ワクチン接種へのためらい率は高学歴者で最も高い
はじめに
今年6月、国立精神・神経医療研究センターの研究グループが、「COVID-19ワクチン接種をためらう人は低所得、低学歴の人が多い」という研究論文 [1] を発表し、メディアもすぐにこれを取り上げて報道しました。私は前のブログ(→ワクチン推進論文のミスリード−低所得者層が接種をためらう?)でこれらを紹介しましたが、論文のミスリードとも思える部分を指摘しました。
すなわち、低所得者層を年収100万円以下の層と決めて分析していることに対して、独立した世帯としては現実にありえないのではないか(つまり実際は被扶養者を見ているのではないか)ということと、低学歴層にワクチン忌避が見られるけれども、同時に高学歴者にもその傾向があることがデータに現れているのではないか、ということです。
そうしたら、今度は、米国マサチューセッツ工科大学の研究者が「高学歴者にはCOVID-19ワクチン接種のためらい率が高い」と報告したことをウェブ記事が伝えました [2]。私は、この記事に関するツイートを引用しながら、以下のようにコメントしました。
日本の研究グループがワクチン忌避は低学歴で低収入の人に多いという論文を出していたが、それとは反対とも言えるMITの研究結果。
— AKIRA HIRAISHI (@orientis312) 2021年8月1日
ワクチン推進者は、彼らの横柄さが邪魔して、ワクチンに懐疑的な人たちの考えを理解しようとしないし、理解できないと書いているのも面白い。 https://t.co/u9wbIlIOrk
さらに今月、 米国カーネギー・メロン大学とピッツバーグ大学の研究者が、高学歴の米国人は、最もCOVID-19ワクチンを躊躇しているとする内容をプレプリントの形で報告しました [3]。本ブログではこのプレプリントの概要を紹介するとともに、ウェブ情報メディアが早速この報告を取り上げていますので [4, 5]、それらも合わせてここで論評したいと思います。
1. プレプリントの報告
今回のプレプリントサーバーの論文 [3] は、2021年1月6日から5月31日までの期間、米国の成人約512万人を対象として行なったオンラインCOVID-19調査の結果を報告しています。調査は、COVIDワクチンの接種の「ためらい」について、「おそらく打たない」または「まったく予定していない」というアンケート回答を集計して評価されました。
その結果、ワクチン接種のためらいは、2021年1 月から 5 月にかけて 3 分の 1 ずつ減少し、その傾向は、黒人、太平洋島民、ヒスパニック系の人種・民族、および高校以下の教育を受けた参加者の減少幅が比較的大きく認められました。
このように、月日が経過するにつれてワクチンのためらい率は減少しましたが、2021年5月においてなおワクチン接種に消極的な人たちについては、「ためらいリスク因子」としては以下のことが認められました。
・年齢が若いこと
・アジア系以外の人種であること(とくに白人)
・博士号を持っていること
・高校卒業以下の学歴であること
・田舎の郡に住んでいること
・2020年のトランプ大統領の支持率が高い郡に住んでいること
・COVID-19について心配していないこと
・家庭外で働いていること
・他人との接触を意図的に避けたことがないこと
・過去にインフルエンザワクチンを接種したことがないこと
年齢が若くなる程忌避する割合が高くなる傾向について言えば、たとえば、ためらい率は65–74歳においては8.2%であるのに対して、35–44歳においては18.4%、18–24歳においては22.9%となりました。
ワクチン接種に消極的である理由として、回答者の約49%は、「副作用が怖い」、「COVID-19ワクチンを信用していない」と回答し、3分の1以上の回答者は、「政府を信用していない」(43%)、「ワクチンを必要としていない」(39%)、「安全性を確認するまで待つ」(34%) と回答しました。また、次に「アレルギーが心配」(24%)、「効くかどうかわからない」(23%) という理由がみられました。
結論として、ワクチン接種のためらいの程度は、人種・民族によって異なり、人口統計、地域、信念、行動によって異なると結んでいます。
年齢が若い程ワクチンのためらい率が高いというのは、日本と同様な傾向ですが、博士号を持っているなどの高学歴については、日本では関連性が指摘されていません(むしろ低学歴との関係が強調されている) [1]。しかし、日本の報告でもよく見ると、高学歴の人でワクチン拒否の幅があることは前回のブログ(ワクチン推進論文のミスリード−低所得者層が接種をためらう?)で指摘しています。
2. ウェブ記事の伝え方
UnHardは早速上記のプレプリントの報告を取り上げ、「教育レベル別のワクチンに対する躊躇の割合」は驚くべきことだと伝えています [4]。図1に示すように、学歴別では、博士(PhD)の人たちが、最も忌避の割合が高いことがわかります(23.9%)。そして、高校卒以下の低学歴の人たちが次に高くなっています(20.8%)。
一方、修士号を持っている人が最も躊躇しないこともわかり、法学博士(JD)などの専門家になると、またためらいが高くなることがわかりました。つまり、ワクチンためらいと学歴の関係はU字型のカーブを描き、学歴の低い人と最高学歴の人の間でためらい率が最も高くなるということです。
図1. 学歴別のCOVID-19ワクチン接種をためらう割合(文献 [4] より転載、原報 [3] の結果をUnHardが図示したもの).
