Dr. Tairaのブログ

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生ゴミ処理Q&A

生ゴミ処理に関して寄せられたご質問の中で比較的多いもの、かつ誤用・誤解が多いものを中心に選んで逐次それらの回答を記します。「ベランダでできる生ゴミ処理」のマニュアルについては別ページを参照してください。

1. 用語や生物学的情報について
 
Q: 堆肥、コンポストとは何か?
A: 堆肥は英語でcompostといい、そのカタカナ語コンポストです。したがって両者は同じ意味です。生ゴミやその他の生物系廃棄物を微生物で分解し、これ以上分解が進まないという安定的な状態までに分解処理したのものが堆肥です。
 
Q: コンポスターとは何?
A: 英語でcomposterといいます。堆肥を製造する装置を指します。生ゴミ処理機(器)も広義のコンポスターです。
 
Q: 消滅型処理機とは?
A: 生分解(バイオ)型と温風乾燥を併用している生ゴミ処理機を消滅型と呼んでいるようですが、文字通り生ゴミが消滅することはありません。難分解物、ミネラル、微生物菌体などが残ります(投入量の5%程度)。消滅型生ゴミ処理という言葉自体、意味がありません。
 
Q: 好気発酵、嫌気発酵とは?
A: 発酵とは酸素を必要としない微生物の嫌気的エネルギー代謝反応の一つです。したがって、好気発酵、嫌気発酵という言葉はあらかじめその意味をしっかりと定義しておかないと誤解を生じる言い方です。発酵の結果、必ず代謝産物(通常臭いがする物質)を生じます。詳しくは別ページを参照ください。
 
Q: 生ゴミ処理で働く微生物は何?
A: 分解の中心となるのはバクテリア(=細菌)です。馴養段階(安定状態)になった時点で数千億個/g存在するようになります。最も多い分類群としてアクチノバクテリアとよばれる放線菌の仲間が働きます。その他、真菌類(カビ、酵母)やササラダニなどが存在します。
 
Q: 好気性、嫌気性細菌とは?
A: 酸素呼吸で生活する(酸素を要求する)細菌を好気性細菌といいます。生活に酸素を必要としない、あるいは酸素を嫌う細菌を嫌気性細菌といいます。ちなみに、酸素を必要とする生活および必要としない生活を使い分ける細菌がいて、通性嫌気性細菌(あるいは通性好気性細菌)といいます。
 
Q: 乳酸菌とは?
A: 発酵という酸素が要らない代謝様式で生活し、菌体外に乳酸を生産する細菌の総称です。乳酸桿菌(ラクトバチルス)、乳酸球菌が代表的な例です。ちなみに乳製品メーカーはCMなどで乳酸菌のカテゴリーから外していますが、ビフィズス菌も乳酸を主要生産物として作ります。
 
Q: 乳酸菌が生ゴミ処理によいと聞いたが..
A: 乳酸菌は生ゴミ分解にはほとんど役に立ちません。生ゴミ分解に必要な菌体外消化酵素や酸素呼吸能を持たないからです。また、生ゴミ処理を毎日繰り返していると処理機(器)内がしだいにアルカリ性になり、乳酸菌は淘汰されていきます。
 
Q: 光合成細菌とは?
A: 光エネルギーを菌体内のエネルギーに変換し、それを利用して二酸化炭素を固定する(有機物をつくる)細菌をいいます。酸素を発生するもの(藍色細菌=シアノバクテリア [以前、藍藻とよばれた])と発生しないもの(狭義の光合成細菌)とに分かれます。ちなみに光エネルギーは利用できても必ずしも炭素固定ができるとは限らないので、その意味では総称して光栄養細菌(phototrophic bacteria)と呼びます。
 
Q: 光合成細菌が役に立つと聞いたが.
A: 光合成細菌は光・嫌気条件下で最も生育が旺盛になりますので、その意味からは生ゴミ処理機(器)内は光合成細菌の生活には向いていません。強制的に外部から添加したとしても、光合成をしない好気性細菌との競争に勝てません。存在したとしても、通常の好気性細菌の0.0001%以下の菌数です。役割は無視できるくらい小さいでしょう。
 
Q: 酵母とは?
A: カビといっしょに真菌類として分類される単細胞の真核微生物です。カビは菌糸をつくりますが、酵母は菌糸をつくらないことで区別できます。真核微生物とは、細胞内のDNAが膜(核膜)に囲まれた状態で存在する(核をもつ)微生物をいいます。ちなみに、細菌は細胞内でDNAが膜に囲まれない裸の状態で存在し、原核生物といいます。
 
Q: 生ゴミ処理のメカニズムは?
A: 生分解(バイオ)型でいえば、微生物の呼吸による酸化分解で生ゴミ二酸化炭素と水にまで分解し、かつ生ゴミ中の水分を蒸散させることで減量化が進みます。したがって、通気を行なうこと、水分の蒸散を促す仕組みがあることが重要です。詳しくは別ページをご参照ください。
 
