Dr. Tairaのブログ

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流行蔓延期の対策ー変異ウイルスと市中無症状感染者の把握

はじめにー現在の流行状況

今日(12月26日)、東京都におけるSARS-CoV-2の新規陽性者数は949人となり、過去最多を更新しました。周辺の神奈川県、埼玉県、千葉県でもこの数日で最多を更新し、かつ一頃より急激な増加を示しています(図1)。

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図1. 首都圏4都県の新規陽性者数の推移.

マスコミはほとんど報道しませんが、この今の日本の流行状況はWHOが分類しているWestern Pacific Regionの国・地域の中で最悪です。図2に11月1日からの新規陽性者の数の推移を、図3に同じく死者数の推移を示します。

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図2. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規陽性者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

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図3. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規死者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

後述するように、これから爆発的に感染者数が増える可能性があります。おそらく対策のキーポイントは、変異ウイルスの拡大の状況分析と市中無症状感染者の把握です。

・英国変異ウイルスと入国者

この急激な感染者増加で気になるのが、英国発のSARS-CoV-2変異株が流入し、すでに拡大しているのではないかと言う懸念です。この変異ウイルスについては、詳しいウェブ記事があります [1]。また、国立感染症研究所は英国の変異株について以下のように述べています [2]

               

この系統に属する新規変異株(VUI-202012/01)は、武漢株と29塩基異なり、スパイクタンパクの変異(deletion 69-70、deletion 144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H)とその他の部位の変異で定義される。Nextstrain clade 20B、GISAID clade GR、B.1.1.7系統に属している。

               

ウイルスは時間軸に対して一定の確率で変異しています。正確に言えば宿主の体内で複製をする度に一定の確率でコピーミスが起こり、これが変異として受け継がれて行くのです。SARS-CoV-2について言えば、1年間で約26箇所に変異が起こるとされています。それゆえ、時間が経つにつれて元の塩基配列をもつウイルスは次第に消失し、地域ごとに受け継がれた系統の中で変異の広がりとして残っていきます。

変異はウイルスの都合には関係なく、中立的にランダムに起こります。B.1.1.7系統のウイルスは、英国ではVOCと呼ばれていますが、VOCの場合は、たまたまスパイクタンパク質をコードする遺伝子の部分で変異が起こり、受容体ACE2との結合力に影響を及ぼし、感染力が強くなったと言われています。

先月から今月まで英国から入国し検査を受けた人は3,523人に上ります(図4)。 これは定量抗原検査によるチェックなので(なぜPCRにしないのか理解できませんが)、PCRよりも感度がやや低く、感染者をより見逃しやすいと考えられます。また、すでにVOCが見つかっているオーストラリアなどからの入国は自主待機が免除なので、感染者が検査で陰性となり、感染力を保持したまま市中に至ることも想定されます。

日本にVOCが入り込んでいるとしても全然不思議ではないのです。

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図3. WHO Western Pacific Regionの国・地域における新規死者数の推移(11月1日−12月25日、出典:Our World in Data).

12月23日に放送されたテレビ朝日の「モーニングショー」によれば、国立感染研の脇田隆字所長は、これまで全国の感染者の約1割以下に当たる14,077検体と空港検疫の384検体のウイルスを解析し、すべてでVOCに相当する変異ウイルスは見当たらなかったと言っているようです。

しかし、この分析は有症状者と濃厚接触者のごく一部に限ったものであって、感染の主体的役割を果たしている大部分の無症状感染者の分析は行なわれていませんし、上記の残りの9割以上にたまたま変異株が存在した可能性もあります。また、ウイルス日々変異しているものであり、感染力に影響するような変異が国内で起こっているとしても不思議ではありません。

・国内でのウイルスの変異

変異ウイルスに関してより高い可能性として考えられるのが、国内におけるウイルスの変異です。慶応大学の研究チームは、査読前の論文の段階ですが、第2波の流行拡大は弱毒化した重症化しにくいウイルスによるものだという説を発表しました [3]。これは第2波において、メインプロテアーゼ酵素(3CLPro)に変異(Pro108S変異)のあるSARS-CoV-2の系統B.1.1.284が国内で急速に増えたため、その酵素活性の低下から重症化する患者の割合が低くなったとするものです。

一方、国立感染症研究所の鈴木基センター長は、「検査対象の拡大により無症状や軽症例が多く見つかるようになったため致命率が下がった」という見解を示し、ウイルスの弱毒化説については否定しています [4]。そして、第2波の数値が病気の実態をより表している可能性があると述べています。

確かにその一面はあるものの、全面的に検査拡大の影響とする見方はいささかナイーヴ過ぎるような気がしますし、対策を見誤る危険性もあります。具体的に致死率でみると、第1波は5月末時点で5.8%、第2波は8月19日時点で0.9%、70歳以上で見れば第1波で24.5%、第2波で8.7%と大幅に下がっています [4]

この大幅な下がり方は検査拡大以外の要因もあるとするのが自然ではないでしょうか。逆に検査拡大の要因だけだとすると、第1波の検査方針は完全な失敗だったということを認めることになります(事実そうですが)。

検査拡大以外の要因としては、慶応大学の発表に見られるように、夏には弱毒化した変異ウイルスが流行をもたらしたけれども、今また毒性が強いウイルスに替わっているということも考えられます。そして、冬の訪れとともにウイルスの感染力が増し、感染拡大が急激に起こり、毒性の高いウイルスに戻ったことで重症化も死亡も増えているとも考えられるのです。

いずれにせよ、ウイルスの変異は流行拡大に大きな影響を与える可能性があるので、より網羅的なウイルス解析が急務です。リアルタイムでの迅速なウイルスのゲノム解析が鍵です。たかだか3万塩基しかないウイルスゲノムですから、それは可能なはずです。ゲノムワイドな解析でなくても、温度融解曲線を利用すればPCRレベルでも変異ウイルスの解析は可能です。

