Dr. Tairaのブログ

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ベランダでできる生ゴミ処理ー基本マニュアル

はじめに

 
生ゴミ処理は、電力や動力を使わないで手軽にできます。園芸土や類似の土壌を入れた容器の中に生ゴミを投入することで減量化が可能です。この場合、特別に生ゴミ処理容器として売られているものを購入する必要もありません。より安価な、または廃棄品としての木箱、段ボール箱、プラスチック製コンテナー、植木鉢(プランター)などを処理容器として利用しながら、日当りのよい庭先やベランダなどに置いて生ゴミを減量化できます。
 
すでに、このような方法で取り組まれている生ゴミ処理の例も多数見かけます。しかしながら、適用性が限定される自己流のやり方が多く、必ずしも正しい科学的知見に基づいて行なわれているとは言いがたい場合もあるようです。そのため、真似してみたがうまくいかないなどの声も聞きます。そこで、あらためて正しい生ゴミ処理のやり方をここで紹介したいと思います。毎日出る生ゴミを減量しながら堆肥作りにも活かしてみましょう。
 
なお、このページで紹介している「家庭(ベランダ)でできる生ゴミ処理法」は、豊橋技術科学大学生物機能工学研究室(平石研究室)において長年実施されてきたオリジナル研究の成果に基づいて開発されたものです。本法に関する情報やブログ記事情報の使用につきましては出典を明記していただければ幸いです。関連する学術論文につきましては別途一覧↓として挙げていますので適宜ご参照ください。
 
1. 生ゴミ処理の概要
 
●分解基材として園芸土や類似の土を利用
生ゴミを分解する基材として市販の園芸土や類似の土を使います。市販の園芸土の中には微生物が10億個/g程度含まれており、これが生ゴミの分解に働きます。基材はこれだけで、特別に微生物資材や培養物を入れる必要はありません。自治体によっては、独自の基材を生産しているところもあるようですが、もちろんこれらを用いてもかまいません。
 
なお、山土や庭の土は比重が高く、空気の通りがよくありません。実際に用いてもかき混ぜにくいので適しません。常時使用している畑の土は軟らかいのでOKです。
 
●基材を入れる容器
木箱、段ボール箱、プラスチック製コンテナー、プラスチック製植木鉢などを容器として使います(図1)。処理できる量や保温効果を高めるためにはできる限り大きい(深い)容器が望ましいですが、一人で持ち上げたり、運ぶことのできる容量は30 Lくらいまででしょう。一人で作業すること、手軽に手に入ること、物理的強度などを考えると、とくに初心者にはプラスチック製植木鉢(12号鉢、容量20 L前後/1人分)をお薦めします。この容量で重さ10 kgほどになります。もちろん、作業上の支障がなければそれ以上の容量の容器を用いてもかまいません。
 
なお、プラスチックコンテナーや木箱などの四角い容器を使う時は四隅にデッドスペースができやすく、生ゴミ分解に必要な空気の通りが悪くなる場合があるので、注意して使う必要があります。
 
 
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太陽光と自然風を利用
生ゴミの約80%は水分です。したがって直射日光と自然風によって容器内の水分の蒸散を促し効果的に生ゴミの減量を行うことが基本になります。処理容器はできる限り日光が当たり保温効果を上げることが望ましいですが、日照時間が一日3時間以上あれば大丈夫です。逆に日光が当たらないところでは、この方法は使えません。また、冬期に日中の最高気温が0℃を越えない場合も適用がむずかしいです。
 
●動力は人間の手
容器の中身には空気を送ることが必要です。これは人間の手(スコップ)でかき混ぜることによって行ないます。
 
●毎日出る生ゴミの処理に対応
ここで紹介する方法は、一度だけ生ゴミを容器に詰めて堆肥になるのを待つ、というやり方ではなく、毎日生ゴミを入れながら減量化するという方法です。
 
