Dr. Tairaのブログ

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英文記事が伝える統一教会と日本政治との関係

はじめに

安倍元首相暗殺事件は、日本のみならず世界に衝撃を与えました。そして、事件に付随して俄に注目を浴びているのが世界統一家庭連合(旧統一教会)であり、そして教会と安倍晋三や日本政治との関係です。

報道によれば、事件を起こした山上容疑者の動機には、旧統一教会のへの恨みがあるとされています。そして、安倍元首相を殺害した理由として「同教会と安倍元首相が関係があると思い込んだ」と捜査関係者は伝えています。

ここから同教会と日本社会、とくに政治との関係がクローズアップされているわけですが、この件については、日本メディアの報道はきわめて抑制的です。一方で、海外のメディアや日本メディアの英字記事はよりストレートに情報を発信している印象を受けます。

このブログ記事では、日本のメディア報道や警察情報だけでは分からない、旧統一教会と日本政治との関わりについて、英字記事の報道に基づいて紹介します。ここでは、便宜上、当該宗教団体を統一教会とよぶことにします。

1. 警察発表、日本・海外メディアの論調と背景

今回の事件と関わりがあるこの宗教団体が統一教会であることはすでに明白であり、民放の情報番組やインターネットメディアはこの名称を用いています。にもかかわらず、警察はいまだに団体名称を公表していません。NHKも然りで、ある宗教団体という言い方を通しています。これについて、先日、私は以下のようにツイートしました。

NHKのニュースは、統一教会と安倍元首相について、当該団体の名前を出さず、かつ山上容疑者が「関係があると思い込んで」という部分を毎回強調して報道することで、視聴者へのすり込みを行なっている印象を受けます。この点で、警察とNHKの伝え方は完全に同調しており、政府権力側からの何らかの働き、あるいは組織内の調整をうかがわせるものです。

そして、こともあろうに、警察庁を管理する国家公安委員会のトップである二乃湯智氏が、統一教会関連イベントの呼びかけ人だったという記事が出てきました [1]。こうなると、警察とNHKの名称隠しや一連の報道・発表は、意図的な情報隠蔽・印象操作だという疑いが益々拭いきれません。これに関して、私は以下のようにツイートしました。

実は、統一教会は、公安委員会の監視対象であった可能性があります。公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」の2005年(平成17年)1月〜2006年(平成18年)1月版には、監視対象としてのオウム真理教日本共産党とともに、最後に「特異集団」というカテゴリーが出てきますが [2]、この記述を見ると(名指しこそしていませんが)ここに統一教会が含まれていたとしても不思議ではないです(図1)。

図1. 公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」の平成18年1月版に記された特異集団 [2].

そのように思わせるのが、翌年(2007年)から、この「特異集団」の記述がなくなっていることです。つまり、2006年9月から第一次安倍政権が始まり、同年12月に公安調査庁の長官が柳俊夫氏に交代しているのですが、それ以降記述が消えたということは、政権の意向が働いていることを想像させるものです。

これに関するツイートがありましたので以下に引用します。

上述のように、日本の大手メディアの報道はきわめて抑制的です。たとえば、朝日新聞は、「統一教会を日本に入れたのは安倍氏の祖父の岸信介氏で、安倍氏も教会とつながりがあると思った」という捜査担当者の発表をそのまま流しています。統一教会の名前は出していますが、論調は捜査担当者の発表をそのままという感じです。統一教会安倍氏、あるいは自民党との関係は、赤旗などのごく少数のメディアが部分的に取り上げるのにとどまっています [3]

一方で、フィナンシャル・タイムズ(FT)、ワシントン・ポストブルームバーグ(→元首相の死で浮かび上がった少数政党の主張)などの海外メディアは、今回の件についてより踏み込んで、事実や歴史的背景を忖度抜きで報道しています。たとえば、FTの記事は、統一教会と日本の政治の関係を直接示唆する内容であり、日本語に翻訳された記事もでています [4]

そしておもしろいことに、日本のメディアでも、英字記事になると、統一教会安倍氏ら、自民党議員との関係についてもっと踏み込んで書いていることがわかります。ここでは、毎日新聞社が提供するニュースサイトThe Mainichi(旧名:Mainichi Daily News)に掲載された英文ウェブ記事 [5] を紹介したいと思います。取り立てて新しい事実は出ていませんが、割とストレートにこれまでの事実と背景が書かれています。

2. The Mainichiの記事

Mainichiのウェブ記事 [5] は、昨日(7月15日)に配信されたもので、"The Unification Church's ties to Japan's politics"(統一教会と日本の政治との結びつき)という見出しがついています(下図)。

