャンパス内に移動・隔離し、マスク着用や検温などの衛生・健康管理を施して、感染者が出るかどうかについて追跡されました(図5)。

その結果、隔離2日以内で16人、7日目で24人、14日目で11人の合計51人がPCR検査で陽性となりました。このうち46人は無症状で、残りの5人はほぼ無症状でした。

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図5. 米国海兵隊新兵の隔離実験とPCR検査結果(2020.12.24 TV朝日「モーニングショー」より).

この間、食事と就寝以外はマスク着用と対人距離の確保をしたということなので、たとえ衛生学的対策を導入したとしても、共同で生活することや複数人を特定の場所に囲うことは感染伝播の危険性があるということが証明されたことになります。

つまり、マスク着用等の衛生学的対策を導入したとしても条件によっては、空気感染(エアロゾル感染)などの感染リスクが高くなり、変異ウイルスに対してはさらにそのリスクが高くなると言えましょう。そして、感染の媒介者が無症状者が主体であることは、市中での感染リスクを今まで以上に警戒する必要があるのではないかと考えられます。

4. 無症状感染者を拾う自主検査

日本ではいまや市中感染が蔓延し、これまでのクラスター対策と濃厚接触者の追跡システム・積極的疫学調査はまったく機能しません。ここまできたら、諸外国で見られるような街角の民間検査所(無料がベストですが)を徹底的に増やし、市民が自主的に検査が受けることで市中感染者を拾うような検査・隔離のシステム構築が必須と考えられます。

民間の格安検査場はいま広がりつつありますが、問題は陽性者が出た場合に、行政がきちんとこれをフォローアップせず、隔離(自宅隔離)まで結びつかないことです、この面で厚生労働省は民間と協力して行政検査をバックアップするシステム構築に舵を切ってほしいのですが、必ずしも積極的ではありません。いまだに民間検査を蔑視し、突き放したような態度が見られます。

おわりに

菅首相は、いまだに緊急事態宣言については発出する段階ではないと言っています。しかし、今の指数関数的増加をシミュレーションすれば、何も対策をとらない場合、全国の1日の陽性者数はすぐに5千人を超え、来月には1万人に達するかもしれないことは誰でも計算できます。そして医療崩壊が顕著になります。これはとんでもない危機的状況であり、自宅待機中に死亡する事例も増えてくるでしょう。簡単に予測、想像できることなのですが、なぜ菅首相や政府分科会はそこに考えが及ばないのでしょうか。

勝負の3週間からの緊急事態宣言発出の遅れによって、これから先、死ななくてはよい人たちが多数犠牲になることが懸念されます。現にいま死亡者数は増加の一途をたどっています。

もとより菅政権の危機管理能力の欠如と無策ぶりは目を覆うばかりですが(→菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発)、それにしても能がなさすぎます。もはや現政権に感染症対策を任せる方が愚かなのでしょうか。国民も政権担当能力のなさにそろそろ気づくべきです。

そして、変異ウイルスがすでに国内に侵入している、あるいは表現型に変化を与えるような変異を国内で繰り返していると想定して、対策を考えるべきです。。海外渡航歴のない人から海外からの変異ウイルスが検出されることも、時間の問題だと思われます。もはや検査の量はもとより、ウイルスの質に関する解析(ゲノム解析)が必須になっています。繰り返しますが、もたもたしていると、来春には変異ウイルスが猛威を振るうことになるでしょう。

引用文献・記事

[1] 三ツ村崇志: イギリスで猛威の新型コロナ変異種。国立感染症研究所の見解は? BUSINESS INSIDER 2020.12.23. https://www.businessinsider.jp/post-226752

[2] 国立感染症研究所: 英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について (第1報)2020.12.22. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10074-covid19-27.html

[3] Abe, K.: Pro108Ser mutant of SARS-CoV-2 3CLpro reduces the enzymatic activity and ameliorates COVID-19 severity in Japan. Posted Nov. 24, 2020. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.24.20235952v2

[4] 日テレニュース: 第2波コロナ致死率「0.9%」大きく減る.2020.09.24. https://www.news24.jp/articles/2020/09/04/07714117.html

[5] Letizia, A. G. et al.: SARS-CoV-2 transmission among marine recruits during quarantine. N. Eng. J. Med. 383, 2407-2416 (2020).  https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2029717

引用した拙著ブログ記事

2020年12月23日 菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発

はじめに

日本では本格的な冬を迎え、新型コロナウイルス感染者が急増しています。お隣の韓国でも新規陽性者が増えていますが、日本の感染者増加は、東アジア・西太平洋先進諸国の中でも突出しており、最悪です(図1)。

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図1. 日本と東アジア・西太平洋先進諸国における新規陽性者数の推移(Our World in Dataより).

専門家の多くは5月の段階でこの冬における大流行を予測し、私もこのブログ(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)で再三再四警鐘をならしてきましたが、残念ながら予測が的中してしまいました。脱力感この上ないです。

今朝のテレビ朝日「モーニングショー」では、新型コロナウイルス感染症流行に関して菅政権の危機管理能力をテーマとして伝えていました。ここではその内容を取りあげながら、政権の姿勢がこの先のさらなる感染爆発をもたらす危険性について論じたいと思います。

1. リーダーシップに求められること

国や政策担当者のトップにリーダーシップとして求められることは、合理性に裏付けされた決断力、説得力(発信力)、そして責任力です。この面で、海外のいくつかの先進諸国・地域ででは為政者がリーダーシップを果たし、感染拡大抑制に成功しています。例としてあげれば台湾やニュージーランドです。アーダーン首相の国民へメッセージには、常に説得力があります。

感染増大に至った場合では、その抑制に向けてさらに国のトップの発信力がものを言います。印象的だったのはドイツのメルケル首相です。物理学専攻の博士でもあり、普段は合理的判断で冷静なメルケル首相が、身振り手振りで感染拡大抑制へ向けて国民に熱く訴えていた姿がテレビでも報道されました(図2)。

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図2. 危機を訴えるメルケル首相の姿とメッセージ(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

一方で日本の菅首相はどうでしょうか。パンデミックは世界共通の危機なので、各国のリーダーの対応と比べることが容易ですが、彼の姿勢はきわめてお粗末です。

9月の就任以来、首相の記者会見は9月16日と12月4日の2回だけです(図3左)。海外のトップが常に国民に直接発信しているのと比べると、いかにも少ない印象です。しかもこれだけ感染が増大しているのに(図1)、相変わらず、マスク着用、手洗い、三密回避のお願いだけという物足りなさです。この会見の一週間前には、政府分科会の尾見茂会長が「個人の努力だけで感染拡大の状況を沈静化させることはむずかしい」と述べています(図3右)。

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図2. 菅首相の記者会見のメッセージと分科会尾見会長の発言(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

また、感染症対策に提言する責任者である尾見会長自身の発言にも、一貫性がみられません。感染拡大の要素として人の動きを挙げておきながら、GoToトラベルがその主要な要因であるとのエビデンスはないと言っています(図3左)。米国立感染症研究所のファウチ所長が一貫して自らの立場に沿った意見を述べているのとは対照的です(図3右)。

この尾見会長の「エビデンスはない」の受け売りで、菅首相はネット番組でも「いつの間にかGoToが悪いということになってきたが、移動では感染はしない」と述べていました。ここにも危機感や緊張感が感じられません。

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図3. 分科会尾見会長と米国立感染症研究所のファウチ所長の発言の比較(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

尾見会長の発言には、分科会の位置づけが曖昧であり、権限も不明確なことが影響していることは明らかです。つまり、政府の「経済優先」という意向を横目で見ながら、それに配慮しながら提言するという状態が続いているのでしょう。

そもそも、感染症対策の対策担当が西村経済再生担当大臣というのが、最初から間違っているように思います。感染対策と経済活動の両立と言いながら、実のところ、希望的予測の下に経済活動を優先して続けるという楽観的・非合理的姿勢ですから、両立などできるはずがありません。

この期に及んで、尾見会長の発言とともに、西村大臣の「多くの地域はステージ2のレベル」、「GoToトラベルの再開は年明けのしかるべきタイミングで判断」という発言は、何と的外れな発言でしょう(図4)。これからさらに感染大爆発に至るということに想像が行かないのでしょうか。

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図3. 分科会尾見会長と西村大臣の「GoToトラベル再開」に関するの発言(2020.12.23 TV朝日「モーニングショー」より).

