Dr. Tairaのブログ

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テレビの情報番組が伝えた「維新」躍進の分析

はじめに

今日の読売テレビの番組「ウェークアップ」では、先の総選挙で日本維新の会が躍進したことを話題として取り上げていました。馬場伸幸幹事長をリモート生出演させながら、勝因の分析やこれからの国会の枠組みの予想について伝えていました。

本番組は、テレビ局のスタンスや常日頃体制よりの発言をする野村修也MCの姿勢を考慮しながら観る必要がありますが、今日は割と客観的な分析をしていましたのでここで紹介したいと思います。ただ、その内容は、大方のメディアと同じく、野党共闘の左寄りを有権者が嫌った結果、維新に票が流れたという見方です。

1. 立憲民主党の敗因は野党共闘

番組の冒頭では、各党の獲得議席数の結果(表1)とともに、維新の躍進および野党共路線をとった立憲民主党の「敗因」の分析が行なわれていました。表1を見ると、小選挙区では自民党が21議席を失い、その分がそのまま立憲と維新に振り分けられているように見えます。逆に比例では立憲が23議席共産党が2議席をを失い、それが維新と自民に振り分けられた格好です。差し引きをした数の上では、自民と立憲が負け、維新が一人勝ちした印象です。

ただ、自民党単独過半数を超え、安定議席数を確保しましたので事実上は勝利となるでしょう。その中でも連立与党の公明党はしっかりと微増させています。

表1. 今回の総選挙における各政党の獲得議席

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野村MCは、野党共闘路線についてリベラルか共産主義かという選択有権者は迫られ、結局共産主義を嫌って、野党共闘から維新へ乗り換えた投票行動に繋がったという主旨発言をしていました。ゲストコメンテータの田崎氏も、立憲は共産との連携で左に振れ過ぎたことが敗因だと述べていました(図1)。

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図1. テレビの情報番組が伝えた野党連携の効果(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

海外の多くのメディアも、専門家のコメントを引用しながら、野党共闘が左に寄り過ぎたという国民の警戒感を生み、敗北に繋がったという分析をしています(→日本維新の会は右翼のポピュリスト政党海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか)。

とはいえ、図1の福山幹事長のコメントにもあるように、小選挙区では立憲は議席を増やしており、次点でも接戦のところも多かったので、野党共闘は一定の効果があったことは確かでしょう。実際は、この共闘には社民党とれいわ新撰組も加わっており、れいわは比例で2議席増やしています。これには、代表の山本太郎氏のSNSでの発信力が効いているかもしれません [1, 2]

ただ、それ以上に、野党共闘に対する与党や維新による共産主義」、「野合」という事前のネガティヴキャンペーンが効いて、大衆の共産党アレルギーをさらに増幅させたということではないでしょうか。大手新聞やテレビさえも、野党共闘について選挙前にネガティブに伝えていましたので、立憲がその分票を失うのも当たり前だ言えば当たり前と思われます。かと言って、野党共闘を組まず、立憲単独で闘った場合でも絶対に自公に勝てないことは明らかでした。

それでも、選挙結果の鍵を握ると言われる無党派の投票行動を見ると、野党共闘にまったく拒否反応を示したのかというと必ずしもそうではありません。図2に、報道 [3] に基づいて、無党派層の比例投票先について今回の結果と前回(2017年)の結果を比較して示します。今回で見れば、立憲がトップの獲得率(24%)であり、野党共闘全体になると42%になります。一方、自公は22%、維新は20%になります。維新は前回に比べて大幅に票を上乗せしたとは言え、それでも野党共闘の半分しかありません。

前回の希望の党の票(18%)を今回どう振り分けるかが難しいですが、9%分を国民民主に当てると、本来残りの9%が立憲に行くべきところが他党に逃げたと考えることができます。そうすると立憲は前回と比べて15%程度票を減らしているということになります。しかし、今回れいわが7%獲得していますので、野党共闘内でこの分を吸収していることになり、立憲の目減りは実質8%程度になるということでしょうか。

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図2. 無党派層の比例の投票先:2021年と2017年総選挙の比較(共同通信の集計データ [3] に基づいてグラフ化).

