Dr. Tairaのブログ

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海外メディアが伝えた国葬に抗議する焼身事件

9月21日朝、首相官邸近くの路上で男性が自らの体に火をつける事件が起こりました。報道によると、男性が火に包まれているのを見た人たちが警察に通報し、駆けつけた警官が火を消し止め、その男性を病院に運びました。意識はあるようですが、その後容体についての報道はないようです。

男性は70代とみられ、警官に安倍元首相の国葬への反対を伝えたといいます。現場では、国葬に断固反対などと手書きされた手紙のようなものが見つかったそうです。この抗議行動について、政府はまだコメントを出していません。

国内メディアは、当日、すぐにこの事件のニュースを流しましたが、事実のみをごく簡単に伝える内容で、詳しい続報はありません。一部メディアでは、どちらかと言えば、国葬への賛否をめぐる国内世論や安倍明恵夫人への配慮に関する感情論などを交えた伝え方になっています [1]

一方、ロイター [2]、ガーディアン [3]BBC [4] などの海外メディアも早速この事件を取り上げました。日本メディアとは対照的に、事実のみだけでなく、その背景まで掘り下げて包括的に報道していることが特徴です。国葬反対の世論の高まり、統一教会をめぐる問題、英女王の国葬との対照性についての日本人が評価などを交えながら伝えています。税金で賄われる費用の大きさもさることながら、招待者リストにミャンマー国軍の代表も含まれていて、批判の的になっていることまで紹介しています [4](下図)

このブログ記事では、「元首相の国葬に抗議する日本人男性の放火」"Japanese man sets himself on fire in apparent protest at former PM's state funeral"というロイターの記事 [2] を翻訳して紹介します。

以下翻訳文です。

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今年の以前に暗殺された安倍晋三元首相の国葬を行うという政府の決定に抗議するため、ある男性が首相官邸の近くで放火したとメディアが報じた。この男性は全身にやけどを負って病院に運ばれ、消火にあたった警察官も負傷した。

70代のこの男性は、最初に発見された時は意識がなかったが、その後、わざと自身に油をかけたと警察に話したことをメディアは伝えた。近くで見つかった安倍元首相の国葬に関する手紙には「強く反対する」と書かれていた。

警察は、安倍元首相の68歳の誕生日に起こったこの事件について、その意図の確認を避けた。

松野博一官房長官は、記者会見で、「警察が政府機関の近くで火傷を負った男性を発見したと聞いており、警察が捜査していることは承知している」と述べた。

安倍元首相は日本で最も長く首相を務め、2020年に体調不良を理由に退任したが、7月8日の選挙の街頭演説の最中銃殺された。 彼の国葬は9月27日に行われ、日本や海外から約6000人が参列する予定である。

国葬イベントに対する反対意見は高まりつつある。それは安倍元首相殺害後、彼が有力議員であった自民党と、いま論争の的になっている旧統一教会のつながりが明らかになったためである。安倍殺害の容疑者は、統一教会が母親を破産させ、元首相がそれを支援していると思った、と語っている。

1950年代に韓国で設立された統一教会とのつながりは、安倍元首相殺害後に浮上し、岸田文雄現首相と自民党にとって大きな問題へと発展している。自民党は今月初め、379人の自民党議員のうち、半数近くが何らかの形で教会と交流があるとの調査結果を発表した。

安倍元首相が亡くなった直後、国葬が発表された時、社会の感情は僅差で国葬に好意的であったが、世論は大きく変わった。多くの世論調査で日本人の大半が国葬に反対しており、岸田氏の支持率は急落している。

毎日新聞が週末に行った世論調査では、岸田氏の支持率は29%で、8月下旬から6ポイント低下した。アナリストは、首相が政策を実行するのに十分な支持を得るのは難しい水準だと指摘する。自民党の支持率は6ポイント下がって23%になった、と毎日新聞は伝えている。

岸田氏は国葬決定を何度も擁護してきたが、有権者の大多数は納得しておらず、一般市民の経済的痛みが増しているときに、このような経費がかかる式典を行う必要性にも疑問を持っている。政府の最新の費用見積もりは、警備やレセプションを含めて16億5千万円である。

2014年には、安倍政権下で日本が戦後の平和主義から脱却したことに抗議し、2人の男性が別々の事件で放火した。うち1人は死亡した。

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翻訳は以上です。

筆者あとがき

上記のように、短いロイターの記事ですが、警察の反応、世論や統一教会の問題まで挙げて、簡潔でありながら関連情報の要素をうまく織り込んで伝えています。BBCなどの他の海外メディアもおしなべてそのような論調であり、この国葬をめぐる問題の核心部分が何かを的確に伝えているように思います。

それにしても、わざわざ安倍元首相の誕生日に焼身自殺を図ったと思われるこの事件は、国葬に対する強い抗議の意図があったと思われますが、日本のメディアの伝え方はきわめて抑制的です。続報もあえて避けているような気がします。

今回の事件について、ロイターはわざわざ2014年の焼身自殺まで引用しています。これは、2014年6月29日、東京新宿で1人の男性が衆人環視の中、焼身自殺を試みた事件であり、当時の安倍政権が進める集団的自衛権の行使容認に抗議したものといわれています。SNS上では大きな話題となりましたが、大手新聞やテレビでは、それほど大きく報じられませんでした。

当時のあるウェブ記事では、大手メディアが大々的に報じなかった理由として以下のように書かれています [5]

今回の場合、政治的主張があり、報道することでその主張を広く伝えてしまえば、今後、同様の手口で自らの主張を行う模倣、もしくは同一人物による再発の可能性も考えられる。そういう意味でも、報道を抑え気味にした理由があったと言えるだろう。

報道抑制について、これは理由にはならないでしょう。権力に媚びた、あるいは忖度したジャーナリズムを捨てた言い訳にしか過ぎないと思います。芸能人や有名人が自殺したとするなら、模倣誘導の可能性もおかまいなく、ガンガン取り上げるテレビのワイドショーや情報番組を見ればわかります。

それにしても安倍元首相は、焼身自殺や火炎瓶や官僚の死など人の不幸につくづく縁がある人だと思います。何よりも、自らも暗殺されるというこれ以上ない不幸な目に遭ってしまいましたが、死してもなお人の不幸を招いているような気がします。

引用記事

[1] Flash:「誕生日」を迎えた安倍元首相 「身内」自民からも国葬批判が出る中、昭恵さんを慮る声が続々. Yahoo Japan ニュース 2022.09.21. https://news.yahoo.co.jp/articles/feb06152d19ec057c5687c4870e81966765ba91b

[2] Katsumura, M. and Lies, E.: Japanese man sets himself on fire in apparent protest at former PM's state funeral. Reuters Sept. 21, 2022. https://www.reuters.com/world/asia-pacific/man-who-set-himself-fire-near-japans-pm-office-is-unconscious-tv-asahi-2022-09-21/

[3] McCurry, J.: Shinzo Abe: man sets himself alight in protest at state funeral for killed Japan PM. Guardian Spt 21, 2022. https://www.theguardian.com/world/2022/sep/21/shinzo-abe-man-sets-himself-alight-in-protest-at-state-funeral-for-killed-japan-pm

[4] Mao, F.: Japan man sets himself on fire in apparent protest at Abe funeral. BBC News Sept 21, 2022. https://www.bbc.com/news/world-asia-62976842

[5] PAGE: 新宿での焼身自殺未遂事件 報道が少なかったのはなぜ? Yahoo Japan ニュース 2014.07.03. https://news.yahoo.co.jp/articles/fd609fa665e22b8f44200a4b0261dc771bd7c43d

                               

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