以下、全翻訳文です。

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安倍晋三元首相が暗殺された事件で、長年疑われながらあまり語られてこなかったある宗教団体と安倍首相とのつながり、すなわち、韓国で始まり世界中に影響力を持つこの団体と安倍氏との関係が明らかにされた。

その場で逮捕された山上徹也容疑者は、安倍元首相と統一教会との関係を知って怒りをもったことを、警察やメディアは示唆している。この教会は米国、日本、欧州の政治的に保守的な団体や指導者と関係を追い求めてきた。容疑者は、母親が教会に多額の寄付をしたため、一家が破産したことに腹を立てていたという。

冷戦時代の共産主義で思想共有したことに端を発するこの教会と日本のトップリーダーの結びつきが今週明らかになったことは、多くの日本人にとって驚きだ。与党の保守的な世界観がいかに強力に現代日本の政策を動かしてきたかを、人々がより詳細に探るきっかけになるかもしれないと、アナリストは語る。

ここで、日本の政権党や安倍首相一族と深いつながりを持つ教会に迫る。

統一教会とは?

統一教会は、朝鮮戦争終結した翌年の1954年に、故・文鮮明によって創設された。彼は、聖書の新解釈とともに保守的で家族的な価値観を説き、自らを救世主と称する。反共産主義を唱え、全体主義北朝鮮と民主主義の南朝鮮(韓国)に分裂している朝鮮半島の統一を目指した教会である。

この教会は、おそらく合同結婚式を行うことで最もよく知られている。スタジアムや体育館などの広く開放的な場所で、しばしば異なる国のカップルがペアを組み、既婚者に対して誓いを新たにする集団結婚式だ。世界には数百万人の会員がいると言われ、日本にも数十万人がいる。

同教会は1970年代から80年代にかけて、悪質な勧誘戦術を用い、信者を洗脳して所得の大部分を文鮮明に差し出させたということで非難にさらされた。教会はこのような疑惑を否定しており、多くの新宗教運動がその初期に同様の非難を受けたことを述べている。

日本では、「霊感商品」を提供したとして訴訟にまで発展している。これは教団への寄付を集めるために教団員が高価な美術品や宝石を買ったり、不動産を売ったりしたとされる行為だ。

●世界の指導者たちと教会のつながり

文鮮明は生涯を通じて、自分の教会を世界的な宗教運動に変え、ビジネスや慈善活動を拡大することに努めた。彼は1982年に脱税で有罪判決を受け、ニューヨークで服役した。彼は2012年に死去した。

同教会は、リチャード・ニクソンロナルド・レーガンジョージ・H・W・ブッシュ米大統領、最近ではドナルド・トランプを含む保守的な世界の指導者たちと関係を深めてきた。

文鮮明は、北朝鮮の建国者である金日成氏(現政権者金正恩氏の故祖父)とも関係があった。彼は自伝の中で、金氏に核開発の放棄を求めたところ、金氏は原子開発は平和目的であり、「(韓国の)同胞を殺す」ために使用するつもりはないと答えたと述べている。

●安倍元首相とつながりは何だったか?

安倍元首相は、安全保障や歴史問題で旧来の保守的な考えを持つことで知られ、また日本会議などの強力なロビー団体に支えられていた。2021年9月にも教会関係者が主催するイベントに出演している。

教会系の万国平和連合(UPF)の会合で、安倍首相は大型スクリーンに映し出されたビデオで、朝鮮半島の平和に向けた活動や家族の価値を重視する同連合会の活動を称賛した。伝統的な父権的な家族制度を重視することは、安倍氏の重要な立場の一つであった。

安倍元首相は、「UPFが家族の価値観を重視していることは評価できる」とビデオで語っている。「偏狭な価値観を持つ、いわゆる社会革命的な運動には注意しよう」とも述べている。

2021年のイベントへの出演が報じられると、日本共産党や、統一教会の活動を監視し、被害者とされる人々を支援してきた弁護士グループなどのカルト・ウォッチャーから批判を浴びた。

安倍暗殺とUPFの関係が明らかになった後の月曜日の記者会見で、日本におけるUPFのリーダーである田中智博氏は、安倍元首相はUPFの平和運動を支持しているが、会員ではなかったと述べた。

警察は、暴力の連鎖を避けるためなのか、山上容疑者が挙げた団体をまだ公表していない。

●日本の政権党について意味するところ

安倍元首相の祖父である岸信介は首相を務め、1960年代に、労働組合の活動家が力をつけるにつれて日本で共産主義の広がることを恐れ、その懸念をワシントンと共有していた。