GoTo再開などに言及している場合ではないのです。緊急事態宣言とともに強力な対策をすでに打ち出しているべき段階なのです。もっと言えば、前のブログ記事「為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く」で指摘したように、1ヶ月前に緊急宣言とともに強い対策をとっているべきだったのです。

2. 政府に必要な危機管理体制

当該モーニングショーには、元内閣官房参与の田坂広志氏が出演していて、危機管理に関するさまざまな意見と提言を述べていました。彼の意見を拾いながら、ここであらためて述べてみたいと思います。

まず第一に挙げられるのは、リスク・コミニュケーションの重要性です。仮に政府がどれほど有効な対策を打ち出していたとしても、そのことが迅速に、かつ分かりやすく説得力を持って伝えられない限り、国民は安心を感じられないということが挙げられます。日本政府のリスク・コミュニケーションのなさは、以前から世界保健機構WHOにも指摘されているとおり、致命的欠陥であると言えます(→新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本)。

田坂氏は、コミニュケーションの8割は非言語的なメッセージが機能すると指摘していました。それは直接的な言葉の内容ではなく、表情、声色、行動から伝わる印象の方がより訴える力を持つということです。この点においてはメルケル首相などに比べて菅首相は印象が薄いと言えましょう。そして、それが国民に対して、自由に移動・会食をしてもいいのでいいのではないか、という非言語のメッセージとして伝わっている可能性を指摘していました。

第二に重要なことは、事態の想定と強力な初期対策です。原発事故やコロナ危機など致命的状況をうみかねない有事においては、常に最悪の事態を想定して初期から強力な対策を準備・実行する必要があります。そして、たとえ対策が空振りに終わったとしても周囲や国民はそれを後から批判しないことが重要です。

しかし政府は、経済優先に前のめりになり、常にこの程度の事態で推移するだろうという希望的観測や願望的予測によって、中途半端な対策を小出しにすることを繰り返してきました。冬に本格的に流行することは、第1波の頃から多くの専門家が予測していたにもかかわらず、政府の想像力の欠如が、強力な対策を推し進めることを拒んできたわけです。

第三として田坂氏は、「経済」と「安全」の分離・独立の原則を指摘していました。資本主義社会では、極端に言えば儲からなければ飢えた人々にさえ食料は回らず、たとえ人を殺す道具であっても儲かれば武器がどんどん売られます。つまり、生物学的価値を貨幣価値に置き替えてしまった現代社会では、常に安全性よりも経済が優先されます。

この両方の考え方がいっしょになった現在の政府分科会では、当然ながら、いくら安全性に立脚したとしても、両立を図ると言ったとしても、経済が優先するということになります。田坂氏は、安全を考える分科会と経済を考える分科会を分けて進める必要があったと強調していました。

おわりに

田坂氏も述べていましたが、「エビデンスは存在しない」というのは詭弁であって、それに基づいて都合良く解釈するという正常性バイアスが、政権や人々の行動を緩ませてしまいます。「危機を煽る」、「コロナは恐れることはない」という言い方も同様であり、有事に対しては万全に備えるという姿勢が必要であるのに、まさしくコロナ禍という有事に直面しても不作為の状態に陥り、被害を拡大させているのが菅政権と言えるでしょう。

列強国に侵略されると言いながらも、常に楽観的に非合理的に物事を進め、日本を壊滅的状態にしてしまった旧日本軍部と同じ思考回路とも言えます。

このままでは、感染大爆発に至り、現在1日3千人の新規陽性者が5千人、さらに1万人を超えるとしてもまったく不思議ではありません。死亡者もこの冬累計であっさり中国を追い抜いてしまうでしょう。もう時すでに遅しなのですが、今すぐに緊急事態宣言を発出し、強力な対策を打ち出さなければ、年明けには日本は延焼がますます拡大し、やがて焼け野原になってしまいます。その時になって気づいてももう遅いです。

引用した拙著ブログ記事

2020年11月19日 為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く

2020年8月30日 新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本

             

カテゴリー:感染症とCOVID-19

コロナ禍で気になる若者の移動とマスク

一昨日(12月3日)、新型コロナウイルス感染症対策対策アドバザリーボードの会合が開かれました。その時の資料を見ていて気になったというか、やはりというか、若者の移動が主体的に二次感染を引き起こしているという事実についてです。今朝の日本テレビ「ウェークアップ」でもこの事実を紹介していました。

図1はアドバイザリーボードの資料から転載したもので、国内移動症例における年代別の二次感染の割合を示しています。これは、移動歴を一定程度以上公表している自治体のデータに基づいた解析結果で、対象は1月13~8月31日の期間の全症例67,690例中、25,276例となっています。ここで目立つことは、移動によって感染した人たちの中では10–50代の割合が高いこと(85%)、そして、二次感染の大半(約90%)も10–50代の若年層によってもたらされているということです。とくに20代の若者の占める割合が高いことが顕著です。

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図1. 国内移動症例における年代別の二次感染の割合(厚労省HPからの転載図).

つまり感染して移動している症例数も移動によって感染する例も、圧倒的に若者が多いということを示しています。これは今実施中の、政府の観光支援事業「GoToトラベル」でも言えることではないでしょうか。そして、検査には現れない、若者を中心とする相当数の無症候性感染者の移動があり、それが感染拡大につながっていることが想像されます。

菅首相は、観光庁の報告に基づいてGoToを利用した人のうち感染した人は200名程度であるとして、GoToが感染拡大に寄与したとするエビデンスはないと述べました。しかし、実際に重要なのは、二次感染させる人の移動であり、図1のデータを考慮すればGoToトラベルが感染拡大に影響したと推察する方がより妥当でしょう。

お昼の日本テレビの「中居正広のニュースな会」を観ていたら、またまた気になることが紹介されていました。それはマスクです。いま売れ筋No.1として紹介されていたのが「さらマスク」です(図2)。ファッション性や素材に関係するフィット感もあって、とくに若者に人気があります。このマスクはポリエチンレン95%とポリウレタン5%の混合からなる、いわゆるウレタンマスクです [1]

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図2. テレビで紹介されていた「さらマスク」.

ウレタンマスクは着けてみたらわかりますが、ピッタリと顔に密着する割には(いわゆる3Dタイプ)、楽に呼吸ができます。しかし呼吸が楽ということは、マスクがスカスカであるということになります。ウレタンマスクは1層しかありません。

先のブログ↓でも紹介しましたが、ウレタンマスクは飛沫防止と感染予防の両面で、標準ある不織布マスクにかなり劣ります。飛沫防止という面では、不織布マスクが推奨されるべきでしょう。その意味で、テレビがウレタンマスクを宣伝するような放送をしていいものか?とちょっと疑問に思いました。

rplroseus.hatenablog.com

とくに若年層の間は、ファッション性を気にしてウレタンマスクを着けている人が多いですが、感染させないという面からは、極論すると気休め程度にしかなっていないとも言えます。ウレタンマスクを着けて県をまたぐ移動をするということは、それだけ感染拡大に寄与しているのでは?と懸念します。

東京都は、12月2日、GoToトラベルの都内発着分をめぐり、65歳以上の高齢者と基礎疾患がある人への利用自粛要請を正式決定しました。しかし、図1を見れば明らかなように、要請すべきは10-50代の若年層の移動を止めること、つまり、国がGoToそのものを止めることでしょう。高齢者はもともと自粛しています。

引用記事

[1] LIMO Life&Money: イオングループから12色の新作「3枚1500円さらマスク」登場。セラミド加工で保湿効果も. YAHOO JAPANニュース.2020.08.18.
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ec5861141927d712bb45ec0f8c30e5ad343dae4?page=1

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

経済推進と重症者数重視の影に隠れる死亡者の実態

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、第1波に比べて第2波以降は患者が早く見つかるようになり、医療的な対処法も改善されて重症化をより防ぐことができるようになったと言われています。そして、軽症のうちに対応できることによって、致死率も低くなったと言われています [1]

確かにその面はありますが、私は少し違和感を持ちながら、これらの報道を見てきました。なぜなら、後述する厚生労働省の死者数の統計データを見ると、2月5日から1,000人の死者を出すまでの期間よりも、1,000人から2,000人の死者を出す期間の方が短くなっているからであり、相変わらず新型コロナで亡くなる人が続いていて、8月初旬以降死亡者ゼロの日はなかったからです。しかもこのところ急増しています。

この感染症の究極の被害は亡くなることですが、一方で、連日の報道で強調されるのは新規陽性者数とともに重症者数であり、死者数は割とさらっと流されることが多いように思います。私はこれらのモヤモヤしたものがあったので、11月25日には以下のようにツイートしました。

連日強調されている重症者の数の重要性は、それがICUの病床を占めるため、他の重篤な病気の治療との関連で医療を圧迫してしまうことにあります。そしてオーバーフローしてしまえば、医療崩壊に至ります。敢えて誤解を承知で言ってしまえば、コロナ患者が時間をかけずに次々と亡くなっていけば、病床を圧迫せず、医療崩壊も起きません。だからというわけでもないでしょうが、政府もメディアも、重症者数を圧倒的に取りあげる機会が多いようです。

政府が常々強調するのは経済の推進であり、感染症対策の指標としての重症者数と病床占有率の重要性です。しかし、この影に隠れて、究極の被害である亡くなる人々の実態についてはほとんどわかっていないように思います。少々勘ぐれば、政府はある程度の犠牲者が出ても、経済活動が推進されればそれでよいと考えているのでは?とさえ思ってしまいます。ここで新型コロナ死亡の意味と実態を再考してみたいと思います。

1. 経済を救うなら、まず人を救え

今朝(12月2日)のTV朝日モーニングショーで、コメンテータの玉川徹氏がINET(Institute of New Economy Thinking)の報告らしきものを引用しながら、感染症対策と経済活動は両立せず、感染抑制と経済の二兎を追うものは一兎も得ないとコメントしていました。そして、根絶を目指すか、死者を増やして経済をとるかの選択という主旨の発言をしていました。

INETは、11月20日、"To Save the Economy, Save People First"という題目の論文を発表しました [2]。この論文では、世界のCOVID-19対策において、ウイルスを封じ込めて経済活動を再開している国々と、ある程度の犠牲には目をつむりながら経済活動を優先してきた国々があるとし、結局、経済再開に成功と言えるのは前者の国々であることを指摘しています。そして、政府が優先して費用をかけるべきことは、感染拡大を抑えて命を救うことだと、結論づけています。

論文中で、素早くウイルスを封じ込め、経済活動再開に成功している国々として挙げられているのが、中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドアイスランドシンガポール、ヴェトナム、そしてタイです。

日本経済新聞は、経済コメンテータであるマーティン・ウルフ氏の記事を載せていますが、そこでもINETの論文が以下のような文章で引用されています [3]

                

各国の新型コロナ対策は2つに分かれたことを示している。ウイルスを抑制するか、あるいは経済のために一定の死者数を許すかだ。大まかに、前者の方が経済、死者のいずれにおいても被害が少なかった。一方、人命を犠牲にした国は大抵、多くの死者と大きな経済的被害を出している。