●経済性と柔軟性
生ゴミ処理器の材料としては廃棄品としての木箱、衣装箱、段ビール箱、植木鉢を利用しますので経済的です。これらが手元になければ、ホームセンターなどで売られているプラチック製植木鉢などを購入して使います。その際の一基あたりの材料費は2,000円程度ですが、100円ショップではより安く購入できます。植木鉢の場合、生ゴミを入れないときは放置しておけばよいし、処理を止めたくなったら本来の植木鉢としての使い方に戻せばよい、などの手軽さもあります。
 
2. 家庭で出る生ゴミの量と組成
 
生ゴミ処理の前提として家庭から出る平均的な生ゴミの量と質を考えておく必要があります。図2に日本の家庭の構成人数別による1日の生ゴミ排出量を示します。家族の人数が増えれば当然生ゴミの量も増えますが、たとえば4人家族の場合平均で約700 g/日というデータが得られています(図2左)。最近では中食や総菜をコンビニ、スーパー等で買うことも多くなっているので、生ゴミ排出量が変わっていることも考えられますが、ここでは一応0.7 kg/日の生ゴミ量を処理できることを前提にして考えます。
 
図2右は、生ゴミの質を示した円グラフで、野菜と果物くずで半分以上を占めることがわかります。加えて茶殻、残飯、魚介類、卵殻などが含まれます。
 
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3. 植木鉢を利用した生ゴミ処理
 
ここで全国的に稼働実績があり、科学的な研究も進んでいる植木鉢を使った生ゴミ処理を代表例として紹介します。プラスチック製植木鉢は軽くて物理的強度に優れている利点があります。処理量や保温効果を高めるためにはできる限り大きい(深い)容器が望ましいですが、作業するときの重さや経済性(材料費)を考えるとポリプロピレン製12号鉢(15–29 L)が適当です(図3左)。植木鉢の数は家族の人数や使用頻度で調整します。目安として1人分の生ゴミに量に対して植木鉢1基を使います。4人家族では3〜4基です。
 
3-1. 処理器の材料と作り方(4人家族用)
 
材料
●植木鉢(12号鉢)3〜4基
●園芸土(6 kg/1基)
赤玉土(1 kg/1基)
●砂利(2 kg/基)
●ポリエチレンメッシュ
 
作り方
作り方は簡単です。植木鉢の中身ですが、図3右の断面図にあるように植木鉢の底にポリエチレンメッシュを敷き、順に砂利2 kg、赤玉土1 kg、園芸6 kg (12〜14L程度)を入れて行きます。なお、赤玉土はスコップを入れた時のクッション、砂利は土の底漏れ防止および通気確保のために用いています。これらの量は目安であり、植木鉢の表面から5〜8cmの深さまで埋まる程度に入れれば十分です。また、園芸土部分は深さ15 cm–20 cm 程度になるでしょう。
 
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なお、植木鉢式処理をベースにした透明フタ付き直方体容器(木箱、プラスチック容器)による生ゴミ処理法も開発しています。これについては以下のように特許出願(共同出願)していますのでご参照ください。
 
 自然力(光・風・微生物)を積極利用した生ゴミ処理装置
 特願2002-258275(P2002-258275), 特開2004-58041(P2004-58041A)
  
3-2. 生ゴミの入れ方
 
ここから生ゴミの入れ方について説明します(図4a)。まず、スコップを使って植木鉢の中心の園芸土を4〜5杯分とり、チリ取りや別の容器にとっておきます。次に園芸土を取り除いた後の穴の部分に生ゴミを入れます。スコップで生ゴミをできる限り切り刻みながら全体を撹拌していきます。この際、生ゴミが一カ所に固まらないようにします。最後に土を被せます。予め取り除いておいた園芸土を植木鉢の表面に均等になるように戻します。これで作業終了です。
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2回目以降も基本的に同じように生ゴミを入れて行きますが、土を取った後、生ゴミを入れる前に、全体をよくかき混ぜる作業工程が入ります(図4b)。
 
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生ゴミの投入を繰り返して行くと未分解の生ゴミが表面に露出してきますが、露出分は乾燥による減量化が進みますので、気にしないで図4bの操作を行います。もし大きいゴミが露出するようでしたら、別途取り分けて撹拌時に放り込んでください。
 
