Dr. Tairaのブログ

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冬に向けて大流行の兆し

はじめに

今朝(11月1日)のTBSテレビ「サンデーモーニング」で、ヨーロッパにおいて、そして国内では北海道や宮城県において、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の新規陽性者が増加していることを伝えていました。陽性者数が増えている要因として気温低下や湿度低下を挙げています。

冬に向けてCOVID-19の流行が顕著になることは、このブログでも繰り返し伝えてきました。すなわち、冬の始めにおいて、日本での死者数が激増することが予測されていること(新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本)、インフルエンザの流行といっしょのツインデミックで検査・診断の混乱が懸念されること(今年の冬の新型コロナ・インフル検査・診断は大丈夫?)、流行の予兆に対して実質無策であること(日本と世界の今の流行ー第1波から何を学んだか?)などを記してきました。そして飲食業やエッセンシャルワーカーに対して、早急にスクリーニング検査が必要なことも指摘してきました。

ここで、テレビが伝えた情報を踏まえながら、世界と日本の現在の流行を今一度確認しておきたいと思います。

1. 世界の流行と対策

まず、世界、ヨーロッパ、北アメリカ、アジアにおける新規陽性者数の推移を、図1に示します。現在、世界の1日当たりの新規陽性者数は50万人を超えており、この数字を押し上げているのが、主にヨーロッパであることがわかります。北米でも増える傾向を示していますが、アジア全体では顕著ではなく、むしろ減少傾向にあります。これは東アジアの主な先進諸国が、今のところ感染者数を抑え込んでいるためです。

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図1. 世界、ヨーロッパ、北アメリカ、アジアにおける新規陽性者数の推移(出典: Our World in Data).

テレビでは、ヨーロッパでの再燃流行に対して、各国で行動規制が行なわれていることを伝えていました(図2)。部分的なロックダウンや、飲食店の営業規制が多いようです。ジョンソン首相の会見を観ていると、対策が後手後手になった印象は否めません。

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図2. テレビが報道するヨーロッパでの相次ぐ行動規制(2020.11.01 TBS「サンデーモーニング」より).

2. 国内の流行の現状

日本の現状はどうかというと、全国レベルではやはり増加傾向にあります(図3)。10月30日には、ついに累積陽性者数が10万人を超えました。晩秋から冬にかけて激増する可能性を示していますが、主要ニュース(米国大統領選挙、GoToキャンペーン、国会、学術会議任命拒否問題、大阪都構想、芸能人の事故など)の報道の影に隠れてしまっている印象があります。図示はしていませんが、死亡も依然として続いており、10月から微増傾向にあります。

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図3. 日本全国における新規陽性者数の推移(出典:新型コロナウイルス感染症まとめ - Yahoo! JAPAN).

報道でも言われていますが、日本でも気温低下が先行する北海道や北日本で陽性者の増加が顕著です(図4)。これまでの北海道でのクラスター発生の半分は10月に集中しており、クラスター発生のタネ(市中感染)が広がっていることをうかがわせます。危惧していたことが起こってしまったようです。

鈴木直道知事は10月30日の記者会見で、「これ以上感染が拡大した場合、不要不急の外出の自粛をお願いしなければならない。集団感染対策で連鎖を断ち切る」と強調しています [1]f:id:rplroseus:20201101103444j:plain

図4. 北海道における新規陽性者数の推移(出典:新型コロナウイルス感染症まとめ - Yahoo! JAPAN).

北海道と並んで、北日本で増加が顕著なのは宮城県です(図5)。やはり、大都市を抱えている都道府県では、とくに警戒しなければならないことをうかがわせます。このような北日本における新規陽性者の急増は、これから全国の流行がどうなるかということを予兆させるものです。

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図5. 宮城県における新規陽性者数の推移(出典:新型コロナウイルス感染症まとめ - Yahoo! JAPAN).

大都市圏でとくに増加が懸念されるのが大阪府です。このところ新規陽性者が急増しています(図6)。今日は大阪都構想住民投票を行なっていますが、ホントならそんなことやっているヒマはないと思えるのですが。

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図6. 大阪府における新規陽性者数の推移(出典:新型コロナウイルス感染症まとめ - Yahoo! JAPAN).

一方で東京はどうでしょうか。一見すると、新規陽性者数は横ばいで続いているように思えますが、週始めにおけるパターンから見ると、やはり微増傾向にある印象です。これから急増することは間違いないでしょう。

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図7. 東京都における新規陽性者数の推移(出典:新型コロナウイルス感染症まとめ - Yahoo! JAPAN).