                

上記のINET論文も日経新聞の論説も、「第一に感染を抑制し、命を救うことが、経済を救うことである」というのが結論です。もはや経済の専門家でさえ、まずは感染拡大を防ぐことにお金をかけるべきであり、それが経済回復への道だと言っているわけです。

然るに日本では、感染症対策と経済活動の両立を名目に、実質は前者の方策など何もなく、GoToトラベル事業に代表される経済対策のみをやってきたと言っても過言ではありません。その結果が、感染拡大と減らない死者数です。最近では重症者とともに死者数も急増しています。昨日は重症者が493人、死者数が41人/日と過去最高になりました(後述図2)。

2. 重症数と死者数の推移

ここで重症者と死亡者の推移を見てみましょう。まずは、厚生労働省のボームページにある重症者数と死者数の最新データを見てみたいと思います。重症者数は493人、累積死亡者数は2,138人となっていますが(図1)、本ブログ執筆時点では、後者は2,193人です。

不思議なのは、厚労省が示すほとんどのパラメータについては、日ごとの数字の推移のデータがあるのですが、死者数については累計しかありません。恣意的に、死亡については目立たなくしているのでしょうか。

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図1. 日本における重症者数と死者数の推移(2020.12.01 0:00現在、厚生労働省HPより)

一方、今朝のモーニングショーでは、毎日の重症者と死者数の推移を並べて紹介していて、現況がよく理解できるようになっていました(図2)。昨日の時点で重症者数、死者数ともに過去最高になっており、現在の流行が、いわゆる第1波を超える被害を出していることがよくわかります。

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図2. 日本における重症者数と死者数の推移(2020.12.02. TV朝日「モーニングショー」より).

INETの論文 [1] では、上述したように、感染症対策が成功し、ウイルスを封じ込めている国として中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドアイスランドシンガポール、ヴェトナム、タイの国名を挙げています。そこで、これらの国々と日本の感染状況を比較してみました(表1)。そうすると、確かに日本の状況は悪く、陽性者数で1位、死者数で2位、百万人当たりの死者数で3位になっています。

ヨーロッパとファクターXの恩恵があると思われる東アジアの国々とは、死者数/百万人で10–100倍の差があるというのが一般認識ですが、日本のそれはヨーロッパと比較しても、数倍の開きに縮まっています(cf. アイスランド)。

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より最近の状況を理解するために、日ごとの新規陽性者数と新規死者数の推移を表したのが、それぞれ図3および図4です。図では上記9カ国に加えて、日本と地理的に近い韓国を加えてあります。図から分かるように、これらの国の中で日本が断トツに悪いことがよくわかります。

そして図1とも合わせてみれば、当たり前のことですが、日本では感染者が増えると重症者数と死者数も増えており、さらに重要なことは、これらが、GoToトラベル事業をも含む経済活動推進の中で起こっていることです。

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図3. 感染拡大抑制に成功した国々と日本におけるCOVID-19新規陽性者数の推移(7月15日−12月1日、出典: Our World in Data).

f:id:rplroseus:20201202215204j:plain図4. 感染拡大抑制に成功した国々と日本におけるCOVID-19死者数の推移(7月15日−12月1日、出典: Our World in Data).

多くの国々ではいわゆる第2波を多かれ少なかれ経験していますが、重要なのはその知見と経験を対策に生かして、感染拡大を抑え込んでいることであり、経済活動再開に至っていることです。

3. COVID-19重症者患者の治療と死亡率

上で重症者も増えれば死亡者も増えると言いましたが、一般人は、死亡者のほとんどは重症者の中から出てくると考えるでしょう。ところが、ツイッター上でも指摘されていますが、実際は事情がちょっと異なるようです。

日本COVID-19対策ECMOnet」では、ECMO治療と人工呼吸器治療の重症患者の成績の累計データを公表しています。それを見ると、ECMO治療で死亡に至ったのが86例(図5)、人工呼吸器治療で亡くなったのが274例(図6)あります。すなわち、重症患者が死亡した事例は360人しかなく、全死者数2,193人の17%にしかならないということになります。

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図5. ECMO治療の成績の累計(日本COVID-19対策ECMOnetより).

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図6. 人工呼吸治療の成績の累計(日本COVID-19対策ECMOnetより).

では、多くの死亡例は重症患者以外、すなわち中等症や軽症患者から出ているのか?という疑問が出てきます。これに関連することとして、11月27日のモーニングショーでは、大阪府の死亡例と患者の症状との関係を取りあげていました(図7)。それによると、重症からの死亡が6人、軽・中等症からの死亡が45人となっており、前者は全死亡数の12%にしかならないことを伝えていました。

どうやら、単純に記録上の重症者から死亡者が出ていると考えるのは早計のようです。

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図7. 大阪府におけるCOVID-19患者の症状の重篤度と死亡との関係(10月10日−11月23日、2020.11.17 TV朝日「モーニングショー」より).

番組では、大阪府保険医療室感染対策課の説明として、軽症・中等症からの死亡例に2つのパターンがあることを紹介していました。一つは容態が急変して死亡する事例、もう一つは気管挿管を望まない事例です。大阪府の医師のコメントもありましたが、患者本人の意思だけではなく、寿命に近い高齢という場合は、家族が気管挿管を望まなかったりする例もあるようです。

気管挿管が必要なほどに症状が悪化しているのに、それをしないということになると、一体公表されている重症者の数というのは何なのかということになりますね。そして今、医療現場で、ギリギリの命の選択が行なわれている現実もあるということでしょう。

とはいえ、敢えて人工呼吸処置などの高度治療を望まない例があったとしても、重症者以外からの死亡が約80%というのは異常に高いように思います。そこで年齢別の死亡者の割合を見てみると、平均寿命に近い80代以上が6割弱になります(図8)。少々乱暴な仮定ですが、これらすべてが記録上中等症・軽症患者扱いであり、気管挿管を望まないで死亡したとしても、最大60%にしかならないのです。実際は重症者が多いので、高度治療を望まない例など、割合は低いでしょう。

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図8. COVID-19死亡者の年齢別の割合.

死亡の4割は70代から下の年齢ということになり、この部分については、とても寿命だから気管挿管をしないというものでもないように思えます。つまり、重症者以外からの死亡は、かなりの部分が軽症・中等症からの急変によって起こったものとも推察されますが、詳細については報告されていないようです。

おわりに

第1波を経験して、検査も治療も改善されて死者数が少なくなったと、一時テレビなどで報道されてきたましたが、最近の新規陽性者数と死者数の急増で、それもやや影を潜めるようになりました。とはいえ、日頃の重症者数と病床占有率の重要性の報道に押されて、死亡という被害の大きさと実態については相変わらず不透明なままです。そして公表される重症者の数というのも何だか怪しい限りです。

政府の経済優先の方針で感染拡大と死者数を増やしている状況は、INETの論文の主旨「経済を救うなら命を救え」から考えれば、まったく不合理な反対の道を進んでいる結果ということになるでしょう。コロナ死者と自殺者を対比させて、自殺者を無くすためには経済活動を優先すべきだという見方もありますが、まったくの筋違いです。コロナ死亡はもちろんのこと、自殺者も感染症対策の失敗による感染拡大に帰因するものです。

菅政権の方針は、感染症に対してある程度の犠牲はかまわないから、あるいは大したことにはなりそうにないと高をくくって、それともそもそも関心がないから、医療崩壊にならない程度までは経済活動を推進するというものでしょうか。自分の頭の中の政策だけを強引にやり通そうとする姿勢は、まるで共産主義国家(誤解のないように言えば共産主義に名を借りた非共産的強権国家)の指導者のようです。

そもそもマスコミは、いま日本が東アジア・西太平洋諸国の中で最悪の状況にあることを報道しません。GoToトラベル事業に代表される経済活動の推進とその対策の修正、重症者数の重要性のかけ声に押されて、「東アジアで突出する日本の被害の大きさと実態」が、余計わかりにくくなっているような気がします。今日(12月1日)時点での死者数は2,193人ですが、この冬が明ける頃には残念ながら、おそらくこの数倍の死者数を記録しているのではないでしょうか。

引用文献・記事

[1] 忽那賢志: 新型コロナ 海外でも第2波は第1波より致死率が低いのはなぜか? YAHOO JAPAN ニュース. 2020.09.12. https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200912-00197712/

[2] Alvelda, P. et al.: To Save the Economy, Save People First. INET Nov.18, 2020. https://www.ineteconomics.org/perspectives/blog/to-save-the-economy-save-people-first

[3] 日本経済新聞: 人命重視が経済も救う チーフ・エコノミクス・コメンテーター マーティン・ウルフ. 2020.12.02. https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66876460R01C20A2TCR000

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19

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高性能マスクについて

カテゴリー:感染症とCOVID-19

はじめに

前回のブログ記事(→あらためてマスクの効果について)では、マスクの種類による飛沫防止、エアロゾル防止効果(排出、侵入)について紹介しました。新型コロナウイルス感染症対策としてのマスク着用については、一般的には3層構造の不織布マスクが性能的にもコスト的にも推奨されるべきでしょう。特にこれから感染力の強い変異ウイルスの登場の可能性も考えると、1層の布マスクやウレタンマスクは、感染症対策のマスクとしては避けた方がよいと思います。

とはいえ、不織布マスクの欠点は隙間ができやすいことです。隙間があってはマスクの効果は半減します。普通は鼻の位置にワイヤーが入っていて、鼻の形に折り曲げて使うようになっていますが、つける前にW字型に折り込んでおかないとピッタリと密着できません。鼻の部分はピッタリとつけられたとしても、横漏れはどうしてもできてしまいます。そのため、不織布マスクの上からウレタンマスクを二重につけて、なるべく隙間をなくすようなつけ方もあります。

より完全にマスクを考えるとしたら医療用のN95マスクがあります。これは微粒子侵入防止機能に優れ、密着度が高いため、つけているととにかく苦しいです。長時間の着用には向きませんし、高価でもあり、あくまでも医療用のマスクです。

一般向けとしては4層、5層構造の3D型高性能マスクが市販されていますので、3層不織布マスクの欠点を補うものとしてこれらが活用できます。ここでは、私が使っている一般向けの高性能(高機能)といわれるマスク(図1)について紹介したいと思います。

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図1. 購入した市販の高性能マスクの例.