Summit Newsも、UnHardの記事も引用しながら、この論文の内容を驚きをもって伝えています [5]。そのなかで強調されていることは、2021年の最初の5ヶ月間の調査に限定されますが、最も教育水準の低い人たちが月日の経過とともに次第にワクチンへの抵抗感が薄れていく一方で、博士号を持つ人は最も考えを変えない傾向にあった(最後まで拒否する)ということです(図2)。
図2. 2021年1月から5月における教育水準別にみたワクチンのためらい率の変化(文献 [5] より転載、原図は文献 [3]).
今回の調査結果は、メディアによって増幅された、ワクチンを躊躇するのは「頭の悪い」人だけだという考え方を完全に否定するものだとSummit Newsは伝えています。NYTのホワイトハウス特派員であるアニー・カーニ氏が、オバマ大統領の60歳の誕生日パーティーに出席したエリートたちを「洗練された、ワクチン接種済みの人々」と表現したことも否定されたとしています。
UnHardの記事 [4] のコメント欄に書かれている読者の質問・感想も興味深いです。博士号を持つ人々のワクチンためらい率が高いとするなら、それは、一般的に自立した態度としてみられるのか、よりワクチンに懐疑的なのか(命題を受け入れる前に、その命題に対してより多くの証拠を必要とするという意味で)、一度形成された見解に固執するのか、あるいは自分自身を一般人の関心事よりも何らかの形で「上」にいると見なしているのか、というコメントがありました。
また、もし上記のことが当てはまるとしたら、それは博士号を取得した結果なのか、それとも元々そのような特徴を持つ人が博士号を取得する傾向が強いのか?という問いが続けられていました。
さらに、別の感想では、ジョージ・オーウェルの「知識人だけが信じるような愚かな考えもある」というコメントが頭に浮かぶと述べ、博士号取得者の数や対象者を見てみたいとありました。
おわりに
考えてみれば、SNS上やウェブ記事上で、現行のCOVID-19ワクチン(とくにmRNAワクチン)について、科学的な見地から懐疑的な意見を述べている人たちはすべてが学位(博士)をもつ科学者です(→核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える)。それを考えれば、MITの研究や今回のカーネギー・メロン大学らの研究で「博士のワクチンためらい率が高い」とする結果はむしろ納得がいくものでしょう。
その意味で、低学歴の人たちがワクチンに消極的であるということとは、理由が異なると言えましょう。低学歴の人たちは何となく怖いとか単純に信用していないという根拠のない理由であることが、世の中のワクチン接種とそれへの啓蒙が進むにつれて接種への抵抗感を薄れさせるのだと思います。
一方、博士の人たちは高度な知識情報に基づいてより合理的に科学的に解釈した上で拒否しているだと考えられますので、いくら時間が経過しようともワクチン接種が進もうとも考え方が変わらないのでしょう。そういう人たちが比較的高い割合でいるということが、今回の調査研究でも証明されたのではないでしょうか。
あらためて、日本の研究で「ワクチン拒否は低収入、低学歴者に多い」とされたこと [1] の再検証が必要でしょう。前のブログでも述べましたが(→ワクチン推進論文のミスリード−低所得者層が接種をためらう?)、私の周辺でワクチン(遺伝子ワクチン)を拒否している人たちは、圧倒的に博士(知人に博士が多いので自動的にそうなるが)や知識教養人が多いです。一般的には、遺伝子ワクチンの勉強をすればするほど、それに懐疑的になるのはごく当然のことでしょう。
引用文献・記事
[1] Okubo R. et al.: COVID-19 vaccine hesitancy and its associated factors in Japan. Vaccines 9, 662 (2021). https://doi.org/10.3390/vaccines9060662
[2] Moran, R.: MIT Study: Vaccine Hesitancy Is 'Highly Informed, Scientifically Literate,' and 'Sophisticated’. RJ Media July 17, 2021. https://pjmedia.com/news-and-politics/rick-moran/2021/07/17/mit-study-vaccine-hesitancy-is-highly-informed-scientifically-literate-and-sophisticated-n1462591/amp?__twitter_impression=true
[3] King, W. C. et al.: Time trends and factors related to COVID-19 vaccine hesitancy from January-May 2021 among US adults: Findings from a large-scale national survey. medRxiv Posted July 23, 2021. https://doi.org/10.1101/2021.07.20.21260795
[4] UnHerd: The most vaccine-hesitan group of all? PhDs. The Post 2021.08.11. https://unherd.com/thepost/the-most-vaccine-hesitant-education-group-of-all-phds/
[5] Watson, P. J.: Study finds most highly educated Americans are also the most vaccine hesitant. Summit News 2021.08.11. https://summit.news/2021/08/11/study-finds-most-highly-educated-americans-are-also-the-most-vaccine-hesitant/
引用したブログ記事
2021年7月11日 ワクチン推進論文のミスリード−低所得者層が接種をためらう?
2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える
カテゴリー:感染症とCOVID-19
カテゴリー:社会・時事問題