そして迅速性と効率性を考えれば、感染研にウイルス解析を集約するのではなく、地方自治体の研究所、大学病院、民間検査センターなどに幅広く変異ウイルスを解析する拠点を設け、ネットワーク化する必要があります。

・従来の衛生学的対策で大丈夫か

もし今回の感染者急増が感染力の変異ウイルスによるものだとしたら、あるいは気温低下による感染力増強の場合でも、従来の衛生学的対策も見直す必要があります。菅首相が言ったような単なるマスク着用、手洗い、3密回避(→菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発)ではなく、効果的なマスクへの切り替え(ウレタン、布などの1層から3層不織布マスクへの切り替え、2重マスク)や対人距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保をより徹底する必要があるでしょう。

街を歩いていても、今これらの対策には人々は無頓着に見えます。効果が薄い1層ウレタンマスクは若い人を中心に流行ですし、対人距離を意識してとっている人もほとんど見かけません。電車内で距離をとって座っていると、平気で肩を寄せて座ってきます。

マスク着用などの衛生学的導入が必ずしも感染予防に繋がらない例として、NEJM誌の海兵隊新兵無症状者1,848人の隔離実験の報告 [5] があります。これは先日のモーニングショーでも紹介されていたので、すぐにツイートしました。

この実験では、海兵隊の新兵1848人を自宅に2週間隔離し、発熱等の症状がないことを確認した後、閉鎖された大学のキャンパス内に移動・隔離し、マスク着用や検温などの衛生・健康管理を施して、感染者が出るかどうかについて追跡されました(図5)。

その結果、隔離2日以内で16人、7日目で24人、14日目で11人の合計51人がPCR検査で陽性となりました。このうち46人は無症状で、残りの5人はほぼ無症状でした。

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図2. 米国海兵隊新兵の隔離実験とPCR検査結果(2020.12.24 TV朝日「モーニングショー」より).

この間、食事と就寝以外はマスク着用と対人距離の確保をしたということなので、たとえ衛生学的対策を導入したとしても、共同で生活することや複数人を特定の場所に囲うことは感染伝播の危険性があるということが証明されたことになります。

つまり、マスク着用等の衛生学的対策を導入したとしても条件によっては、空気感染などの感染リスクが高くなり、変異ウイルスに対してはさらにそのリスクが高くなると言えましょう。そして、感染の媒介者が無症状者が主体であることは、市中での感染リスクを今まで以上に警戒する必要があるのではないかと考えられます。

・無症状感染者を拾う自主検査

日本ではいまや市中感染が蔓延し、これまでのクラスター対策と濃厚接触者の追跡システムはまったく機能しません。ここまできたら、諸外国で見られるような街角の民間検査所(無料がベストですが)を徹底的に増やし、市民が自主的に検査が受けることで市中感染者を拾うような検査・隔離のシステム構築が必須と考えられます。

民間の格安検査場はいま広がりつつありますが、問題は陽性者が出た場合に、行政がきちんとこれをフォローアップせず、隔離(自宅隔離)まで結びつかないことです、この面で厚生労働省は民間と協力して行政検査をバックアップするシステム構築に舵を切ってほしいのですが、必ずしも積極的ではありません。いまだに民間検査を蔑視し、突き放したような態度が見られます。

おわりに

菅首相は、いまだに緊急事態宣言については発出する段階ではないと言っています。しかし、今の指数関数的増加をシミュレーションすれば、全国の1日の陽性者数はすぐに5千人を超え、来月には1万人に達するかもしれないことは誰でも計算できます。そして医療崩壊が顕著になります。これはとんでもない危機的状況であり、自宅待機中に死亡する事例も増えてくるでしょう。簡単に予測、想像できることなのですが、なぜ菅首相や政府分科会はそこに考えが及ばないのでしょうか。

勝負の3週間からの緊急事態宣言発出の遅れによって、これから先、死ななくてはよい人たちが多数犠牲になることが懸念されます。現にいま死亡者数は増加の一途をたどっています。

もとより菅政権の危機管理能力の欠如と無策ぶりは目を覆うばかりですが(→菅政権の危機管理能力の欠如がもたらす感染爆発)、それにしても能がなさすぎます。もはや現政権に感染症対策を任せる方が愚かなのでしょうね。国民も政権担当能力のなさにそろそろ気づくべきです。

そして、変異ウイルスがすでに国内に侵入している、あるいは表現型に変化を与えるような変異を国内で繰り返していると想定して、対策を考えるべきです。。海外渡航歴のない人から海外からの変異ウイルスが検出されることも、時間の問題だと思われます。もはや検査の量はもとより、ウイルスの質に関する解析が必須になっています。もたもたしていると、来春には変異ウイルスが猛威を振るうことになるでしょう。

引用文献・記事

[1] 三ツ村崇志: イギリスで猛威の新型コロナ変異種。国立感染症研究所の見解は? BUSINESS INSIDER 2020.12.23. https://www.businessinsider.jp/post-226752

[2] 国立感染症研究所: 英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について (第1報)2020.12.22. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10074-covid19-27.html

[3] Abe, K.: Pro108Ser mutant of SARS-CoV-2 3CLpro reduces the enzymatic activity and ameliorates COVID-19 severity in Japan. Posted Nov. 24, 2020. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.24.20235952v2

[4] 日テレニュース: 第2波コロナ致死率「0.9%」大きく減る.2020.09.24. https://www.news24.jp/articles/2020/09/04/07714117.html

[5] Letizia, A. G. et al.: SARS-CoV-2 transmission among marine recruits during quarantine. N. Eng. J. Med. 383, 2407-2416 (2020).  https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2029717

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19