Dr. Tairaのブログ

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女性議員はなぜ少ないかー世論調査に見る理由

 今年(2019年)7月には参議院選があります。巷にはひょっとすると衆議院解散でダブル選挙になるかもしれないとの情報も流れています。いずれにせよ、国政選挙を控えて国民のマインドはどのような状態なのか気になるところではあります。
 
朝日新聞は2019年3月に全国郵送調査「いまの政治と憲法-参議院選挙を前に-」という世論調査を行いました。この中には女性の国会議員に関する問いもありました。そして、今日NHK「暮らし解説」で女性国会議員が少ない日本の現状と問題点に焦点を当てた放送がありました。
 
そこで、上記の世論調査NHK暮らし解説の内容を照らし合わせながら、女性国会議員が少ない理由を考えてみたいと思います。

まず、日本の女性国会議員がどのくらい少ないのか、世界の国々と比較してみましょう。日本における女性議員の比率は10.1%で先進諸国の中では最低です(図1)。さらに世界の国々と比較するとこの比率は164位という、開かれた民主主義国家というにはお寒い限りの順位になります。お隣の中国や韓国よりも低い数字です。

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図1. 日本の女性国会議員の比率と世界での順位(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)
 
日本には「政治分野における男女共同参画推進法」という男女の候補者が均等になるように政党努力を促す法律がありますが、これはあくまでも理念法です。現状はまったく理念どおりに進んでいません。先の統一地方選挙での女性立候補者の割合はわずか12.7%でした(図2)。
 
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図2. 「政治分野における男女共同参画推進法」と2019年統一地方選挙での女性立候補者の割合(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)

統一選における女性候補者の割合を政党別に見たのが図3です。野党第1党の立憲民主党は24.5%、共産党は51.5%と平均を大きく上回っていますが、最大与党の自民党に至っては3.5%とお粗末の限りです。

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図3. 2019年統一地方選挙での政党別の女性立候補者の比率

そこで、日本国民はこの現状に対してどのように思っているか、上記の世論調査から拾ってみましょう。まず【質問23】として「女性の国会議員がもっと増えた方がよいと思いますか」というのがありました。これに対する回答を図3に示します。

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図3. 「女性の国会議員がもっと増えた方がよいと思うか」という問いに対する回答結果(朝日新聞は2019年3月に全国郵送調査「いまの政治と憲法-参議院選挙を前に-」に基づいて作図)
 
図3に見られるように、男女、年齢層に関わらず、60–70%の人たちが「女性議員が増えた方がよい」と答えています。これは日本の女性国会議員がきわめて少ないことを考えれば当然のことでしょう。しかし同時に、増えない方がよいと考えている人が男女ともに2–3割もいることにも驚きました。
 
女性議員が増えた方がよいと考えるなら、各党は選挙の候補者レベルで女性を増やし、それを有権者が選挙で選択するしかありません。それでは、有権者は選挙で変えることを望んでいるのでしょうか。

上記の世論調査では【質問24】に「今度の参議院選挙で、比例区の投票先を決めるとき、女性の候補者を増やしている政党かどうかを、判断材料の一つにしたいと思いますか。そうは思いませんか」というのがありました。 これに対する回答結果を図4に示します
 
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図4. 「今度の参議院選挙で、比例区の投票先を決めるとき、女性の候補者を増やしている政党かどうかを、判断材料の一つにしたいと思うか。」という問いに対する回答結果(朝日新聞は2019年3月に全国郵送調査「いまの政治と憲法-参議院選挙を前に-」に基づいて作図)

図4に見られるように、男女、年齢層に関わらず60–80%の人が判断材料の1つとはしないと回答しています。つまり、女性議員が増えた方がよいと思っているのに、選挙では女性候補を多く抱える政党を必ずしも選択しないと回答しているわけです。

これはちょっと矛盾するような回答でもあり、個人と政党とは別と考える回答とも言えます。日本国民の矛盾した回答は他の質問にもしばしば見られます。政治の現状を好ましくないと思っていながら現状維持がよいと回答したり、現内閣を支持したりする傾向がそれです。
 
日本国民は物事を俯瞰的、合理的に捉えるのがどちらかと言えば苦手であり、個別的に対応しがちです。そして新しいもの(オリジナルなもの)に対する探究心が希薄であり、不満に思っていても変化を好まないという特徴もあります。このような国民性からは女性国会議員が大幅に増加していくことはむずかしいかもしれません。そして結局、女性の視点からの考えや提案は政策に反映されにくいという悪循環に陥るのです。

おそらく日本国民の大部分は図2、3の女性議員の比率の現状を知らないか、あまり関心がないのかもしれません。
 
実際に女性の国会議員はどのように考えているのでしょうか。自民党の松井るい参議院議員は「政治は男性の世界という意識が強い」と答えています。そして育児を抱える時間のハンディキャップも問題点として挙げています(図5、6)。
 
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図5. 女性議員の現状と「増えない」問題点(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)

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図6. 女性議員の現状と「増えない」問題点ー家事と育児(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)
 
立憲民主党大河原雅子衆議院議員もやはり「政治の世界は男のものという意識が根強い」と答えています。そして子育てや介護のハンディキャップも問題点とともに、資金面や供託金の問題点も挙げています(図7、8)。

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図7. 女性議員の現状と「増えない」問題点(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)

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図8. 女性議員の現状と「増えない」問題点ー資金面の問題点(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)

図5–8のような問題点があるにしても、世論調査に現れている「国民が選挙で積極的に女性議員を選択しようとしない」傾向は、もっと根深いものがあるように思われます。これは「政治の世界は男のもの」という意識とは別に、むしろ変化を望まず横並び意識が強いという国民性が底流にあると考えられます。
 
極論すれば、物事を合理的に考えず、新規探究心に乏しい国民性が、不満があってもとりあえず現状を肯定してしまい、それがたとえ政治に問題があっても一向に改善されないという状況を生むのだと思います。
 
人口比では男女の比率はほぼ1:1です。であるなら政治の世界でも男女比は1:1が理想的です。女性議員を増やす努力は各国で行われていますが、その中でも注目すべきはクォータ制(=割り当て)です(図9)。これは議会選挙の候補者に女性を一定の比率で含める制度です。現在130ヶ国で導入されていますが、日本では導入されていません。

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図8. クォータ制とは(2019.05.23. NHK「暮らし解説」より)
 
いずれにせよ、選挙で議員を選ぶのは国民です。女性議員を増やすような努力を国民自身が行わないと実現はむずかしいでしょう。
  
               
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