Dr. Tairaのブログ

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withコロナ vs. zeroコロナ

はじめに

日本では、コロナ禍における、ウィズ (with) コロナゼロ (zero) コロナという二極化する言葉がメディア上で飛び交っています。そして、ほとんどの場合、テレビの情報・ワイドショー・バラエティー番組のMCやコメンテータが、さも当たり前のように「ウィズコロナですから」「ウィズコロナをどのように進めるのか」と発言しています。

私の理解するウィズコロナという言葉は、「COVID-19の死の一定レベルを受けいれる」、「弱い人は死んだも仕方ない、強い者で社会を動かしていく」という、欧州で一般的な概念を意味するものです。一方、日本の為政者、メディア、TVコメンテータなどが発言するウィズコロナという言葉は、ちょっとニュアンスが違うような気もしますが、正直言ってよくわかりません。この意味で、私は少し前に以下のようにツイートしました。

上述のように、私が考えるウィズコロナは「死の一定レベルを受け入れる」という理解なので、この言葉が嫌いです。いかなる死も受け入れたくありません。現実問題として、COVID-19による死亡は起こりますが、可能な限りそれは減らしてほしいという思いです。その意味で私の考えはゼロコロナに近いのかなとも思いますが、これもニュージーランド(後述)で実践されている排除戦略 [1] とは違うような気がします。

このブログ記事では、ウィズコロナ、そしてゼロコロナがどういうものなのか、各国の状況も踏まえながら考えたいと思います。

1. テレビや為政者が使った「withコロナ」「zeroコロナ」

まずは、テレビで頻繁に使われるウィズコロナ、ゼロコロナという言葉を発した例を取り上げたいと思います。ウィズコロナという言葉をよく使う情報番組・ワイドショーの一つとしてTBSテレビの「ひるおび」があります。MCの恵俊彰氏自身が「ウィズコロナをどう闘っていくか」といった類いのフレーズを頻繁に使っています。彼はどういう意味で使っているのでしょうか? 以下はこの2–3週間の間にテレビのコメンテータなどが使った例です。

9月9日、テレビ朝日ワイドスクランブル」で、コメンテータの末延吉正氏は「野党はゼロコロナと言って先を見誤った」と発言しました。どこを見誤ったというのでしょうか。私から言わせれば、先を見誤ったのは日本政府と政府専門家会議です。昨年の第1波流行収束後のチャンスを生かせず、「クラスター対策が成功」とあぐらをかき、見事に戦略を誤ってしまいました(→専門家会議の5月29日記者会見とその記事への感想再燃に備えて今こそとるべき感染症対策)。当時(2020年6月初旬)、全国の県の感染者数がほとんどゼロであったことを皆さん忘れたのでしょうか?

9月17日、TBSテレビ「ひるおび」で、立憲民主党江田憲司氏の生出演に際して、ゲスト出演のタレント上地雄輔氏が「ゼロコロナというと拒否感があるし、(立憲の)説明を一々見ろということか」と発言しました。随分ウィズコロナに毒された発言だと思いましたが、逆に彼はウィズコロナの説明をどこかで読んだことがあるのでしょうか。あったとしてもそれも見ないということでしょうか。

上地氏の発言を受けて江田氏が「それならもうゼロコロナは使わない」と言っていましたが、これも情けない話であり、しかもそのように言い切ることは党としての責任が伴います。

9月23日のTBSテレビ「ひるおび」で、事業構想大学院大学教授・学長の田中里沙氏は、「ワクチンでウィズコロナを乗り越える」という発言をしていました。すごいパワーフレーズだと思いました(いい意味でも悪い意味でも)。

感染症の専門家や医者の方もよく発言しています。以下は政府分科会尾見茂会長の「ゼロコロナというつもりはまったくない」というNHK番組(9月19日)での発言を受けて私が投稿したツイートです。

尾見会長のこの発言にはちょっと驚いてしまいました。なぜなら、世界保健機構(WHO)が定義する西太平洋地域の国々・地域の中で、トップのフィリピンに続いて2位の約170万人の感染者と1万7千人の犠牲者を出している日本の専門家会議/分科会のの幹部の弁としては、「無責任ではないか」という感じを受けたからです。この感染者数は世界レベルでも24位です。とても感染症対策が成功したとは言い難く(むしろ失敗)、その言い訳にされてはたまらないと思いました。

