はじめに
大手メディアによる今月分(2018年10月)の世論調査の結果 [1-11] が概ね出揃いました。SNS上では、世論調査は信用できないとか捏造だとかいうコメントも見受けられますが、とりあえず発表されたデータに基づいて今回も考察してみたいと思います。
世論調査が捏造だとする証拠はないと思いますが(もしあったら大変です)、ほとんどの場合、回答者の属性が公表されていない以上、そのまま鵜呑みにするわけにもいきません。すなわち、回答者の属性に偏りがあれば、結果が変わってくることは大いにあり得ます。その辺りを各社の結果を見比べることで推察することはできます。
1. 内閣支持率
1-1. 朝日新聞の調査データ
まず、対照とする朝日新聞のデータを見てみましょう。10月分(10月15日)のRDD調査においては安倍内閣を「支持する」が40%、「支持しない」が40%、「その他・無回答」が20%でした。この時期にきて内閣支持率が若干上がっている傾向が続いています。
図1に、男女別、年齢層別にみた内閣支持率を示します。男性の場合、支持率が男性60-69歳層を最低として、若年層と高齢層の両側に上がっていく従来のパターンを示しています。男性若年層(18-39歳)において支持率が50%を越え、最も安倍内閣を支持する層であることも従来どおりです。
女性においては、従来年齢層に関わらず、内閣支持率が低い傾向を示してきましたが、今回は年齢層によってややでこぼこが見られています。とはいえ、全体では男性に比べて8%低い内閣支持率になっており、女性が男性よりも内閣に厳しい目をもっていることは従来どおりです。女性若年層においては従来から無回答の割合が高い傾向がありましたが、今回はとくにその割合が増えました。
1-2. 各社の調査データの比較
各社の世論調査では必ず内閣支持率が項目に入っていますので、この項目でデータを比較したいと思います。最新のデータを比較したのが図1です。概ね傾向は類似していますが、それでも従来から指摘されているとおり、内閣支持率が高く出るメディアと低く出るメディアは今回も同様に確認できました。
安倍内閣を「支持する」と「支持しない」を比較した場合、両者が同等か「支持しない」が「支持する」を上回っているのが、朝日新聞、毎日新聞、テレビ朝日(報道ステーション)の3社です。その他のメディアでは、すべて「支持する」が「支持しない」を上回っています。
そして気になるのが、読売新聞、産経・FNN、および日本テレビの結果です。これらの3社では、「わからない・無回答」の割合が10%前後になっています。従来から「わからない・無回答」の割合は20%前後になるのが普通であり、これに比べると半分ほど小さい数字です。これは何を意味するのでしょうか。
少し特殊なのが、日本経済新聞 [10] とJNN [11] のRDD調査データです。日経新聞では「わからない・無回答」とした人に、「お気持ちが近いのはどちらですか」と二度訊きしており、その積算値が「支持する」、「支持しない」として表されます(図3左)。JNNでは、最初から問いが2択ではなく4択になっており、やはりその積算値で「支持する」、「支持しない」とされています(図3右)。
このように、誘導的にどちらか一方に寄せてしまうような問いの仕方や4択は好ましくなく、2択の結果をそのままデータとして発表する方法が適切と考えます。なぜなら、日本人ははっきりとした回答を好まず、「あまり」とか「どちらかといえば」という柔らかい選択肢があると、それらを選んでしまう傾向があるからです。回答をyes、noの二択とし、それ以外は無回答、わからないとする1次回答の方法が、調査データとしてはバイアスが小さくなると思われます。
JNNのように4択にすると「どちらかと言えば支持する・支持しない」という消極的な人たちが79%にもなってしまいます。積極的な層でみれば内閣を支持しない人が圧倒的に多いにもかかわらず、このような消極的な主要層の人たちの選択によってそれがマスクされてしまうということが起こります。
1-3. 無回答率と内閣支持率との関係
