Dr. Tairaのブログ

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ワクチン未接種者に対して汚名を着せることは不当

どうも、COVID-19パンデミックCOVID-19ワクチンは、為政者や科学者の頭の中までおかしくしてしまうようです。

米国疾病対策センター(CDC)のロシェル・ワレンスキー所長は、7月16日の記者会見で「ワクチン未接種者のパンデミックが起きつつある」と警告しました [1]。当時、ワクチン未接種者の間で、COVID-19感染が再拡大しているとされていました。米国民のワクチン接種率は48%に達する一方、接種のペースは落ち込んでいました。昨日(11月23日)までのワクチン完全接種率をみると、日本の約77%に対して米国は約60%と、依然として伸び悩んでいます。

SNSでは、ワクチンの副反応などを巡る、デマも含む多数の情報が拡散されており、これが米国民のワクチン不信を助長しているとみられています。もっとも9月に行なわれた全米50州における調査では、ワクチン接種をためらう理由として、副作用(side effects)が心配(35%)ワクチン開発が急で今後の健康への影響が心配(24%)ワクチンを勧める政府を信頼していない(15%)、というごく当然のものが多く、その意味では、むしろ情報リテラシーがしっかりしているのかもしれません。

バイデン大統領は、ワクチン接種の伸び悩みを巡ってSNS運営会社に矛先を向け、偽情報への対応が不十分だとして、「彼らのせいで人々が亡くなっている」と記者団に語りました [1]。そして、バイデン政権は「パンデミックは未接種者によるもの」として、ワクチン接種の義務化に舵を切りつつあります [2]

状況は、ワクチン接種後のリバウンドで過去最大の感染流行になっているドイツでも同じです。ドイツの保健相は現状を「ワクチン未接種者のパンデミック」と呼び、ワクチン未接種者が感染の急増を招いていると公に批判しました [3]

そのような中、医者の中から、このような為政者や政府の見解を戒める意見が出てきました。ランセット誌に、”COVID-19: stigmatising the unvaccinated is not justified"「COVID-19:ワクチンを受けていない人に汚名を着せることは正当化されない」というコレスポンデンスが掲載されたのです [4]

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このコレスポンデンスは短い文なので、ここで、筆者によるその翻訳全文を載せたいと思います。わかりやすくするため一部説明をつけています(青字部分)。

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米国やドイツの高官は、「ワクチン未接種者のパンデミック」という言葉を使ってきた。それは、つまり、ワクチンを受けた人はCOVID-19の疫学には関係ないことを暗に示すものだ。政府当局のこの言葉は、「ワクチン未接種者が接種者をCOVID-19で脅かしている」と科学者が主張することを勇気づけてきた。しかし、この見解はあまりにも単純である。 

米国マサチューセッツ州では、2021年7月のさまざまなイベントで、新たに469件のCOVID-19感染者が検出された。そのうち346件(74%)が完全または部分的にワクチンを接種した人で、そのうち274件(79%)が症状を呈していた。 RT-PCRのサイクル閾値Ct値)は、完全ワクチン接種者で中央値22.8であり、ワクチン未接種者、1回接種者、接種状況が不明な人の中央値21.5と比べて同様に低かった。すなわち、完全ワクチン接種者でもウイルス量が多いことを示していた。 

米国では、2021年4月30日までにワクチン接種者で合計10262件のCOVID-19陽性が報告され、そのうち2725人(26.6%)が無症状、995人(9.7%)が入院、160人(1.6%)が死亡した。 ドイツのミュンスターでは、完全にワクチンを接種した人、またはCOVID-19から回復した人でナイトクラブに通っていた380人のうち、少なくとも85人(22%)にCOVID-19の新規症例が発生した。 

したがって、「ワクチン未接種者のパンデミック」を語るのは間違いであり、危険なことなのだ。 歴史的に見ても、アメリカとドイツは、肌の色や宗教を理由に一部の人々に汚名を着せるという、ネガティヴな経験を生み出してきた。

高官や科学者の方々には、私たちの患者や同僚、その他の市民を含むワクチン未接種者に対する不適切なスティグマ汚名を着せること)をやめ、社会を一つにするために一層の努力をしていただきたい。

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以上が翻訳文です。

ワクチンは重症化や死亡のリスクを低くするものですが、接種後も自身が感染したり、他人に感染させたりするリスクは依然としてあります。科学情報の積み重ねでそれはより明確になってきました。感染拡大防止の観点からは、非医薬的介入(マスク着用、対人距離確保、混雑回避、換気、接触削減など)がきわめて重要です。ワクチン、ワクチンと叫び続けてきた日本の専門家も最近は微妙に言い方を変えてきているようです。

専門家の中には、感染源という観点から、ワクチン接種した感染者は未接種のそれよりもウイルス保持量の経時的減少が速いので他者にうつしにくい、だからワクチンを打っておくべきだという人もいます。しかし、ワクチン接種者は発症しにくく、入院・隔離の機会もより少ないと思われますから、無自覚のままで出歩き、他者にうつす可能性も高くなるでしょう。

ワクチン未接種者が、「感染を広げる源」として特段非難される理由はないのです。これだけワクチン接種者(感染しても他者にうつしにくい?)が増え、主要な人口集団になっているにもかかわらず、なおパンデミックは収まらず、むしろ拡大するような傾向もあるわけですから。当初から懸念されていたように、ウイルスの変異と免疫逃避、ワクチンの経時的無力化を甘く見ていたことも否めません。

ゲームチェンジャーとして鳴り物入りで登場した核酸(遺伝子)ワクチンですが、感染予防効果としての神通力はもはやありません。にもかかわらず、パンデミックが収束しない焦りが、なお世界の為政者や保健担当者をワクチン至上主義に走らせているように思います。なぜなら、為政者にとっては、非医薬的介入は多少なりとも経済的痛みを伴う難しい判断を迫られますが、それに比べたらワクチンベースの対策に大声を張り上げることははるかに容易なのですから。

引用文献・記事

[1] 読売新聞オンライン:米で「未接種者のパンデミック」警告…バイデン氏「SNSの偽情報で人々が亡くなっている」 2021.07.17. https://www.yomiuri.co.jp/world/20210717-OYT1T50235/

[2] Villarreal, D.: Biden Does U-Turn on Vaccine Mandates Two Months After Declaring Independence from COVID-19. Newsweek Sept. 21, 2021. https://www.newsweek.com/biden-does-u-turn-vaccine-mandates-two-months-after-declaring-independence-covid-19-1627695

[3] Hill, J.: Germany coronavirus: Record rise prompts warning of 100,000 deaths. BBC News Nov. 10, 2021. https://www.bbc.com/news/world-europe-59234443

[4] Kampf, G.: COVID-19: stigmatising the unvaccinated is not justified. Lancet 398, 1871 (2021). https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2821%2902243-1

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19