Dr. Tairaのブログ

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mRNAワクチンは心筋へのT細胞浸潤と内皮の炎症を劇的に増加させる

はじめに

私は以前のブログ記事で、SARS-CoV-2の全スパイクタンパク質をコードするmRNAワクチンは安全性の面で問題があること、mRNAドラッグプラットフォームのワクチン応用自体が健康人には馴染まないことを述べました(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否)。そして、COVID-19 mRNAワクチンについては、少なくとも以下の6点がクリアされなければならないと指摘しました(→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える)。

・抗原となるタンパク量を制御できること

・生成したタンパクが注射部位の細胞に留まること

・スパイクタンパク質自身に毒性がないこと

・変異したタンパクができないこと

・mRNAやスパイクタンパク質が長時間残留しないこと

・mRNAを包むポリエチレングリコールの安全性

残念ながら、上記の課題はほとんどすべてが検証されないまま、mRNAワクチンは緊急使用許可されました。ファイザー社の臨床試験のプロセスにおいては、その認可までのスピードがデータの完全性と患者の安全性を犠牲にするものだったかもしれないことが、最近暴露されています。すなわち、同社のワクチン治験を担当したVentavia Research Groupにおいて、データの改ざん、患者の盲検化の解除、有害事象のフォローアップ遅延などの数々の問題があったこと内部告発され、その内容が今月BMJ誌に掲載されました [1]

現在、mRNAワクチンは世界中の健康体で人体実験が行なわれている最中であり、日本では完全接種率が75%に達しました。結果として、mRNAワクチン接種後の副作用(好副反応)、有害事象の発生、死亡は従来型ワクチンと比較して格段に多いものとなっています。それにもかかわらず、厚生労働省は、ほとんどの重篤な副作用や接種後死亡についてはワクチン接種との因果関係不明としており、「因果関係を評価できないワクチン」をなお進めている状況です。

今月、電子ジャーナルCIrculationに、mRNAワクチン接種が循環系に及ぼす悪影響の可能性に示唆する研究のアブストラクトが掲載されました(図1[2]。投稿者は米国カリフォルニア州にある民間医療研究機関 International Heart & Lung Institute のスティーヴン・ガンドリー(Steven R. Gundry)氏です。

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図1. Circulationに掲載された研究のアブストラクト [2].

ちょうど、本ブログ記事を書いている最中に、ロバート・マローン博士がこのガンドリー報告についてツイートしているのを見つけ、私は以下のように引用ツイートしました。

この記事では、mRNAワクチン接種後に数多く発生している循環器系の有害事象について、非常に示唆的なガンドリー報告について紹介します。

1. 報告の内容

この研究 [2] においては、PULS(Protein Unstable Lesion Signature)という検査が用いられています。PULS検査は、動脈損傷に対する身体の免疫系反応を示す重要なタンパク質バイオマーカーを測定するものです。この検査によって、心臓病変の形成と進行につながる損傷と心疾患を引き起こす可能性について知ることができます。

実際の検査には、PLUS Cardiac Test (Global DIscovery Biosciences, Inc, Irvine, CA)が使われました。この検査では、炎症性サイトカインであるIL-16アポトーシス誘導因子である可溶性Fas(sFas)、上皮や心筋組織へのT細胞の走化性を示すマーカーである肝細胞増殖因子(HGF)などの複数のタンパク質バイオマーカーを測定します。これらの測定値と基準値との比較に基づいて、5年間の急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome, ACS)発症リスク(確率)を予測するスコアを作成し、臨床的に検証しています。

この研究機関では、8年前から3~6ヵ月ごとに患者のPULSスコアを記録してきました。そして、ファイザー社とモデルナ社の mRNA COVID-19ワクチンの登場により、2回接種を行なったほとんどの被検者でPULSスコアの劇的な変化が起こったことを見いだしました。このアブストラクトではその研究結果が報告されています。

検査は、予防循環器科を受診した28~97歳、男女比1:1の患者566名を対象に行なわれました。mRNAワクチン接種後2~10週目に新たなPULS検査を実施し、ワクチン接種前の3~5カ月間に実施した前回のPULSスコアと比較しました。

その結果、ワクチン投与後、いずれのタンパクマーカーのスコアも劇的に上昇しました。すなわち、IL-16は標準値の35±20から82±75に、sFasは標準値の22±15から46±24に、HGFは標準値の42±12から86±31に増加しました。これらの変化により、PULSスコアは、5年ACSリスクが11%から25%に上昇したことを示しました。

この報告では、ワクチンの2回目の投与後、このPLUSスコアの変化は少なくとも2.5カ月間持続しているとしています。そして、mRNAワクチンは、内皮の炎症や心筋へのT細胞の浸潤を劇的に増加させることを示すものであり、ワクチン接種後に血栓症や心筋症などの血管系事象が増加することを説明できると結論づけています。

2. 本研究への関心度

このガンドリー報告 [2] については、世界中で高い関心を持たれていて、本ブログ執筆時点でメトリクスが8518、ツイート回数が25858を記録しています。図2に世界におけるツイート状況の分布を示します。米国や英国でのツイート回数が多いのが目立ちますが、日本は80回でG7諸国の中では断トツで最下位です。f:id:rplroseus:20211122104534j:plain

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図2. ガンドリー報告のツイートの回数の世界分布 [2].

ツイート回数だけで傾向を見るのも危険ですが、日本発のCOVID-19関連の研究論文の少なさ(世界14位でG7の中で最低)[3] に通じるものがあります。科学の分野やCOVID-19ワクチンに対する関心度で世界に遅れをとっている日本の現状がうかがわれます。

おわりに

ワクチンは病気を治す薬ではなく、大勢の健康人に予防的に接種するものです。したがって、その安全性には特段の注意を払う必要があります。でないと、国レベルで健康な国民を不健康にするばかりのものになってしまいます。

mRNAワクチンは安全性の面で従来のワクチンにはない不確かな部分があることは冒頭で述べたとおりです。その懸念が、次々と出てくる論文によって、そして何よりも圧倒的に多く発生している副作用、有害事象、接種誤死亡によって現実のものとなりつつあります。

今回のCirculationに掲載された報告は、さらにその懸念を強化するものです。「mRNAワクチンが内皮の炎症や心筋へのT細胞の浸潤を劇的に増加させる」ということは、その組織細胞でのワクチンmRNAの取り込みとスパイクタンパク質合成が起こり、それを細胞性免疫が攻撃していることを示唆するものです。つまり、遺伝子ワクチンプラットフォーム自体に根本的問題にあることを疑わせるものです(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否)。

厚労省によると、10月24日までの集計で、接種後に心筋炎・心膜炎が疑われた事例の報告頻度は、男性の場合(100万人あたり)、モデルナでは10代で約60人、20代で約40人。ファイザーではそれぞれ約8人および9人です。一方、国内の10~29歳の男性COVID-19入院患者において心筋炎の報告頻度は100万人あたり893人とされています [4]

厚労省は、心筋炎・心膜炎について接種後の報告頻度より入院患者ではるかに多く、「接種のメリットはリスクを上回る」と言い続けています。しかし、これは明らかにおかしく、詭弁です。リスクを言うなら、ワクチン接種者と未接種者とで心筋炎・心膜炎や有害事象の発生頻度を見ないと正当な比較になりません。なぜなら、ワクチン未接種者全員が入院患者にはならないからです。ウイルスに感染するのは多くても数%、そのうち入院するのはさらに低率になります。

mRNAワクチンは国レベルで接種していることもあり、これだけ多くの健康な人に薬害が出ているワクチンは過去に例がないでしょう。これから打てば打つほど薬害が広がっていくと予想されます。そして、それに対して国も、医者も誰も責任をとることがない危険性を、私たちは心に留めておく必要があります。

引用文献・記事

[1] Thacker, P. D.: Covid-19: Researcher blows the whistle on data integrity issues in Pfizer’s vaccine trial. BMJ 375, n2635 (2021). https://doi.org/10.1136/bmj.n2635 

[2] Gundry, S. R.: Abstract 10712: Mrna COVID vaccines dramatically increase endothelial inflammatory markers and ACS risk as measured by the PULS Cardiac Test: a Warning. Circulation 144, A10712 (2021). https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/circ.144.suppl_1.10712

[3] 産経新聞ニュース: 日本のコロナ論文数は世界で14位、諸外国にリード許す. 2021.08.25. https://www.sankei.com/article/20210825-WKHCEGSZABL6RCMPFPYV2EG5JM/

[4] 朝日新聞デジタル: 接種後の心筋炎・心膜炎、どう考える? 新型コロナワクチンで報告. Yahooニュース Japan. 2021.11.21. https://news.yahoo.co.jp/articles/699645899d08e8702e5aaefbd17030f71cd9202c

引用したブログ記事

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

2021年6月9日 ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

ファイザーワクチンの粗悪な臨床試験が内部告発で明るみに

最近、BMJ誌に、ファイザー社ワクチンの治験に関する衝撃的な記事が掲載されました。スペインのジャーナリスト、ポール・タッカー(Paul D. Thacker)氏がBMJ誌に投稿した記事 [1] で、以下のタイトルがついています。

"Covid-19: Researcher blows the whistle on data integrity issues in Pfizer’s vaccine trial"「COVID-19: ファイザー社のワクチン臨床試験におけるデータの整合性問題を研究者が内部告発

つまり、米テキサス州で行われたファイザーワクチンの試験において深刻な問題があったことが内部告発によって暴露されたのです。この記事は早速ウェブメディアにも取り上げられ、ファイザーの治験データの不自然な点(改ざんされた?)もデータを直接上げて指摘されています [2]

内部告発したのは、ファイザーワクチンの試験を請け負っていた受託研究会社ヴェンタヴィア(Ventavia Research Group)の元地域ディレクターブルック・ジャクソン氏です。彼女は、同社がデータを改ざんし、患者の盲検化を解除し、重要な第3相試験で報告された有害事象のフォローアップも直ぐに行なわなかったと、BMJ誌に語っています。ジャクソン氏はこれらの問題を何度もベンダヴィアに報告していたのみならず、米国食品医薬品局(FDA)にもメールで苦情を申し立てましたが、ベンタビアは同日中に彼女を解雇しました。ジャクソンは、BMJに数十枚の社内文書、写真、音声記録、電子メールを提供しました。

ファイザーワクチンの問題は、治験に関する生データが公開されていない(あるいはアクセスに制限がある)ばかりか、このようないい加減な条件で治験が行なわれていた、あるいはデータが捏造された可能性があるということです。

ワクチンの臨床試験の結果はいくつかの著名な学術雑誌に掲載されていますが、私たちはそれ以上の情報を目にすることができないし、多くは製薬メーカーの息がかかったものであり、信用に足るものでもありません。ワクチン接種のベネフィットとリスクのバランスの影響を直接受けるのは私たちであり、情報の真偽に対して要求する権利があるはずです。そのためには、臨床試験から得られた匿名化された個々の参加者データは、利用可能にされなければなりません。

引用文献

[1] Thacker, P. D.: Covid-19: Researcher blows the whistle on data integrity issues in Pfizer’s vaccine trial. BMJ 375, n2635 (2021). https://doi.org/10.1136/bmj.n2635 (Published 02 November 2021)

[2] Can anything about the Pfizer vaccine trial be trusted? The Daily Sceptic
https://dailysceptic.org/2021/11/17/can-anything-about-the-pfizer-vaccine-trial-be-trusted/

               

カテゴリー: 感染症とCOVID-19

感染流行「120日周期説」に基づくAI分析の稚拙さ

はじめに

昨日(11月16日)の東京新聞電子版に「人の流れ増えたのにコロナ感染急減 理由に「120日周期」説 AIが予測的中 第6波はいつ?」というタイトルの記事 [1] が出ていました。私はこの記事を読んで、分析の安易さと稚拙さに腰が抜けました。なぜそう思ったか、記事の内容も含めてここで紹介します。

1. 新聞報道の内容

以前のニューヨークタイムズの記事 [2] でも感染流行の2ヶ月周期説が出ていましたが、今回記事に出ていたは120日(4ヶ月)周期説です。その説がどこから出てきたのかというと以下の図1です。何のことはない、これまでの5回の流行の波における東京都の感染(新規陽性者数)ピークの間隔をとって平均しただけのことであり、科学的根拠もなく、乱暴な周期仮説です。

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図1. 新聞が報じた120日周期説の根拠(当該記事 [1] から転載).

記事では、今夏の新型コロナウイルス感染症COVID-19)の感染爆発はなぜ急激に収束したのか、ワクチン接種や人流の増減だけでは説明がつかない中、120周期説を学習させた人工知能(AI)で分析したところ、人流増加でも感染者が減ると予測していたと報じています。さらに、「周期のメカニズムは不明だが、AIによると、第6波は1月中旬から2月の到来が予想される」としています。 

以下、東京新聞の記事 [1] を引用します。

現実には、東京都の主要繁華街の人出は、お盆休みを底に増えたにもかかわらず、感染者数は急速に減少。専門家を困惑させた。仲田氏らのチームはこの謎を探るべく、減少要因と目される6つの仮説の貢献度を検証。人流重視の仮想見通しを作成し、各仮説の要素を加えた場合、どれだけ現実に近づくか計算した。

雨が多く、気温が低かった天候説と、ワクチンの感染予防効果が想定より高かった説は、考慮に入れても、現実の値にほぼ近づかなかった。PCR陽性者以外の感染者が多かった説は、多少関係した可能性がある。感染者減少への寄与度が高かったとみられるのは、流行したデルタ株の感染力が想定より低かった説、医療逼迫によって人々がリスク回避行動をした説に加え、120日周期説だ。

120日周期は、東京都の感染のピークが約120日ごとに訪れ、第3~5波ごとに拡大と減衰の期間で相関がある現象。仲田氏は平田モデルが感染減を予測できたのは「AIが120日周期を学習していたから」とみる。 

東京大学准教授(経済学)の仲田泰祐氏は「人流が増えても8月後半には感染者数が減ると予想したのは、平田モデルだけだった」。そう指摘するのは、新型コロナ感染と経済の見通しについて研究を続ける「平田モデル」は、名古屋工業大の平田晃正教授(医用工学)らが開発したAI予測システムだ。

今年8月13日、東京都の新規感染者数は最多の5908人を記録した。当時、政府の新型コロナ分科会の尾身茂会長は感染抑制のため「人流の5割削減」を国民に要請。専門家の一部は都市封鎖(ロックダウン)の必要性も唱えるなど、人の流れを断つことがカギとみていた。

その上で、新聞記事は流行減衰の要因として6つの仮説を挙げて、どれが貢献度が高かったとをまとめています(表1)。結論として、「デルタ株の感染力が想定より低かった」、「120日周期があった」、「医療ひっ迫で人々がリスク回避行動をとった」の3点を貢献度の高い要因としてまとめています。

表1. 新聞が報じた第5波流行の減衰に貢献した要因(当該記事 [1] から転載).

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2. 120日周期説のどこがおかしいかー流行の波の比較

まず、東京における5回の流行の間隔を単純に平均して120日周期説を出したことは安易すぎます。間隔の幅の変動も大きいし、たまたま5回のピークがあっただけで、120日周期説を唱えるなど乱暴です。

ここで、地理的に近い東アジア、西太平洋諸国・地域の流行パターンを比べてみましょう。図2にはお隣の韓国、中国、台湾と比べた流行パターンを示しますが、国.地域ごとに全く異なることがわかります。中国、台湾に至っては、日本と比べるとほぼ抑えられており、流行の波は感染対策の介入の効果によって大きく異なってくると言えるでしょう。

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図2. 日本、韓国、中国、および台湾における感染状況 (Our Word in Dataより転載).

図3にはフィリピンとマレーシアの流行パターンを示します。時期はズレますが、大きく3つの波を見ることができます。

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図3. フィリピンおよびマレーシアにおける感染状況 (Our Word in Dataより転載).