9月21日のTBSテレビ「ゴゴスマ」では愛知医科大学教授三鴨廣繁氏が「ウイルスと共存しなければならない」と発言していました。これを聞いて私は以下のようにツイートしました。どう意味で使われたのかわかりませんが、軽い発言だと思います。

そして、わが国トップの菅義偉首相の記者会見での発言です [2]。「ウイルスの存在を前提に、繰り返される新たな感染拡大への備えを固め、ウィズコロナの社会経済活動を進めていく必要がある」と述べています。一体どういう意味でウィズコロナを使ったのでしょうか。政府のウィズコロナ戦略の具体性について、公式見解はこれまでないと思います。

2. withコロナとは?

ここでウィズコロナを改めて考えてみたいと思います。日本で最初にこの言葉を使った為政者は、東京都知事小池百合子氏だと思います [3]。昨年の5月の最初の緊急事態宣言が解除された後のことです。私がテレビで彼女の言葉を聴いた印象では、COVID-19との闘いは長期にわたることが見込まれるため、否応なくウイルスとともに生きていかなければならないとして、軽い意味で「ウィズコロナ宣言」を発したように思えました。

しかし、上述したように、当時は東舎京での新規陽性者数が10人前後であり、全国の多くの県が感染者ゼロという流行が収まった頃の話なので、実際どういう意味で使われたはわかりません。その気になれば、その当時に、中国と言わずとも、ニュージーランドや台湾のような強い対策をとっていれば、今のような甚大な被害を出すこともなく、ある程度抑え込んでいたかもしれません。ちょうど戦略の岐路に立っていた時期であったことは当時のブログ記事でも指摘しました(→再燃に備えて今こそとるべき感染症対策)。

たぶん、いまメディアで使われている ウィズコロナとは、コロナウイルスが存在する前提で新しい日常?を生きていく、経済を回していくという意味にとられているのではないかと思います。あるいは「一定の感染者数=被害を受け入れて」という意味で、明確にウィズコロナをいう人ももちろんいます。

いずれにせよ、それらの意味では、ウィズコロナという言葉には、ウイルスとどのように闘うか、どのように向き合うかという、科学的根拠に基づいた具体的方針が含まれていないように思います。コロナは流行っているけれども、とりあえず社会・経済は回していくというニュアンスが最も近いと思うのですが、はっきり言って、国内で統一化されたウィズコロナの考え方はないように思います。

官邸や自民党のホームページを見てもウィズコロナ戦略に関する見解は書かれていません。公式なものとしては菅首相ウィズコロナの社会経済活動を進めていく」と言ったことが唯一だと思います。

英国ジョンソン首相は、7月5日、「このウイルスと共に生きる (live with COVID-19) ことを学ばなければならない」と述べ、これまでCOVID-19を征服すべき敵として描いてきた政府のトーンを大きく変えました [4]。そして、「このパンデミックはまだ終わっていないことを最初から強調しておきたい」、「悲しいことに、COVIDによる死亡者が増えることを受け入れなければならない」と述べました。

いわゆる自由の日とよばれた7月19日にすべての行動制限を解除する、英国の大衆紙にも歓迎されました。このように「死の一定レベルを受け入れる」とことと引き換えに、自由を取り戻す(日常生活に戻る)というのが、英国のウィズコロナの考え方です。これには、検査、医療・治療、ワクチン接種などの具体的な対策の進行がベースになっています。

2. zeroコロナとは?

一方、ゼロコロナとはどういう考え方でしょう。基本は「排除戦略」(elimination strategy for the COVID pandemic)とよばれるもので、この戦略をとっているニュージーランドでは、対策を担う専門家が、昨年の4月に、論文上でその考え方と進め方を明示しています [1]。似たような戦略は中国と台湾でも進められており、この3つの国・地域では、英米や日本と比べれば、ほぼ感染者を抑えているというレベルです(後述)。

日本でも立憲民主党などがマニフェストでゼロコロナ戦略を掲げており、「感染拡大の繰り返しを防ぐことで早期に通常に近い生活・経済活動を取り戻す戦略」と簡潔に述べています [5]。感染対策として「感染を封じ込める」としていますが「zeroコロナ=ウイルス0」ではないことも並記しています。さらに具体策を見ることができます(印象としては散在的)。ひるおびで上地氏が「これを読めというのか」と言ったのが、このゼロコロナ戦略です。