Q: 家庭で排出される生ゴミの量は?
A: 家族の構成人数によって当然異なります。日本では4人家族で0.7 kg/日と言われていますが、具体的な数字で報告したのは私の論文(生物工学, 77, 493, [1999])が最初だと思われます。以下のページにデータを示しています。
 
2. 生ゴミ処理を始めるにあたって
 
Q: バケツ型の堆肥化容器を使いたいが利点は?
A: 市販のバケツ型容器のことを指しているものと思われます。この容器は発酵で生ゴミを処理するもので減量化には向きません。液肥と呼ばれる発酵生産物を含む混合液が出てきますが、もしこれを畑や園芸に使うとするなら利点があります。しかしこれは堆肥ではなく有機肥料と呼ぶべきものです。堆肥を作るためには好気条件で生ゴミを処理しなければならないので、その目的なら使用を避けた方が賢明です。
 
Q: 電動ではない簡単な生ゴミ処理を始めたいが...
A: 園芸土とプラスチック製容器(コンテナー、植木鉢など)、木箱、段ボール箱を用いて行なうことができます。本ブログ別ページのマニュアルを参照ください。
 
Q: 生ゴミ処理に適した容器は?
A: 通常20 L以上の容量をもつプラスチック製容器(コンテナー、プランター、植木鉢など)ですが、生ゴミ量によって容量、容器数は異なります。詳細は以下に
 
Q: 生ゴミ処理容器に入れる基材としては何がよいか?
A: 市販の生ゴミ処理機(器)には、木材チップ、黒土、堆肥混合土などが付属品として付いていますのでそれを使えばよいと思います。付いていない場合は、ホームセンターで売られている園芸土や腐葉土が使えます。自分で処理器を組み立てる場合もそうです。
 
Q: 庭の土は生ゴミ処理に使えるか?
A: 状態によりますが、畑の土は別として使わない方がよいと思います。何年使っていない庭の土は比重が重く、空気の通りが悪いので、分解効率を下げます。混ぜるのにも骨が折れます。
 
Q: ピートモス、モミガラは基材として使えるか?
A: ピートモスは製品によって異なりますが、酸性度が高くそのままでは使わない方がいいでしょう。また比較的高価でもあり基材としては向かないと思います。。モミガラはOKですが、付着微生物がほとんどいないので、立ち上がりを早めるためには園芸土を3割以上の量で混ぜるのが望ましいです。
 
Q: 生ゴミ処理開始時に米ぬか投入は必要か?
A: 園芸土や類似の土を使えば、米ぬかは必要ではありません。米ぬか自体が有機物の塊なので通常加えない方がよいです。以下も参照ください。
 
Q: 特別な微生物を入れる必要があるか?
A: 全く必要はありません。園芸土やその他の類似の土を使えばその中に微生物が含まれています。また、生ゴミを投入するとそれに付着していた適合性のあるものも処理機(器)の中で働くようになります。特別な微生物資材を加えても加えなくても結局同じような微生物組成になります。
 
Q: 虫やウジの発生が心配だが..
A: 市販の電動処理機には虫はほとんど発生しません。非電動の処理容器には、網戸に使うメッシュなどでフタを作り、それで虫の侵入を防いでください。12号植木鉢を容器として使うと、市販のステンレス篩がちょうど逆さにして被さりますので、これに網戸のメッシュを貼ると便利です。
生ゴミ処理器に発生する虫について

ハエの幼虫とアリ

アメリカミズアブの幼虫

 
Q: 最適な生ゴミ処理方法は?
A: 生ゴミの減量化は、水分の蒸散と微生物の酸素呼吸による固形生ゴミ二酸化炭素と水への酸化分解で達成されます。この点からいえば、生分解式(+乾燥型)の電動式生ゴミ処理機を用いるのがベストでしょう。ただし、高価であること、電源がある屋外を必要とすることなどのデメリットもあります。かけられる予算、電気を使うかどうか、庭があるかないか、ベランダが使えるかどうか、堆肥としての活用を考えるか、など様々な条件がありますので、各個人で事情は異なってくると思います。それらを総合的に勘案してベストな選択をすればよいと思います。
 
Q: 電動処理機の場合乾燥型と生分解(バイオ)型はどちらがよい?
A: これも一概にはいえません。減量化の方法や目指すものが異なり、ユーザーの目的に依存するからです。詳しくは以下を参照ください。
 
3. 運転や処理物に関すること
 
Q: 1日で99%分解できる方法があると聞いたが...
生ゴミ分解率は用いる基材+微生物量と投入量に依存しますが、家庭用として使われる処理機(処理器)で毎日投入する一般的な使い方で1日で99%分解することは不可能です。そのような方法もありません。
 