図4および図5には、それぞれ東南アジアの国々およびオセアニアの国々の流行状況を示します。いずれもパンデミックの初期に流行があったものの、その後は抑え込みにほぼ成功し、この夏以降のデルタ変異体の流行で感染爆発している状況です。

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図4. シンガポール、タイ、およびヴェトナムにおける感染状況 (Our Word in Dataより転載).

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図5. オーストラリアおよびニュージーランドにおける感染状況 (Our Word in Dataより転載).

このように、近隣の国々と比較すればわかりますが、感染対策に成功すれば流行の波はほとんど訪れず、そうでなければ大流行するということが言えますし、感染力の強いデルタ変異体であれば、いずれの国も突破されたということが言えます。

日本は防疫対策が甘く、その都度異なる系統の変異株の流行の波に襲われたということになります。ただその中でも北海道のように流行が4回しかなかった地域もあります。安易に120日周期を唱える根拠などなく、ましてやそれをベースにAIに学習させているわけですから、あとは推して知るべしです。

3. 人流の影響

仲田泰祐氏は「人流が増えても8月後半には感染者数が減ると予想したのは、平田モデルだけだった」と述べており、人流は関係がないように考えているようですがこれもまたおかしいです。私は人流低下が主因の一つとなって流行が減衰傾向になることを8月中旬に予測しています(→デルタ変異体の感染力の脅威)。

前のブログ記事「第5波感染流行が首都圏で減衰した理由」で指摘したように、第5波流行は7月末には既に実効再生産数は下方に向かっており、8月10日前後に発症日ベースの感染者数ピークに達してそれ以降下がり始めています。つまり、8月中旬くらいまでの期間で減少に転じる要因を考えなければならないのです。一旦実効再生産数が1.0を切り始めると、あとは地滑り的に感染者数は減って行きます。

緊急事態宣言以降、人流は徐々に下がり始め、お盆の頃までそれは続きました。東京五輪大会の影響もあって目に見えて人流が減ったわけではありませんが、それでも元々の人流ベースラインが低かったので、お盆の頃にはパンデミック前の3–6割の減少になっていました。おそらく、この人流減少は、感染拡大抑制にはかなりの効果があったと思われます。加えて、私は五輪大会終了時からお盆の頃まで続いた長雨によるエアロゾルの減少があって、空気感染の機会を減らしたと考察しました(→第5波感染流行が首都圏で減衰した理由感染流行減衰の要因:雨とエアロゾル消長)。

4. 流行が収まる理由

再度強調しますが、120日間周期などと言わなくとも、感染対策の介入がある限り、あるいは生物学的要因が働く場合には、流行の波は必ず減衰します。

前のブログ「第5波感染流行が首都圏で減衰した理由」で述べたように、流行の初期は検査・隔離が間に合わず、急拡大して行きますが、隔離のスピードが拡大スピードに追いつくと感染源が減少します。追いつかない場合でも感染対策の介入(接触制限、対人距離の確保、マスク着用、換気対策など [隔離・遮断と同様な効果要因])によって、それが徹底される程、二次伝播可能なリザーバーが縮小し、感染スピードの鈍化が起こります。

加えて生物学的な要因があります。一つは感染による部分的な集団免疫効果であり、これも受容可能なリザーバーを縮小させます。さらに感染者の抗ウイルス活性(RNA編集)が働くとウイルスのランダム変異が促進され、増殖抑制が起こり、排出されるウイルス量が減少して、他者への感染伝播が起きにくくなる可能性があります。

これらの様々な要因が重なって、実効再生産数が1.0以下になれば、あとは急激に感染者数が減少していきます。この夏は加えて、エアロゾル減少に繋がる長雨という要因とワクチン接種率の上昇という要因も重なりました。別に120日周期説を考えなくともそれをAIに学習させなくても、流行は収まるという答えは出せるのです。

おわりに

新聞記事 [1] にある第5波流行の減衰要因としての「デルタ株の感染力が想定より低かった」、「120日周期があった」というのは明らかにおかしいです。誤った情報をAIに学習させれば誤った結果しか出ないのは当然でしょう。

新聞記事としては、感染症や公衆衛生の専門家の批評を添えなかったのもお粗末でした。流行減衰の原因として「ウイルスの自滅」説(→流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?エラー・カタストロフ限界説の誤解)を載せたメディアもありましたが、単に憶測記事だけを載せることは余計な混乱を招き、危険だと思います。

引用記事

[1] 沢田千秋: 人の流れ増えたのにコロナ感染急減 理由に「120日周期」説 AIが予測的中 第6波はいつ? 東京新聞 2021.11.16. https://www.tokyo-np.co.jp/article/142916

[2] テレ朝News: コロナ感染の増減 2カ月ごとの「不思議サイクル」 2021.10.05. https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000230950.html

引用したブログ記事

2021年11月9日 エラー・カタストロフ限界説の誤解

2021年10月31日 流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?

2021年9月28日 感染流行減衰の要因:雨とエアロゾル消長

2021年9月7日 第5波感染流行が首都圏で減衰した理由

2021年8月16日 デルタ変異体の感染力の脅威

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

エラー・カタストロフ限界説の誤解

更新:2011.11.11:23:50

はじめに

エラー・カタストロフ(error catastrophe)とは、過剰な突然変異によって生物やウイルスの種・個体内の正常な遺伝情報が失われ、壊滅的になることを言います [1]。マンフレッド・アイゲン(Manfred Eigen)[2, 3] が提唱した造語であり、遺伝的近縁集団(準種quasispecies)の進化を数学的に説明するのに用いられました(Eigen–Schusterの準種モデル [4])(下図)

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日本では児玉龍彦氏(東京大学名誉教授)が、COVID-19流行の波を説明するのにこの理論(エラー・カタストロフ限界説)を持ち出しています [5]国立遺伝学研究所新潟大学の共同研究チームは「SARS-CoV-2nsp14変異がゲノム全体の変異を蓄積させ、ウイルスが自滅して第5波流行減衰に繋がった可能性がある」という報告を行ないました。メディアがこれを取り上げた結果、SNS上で盛んにエラー・カタストロフ限界説と結びつけたウイルスの自滅説が飛び交うようになっています。

私は先にブログ記事で、第5波流行が減衰した原因として、エラー・カタストロフと「ウイルスの自滅」を結びつけて論じるのは間違いであることを指摘しました(→流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?)。ここで再度、この理論の適切な適用の仕方を説明しながら、どこが誤解かを指摘したいと思います。そこには、エラー・カタストロフ理論自体の限界と拡大解釈および「ウイルスの自壊」という考え方の不適切さという二つの問題があります。

1. エラー・カタストロフの概念と現実の変異

エラー・カタストロフ限界理論を適用して、COVID-19流行の減衰を「ウイルスが自滅する」からと考えるのは、結論から言うと、全くの誤解です。ウイルスは自然状態で集団全体では自滅することはありません。言い換えると、ウイルス自体は常にランダム変異を起こしており、その変異が一つでも致死的であれば消失しますが、一方で適応した個体が存在します。

私たちの目の前にいるウイルスは常に適応した変異体であり、自滅したウイルスは目にすることができません。したがって、変異の蓄積も認識することができず、適応した変異が進化と多様化という形で残っているだけです。この変異による系統的多様性の広がりは、宿主の免疫系によるウイルス認識を回避する可能性を高くしていきます。SARS-CoV-2で言えば、宿主間を伝播するタイプとしてはオリジナルの武漢型はもはや存在せず、今は偶然に適応した多様な変異体が蔓延しています。

要するに、突然変異の量ではなく、変異の質がウイルスの運命に関わっており、致死的な変異は直ぐに失われるので、集団内で広がることもありません。集団で自滅することもないのです(これは言葉の問題でもありますが)。機能的に必須なタンパク質において、一個でもアミノ酸の置換が起これば致死的になる場合もあります。

ただし、ウイルスは宿主の中でしか増殖できませんので、ウイルスの変異については自身の複製機構だけでなく宿主との相互作用が大きく影響しており、ウイルスの突然変異が促進されている可能性があります。この場合、宿主側からの攻撃によってウイルスが損害を受ける立場なので、いわゆるウイルスの自壊(自滅)とは異なります。

一方で、エラー・カタストロフでは、このように自然に起こるゲノムの複製のエラーとは関係なしに、ウイルスの準種における突然変異の過剰蓄積を想定し、それが自己同一性のメルトダウンに至るプロセスを考えます。そして、どの程度変異が進めば自己同一性を失ってしまうかのエラー閾値を考え、それを数学モデルで予測しています。ここで、準種とは、近縁のゲノム集合体が、変異、競争、選択などの連続的なプロセスにさらされている状態での遺伝的および表現型の集団構造を指します。

エラー・カタストロフでは、生物やウイルスの集団における突然変異の蓄積量の変化、および集団を維持できなくなる致死的な閾値を想定しますので(質は考慮していない)、現実には自然に起こる生物進化には適用することは難しいです。なぜなら、上述したように、ゲノム(DNAやRNA)の複製に関わる酵素の複製エラーとその取捨選択(自然淘汰)は一定の時間的確率で起こっており、見かけ上、変異の過剰な蓄積は起こらないからです。そして、目に見える時系列での変異は必ずしも致死的になるとは限らないのです(一般的にはこれを進化という)。

2. エラー・カタストロフ理論の検証と批判

エラー・カタストロフ理論については、さまざまな数値シミュレーションや実験的検証が行なわれてきました。この理論によれば、突然変異を過剰蓄積した消滅寸前のウイルスが存在するはずですが、実験的には明確に証明されていません(後述)。

もしこの理論の適用が可能とすれば、ウイルスの突然変異を促進する外的要因が想定される場合です。たとえば、その要因として変異原や変異誘発の治療薬、あるいは上述した宿主の抗ウイルス活性が考えられます。ただ、変異誘発以外の薬剤によるウイルス消滅と区別できず、エラー・カタストロフ理論の証明にはならないとの批判があります。

エラー・カタストロフ理論(Eigen–Schusterの準種モデル [4, 6])について検証を行なった例の一つとして、やや古い論文ですが、Summers & Litwinの総説 [7] があります。ここでは、提示された具体的な数式モデルは省略しますが、この報告の考察を参照しながら、本理論への批判を考えてみたいと思います。

エラー・カタストロフについて最初に行なわれた数値シミュレーションでは、ゲノムは変異の数に応じてマスター配列と同一のものと異なるものに分類されました [6]。数学的な処理を簡単にするために、マスター配列のフィットネスレベル(優れている)と、他のすべての配列のフィットネスレベル(劣っているが有限である)の2つだけを想定しました。

論文 [7] で強調されていることは、このモデルが、複製時に発生したエラーの結果は、複製率が1回だけ低下するというものとして考えられており、ゲノムがその配列劣化によって適合度ゼロの特性を獲得することは想定されていないということです。必然的な結果として、すべての変異ゲノムが複製可能ということになり、この仮定によって、ランダムな突然変異配列を持つ複製可能なゲノムの集団だけで構成される準種が存在するということになります。

すなわち、突然変異による崩壊の過程で、エラー閾値で野生型ゲノムを消滅させるのは、この複製可能な突然変異体の集団なのです。エラー閾値での絶滅は、野生型ゲノムが突然複製されなくなったために起こるのではなく、変異体ゲノムの複製率が不変であるという前提で、野生型ゲノムの収量がエラー率に応じて連続的に減少していくことで発生することになります。

エラー・カタストロフ理論はいろいろとモデル改良されてはいますが、いずれも「エラーの連続は突然変異体の複製に影響を与えない」という大前提は維持されています。一方、突然変異が変異体の集団に及ぼす悪影響(複製阻害)を考慮すると、Eigen−Schusterの準種のモデルでは、エラー・カタストロフを予測できなくなります。

このように、現実的には確固たる理論的裏付けがないにもかかわらず、エラー・カタストロフ理論は、文献上の2つの一般的な実験的観察からその根拠を主張しています。一つは、変異原の存在下で連続的に培養した後、細胞培養物からウイルスの感染力が失われることであり、もう一つは、ウイルスまたはウイルスRNAが感染できる見かけ上の変異頻度の閾値があることです。

とはいえ、エラー・カタストロフを支持する実験結果は、一般に代替的な説明の提案や検証がなされていないことや、データの精度が不十分であるという欠点があります。たとえば、変異原が複製率に及ぼす影響は、ヌクレオシド鎖複製停止の薬剤などの影響と区別できません。変異原の作用によってウイルス集団が絶滅しても、理論的には感染粒子の生成を阻害するだけで絶滅させることができるので、それだけではエラー・カタストロフの証拠にはなりません。

いくつかのRNAウイルスでは、突然変異の頻度を数倍以上に増やすと、生存率が大きく低下することが指摘されています。この観察結果は、RNAウイルスが実際にエラー・カタストロフの閾値付近で複製を行っていることを示していると解釈されています。しかし、実際は、突然変異率の大幅な増加が検出されることがないことは、致死的な突然変異は消失するということで説明できます。

エラー・カタストロフ理論の予測では、RNAウイルスゲノムによる突然変異の蓄積は無限であるはずです。そして、突然変異の蓄積でメルトダウンを起こすような産物は、ランダムな配列を持つ超変異ゲノムであるはずです。しかし、このようなゲノムを検出することを目的とした実験は失敗に終わっています [8]。現実に見つかるのは、通常の変異速度をもつRNAウイルスであり、超変異ゲノムをもつRNAウイルスが見つかった例はありません。

Summers & Litwin [7] は、エラー・カタストロフを予測する理論モデルは、私たちが知りえる生物学・ウイルス学の世界でのウイルス感染を現実的に表現することはできないと批判しました。そして、それだけでは抗ウイルス療法の新しいパラダイムとはなり得ないとしました。

より最近の、宿主のAPOBECファミリータンパクによるレトロウイルスやRNAウイルスのゲノム編集に関する知見は、過剰変異が致死的効果をもたらすという意味ではエラー・カタストロフを再現しているように見えます。また、変異原によるウイルスRNAの過剰変異も然りです。しかし、過剰変異が起こす複製阻害を一様にエラー・カタストロフと呼んでいて、オリジナルのEigen–Schusterの数学的準種モデルの範疇を超えているように思います。

3. 宿主の抗ウイルス活性-APOBEC

APOBECファミリーのシチジンデアミナーゼは、哺乳類細胞において、小型DNAウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、さらにはコロナウイルスなどのRNAウイルスのゲノムを致死的に編集することで、抗ウイルス活性を示します。ヒトでは、22番染色体上にC→U RNA編集シチジンデアミナーゼAPOBEC1(apolipoprotein B mRNA editing enzyme catalytic subunit 1)と構造的および機能的に関連するタンパク質をコードする7つの遺伝子から成るクラスターが存在します。

このうちの一つであるAPOBEC3G(A3G)は、RNAと一本鎖DNA中のシトシン(dC)からウラシル(dU)への部位特異的な脱アミノ化を触媒します。これらの酵素は、HIV-1を含む様々なレトロウイルスやレトロトランスポゾンの複製を強力に阻害することがわかっています。A3Gが誘発するHIV-1の過剰変異のメカニズムについては、Okada &Iwataniの総説論文 [9] で解説されています。

A3G抗ウイルス活性の一つの可能性は、A3G依存性の脱アミノ化が、細胞内のウラシルDNAグリコシラーゼ(UDGs)によるdU含有逆転写産物の分解を誘発することです。一方で、ウイルスに取り込まれたA3GがウイルスのDNAゲノムに致死レベルのG→A過剰変異を発生させ、子孫ウイルスの産生とその後のウイルス伝播を終了させる致死的な結果をもたらすことが示されています。すなわち、ウイルスを「エラー・カタストロフ」モードに追い込む可能性があるということです。