自公も前回と比べて5%票を減らしています。そうなると、立憲(野党共闘)と自民が減らした分が維新に流れたということになるでしょう。それでも、無党派層での野党共闘の得票率が断トツなのですから、これが失敗だったと決めつけるのはいささか言い過ぎになるでしょう。

むしろ、立憲の支持者層が、小選挙区で立憲に投票しながら、共産党の候補者が立ったところでそれを支持しなかったこと、そして比例では維新を選択したことが大きく影響したことが考えられます。だとすれば、立憲にSNS発信を含めた情宣力がなかったということかもしれません。立憲パートナーズに逐次選挙マガジンを送信するということは行なっていたにしろ、最後の詰めに至る行動力(自民党がよくやる「投票に行ってください」という電話攻勢など)がなかった(その発想もなかった)ということになるでしょう。

選挙の結果は投票率にも左右されます。一般には投票率が上がれば野党有利と言われていますが、今は投票率の低い若い人程自民党を支持する割合が高くなっています。そこから投票率が上がれば、自民党がより勝つだけであり、政府批判しかしない野党では負けるのが当たり前という指摘も出ています [4]。果たしてそうでしょうか。

若い人での政党支持率が一番高いのは自民党ですが、実は、それよりも割合が高いのが「支持する政党はない」という無党派層です。無党派ではその時の風によって投票行動が変化しますので、若い人の投票率が上がることが必ずしも自民党に有利ということにはなりません。

政府批判しかしない野党 [4] というのも、政権側からのプロパガンダやメディアが作り上げたデマです。国会では野党の賛成によって可決した法案の方が圧倒的に多く、政権が実施したコロナ対策も、10万円一律給付も含めて多くが野党提案によるものです。ただ、政策決定の権限は政権と与党にありますから、野党が提案した政策でもパクリで与党の手柄になってしまい、メディアが報道しないこともあって野党の貢献度はきわめて薄まっているのが現状です。

野党共闘政党は「野党は批判ばかり」という声に対して、なお批判で返していては、デマが染み付いた国民はついてきません。批判にリンクさせて分かりやすい言葉で政策を主張する力(言わばポピュリスト的手法)が圧倒的に足らないと思います。

2. 投票結果にみる維新のポピュリズム

先のブログ記事でも書きましたが、海外メディアは軒並み維新を右翼のポピュリスト政党という認識をもって紹介しています(→日本維新の会は右翼のポピュリスト政党)。なぜポピュリスト政党として見ているのか、それは選挙結果にも出ているような気がします。

表1の結果だけを見ていると、さも維新が大躍進したように見えますが、実は選挙区や得票率を見るとその異常さが見えてきます。すなわち、小選挙区16人の当選者のうち、15人(94%)は大阪の選挙区からの当選であり、しかも得票率が高いのです。

表2に示すように、大阪の19の選挙区のうち、15の区を維新の当選者、残りの4区を公明の当選者で占め、両党で大阪を独占しています。そして、よく見ると維新と公明の選挙協力の跡がありありです。公明の候補者が出ている選挙区に自民党の候補者が出馬していないのは当然なのですが、実は維新も公明と重ならないように選挙区調整していることがわかります。大阪の人たちは反自民というつもりで維新に投票したかもしれませんが、全国から見れば維新は自公与党の補完勢力、あるいは第2自民党と思われる所以です。

表2. 大阪選挙区における当選者、立候補者、および比例当選者の政党(当選した候補者の政党を色付けして表示. 朝日新聞の報道 [5] に基づいて表作成)

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維新は15選挙区で当選者を出していますが、そのうち8選挙区で50%以上の得票率を得ています。東京では、得票率40%以下の当選は4選挙区ありますが、大阪では一つもありません。ちなみに得票率最低は大阪10区の池下卓氏(40.32%)で、立憲の辻元清美氏(33.35%)と争ったものです。

これがどういう意味なのか、同じ大都市圏として大阪と東京を新聞報道 [5, 6] に基づいて比べてみましょう。図1に示すように、当選者の得票率は大阪が東京よりも高く、逆に次点者の得票率は東京で高くなっています。平均惜敗率は大阪では63%、東京では75%です。標準偏差で見れば、東京では当選者と次点者では重なる部分があるのに、大阪ではまったく重なっていません。

つまり、大阪で多くの選挙区を制した維新の候補者は、次点者に圧倒的な得票率の差をつけて勝ったということがわかります。比例でも票を稼ぎ、他党の比例当選を許していません(たった5人しかいない)。BuzzFeedの記事 [7] で、維新の躍進は「ポピュリズム」という評価は必ずしも正しくないという見方が紹介されていますが、大阪では「一択」で維新という選挙結果の数字に、明らかにポピュリズム的傾向は出ているのです。

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図3. 大阪選挙区および東京選挙区における当選者と次点者の得票率の平均値と標準偏差朝日新聞の記事 [5, 6] に基づいてグラフ化).