このところ、吉村府知事とともに、めっきりメディアでの露出が少なくなった小池都知事ですが、この先に向けての対策はどうなっているのでしょうか。都医師会はかなりの危機感を持っているようですが。

3. 感染力に及ぼす気温と湿度の影響

香港大学の研究チームは、すでに今年4月の段階で、SARS-CoV-2は気温が低下するとそれだけ感染力を維持しやすくなることを報告しています [2](この論文は日本語でも紹介されています [3])。すでにスパコン富岳のシミュレーション解析からも出ているように、空気が乾燥すると、飛沫粒子が小さくなり、空気中に浮遊しやすくなります。その分エアロゾル感染(空気感染)が起こりやすくなると考えられます。

上記した「サンデーモーニング」でも、湿度とウイルスの感染力との関係について、各国の研究チームの研究成果に基づいて伝えていました(図8)。

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図8. SARS-CoV-2の感染力に及ぼす湿度の影響(2020.11.01 TBS「サンデーモーニング」より).

図8に示したシドニー大学武漢大学の共同研究によれば、湿度1%の低下で新規感染者が7–8%増加するようです [4]。研究を担当したWard教授は、湿度が低いと空気が乾燥してエアロゾルが小さくなり、感染性の微粒子が空気中に長く浮遊したままになって他の人への影響が大きくなると述べています。

また、乾燥によって、私たちの粘膜のウイルス排除機能や鼻粘膜の修復機能も低下するようです(図8)。

少し前に発表された生のコロナウイルスの実験では、気温低下で明らかにウイルスの活性は維持されやすくなりますが、湿度との関係は単純ではなさそうです。固体表面においては、相対湿度50%に比べて、20%や80%でウイルスの活性が残りやすいことが報告されています [5]

おわりに

今朝配達された新聞の折り込みの中に、私が住む街の広報が入っていました。その一面を見たら市内の新規陽性者数のグラフが載っていて、9月8日の週からの1ヶ月間で約1.4倍に増えていることが示されていました。このうち、半数以上が常に感染経路不明者で占められていることもわかりました。

この傾向は日本の主要都市にも当てはまるのではないかと思います。政府は依然としてクラスター対策を推進と強調していますが、市中感染者数が過半数を超えるような状況ではもはやクラスター対策は意味をなしませんクラスターのタネが市中のいくらでもあるからです。

政府分科会は、感染拡大の急所である大都市の歓楽街や飲食店の集中的な検査が急務であることを強調しています。一方で、この期に及んで、依然として「広く検査すると誤った結果が出る場合がある」、「無症状者に広く検査して感染制御に成功したという科学的根拠はない」と言い続けています [6]。検査とセットで経済を回すという発想はないのでしょうか。

現段階で、国や自治体は何も手を打っていません。そして、この先起こるであろう惨状に想像が働かないのか、GoToキャンペーン事業の推進に、相変わらず旗を振り続けています。

マスク着用、手洗い、消毒、換気、対人距離の維持などの、個人の行動様式の徹底はもちろんのことですが、国民の努力だけでは感染拡大は抑えられるものではありません。国、自治体が主導する検査・追跡・隔離、社会政策としての事前(自主)検査、リスクの高い施設・環境でのスクリーニング検査、そして行動制限など、すべての対策を効果的に組み合わせて迅速に対処し、この晩秋・冬に臨む必要があります。時すでに遅しの感もありますが、これからが本番です。

引用文献・記事

[1] 日本経済新聞: 北海道、コロナ最多69人感染 知事「対策で連鎖断つ」 2020.10.30. https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65687170Q0A031C2L41000?s=4

[2] Chin A.W.H. et al.: Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions. Lancet Microbe 1, E10. DOI:https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3

[3] 大西淳子: 多くの環境下でSARS-CoV-2は長時間安定. 日経メディカル 2020.04.14.
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202004/565136.html

[4]  Ward, M. P. et al.: The role of climate during the COVID‐19 epidemic in New South Wales, Australia. Transbound. Emerg. Dis. 2020;00:1–5. https://doi.org/10.1111/tbed.13631

[5] Casanova, L. M. et al.: Effects of air temperature and relative humidity on coronavirus survival on surfaces. Appl. Environ. Microbiol. 76, 2712–2717 (2010).  https://aem.asm.org/content/76/9/2712.long 

[6] NHK: 政府の分科会 歓楽街での感染対策 PCR検査など議論. 2020.10.29. https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/committee/detail/detail_19.html

引用した拙著ブログ記事

2020年10月9日 日本と世界の今の流行ー第1波から何を学んだか?

2020年9月30日 今年の冬の新型コロナ・インフル検査・診断は大丈夫?

2020年8月30日 新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19