しかし、Okada & Iwatani の総説では、変異原によってもたらされる大量の突然変異は、「エラー・カタストロフと呼ばれるウイルスの複製失敗」につながると述べられており、段階的に複製率と収率が低下していくというオリジナルの概念では必ずしも捉えられていません。

APOBECファミリータンパクによるSARS-CoV-2のRNA編集については、Ratcliff & Simmonds [10] によってレビューされています。この総説ではエラー・カタストロフについては直接触れられていませんが、SARS-CoV-2に頻繁に見られるAPOBEC様のC→U変異が進行すると、これまでにヒト季節性コロナウイルスのゲノムで報告されているような世界的なC塩基の枯渇とU塩基の過剰の原因になるかもしれないと予測されています。

APOBECは、宿主とレトロウイルス宿主とRNAウイルスの相互作用に重要な役割を果たしていることは間違いありませんが、このプロセスを機能的に研究することの難しさが指摘されています。なぜなら、ヒトには異なるAPOBECが多数存在し、ウイルス、RNA、DNAの標的や生物学的活性が異なると考えられるからです。たとえば、宿主全体の防御におけるAPOBECの機能の生体内モデルとして適していると思われるマウスは、A3遺伝子を1つしか持っていませんが、霊長類やコウモリでは7つ以上持っています。

さらに、Ratcliff & Simmonds [10] の指摘で興味深いことは、APOBECによるウイルスゲノムのホモプラティックな変化(垂直進化上ではなく異なる系統で獲得される同形質)は、分子疫学調査に用いられる系統樹の構築を困難にし、無関係な系統間の誤った関連付けを引き起こす可能性があるとしていることです。これらの変異が、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)による複製時の取り込みエラーではなく、宿主の要素によって引き起こされたとすると、ウイルスの進化モデルの概念的基盤の多くを支える中立進化の仮定を覆すことにもなると述べています。

さらにAPOBECの役割について、潜在的な突然変異がウイルスの体力に長期的にどのような影響を与えるかは不明であるけれども、全体的な集団の多様性に貢献するだろうと述べています。

二つの総説 [9, 10] を対比させて読むと、APOBECによるゲノム編集が宿主レベルが起こる場合にエラー・カタストロフに至る可能性があるということと、その変異が集団レベルに広がって進化的な多様性に繋がるというは別であるということがわかります。つまり、エラー・カタストロフが起こるとしても、それはあくまでも一つの宿主内での話であって、集団的な感染流行の波には当てはめられないということです。

APOBECがウイルス抑制に働いていること、それが人種間で差異があるかもしれないことは想定できますが、それがエラー・カタストロフとして集団内で同調的に広がるメカニズムは、現時点においては全く想定できません。

4. 治療薬によるエラー・カタストロフ

致死的変異を誘発するヌクレオシド薬剤の使用は、多くのRNAウイルスが持つ高い変異率と低い変異耐性を利用した、広範囲な抗ウイルス戦略であり、エラー・カタストロフ理論の実践の場となっています [11]

たとえば、リバビリン(ribavirin)はG→A、C→Uへの変異頻度を増加させるのに対し、ファビピラビルはA→G、U→Cへの移行を促進します [12]。後者は、日本ではインフルエンザの治療薬(商品名:アビガン)として承認されており、中国とロシアではCOVID-19の治療薬として認可されています。

最近COVID-19治療薬として登場してきたのがモルヌピラビルです。これは、元々インフルエンザ治療のために開発された経口抗ウイルス薬で、合成ヌクレオシド誘導体N4-ヒドロキシシチジン(EIDD-1931)の前駆体ドラッグ(NHC)です。

Gordonら [13] は、NHCがウイルスのRNAに取り込まれ、RdRpの鋳型として用いられることを明らかにし、ウイルス学的な証拠と一致する変異誘発モデルを提案しています。つまり、モルヌピラビルがSARS-CoV-2をエラー・カタストロフに導く分子メカニズムが提示されているわけです。

モルヌピラビルは、ウイルスのRNA複製プロセスにおいて、そのRdRpの複製エラーを促進します。この薬剤は体内に入ると、シチジンに類似したリボヌクレオシドアナログ(NHC-TP)に代謝・変換され、RdRpによるRNA複製時には、本物のシチジンの代わりに取り込まれます。 

NHC-TPはシチジン(C)や脱アミノ化されたウリジン(U)を模倣することで、元のRNAとは異なる配列を与えることになりますが、これはエラー校正エキソヌクレアーゼであるnsp14によってエラーとして認識されません。すなわち、RdRpがRNAを複製しようとすると、NHC-TP挿入部位でランダムにCあるいはUとして解釈することになり、その度に多くの突然変異が発生します。その変異が蓄積される結果、ウイルスに致死的に働くとされています。

NHCはリバビリンやファビピラビルに比べて100倍以上の活性を示し、その活性はウイルスRNAの変異頻度の増加と相関していることが示されています [13]。モルヌピラビルがエラー・カタストロフ理論に沿って働いていると言うなら、実際に治療薬を与えられた患者あるいは感染細胞から変異頻度が異なるさまざまなウイルスが分離され、かつ変異の蓄積度に応じて、複製は起こっているけれども、ウイルスの収量に差があることが証明される必要があるでしょう。

ところで、モルヌピラビルには固有のリスクがあります。NHCは、宿主細胞でリボヌクレオチド還元酵素により2′-デオキシリボヌクレオシド型に代謝され、宿主細胞のDNAに取り込まれます。NHCの変異原性は動物細胞培養で示されており、モルヌピラビルによる腫瘍形成の潜在的リスクや、精子前駆細胞の生成および胚の発生における有害な変異の出現が懸念されています [14]

おわりに

生物やウイルスは自ら過剰変異を起こすことはありません。また、変異は中立的に常に起こっており、その変異が機能的に重要なタンパク質に阻害的に働けば、その個体は消滅して行きます。つまり、変異量に関わらず、1個のアミノ酸の変化でも、必須タンパク質の構造や機能に有害であれば致死的に働きます。そのような有害な変異を起こした個体は駆逐されるだけで集団内に広がることはなく、適応したものだけが残存していきます。

エラー・カタストロフ理論は、複製機能が不変という前提で突然変異の過剰蓄積によるメルトダウンを想定しているため、点変異による致死的結果を説明できませんし、阻害剤によるウイルスの複製停止で起きる消滅と区別して解釈することも不可能です。この理論が成り立つとしたら、宿主の効ウイルス活性や変異原が作用して過剰変異が起こる場合ですが(例:APOBECやモルヌピラビル)、現象を解釈できる実験的検証と理論的裏付けがなお必要でしょう。

日本における第5波流行がエラー・カタストロフによって減衰したとするなら、突然変異度が異なる閾値に至るさまざまなウイルスが分離されるはずです。実際にはそのような過剰変異ウイルスが検出されたという報告はありません。したがって、流行減衰を現段階でエラー・カタストロフ理論で説明するのは無理がありますし、ましてやウイルスの自壊とか自滅とかいう言い方は不適切です。

第5波流行は、デルタ株の国内変異で生じた亜系統ウイルスAY.29変異体(一部AY29.1)が原因であったことがわかっています [15, 16]。エラー・カタストロフに繋がるような超変異体はおそらく分離されていませんし、この流行の減衰をウイルス自壊説で説明するのは無理です。

ブログ更新:2021.11.11

このブログ記事を書いた後に、インペリアル・カレッジ・ロンドンの免疫学者小野昌弘医師の「デルタの「死滅・自壊」が第5波収束の原因ではないといえる理由」という記事が配信されました。この記事を引用しておきます [17]

引用文献・記事

[1] Science Direct: Error catastrophe. https://www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/error-catastrophe

[2] Eigen, M: Selforganization of matter and the evolution of biological macromolecules. Naturwissenschaften 58, 465-523 (1971). https://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00623322

[3] Eigen, M.: Error catastrophe and antiviral strategy. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 99, 13374-13376 (2002). https://doi.org/10.1073/pnas.212514799

[4] Eigen, M., & Schuster, P.: A principle of natural self-organization. Part A: Emergence of the hypercycle. Naturwissenschaften 64, 541-565 (1977). https://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00450633

[5] 石田雅彦: 新型コロナの「急速な収束」はなぜ起きたのか:児玉龍彦氏に聞く「エラー・カタストロフの限界」との関係は. Yahooニュース Japan. 2021.10.05. https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20211005-00261667

[6] Swetin, J., & Schuster, P.: Self replication with errors, a model for polynucleotide replication. Biophys. Chem. 16, 329-345 (1982). https://doi.org/10.1016/0301-4622(82)87037-3

[7] Summers, J. & Litwin, S.: Examining the theory of error catastrophe. J. Virol. 80, 20–26 (2006). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1317512/

[8] Grande-Pérez, A. et al.: Molecular indetermination in the transition to error catastrophe: Systematic elimination of lymphocytic choriomeningitis virus through mutagenesis does not correlate linearly with large increases in mutant spectrum complexity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 99, 12938–12943 (2002).

[9] Okada, A. & Iwatani, Y.: APOBEC3G-mediated G-to-A hypermutation of the HIV-1 genome: The missing link in antiviral molecular mechanisms. Front. Microbiol. https://doi.org/10.3389/fmicb.2016.02027

[10] Ratcliff, J. & Simmonds, P.: Potential APOBEC-mediated RNA editing of the genomes of SARS-CoV-2 and other coronaviruses and its impact on their longer term evolution. Virology 556, 62–72 (2021). https://doi.org/10.1016/j.virol.2020.12.018

[11] Perales, C. et al. The increasing impact of lethal mutagenesis of viruses. Future Med. Chem. 11, 1645–1657 (2019). https://doi.org/10.4155/fmc-2018-0457

[12] Menéndez-Arias, L.: Decoding molnupiravir-induced mutagenesis in SARS-CoV-2. J. Biol. Chem. 297, 100667 (2021). https://doi.org/10.1016/j.jbc.2021.100867 

[13] Gordon, C. J. et al.: Molnupiravir promotes SARS-CoV-2 mutagenesis via the RNA template.  J. Biol. Chem. 297, 100770 (2021) https://doi.org/10.1016/j.jbc.2021.100770

[14] Zhou, S. et al.: β-D-N4-hydroxycytidine (NHC) inhibits SARS-CoV-2 through lethal mutagenesis but is also mutagenic to mammalian cells. J. Infect. Dis. 224, 415–419 (2021). https://doi.org/10.1093/infdis/jiab247

[15] Abe, T. & Arita, M.: Genomic surveillance in Japan of AY.29—A new sub-lineage of SARS-CoV-2 Delta Variant with C5239T and T5514C Mutations. medRxiv Posted Oct. 08, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.09.20.21263869v3

[16] 東京都健康安全センター: 東京都で検出された新型コロナウイルス の全ゲノム解析結果(AY型対応). http://www.tokyo-eiken.go.jp/lb_virus/sars2ngstree/

[17] 小野昌弘: デルタの「死滅・自壊」が第5波収束の原因ではないといえる理由. Yahooニュース Japan. 2021.11.11. https://news.yahoo.co.jp/byline/onomasahiro/20211111-00267460

引用したブログ記事

2021年10月31日 流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:ウイルスの話

テレビの情報番組が伝えた「維新」躍進の分析

はじめに

今日の読売テレビの番組「ウェークアップ」では、先の総選挙で日本維新の会が躍進したことを話題として取り上げていました。馬場伸幸幹事長をリモート生出演させながら、勝因の分析やこれからの国会の枠組みの予想について伝えていました。

本番組は、テレビ局のスタンスや常日頃体制よりの発言をする野村修也MCの姿勢を考慮しながら観る必要がありますが、今日は割と客観的な分析をしていましたのでここで紹介したいと思います。ただ、その内容は、大方のメディアと同じく、野党共闘の左寄りを有権者が嫌った結果、維新に票が流れたという見方です。

1. 立憲民主党の敗因は野党共闘

番組の冒頭では、各党の獲得議席数の結果(表1)とともに、維新の躍進および野党共路線をとった立憲民主党の「敗因」の分析が行なわれていました。表1を見ると、小選挙区では自民党が21議席を失い、その分がそのまま立憲と維新に振り分けられているように見えます。逆に比例では立憲が23議席共産党が2議席をを失い、それが維新と自民に振り分けられた格好です。差し引きをした数の上では、自民と立憲が負け、維新が一人勝ちした印象です。

ただ、自民党単独過半数を超え、安定議席数を確保しましたので事実上は勝利となるでしょう。その中でも連立与党の公明党はしっかりと微増させています。

表1. 今回の総選挙における各政党の獲得議席

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野村MCは、野党共闘路線についてリベラルか共産主義かという選択有権者は迫られ、結局共産主義を嫌って、野党共闘から維新へ乗り換えた投票行動に繋がったという主旨発言をしていました。ゲストコメンテータの田崎氏も、立憲は共産との連携で左に振れ過ぎたことが敗因だと述べていました(図1)。

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図1. テレビの情報番組が伝えた野党連携の効果(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

海外の多くのメディアも、専門家のコメントを引用しながら、野党共闘が左に寄り過ぎたという国民の警戒感を生み、敗北に繋がったという分析をしています(→日本維新の会は右翼のポピュリスト政党海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか)。

とはいえ、図1の福山幹事長のコメントにもあるように、小選挙区では立憲は議席を増やしており、次点でも接戦のところも多かったので、野党共闘は一定の効果があったことは確かでしょう。実際は、この共闘には社民党とれいわ新撰組も加わっており、れいわは比例で2議席増やしています。これには、代表の山本太郎氏のSNSでの発信力が効いているかもしれません [1, 2]

ただ、それ以上に、野党共闘に対する与党や維新による共産主義」、「野合」という事前のネガティヴキャンペーンが効いて、大衆の共産党アレルギーをさらに増幅させたということではないでしょうか。大手新聞やテレビさえも、野党共闘について選挙前にネガティブに伝えていましたので、立憲がその分票を失うのも当たり前だ言えば当たり前と思われます。かと言って、野党共闘を組まず、立憲単独で闘った場合でも絶対に自公に勝てないことは明らかでした。

それでも、選挙結果の鍵を握ると言われる無党派の投票行動を見ると、野党共闘にまったく拒否反応を示したのかというと必ずしもそうではありません。図2に、報道 [3] に基づいて、無党派層の比例投票先について今回の結果と前回(2017年)の結果を比較して示します。今回で見れば、立憲がトップの獲得率(24%)であり、野党共闘全体になると42%になります。一方、自公は22%、維新は20%になります。維新は前回に比べて大幅に票を上乗せしたとは言え、それでも野党共闘の半分しかありません。

前回の希望の党の票(18%)を今回どう振り分けるかが難しいですが、9%分を国民民主に当てると、本来残りの9%が立憲に行くべきところが他党に逃げたと考えることができます。そうすると立憲は前回と比べて15%程度票を減らしているということになります。しかし、今回れいわが7%獲得していますので、野党共闘内でこの分を吸収していることになり、立憲の目減りは実質8%程度になるということでしょうか。

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図2. 無党派層の比例の投票先:2021年と2017年総選挙の比較(共同通信の集計データ [3] に基づいてグラフ化).