ポピュリズムとは、一般大衆の利益や権利を守り、大衆の支持のもとに、既存のエリート主義的体制や知識人などに対して批判的な政治思想や政治姿勢を示すことを言いますが、その定義はさまざまで、研究者や時代によって異なります。

上記の意味では、民意を基礎とする民主主義の延長線上にポピュリズムがあると考えられますが、しばしば個人的な人気を備えた政治家が直接大衆に訴えたり、単純明解なスローガンを掲げながら大衆に訴える手法がとられることがあり、大衆迎合主義と呼ばれたりします。大衆が考える利益や不満に対する解を単純化して訴えれば支持を得られやすくなりますが、行き過ぎると少数意見の抑圧を生み、全体主義に繋がることもあります。

維新の手法を見ると、「身を切る改革」「停滞か維新か」「是々非々」などの単純なスローガンを掲げながら、与党の自民党や野党第1党の立憲民主党を徹底的に批判しています。人気がありツイッターのフォロワー数が多い吉村洋文副代表が頻繁にテレビに出て、大衆に直接訴えたりしています。第4波COVID-19流行では、大阪は医療崩壊を起こす程の甚大な被害を出していたにもかかわらず、吉村知事は連日のようにテレビに出て評論家風の解説をすることで、あるいは「ヤッテル感」を出すことであたかも適切に対策をとっているような印象を視聴者に与えました。

つまり、「野党は批判ばかり」と言いながら実は自らも対立軸を作って批判し、それに大衆受けする単純なスローガンや「顔」を添えて訴えています。まさしくポピュリストの手法であり、これに有権者が投票行動において多様性を選択するよりも1党集中的に反応するようであれば、ポピュリズムと言ってもいいような気がします。今回は大阪では7%投票率が上がった [8] 上で、維新の得票率も伸びています。大阪での維新の政党支持率は30%あるとも言われており、地域に特化した与党政党ということもあって、それが数字として出ているのです。

危機的なのは、大阪の人々が、表2に示すような独占的な選挙結果に疑問を抱いていないような傾向があることです。大阪在住の知人によると、地元では吉村知事はヒーローあるいは教祖のような存在であり、第4波流行でさえ大阪は吉村知事のおかげで助かったと考えている人たちが少なくないということだそうです。実際は逆で、吉村知事の判断ミスで医療崩壊を招いたことは、先のブログ記事で指摘したとおりです(→大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念)。

3. 維新のこれからと課題

ウェークアップでも指摘していましたが、維新の課題はまず選挙結果に出ています。躍進した維新ですが、実は今回の議席数は、結党した時の最初の議席数にはまだ到達していません(図3)。これは、大阪という地域ポピュリスト政党である限り、議席数の大幅な増加は望めないということでしょう。ただ、維新に対する第2自民党としての意識がない国民の間では、自民党批判の受皿として機能し、全国的に浸透していく可能性もあります。

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図4. テレビの情報番組が伝えた維新の議席数の推移(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

もう一つ選挙結果の課題があるとすれば、今回の議席増は少し上げ底の印象があることです。例を挙げるなら、福岡1区で当選した山本剛正氏は、獲得票数では3位でありながら、比例票で救われて復活当選しています(図4)。このように、小選挙区では2位にもなれず、惜敗率50%に満たない新人議員が8人も比例復活当選しているのです。徳島1区の吉田知代氏に至っては、当選制限ギリギリのわずか得票率10.1%、惜敗率20.1%で比例当選しています。

このように、選挙区で信任を得たとも思われない維新の議員が、全体の獲得議席の20%にも及んでいるということは、次回少し風が変わればあっという間に議席を減らす危険性をはらんでいます。

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図5. テレビの情報番組が伝えた維新候補者の比例復活の例(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