Q: 生ゴミ処理機(器)で処理したものは堆肥か?
A: 毎日生ゴミを投入している場合は未分解物が相当量残存していますので、堆肥とよべる状態ではなく、単なる処理物です。堆肥にするには生ゴミを投入しないでしばらく処理するか、別途取り出してさらに放置しておく(二次処理を行なう)必要があります。
 
Q: 油、米ぬかの添加は発熱に(処理器を温めるのに)役立つか?
A: 役に立ちます。しかし、使い方に工夫が必要です。詳細は別ページを参照ください。
 
Q: 生ゴミ処理は水分60%がベストと聞いたが...
A: 含水率60%は、常時撹拌条件にない場合は多すぎます。水分過多により通気不足(臭い発生)の原因になります。含水率40–50%が最適です。また、電動処理機も非電動処理器も立ち上げ時には60%程度になることはあっても、処理が軌道に乗ると、自動的に40-50%の含水率になります。電動処理機の場合、温風装置がついていますので、含水率40%を切ることも多いです。以下も参考になります。
 
Q: 腐ったものや魚の内蔵は入れられるか?
A: はい、投入して大丈夫です。できる限りかき混ぜ、土を被せて臭いを防いでください。しばらくはかき混ぜる度に臭うと思いますが、1週間程で収まります。
 
Q: 生ゴミを土に埋めて処理する場合の通気は?
A: 毎日生ゴミを埋めるような処理法であれば、生ゴミを埋める度に撹拌し、通気を促した方がよいです。埋めたままにしておくと発酵が起こり臭い発生の原因になります。できる限り撹拌し、生ゴミを分散させることが重要です。長期間(1ヶ月以上)生ゴミを追加しないということであれば、そのまま何もしなくてもOKです。
 
Q: 生ゴミ処理容器(非電動式)の毎日かき混ぜる必要はあるか?
A: 毎日かき混ぜれば分解は速くなります。通常は生ゴミを加える度にかき混ぜればよいと思います。
 
Q: 処理器内の土が団子状に固まってしまった
A: 水分が多い証拠です。生ゴミ処理を一時中断するか、新しい容器を作って処理物を分けるようにします。投入限度量を考慮して投入してください。投入量については、別ページを参照ください。
 
Q: 表面がカサカサに乾燥しているように見え、かき混ぜでもサラサラしている
A: 水分が少ない証拠で、微生物の活性が低下しています。投入最低量を考慮して投入してください。それでも乾燥するようでしたら、ポリ袋を被せてください。袋の内側に水滴がつくようでしたら大丈夫です。水滴が見られない場合は、処理器に水を加えます。
詳しくは本ブログマニュアルをご参考に
 
Q: 処理器内が臭う
A: 酸素不足で発酵(=腐敗)が起こっている証拠です。生ゴミの投入量が多く、水分過多になっている場合、撹拌不足の場合に起こります。よくかき混ぜて土を被せた上、生ゴミ処理を一時中断してください。臭いを発生しないようにするには、投入量を考慮します。20 L(基材量70%)の容器に対して、0.2 kg/日が標準です。生ゴミ量の目安はマニュアルを参照してください。発酵と腐敗については以下を参照ください。
 
Q: カビが生えたが大丈夫か?
A: 全く問題ありません。分解に役に立つカビです。そのまま処理を続けてください。
 
Q: モソモソ動くダニのようなものが発生したが..
A: ササラダニだと思いますが全く問題ありません。ダニといってもいわゆる有害なダニではなく、土壌中に常在する微小動物の一種で人畜無害です。
 
Q: 処理器内にウジが発生してしまった
A: ウジが発生してしまうとこれを取り除くことは困難です。比較的有効なのは木酢液と廃油の添加ですが、完全ではありません。
 
Q: 家を長期間留守にするときの生ゴミ処理機(器)の管理は?
A: 何もしなくてもよいです。放置しておいてOKです。ただし、電動処理機の場合は、家を空ける(電源オフにする)前の少なくとも3日間は、臭い発生防止のために生ゴミを入れない方が賢明です。
 
4. 安全性に関すること
 
Q: 生ゴミ処理で食中毒や感染症の恐れは?
A: まず食中毒は食べることによって起こりますので、生ゴミを取り扱うこと自体で食中毒にはなったという事例は知られていません。もし生ゴミに食中毒の原因菌やその他の細菌が付着していたとしても、生ゴミ処理を行なうことによって99%以上除去されます。しかし念のため、作業後は手洗いを励行してください。処理物から発生する埃を吸い込んでカビの感染症になったという稀な事例が報告されていますが、含水率40%であれば埃を発生することはほとんどありません。埃が立つようであれば念のためにマスクと手袋をするなどして作業してください。
              
カテゴリー:生ゴミ処理各論