2.1. ニュージーランドの排除戦略

ここで、2020年4月時点におけるニュージーランドの排除戦略を、Bakerらの論文 [1] に基づいて紹介します。基本戦略・対策は以下の5点です。

1. 入国した旅行者の厳格な検疫を伴う国境管理

2. 広範囲にわたる迅速な検査、迅速な隔離、迅速な接触者追跡、そして接触者の検疫

3. 集中的な公衆衛生策促進(咳エチケットと手洗い)と公共の場での手洗い設備の提供

4. 集中的な物理的距離の確保

現在はロックダウン(レベル4の警報)として実施されており、学校や職場の閉鎖、移動や旅行の制限、公共の場での接触を減らすための厳しい措置が取られているが、排除がうまくいっている場合はこれらの措置を緩和する可能性もある

5. 対策や体調不良時の対処法を一般市民に伝え、重要な健康維持メッセージを強化するための調整されたコミュニケーション戦略

さらに、この「排除戦略が失敗したらどうするか」ということも以下のように述べられています。

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排除戦略の成功は、ニュージーランドではまだ確実ではない。それまでの間は、抑制策緩和策への移行の可能性に備えて、準備を加速させておく必要がある。このような準備をすることで、脆弱な人々(特に高齢者や慢性疾患を持つ人々)の死亡率を大幅に下げることができる。特に、そのような人々を自宅や施設、コミュニティで保護するための「安全な避難所」プログラムが考えられる。これらのプログラムは、国内でのパンデミックの拡大状況に応じて、都市、地域、国別に展開することができる。

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結論として、「排除戦略の目標が達成できるかどうかは、これからの数週間の行動にかかっており、この介入が成功する可能性を最大限に高めるための努力をする必要があるが、これは公衆衛生にとって未知の領域である」と述べています。

さらに、「COVID-19がニュージーランドの環境でどのように作用するかについての情報の蓄積に伴って、戦略を微調整し、様々な手段で対策強化する必要があり、そのためには、革新的な方法で情報を提供し、多くの科学分野や技術を最大限に活用する必要がある」と結んでいます。

2.2. 排除戦略から何を学ぶか

昨年8月には、同じBakerらの執筆による「ニュージーランドの排除戦略から何を学ぶか」、という論説がNew England Journal of Medicineに掲載されました [6]。この論説に何が書かれているか、以下に、全文を翻訳しながら紹介したいと思います。

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中国の武漢でのアウトブレイクの最初の記述が共有されてから直ぐに、2020年1月下旬のランセット誌に掲載された報告 [7] では、COVID-19が深刻なパンデミックになることがほぼ確実であるとされた。

ニュージーランドは地理的に孤立しているにもかかわらず、毎年夏になると主にヨーロッパや中国本土から大量の観光客や学生が訪れるため、SARS-CoV-2の侵入が間近に迫っていることがわかっていた。疾病モデルによると、パンデミックは広範囲に広がり、ニュージーランドの医療システムを圧迫し、先住民であるマオリ族や太平洋諸島の人々に大きな負担をかけることが予想された。ニュージーランドでは、2月から本格的にパンデミック・インフルエンザ対策を開始し、患者の流入に備えて病院を整備し、また、パンデミックの襲来を遅らせるために、国境管理政策の導入も開始した。

ニュージーランドで最初のCOVID-19感染者が診断されたのは、2020年2月26日のことである。同週、WHOと中国の合同ミッションによるCOVID-19に関する報告書によると、SARS-CoV-2はインフルエンザよりも重症急性呼吸器症候群SARS)に近い挙動を示しており、封じ込めが可能であることが示唆された。

しかし、3月中旬になると、ニュージーランドでは市中感染が発生していることが明らかになり、ウイルスを封じ込めるための検査や接触者追跡の能力が十分でないことが判明した。ここで、科学的根拠に基づくという強力な方針により、国のリーダーたちは、緩和戦略から排除戦略への転換を断行した [1]

政府は、3月26日に国全体で厳重なロックダウン(警戒レベル4)を実施した。現地での感染者数が急激に増加していたこの時期、多くの人が「この徹底した管理が機能するかどうか」心配していた。5週間後、新たな感染者の数が急速に減少したため、ニュージーランドはさらに2週間、警戒レベル3に移行し、合計7週間、国を挙げての自宅待機命令が出された。