1. PM2.5対策4層マスク

まずは、韓国製のPM2.5対策用の4層マスクです(図2)(販売:株式会社ピエラス)。これはもう10年以上から薬屋で購入しているマスクですが、花粉、ウイルス飛沫を99%捕集とされるもので、韓国食品医薬品安全庁KFDA(Korea Food and Drug Administration)の認定済みです。KFDAは、2013年から、MFDS(Ministry of Food and Drug Safety、食品医薬品安全処)へと名称変更されています。

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図2. PM2.5対策用マスク(ピエラスのウェブページより転載).

米国N95規格に匹敵し(0.3 μmの粒子を95%以上カット)、気密性を高めた立体構造を有し、漏れ率を大幅に軽減している割には付け心地はよいです。息苦しさもそれほどありません。4層構造においては、第1層、第4層に不織布(ポリプロピレン)を使用しています。

マスクのトップにはノーズクッションがついていて眼鏡の曇りを軽減させています。また耳紐比ヒモには調整ゴムがついていて、締め具合を調節できるようになっています。

非常に装着性のよい高性能マスクですが、価格はやはり高めで1枚300円程度です。また洗って使うことはできません。日常的に使うには使うには、価格的にちょっときついかもしれません。

2. ダイアモンド形状4層マスク

メディアでも取りあげられて有名になったのが不織布フィルターを付けたダイアモンド形状4層マスクです。KF94とよばれるものはこのタイプになります。ちなみにKFは "Korea Filter"の略語であり、その後ろの数値は微粒子カットの性能を指します(数値が高いほど粒子カット効果大)。たとえば、KF94とKF99は、国際基準のウイルス捕集効率(平均0.4 μmの大きさの粒子のろ過)をそれぞれ94%、99%クリアできるという意味です。

KF94マスクは韓国製であり、日本でも類似品がありますが、現時点ではハングルで "식약처 허가"(MFDS)の表記のあるものが目印になります。

同じ4層マスクの一つとして、ヴィクトリアンマスク(Victorian Mask)という商品名で販売されている医療用レベルのマスクがあります(サムライワークス株式会社、中国製)。高性能を維持しながら、今までにない超立体型”ダイヤモンド形状”でマスク着用時のメガネの曇りや息苦しさなどを解消するとされています。

ウェブページを見ると、微粒子捕集効率PFE(PM2.5対応レベル)99.6%と明示されていると同時に、0.1 μmの捕集率99%以上とありますが、ウイルス捕集効率VFEの文字はありません(図2左)。このあたりはちょっと気になるところです。

実際につけてみると3層不織布マスクよりは密着感は高いです(図2右)。立体構造なので息苦しさはそれほどありません(3層不織布並み)。眼鏡の曇りも軽減されていますが、曇りが少ないということはそれだけ漏れが少ない証拠だと思います。

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図2. ダイヤモンド形状4層マスクの例:ヴィクトリアンマスク(サムライワークス)のパッケージとマスクを着用したところ(筆者).

ダイヤモンド形状マスクは、その構造から付け方に工夫がいります。あらかじめノーズフィッターをW字にしておくことは通常のワイヤー入り不織布マスクと同じですが、マスク下部を顎に引っ掛けるようになっているので、顎から付けた方が付けやすいように思います。

なお、サムライワークスはJAPAN MASKという商品名で、3層不織布マスクも販売しています。これもつけてみましたが、通常の不織布マスクよりは密着感があり、漏れ率は低いように感じました。

上記のヴィクトリアンマスクはKF94マスクに相当する性能と思われますが、息苦しさの程度(実際は息苦しさはない)でも同じような感じです。KFマスクではろ過の数字が厳しいマスクであればあるほど、当然息が苦しくなり、値段も高くなりますで、個人の感覚で選択するのがいいと思います。

3. KN95マスク

KN95は超極細繊維フィルタを2層を使った医療用レベルの5層マスク(レックケミカル株式会社販売)です(図3)。中国国家標準規格GB2626-2006(0.075±0.020µmのNaCI粒子を95%以上捕集)に準拠しています。 4層目のホットエアコットンが挿入されており、マスク内の蒸れを軽減してくれます。 上部にはノーズプレートを採用されており、密着度を高める一方、 立体構造であるので口元の圧迫感がありません。

実際につけてみると、圧迫感はそれほどありませんが、KF94レベルの4層マスクと比べると、やや息苦しさは感じます。それだけ捕集率が高く、漏れを抑えているということでしょう。

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図3. KN95マスク:パッケージ上の説明(レックケミカル).

KN95については、COVID-19の感染拡大で米国疾病対策センター(CDC)が、N95の供給が不足した場合、KN95が適切な代用品になるという見解を示したマスクです。米国食品医薬品局(FDA)も、一定の基準を満たせば使用を承認する方針を明らかにしました。

ところが、米国の労働安全衛生研究所(NIOSH)が、N95相当マスクの製品評価を行なった結果、中国で製造されたKN95マスクの多くが微粒子ろ過効率の95%以上を実証できないことが判明し、推奨リストから削除となりました。また、オリジナルの規格認可品の模造品があることも指摘されました。日本でも、一般社団法人の職業感染制御研究会が、KN95マスクなどの中国製品に不良品が多数確認されていると注意喚起しています [1]

こういう背景もあり、値段が高いということもあって、一般人には使いづらいマスクと言えます。

おわりに

既出論文では、微生物やウイルスの飛沫感染という場合、実際は5 μm以下のエアロゾルによる感染が主要感染様式であることが示されています [2]。考えてみればこれは当然で、大きな飛沫は物理的にすぐに落下してしまうので、人から人への感染は、接触時間がはるかに長いエアロゾルの影響が大きいと考えられるでしょう。

そこから考えられることは、いかにしてエアロゾル感染を防ぐかという観点からのマスク着用です。この面で、一般的には3層不織布マスクの着用が推奨されるわけですが、どうしても漏れが出てしまうという欠点があります。できる限り意識して密着させて付ける必要がありますが、これをある程度改善するのが、二重マスクであり、4層マスクの着用になります。ただし、4層マスクは値段がはるので、安価な3層にするか4層にするかは個人の判断でということになるでしょう。

日本政府も医療専門家も、COVID-19感染対策としてマスク着用を促してはいますが、「マスクの種類ごとの効果」と「どれを推奨するか」についてはほとんど触れず、「正しく着用することが大事」と言っているだけです。これではほとんど意味がありません。マスクと一からげに述べることによって、国民にどれだけ誤ったメッセージになっているかわかりません。

引用文献・記事

[1] 三和護: あなたのN95マスクは大丈夫ですか? 日経メディカル 2020.07.03. https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202007/566232.html

[2] Fennelly,K. P.: Particle sizes of infectious aerosols: implications for infection control. Lacet Res. Med. 8, 914–924 (2020). https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30323-4

引用した拙著ブログ記事

2020年11月27日 あらためてマスクの効果について

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

あらためてマスクの効果について

2020.11.28: 08:07更新

はじめに

3月18日の本ブログ記事「新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果」で、感染リスクを下げる効果としてのマスク着用の重要性を述べました。当時は第1波が立ち上がり始めた頃で、世界保健機構WHOがマスクの効果は薄いという見解を示したり、日本の医療専門家の中にもテレビで「新型コロナはインフルエンザ並みでおそれることはない」、「マスクの効果はない」という人がいて、閉口したものです。

また、当時の厚生労働省も、政府専門家会議も、テレビも、対面時、会話時におけるマスクの着用の重要性についてはほとんど言及していませんでした。これらも「果たしてこれでいいのか?」と思ったものです。感染源となる飛沫やエアロゾルを防止するという意味で、マスクの効果はいまでは常識になっていますが、当時でもそれまでの科学知見に基づけば、十分にマスクの効果を強調できたはずですが、そうではなかったということになります。

そのときのブログでも述べたのですが、当時は不織布マスク不足ということもあって、ウレタンマスクを着けている人が多かったことを記憶しています。しかし、ウレタンマスクは、感染予防効果として効果はより低いのではないかと疑問に思いました。いまは不織布マスク不足も解消されています。

先日久しぶりに東京都区内で電車に乗ったときにも、ウレタンマスクをしている人が、想像以上に多くて驚いたものです。それを以下のようにツイートしました。

今日のテレビの情報番組は、マスクの活用や効能について触れていましたが、ここでその一部を紹介しながら、あらためてマスクの効果について考えてみたいと思います。

1. ウレタンマスクについて

上述のように、とくに若い人を中心にウレタンマスクをしている人が多いですが、メリットは3Dマスクとも言われているように、伸び縮みすることでピタッとしたフィット感があり、ファッション性もあるということだと思います。顔との隙間が少なくなるので、花粉症対策としても人気のあるマスクです。

スーパーや薬局を訪れてチェックしてみましたが、ウレタンマスクや3Dマスクと言われて言うものは、実際はポリエステルとポリウレタンの混合製品が多いようです(図1)。

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図1. ウレタン3Dマスク製品(ポリエステル+ポリウレタン)の表示.