自公も前回と比べて5%票を減らしています。そうなると、立憲(野党共闘)と自民が減らした分が維新に流れたということになるでしょう。それでも、無党派層での野党共闘の得票率が断トツなのですから、これが失敗だったと決めつけるのはいささか言い過ぎになるでしょう。

むしろ、立憲の支持者層が、小選挙区で立憲に投票しながら、共産党の候補者が立ったところでそれを支持しなかったこと、そして比例では維新を選択したことが大きく影響したことが考えられます。だとすれば、立憲にSNS発信を含めた情宣力がなかったということかもしれません。立憲パートナーズに逐次選挙マガジンを送信するということは行なっていたにしろ、最後の詰めに至る行動力(自民党がよくやる「投票に行ってください」という電話攻勢など)がなかった(その発想もなかった)ということになるでしょう。

選挙の結果は投票率にも左右されます。一般には投票率が上がれば野党有利と言われていますが、今は投票率の低い若い人程自民党を支持する割合が高くなっています。そこから投票率が上がれば、自民党がより勝つだけであり、政府批判しかしない野党では負けるのが当たり前という指摘も出ています [4]。果たしてそうでしょうか。

若い人での政党支持率が一番高いのは自民党ですが、実は、それよりも割合が高いのが「支持する政党はない」という無党派層です。無党派ではその時の風によって投票行動が変化しますので、若い人の投票率が上がることが必ずしも自民党に有利ということにはなりません。

政府批判しかしない野党 [4] というのも、政権側からのプロパガンダやメディアが作り上げたデマです。国会では野党の賛成によって可決した法案の方が圧倒的に多く、政権が実施したコロナ対策も、10万円一律給付も含めて多くが野党提案によるものです。ただ、政策決定の権限は政権と与党にありますから、野党が提案した政策でもパクリで与党の手柄になってしまい、メディアが報道しないこともあって野党の貢献度はきわめて薄まっているのが現状です。

野党共闘政党は「野党は批判ばかり」という声に対して、なお批判で返していては、デマが染み付いた国民はついてきません。批判にリンクさせて分かりやすい言葉で政策を主張する力(言わばポピュリスト的手法)が圧倒的に足らないと思います。

2. 投票結果にみる維新のポピュリズム

先のブログ記事でも書きましたが、海外メディアは軒並み維新を右翼のポピュリスト政党という認識をもって紹介しています(→日本維新の会は右翼のポピュリスト政党)。なぜポピュリスト政党として見ているのか、それは選挙結果にも出ているような気がします。

表1の結果だけを見ていると、さも維新が大躍進したように見えますが、実は選挙区や得票率を見るとその異常さが見えてきます。すなわち、小選挙区16人の当選者のうち、15人(94%)は大阪の選挙区からの当選であり、しかも得票率が高いのです。

表2に示すように、大阪の19の選挙区のうち、15の区を維新の当選者、残りの4区を公明の当選者で占め、両党で大阪を独占しています。そして、よく見ると維新と公明の選挙協力の跡がありありです。公明の候補者が出ている選挙区に自民党の候補者が出馬していないのは当然なのですが、実は維新も公明と重ならないように選挙区調整していることがわかります。大阪の人たちは反自民というつもりで維新に投票したかもしれませんが、全国から見れば維新は自公与党の補完勢力と思われる所以です。

表2. 大阪選挙区における当選者、立候補者、および比例当選者の政党(当選した候補者の政党を色付けして表示. 朝日新聞の報道 [5] に基づいて表作成)

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維新は15選挙区で当選者を出していますが、そのうち8選挙区で50%以上の得票率を得ています。東京では、得票率40%以下の当選は4選挙区ありますが、大阪では一つもありません。ちなみに得票率最低は大阪10区の池下卓氏(40.32%)で、立憲の辻元清美氏(33.35%)と争ったものです。

これがどういう意味なのか、同じ大都市圏として大阪と東京を新聞報道 [5, 6] に基づいて比べてみましょう。図1に示すように、当選者の得票率は大阪が東京よりも高く、逆に次点者の得票率は東京で高くなっています。平均惜敗率は大阪では63%、東京では75%です。標準偏差で見れば、東京では当選者と次点者では重なる部分があるのに、大阪ではまったく重なっていません。

つまり、大阪で多くの選挙区を制した維新の候補者は、次点者に圧倒的な得票率の差をつけて勝ったということがわかります。比例でも票を稼ぎ、他党の比例当選を許していません(たった5人しかいない)。BuzzFeedの記事 [7] で、維新の躍進は「ポピュリズム」という評価は必ずしも正しくないという見方が紹介されていますが、大阪では「一択」で維新という選挙結果の数字に、明らかにポピュリズム的傾向は出ているのです。

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図3. 大阪選挙区および東京選挙区における当選者と次点者の得票率の平均値と標準偏差朝日新聞の記事 [5, 6] に基づいてグラフ化).

ポピュリズムとは、一般大衆の利益や権利を守り、大衆の支持のもとに、既存のエリート主義的体制や知識人などに対して批判的な政治思想や政治姿勢を示すことを言いますが、その定義はさまざまで、研究者や時代によって異なります。

上記の意味では、民意を基礎とする民主主義の延長線上にポピュリズムがあると考えられますが、しばしば個人的な人気を備えた政治家が直接大衆に訴えたり、単純明解なスローガンを掲げながら大衆に訴える手法がとられることがあり、大衆迎合主義と呼ばれたりします。大衆が考える利益や不満に対する解を単純化して訴えれば支持を得られやすくなりますが、行き過ぎると少数意見の抑圧を生み、全体主義に繋がることもあります。

維新の手法を見ると、「身を切る改革」「停滞か維新か」「是々非々」などの単純なスローガンを掲げながら、与党の自民党や野党第1党の立憲民主党を徹底的に批判しています。人気がありツイッターのフォロワー数が多い吉村洋文副代表が頻繁にテレビに出て、大衆に直接訴えたりしています。第4波COVID-19流行では、大阪は医療崩壊を起こす程の甚大な被害を出していたにもかかわらず、吉村知事は連日のようにテレビに出て評論家風の解説をすることで、あるいは「ヤッテル感」を出すことであたかも適切に対策をとっているような印象を視聴者に与えました。

つまり、「野党は批判ばかり」と言いながら実は自らも対立軸を作って批判し、それに大衆受けする単純なスローガンや「顔」を添えて訴えています。まさしくポピュリストの手法であり、これに有権者が投票行動において多様性を選択するよりも1党集中的に反応するようであれば、ポピュリズムと言ってもいいような気がします。今回は大阪では7%投票率が上がった [8] 上で、維新の得票率も伸びています。大阪での維新の政党支持率は30%あるとも言われており、地域に特化した与党政党ということもあって、それが数字として出ているのです。

危機的なのは、大阪の人々が、表2に示すような独占的な選挙結果に疑問を抱いていないような傾向があることです。大阪在住の知人によると、地元では吉村知事はヒーローあるいは教祖のような存在であり、第4波流行でさえ大阪は吉村知事のおかげで助かったと考えている人たちが少なくないということだそうです。実際は逆で、吉村知事の判断ミスで医療崩壊を招いたことは、先のブログ記事で指摘したとおりです(→大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)。

3. 維新のこれからと課題

ウェークアップでも指摘していましたが、維新の課題はまず選挙結果に出ています。躍進した維新ですが、実は今回の議席数は、結党した時の最初の議席数にはまだ到達していません(図3)。これは、大阪という地域ポピュリスト政党である限り、議席数の大幅な増加は望めないということでしょう。

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図4. テレビの情報番組が伝えた維新の議席数の推移(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

もう一つ選挙結果の課題があるとすれば、今回の議席増は少し上げ底の印象があることです。例を挙げるなら、福岡1区で当選した山本剛正氏は、獲得票数では3位でありながら、比例票で救われて復活当選しています(図4)。このように、小選挙区では2位にもなれず、惜敗率50%に満たない新人議員が8人も比例復活当選しているのです。徳島1区の吉田知代氏に至っては、当選制限ギリギリのわずか得票率10.1%、惜敗率20.1%で比例当選しています。

このように、選挙区で信任を得たとも思われない維新の議員が、全体の獲得議席の20%にも及んでいるということは、次回少し風が変わればあっという間に議席を減らす危険性をはらんでいます。

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図5. テレビの情報番組が伝えた維新候補者の比例復活の例(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

これからの国会での枠組みという点では、維新のスタンスは与党よりの積極姿勢となるかもしれません(図5)。自民党と維新は元々政策的に大きな違いはあるものの、防衛費の制限撤廃、憲法改正への積極的性、放射性廃棄物の海洋投棄や新しい原子炉の開発などでは、両党で足並みを揃えられる面があります。

特にこれらの改憲勢力が国会で2/3以上を占めたことにより、憲法改正論議が進んで行くでしょう。憲法改正には国民民主党も積極的です。野党共闘の枠組みから離脱したこともあり、憲法改正には、この党も維新や自民と足並みを揃えていくことになるでしょう。

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図6. テレビの情報番組が伝えた維新の党勢拡大に伴う今後の枠組み(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

おわりに

世界的な大きな政治課題は、地球温暖化に伴う気候変動と環境変動、大災害対策、食料危機とエネルギー危機、パンデミック対策、そして資本主義下の格差問題です。しかもこれらは未来の話ではなく、今直ぐ取り組まないと、もう取り返しがつかなくなるという転換点(tipping point)に私たちは立たされています。

この点を超えてしまうと私たちがいくらCO2削減をしようが、地球が勝手にドミノ倒しのように温暖化し、人類は壊滅的になってしまうと予測されています。もう超えてしまったと発言する科学者もいます。ドイツの先の総選挙では、最大の争点が気候変動と地球環境問題でした。一方、日本では選挙の争点にさえなっていませんでした。

長年の既得権益に縛られ、旧態依然の手法と政策しかもちえない自民党では、グレート・リセット(Great Reset)[9] が必要とされるこの大問題に対して迅速果敢に対処することができず、ズルズルと遅れをとって行くでしょう。COP26の場で2年続けて化石賞をもらったことにも現れています。維新も然りで、彼らが掲げるような「小さな政府」や新自由主義的政策では、これらの問題にまったく対応できません。早速、憲法改正論議に焦点を合わせるような動きも出ていますが、優先課題をまったく間違えていると思います。

引用記事

[1] 共同通信: ツイッター衆院選中の投稿. 2021.11.05. https://nordot.app/829263319690182656

[2] 東京新聞: 党首の「拡散力」はれいわ、共産 ツイッター衆院選中の投稿. 東京新聞. 2021. 11.05. https://www.tokyo-np.co.jp/article/141112

[3] 毎日新聞: 無党派層 立憲支持が最多24%、維新伸び21% 共同通信出口調査. Yahooニュース Japan. 2021.10.31. https://news.yahoo.co.jp/articles/57926db23df84942ba23ae9d32243852df5a9d92

[4] 山本 一郎: 投票率が上がれば、自民党がより勝つだけ」政府批判しかしない野党が無視する残念な真実. PRESIDENT Online/Yahooニュース Japan. 2021.11.05. https://news.yahoo.co.jp/articles/61d36a385cd988dcd022659c124cd066ef1d1e98?page=1

[5] 朝日新聞デジタル衆院選 大阪 開票速報.  https://www.asahi.com/senkyo/shuinsen/2021/kaihyo/A27.html 

[6] 朝日新聞デジタル衆院選 東京 開票速報. https://www.asahi.com/senkyo/shuinsen/2021/kaihyo/A13.html

[7] 千葉雄登: 維新の躍進は予想通り? 「ポピュリズム」という評価は的外れ? 大阪で自民党が全敗した理由. BuzzFeed 2021.1106. https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/ishin-2021

[8] nippon.com: 【Japan Data】衆院選投票率55.93%、戦後3番目の低水準 :「 維新」躍進の大阪は大幅アップ. Yahooニュース Japan. 2021.11.02. https://news.yahoo.co.jp/articles/b866645750e895d8e6c58f29c51174698455b18b

[9] World Economic Forum: The Great Reset: https://www.weforum.org/great-reset/

引用したブログ記事

2021年11月4日 日本維新の会は右翼のポピュリスト政党

2021年11月1日 海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか

2021年3月23日 緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念

2021年2月25日 大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請

              

カテゴリー:社会・時事問題

日本維新の会は右翼のポピュリスト政党

2021.11.05:20:05更新

はじめに

今回の総選挙で日本維新の会が躍進しました。事前の世論調査では維新の好調は伝えられていましたが、これほどの議席増(約4倍)とは、大方の人は予想していなかったのではないでしょうか。

この党の幹部が常日頃口にするのが、「身を切る改革」、「是々非々」というフレーズです。この宣伝が効いているのか、大阪の知人に訊いてみたところ、維新には自民党にはない、政策実行力のある改革の政党としてのイメージがあるという答えが返ってきました。

自民党では問題がありすぎて不満、かと言って野党第一党立憲民主党になるともう政権批判ばかりで実行力がない、論外という感覚なのでしょう。今回の選挙で言えば、野党共闘に対して共産主義(=中国共産党、旧東側諸国の独裁国家のイメージ)強調や「左に寄り過ぎ」などのネティヴキャンペーンも見られたので、多少なりとも維新の有利になったことは間違いないと思われます。

一方で、同じ大阪在住でも維新は嫌いという人もけっこういます。右翼的、独善的、歴史修正(改ざん)主義新自由主義のイメージがあるというのがその理由のようです。

では海外のメディアは維新をどのように見ているのか、先のブログ記事で英国ガーディアン紙の記事 [1] を紹介しましたが、「右翼のポピュリスト政党」と位置づけているのが印象的でした(→海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか)。このような維新の位置づけが果たして海外メディアからの一般的見方なのか、ここでは、さらに海外記事や英文記事の論調を拾い上げてみたいと思います。

1. インディペンデントの記事

まずは、アイルランドの新聞インディペンデント(Independent.ie)です。次の表題の記事で維新の躍進を伝えています。ガーディアンと同じく、以下の表題で、右翼のポピュリスト政党と位置づけています [2]

"Right-wing populist party makes biggest gains in Japanese elections" 「日本の選挙で右翼のポピュリスト政党が最も躍進

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記事では、維新の公約として、地方への権限委譲、規制緩和、減税、無駄な支出の廃止、防衛費をGDPの2%に倍増させるなどをを紹介しています。これら以外にも、教育の無償化、原子力発電の段階的廃止、カジノの建設などを、ポピュリスト的な政策として挙げています。その上で、今回の日本の選挙では、ポピュリストの右派政党が最大の勝利者となったとしています。

この結果は、維新が、カリスマ的なリーダーシップと深い保守的なプラットフォームを持つ地域政党から、全国的な政治勢力になったことを意味し、衆議院で第3位の勢力となったことで、岸田文雄首相の政策に影響を与える可能性があると伝えています。

本紙は、維新について、日本の植民地支配時代の歴史について明らかに修正主義的な見方をしているとも指摘しています。これは、日本が第二次世界大戦中に軍の売春宿において外国人の「慰安婦」(comfort women)を強制労働させたという国際的コンセンサスがあるにもかわらず、維新がこれに異議を唱えて続けていることを指します。

さらに、記事はテンプル大学東京キャンパスのアジア研究ディレクター、ジェフ・キングストン氏の話を紹介しています。「人々は、パンデミックや経済への対応もあって、自民党に不満だった。一方で、以前は左派系野党を支持していた多くの人々が、今回、支持政党が左に寄り過ぎたためにために見捨てた」と彼は述べました。

2. インサイダーの記事

米国オンラインメディアのインサイダーの記事 [3] では、吉村洋文大阪府知事に焦点を当て、右翼的と形容しながら、例のヨードうがい薬の件を皮肉りながら挙げているのが特徴です。

"Japan's new political powerhouse is a young, right-wing Twitter-friendly governor known for advocating that people gargle iodine to cure COVID-19" 「日本の新しい政治勢力は、COVID-19を治すためにヨードでうがいをすることを提唱したことで知られる、ツイッターで人気のある右翼の若い知事である

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冒頭で、「日本の新進気鋭の政治家といえば、右翼のポピュリスト政党の顔ともいえる大阪府の若き知事だ」、「吉村洋文氏は保守的な意見で知られており、かつては『ヨードでうがいをすればCOVID-19を予防・治療できる』と主張していた」と述べています。

そして、総選挙で「日本維新の会」が議席を伸ばしたことについて、「ツイッター映えする若き知事が率いるポピュリストの右派政党が急成長を遂げた」と伝えており、やはりポピュリストという言葉で形容しています。維新の魅力の一つは、この若手知事が党の副代表を務めていることであり、それは維新の党幹部が「アイドル並みの人気」と称するほど人気があって、ツイッターのフォロワー数が110万人を超えていることによるというニュアンスで伝えています。