5月初旬、最後のCOVID-19の感染者がある地域で確認され、感染者は隔離され、その地域での感染拡大は終了した。6月8日、政府は警戒レベル1への移行を発表し、最初の感染者が確認されてから103日目にして、ニュージーランドにおけるパンデミックの終息を宣言した。

ニュージーランドは現在、感染排除後の段階にあるが、これには不確定要素がつきまとう。国内で確認された唯一の感染者は海外からの旅行者で、その全員が到着後14日間、政府が管理する検疫所または隔離所に収容されており、国内の排除状況を損なうことはない。もちろん、ニュージーランドは、もし国境管理や検疫・隔離政策の不備があるとすると、今後も発生する感染症の影響を受けやすい国である。

封じ込めを目指すほとんどの国(中国本土、香港、シンガポール、韓国、オーストラリアなど)では、このような失敗を経験し、対策を急速に強化している。ニュージーランドでは、これまで対応してこなかった大量のマスク着用を含む、さまざまな管理手段を用いて、再発生に対応する計画を立てる必要がある。

ニュージーランドの総患者数(1569人)と死亡者数(22人)は低い水準で推移しており、COVID関連の死亡率(100万人あたり4人)は経済協力開発機構OECD)加盟37カ国の中で最も低い水準となっている。公共の生活はほぼ正常に戻っている。国内経済の多くの部分が、COVID-19発生前のレベルに達している。一部の国境管理政策を慎重に緩和し、COVID-19を排除した地域や感染者がいなかった地域(太平洋諸島など)から検疫なしで渡航できるようにする計画が進められている。

封鎖とそれに伴う日常的な健康管理の延期が健康に負の影響を及ぼしたことは間違いないが、封鎖期間中の全国の週間総死亡者数は減少した。経済的な影響を軽減するために、政府は企業を支援し、職を失った、あるいは職が脅かされている従業員の収入を補うための支援プログラムを制定した。

ニュージーランドパンデミック対応からは、いくつかの教訓が得ることができる。科学的根拠に基づく迅速なリスク評価と、それにリンクした政府による早期の断固とした行動が重要であった。様々なレベルでの介入(国境対策、地域社会への感染対策、症例ベースの防疫対策)が効果的だった。ジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相は、共感できるリーダーシップを発揮し、重要なメッセージを効果的に国民に伝え、「500万人のチーム」が一体となってパンデミック対策へ取り組んだ。それが結果として、国民の高い信頼を生み、比較的やっかいなパンデミック対策のパッケージを守りきることへと繋がった。

ニュージーランドの今後の教訓としては、潜在的な脅威をより適切に評価・管理できる公衆衛生機関の強化と、世界保健機関をはじめとする国際保健機関への支援の強化が必要である。

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この論文 [6] にも文献 [1] にもあるように、ニュージーランドのゼロコロナ戦略は、緩和策からの換という断行であったことがわかります。そして、それは科学的根拠に基づけば、そうするのが正しいという強い信念があり、それがアーダーン首相の強力なリダーシップとコミュニケーションの力によって成し遂げられていることがわかります。今年7月に、英国のウィズコロナ戦略を「意味がない」と一蹴したことも頷けます(→ウィズコロナを意味のないスローガンとして否定するNZ)。

3. withコロナと zeroコロナの国の現状

ここで実際に ウィズコロナの代表国として米国、英国、イスラエルを取り上げ、ゼロコロナの国・地域である中国、台湾、ニュージーランドと比較してみましょう。ちなみに、COVID-19患者がほとんどゼロというのは、アフリカのいくつかの国にも見られます。

これらの国に日本を加えて、新規陽性者数の推移を比較したのが図1です。目立つのはイスラエルを筆頭に、ウィズコロナの国がこのところ感染者を急増させていることです。イスラエルに至っては、ワクチン接種が最も早くから進んだ国にもかかわらず、ワクチン接種前より、高い感染ピークになっています。

一方、中国、台湾、ニュージーランドはウィズコロナの国々に比べれば、ほとんどゼロにしか見えない新規陽性者数の推移です。

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図1. ウィズコロナおよび座ゼロコロナを代表する国・地域における新規陽性者数の推移(Our World in Dataより転載).