私はウレタンマスクを着けて外出したことはないですが、購入して着けてみるとやはりピッタリとした感じと、呼吸が楽というのを感じます。しかし、それだけスカスカしているということで、感染対策としてはやはり大丈夫か?という印象をもってしまいます。

今朝のテレビの情報番組(TBS「あさチャン」)で、3Dスキャン自分専用マスクについて紹介していましたが、ウレタン製の基本的に1層構造のマスクであり、果たしてこの感染拡大時期に宣伝してよいのか、という気もしました。

2. マスクの素材と構造

もう一つ、今朝のテレビの情報番組「モーニングショー」で、マスクの素材と構造による効能の違いについて紹介していました。ここでは、具体的に一般的な不織布マスク布マスク、およびウレタンマスクについて特徴や効果を比較していました(図2)。これらの中では、不織布マスクがもっとも性能が高いということになります。

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図2. 不織布、布、およびウレタンマスクの特徴(2020.11.27 TV朝日「モーニングショー」より).

性能と通気性という面から3つのマスクと医療用のN95マスクをみると、図3のようになります。基本的に通気性がよいものほど、性能は悪くなると思っていいようです。つまり、着けてみて呼吸が楽なものほど、効果は落ちるということで判断してもよさそうです。

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図3. 不織布、布、およびウレタンマスクの性能と通気性(2020.11.27 TV朝日「モーニングショー」より).

なお番組中で、松本哲哉主任教授(国際医療福祉大学)が出ていて、図3の中で、N95の位置が違うと指摘していました。すなわち、通気性が悪いので、図中もっと右側に置くべきだという指摘です。

放送では、スーパコンピューター「富岳」のシミュレーション結果も紹介していました(図4)。不織布、布、ウレタンマスクを着けた場合の飛沫・エアロゾルの拡散について比べたものですが、布、ウレタンではマスク前面からの漏れが見られる一方(図2青い点)、不織布ではほとんど漏れが防止できること(図2赤い点)が示されていました。一方で、着け方が悪いと、隙間から上部への拡散が見られること(図2黄色の点)も紹介されていました。

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図4. 不織布、布、およびウレタンマスクからの飛沫・エアロゾルの拡散の比較(赤色: マスク内に捕捉されるもの; 黄色, マスクと顔の隙間からの漏れ; 青色: マスクからの拡散、2020.11.27 TV朝日「モーニングショー」より).

富岳のシミュレーション結果は、これまでの定説どおりの結果ですが、不織布マスクではやはり上部のワイヤーを利用してピッタリと顔に着けないと、上部からの漏れが多くなるということがあらためてわかりました。

10月30日、豊橋技術科学大学は上記シミュレーションの結果を踏まえて、マスクの効果についてPress Releaseを行ないました [1]。飛沫の吐き出し、および吸い込みの両方において、一般用マスク・シールドとしては、不織布マスクが最も優れていることが示されています。ウレタンは不織布に比べて1/2–1/3に効果が落ちるということになるでしょうか。

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図5. さまざまなマスクおよびフェイスシールド、マウスシールドの効果の比較(文献[1]からの転載図).

4. マスクの選択の重要点

これまで、いくつかの論文でもマスクの構造と効果の関係が報告されていますが、物理的捕捉(慣性衝突やブラウン拡散)静電吸着という2つのメカニズムが働いて、マスクの効果を最大限に発揮できるということになります(図5[2]。マスクの「穴」はウイルスよりはるかに大きいので、普通に考えたらなぜウイルスを除去できるか不思議に思えますが、このメカニズムで捕捉できると考えられます。不織布マスクはこの構造と効果を満たすものとして、一般人向けには最も推奨されるものでしょう。 

実際にはウイルスは単独で浮遊しているものではなく、飛沫に含まれたり、乾燥した飛沫核にくっついたエアロゾルの形で存在し、それがマスクに吸着されるというイメージです。

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図5. エアロゾルを防ぐためのマスクの基本(物理的捕捉と静電吸着)[2].

市販のマスクのパッケージには図6に示すような説明図がついているものがあります。私たちは、このような説明書きを参考にして、選択することができます。不織布マスクの材質はポリプロピレンです。選択のキーワードは、「不織布」、「3層構造」、「ポリプロピレン」です。

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図6. 不織布マスク市販品に添付されているフィルター機能の説明図.

価格は高めになりますが、医療用規格に適合する4層、5層のマスクもあります。これらについては追ってまた紹介したいと思います。

5. マスク着用はワクチン接種と同様な効果をもつ?

以上のように、適切な材質と構造のマスクを正しく着ければ、他の人に感染させるリスクを減らす効果があることは、すでに世界的に共有されていることです。一方、マスク着用の感染予防効果については、富岳による飛沫のシミュレーション結果はあるものの、よくわかっていません。とはいえ、すべての人が着用すれば、ウイルスの暴露量も明らかに減るでしょう。

米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の感染症専門家、モニカ・ガンジー(Monica Gandhi)博士は、マスクの効果について興味深い仮説を述べています。すなわち、マスク着用はある程度の免疫を付与し、ワクチンまで実用化までの"つなぎ役"を果たせるかもしれないという仮説です [3, 4]

ヴァリオレーション(variolation)仮説と言われるこの仮説は、体内に入るウイルス量が多いほど症状が重くなるという前提で立てられていますが、マスクの着用によって吸入するウイルス量が減り、その結果、不顕性感染率が上昇し、免疫獲得につながるというものです。不顕性感染は、白血球の一種のTリンパ球による免疫反応と関連しているので、これがCOVID-19に対しても有効な可能性があるという主張です。

ガンジー博士の言説はまだ仮説の段階であり、批判もあります。しかし、もし本当であれば、マスクの着用は、ワクチン接種と同じような効果があると言えるかもしれません。

おわりに

一般用に市販されているマスクは、上述したように、その「穴」の大きさからみたらウイルスよりはるかに大きく、物理的大きさからのみで考えたら、ウイルスを全部カットできるものではありません。しかし、図5に示すようなメカニズムによって、かなりの割合で飛沫やエアロゾルに含まれるウイルス粒子を捕捉できることが考えられます。異なるタイプのマスクのシミュレーション結果(図6)は、それを裏付けています。

日本エアロゾル学会は「繊維の隙間より小さい粒子はマスクのフィルターを通過する」は間違いであり、0.1 μm より小さい粒子では、ブラウン拡散によって粒子が小さくなるほどフィルターに捕集されやすくなると説明しています [5]

つまり、マスクは着けた方が、飛沫阻止、暴露防止の両面で絶対的に良いということになります。マスクには、鼻やのどの保湿・保温効果もあります。そして性能から見れば、布やウレタンよりも不織布マスクが推奨されるということになるでしょう。

しかし、国も政府分科会も国民に向けて盛んにマスクの着用を要請している割には、そしてマスクの素材や構造からみた効果を違いを認識しながらも、不織布マスクの推奨についてはあまり強調していないように思います。アベノマスク(ガーゼ製布マスク)の効能を貶めるような説明は、国民に対してできなかったということでしょうか。

引用文献

[1] 飯田明由: コロナウイルス飛沫感染に関する研究. 国立大学豊橋技術科学大学 Press Release 2020.10.15. https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf

[2] Konda, A. et al.: Aerosol filtration efficiency of common fabrics used in respiratory cloth masks. ACS Nano Apr. 24, 2020: acsnano.0c03252.
Published online 2020 Apr 24. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7185834/

[3] Gandhi, M. et al.: Masks do more than protect others during COVID-19: reducing the inoculum of SARS-CoV-2 to protect the wearer. J. Gen. Int. Med. 35, 3063–3066 (2020). https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-020-06067-8

[4] Gandhi, M. and George W. Rutherford, G. W.: Facial masking for covid-19 — potential for “variolation” as we await a vaccine. N. Eng. J. Med. 2020; 383, e101 (2020). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2026913

[5] 日本エアロゾル学会:新型コロナウイルスや花粉症でのマスク装着に関する日本エアロゾル学会の見解. 2020.02.21 (2020.03.26一部修正). https://www.jaast.jp/new/covid-19_seimei_JAAST_20200327.pdf

引用した拙著ブログ記事

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果

             

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:生活・健康と科学

無症状者から広がるウイルス感染とGoToトラベルへの示唆

2020.11.24: 20:08更新

はじめに

今朝(11月24日)のテレビ朝日「モーニングショー」を観ていたら、コメンテータの玉川徹氏が、無症状者(無症候性+発症前無症状)からの新型コロナウイルスの感染についてコメントしていました。無症状者が媒介するウイルス感染はすでに常識になっており、今回のパンデミックを招いた要因として大きな問題になっています。

ここで、無症状者からのSARS-CoV-2の二次感染に関する世界での認識を踏まえながら、GoToトラベル事業が招いた感染拡大の可能性について考えてみたいと思います。

1. CDCの見解

玉川氏は、番組中で、新型コロナ感染の24%は無症者が関わるという、具体的な数字を挙げて述べていました。私は直ぐに、「ああ、CDCが公表しているデータを引用している」と思いました。このデータは米国CDCが公表しているスライド [1に書かれているもので、"Community use of cloth masks to control the spread of SARS-CoV-2"という11月20日(現地)付けの記事 [2] の中に、"more information"として紹介されています。

それによれば、新型コロナ感染はの大部分(59%)が無症状者によって広がり、そのうち無症候性(symptomatic)感染者が24%、発症前(pre-symptomatic)無症状者が35%を占めるとされています(図1)。そして感染力のピークは感染5日前後とされています。

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図1. 大部分のSARS-CoV-2感染は無症状者から広がる [1].