ここでやはり不思議なのが、メディアによって内閣支持率に無視できないような差が出ることです。図2を見ると、最も低い内閣支持率を出した毎日新聞では38%、最も高いそれを出した読売新聞では50%の内閣支持率であり、「支持・不支持比」は前者で0.93、後者では1.28になります。RDD調査ではランダムに電話番号を選んで回答させているはずなので、こんなに差が出ることは通常考えにくいです。一体何がこのような結果にさせるのでしょうか。
私はここで「わからない・無回答」の比率に注目しました。世論調査において「わからない・無回答」とする人は一定の割合で出ることはよく知られています。たとえば、回答者の属性を公表している朝日新聞の調査では、過去常に20%前後の無回答者が得られています。図1を見てもわかるように、若い人ほど無回答になりやすい傾向があります。
一方、図2からもわかるように20%程度の無回答者を得ているメディアもあれば、10%程度の低い無回答者の割合のメディアもあります。この差は大きいです。これが何を意味するのか、試みに無回答者の比率(%)と「内閣を支持する(%)」あるいは内閣支持/不支持比の関係を調べてみました。それをプロットしたのが図4です。
図からわかるように、「無回答者の割合(%)」と「内閣を支持する(%)」(図4上)、および「無回答者の割合(%)」と「内閣支持/不支持比」(図4下)には有意な負の相関関係が認められました。つまり、内閣支持率が高いという結果を出しているRDD調査においては、無回答者の割合が低いという事実です。
ここで日経新聞のRDD調査の方法に注目してみましょう。図3に示したように、日経新聞の内閣支持に関する1次回答では無回答者は18%います。朝日新聞のRDD調査における20%に近い値です。ところが日経においては2次回答になると9%まで減っています。
2. 回答者の年齢層による世論調査の補正
前回のブログ記事「世論調査は信頼できるか」で、男女比や各年齢層比をすべて等しくして内閣支持率を算出すると支持率が上がることを示しました。これは、男女や年齢層で内閣支持率が大きく異なり(図1)、人口比が低く、かつ内閣支持率が高い若年層の割合が上がることで生じるバイアスです。
男女比や各年齢層比をすべて等しくしてデータを集計すれば一見まともなように見えますが、これは適切ではありません。なぜなら、現在の日本の人口における各年齢層の構成比は異なるからです(図5) [12]。
よくRDD調査では携帯電話での回答者の割合が低いので若年層の声が反映されていないという意見を聞きますが、それは本来まったく関係ありません。集計した回答者のデータを、図5に示すような男女・年齢層別にソートし、相対比率で補正すればいいだけです。朝日新聞のデータを見る限りは、そのような方法で算出しているものと思われます。
図5. 日本の各年齢層の人口比と男性18-29歳層を1としたときの相対比率( [12]に基づいて作図)
問題は、上記したように男女や各年齢層を平等に集めた場合であり、もっと言えば、ある年齢層に偏ったデータ集計で結果を出す場合です。内閣支持率を上げたければ、女性よりも男性、高齢層よりも若年層を重点的に集計すればよく、さらに2次回答まで求めれば実際よりも10%くらい上げることは可能でしょう。
このようにして出てきたデータは捏造ではありませんが、恣意的操作によるフィルターを通したものであり、不適切です。このようなことが行われているとは思いたくありませんが、それを証明する上においても、すべてのメディアは世論調査における質問の方法と回答者の属性を公表すべきです。
各社の最新の世論調査では、自民党憲法改正案の国会提出の是非についても訊いています。それらの中で産経新聞・FNN [12] は年齢層別の回答を公表していますので、これを朝日新聞のそれと比べてみたいと思います。
【質問13】憲法改正についてうかがいます。安倍首相は、自衛隊の明記などを盛り込んだ、自民党の憲法改正案について、今月に開かれる臨時国会への提出をめざす考えを示しました。あなたは、臨時国会への提出に賛成ですか。反対ですか。
全体としては、自民党憲法改正案の臨時国会提出に「賛成」が36%、「反対」42%がとなっています。男女・年齢層別に賛成、反対の率をみると、女性よりも男性の方が賛成が多く、若年層が高齢層よりも賛成が多い傾向になっています(図6)。これらの賛成、反対の傾向は、内閣支持、内閣不支持の率(図1)と似ています。