図2には、同様に、ウィズコロナとゼロコロナの国についてCOVID-19の死者数の推移を直近半年間にわたって示します。ウィズコロナの国々では、死者数は感染者数に比べてまだ抑えられていますが、それでも6月あたりから急増しているのがわかります。特に死者数については米国において急増が顕著です。米国では死者数のほとんどはワクチン未接種者と言われていますが、イスラエルでは必ずしも当てはまりません。

一方で、中国、台湾、ニュージーランドはウィズコロナの国々に比べれば、やはりほとんどゼロにしか見えないレベルで推移しています。

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図2. ウィズコロナおよび座ゼロコロナを代表する国・地域におけるCOVID-19死者数の推移(Our World in Dataより転載).

ワクチン完全接種でみれば、ゼロコロナの台湾およびニュージーランドでは達成率がまだ低く、ウィズコロナの国々に遠く及びません(図3)。しかし、感染者数、死者数とも抑えられているので、ワクチン接種よりも検査・追跡、公衆衛生などの防疫対策の方が、流行を抑えるという点からははるかに重要なことがわかります。

中国は比較的ワクチン接種率が高いですが、これはmRNAワクチンではなく、シノバック、シノファームの不活化ワクチンの投与実績によるものです。

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図3. ウィズコロナおよび座ゼロコロナを代表する国・地域におけるワクチン完全接種率の推移(Our World in Dataより転載).

図1からもわかるように、イスラエルでは3回目の接種である、いわゆるブースター接種が始まった7月末から急激に死者数が増加しています。これについて昨日、以下のようにツイートしました。

そして、感染者や死者数の急増に鑑みて、イスラエルはさらに4回目の接種も計画しているようです [8]

図1-3およびイスラエルでのブースターとともに増加する死者数を眺めていると、感染流行の抑制ということでは、明らかにゼロコロナ戦略の優位性があるように思えますし、果たしてmRNAワクチン戦略(特にブースター接種)がうまくいくのかという、疑問も出てきます。mRNAワクチン接種を繰り返すことによって、かえってその負の影響(ウイルス免疫逃避抗体依存性増強など)の方が強くなるのでは?という懸念もあります。

4. ニュージーランドのゼロコロナ政策とワクチン接種の矛盾

ニュージーランドでは、現在20人前後/日の新規陽性者数を記録しており、ロックダウン中です。一人でも感染者が出ればロックダウンという迅速介入方針が徹底しているのは相変わらずですが、これ以上広げずまたゼロにできるかどうかは今が正念場というところでしょう。

最新の数字によると、COVID-19による死者数よりもCOVID-19ワクチンによる死亡の数の方が多くなっているようです。その追跡システムによると、ワクチンが原因で40人が死亡し、COVID-19自体が原因で27人が死亡したと報告されています。ジャーナリストのエリジャー・シェーファー(Elijah Schaffe)氏は、この数字を丁寧にツイッターで伝えており、この件について私は以下のようにツイートしました。

Liberty Dailyの記事 [9] では、ニュージーランドを例外的な国だと述べ、現状をネガティブな面から見ています。ゼロコロナ(Covid Zero)という姿勢で世界で最も厳しいロックダウンを続けてきた国であり、その結果、COVID-19の死者数は非常に少ないけれども、一方で、ロックダウンが人々に与えている影響を完全に無視していると批判しています。

すなわち、ゼロコロナ政策によってどれだけの自殺、薬物過剰摂取、殺人、その他の回避可能な死が引き起こされたかわからないとし、その情報も隠されている可能性があると述べています。

さらに、40歳以下では、99.93%の回復率を誇るこの病気に対して、政府が実施している極端なロックダウンやワクチン接種の推進は、おかしなことであり、病気そのものよりもはるかに大きなダメージを与えていると批判しています。

確かにそうでしょう。ニュージーランドにおける2020年以降のCOVID-19による死亡者数27名であるのに対し、ファイザー社のmRNAワクチンに関連する可能性のある死亡者数40名となっています。

ニュージーランドではゼロコロナ戦略で感染を抑えた結果、理論的にはワクチンの方が実際のウイルスよりも致命的になっているのです。ただ、グローバルなパンデミック状況下では、いずれニュージーランドも感染拡大に見舞われるかもしれません。ワクチン接種と引き換えに、ウィズコロナ戦略に切り替わることも予想されます。