記事では、東京大学政治学教授であるケネス・マッケルウェイン氏がガーディアン紙 [1] に語った「吉村氏が全国的な知名度を高めたことで、党全体にも追い風になったと思う」という話も引用しながら、維新の重要度が増したことを伝えています。すなわち、大阪のダークホース的存在であった維新が、第3位の政党となったことで、与党自民党、野党第1党である立憲民主党に次いで、この国の政治システムにおいて重要な発言力を持つようになったとしています。

しかし、同時に「吉村氏は論争と無関係の人物ではない」としながら危なっかしい面を伝えています。その一つは、昨年、COVID-19の治療法としてうがい薬を提唱し、日本の医療専門家たちを困惑させたことです。昨年8月の記者会見で吉村氏は、COVID-19の陽性反応が出た後、数日間この溶液でうがいをしたグループはその後ウイルスが陰性になったと主張しました。この件で、人々がポビドンヨードうがい液製品に狂喜乱舞する騒ぎになりました。

もう一つ挙げられていることが、サンフランシスコとの「姉妹都市」協定から大阪を一方的に離脱させたことです。吉村氏は、2015年から2019年まで大阪市長を務めていましたが、サンフランシスコのチャイナタウンに設置された、第二次世界大戦中に強制的性奴隷にされた慰安婦を称えるための記念碑に抗議し、61年前に締結されたこの「姉妹都市」協定から大阪を一方的に離脱させました。

最後に、ガーディアン紙に語った専門家の意見を紹介しています。「維新は岸田氏の『新しい資本主義の計画に障害をもたらすだろう」、「(維新は)大阪地域を席巻してしており、重要な保守層として浮上している」。

3. ロイターの記事

三番目は英国に本社をもつロイター(米トムソン・ロイターの一部門)です。ダークホース的な右翼政党としながら、今回の維新を躍進を伝えています [4]

"Dark horse right-wing party emerges as third-largest in Japan lower house" 「日本の衆議院でダークホース的な右翼政党が第3党に躍り出る

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ロイターは、維新を成長のきっかけとなる規制緩和、減税、地方分権を求めている党としながら、今回の選挙での成功の要因を、専門家の言述も紹介しながら、以下のように挙げています。

神奈川大学の日本政治の専門家であるコリー・ウォレス氏は、「維新は政府に対してより批判的な姿勢をとっている。一方で、人々は政府の出来を今ひとつと考えているが、主要な野党には満足していない。そこから、うまく票を引き出すことに成功した」と述べています。

維新の成功した他の理由の一つは、党のNo.2であり、若い吉村洋文大阪府知事ソーシャルメディアでの発信力があり、COVID-19パンデミックの際に、従来のキャンペーンが制限されていた時にメディアに頻繁に登場したことだと、法政大学教授の白鳥浩氏は述べています。

他の多くの日本の主流政治家とは異なり、ツイッターで120万人のフォロワーを持つ46歳の彼は、即興で発言し、しばしばテレビでパンデミック関連の規制を遵守するよう国民に熱弁を振るっていると記事は紹介しています。

ロイターの記事は、維新がこれから自民党の政策に及ぼす影響にも、専門家の発言を紹介しながら、触れています。

立命館アジア太平洋大学佐藤洋一郎教授(国際関係論)は、維新は小さな政府を支持しており、貧富の差を縮めるという岸田氏の新しい資本主義の考えに阻害的になる可能性があると指摘しています。

一方で、維新は戦後の憲法を改正し、防衛予算がGDPの1%という非公式な上限を超えることを認めることに賛成しており、自民党マニフェストで防衛費を2%に引き上げることを訴えています。記事では、「この2つの政党が手を取り合って防衛強化のための政策を推進すれば、他の野党にできることはほとんどないだろう」という政策研究大学院大学の増山幹隆教授の発言が紹介されています。

記事ではカジノについても触れています。維新はカジノ建設を推進していますが、大阪の事情もこれに手助けになっているようです。ウォレス氏は、大阪の住民は横浜などの他の候補地と比べて「カジノにそれほど強く反対しているわけではない」と述べ、最終的にカジノ支持派が勝利する可能性が十分にあることを示唆している」と付け加えています。

4. その他の記事

米国ブルームバーグは以下の表題で記事を伝えています [5]

"Upstart Japan right-wing party Ishin surprises with big election gains" 「日本の新進右翼政党「維新」が選挙で大躍進の驚き

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ブルームバーグの記事は、他紙と比べると、維新の右翼ポピュリストというニュアンスはあまり強くなく、選挙での躍進の要因を中心に伝えています。党首である松井一郎氏は、「無駄な支出」をなくし、政府の規模を縮小することや防衛費制限の撤廃を訴え、原子力発電を段階的に廃止してエネルギーミックスを変えることを主張してきました。記事では朝日新聞出口調査を引用しながら、この維新の戦略が無党派層を引き付けることに成功したとしています。

そして、野党共闘の失敗の要因として専門家の話をとともに共産党をキーポイントとして挙げています。「日本共産党が(失敗に)一役買った。人々は『共産党には投票しない』と言っていた」という、中央大学名誉教授スティーブン・リード博士の話が紹介されています。日本の警察が共産党を「最大の革命組織」と称して、いまだに監視の対象としていることも伝えています。

松井代表は投票後に「僕は日本には構造改革が必要だと言ってきたが、それに賛同してくれる人たちがたくさんいる」と語りました。このメッセージは、自民党や主要野党第1党である立憲民主党の大規模な支出計画に違和感を持つ有権者の一部に響いたようだと、SMBC日興がリサーチノートで述べたことが紹介されています。

最後に、「維新の躍進は、『小さな政府』路線への国民の支持が高まったことを意味する」とSMBC日興と述べたことを記事は伝えていますが、果たしてどうなのでしょう。維新に投票した多くの人たちが本当に「小さな政府」を望んでいるのでしょうか。むしろ、上述したように、自民党には不満があるけど、かと言って共産党が入る野党共闘は嫌だという中での単純な選択肢として維新に投票したというところではないでしょうか。

国際メディアプロジェクトであるピープルズ・ディスパッチの記事では、以下のような表題で伝えています [6]。やはり、維新を右翼のポピュリストと呼んでいます。

"Elections in Japan end with boost to right-wing, defeat of center-left opposition" 日本の選挙は右翼の躍進と中道左派の敗北で終わる

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おわりに

以上のように、日本維新の会は、海外メディアの目からは、右翼、ポピュリスト、歴史修正主義というキーワードで表されるような政党に映っているようです。大阪を中心に維新を嫌う人たちはきっとこのような傾向を含めて嫌っているのでしょう。

一方で維新を支持する人たちや今回維新の候補、あるいは比例代表で維新の名前を書いた人たちにはどのような政党に映っているのでしょうか。前述した実行力のある改革の政党というとらえ方はまあいいとして、右翼のポピュリスト政党という印象はもっているのでしょうか。おそらく、日本のメディアもそういうとらえ方の記事を書くこともないことから、投票した人たちには、右翼ポピュリストというイメージはなかったのでは?と思います。

今回の選挙では数字の上では維新の躍進ということになりますが、おかしなことも起こっています。維新の41議席獲得という中味を見ると、実は小選挙区で2位にもなれなくて落選し、惜敗率が50%に満たない新人議員が8人も比例復活当選しているのです。つまり、小選挙区という地域では、得票数で2位の野党共闘の候補にも遠く及ばず、地元の信任を得たとも思われない維新の議員が、全体の獲得議席の20%にも及んでいるということです。

現行選挙制度の矛盾が出たとも言えますが、維新の41議席というのは上げ底の感も否めません。とはいえ、これは大阪を中心とする国民が選んだ結果です。

個人的には、地方自治体の首長が政党の幹部を兼ねるという維新の政治形態に異常さを感じています。

2021.11.05更新

Independe.ieを誤って英国のメディアとしておりましたが(ツイッターでの指摘あり)、アイルランドに修正しました。さらに、ブルームバーグの記事を少し追記しました。

引用記事

[1] McCurry, J: Japan election: rightwing populists sweep vote in Osaka. The Guardian Nov.1, 2021. https://www.theguardian.com/world/2021/nov/01/japan-election-rightwing-populists-sweep-vote-in-osaka

[2] Ryall, J.: Right-wing populist party makes biggest gains in Japanese elections. Independent Nov.02, 2021. https://www.independent.ie/world-news/asia-pacific/right-wing-populist-party-makes-biggest-gains-in-japanese-elections-41007337.html

[3] Teh, C.: Japan's new political powerhouse is a young, right-wing Twitter-friendly governor known for advocating that people gargle iodine to cure COVID-19. INSIDER Nov.2, 2021. https://www.insider.com/japans-rising-political-star-young-governor-gargling-iodine-prevent-covid-2021-11

[4] Park, J. & Takenaka, K: Dark horse right-wing party emerges as third-largest in Japan lower house. Reuters Nov. 01, 2021. https://mobile.reuters.com/article/amp/idUSKBN2HM1QO

[5] Herskovitz, J.: Upstart Japan right-wing party Ishin surprises with big election gains. Bloombers Nov.01, 2021. https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-11-01/upstart-japan-right-wing-party-surprises-with-big-election-gains

[6] Peoples Dispatch: Elections in Japan end with boost to right-wing, defeat of center-left opposition. Nov. 02, 2021. https://peoplesdispatch.org/2021/11/02/elections-in-japan-end-with-boost-to-right-wing-defeat-of-center-left-opposition/

引用したブログ記事

2021年11月1日 海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか

              

カテゴリー:社会・時事問題

海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか

総選挙がおわり、与党第1党である自民党の安定多数の議席確保と野党第1党の立憲民主党の大幅議席減という結果に終わりました。その中でも日本維新の会の選挙前議席の4倍にも上る獲得議席は目立ちます。

日本の大手新聞は早速この選挙結果について報じていますが、野党共闘の是非に関するものが多く、今ひとつピンと来ない論調も見られ、問題が矮小化されている感もあります。一方、海外のメディアも選挙結果を一斉に報じており、日本のメディアにない視点も見られます。そこでこれらの中で、維新の躍進を報じた英国ガーディアン紙の記事 [1]を取り上げ、全翻訳で紹介したいと思います。

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当該記事は"Japan election: rightwings populists sweep vote in Osaka"(日本の選挙、右翼のポピュリストが大阪の票を総ざらいする)というタイトルが付けられており、海外メディアが今回の選挙結果と維新という党をどう捉えているか、がよくわかります。

以下、筆者による翻訳です。

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日本の総選挙において、期待されていた野党第1党の挑戦があっという間に頓挫してしまったその夜、地元の小さな政党の候補者が次々と議席を獲得し、経済的に重要な地域を右翼ポピュリズムの中心地に変えた。日本維新の会は、大阪府でほぼ全ての議席を獲得したことにより、11議席から41議席へと約4倍に伸ばし、衆議院第3党となった。

最大の野党である立憲民主党とその仲間たちが敗因を探っている間に、維新はこれまでの低調な選挙の中で最も興味をそそられるバックストーリーになりつつあった。

月曜日の早朝には、与党自民党は、国民による投票で勝利したにもかかわらず、維新という新興勢力によって大阪からあっさりと退けられてしまった。

リベラル派や左派は、維新の台頭に衝撃を受けるだろう。維新は、自民党とそのパートナーである公明党に対する幻滅をうまく利用し、共産党社民党を含む野党5党に投票する気になれなかった人々から票を集め、候補者が失敗したところも成功させたのである。「日本維新の会は、自民党公明党政権に不満を持つ保守層の票を集めた」と読売新聞は月曜日に報じた。

しかし、公明党に代わって維新が自民党と正式に連立を組む可能性は低い。維新は、防衛費増額や中国・北朝鮮への厳しい対応に熱心な点では自民党と考えを共にするが、所得再分配には反対している。貧富の差の是正を公約に掲げて選挙戦を戦った岸田文雄首相とは相容れないだろう。

維新が国政選挙で勢力を拡大することは、岸田文雄氏にとって、自分の政党がもはや保守系有権者の自然な拠り所ではないことを思い知らされることになるかもしれない。「新資本主義による所得向上策に反対するだろう」と述べている。

維新は、岸田氏の師匠である安倍晋三元首相がイデオロギー的にこだわっている日本の平和憲法の改正を支持している。東京大学の内山雄教授は、維新と自民党との間で、便宜的な政略結婚が行われる可能性を否定しなかった。

「特にアジアでは、日本が憲法改正に踏み切るかどうかに関心が集まっているが、この様子では(既存の)連立政権では無理だろう」と内山氏は言う。「しかし、日本の"革新党"(Innovation party)が多くの議席を獲得したようなので、憲法改正の可能性は低いにしても、何らかの憲法関連で考えを共有する連立政権が誕生するかもしれない」。

物議を醸した前大阪市長橋下徹氏が2015年に結成した維新は、大阪府知事も務める吉村洋文氏の代表代行の人気に支えられた。

東京大学政治学教授であるケネス・マッケルウェイン(Kenneth McElwain)氏は、「私が最も驚いているのは、維新がどれほどうまくやってきたかということだ」、「吉村氏は全国的な知名度を高め、それが党全体の追い風になっていると思う」と述べた。

44歳の吉村氏は、昨年、コロナウイルスに対して効くと誤って主張し、ヨードうがい薬のパニック買いを引き起こしたにもかかわらず、ある党員が「ポップアイドル」と表現したように、パンデミックの最中、そのリーダーシップとコミュニケーション能力で称賛を受けた。

吉村氏は、ツイッター小池百合子東京都知事よりも多い110万人のフォロワーを持ち、憲法改正や首相の靖国神社参拝など、伝統的な右翼の主張を支持している。

しかし、彼は日本の右翼のイデオロギーに必ずしもピッタリハマるというわけではなく、大阪では韓国人やその他のマイノリティに対するヘイトスピーチの禁止を求めるキャンペーンを行ったこともある。

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筆者あとがき

このガーディンの記事は、維新が海外の目にはどう映っているかが伺われて興味深いです。すなわち、維新を右翼のポピュリストと報じています。吉村知事が憲法改正や首相の靖国神社参拝などを支持していることは、よく知られていますが、日本のメディアは彼を右翼とは決して書きません。今回、維新に投票した人たちの目にもそのようには映っていないでしょう。

引用記事

[1] McCurry, J: Japan election: rightwing populists sweep vote in Osaka. The Guardian Nov.1, 2021. https://www.theguardian.com/world/2021/nov/01/japan-election-rightwing-populists-sweep-vote-in-osaka

              

カテゴリー:社会・時事問題

流行減衰の原因ーウイルスが変異し過ぎて自滅?

はじめに

国立遺伝学研究所新潟大学の共同研究チームは、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)nsp14遺伝子が変異することが、第5派流行の減衰に繋がった可能性があるという研究成果を日本人類遺伝学会で発表しました。メディアは早速これを紹介しています [1]

私はこの研究や学会発表の詳細を知りませんので、メディアの報道で類推するしかありませんが、どうやら、ゲノム複製のエラーをチェックし修復する酵素の遺伝子であるnsp14が変異し、ゲノム上の変異が蓄積して修復できず、ウイルスが死滅したということらしいです(図1)。

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図1. メディアが報道した研究チームが考える酵素の変化がウイルスに与える影響([1]からの転載).