一方、産経新聞・FNNの合同世論調査 [13] では、「安倍首相が秋の臨時国会に自民党の改憲案を提出する意向を示しているが、賛成か反対か」という問いについて「賛成」が43%、「反対」48%となっていて、朝日新聞の結果と傾向は似ています。
これを男女・年齢層別にみると図7のようになります。女性の方が男性よりも反対が多く、若年層ほど賛成が多いという傾向が見られ、朝日新聞のそれとほぼ同じです。ただ、やはり「その他・無回答」の割合が朝日新聞に比べて圧倒的に低く、果たして1次回答のみの集計結果なのかという疑問は残ります。とくに男性10–20代の無回答率は3%とありえないくらい低いです。何らかのバイアスがかかっているという疑念は消えません。
おわりに
世論調査においては各社ともRDD方式を用いていると公表しています。すなわち、コンピューターで無作為に数字を組み合わせて番号を作り、電話をかけて調査する方法です。だとすれば、各社から出てくる結果は、各々で経時変化を平均すれば同じような数字になるはずですが実際は違います。「無回答・わからない」の割合で見れば、2倍以上の差があります。これは図2-4に示したとおりです。
私はこの原因として、2次回答の有無や、集計データのハンドリングにおける男女比や年齢構成比などのバイアスを考えざるを得ません。
これまでの朝日新聞のRDD調査結果を見ると、内閣支持や憲法改正のような政治的判断の場合は20%前後の無回答率、ほかの二者択一の問いの場合は概ね10-20%の無回答率になるようです。他社の世論調査の場合、これよりも圧倒的に小さい無回答率を示しているデータはバイアスを疑ったほうがいいかもしれません。
前にも述べましたが(→世論調査は信頼できるか)、朝日新聞のRDD調査は、その公表データを眺めてみると日本の人口における男女比や年齢構成に基づいて比較的忠実に行われていると判断されます。一方で、他社はどうなのでしょうか。繰り返しますが、各社は自社調査データの偏向性の可否を示す意味で、すべての質問項目においての質問の方法、回答者の帰属、データの年齢構成補正などに関する詳細データを公表すべきと考えます。
参考文献・データソース
[2] 毎日新聞:毎日新聞世論調査 改造内閣に期待8% 麻生氏留任「評価せず」61%. 2018.10.08. https://mainichi.jp/articles/20181008/ddm/001/010/101000c
[3] YOMIURI ONLINE: 2018年10月 内閣改造緊急電話全国世論調査. 2018.10.04. https://www.yomiuri.co.jp/feature/opinion/koumoku/20181004-OYT8T50043.html
[4] THE SANKEI NEWS: 【産経・FNN合同世論調査】質問と回答(10月分). 2018.10.15.https://www.sankei.com/politics/news/181015/plt1810150025-n1.html
[8] 毎日新聞: 共同通信世論調査「石破氏外し」賛否ほぼ拮抗. 2018.10.04. https://mainichi.jp/articles/20181004/ddm/005/010/040000c
[9] JIJI.COM: 内閣支持、横ばい41%=改造、政権浮揚ならず-時事世論調査. 2018.10.12. https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_politics-support-cabinet
[11] TBS NEWS JNN世論調査: 安倍内閣 支持率は?調査日 2018年10月13日,14日定期調査. https://news.tbs.co.jp/newsi_sp/yoron/backnumber/20181013/q1-1.html
[13] The SANKEI NEWS: 【産経・FNN合同世論調査】改憲自体は賛成、自民案国会提出は「反対」. 2018.10.15. https://www.sankei.com/politics/news/181015/plt1810150027-n1.html