さらに、図1の右下にもあるように、無症状感染者の割合を24%–30%として、感染後4日−6日の感染が起きたとすれば、無症状者からの二次感染は51%–70%の範囲になる、としています。すなわち、新型コロナ感染の大半は無症状者から起こっているということになります。

5月にサイエンス誌に発表された数理モデル解析の論文では、無症状者からの二次感染は全体の52%(無症候性感染6%+発症前感染46%)とされていました [3]。その後、米国科学アカデミー紀要に出版されたMoghadasらの論文では、無症候性感染の貢献度がより高く見積られました [4]。今回のCDCの報告 [1, 2] (図1)は、このMoghadas論文とJahanssonらの投稿中データも踏まえた見解です。

上記したように、そして前のブログ「無症状感染者は発症者と同じウイルス量を保持する」、「発症前から発症時の感染者のウイルス伝播力が強い?」でも述べましたが、発症前後(感染後5日前後)で感染力は高くなり、ウイルス排出量は無症状、有症状に関係ないことが報告されています [5, 6]

2. WoW! Koreaのウェブ記事

昨日出た日本語のウェブニュースを見ていたら、米CDC「新型コロナ患者の半数は“無症状者”からの感染」という、WoW! Korea(エイアイエスイー株式会社)の記事が出ていました [7]。当該記事は「米CDCは去る20日(現地時間)に改定した“新型コロナ拡散を統制するための布マスク使用指針書”で「新型コロナウイルスは、主に人々が咳・くしゃみをするときに出る飛沫を通して拡散するが、対話や歌、呼吸だけでも拡散する可能性がある」と伝えた」と紹介しています。

この記事は、上記のCDCの記事 [2] のことを紹介しているものと思われますが、出典のリンクがありませんでした。原題を考えれば、「使用指針書」というのは少しニュアンスが違います。そして、「CDCによると、新型コロナウイルスを他人にうつした中で 24%は咳・発熱などの症状が全くなく、35%は症状が出る前の段階で、残りの41%だけが症状が出ていたということであった」、「CDCは「マスクの着用と個人衛生の徹底などを強調する地域社会の努力が、新型コロナの拡散を減らすのに役立つだろう」と伝えた」と記述しています。

日本語のウェブ記事の悪いところですが、二次情報としての記述をする場合に、オリジナルの出典へのリンクがほとんどありませんし、引用論文の記載もありません。これでも情報が正しく伝えられているか、真偽のほどを判断するのが容易でありません。先日NHKが、オバマ前大統領の回顧録に出てくる鳩山元首相に関する記述を誤訳して伝えたことなど、メディアによる二次情報の間違いは枚挙にいとまがありません。

WoW! Koreaの記事はほぼ正確に伝えていましたが、ウェブメディアには出典へのリンクを是非お願いしたいものです。

3. GoToトラベルによって感染が拡大した?

菅首相は、GoToトラベルの一時停止を決めたことに関し、「延べ4千万人が利用しているが、その中で現時点での感染者数は約180人だ」と述べ、トラベル事業が感染拡大の原因との見方に否定的な考えを示しました [8]

上記モーニングショーにおける玉川氏の発言は、このGoToトラベルによる感染拡大の可能性に関するものです。つまり、報告ベースの感染者の実数は180人かもしれないが、4千万人の利用者の中には感染の自覚がない無症状者が相当いて、旅行によって感染を広げたのではないか、と言うのが彼の指摘です。

玉川氏の指摘を待つまでもなく、これ以外にも、相当数の濃厚接触者やGoToトラベル事業そのものに関わって感染した人もいるでしょう。日本医師会中川俊男会長は「感染者増とGoToトラベルの関連についてはエビデンスがなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と述べましたが [9]、当然のことでしょう。

ウイルスは人と人との接触によって伝播します。そして、GoToによって旅行を促進するということは、人の移動と行動範囲を広げ、接触機会が増えることは自明であり、感染の機会が増えることにも想像が行きます。その特徴を踏まえた上で、GoToトラベル利用者の直接的な感染だけではなく、その利用者から2次感染、3次感染した被害者、それらすべての濃厚接触者、さらに旅行者が訪れた周辺の地域への影響なども考慮しなければなりません。

4. 西浦氏の論説

医療維新(11月22日付)記事には、「GoToトラベルと感染拡大の因果関係について考える、無防備なヒトの移動で感染拡大は自明」という題目の、西浦博教授(京都大学大学院)の記事が出ていました [10]。この記事では、いわば為政者のGoToトラベルの影響に関する想像力となさと、分析の欠如が批判されています。

西浦氏は、「GoToトラベルを実施すると、通常の心理としては「旅行してもいいのだ」として緩和ムードが増したと感じることにつながる」、「それによって利用者以外も含めて移動が活発化する」、「直接的因果ではないが、間接的な政策的インパクトが確かならば為政者はその点に配慮して分析・判断すべきなのは当然である」と述べています。

さらに、そもそも論としての見解を強調しながら、「ヒトが無防備に移動をすると感染症の流行が空間的に拡大することは理論的・定性的に自明のことである」、「それは理論疫学におけるメタ個体群流行モデルを取り出さなくても想像することができる」と述べています。

この記事には専門的な内容も出てきますが、結論は上記のそもそも論に集約されており、まさに、GoTo推進を一刀両断という感じで批判しています。

記事では、「GoToにお墨付きを与えた」新型コロナウイルス感染症対策分科会にも触れています。分科会が「人の動きそのものが感染拡大の主要因とはならない」というような見解を持っていたときに、適時助言を与えられなかった後悔の念が述べられています。そして、「そう言った傾向は、理論疫学の科学的側面を十分に理解した立場からすればあまりにも為政者に気を遣ったものであったと思う」と、批判的に述べています。

西浦氏がいう「無防備に移動」というのは、何も感染症対策をとらないで移動した場合という意味です。実際は、マスク着用、手洗い、対人距離の確保などの個人レベルでとれる対策とともにGoToトラベルは実施されたわけであり、その万全の対策の上でも感染拡大を抑えるのはむずかしかったというトーンで、記事は書かれています。

とはいえ、政府自身の感染拡大抑制対策については触れられていません。つまり、社会政策としての検査や、検査とセットのGoTo推進の可能性については、多くの人が提言しているわけですが、「検査」に関することは記事には出てきません。西浦氏の記事はできる限りフォローするようにしていますが、この記事に限らず、どういうわけか検査の意義に関する言述は見たことがありません。さらには、無症候性感染に関することも記事にはありませんでした。

おわりに

新型コロナウイルス感染症は、無症状の人が無自覚のまま感染を広げるということを前提しなければならないことは、これまでの多くの知見の中で言えることです。これは個人レベルでの行動変容で抑制できるというものではありません。 マスク着用、手洗い、消毒、対人距離の確保、換気、遮蔽などに加えて、検査による安全確保の基に、経済を回すという考え方が必要です。そして感染増加の間は、決して経済も回りません。

社会政策としてのマス・スクリーニング下水監視システムなどの施策があれば、安全に経済を回すということがより可能になるでしょう。たとえば、できる限り陰性者を確保した上でビジネスやイベントを行なう、下水からウイルスが検出されたらその地域でのGoToトラベルの出入は一時停止する、などの方策が考えられます。

不幸にして、GoToトラベルキャンペーンは政府による具体的な感染抑制対策がないままに始められてしまいました。そして、今度は札幌市と大阪市を対象から外すという措置がとられています。手遅れ感もありますし、措置も中途半端です。ゴマカシの効かない容赦ないウイルスに対して、政府も各都道府県知事もどこまでも想像力がないように思えます(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)。

引用文献・記事

[1] Centers for Disease and Control and Prevention (CDC): The science of masking tocontrol COVID-19. Nov. 16, 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/science-of-masking-full.pdf

[2] Centers for Disease and Control and Prevention (CDC): Scientific Brief: Community use of cloth masks to control the spread of SARS-CoV-2. Nov. 20, 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/more/masking-science-sars-cov2.html

[3] Ferretti, L. et al.: Quantifying SARS-CoV-2 transmission suggests epidemic control with digital contact tracing. Science 368, eabb6936 (2020). https://science.sciencemag.org/content/368/6491/eabb6936

[4] Moghadas, S. M. et al. : The implications of silent transmission for the control of COVID-19 outbreaks. Proc. Natl. Acd. Sci. USA. 117, 17513-17515 (2020); first published July 6, 2020. https://doi.org/10.1073/pnas.2008373117

[5] Lee, S. et al.: Clinical course and molecular viral shedding among asymptomatic and symptomatic patients with SARS-CoV-2 infection in a community treatment center in the Republic of Korea. JAMA Intern. Med. Published online August 6, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2769235

[6] Singanayagam, A. et al.: Duration of infectiousness and correlation with RT-PCR cycle threshold values in cases of COVID-19, England, January to May 2020. Euro Surveill. 25, pii=2001483 (2020). https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.32.2001483#html_fulltext

[7] YAHOO JAPANニュース: 米CDC「新型コロナ患者の半数は“無症状者”からの感染」と推定. WoW Korea. 2020.11.23. https://news.yahoo.co.jp/articles/0219be0098a92ed78b27f653347edc023722cc87

[8] 時事ドットコムニュース: 菅首相、トラベル感染原因に否定的. 2020.11.23. https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112300258&g=pol

[9] 井上靖史:「Go To」感染拡大のきっかけ 日本医師会長 「コロナ甘くみないで」. 東京新聞 2020.11.19. https://www.tokyo-np.co.jp/article/69221

[10] 西浦博:「GoToトラベル」と感染拡大の因果関係について考える「無防備」なヒトの移動で感染拡大は自明. 医療維新 2020.11.22. https://www.m3.com/news/iryoishin/845371

引用した拙著ブログ記事

2020年11月19日 為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く

2020年8月15日 発症前から発症時の感染者のウイルス伝播力が強い?

