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生ゴミ処理の微生物を顕微鏡で視る

はじめに

 
生分解型(バイオ型)の生ゴミ処理機(器)においては、沢山の微生物が生ゴミの分解に働いています。したがって、どのくらいの数の微生物が実際に存在するのか、どのくらい生きているのか、どのような種類がいるのかを把握することは、運転の適正化やトラブル解決の基本情報を得るために重要です。
 
生ゴミ処理の中心になるのはバクテリア(細菌)です。バクテリアは肉眼的に見える大きさ(0.5 mm程度)のものもいますが、一般的には1/1000ミリくらいの単細胞生物なので顕微鏡を使わないと直接見ることができません。まずは、顕微鏡を使って検出することが、微生物の情報を得る第一の手段です。ここでは、光学顕微鏡を用いた生ゴミ処理機(器)内の微生物の検出の原理と実際を紹介します。

重要ポイント
生ゴミ処理の担い手の中心はバクテリア
バクテリアは1/1000ミリ(1 μm)程度の大きさ
●顕微鏡を用いることが検出の第一手段

1. 顕微鏡でバクテリアを視るための基本

光学顕微鏡を使って実際にバクテリアを視るためには、400倍以上の倍率が必要です。しかし光学的な限界があって1,500倍くらいまでしか倍率を上げることができませんので、バクテリアはこの限界ぎりぎりで捉えることのできる生物です。バクテリアの1/10以下の大きさしかないウイルスは、光学顕微鏡で視ることができません。
 
倍率と同時に重要なのが細胞と非生物の細かい粒子をどのようにして区別するかということです。バクテリアの細胞はほとんど透明なので、実際光を当てて倍率を上げただけでは、染色して色をつけない限り捉えるのが困難です。そこで様々な物質の屈折率の差を利用して、それを実体として視えるようにした位相差顕微鏡(phase-contrast microscope)というものを使います。位相差顕微鏡を使えば、球形、楕円形、桿状などの規則性のある細胞は、慣れてくれば周囲の非生物系粒子と識別することができます。

しかし、それでもなお顕微鏡下で細胞の数を計測することは容易ではありません。そこで、生物と非生物を区別するためにDNAに着目します。生物であれば細胞内に必ず
DNAをもつので、このDNAを標的としてDNA結合性のある特殊な蛍光剤で染色し、そこから発せられる蛍光を検出すれば、バクテリアは光った粒子として周囲と区別できます。この蛍光を捉えるためには蛍光顕微鏡(epifluorescence microscope)を使います。実際は、位相差モードと蛍光モードの両方で視ることのできる蛍光位相差顕微鏡を使うのが普通です。
 
重要ポイント
バクテリアを視るためには400倍以上の倍率が必要
●光学モードそのままでは見えないので位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡を使う

2. 蛍光顕微鏡を使った細胞検出法
 
図1に土壌や水中の微生物を蛍光染色して蛍光顕微鏡で検出する操作手順を示します。まず試料をパラホルムアルデヒドやその他の薬剤で固定化します。これは顕微鏡で観察するまでの間に増殖するなどして菌数が変化しないようにするためです。それから、顕微鏡の視野に適当な数の細胞が散らばるように、リン酸緩衝食塩水などで希釈します(希釈しないと生ゴミ処理物では菌数が多すぎて数えられません)。そして特殊な蛍光試薬(DNA結合試薬)で染色し、ろ過でメンブレンフィルターの上に細胞をすべて補足します。それを、スライドガラス上に移して台座に乗せ、蛍光顕微鏡下で観察・計測します。

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図1. 蛍光顕微鏡を使った微生物検出の操作手順
 
DNAと結合できる蛍光試薬(細胞を蛍光染色する試薬)は沢山知られていますが、大きく分けると、DNAの二重らせんの溝にくっつくグルーヴバインダーと二重らせん構造の中に侵入して結合するインターカレータという試薬があります。グルーヴバインダーの代表がDAPIとよばれる青色の蛍光剤です。インターカレータの代表として緑色の蛍光剤であるサイバーグリーン(SYBR Green)があります。
 
図2にサイバーグリーンの化学構造と分光特性を示します。サイバーグリーンはシアニン系色素であり、488 nmの光を吸収して(励起されて)、522 nmの放射光(蛍光)を出す性質があります。522 nmは緑色の波長領域であり、サイバーグリーンの蛍光はその名のとおり鮮やかな緑色に見えます。
 
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図2. サイバーグリーンの化学構造と分光特性
 
それでは、蛍光染色した細胞を蛍光顕微鏡で検出する原理について説明しましょう。図3に蛍光顕微鏡の外観と構造を示します。
 
蛍光顕微鏡の光源は水銀ランプで、まずここから可視光線を照射します。この中から励起フィルタを使って励起光のみを通し(サイバーグリーンの場合は488 nm付近の光のみを通す)、ダイクロイックミラーに反射させて、台座の上の試料に当てます。励起された試料からは放射光が出るので(ダイクロイックミラーは励起光は反射しますが放射光は通過させます)、これを吸収フィルタで選択的に通し(サイバーグリーンの場合は522 nm付近の光)、CCDカメラで捉えます。これをモニター画面上に映し、適宜画像解析プログラムで解析します
 
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図3. 蛍光顕微鏡の外観、構造、検出原理
 
重要ポイント
●細胞を特異的に検出するにはDNA結合蛍光試薬を使う
●蛍光染色した検体に励起光を当て、そこから出る放射光を選択的に捉える

3. 蛍光顕微鏡による微生物検出の実際
 
図4に蛍光染色した検体の蛍光顕微鏡画像を示します。左側が下水処理場の曝気槽内から採取した汚泥(活性汚泥)をサイバーグリーンで染色した画像で、右側は出芽酵母Sacchromyces cerevisiae)のDAPI染色画像です。下水処理場内は原核生物であるバクテリアが多いので、そこから採取した微生物は細胞全体が光って見えます(DNAが細胞内で裸で存在しているため)。一方、酵母は核を有する生物(真核生物)であるため、核の部分が強く光って見えると同時に、周辺のミトコンドリア内のDNAも染色されて見ることができます。

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図4. サイバーグリーン(左)およびDAPIで染色した微生物細胞の蛍光顕微鏡画像
 
実際に生ゴミ処理器(植木鉢)から取り出した処理物の蛍光(サイバーグリーン)染色画像を図5に示します。処理物1 gをリン酸緩衝食塩水(pH 7.1)で10倍に希釈し、超音波で分散処理した後、さらに100希釈したサンプルの画像です。一番上(A)は位相差顕微鏡写真、真ん中(B)は同じ視野の蛍光モード画像、一番下(C)はそれらの重ね合わせ画像を示します。位相差の画面では、バクテリアが集合した状態で存在していて非生物粒子と区別しにくいですが、蛍光画像では細胞の塊具合や分散の状態がよくわかります。さらに両者を重ね合わせることによって、細胞とそうでない粒子の識別が容易になります。

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図5. 生ゴミ処理器から取り出した処理物の位相差顕微鏡画像(A)、同じ
視野のサイバーグリーン染色画像(B)、および両者の重ね合わせ画像(C)(スケールバーは10 μm)
 
                                        
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