Dr. Tairaのブログ

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生分解型電動生ゴミ処理機の特性評価

家庭単位での生ゴミ処理に有効なのが市販の電動生ゴミ処理機です。大きく分けて乾燥型生分解型(バイオ型)の2種類があります。乾燥型は文字通り生ゴミを温風で乾燥させるもので、生ゴミ乾燥機として形容できます。生分解型は、生ゴミの水分を飛ばすとともに固形分を微生物の力で二酸化炭素と水に分解して行きます。処理物を二次処理すれば堆肥としても活用できます。
 
私たちは長年生分解型の電動生ゴミ処理機の性能や特性を研究してきました。このページでその評価をまとめてみたいと思います。なお、ここで紹介する内容は英文総説(https://doi.org/10.1264/jsme2.20.1として出版していますので、ご興味の方はそちらもご参照ください。
 
図1に生分解型電動生ゴミ処理機の基本構造を示します。処理機の中は基材を入れる空間があり、インペラー(撹拌翼)、ファン、ヒーターが付いています。インペラーで基材と生ゴミを混合し、ファンで水分を蒸散させ、気温が低くなるとヒーターが作動し、処理機を温めるようになっています。機種によってはヒーターとファンが一体化し、温風で中身を乾燥させます。また、水分センサーが付いている機種もあり、含水率の状況を検知してファンの作動を制御するようになっています。

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図2に市販の異なる3機種を用いて性能(減量率)評価した結果をまとめて示します。3機種ともファンで水分を飛ばす構造になっていますが、温風による乾燥機能は付いていません。結論として、3機種とも良好な減量効果を示しました。すなわち、2ヶ月間累積重量42 kg(0.7 kg/日)の生ゴミを投入した結果、残存量(増えた生ゴミ処理機重量)は4 kg以下であり、90%以上の減量率を示しました。また、固形分は85%以上が分解されることが分かりました。
 
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上記の2ヶ月間の運転期間における温度、pH、含水率、電気伝導度をまとめて示したものが図3です。これらのパラメータは運転初期では大きく変化しますが、1ヶ月後には安定するようになり(電気伝導度を除く)、馴養期(安定期)に入るたことが分かります。この段階で温度は30-40℃、pHは9以上、含水率は40%程度になります。電気伝導度はイオン性の物質(主としてミネラル)の量の指標であり、処理の進行に伴って処理機内にミネラルが蓄積していくことが反映されています。
 
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このように系内のアルカリ化と電気伝導度の上昇は、処理物を引き抜かないで運転する反復回分(fed-batch)処理の特徴と言えます。

処理機内のアルカリ化と電気伝導度の上昇に加えて、比較的低い40%という含水率によって中で働く微生物の量や質にも影響します。図4には、運転経過に伴う系内の総菌数(図4上)と細菌の種類の変動(図4下)を示します。
 
興味深いことに処理機内の総菌数は2段階の増加パターンを示します。すなわち、運転開始から3〜4週間で急激に菌数が増加し、その増加が一旦停止した後、再び次の3〜4週間で増加し、その後落ち着きます。なぜこのように菌数増加が2段階になるのか、理由はわかりません。
 
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 この運転期間で、微生物群集の種類は劇的に変化します。運転初期段階ではプロテオバクテリアと呼ばれる系統の細菌が優占します。これは主に生ゴミに付着して系内に入ってくるものが、処理機内で増殖している結果と考えられます。しかし、運転が進むとプロテオバクテリアは減少して行き、代わりにアクチノバクテリア(放線菌の仲間)と呼ばれる系統の細菌が優占するようになります。とはいえ、生ゴミは毎日投入されているので、それとともに侵入してくるプロテオバクテリアは常に一定量存在しています。
 
アクチノバクテリアはプロテオバクテリアに比べると乾燥やアルカリに強く、処理機内の環境条件の変化に応じて支配的になるものと考えられます。逆にプロテオバクテリアは含水率が高い条件で増殖しやすく、発酵性の菌種もいますので、高含水率の環境で発酵的に増殖し臭いを発生する可能性があります。
 
上記のデータは市販の電動生ゴミ処理機のものですが、同じ反復回分処理の非電動式の生ゴミ処理にも当てはまります。
 
重要なこととして、メーカーは電動処理機による処理物を堆肥として活用できることをうたっていますが、図3にあるようにそのままでは堆肥としては不適であるということが言えます。とくに運転期間が長くなるほど、処理物内にミネラルが蓄積し、アルカリに傾きます(pH 10近くになります)。
 
したがって、堆肥として利用したい場合には2〜3ヶ月毎に処理物を引き抜き、二次処理を行なう必要があります。二次処理については別ページ(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16117212.html)を参照ください。
 
追記(運転に関する注意)
電動生ゴミ処理機といえども運転法を誤ると、処理しきれない、悪臭を放つなどの不都合なことが起こります。過信しないで使うことが重要です。主な注意点を以下に記します。
 
生ゴミを入れすぎない
投入可能な量は1 kg/日までです。機種にもよりますが、水分過多になり臭いが発生するようになります。
●アルコールがかかったものは入れない
たとえばリキュール漬けにした果実、食材などですが、異臭の原因になります。
●米ぬかを入れない
米ぬかは有機物の塊で発酵を起こしやすく、臭い発生の原因になります。
●庭の土を基材として使わない
附属の木材チップの代用として庭の土を使っている例がありましたが、比重が重いためインペラーの破損事故を起こす場合がありました。ホームセンターで売られている園芸土や腐葉土、鋸クズは使えます。
 
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