2020年8月10日 無症状感染者は発症者と同じウイルス量を保持する

             

カテゴリー:感染症とCOVID-19

 

マスコミが報じない東アジアの中の日本の流行状況

はじめに

新聞、テレビなどのマスコミは、連日、新型コロナウイルス感染症COVID-19の感染急増について報道しています。自国における感染拡大で、そこにばかり目が向いている状況ですが、ほとんど報じられていないのが、東アジアの周辺の諸国と比較した日本の流行状況です。

周辺国との流行状況を比較すれば、季節や地域性、ファクターXなどの影響を考慮することなしに、日本の感染対策の良し悪しを評価することができるでしょう。今さら感もありますが、worldometerやOur World in Dataの集計データを引用しながら、考えてみたいと思います。

1. 東アジアでの流行状況

まず、東アジア各国・地域における、11月21日時点での感染状況を比較してみましょう。表1に示すように、日本は累積陽性者数で東アジア3位につけています。1、2位のインドネシアとフィリピンは、効果的な感染症対策がなく、医療機能不全状態に陥っている国で、言わば別格です。そうなると、東アジアの先進諸国・地域のなかでトップに躍り出る、不名誉な位置にあるのが日本です。百万人当たりの死者数検査陽性率も、他国と比べると高くなっています。

表1. 東アジアの国・地域における新型コロナウイルス感染症の流行状況(2020.11.21時点、出典:worldmeter)

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2. 陽性者数

現在の流行状況がわかりやすいのが、毎日の新規陽性者数の推移です。表1の中から、日本および感染を比較的抑えられている5カ国(中国、韓国、シンガポール、タイ、ヴェトナム)と一つの地域(台湾)を抜き出して、それを比べたのが図1です。日本はいわゆる第3波の感染拡大が訪れ、陽性者が急増しています。それに対して、他国・地域では夏以降感染拡大は抑えられており、韓国でわずかの増加が見られる程度です。

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図1. 日本および東アジア5カ国・1地域における新規陽性者数の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

つまり、日本では寒い季節になったから必然的に感染者が増えたということではなく、対策のまずさから感染拡大を許し、それに季節(気温低下、乾燥)という要因が重なって、余計に増えているということが言えるでしょう。

累積陽性者数で比べた場合も、日本の突出ぶりがよくわかります。他国・地域においては陽性者はほとんど増えていないか、微増なのに対し、日本は7月後半から増加し続けています。

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図2. 日本および東アジア5カ国・1地域における累積陽性者数の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

3. 死者数

表1にあるように、日本の現在の死者数は現在1969人ですが、すでに、6月20日以降の死者数が、4月をピークとする第1波のそれを超えました。第1波と比べて、重症数も死者数も抑えられているというメディアの報道は、実状を正しく伝えていないように思います。

東アジアのなかでの百万人当たりの死者数の推移を比べると、日本の断トツぶりが顕著です(図3)。ちなみに図3に見える薄い線は、全世界の国々の状況を示しています。ヨーロッパや南北アメリカでは、日本とは比較にならないくらい人口当たりの死亡率が高いことは、よく知られています。

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図3. 日本および東アジア5カ国・1地域における百万人当たりの死者数の推移(出典:Our World in Data).

日本では8月以降、毎日死亡する人が出ており、次第に増えています。死亡の絶対数でいえば、まだ中国が日本の2倍以上ありますが(表1)、来春までには日本が中国を追い抜くことも考えられます。医療崩壊が起これば(その危険性が高まっていますが)、あっという間です。

4. 検査数と陽性率

日本では、PCR検査を含めた検査数が少ないことはずうっと言われ続けてきました。実際にどうなのか、1人の陽性者を探し出すのに費やした検査数で見てみましょう。図4に示すように、日本と上記の5カ国・1地域で比べた場合、日本は最低になります(ただし、中国ではあまりにも検査数が多くて正確な統計情報がなく、グラフが途中で切れています)。

これは、日本では少ない検査数で効率的に陽性者を見つけているということではなく、検査のカバー率が低いとみなすのが妥当です。すなわち、見逃している陽性者がそれだけ多いということになるでしょう。

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図4. 日本および東アジア5カ国・1地域における累積陽性者数当たりの累積検査数の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

検査拡充が叫ばれ、事実、第1波の頃と比べて大幅に検査数が増えた日本ですが、周辺国と比べればやはり少ないということになります。厚生労働省の統計を見れば、やっと1日3万件を超えたところです。

検査数が少なければ、検査陽性率は高くなります。図5に示すように、周辺国と比べた中で日本は最も陽性率が高くなっています。現在の累積陽性率は4%を少し切った値ですが(図5上)、これでも圧倒的に高いということになります。直近の7日移動平均では8%を超えています(図5下)。

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 図5. 日本および東アジア5カ国・1地域における累積検査陽性率(上)および日ごとの検査陽性率(7日移動平均、下)の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

5. 政府の対応

菅首相は、今日、政府分科会の提言を踏まえ、これまでの知見に基づいて感染拡大防止に向けた対策を強化し、迅速に実行すると述べました [1]。具体的には、GoToトラベル事業については、感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を導入し、GoToイート事業については、食事券の新規発行の一時停止やポイント利用を控えることについて検討を要請するとしました。

もともと感染が収束したら始めるとしていたGoTo事業ですが、7月下旬から強引に導入し、推進してきたのは政府であり、それにお墨付きを与えたのは政府分科会です。見直しのタイミングとしては遅きに失した感があり、両者の責任は重大です(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)。しかも、菅首相はGoToの一時停止の時期も対象地域もまだ示していません。

また、今日、首相官邸の以下のツイートを見て、私は気が抜けてしまいました。

医療施設や介護施設等において、陽性者が確認された場合には、入所者・従事者全員に、直ちに国の費用負担で検査を実施します」とありますが、これは当たり前のことであり、何を今さらという感じがします。もし言うなら、「(陽性者が確認されなくても)医療施設や介護施設等で定期的にスクリーニング検査をする」ということでしょう。それでさえも、遅すぎる感があります。定期スクリーニング検査のタイミングは遅くとも9月だったと思います(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)。

菅首相は、さらに、国民のみなさんの協力が不可欠であり、あらためて、会食時を含めたマスクの着用、手洗い、3密の回避、基本的な感染対策の徹底をお願いする、と述べました。しかし、周辺の国々が徹底的な検査システムの導入やICT活用などの近代的戦略で封じ込めに成功しているのに対し、日本ではマスク会食という宴会芸のようなことを含めて、国民の自助に頼っている時点ですっかり後進国に成り果てています。

国民レベルではすでに十分に対策をとっており、さらに対策を国民に押し付けても、もはや感染拡大を抑制できるものでもありません。政府による行動制限や営業制限などの、より強力な対策が必要なのです。このままでは、やがて医療崩壊が起きます。

おわりに

今の感染拡大は、夏に流行が収まらないままに、国策としての感染症対策を施すことなしに、無理に経済を回そうとし、それを感染対策と経済活動の両立という建前で強引に進めてきた結果であると言えます。その日本の無策ぶりは、東アジアの周辺国との状況比較によって、余計あらわになるということでしょう。

そしてマスコミはそれを報じることもなく、政府の国民自助戦略をそのまま垂れ流している状況です。

引用記事

[1] 朝日新聞DIGITAL: GoTo見直し「国民の命守るため」 菅首相の発言全文. 2020.11.21. https://www.asahi.com/amp/articles/ASNCP5RZSNCPUTFK00F.html?ref=tw_asahi&__twitter_impression=true

            

カテゴリー:感染症とCOVID-19

  

為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く

2020.11.20. 20:55更新

はじめに

11月19日、東京では新規陽性者が初めて500人を超えて534人となり、全国では2388人を数え、これまでの最多となりました(図1)。これから、しばらく各地で記録が更新されていくでしょう。個人的には緊急事態宣言発出の段階だと思います。

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図1. 11月19日までの全国の新規陽性者数の推移(新型コロナウイルス感染症まとめ - Yahoo! JAPANより).

そして、11月17日、6月20日以降の死者数がそれ以前の第1波における死者数を超えました。これについて以下のようにツイートしました。

私は本ブログで再三再四、日本の新型コロナ感染症対策のお粗末さと、この秋冬における感染拡大の懸念を述べてきましたが、残念ながら、その予測が当たってしまいました。ここで、最近3ヶ月近くの本ブログを振り返りながら、為政者と政府系の感染症専門家がいかに想像力が欠落しているか、そしてそれが感染拡大を招く結果になっていることを、あらためて考えてみたいと思います。

1. 新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す

8月30日のブログ「新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本」では、世界保健機構WHOが指摘した日本のコア・キャパシティとリスクコミュニケーションの欠如を紹介しました。日本のリスク・コミュニケーションのシステム不備はきわめて重大です。つまり、行政、専門家、市民などのステークホルダー(利害関係者)間におけるリスクに関する意思疎通を図ることを困難にし、何が起こっているかを的確に把握することができなくなっています。これは依然として改善されていません。

そして、これまでの日本のクラスター対策の失敗を指摘した、英国のE. モシアロス教授の研究チームの論説を紹介しました。この論説でも指摘されているように、7月下旬に流行が再燃すると同時にGo Toトラベルキャンペーン(domestic tourism campaign)が始まり、防疫対策は置き去りにされてしまいました。政府お墨付きのGo Toトラベルの実施は、国民の移動感覚を緩める結果になりました。

さらに、米国ワシントン大学のIHME (Institute for Health Metrics and Evaluation)が予測する、12月における日本のCOVID-19累積死者数が、衝撃的な数字(>6万人)になっていることを紹介しました。この数字は現在下方修正されていますが、それでも2月までに死者数は1万人を超えると予測されています。