3-3. 生ゴミを入れる際のコツと注意点
 
生ゴミを入れる際の重要な点は生ゴミの前調整と投入量です。生ゴミは処理器に入れる前にできる限り水切りをしておきます(台所の三角コーナーで水切りする程度でOK)。大きいもの、固いもの(キャベツ、ブロッコリーの茎など)は包丁などで小さくします。1基あたりに入れることのできる生ゴミ量(水切りした状態)は夏で0.3 kg/日、冬で0.2 kg/日(冬期)です。1日数回に分けて入れることも可能ですし、もちろん、これらより少なくてもかまいません。
 
生ゴミは基本的に食べられるものであれば何でも投入できます。茶殻やコーヒー滓も大丈夫です。鶏・魚の骨、卵の殻、貝殻、カボチャの種など固いものも入れてかまいませんが、大部分は分解されないで残ります。一方、入れてはいけないもの、注意を要するものは以下のとおりです。
 
入れてはいけないもの:紙類、プラスチック製の袋・容器、タバコの吸い殻、コーヒーフィルター、タケノコ・トウモロコシなどの厚い皮など(これらはほとんど分解されません)
 
注意を要するもの:
・タマネギの皮:投入OKですが、できる限り細かくします(2 cm以下)。
カニ・エビの殻:投入OKですが、できる限り細かくします。
・柑橘類・スイカなどの皮:投入OKですが、投入前に乱切りしておきます。
・食塩:投入できますが、堆肥にする場合は塩分が高くならないようにする必要があります。
食用油:投入を避けるのが望ましいですが、1回1コップ半〜1杯程度までなら投入 OK。
・味噌・醤油:基本的に塩分を含む発酵食品や調味料は投入しない方が無難ですが、コップ半杯程度ならOK(ただし1週間以上間隔を空ける)
・米ぬか:よく基材や添加剤として使われている例を見かけますが、有機物の塊なので、投入すると負荷量が高まることになり、一時的に処理効率を下げます。また含まれる乳酸菌は発酵による代謝熱を発生しますが、酸化分解には寄与しません。基本的に入れない方が無難です(以下↓を参照ください)。
 
3-4. 運転上のコツと注意点
 
生ゴミ処理器はできる限り日当りのよい場所におきます。図5左は、ベランダのビニール製簡易温室の中で運転して状態を示します。ビニールの屋根をつけることで雨避けにもなります。日光による保温効果で水分の蒸散が促進され、減量が進みます。
 
雨天時における雨の降込みは大敵です。処理効率を低下させ、悪臭発生の原因にもなります。雨降り込み防止対策として温室の中に処理器を置くか、図5中央のように容器にポリ袋を被せます。また、寒い時期は分解効率が落ちますが、夜間にポリ袋を被せることで保温効果を少し高めることができます。朝、ポリ袋を取った時に内側に水滴ができていれば生ゴミ処理がうまくいっている証拠です。
 
あと問題なのが虫の飛来です。とくにアメリカミズアブという外来種の昆虫が盛んに飛来し、その幼虫(いわゆるウジ虫)が発生する原因になります。この対策として、図5右側の写真のように細かいメッシュを被せることで侵入を防止します。アメリカミズアブは気温の高い地域ほど発生します。
  
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3-5. 二次処理
 
植木鉢に毎日0.2 kgの生ゴミを入れて処理すると、次第に量が増し、二ヶ月ほどで容器満杯になってきます。またこのときの容器全体の重要は10 kg程度になります。
 
このような状態になってきたら、スコップで処理物を容器から取り除き別の植木鉢に移します。引き抜く量は、以下のように処理物をさらに堆肥として利用するかどうかで異なります。
 
1. 堆肥として利用する場合:植木鉢の基材の約半量を引き抜く
 (引き抜いた部分に新しい園芸土を植木鉢上部から5〜8 cmにところまで入れ、次
   の生ゴミ処理に備える)
2. 堆肥として利用しない場合:上部から5〜8 cmにまでに土表面が減ることを目安
   にして引き抜く(増量していない場合は引き抜かなくてもよい)
 