これからの国会での枠組みという点では、維新のスタンスは与党よりの積極姿勢となるかもしれません(図5)。自民党と維新は元々政策的に大きな違いはあるものの、防衛費の制限撤廃、憲法改正への積極的性、放射性廃棄物の海洋投棄や新しい原子炉の開発などでは、両党で足並みを揃えられる面があります。

特にこれらの改憲勢力が国会で2/3以上を占めたことにより、憲法改正論議が進んで行くでしょう。憲法改正には国民民主党も積極的です。野党共闘の枠組みから離脱したこともあり、憲法改正には、この党も維新や自民と足並みを揃えていくことになるでしょう。つまり、第2自民党としての姿勢が大きくなっていくということです。

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図6. テレビの情報番組が伝えた維新の党勢拡大に伴う今後の枠組み(2021.11.06 読売テレビ「ウェークアップ」)

おわりに

世界的な大きな政治課題は、地球温暖化に伴う気候変動と環境変動、大災害対策、食料危機とエネルギー危機、パンデミック対策、そして資本主義下の格差問題です。しかもこれらは未来の話ではなく、今直ぐ取り組まないと、もう取り返しがつかなくなるという転換点(tipping point)に私たちは立たされています。

この点を超えてしまうと私たちがいくらCO2削減をしようが、地球が勝手にドミノ倒しのように温暖化し、人類は壊滅的になってしまうと予測されています。もう超えてしまったと発言する科学者もいます。ドイツの先の総選挙では、最大の争点が気候変動と地球環境問題でした。一方、日本では選挙の争点にさえなっていませんでした。

長年の既得権益に縛られ、旧態依然の手法と政策しかもちえない自民党では、グレート・リセット(Great Reset)[9] が必要とされるこの大問題に対して迅速果敢に対処することができず、ズルズルと遅れをとって行くでしょう。COP26の場で2年続けて化石賞をもらったことにも現れています。維新も然りで、彼らが掲げるような「小さな政府」や新自由主義的政策では、これらの問題にまったく対応できません。早速、憲法改正論議に焦点を合わせるような動きも出ていますが、優先課題をまったく間違えていると思います。

引用記事

[1] 共同通信: ツイッター衆院選中の投稿. 2021.11.05. https://nordot.app/829263319690182656

[2] 東京新聞: 党首の「拡散力」はれいわ、共産 ツイッター衆院選中の投稿. 東京新聞. 2021. 11.05. https://www.tokyo-np.co.jp/article/141112

[3] 毎日新聞: 無党派層 立憲支持が最多24%、維新伸び21% 共同通信出口調査. Yahooニュース Japan. 2021.10.31. https://news.yahoo.co.jp/articles/57926db23df84942ba23ae9d32243852df5a9d92

[4] 山本 一郎: 投票率が上がれば、自民党がより勝つだけ」政府批判しかしない野党が無視する残念な真実. PRESIDENT Online/Yahooニュース Japan. 2021.11.05. https://news.yahoo.co.jp/articles/61d36a385cd988dcd022659c124cd066ef1d1e98?page=1

[5] 朝日新聞デジタル衆院選 大阪 開票速報.  https://www.asahi.com/senkyo/shuinsen/2021/kaihyo/A27.html 

[6] 朝日新聞デジタル衆院選 東京 開票速報. https://www.asahi.com/senkyo/shuinsen/2021/kaihyo/A13.html

[7] 千葉雄登: 維新の躍進は予想通り? 「ポピュリズム」という評価は的外れ? 大阪で自民党が全敗した理由. BuzzFeed 2021.1106. https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/ishin-2021

[8] nippon.com: 【Japan Data】衆院選投票率55.93%、戦後3番目の低水準 :「 維新」躍進の大阪は大幅アップ. Yahooニュース Japan. 2021.11.02. https://news.yahoo.co.jp/articles/b866645750e895d8e6c58f29c51174698455b18b

[9] World Economic Forum: The Great Reset: https://www.weforum.org/great-reset/

引用したブログ記事

2021年11月4日 日本維新の会は右翼のポピュリスト政党

2021年11月1日 海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか

2021年3月23日 緊急事態宣言解除後の感染急拡大への懸念

2021年2月25日 大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請

              

カテゴリー:社会・時事問題