岸は、戦犯として逮捕されたが起訴されなかった。右翼的な政治観で知られ、統一教会の反共的な姿勢は、彼の日本の国益に対する見解と一致していたと専門家は言う。

岸と教会との親密な関係は一般的に知られていた。岸の東京の自宅の隣には教会本部があり、教会で撮影された写真や団体出版物に掲載された写真には、岸が文鮮明と一緒にいる姿が写っていた。マスコミの報道によると、山上容疑者は岸が日本に教会を持ち込んだと信じていたという。

「当時の日本の指導者たちは、教会を日本の反共産主義を推進する道具として見ていた」と、弁護士で宗教ビジネスの専門家である紀藤正樹氏は言う。宗教団体にとって、著名な政治家との密接な関係を誇示することは、彼らの活動への賛同を得るための方法だったのだ。

教会系組織と自民党議員の結びつきは、教会の拡大以来、数十年にわたって発展してきており、政権党に確かな政治的支援と票を提供した、と専門家は指摘するが、同団体は否定している。

週刊現代は、1999年、警察から入手した128人の国会議員の調査結果を記事として掲載した。ほとんどの議員が、統一教会の反共関連団体である「国際勝共連合」が主催するイベントに参加しており、自民党議員の事務所にも少なくとも1人はボランティアとして教会の信者がいることがわかった。

●教会とその批判者の言い分

教会は日本支部を開設する際、岸氏による優遇措置を受けたことを否定した。田中氏は、安倍首相は現在の指導者であるムン・ハクジャ(韓鶴子)氏の平和運動を支持していると述べたが、同団体と自民党の間の金銭の動きについては否定した。

同教会は月曜日、山上容疑者が会員であったことを示す記録はないと発表した。同教会は、関連団体を通じて他の議員と交流はあるが、安倍首相とは直接の関係はないという。

教会を監視する「霊感商法対策弁護士全国ネットワーク」のメンバーは、統一教会や関連会社が主催するイベントへの出演やメッセージの発信をやめるよう、安倍首相ら自民党議員に繰り返し求めてきたという。だが、この間、長らく教会関連の問題は無視されてきた。

自民党にとって何を意味するのか?

上智大学の中野晃一教授(国際政治学)は「今回の暗殺は統一教会に光を当てている」と指摘する。「統一教会自民党右派の関係や超右派的な政策が精査され、安倍首相のレガシーの再評価につながる可能性がある」と指摘する。

自民党の見解は、男女平等や性的多様性の問題の進展を阻害しているが、それがいかに戦後日本社会を歪めてきたかを明らかにすることにつながるかもしれない、と中野氏は述べている。

岩手県達増拓也知事は、金曜日、元官僚や国会議員として自民党と教会のつながりを知っていたと述べた。そして、投票や政府の政策に影響を与えたとされる教会を、徹底的に調査するべきだと語った。

おわりに

安倍元首相の殺害事件以降、このところの日本のテレビ、メディアの報道は明らかにおかしいです。とくにNHK偏向報道というか、プロパガンダ風の報道は目に余ります。

そんな中で、日本語と英語の記事を配信しているメディアの中には、微妙に使い分けている印象もあります。すわなち、より本音の記事を英語で伝えているという印象です。それを今回の The Mainichi の記事 [5] で感じました。統一教会と日本の政治との関係については、しばらく海外メディアの報道と日本の英文記事を参考にするのがよさそうです。

引用記事

[1] FLASH: 倍元首相銃撃事件で注目の旧統一教会「主導イベント」国家公安委員長が呼びかけ人だった! Yahoo Japan ニュース 2022.07.15. https://news.yahoo.co.jp/articles/b3f95dd0e9eafbe01f742863a7c23d18cb0f1fe9

[2] 公安調査庁: 内外情勢の回顧と展望(平成18年1月). 
https://www.moj.go.jp/psia/kouan_naigai_naigai18_naigai18-04.html

[3] しんぶん赤旗電子版: 杉田水脈氏 旧統一協会関係団体で講演 19年. 自民との関係に批判の声.2020.07.16. https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-07-16/2022071602_04_0.html

[4] COURRiER Japon:自民党とカルトの“近すぎる距離” 英紙が「安倍晋三統一教会の関係」に迫る─それは祖父・岸信介の時代から「公然の秘密」だ. 2022.07.12. https://courrier.jp/news/archives/294114/

[5] The Mainichi: EXPLAINER: The Unification Church's ties to Japan's politics. 2022.07.15. https://mainichi.jp/english/articles/20220715/p2g/00m/0na/053000c

引用したブログ記事

2022年7月10日 元首相の死で浮かび上がった少数政党の主張

                

カテゴリー:社会・政治・時事問題