処理物を別の植木鉢に移したらポリ袋を被せ、さらに二ヶ月間放置して二次処理(熟成処理)を行ないます(図6)。移した直後では未分解の生ゴミも相当残っていますが、この二次処理のプロセスを経てさらに分解され、形がほとんど見えなくなります。二次処理の間の分解を促進するために、1週間毎に全体をスコップでかき混ぜるのが効果的です。もちろん、これよりも短い間隔で撹拌してもかまいません。
 
二次処理の期間、かき混ぜる操作を行なう度に、ポリ袋を取ることになるわけですが、袋の内側に水滴がついています。そこで、次は裏返して(水滴付着部分を表にして)被せます。この操作を繰り返して行くと次第に水滴がつかなくなります。これで堆肥として使えるようになります。
 
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以上のように、毎日0.2 kgの生ゴミを植木鉢1基に投入する前提で話を進めてきましたが、これ以下の投入量でももちろんかまいません。投入量によってはほとんど増量しないこともありますし、とくに夏期は分解が進み増加しません。このような場合には処理器から処理物を引き抜き必要はありません。
 
植木鉢方式で負荷量0.2 kg/日で生ゴミ処理を行なった場合、減量率は80%強になります。すなわち、投入した生ゴミが20%弱の重さに相当する処理物に変わると言うことです。よく、生ゴミを投入しても全然増えない、話が違う、とか逆にまったく減量しない、などの声が寄せられますが、基材量に対する生ゴミの負荷量によって結果(減量効果)は異なるということをよく理解しておく必要があります。投入量の詳細については以下を参照してください。
 
4. 堆肥としての利用
 
堆肥(コンポストcompost)とは、生ゴミなどの生物学的廃棄物を微生物で分解し、これ以上分解できないというところまで進んだ状態の処理物のことをいいます。有機肥料・基材として園芸、野菜作りなどに利用できます。ここで、生ゴミ処理で得られた処理物を堆肥として活用する方法について簡単に述べます。
 
上記3-4で紹介した一次処理器から出てくるものはあくまでを処理物であって、まだ堆肥ではありません。未分解の生ゴミも多く残っています。堆肥にするには3-5で紹介した二次処理を行なう必要があります。二次処理では1週間に1回ほど撹拌して2ヶ月間ほど放置することによって堆肥化することができます。
 
できあがった堆肥をポット園芸で施肥する場合には、園芸土や土との割合を25%以下(生ゴミ処理堆肥1に対して土3)にします。これも堆肥の完熟度や炭素/窒素比、ミネラル(とくに塩分)の割合で変わってくる話なので一概には決められませんが、未熟堆肥による腐れなどを防止することを考慮して、25%以下にした方が安全です。
 
5. まとめ
 
ベランダでできる生ゴミ処理
 
特徴と長所
分解基材として市販園芸土を使用
 市販園芸土の中には10億個/g程度の微生物が含まれており、これが生ゴミ分解に
 働く
処理容器として木箱、段ボール箱、プラスチック製コンテナー、プラスチック製植
 木鉢などを利用
太陽光、自然風を利用(電力、動力不必要)
動力は人間の手
60–80 Lの容積で4人家族の生ゴミ量が処理可能(12号植木鉢の場合3〜4基)
あらゆる生ゴミ(人間が食べられるもの)に対応
 
欠点
処理は天候に左右される
 ・日当りがよくないとできない(日照時間3時間以上)
 ・雨天が続くと処理能力が低下
処理可能な生ゴミ量が制限される
冬期には処理能力が落ちる
寒冷地では使えない(日中の最高温度が0℃以上)
虫が発生する場合がある
 
6. 生ゴミ処理に関するプレス報道
 
植木鉢を利用した生ゴミ処理を実践し始めた頃の新聞記事のいくつかを以下に示します。
 
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