Dr. Tairaのブログ

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連日の千人超えは危険信号

2020.11.08:00:05更新

今日(11月7日)の全国の新型コロナウイルスSARS-CoV-2新規陽性者は、1,331人になりました(図1)。一昨日の1,048人、昨日の1,145人と3日連続の1,000人超えであり、5都道府県で100人を超えています。今日は土曜日で、米国大統領選挙の陰に隠れてニュースでの取り扱いも今ひとつですが、確実に危険水域に入ってきたと思います。

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図1. 11月7日の都道府県別SARS-CoV-2新規陽性者数(出典:新型コロナウイルス 感染者数やNHK最新ニュース|NHK特設サイト).

これまでのこのブログで何度となく指摘してきましたが(新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本今年の冬の新型コロナ・インフル検査・診断は大丈夫?日本と世界の今の流行ー第1波から何を学んだか?冬に向けて大流行の兆し)、日本では有効な防疫対策がほとんどとられておらず、いよいよ冬に向けて、大流行が始まる兆候です。

これまでの流行の中では、8月7日に最大の新規陽性者数1,605人を記録しています。しかし、この時は夏の暑い盛りであり、ウイルスの感染力が比較的抑えられる時期にありました。しかし今回は違います。ベースラインが約500人/日という高いところから増加が始まっており、種火としての市中感染者数が夏とは比べものにならないほど多く、それだけ感染拡大しやすいという懸念があります。そして、これからますますウイルスの感染力が維持されやすい冬に向かいます。北海道での爆発的とも言える陽性者数の増加は、全国の流行拡大の先駆けとも言えるものです。

加えてGoTo事業はいまフル稼働であり、人の移動がこれまでより激しくなっています。さらにイベントやスポーツ観戦における入場制限が緩和され、海外からの入国も緩和されています。テレビで観る映像では、人々の警戒感も以前よりは緩んでいるような印象も受けます。

このような状況にも関わらず、国の防疫対策はきわめてお粗末です。大流行に備えて、今まで以上の有効な対策をとらなければいけないと思いますが、国の動きは相変わらず鈍いです。今年2月24日、厚生労働省は、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた専門家の見解」を発表しましたが(図2)、このときの基本方針の失敗がいまだに尾を引いているように感じます。 

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図2. 新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた専門家の見解(2020年2月24日)(厚生労働省ホームページより).

厚労省と政府専門家会議は、当初から無症状感染者からの二次感染を認識しておきながら(図2赤線部)、PCR検査については、感染症予防の観点からはすべての人に検査することは有効ではないということ、および重症化しやすい人に集中的に適用されるべきという見解を示していました(図2赤枠部分)。しかしこの検査方針は、防疫対策としてはまったく不備であることは、専門家からも指摘されていました。

厚労省や政府専門家会議・分科会は、初動の方針の失敗を公式には認めておらず、何事もなかったかのように、検査方針を変更しながら、現在に至っています。そして、おそらく初動からの一連の対策の無謬性に拘泥するあまり、現在でも検査拡充や検査方針がきわめて不徹底です。

今では無症状の濃厚接触者までが行政検査の対象となっているものの、その範囲は依然としてあいまいです。分科会は、感染リスクの高い状況・場での事前スクリーニングの必要性を強調していますが、それが徹底的に行なわれている状況ではありません。そして、分科会の感染症専門家は、偽陰性偽陽性の発生推測を盾にして、「無症状者のスクリーニングPCR検査は有効ではない」ということを今でも主張しています。

NHK NEW WATCH9は、11月5日、「大きなクラスターになる前にしっかり見つけてしっかり防ぎ込む」という日本感染症学会の舘田一博理事長(東邦大学教授、政府分科会メンバー)の話を紹介していましたが、あまりにも当たり前すぎて拍子抜けしてしまいました(以下ツイート)。

当該学会は「無症状患者にはPCR検査をしない」というPCR検査限定の方針の旗を、先頭きってふってきましたが、 現在の理事長の言述(それ自体は当然なのですが)、これとはまったく整合性がとれません。クラスターの芽をつむためには、感染源となる無症状感染者をあぶり出すという事前の効果的なスクリーニング検査が必要ですが、当初からの専門家会議・分科会の消極的姿勢と矛盾が、これを実効性あるものにしていないと言えます。

米国ワシントン大学のIHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)は、各国のこれからの流行に伴う死者数を予測しています。当初の日本のシナリオ(→新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本)からはだいぶ下方修正されましたが、それでも2月の累積死者数が11,398人と予測されています(図3[1]。このまま防疫対策の消極的姿勢の状態が続くと、この数字が現実のものとなりかねません。

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図3. 米国ワシントン大学のIHMEによる日本の死者数のシナリオ([1]より).

菅首相は、今日、感染再拡大に強い懸念を示しながら「爆発的な感染拡大は絶対に阻止し、国民の皆さんの命と健康をしっかりと守り抜きます」と述べました [2]。そうしてもらいたいと思いますが、現時点で感染拡大抑制策は何も示していません。このままでは、行動制限(接触削減)大規模な営業制限という、前回の方法を繰り返すことになるでしょう。そして、医療崩壊という最悪の事態に陥ることが危惧されます。

菅首相が述べた「爆発的な感染拡大」という言葉は気になります。なぜなら、以前の尾見茂専門家会議座長が「欧米のような爆発感染には至っていない」という言葉が耳に残っているからです。つまり、たとえ図3のような衝撃的な結果になったとしても、「欧米に比べたら抑えられた」といういい訳に使われる可能性もあります。

しかし、このままでは、爆発的な感染拡大と死者数増加は確実にやってくるのです。

引用文献・記事

[1] IHME: COVID-19 Projections. IHME COVID-19 Projections. https://covid19.healthdata.org/japan?view=total-deaths&tab=trend

[2] TBS NEWS: 菅首相「爆発的な感染拡大は絶対阻止する」 2020.11.07. http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4121376.html

引用した拙著ブログ記事

2020年11月1日 冬に向けて大流行の兆し

2020年10月9日 日本と世界の今の流行ー第1波から何を学んだか?

2020年9月30日 今年の冬の新型コロナ・インフル検査・診断は大丈夫?

2020年8月30日 新型コロナ流行の再燃と失敗を繰り返す日本

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19