Dr. Tairaのブログ

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パンデミックは終わっていないー米国メディアの論調

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

今日(9月21日)午前の記者会見において、松野博一官房長官は、日本で新型コロナウイルスパンデミック終了宣言をすることは「現時点で考えていない」と述べました [1](以下の動画参照)

これは、ニコニコの記者から、日本政府が近い将来にパンデミックの終了宣言を出すのかどうか問われたことに対して答えたものです(上記記者会見動画の10分過ぎあたりから)。この記者は、質問に際して、米国のバイデン大統領が18日に放送された米CBSの番組 "60 Minites" のインタビューで、「パンデミックは終わった」との見解を示していたことに触れていました。

私はこのやり取りを視聴していて、聞く方も聞く方だし、答える方も答える方だと、率直に思いました。なぜなら、パンデミック終了は「パンデミック宣言した人が唯一宣言できる行為」だからです。パンデミック宣言したのは世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長です。したがって、パンデミック終了もWHOから宣言されます。

もう一つ、この質問がダメだなと思ったのは、バイデン大統領のパンデミック終了発言に対して、すぐにそれを批判する米メディアの記事が出ていて、それを読んだ上での記者質問とは思えなかったからです。私は、今日、ツイッター上でこの記者会見でのやりとりを批判しました。

上記のバイデン批判記事はワシントンポスト紙が配信したものです [2]下図)。私はツイートでこの記事を引用していますが、ここであらためて翻訳文を紹介したいと思います。

以下、筆者による全翻訳です。

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パンデミックは終わる」は、きっと誰もが聞きたかった言葉だろう。バイデン大統領は、日曜日の "60 Minutes" の放送で、このように宣言した。しかし、テロップのパレードを追いかけるる前に腰を据えてほしい。パンデミックはまだ続いている。危険なウイルスが人々を感染させ、病気にさせ、殺し、存続するために変異し、世界中を悩ませているという意味においてだ。パンデミックは変化し、多くの点で平常心を取り戻したが、まだ終わってはいない。

一方で、バイデン氏が、なぜそのように言ったかは明白である。中間選挙が近づいており、米国人は圧倒的な疲労感がある。大統領は、ジャーナリストのスコット・ペリーに告げた、「気がつけば、誰もマスクをしていない」。「みんな元気そうだ。だから、変化しているのだと思う」。

パンデミック(世界的大流行)が終わる正確な瞬間を示す厳密なルールはない。初期のロックダウンや壊滅的なデルタ波、オミクロン波から、米国も世界も長い道のりを歩んできた。コロナウイルスに対するワクチンは安全で効果的であり、人々は多くの活動を再開する自信を持つことができた。教室は元の状態に戻り、空の旅は復活し、通勤の交通手段も回復している。最悪の事態の多くは、過去の出来事としてバックミラーに映し出されている。

しかし、パンデミックは確実に終わっていない。米国における1日の死亡者数の7日間移動平均は約400人で、4月以降この酷いレベルで停滞している。新規感染者は1日平均6万人で、春よりずっと多くなっている。ウイルスが重くのしかかり、米国人の平均寿命は2020年と2021年に減少し、この100年近くで最も急激な2年間の寿命減少を記録した。COVID-19は、心臓病と癌に次いで、米国で3番目に大きな死因となっている。長期コロナ症(long COVID)、すなわち、急性症状が消失した後、一連の悪病に苦しむ人々は何百万人もいて、その脅威に曝されている。

パンデミックの緊急事態は、このまま自然に行くならば、より予測可能なパターン、つまりインフルエンザのような風土病へ変わるであろう。しかし、新しい変異体の波はこれまで予測可能とは言い難いものだった。オミクロンの登場は、ちょうど昨年の感謝祭の頃だった。次は何が起こるのだろうか? ウイルスがまだ変異し続けていることを除いては、確実なことは何もない

バイデン氏は公式にパンデミック緊急事態を終わらせていない。公式の緊急事態が終了すれば、約1500万人がメディケイド(Medicaid)*の適用を失い、学生ローンの返済を一時停止する理由も終わり、裁判所によってまだ実施されているトランプ時代の国境規制の根拠も消滅することになる。このような政策の転換はすべて、不用意に、あるいは急いで行ってはならない。

*訳者注 メディケイドは低所得者向けの医療保険制度

おそらく、バイデン氏の発言から派生する最大の懸念は、COVIDとの闘いを続けるとした議会の政治的決意をさらに弱めるだろうということだ。すでに、バイデン氏によるワクチン、診断検査、治療薬への追加資金提供の要請は止まった状態だ。自己満足と疲労が支配し続ければ、この国は最も必要とされる時に新しい変異体に備えることができなくなる。「パンデミックは終息した」という言葉は心地よい。しかし、私たちはまだそこに到達していない。

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翻訳は以上です。

筆者あとがき

為政者はいつでも国民の受けを狙う発言をするものです。今回のバイデン大統領の「パンデミックは終わる」発言は、ワシントンポストの記事にあるように、中間選挙が念頭にあることは明白です。英国における、今年2月のコロナ規制全面解除も、国民の批判をかわすというジョンソン前首相の政治的意図があったことも明白ではないでしょうか。専門家はいずれも全面規制解除に批判的でした。

米国の状況は「最悪の事態の多くはバックミラーに映し出されている」という文章に現れています。つまり、流行の最悪の被害をくぐり抜け、オミクロンになって犠牲者は激減しているという意味です。世界のほとんどの国はこのような状況です。

それでも、米国では、今でも4百人/日の死亡者を出していて、これを「恐ろしいレベルだ」とワシントンポストは表現しています。同紙は、過去の流行と比べれば改善したけれども、依然として、ウイルスは危険であり、人々を感染させ、病気にさせ、悩まし続けていると警鐘を鳴らしています。これは基本的に米CDCと同様な見解です(COVID-19インパクトの最小化ー米CDCガイドライン)。

翻って、日本はどうでしょうか。最新の第7波で過去最悪の犠牲者数になりました。医療崩壊、救急医療崩壊も起こしました。このような、流行を経るごとに被害を拡大している国はきわめて珍しいです。にもかかわらず、事態は一向に改善されていないにも関わらず、「普通の病気」という意味不明のフレーズとともに、規制緩和だけなし崩し的に進んでいます。これを先導しているのが政府系専門家集団であり、情けないことにメディアがこれに追従しています。

引用記事

[1] ロイター編集: 日本での新型コロナのパンデミック終了宣言、現時点で考えていない=官房長官. Reuters 2022.09.21. https://jp.reuters.com/article/japan-matsuno-coronavirus-idJPKBN2QM05F

[2] The Editorial Board: Opinion | No, President Biden, the pandemic is not over, The Washington Post September 19, 2022. https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/09/19/biden-pandemic-over-60-minutes-wrong/

引用したブログ記事

2022年8月12日 COVID-19インパクトの最小化ー米CDCガイドライン

                    

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