おわりに

ウィズコロナとゼロコロナ戦略の国々・地域を見ていると、感染症対策としては明らかに後者の方に分がありそうです。ニュージーランドの例を見れば、あまりにもCOVID-19の死者数が抑えられていて、ワクチン接種後の死亡の方が多いという矛盾まで起きています。

ただ、現実的に、ゼロコロナ戦略がどこまで続けられるかという疑問はあります。この先より感染力・伝播力の強い変異体が出現すれば、容易に突破される危険性がありますし、ワクチン接種が進んだということで、戦略の変更も考えられます。とくに中国でのゼロコロナ戦略の破綻の可能性とその影響が危惧されます。とはいえ、続行可能かどうかは別として、ゼロコロナの戦略は、科学的根拠と感染対策の方針がはっきりしているということは言えるでしょう

ウィズコロナの国は、基本はワクチン接種とセットの(ロックダウンや公衆衛生に関する)緩和策です。英国の例に見られるように、検査・追跡などの従来の防疫対策の強化やいざという時の迅速介入という方針についてははっきりしていますが、「緩和(あるいは全面解除)で行ける」という科学的根拠は不足しています。「一定の犠牲は受け入れる」としながらも、犠牲の大きさと対策の関係がはっきりしてません。

よりはっきりしていないのは日本です。具体的な感染症対策の準備もないままに、名ばかりのウィズコロナ(制限緩和)に向かおうとしています。検査、医療提供体制、ワクチン接種など、すべてにおいて具体的目標が曖昧です。この先のリバウンドでまた失敗の歴史を重ねるのでしょうか。

要は、ゼロコロナでもウィズコロナでも具体的な戦略・対策と目標があるかどうかということが重要です。

引用文献・記事

[1] Baker, M. G. et al.: New Zealand’s elimination strategy for the COVID-19 pandemic and what is required to make it work. NZ Med. J. 133, April 3, 2020. https://journal.nzma.org.nz/journal-articles/new-zealands-elimination-strategy-for-the-covid-19-pandemic-and-what-is-required-to-make-it-work

[2] 産經新聞: 首相「ウィズコロナの社会経済活動必要」. 2021.09.09. https://www.sankei.com/article/20210909-HSWU3LQCWBLNBL5YKWHVA7U5XA/

[3] The PAGE: 東京都・小池知事が「ウィズ コロナ宣言」 映画館・スポーツジムなどの休止要請は6月1日から緩和へ. Yahooニュース. 2020.05.29. https://news.yahoo.co.jp/articles/bb6683194d136f8f62432b2c0b65a58a8df7d24d

[4] Lawless, J.: PM Boris Johnson: U.K. must live with COVID-19 but restrictions can ease. CTV News July 5, 2021. https://www.ctvnews.ca/health/coronavirus/pm-boris-johnson-u-k-must-live-with-covid-19-but-restrictions-can-ease-1.5496563

[5] 立憲民主党: zeroコロナ戦略. https://cdp-japan.jp/covid-19/zero-covid-strategy

[6] Baker, M. G. et al.: Successful elimination of Covid-19 transmission in New Zealand. N. Eng. J. Med. 383, e56 (2020). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2025203

[7] Wu, J. T. et al.: Nowcasting and forecasting the potential domestic and international spread of the 2019-nCoV outbreak originating in Wuhan, China: a modelling study. Lancet 395, 689–697 (2020). https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30260-9

[8] ロック, S.: 3回接種が進んだイスラエルで感染爆発、4回目を準備. Newsweek日本版. 2021.09.16. https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/09/34-16_1.php

[9] Rucker, J. D.: In New Zealand, there have been more people killed by the ‘vaccines’ than by Covid. The Liberty Daily Sep. 15, 2021. 
https://thelibertydaily.com/in-new-zealand-there-have-been-more-people-killed-by-the-vaccines-than-by-covid-19/

引用したブログ記事

2021年7月10日 ウィズコロナを意味のないスローガンとして否定するNZ

2020年6月1日 再燃に備えて今こそとるべき感染症対策

2020年5月31日 専門家会議の5月29日記者会見とその記事への感想

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19