私はこの報道を見ていて違和感を感じました。もし報道どおりだとしたら、「変異して死滅するものが集団内で現存していた」ということ自体が生物やウイルスの進化の常識に反することだからです。致死的な変異が起こった場合、集団内に広がることはなく、速やかに排除され、適応したものだけが優勢になっていきます。自滅するような変異体はすぐに駆逐されてしまうので、私たちはそれを目にすることはできません。

SNS上では、いま話題の「エラーカタストロフ限界説」によるウイルス自壊と結びつけながら、早速この報道を取り上げて、流行減衰の理由付けに使っているようです。しかし、感染拡大抑制策とも関わることなので、根拠のない段階で断定することは危険です。

ここでは、焦点となっているnsp14遺伝子に着目して、その機能や変異の状況を文献を参照しながら紹介したいと思います。

1. 遺伝子の変異

まずは、ゲノムの変異と進化に関して、生物学の教科書に書いてあることを中心に復習してみます。

突然変異と進化を考える上で重要なのが分子進化の中立説です。この説では、生物やウイルスのゲノム変異はランダムに起こり、機能的にはよくも悪くもない中立であるとしています。つまり、あらゆる変異は方向性をもたないランダム変異であり、時間軸に対して確率的に起こるということです。これはゲノム複製の際のDNA(RNA)ポリメラーゼの複製ミスが一定の確率で起こるという内的要因に加えて、紫外線や放射線のような外的な変異原の影響が常にあるからです。

遺伝子が転写されタンパク質が作られる場合、元の塩基配列が三個単位(三つ組みコドン [codon])で読まれ、それが一つのアミノ酸に対応して翻訳されます。TTT GCT AGC という配列であった場合、フェニルアラニン(F)、アラニン(A)、セリン(S)という順に翻訳されます(図2)。ここで、コドンの3番目のCがTに置換された場合は(AGC→AGT)、その翻訳はやはりセリンで変化がありません。一方、AGC→ACCに置換された場合、翻訳はトレオニンに変わります。

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図2. コドン(塩基配列の翻訳単位)における同義置換と非同義置換.

上述したように、遺伝子の塩基配列レベルで変異が起こった場合、アミノ酸の翻訳に変化を与えない場合を同義置換、翻訳に変化を与える場合を非同義置換といいます。一般的に、コドンの3番目の塩基が置き換わると同義置換となり、1、2番目の塩基が変わると非同義置換になります。

アミノ酸の置換が1個でも起こった場合、その重合体であるタンパク質の立体構造や機能に大きな影響を及ぼすことがあります。しかし、非同義置換の場合でも、極性や大きさなどにおいて性質が類似するアミノ酸への置換であれば、タンパク質の機能にほとんど変化を与えないこともあります。

したがって、ゲノムレベルでの変異(遺伝子変異)と一口にいっても、アミノ酸が変化せずまったく機能に影響しない場合、アミノ酸が置換しながら機能は(よくも悪くも)保たれる場合、機能が損なわれる場合の三つに大別されることになります(図3)。

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図3. 同義置換と非同義置換がタンパク質の機能に与える影響.

このように、ゲノムレベルでの変異が機能に与える影響は、よくも悪くも、一様ではないことがわかります。そして、生物もウイルスも現存する時点では進化上最適化されているので、表現型に影響がある変異は一般に有害な場合が多く、ダーウィンの進化論にあるように自然淘汰されて行きます。これらの有害な変異を起こした個体は、その時点で消失しますので、私たちは目にすることができません。

要約すると、中立的な分子進化とダーウィン自然淘汰によって、常に競争に勝ち、環境に適応したものが生き残り続けるということになります。ただし、後述するように、ウイルスは宿主との相互作用があり、宿主の抗ウイルス活性がウイルスの変異と進化に大きな影響を及ぼしていることを考慮する必要があります。

2. SARS-CoV-2のゲノム複製とnsp14の役割

SARS-CoV-2は宿主細胞内に侵入した後、脱殻というプロセスで自身のゲノム(1本鎖RNA)を放出します。このRNAが直接メッセンジャーRNA(mRNA)の役目をし、宿主細胞のリボゾーム上で翻訳され、ウイルスのタンパクが生産されます。一方、ウイルスのRNA複製は宿主細胞が行なうのではなく、作られた特定のウイルスタンパク質(RNA依存性RNAポリメラーゼ、RdRp)によって媒介されます。

RdRpは、nsp7, nsp8, nsp12、および nsp14 の4種類の非構造タンパク(non-structural proteins、nsp)で構成され、いずれもOrf1abの成熟タンパク質への分割で生成されます(総説参照 [2])。これらの中で、nsp12 が複製酵素RNAポリメラーゼ)の本体であり、nsp14がエラー校正エキソヌクレアーゼ(ExoNase)活性およびグアニン-N7-メチルトランスフェラーゼ (N7-MTase)活性を有するタンパク質です [3]

このようにSARS-CoV-2のRdRpにはエラー校正機能があるため、一見、頻繁に変異を起こすことはないように思われます。しかし、実際の変異頻度は校正機能がない他のRNAウイルスと大して変わりません。これは感染に抵抗するための宿主細胞のデアミナーゼによるRNA編集機能があるためと説明されています。すなわち、ウイルスRNAのアデノシン(A)がイノシンへ変換されたり、シトシン(C)からウラシル(U)へ変換されることが確認されており、このRNA編集プロセスによってウイルスと宿主の両方の運命が決定される可能性が指摘されています。

シチジンデアミナーゼであるAPOBEC(アポリポプロテインRNA編集酵素ファミリーのメンバーは、RNA (DNA) ウイルスゲノムのC→U変換を媒介し、哺乳類細胞ではこの致死的編集による抗ウイルス活性があると考えられています [4, 5]。実際に、データベースにあるSARS-CoV-2のゲノム配列においては、プラス鎖RNAにおいてC→U方向の変異が非常に多く見られますが(後述)、このAPOBECファミリータンパクの作用の痕だと思われます。

もし、APOBECによってnsp14の機能に損なうような変異が起これば、ウイルスは増殖できなく可能性があります。すでに、SARS-CoV-2のExoNaseノックアウト変異体は、ゲノム複製できないことが報告されています [3]。ちなみに、以前のブログ記事で、APOBECによる抵抗ウイルス機能は、ファクターXの候補の一つとして挙げています(→日本の新型コロナの死亡率は低い?COVID-19を巡るアジアと欧米を分ける謎の要因と日本の対策の評価)。

このように、SARS-CoV-2の進化(変異)は、自身のRdRpの複製エラー、nsp4のエラー校正と機能変化・消失、そして宿主との相互作用を組み合わせた結果ということになり、内的要因は複雑です。

SARS-CoV-2はベータコロナウイルスですが、nsp14の役割については、アルファコロナウイルスの先行研究があります。すなわち、そのExoNase活性を介して、宿主とウイルスの相互作用を調節し、ゲノム複製時に生成される二本鎖RNAを分解して免疫反応を抑制することで、ウイルスの存在率を高めることが示されています [6] 。

最近、宿主の翻訳の阻害因子としてのnsp14の機能が明らかにされています。病原性ウイルスが感染を成立させるためには、I型インターフェロン(IFN-I)の抗ウイルス反応を克服する必要がありますが、nsp14はIFN-I反応を阻害するというのです。米国イェール大学の研究グループは、SARS-CoV-2が宿主のタンパク質合成を停止させることができ、nsp14がこの活性を発揮することを報告しました [7]

この研究によると、SARS-CoV-2 nsp14のExoNaseおよびN7-MTaseの活性部位に変異があると、その翻訳阻害活性が消失しました。さらに、nsp14-nsp10複合体が形成されると、nsp14による翻訳阻害作用が増強されました。その結果、IFN-Iに依存したインターフェロン刺激遺伝子(ISGs)の誘導が阻害されることがわかりました。以上のことから、SARS-CoV-2が翻訳阻害剤を介して宿主の自然免疫応答をシャットダウンしていると考えられます。

3. nsp14の変異はゲノムワイドの変異を増発する

トルコの研究グループ Eskierら [8] は、SARS-CoV-2ゲノムの変異率を高める原因として、nsp14が関係していること、そして多くの変異がC→U(論文ではDNAレベルでC→Tと表記)であることをPeerJ誌に報告しています。この報告をここで紹介したいと思います。

Eskierらは、SARS-CoV-2の変異頻度の経時的な傾向を明らかにするため、データベースにあるウイルスの全分離株について、全ゲノム、S遺伝子M遺伝子E遺伝子領域の1日あたりの平均変異密度を算出しました。この算出においては、異常値を95パーセンタイル値と5パーセンタイル値で除去し、シーケンスエラーによる潜在的な影響を最小化しています。M/E遺伝子領域の変異の有無は、ウイルス変異の頻度を探るよい指標とされており、著者らはこの論文でMoE statusと呼称しています。

変異密度の算出の結果、ゲノムレベル(図1A)とS遺伝子(図1B)の両方において、平均変異密度と時間の間に非常に強い正の相関が見られました。それに比べて、M/Eは弱い正の相関があり(図1C)、ゲノムやS遺伝子に比べて、初期と後期で平均密度の広がりが大きいことが分かりました。これは、既往の報告のように、M遺伝子とE遺伝子の選択圧が低下していることと一致するとしています。

ここでゲノム全体の変異密度とS遺伝子のそれを比べてみると、後者の方が傾きが大きいことが分かります。つまり、ゲノム全体に比べて、スパイクタンパク遺伝子の変化の許容度が高く、見かけ上、速く進化しているということです。

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図4. SARS-CoV-2の進化速度. (A) ゲノム全体の突然変異密度と時間の関係、(B) S遺伝子の突然変異密度と時間との関係、(C) M遺伝子およびE遺伝子の変異密度と時間の関係 (文献 [7] から転載). Y軸の値は、対象領域のキロベースで正規化した、対応する日のSNVの平均数を表す. ゲノムのSNV数は、潜在的なシーケンスやアセンブリのアーチファクトの影響を最小限にするために、25パーセンタイルと75パーセンタイルの値でキャップして正規化. 相関スコアは、スピアマン順位相関Spearman rank correlationを用いて算出.

非同義的な変異としては、スパイクタンパク質のD614G置換を引き起こす23403 AG(22,271株)が最も多く、次いで、RdRpタンパク質のP323L置換を引き起こすOrf1ab遺伝子nsp12領域の14408 CT変異(22,226株)、Orf8タンパク質のL84S置換を引き起こす28144 C→T変異(3,081株)が見られました。

一方、最も多い同義的な変異は8782 CT変異(3,047株)であり、これはOrf1ab遺伝子のnsp4コード領域に見られるものです。S遺伝子においては、最も頻度の高い同義的変異は23731 CT変異(622株)でした。また、前述のD614G変異に次いで多い非同義的変異は、P1263Lの置換をもたらす25350 CT(215株)でした。M/Eでは、最も多い同義的変異は26735 CT(341株)、非同義的変異は27046 CT(530株)で、いずれもM遺伝子に存在し、後者はT175Mのアミノ酸置換を引き起こします。D614G変異以外の変異はすべてC→T置換であり、この傾向はこれまでにも報告されています [9]

図4に見られるように、機能的に影響の大きい遺伝子であるS遺伝子やOrf1abにおける時間の経過に伴う変異頻度は、M/Eなどの構造遺伝子に比べて顕著であることがわかります。そこで、著者らはSARS-CoV-2ゲノム(RNA)の複製に関与するこれらのタンパク質の変異が、変異増加と関連しているかどうかを検討しました。

Orf1abポリプロテインから切断されて生成する4つのタンパク質(nsp7、nsp8、nsp12 [別名RdRp]、nsp14)について、最も頻繁に観察される5つの変異を特定し、続いて、各変異とMoE statusとの関連をカイ二乗検定で分析しました。その結果、20個の変異のうち、合計12個の変異がMoE statusと有意に関連していることがわかりました。nsp14には4つの有意な変異が見られ、nsp7には2つ、nsp8には1つの変異が見られました。

nsp14の3つの変異(18060 CT、18736 TC、18877 CT)は、すべてMoE statusと有意な関連を持ちますが、同様にゲノムの変異密度とも関係をもつことがわかりました(図5)。しかし、変異の部位でこれらとの関連性は異なりました。

たとえば、18060 CT(L7L)は、MoE statusに対しては、野生型分離株に比べて同義的置換の変異密度の増加が遅く(図5A)、一方で、非同義的置換の変異密度増加の速さに大きな影響を与えていることがわかりました(図5B)。これに比べて、18877 CT (L270L) は、どちらの置換においても変異密度が増加していることがわかりました(図5C, D)。

一方で、nsp7とnsp12の変異は、変異密度の増加率の変化にあまり影響を与えていないと著者らは述べています。

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図5. 野生株(青色)と比較したnsp14変異を持つ分離株(赤色)における同義的変異(左)と非同義的変異(右)の分布(文献 [7] から転載). (A, B)同義的な18060 CT 変異を持つ分離株 (n = 1,585); (C, D)同義的な18877 CT 変異を持つ分離株 (n = 893); (E, F) 非同義の18736 TC 変異を持つ分離株 (n = 236). すべてのグラフの野生型分離株は、9つの位置(11916, 12073, 13536, 13730, 13862, 14408, 18060, 18736, 18877)の参照ヌクレオチドを持っている(n = 5,910). 相関スコアは、スピアマン順位相関を用いて算出.

5. 感染流行とnsp14変異

nsp14の5つの最も一般的な変異のうち、18060 C→T、18736 T→C、18877 C→Tの3つの変異は、ゲノム全体の変異量と、ウイルス進化の代替指標であるMoE statusの両方の増加に関連していることがわかりました。しかし、18736 TC のみが非同義変異(F233L)であるので、nsp14変異がウイルスの複製プロセスに及ぼす影響を理解するためにはより詳細な機能的研究が必要になると著者らは述べています。

nsp14の3つの変異は地域的な流行と関係があるようです。18060 CT 変異は、2020年1月中旬に米国ワシントン州で検出された最初の症例に存在し、これ以降ほぼ米国に限定されています。一方、18877 CT 変異は、サウジアラビアで1月末頃に発生した可能性が高く、検出された症例は少ないが、サウジアラビア(54.1%)とトルコ(37.4%)で最も多く見られたとしています。

18736 TC 変異は、2020年3月初めに米国で初めて検出され、18060 CT変異と同様に、ほぼ完全に米国に限定されています。他の2つとは異なり、この非同義的変異は2020年7月1日以降は検出されていないようです。異なるnsp14変異の優位性や消失は、ゲノム上の特定の変異とはあまり関係がないようですが、これらのnsp14変異がSARS-CoV-2の感染力に影響を与える可能性を否定することはできないと著者らは述べています。

SARS-CoV-2のコドン使用量をウイルスゲノムの時間進化の観点から分析した最近の研究では、nsp14が、S遺伝子およびN遺伝子とともに、最も高いCAI(Codon Adaptation Index)値を示す遺伝子の1つであることが明らかになっています [10]。CAI値は、最適なコドン使用の指標であり、どれだけ宿主に適応しているかを示すものです。

nsp14においてCAI値が高いことから、SARS-CoV-2にとって最適な突然変異率に達するために、このような突然変異が優先的に蓄積されてきたと推測できると著者らは述べています。先行研究の結果では、SARS-CoV-2ゲノムの変異密度はパンデミックステージと密接に関係しており、人口動態がウイルスゲノムの平均変異蓄積に直接影響するとされています。

英国や米国で3月に観測されたような急速な流行拡大では増殖が促進されます。この場合、複製忠実度をトレードオフにして、より高い複製率とより広い変異多様性を得ることができます。しかし、著者らも指摘していますが、複製装置に変異が起こり、全体の変異率が高くなりすぎると、有害なものとして排除される可能性が高くなます。

一方で、ごく一部の突然変異は、免疫逃避や抗ウイルス剤への耐性を付与するなど、有利に働く可能性もあります。著者らは今のところ、そのようなウイルスにとって有利な変異を検出することはできなかったと言っていますが、変異率が高くなると、そのような変異が現れる可能性が当然高くなります。