海外からも失敗を指摘されている日本のクラスター対策ですが、政府系専門家がこれに拘泥している限り、失敗はまた繰り返されます。事実そうなっています。感染症対策を厚生労働省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)は、11月19日夜、現状評価をまとめましたが、会合後の報道陣に「感染をコントロールできない」と述べています。クラスター対策から脱却しなければ決して感染拡大は防止できないのです。

2. 菅政権の新型コロナ対策の危うさ

9月18日のブログ「菅政権の新型コロナ対策の危うさ」では、発足したばかりの菅政権の、感染症対策における認識の甘さと的外れを指摘しました。菅首相は、9月14日のNHK NEWS WARCH9で生出演したときに、新型コロナ対策どうするのかを問われて、「以前と違ってだいぶわかってきた」、「キャバクラとかホストクラブを重点的に抑えれば...」という主旨の返しをしていました。GoToキャンペーン事業の開始以前は「東京問題だ」とも発言していました。

その当時から今日までの再燃流行(いわゆる第2波以降)では、「会食」「職場」「家庭内」が主要感染の場となっています。それを考えると、菅首相の認識はまったく的外れであったということであり、「最優先の課題は新型コロナウイルス対策だ」と述べている割には、真剣に考えているのかどうか、疑問符がつく内容でした。

政府の感染症対策として、「感染対策と社会経済活動との両立を図る」と第一に掲げていることについては、経済優先の意図があり、両立と言いながら、その実、感染対策は何もないという印象を受けました。そもそも両立などできるはずがありません。経済を再開するためには、しっかりと感染流行を抑えることが第一なのです。

そして、9月18日のブログでは最後に、本格的な秋を迎え、冬に突入すると流行は必ずぶり返し、これまで以上の感染拡大になることを予測しました。

3. 社会政策としてのPCR検査

9月25日のブログ「コロナ禍の社会政策としてPCR検査」では、社会政策としてのPCR検査の重要性に触れ、ソフトバンクの検査センターの紹介とともに、政府分科会、関連学会、そして米国FDAマス・スクリーニング検査についての見解などを記しました。そして、中国での全員検査の事例、東京都世田谷区、大学、民間での社会検査の事例を紹介しました。 

一方で、政府分科会の感染症専門家の見解では、無症状者に検査を広げることは効果が薄いとして、マス・スクリーニング検査には否定的な立場をとっていることを指摘しました。この政府分科会の見解は、11月17日、尾見茂会長の弁としてフィナンシャル・タイムズ(FT)に掲載され、世界に発信されることとなりました。

クラスター対策に見切りをつけ、事前確率の高い場所のマス・スクリーニングや社会検査、デジタル追跡の方針に舵を切れば、有効な感染防止策と機能する可能性がありました。にもかかわらず、尾見会長を含めた政府系専門家の言説には想像力や合理性が感じられず、その結果、事態は悪くなる一方になったと言えます。

国が主体的に感染対策を実施するとすれば、おそらくこの頃(9月下旬)が最後のチャンスだったかもしれません。つまり、新規陽性者数が下がらなくなったこの時期から、行動・営業制限とともに、事前確率の高いと考えられる飲食業種、介護施設、エッセンシャルワーカーを中心とするマス・スクリーニングや、ビジネス・イベント事業における事前検査の実施を徹底していれば、今のような感染拡大には至らなかった可能性もあります。

対策は早いほど被害は少なくなり、そして経済回復も早いです。早く、強く、そして短くが基本です。それを理解せず、突き進んでしまう政府の姿勢は、戦前・戦時中の大本営と重なります。

4. 世界と比べた日本の流行

10月9日のブログ「世界と比べた日本の今の流行ー第1波から何を学んだのか?」では、世界の主な国と日本の10月初旬の流行状況を比較しました。そして、累積陽性者数で中国を抜いて東アジア先進諸国でトップに立ったことを述べました。さらに、1日500人前後の新規陽性者数の高いベースラインから、いよいよ晩秋・冬に向けて爆発的感染拡大が始まること、そしてまずは北日本が危ないことを予測しました。

このブログの10日前にも述べていますが(→今年の冬の新型コロナ・インフル検査・診断は大丈夫?)、早急に高リスクの環境(飲食業や介護施設)やエッセンシャルワーカーの事前スクリーニング検査を徹底し、市中感染者のあぶり出しをやるべきことを再度強調しました。

5. 冬に向けて大流行の兆し

11月1日のブログ「冬に向けて大流行の兆し」では、いよいよ冬に向けて大流行が始まる兆しがでてきたことを述べました。ヨーロッパの国々では先がけて感染急増が見られていること、冬に向けて気温低下や乾燥によって感染が起きやすいことも指摘しました。

もうこの時点では、時すでに遅しの感があり、マスク着用、手洗い、消毒、換気、対人距離の維持などの、個人の行動様式の徹底だけでは限界があることを述べました。国、自治体が主導する検査・追跡・隔離、社会政策としての事前検査、リスクの高い施設・環境でのスクリーニング検査、そして行動制限など、すべての対策を効果的に組み合わせて迅速に対処し、この晩秋・冬に臨む必要があることを再々度強調しました。

6. GoTo事業の功罪

菅前官房長官の肝いりで導入されたGoToトラベル事業ですが、もともと新型コロナ流行が落ち着いたら開始されるはずでした。しかし、この事業は7月下旬から、強引に前倒しで始められました。その結果、確かに経済の活性化に一役かったと言われる一方で、現在の感染拡大にきっかけになったとする見方が増えています。つまり、このままでは、かえって年末に向けて、中小企業を中心に経済をガタガタにしてしまうことでしょう。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長代理を務める脇田隆字・国立感染症研究所長は、11月16日、北海道新聞のインタビューに答えています [1]。それによれば、GoToトラベルの対象に10月1日から東京発着の旅行が追加されたことで、10月後半からの北海道内の感染状況を加速させた可能性があります。

脇田氏の発言の根拠は、SARS-CoV-2のゲノム解析によるものです。感染研が国内約1万件のゲノム解析を行なった結果、4月ごろに東京から道内に持ち込まれたウイルスは一旦なくなったものの、夏に東京から再び流入し、札幌・ススキノを中心に広がったことが推定されています。脇田氏は「北海道は外から来る人のほとんどが東京という事情があり、東京の感染状況がかなり影響している」と述べています。

菅首相は、11月20日、GoToトラベルについて、のべ4千万人が利用し、判明した感染者は176人であったことを述べました。4千万人に対してこの数字はきわめて小さいように感じますが、これは宿泊・日帰り旅行をし、検査陽性と診断された人のなかで、運営事務局から観光庁に報告があったものに限ります。実際は未報告の、もっと多くの自覚のない無症状感染者がいるのではないでしょうか。それらの濃厚接触者やそこからの二次感染、三次感染を考えたら影響は相当に大きいと想像されます。

実際GoToトラベル事業が始まって以来、約10万人の累積陽性者が出ていますが、これが、GoTo利用の4千万人からではなく、GoToを利用していない残りの8千万人からすべて出ていると考えるのはきわめて不自然です。

テレビのニュースでは、GoTo開始からの176人の陽性者の時系列での出方を報道していました(図2)。これを見ると、陽性者は時間を経るごとに増え、とくに東京が事業に追加されてから急増していることがわかります。このGoTo利用陽性者の増加傾向は、全国的な感染拡大を反映していると見ることができます。

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図2. GoToトラベル事業開始からの、利用者における陽性者の推移(2020.11.20 TBSテレビNスタからの改変図).

テレビが伝える、政府関係者や与党議員の「GoTo事業が感染を広げたというエビデンスはない」という言述も想像力に欠けます。感染が拡大している今、エビデンスを検証しているヒマはないのです。感染拡大を抑制するための即応力とあらゆる手段が求められているのです。

おわりに

私は感染症や公衆衛生の専門家ではありませんが、微生物学を専門とし、環境の細菌・ウイルス分析の知識と経験があります。PCRによる細菌・ウイルスの検出には30年の経験があります。この程度の専門性があれば、誰しも十分に今回のパンデッミクの予測はできると思います。4月にピークとなる第一波の流行が来ること(新型コロナウイルス感染症流行に備えるべき方策 [2月19日])、夏に流行が再燃すること(再燃に備えて今こそとるべき感染症対策 [6月1日])、そしてこの秋冬に感染が拡大がすること(世界と比べた日本の今の流行ー第1波から何を学んだのか? [10月9日])、はすべて予測したとおりになっています。

小池百合子東京都知事は、「"1日1000人感染"念頭に」と発言しましたが、菅首相と同様に想像力がなさすぎます。私は、以下のようにツイートしましたが、せめて1ヶ月前に「“1日300人感染”念頭に」として、対策を打っておくべきでした。

マスメディアはほとんど報道しませんが、東アジアの先進諸国の中でこのような感染拡大を招いているのは日本だけです。まるでお笑いのような「マスク会食」なども出てくる始末です。

7月のGoTo事業開始にお墨付きを与えたのは政府分科会です(→早期の検査・隔離が重要)。そして、その分科会が、今になって、GoTo事業の見直しを求めました。

今となっては、残された手は、できる限り早い緊急事態宣言の発出と、それに伴うロックダウン接触削減)営業制限しかないように思います。でなければ、この冬に最悪の医療崩壊に至ります。モタモタしているヒマはありません。

引用文献・記事

[1] 荒谷健一郎、小森美香:「GoTo東京追加で道内の感染加速」 脇田・国立感染症研究所長. 北海道新聞2020.11.17.
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/482243

          

カテゴリー:感染症とCOVID-19