Dr. Tairaのブログ

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新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果

f:id:rplroseus:20200319143326j:plainはじめに

昨日(3月17日)のNHKあさイチ」では、新型感染症 COVID-19 の流行に鑑み、ウイルスの防御法としてのマスクの効果を紹介していました。ここで放送の内容を振り返りながら、あらためてウイルスから身を守る方法とマスクの使い方などについて考えていきたいと思います。結論として、マスク着用は感染予防策としてきわめて重要(必須)だということです。

1. ウイルスの感染様式と残存性

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は人から人へ伝染しますが、その感染様式は以下の三つがあります。

飛沫感染

接触感染

エアロゾル感染(広義の空気感染)

飛沫感染は、感染者のくしゃみ、咳、発声などによって唾液の飛沫が近くの人に付着することで感染する様式です。くしゃみでは通常2 m(最大4 m)まで唾が飛ぶと言われていますので、対面していれば容易に感染する可能性があります。したがって、マスクは飛沫を防ぐ手段として有効です。対面する場合、お互いがマスクをすればさらに効果的です。

接触感染は、ウイルスに汚染された物に触れ、その手で口や眼を触ることで感染する様式です。ウイルスに汚染されやすく、かつそれが残存しやすい物としてドアノブ、手すり、つり革などの固いものが放送で挙げられていました。さらに同様に理由からスマートフォンも可能性があると指摘されていました(図1)。その場合でもマスク着用で、感染リスクを減らすことができる可能性があります。

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図1. ウイルスの接触感染が起こりやすいもの(2020.03.17 NHKあさイチ」からの改変図).

不特定多数が出入りする公共施設や商業施設においては自動ドアの場合もありますが、ドアノブやドアの手すり・ハンドルに触って入退出しなければならないことも多くあります。これらが手への汚染が起こる機会が最も多いと考えられる場合です。

番組でも紹介されていましたが、このような固いものに触ることで手が汚染されやすいという根拠になっているものが、1982年に発表された論文のデータです (図2[1]

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図2. 環境の様々な物品におけるインフルエンザウイルスA型の残存の経時変化(2020.03.17 NHKあさイチ」からの改変図 [1]).

この論文ではインフルエンザウイルスをモデルとして使っていたのですが、図2にあるようにステンレスやプラスチックのような固いものの上ではウイルスが残存しやすく、テッシュやハンカチのような柔らかいのものの上では急激に減っていくことが示されました。以来このデータが機会あるごとにメディアで取り上げられるようになっています。

上記は何しろ1982年に出版された古い論文です。その後時代とともに実験技法などが大幅に改良されてより精度の高い研究ができるようになり、必ずしも環境中でのウイルスの残存率は高くないという論文も多く出るようになりました。たとえば、2011年に出たインフルエンザウイルスの残存性に関する論文では、個体表面ではウイルスのゲノム(RNA)そのものは残存するけれども、感染力のあるウイルス粒子は数分でなくなるという結果を示しています [2]図3)。

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図3. 固体表面におけるインフルエンザウイルスの残存性 [2].

さらに2016年の論文では、汚染された物品からの間接的な接触感染」は疑わしい(それほど重視しなくてよい)としています [3]。同時に、浮遊する水滴(エアロゾル)からのエアロゾル感染の証拠は提示されています。

2011年に出た論文では、インフルエンザウイルスを含む水滴が指についた場合、ウイルスは数十分スケールで消失していくことが示されています [4]。もちろんこれは水滴の大きさやウイルス量に依存します。

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図4. 指の上における二つのタイプのインフルエンザウイルスの残存性 [4].

これらを総合すると、少なくとも固いものに比べて柔らかいものの上ではウイルスは急速に不活性化されるということが考えられます。

以上はインフルエンザウイルスに基づくに情報ですが、今回のCOVID-19ウイルス(SARS-CoV-2)の場合はどうでしょうか。当初、世界保健機構WHOが発表した予備的知見によれば、このウイルスは物品の表面上で数時間から3日間感染力を保つとされました。そして昨日(3月17日)、米国立アレルギー感染症研究所の研究グループは、SARS-CoV-2を含む粒子がエアロゾル化した後、空中で最低3時間は生き残るとし、ステンレスやプラスチックの上ではやはり3日以上残存すると誌上発表しました [5]。この発表はすぐにメディアでも取り上げられました [6]

このようなSARS-CoV-2の環境中での残存性の高さが感染力の強さに現れていると思われます。やはり、確率はきわめて低いとしても、接触感染には注意する必要があるようです。そして強調されているのが誰もが日常的に使っているスマートフォンへの注意です(図1[7]。外環境でスマホが汚染される可能性は十分にあり、そのままレストランに行ったり、中食を買って食べるなどする場合は、接触感染のリスクがより高くなるでしょう。

番組では1時間に平均で23回手で顔を触ると紹介していました。汚染された表面を触り、さらにその手で口や目を触って粘膜から感染する確率が低くないことを示しています。

2. エアロゾル感染とマスクの意義

エアロゾル感染は、インフルエンザでも証明されているように [3]SARS-CoV-2の伝播において最も注意すべきものだと考えられます。なぜなら、飛沫は大きいのですぐに落下しますが、エアロゾルの短時間と言えども浮遊し(上記のように3時間は失活しない)、それを吸い込むことで感染の機会は圧倒的に多くなるからです。

閉鎖空間や人ごみの中で発声するような環境では、特にエアロゾル感染のリスクが高まります厚生労働省が公表しているクラスター(集団感染)発生の危険性は図5の環境の組み合わせで高まります。

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図5. 集団感染(クラスター)が発生しやすい環境(厚生労働省の図に基づいて改変).

クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号におけるSARS-CoV-2の集団感染は、まさしく図5に示すような環境下で起こったと考えられます。エアロゾル感染のみならず、飛沫感染接触感染も起こりやすい環境です。

しかし、図5に示した3密条件は、国民に対して誤ったメッセージとなる可能性もあります。すなわち、このような3密条件(3つが重なる条件)を避けるだけで感染を防ぐことができるという、誤解につながる恐れがあるのです。密閉空間、密集環境のそれぞれでの空気感染に最大限の注意を払うべきでしょう。

厚労省や政府専門家会議は、「3密」の強調だけではなく、人同士の接触や会話、人の移動そのものに警戒を呼びかけるべきなのです。たとえば、ビジネスや飲食時での会話は、感染リスクを高めるものとして、最も気をつけるべきでしょう。

接触感染、飛沫感染エアロゾル感染という新型コロナウイルスの感染ルートを考慮すると、感染防止のためのマスク着用の効果はきわめて高いと考えられます。今日もテレビで、健康な人のマスクの着用について重視しないという医療従事者のコメントがありましたが、完全に誤っていると思います。このような感染リスクに関わるようなことを医者が公言してはいけません。

対面で会話をすれば、必ず飛沫もエアロゾルを生じ、お互いにそれで汚染される可能性があり、感染リスクが高まります。エアロゾル感染には最大限気をつける必要がありますが、その際にお互いマスクを着用したときは、明らかに(飛沫感染はもとより)その防止に効果があるでしょう。

それを私たちが実感できるのが、たとえば、ポリエチレン袋への息の吹きかけです。スーパーで買い物をしたとき食品をポリ袋に入るために息をふきかけて湿らせ開けることがありますが、マスクを着用してやってみるとなかなか湿らないことがわかります。さらにポリ袋に方にもマスクを被せるとまったくどうにもならなくなります。

極論すれば、感染予防の基本は「人と対面で話さないこと」、「人と離れる」、「人に会わない=家にいる」ことになります。しかし、人と接触しないということは、現実的にはほぼ不可能なので、そのためにマスク着用が手っ取り早い感染防止策として重要になるのです。

3. マスクの種類と効果

マスクにはさまざまな種類がありますが、材質から大きく分けるとガーゼ製ウレタン製不織布製の三つがあります(図6)。これらの中で汎用性が高いのが後2者です。

ウレタンマスク(実際はポリエステルとポリウレタンの混合製品が多い)は物理的な隙間ができにくく、すでに花粉症対策なので広く使われています。ただし、通気性そのものについてはスカスカなので(事実呼吸が楽)、感染対策用としては効果がいまひとつではないかと思います。

私たちが一般に多く使っているのが不織布マスクで、高いフィルター性能があることで特徴づけられます。ガーゼマスクは、格子状の比較的規則正しい網目を持っていますが、不織布マスクは、繊維を絡めた密で不規則な網目構造を有します。外側と内側の布の間にフィルターを挟んだ3層構造になっていて、形を保持しながらかつ肌さわりをよくしながら、花粉や飛沫を防ぐ働きをもちます。

3層の不織布マスクが1層のウレタンマスクや布(ガーゼ)マスクよりも感染予防効果があるのは明らかでしょう。ただ、不織布マスクはウレタンマスクよりも隙間ができやすいので、いかに顔に密着させるかというのが課題です。

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図6. 材質と用途からみた市販マスクの種類(2020.03.17 NHKあさイチ」からの改変図).

一般的な市販マスクで防ぐことのできる微粒子の範囲を図7に示します。除去範囲別に花粉やPM2.5を除去できるPFE、細菌を含む飛沫を通過させないBFE、そしてウイルスを含む飛沫を防ぐVFEに分けられます。私たちが一般に使っている不織布マスクは、大まかに言ってPM2.5以上の大きさの微粒子の汚染は防止できると考えてよいでしょう。

不織布マスクの網目の大きさはウイルスの大きさに対してはスカスカですが、その3層構造から物理的かつ静電的な吸着でウイルス粒子をトラップできると考えられます。日本エアロゾル学会は、慣性衝突、さえぎり、ブラウン拡散の3つの物理的機構で、マスクの繊維の表面に粒子を付着させるとしています [8]ブラウン拡散では、粒子の大きさが小さくなるにつれて優勢に働くようになるので、0.1 μm 程度のウイルスはマスクのフィルターに捕集されやすくなります。

番組ではストラップによる耳の痛みを軽減しながらマスクの密着度を高くする方法も紹介していました。それはストラップをクロスして(八の字にして)耳にかけるやり方です。これだと確かにマスクの密着度は高くなります。しかし密着度は顔の形に依存しますので万人に適用できるわけではないです。

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図6. マスクで除去できる微粒子の範囲.