おわりに

SARS-CoV-2のnsp14タンパクは、ExoNaseおよびN7-MTaseの活性を有し、ウイルスのゲノム複製と宿主の抗ウイルス活性の阻害という重要な働きをしていることがわかってきました。そして、nsp14に重大な変異が起こるとウイルスに致死的に働くということも示唆されています。

COVID-19のパンデミック以来、各国、各地域で流行をもたらしているSARS-CoV-2にC→U変異が多く見られるということは、多数の宿主内でウイルス複製が起こる過程で、宿主APOBECファミリーによるRNA編集が頻繁に起こっていることを示唆しています。この活性がnsp14にも働き、nsp14変異株が各国・地域の流行に関わっていることは、Eskierら [8] の報告にあるとおりです。

nsp14を含めた複製装置に変異が起これば、その機能を損なう方向であれば、ウイルスは即座に消える運命にあるでしょう。変異し過ぎると排除されてしまうということになります。とはいえ、このような変異ウイルスは直ぐに消失しまいますから、株として多数検出されたとすれば、集団内で広がっていたことを示すものであり、広がる時点では致死的ではなかった、感染伝播する力があったということになります。事実、国立遺伝研と新潟大の結果は、実際の"自滅していない"ウイルス分離株で得られています。

その意味で、「nsp14が変異し、ゲノム上の変異が蓄積して修復できず、ウイルスが死滅した」という仮説は、ウイルスの進化と生態から考えれば矛盾します。多数の異なる感染者の中で、コピーミスによる致死的変異が同時に、あるいは次々と短時間で起こるとは考えにくいからです。むしろ、第5波流行ではnsp14変異デルタ株が蔓延し、それに対して宿主のRNA編集機能(抗ウイルス活性)が急速に効果的に働いたとした方が考えやすいです。つまり、ウイルスの自滅ではなく宿主側からの攻撃による壊滅です。

冒頭の仮説を第5波流行減衰の原因とするためには、少なくとも流行初期から収束するまでのウイルス分離株のゲノムを比較し、非同義的変異の蓄積度を明らかにし、その変異がnsp14タンパクの機能に阻害的になっていたことを、生理学的に時系列的に証明する必要があります。

引用文献・記事

[1] 共同通信:ゲノム変異、修復困難で死滅? コロナ第5波収束の一因か. Yahooニュース.2021.10.30. https://news.yahoo.co.jp/articles/ffc3131185430e24ea85bf09f4f8181e7ab3fa24

[2]  鈴木善幸: 重症急性呼吸器症候群2 (SARS-CoV-2) の起源と進化. 生物の科学 遺伝 75, 34–42 (2020). https://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~yossuzuk/MyPapers.dir/34.pdf

[3] Natacha, S. et al.: The enzymatic activity of the nsp14 exoribonuclease Is critical for replication of MERS-CoV and SARS-CoV-2. J. Virol. 94, e01246-20 (2020). .https://doi.org/10.1128/JVI.01246-20

[4] 村松正道ら: B型肝炎ウイルスとAPOBECファミリー. 生化学 88, 557–562 (2016). https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2016.880557/data/index.html

[5] Ratcliff, J. & Simmonds, P.: Potential APOBEC-mediated RNA editing of the genomes of SARS-CoV-2 and other coronaviruses and its impact on their longer term evolution. Virology 556, 62-72 (2021). https://doi.org/10.1016/j.virol.2020.12.018 

[6] Becares M. et al.: Mutagenesis of coronavirus nsp14 reveals its potential role in modulation of the innate immune response. J. Virol. 90, 5399–5414 (2016). https://doi.org/10.1128/JVI.03259-15 

[7] Chun-Chieh Hsu, J. et al.: Translational shutdown and evasion of the innate immune response by SARS-CoV-2 NSP14 protein. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 118, e2101161118 (2021). https://doi.org/10.1073/pnas.2101161118 

[8] Eskier, D. et al. 2020. Mutations of SARS-CoV-2 nsp14 exhibit strong association with increased genome-wide mutation load. PeerJ 8, e10181 (2020). https://doi.org/10.7717/peerj.10181

[9] Simmonds P.: Rampant C→U hypermutation in the genomes of SARS-CoV-2 and other coronaviruses: causes and consequences for their short-and long-term evolutionary trajectories. mSphere. 5, e00408-20 (2020). https://doi.org/10.1128/mSphere.00408-20

[10] Dilucca M, et al.: Temporal evolution and adaptation of SARS-COV-2 codon usage. bioRxiv. Posted Jan. 22, 2021.

引用したブログ記事

2020年5月18日 COVID-19を巡るアジアと欧米を分ける謎の要因と日本の対策の評価

2020年5月13日 日本の新型コロナの死亡率は低い?

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

米NIHが武漢の危険ウイルス研究への資金提供を認めた

はじめに

米国国立衛生研究所(NIH)が、中国の武漢ウイルス研究所でのウイルスの機能獲得実験に資金提供していたという事実が明らかになってきました。ウェブ記事やSNS上でこの事実が取り上げられていますが、これはSARS-CoV-2の起源に関わることとしてきわめて重要です。

先のブログ記事(→新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える)で紹介したように、SARS-CoV-2はゲノム上に自然界のコロナウイルスではあり得ないようなきわめて特徴的なセグメントを有します。そこから、このウイルスがコウモリ由来のSARS類似ウイルスをもとに作られた人為的改変ウイルスではないか、それが武漢ウイルス研究所から漏出し、パンデミックを引き起こしたのではないか、と疑いをかけられているわけです。

米国のヴァニティ・フェアも(Vanity Fair)は、NIHが資金提供を認めた書簡を提出したことを10月22日の記事で詳細に伝えました [1]。本誌は米国のコンデナスト・パブリケーションズが発行している月刊誌です。主に大衆文化、ファッション、時事問題を扱っていますが、COVID-19関連の記事も適宜載せています。

ここではヴァニティ・フェアが掲載した記事を翻訳しながら、本件が与える影響について述べたいと思います。

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1. ファウチ博士の憤慨

SARS-CoV-2の起源については米国内で様々なデマが飛び交っていました。COVID-19は実験室で作られた生物兵器であるという主張を含む、主に右派からの外国人嫌いの指弾や明らかな偽情報には、民主党員でなくてもうんざりしていました。

アンソニー・ファウチ博士は、7月20日に行われた上院の公聴会で、何百万人もの米国人の不満を代弁するかのように、ツイッター用に用意された罵詈雑言を浴びせました。ファウチ博士の怒りの矛先は、ランド・ポール上院議員に向けられました。ポール議員は、NIHが武漢ウイルス研究所での危険なウイルス研究に資金を提供したことがあるかどうか、国のトップに君臨する博士に発言を迫ったのです。NIHが公開した新しい情報に、ポール氏は何かを掴んだのかもしれません。

ファウチ博士のスポークスマンは、彼は「完全に真実を語っている」と述べました。しかし、NIHがウイルス増強研究を支援していたことを遅ればせながら認めた新しい書簡は、武漢研究所からのウイルス漏洩がパンデミックを引き起こした可能性があるかどうかについて進行中の論争をさらにヒートアップさせることでしょう。

2. NIHが認めた事実

水曜日(10月20日)、NIHは下院のエネルギー・商業委員会のメンバーに書簡を送り、二つの事実を認めました。

一つ目は、ニューヨークに拠点を置く非営利団体エコヘルス・アライアンス(EcoHealth Alliance)が、武漢研究所と提携して新興感染症の予防研究を行ない、実際にコウモリのコロナウイルスを強化して人間への感染力を高めたという事実です。NIHの書簡では、この研究は、武漢研究所との共同研究に資金を提供したことによる「予期せぬ結果」と説明されています。

二つ目は、資金の助成条件では、研究でウイルス病原体の増殖が10倍になった場合は報告しなければならないとなっているにもかかわらず、エコヘルス・アライアンスが、これに違反していたことです。

NIHは、エコヘルス・アライアンスが約2年後の8月にNIHに送った研究経過報告書をもとに、これらの情報を開示しました。NIHの広報担当者は、ヴァニティ.フェアに対し、ファウチ博士の議会での発言は完全に真実であり、7月20日の証言時には問題となっている研究の詳細を記した進捗報告書を持っていなかったと述べました。

しかし、エコヘルス.アライアンスはその主張を否定するかのように、声明の中で次のように述べています。「これらのデータは、私たちが気付いた時点で、2018年4月の第4年度報告書で報告されている」。

NIHからの書簡とそれに添付された分析結果によると、エコヘルス・アライアンスが研究していたウイルスは、SARS-CoV-2との間に大きな遺伝子の違いがあることから、今回のSARS-CoV-2パンデミックを引き起こした可能性はないとしていています。NIH所長のフランシス・コリンズ(Francis Collins)博士は水曜日に発表した声明の中で、エコヘルス・アライアンスの研究について「記録を整理したい」と述べましたが、パンデミックを引き起こした可能性があるという主張は「明らかに間違っている」と付け加えました。

2. 情報隠蔽の臭い

エコヘルス・アライアンスは声明の中で、自分たちの研究がパンデミックを引き起こす可能性がないことを科学的に明確に証明しているとし、「助成金の報告要件と当社の研究データが示す内容について誤解があると考えられるため、NIHと協力して速やかに対処している」と述べています。

しかし、米国議会が何ヶ月にもわたって情報提供を求めてきた後にNIHから書簡が出てきたということは、NIHの意図がうかがわれます。つまり、米国最高の科学機関が、自ら資金提供したにもかかわらず、危険な研究について適切な監視を怠ってきたということは、研究サポートには積極的ではなかったと強調しているようにも見えます。パンデミックが19ヶ月目に入った今、様々な疑問の声が高まる中、NIHはCOVID-19の起源を探る手助けをするどころか、自らの助成金制度や科学的判断を守るために立ち回ってきました。

スタンフォード大学微生物学者であるデヴィッド・レルマン(David Relman)博士は、「これは、不適切な監視、リスクの軽視、透明性の重要性に対する鈍感さという、悲しい物語の新たな1章に過ぎない」と語っています。「この研究が非常に注目されているにもかかわらず、NIHとエコヘルスが、この助成金に関する報告書の数々の不正をいまだに説明していないのは理解しがたい」と述べています。

ヴァニティ・フェアは、この問題のあるウイルス研究に米国政府が資金を提供したことによる利益相反が、COVID-19の起源に関する米国の調査を妨げていることを初めて明らかにしました。それ以来、この4カ月間に公開された情報は、ますます不穏な様相を呈しています。

先月初め、インターセプト(The Intercept)は、NIHに対する情報公開法に基づく手続きでを経て、エコヘルス・アライアンスの助成金研究に関する900ページ以上の文書を入手し、それを公開しました。ところが、その文書には、エコヘルス・アライアンスが2019年の助成期間終了時に提出を義務付けられていた5回目の最終進捗報告書が1枚だけ欠けていました。

NIHは、2021年8月に発行された漏れていた進捗報告書を、水曜日の書簡で掲載しました。その報告書には、改変されたウイルスに感染した実験用マウスが、自然界に存在するウイルスに感染したマウスよりも「病気になった"became sicker"」という「限定的な実験」が記載されていた、としています。

この書簡では、COVID-19の起源をめぐる論争の中心となっている「機能獲得研究」という言葉は出てきていません。この種の研究は、ヒトへのリスクを測る目的で感染力を高めるように病原体を遺伝子操作するものであって、常に物議をかもし、ウイルス学界を二分しています。2017年に制定された審査制度では、ヒトへの感染力を高めるような病原体の研究提案は、連邦機関が特に厳しく審査することになっています。

ファウチ博士の広報担当者はヴァニティ・フェアに対し、エコヘルス・アライアンスの研究はその枠組みに該当しないと述べています。理由としては、資金提供を受けている実験は「人間への伝染性や病原性を高めることは予想できないからだ」としています。

しかし、"The Search for the Origin of COVID-19"という本の共著者でボストン在住の科学者であるアリナ・チャン(Alina Chan)氏は、NIHは「非常に挑戦的な立場にある」と述べています。NIHは国際的な研究に資金を提供し、新しい病原体の研究や予防に役立てています。しかし、どのようなウイルスが採取され、どのような実験が行われ、どのような事故が起きたのかを知るすべがなかったということであり、難しい立場であると言えます。

3. DRASTICからの情報

科学者たちがCOVID-19ウイルスの起源をめぐって膠着状態に陥っている中、先月、エコヘルス・アライアンスが武漢研究所と提携して、パンデミックにつながった可能性のある研究を目指していたことが、別の情報公開によって明らかになりました。9月20日、DRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investigating COVID-19の略)と名乗るインターネット調査グループが、リーク情報を公開したのです。それは、2018年にエコヘルス・アライアンスが国防高等研究計画局(DARPA)に提出していた1,400万ドルの助成金申請書に関するものです。

この申請書は、武漢ウイルス研究所と提携し、SARSに関連するコウモリのコロナウイルスを使って、そこに「ヒト特有の切断部位」を挿入することで、病原体の「増殖可能性」を評価するというものでした。当然のことながら、DARPAは機能獲得型研究のリスクを十分に考慮していないと判断し、この申請を却下しました。

この助成金申請書は、ある理由から多くの科学者や研究者に重要なインパクトを与えました。SARS-CoV-2の遺伝コードの特徴的なセグメントの1つに、ウイルスがヒトの細胞に効率的に侵入できるようにすることで感染力を高めるフーリン切断部位があります。それはまさに、エコヘルス・アライアンスと武漢ウイルス学研究所が2018年の助成金申請で遺伝子改変を提案していた機能そのものでした。

世界保健機関のヒトゲノム編集に関する諮問委員会のメンバーであり、COVID-19の起源について透明性のある調査を求めているアジア・ソサエティの元執行副会長、ジェイミー・メッツル(Jamie Metzl)氏は、「もし私がセントラルパークを紫色に塗るための資金を申請して却下され、1年後に目が覚めたらセントラルパークが紫色に塗られていたとしたら、私は第一容疑者になるだろう」と語っています。

2020年4月にドナルド・トランプ大統領(当時)が根拠なく主張していたウイルス漏出説は、米国の諜報機関でも判断できそうにないものですが、今度は"正統派"による長期的な真相究明の課題となっています。この夏、ジョー・バイデン大統領が命じた諜報活動のレビューでは、決定的な結論は出なかったものの、ウイルスが武漢の研究所から流出した可能性は残されました。

NIHが議会に提出した書簡には、エコヘルスが資金提供した実験の未発表データを提出するために、5日間の猶予を与えると書かれていました。6月にデータの提出をNIHに求めた下院エネルギー商業委員会の共和党リーダーは、水曜日に発表した声明の中で、「NIHがエコヘルス社に対して、助成金の条件で要求されていた危険な研究に関する未発表データの提出を遅らせたことは受け入れられない」と述べています。

一方、「DRASTIC」のメンバーは調査を続けています。メンバーの一人であるニュージーランドのデータサイエンティスト、ジル・デマネフ(Gilles Demaneuf)氏は、ヴァニティ・フェア誌に次のように語っています。「ウイルスが研究関連の事故やサンプリングの際の感染に由来するとは断言できない。しかし、大規模な隠蔽工作があったことは100%間違いない」。

おわりに

前のブログ記事では、遺伝子改変した痕跡を残さずに改変ウイルスを作製できるノーシーアム(シームレス)技術を紹介しました(→新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える)。もし、SARS-CoV-2が人為的改変体だとしても、ノーシーアムが使われていれば分かりようがないということになります。人為的改変ウイルスだとしても研究所から漏出したとしても多分それは永遠に分からないかもしれません。

それとは別に、SARS-CoV-2には怪しい特徴がいくつかあり(上記のフーリン切断部位など)、何よりも自然界から分離されたことがないという事実があります。これらを踏まえて、パンデミックの原因ウイルスの起源に関する調査・研究は必須なわけですが、今回の記事を読むと、実は米国のNIHや科学者がそれを邪魔しているという構図がやはり見えてきました。

中国のウイルスの機能獲得実験に資金供与をしていた、共同研究をしていたという事実や、資金供与のプロセスに不正があったかもしれないということを隠したい気持ちは当然出てくるでしょうが、それにしてもNIHの態度は怪しさ満点です。まさか、ウイルスの起源に迫る情報を中国とともに持っているとでも言うのでしょうか。

引用記事

[1] Eban, K.: In major shift, NIH admits funding risky virus research in Wuhan. Vanity Fair Oct. 22, 2021. https://www.vanityfair.com/news/2021/10/nih-admits-funding-risky-virus-research-in-wuhan

引用したブログ記事

2021年8月5日 新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:ウイルスの話

流行減衰の再考と第6波に備えて

はじめにー異常な流行減衰

大きな被害を出したCOVID-19第5波流行ですが、現在、感染者数が急減して昨年の10月レベルほどになっています。今日(10月22日)の新規陽性者数は全国で325人、東京で26人であり、東京は全国の8%を占めるにすぎません(図1)。この好転した状況は、社会・経済活動に向けての動きを加速化しているようです。

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図1. 2021年10月22日における全国のSARS-CoV-2新規陽性者数(NHK特設サイト「新型コロナウイルス」より).