4. マスク使用の実際と再利用

マスク不足の状況下ではマスクの再利用も考えたくなりますが、一度使ったマスクをそのまま他人に転用(使い回し)することはできません。一時的にマスクを外したいときは、顎にずらしたり、マスクの外側を持って外すことも避けるべきです。マスクの外側が汚染されている可能性があるからです。

番組で紹介していた外し方は、耳ストラップを握って外し、外側を裏にして机などの上にそっと置くというものです。その際ティッシュなどでカバーをしておくというのもよいでしょう。マスクを折ったり、たたんだりしてしまうのは上記と同様に手を汚染する可能性があります。

マスクを洗浄して再利用することは奨められないと番組では伝えていました。同じことは製造メーカーでも言っています。しかし、マスク不足の折、私は洗浄したマスクを繰り返し(3回ほど)使っています(→手洗いと消毒ーウイルス除去の基本)。マスクの中に、キッチンペーパーあるいはティッシュペーパーを挟めば、それを取り替えるだけでマスクをもたせることができます

不織布マスクの洗浄の方法ですが、洗剤を入れたぬるま湯の中にしばらく浸しておき(1–2時間)、その後両面をなぞるように軽く洗います。もみ洗いは厳禁です。そして天日干しします。花粉の付着が気になる方は室内干しします。一晩で乾きます。

私は不織布マスクをする際、内側に折りたたんだティッシュペーパーを挟んで入れています。折りたたんだティッシュはけっこう気密性が高くて、マスクに挟むとけっこう息が苦しくなる場合もありますが、それだけ効果があるという証明です。各人の息苦しさの感覚で、重ねる数を調節すればよいと思います。

おわりに

先月28日、世界保健機構WHOは、「マスクをしていないからといって、感染のリスクが必ずしも上がるわけではない」としながら、予防目的で公共の場でマスクを着用する必要はないと表明しました [9]。しかし、このWHOのコメントは、先に述べた医療専門家のコメントとともに、明らかに誤りだと思います。エアロゾル感染(空気感染)の認識がないのでしょうか。

マスク着用は、飛沫感染エアロゾル感染に加えて接触感染においても、感染リスクを下げる効果があると期待できます。むしろ必須です。私は、外出時はもちろんのこと、対面で会話をするような場合は、必ず両者ともマスクを着用すべき考えています。そして、マスク着用が困難な飲食時における会話には、最大限注意を払うべきでしょう。しかし、政府専門家会議も医療専門家もマスコミも、なぜか対面時のマスク着用の重要性については言及していません

今は、品不足に加えてファッション性ということで、ウレタンマスクを着けている人(とくに若い人)を多く見かけます。しかし、再度強調しますが、感染予防効果を考えるなら、不織布マスクが推奨されるべきでしょう。

引用文献・記事

[1] Bean, B. et al.: Survival of influenza viruses on environmental surfaces
J. Infec. Dis. 146, 47-51 (1982). https://doi.org/10.1093/infdis/146.1.47

[2] Greatorex, J. S.: Survival of influenza A(H1N1) on materials found in households: Implications for infection control. PLoS ONE 6, e27932 (2011). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0027932

[3] Killingley, B. et al.: The environmental deposition of influenza virus from patients infected with influenza A(H1N1)pdm09: Implications for infection prevention and control. J. Infec. Public Health 9, 278-288 (2016). https://doi.org/10.1016/j.jiph.2015.10.009

[4] Thomas, Y. et al.: Survival of influenza virus on human fingers. Clin. Microbiol. Infec. 20, O58-O64 (2014). https://doi.org/10.1111/1469-0691.12324

[5] van Doremalen, N. et al.: Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 as compared with SARS-CoV-1. N. Eng. J. Med. March 17, 2020. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmc2004973

[6] REUTERS: 新型コロナ、空中で数時間生存 米研究所が警告. 2020.03.18. https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-study-idJPKBN214400

[7] ABC NEWS: COVID-19 can last a few days on surfaces, according to new experiment findings. Mar. 14, 2020. https://abcnews.go.com/Health/covid19-days-surfaces-experiment-findings/story?id=69569397

[8] 日本エアロゾル学会: 新型コロナウイルスや花粉症でのマスク装着に関する日本エアロゾル学会の見解. 2020.02.21. https://www.jaast.jp/new/covid-19_seimei_JAAST_20200327.pdf

[9] 日本経済新聞: 感染予防にマスク着用不要 過度の使用控えてとWHO. 2020.03.01. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56249640R00C20A3CZ8000/

             

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