テレビの情報・ニュース番組でも感染者数の急減を毎日のように伝えています。TBSテレビの「Nスタ」では、MCのアナウンサーが「新規陽性者数に一喜一憂すべきでない」と普段よく言っていましたが、いざ急減すると「ここまで減りました」「今年で最も少ない」風の強調コメントを毎日のように繰り出しています。

それとともに強調されるようになったのが、「感染者ゼロの県がいくつになった」という報道です。普段から「ゼロコロナは不可能」、「ウィズコロナをいかに進めていくか」などと宣っている各局のキャスターが、「新規陽性者数ゼロが◯◯県になった」とはしゃぎながら伝えているのは何とも皮肉なことです。

ウィズコロナをいかに進めていくかなんていう話は、この先予測される第6波がきたら吹っ飛んでしまうような話です。

そして、上のような伝え方は実状を正確に捉えているとは言えないかもしれません。私はこのブログやツイッターでも何度も指摘していますが、現在のゼロコロナの県の増え方が以前と比べて異常なのです。すなわち、これまでだと新規陽性者数が千人を切るようになると、地方から急速にゼロコロナ県が増えていきましたが、今はその増え方がきわめて緩やかであり、かつ首都圏での感染者数の減り方が急なのです。

たとえば、今日の全国の新規陽性者数は325人ですが、同じレベルの陽性者数を昨年の第2波が減衰した同時期で探してみると、10月19日の318人というのがあります。この日の東京の新規陽性者数は132人で、全体の42%を占めており、今とはまったく異なることがわかります。というか、このように首都圏の陽性者数の割合が高いというのが従来の一般的傾向でした。

そして、新規陽性者数ゼロを数えてみると、昨年の10月19日は24県になります。一方で今日のゼロコロナは13県です(図1)。このように従来は新規陽性者数が数百人のレベルになると全国の半数以上の県がゼロコロナであったのに対し、いまは一桁か、二桁でも20以下という状態なのです。

このような全国の異常な感染者数の消長は何を意味しているのでしょうか。従来と今までと異なる大きな点と言えば、一つはデルタ変異体の流行であったということ、もう一つはワクチン接種が進んだということです。

1. 流行減衰をもたらした要因の再考

1-1. 第5波の特徴

ここで再度、第5波流行の減衰要因を考えてみましょう。第5波はこれまでのSARS-CoV-2の中で最も感染力が強いデルタ変異体(B.1.617.2)の亜系統(AY.29 [B.1.617.2.29])によってもたらされたように、感染者数が最多になりました(図2上)。それにもかかわらず、死者数は3、4波と比べて低く抑えられています(図2下)。これは何を意味するのでしょうか。

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図2. 新規陽性者数(上)および死者数(下)の推移(Our World in Dataからの転載図). 上図では、5回の流行の主要な原因ウイルスと感染ピークに合わせた2ヶ月間の幅を色つき影として明示.

第5波では医療崩壊を起こし、自宅療養(自宅放置)が圧倒的に増え、自宅で死亡する人も増えました。にもかかわらず死亡率が低くなっているということは、やはりワクチン接種の広がりによって、重症化・死亡リスクの高い高齢者層の感染・発症が抑えられ、ワクチン未接種の若年層で感染者が増えたことは明らかです。

1-2. ワクチン・ブレイクスルー感染

ワクチン接種の拡大によって未接種者のリザーバーが縮小していけば、当然、感染・発症が可能な人口密度が低くなり、流行は減衰していきます。ただし、これは見かけ上の話であり、ワクチン・ブレイクスルー感染は当初から起こっていたと推察されます。ワクチン未接種者よりも接種者の割合が高くなってくると、ウイルス伝播の対象集団はワクチン接種者に移ると考えられます。

英国での最近のレポートでは、30代以上の世代では、ワクチン接種者の方が未接種者よりも感染の割合が高いです [1](図3)。30代以上では70-90%がワクチン完全接種を受けており、もはやここがウイルスの感染・伝播の主要な集団になっていることがわかります。これはワクチン接種者の集団の方が人口密度が高くなっており、伝播しやすいためです。

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図3. ワクチン感全接種者と未接種者における100万人当たりの年代別感染者数(文献 [1] からの転載).

しかし、ブレイクスルー感染者では無症状や(発症しても)軽症が多く、検査しない限りので気づかれない(疑いも起きない)ということになるでしょう。ワクチン接種率84%のシンガポール迅速抗原検査を拡大実施したら、98%は無症状・軽症だったという結果が出ていますが [2]、まさしくブレイクスルー感染の気づきにくさを現していると思われます。

日本の場合、新規陽性者数は確実に減っているとは言え、元々が検査が抑制的ですから、多くのサイレント・ブレイクスルー感染者がいると考えた方が妥当です。図1に示したように、従来の減衰の場合とは異なり、ゼロコロナの県が一気に増えないという現象は、発症したブレイクスルー感染者がポツポツと検出されていることが原因だと考えることができます。

1-3. 長雨と人流低下がトリガーになった

先のブログでは、夏の雨天続きと相対湿度上昇によるエアロゾルの減少、雨天による外出控え、緊急事態宣言に伴う人流低下の偶然の重なりによって実効再生産数が1を切るような状況が生まれ、そこにワクチン接種率の上昇によって、感染可能な未接種者のリザーバーの縮小が加わり、一気に感染の機会を減らすような状況になったと考察しました(→第5波感染流行が首都圏で減衰した理由感染流行減衰の要因:雨とエアロゾル消長)。つまり、まずは、気象・環境条件や人流低下というものがトリガーになって減衰が始まったと個人的に推察しています。

夏の長雨は全国的な傾向でしたが、特に関東圏でそれが著しく、昨年夏と比べれば、東京五輪閉会の前後から8月中旬すぎまで、9月上旬の相対湿度の高さ(80–100%)が顕著でした。首都圏から先行して減衰が始まったことを考えれば、この長雨と人流低下が減衰のきっかけを作ったと考えていいのではないでしょうか。

ちなみに、8月10日におけるワクチン完全接種率は65歳以上では7割を達成していましたが、全体ではたかだか36%です。接種後の抗体価の上昇までの期間をも考慮すると、新規陽性者数の減少に及ぼすワクチン接種の影響は、この時期はまだ小さかったと思われます。9月10日前後にやっと完全接種率が50%を超えていますので、この頃からワクチン接種の好影響が本格的に出てきたのではないかと推察します。

2. 減衰過程のウイルス伝播のメカニズム

感染が減少していく主因は、空気感染の機会(ウイルス量)の減少と宿主リザーバーの減少(人口密度)の低下です。その観点から、第5波流行の減衰過程におけるウイルス伝播の過程を考えてみます。

中国の研究チームは、デルタ変異体のブレイクスルー感染者は、未接種感染者に比べてウイルス排出量はPCRCt値が約1サイクル分高く、排出期間が短いと報告しています [3](→デルタ変異体の感染力の脅威)。そうだとするなら、無症状や軽症のブレイクスルー感染者が排出するウイルス量と排出時間は、いわゆるスーパースプレッダーと比べて全般的に小さいのではないかと考えられます。

この夏から秋にかけてワクチン接種率が高まるにつれて感染・伝播の主体は、ワクチン接種集団に移行したと考えられます。しかし、無症状・軽症のブレイクスルー感染者はウイルス排出量が低く、排出期間が短いとするなら、ウイルスがワクチン接種者への感染を繰り返すほど、社会全体のウイルス量が少なくなっていったのではないでしょうか。あるいは宿主側の抗ウイルス活性(RNA編集機能)によって増殖量が抑えられたかもしれません。もしこれが事実なら、8月から現在までの新規陽性者のPCR検査のCt値は、全国的にどんどん高くなっているはずです。

つまり、ワクチン接種者の人口密度の増大と未接種のリザーバーの縮小、あるいは感染者内でのウイルス増殖量の低下でスーパースプレッダーの発生率がきわめて小さくなり(クラスタ発生が起こりにくくなり)、ウイルスが末端の感染者で自然消滅しているのではないかと思われます。これは、見かけ上、集団免疫が働いているということになります。

この自然消滅というのは、昨今やたらと言われてきた「ウイルスの自壊」とはまったく異なります。ウイルスの自壊は変異を起こし過ぎて宿主に適応できずに排除されていくという考え方ですが、生物進化の理論ではこのような個体は駆逐されていくだけで、集団内で広がったり固定化されることはありません。つまり、変異は中立的であり、有害な変異は起こる度により適応した個体との競争に負けて淘汰されていく、逆に適応したものだけが残存・拡大していくというのが進化のメカニズムです。

ただ、上述したように、コロナウイルスの変異の頻度の高さは、宿主によるウイルスRNAの編集によってもたらされている可能性が高く、何か未知のウイルス排除メカニズムが働いているのかもしれません。宿主によるウイルスの修飾が起こるとウイルスの増殖・伝播性が弱まり、次の変異ウイルスが出てくるまで流行が収束すると考えられなくもありません。

3. ブレイクスルー感染を起点とするアウトブレイクの懸念

上記のように、首都圏や全国の新規陽性者数の急減は、見かけ上ワクチン接種による集団免疫効果が起こっていると考えることもできますが、実際は市中でブレイクスルー感染者だらけということが想像できます。ワクチン接種は、接種後まだ日が浅い間は全体的に社会のウイルス量を減らす方向に働いていると思いますが、ワクチン完全接種者が起点となるスーパースプレッダー現象の火種は常にあちこちにあると考えた方がよいです。

米国の研究グループはプレプリント段階ですが、完全にワクチン接種した人からデルタ変異体が伝播した、マサチューセッツ州内の複数の集団感染を報告しています [4]。しかし、その規模の大きさにもかかわらず、州内および米国での感染の影響は限定的であり、ワクチン接種率の高さと公衆衛生上の対応がしっかりしていたためと考えられるとしています。ブレイクスルー感染者が起こした集団感染はベトナムでも報告されています(→COVID-19ワクチン接種者はスーパースプレッダーになり得る?)。

先のブログ記事(高齢者で高まるブレイクスルー感染のリスク)でも述べたように、先行してワクチン接種した高齢者や医療従事者から順に「ワクチン免疫の期限切れ」が起こってきます。そうなると、特に高齢者層でワクチン接種者同士の感染リスクが高くなり、ブレイクスルー感染者自身がスーパースプレッダーとなって集団感染が広がる可能性は十分にあります。

高齢者層のブレイクスルー感染の火付け役となるのは、これまでの例にも見られるようにやはり若年層です。新たな変異ウイルスが海外流入し(あるいは国内で発生し)、行動範囲の広い若年層で感染が広がり、抗体価が落ちた高齢者や基礎疾患を有する脆弱者にうつるというパターンです。次の流行(第6波)がいつになるかわかりませんが、必ず襲来することを想定して臨む必要があります。

テレビである医療専門家が「コロナはデルタで終わりで風邪のようになる」と当然のように吹聴していましたが、とんでもない発言です。

おわりに

今、日本ではワクチン・検査パッケージといっしょの実証実験とやらが行なわれています。しかし、実験とは名ばかりで、オペレーションの確認のため以上のものではなく、目的が不明瞭です。事後の感染状況を検査で把握するという設計が一切なされておらず、社会経済活動再開のために実証実験とエクスキューズしているととられても仕方ないでしょう。

このままでは、実証実験やGoToキャペーンのような事業が、ブレイクスルー感染を促進しかねず、次の第6波流行を作るエンジンとなる可能性があります。これを極力抑えるために必要な対策は、検疫における変異ウイルスの侵入の監視強化ゲノム解析の充実具体的な検査システムの構築(例:即日簡易検査の導入、Ct値にもとづくクラスター追跡など)、および非医薬的介入の対策強化です。

ワクチン接種率の上昇で死者数は抑えられるとしばしば言われますが、このような矮小化した意見は危険です。接種者の抗体価の低下は、ブレイクスルー感染を促進します。武漢型ウイルスをもとに設計された現在のmRNAワクチンは、次の免疫逃避の変異ウイルスには、ブースター効果が低下する可能性があり、ブースター接種者が感染源となることを回避できるものではありません。入院患者が増えてくればまた医療ひっ迫という状態になります。医療ひっ迫に死者数は直接関係ありません。

図2上に示したように、各流行の波は異なる変異ウイルスとともに訪れるというのは常識になっています。そして世界的にはデルタ変異体で行き着いた感じで、そこからの進化が始まっています。その意味で、今最も警戒すべき次の流行のウイルスの一つは、AY.29以外の特定のデルタ型亜系統変異ウイルス [5] ではないかと考えられます。お隣の韓国ではAY.69による流行が進行中で要注意です。あるいはこれまでの常識を超えたスーパー変異ウイルスの出現も考えられます。コロナウイルスの変異のメカニズムは複雑で、異なるウイルスの組換えなどで一気に進化が起こる可能性もあります。

いずれにしろ、次の第6波流行で想定されるSARS-CoV-2はワクチンブレイクスルーを起こす、免疫逃避の性質をもった感染力大の変異ウイルスでしょう。なぜなら、世界的な遺伝子ワクチンの集団接種は、そのようなウイルスの出現を促す選択圧になっているからです。

引用文献・記事

[1] UK Health Security Agency: COVID-19 vaccine surveillance reportWeek 41. October 14, 2021. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1025358/Vaccine-surveillance-report-week-41.pdf

[2] NHK特設サイト「新型コロナウイルス」: シンガポール ブレイクスルー感染拡大もロックダウンは行わず. 2021.10.09. https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-situation/detail/singapore_01.html

[3] Kang, M. et al.: Transmission dynamics and epidemiological characteristics of Delta variant infections in China. medRxiv Posted Aug. 13, 2021.
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.08.12.21261991v1

[4] Siddle, K. J. et al.: Evidence of transmission from fully vaccinated individuals in a large outbreak of the SARS-CoV-2 Delta variant in Provincetown, Massachusetts. medRxiv Posted Oct. 20, 2021. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.10.20.21265137v1.full-text

[5] Bai, W. et al.: Epidemiology features and effectiveness of vaccination and non-pharmaceutical interventions of Delta and Lambda SARS-CoV-2 variants. China CDC weekly 3, 863-868 (2021). http://weekly.chinacdc.cn/fileCCDCW/journal/article/ccdcw/newcreate/CCDCW210195.pdf

引用したブログ記事

2021年10月11日 高齢者で高まるブレイクスルー感染のリスク 

2021年9月28日 感染流行減衰の要因:雨とエアロゾル消長

2021年9月7日 第5波感染流行が首都圏で減衰した理由

2021年8月26日 COVID-19ワクチン接種者はスーパースプレッダーになり得る?

2021年8月16日 デルタ変異体の感染力の脅威

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19