Dr. Tairaのブログ

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生活環境のカビ

私たちの周囲はカビだらけです。というか、私たちの体そのものがマラセチア菌をはじめとするカビの仲間で覆われています(ブロ記事抗菌グッズを考える)。あまり神経質になる必要はないのですが、アレルギーや病気の原因になるカビもいますので、注意が必要です。
 
今朝のNHKあさイチではカビがテーマでした。まず取り上げていたのが、クラドスポリウム Cladosporium という黒っぽい深緑色のコロニーをつくるカビです。俗に黒カビと呼ばれているカビのうちの1つです(図1)。
 
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図1. 黒カビの仲間クラドスポリウム(2018.5.15 NHKあさイチより)
 
クラドスポリウムは、よく、まんじゅう、ケーキ、ミカンなどの食品の上や台所、水道の蛇口、風呂場の壁などに黒いコロニーとして生えてきます。生活環境の空中に浮遊するカビの中でもっとも多いのがこの菌で、喘息などのアレルゲンとしても問題にされています。

また、青カビと知られているのがペニシリウム Penicillium です(図2)。これもパン、餅、ミカンなどの上に生えているところ(青いコロニー)を見かけることがあります。

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図2. 青カビのペニシリウム(2018.5.15 NHKあさイチより)
 
カビの中にはカビ毒(マイコトキシン)とよばれる毒性物質をつくるものがあります。とくにナッツ類でカビ毒が検出されることがありますが、日本ではまだ事例がないと思います。番組では、図2に示すようにペニシリウムとカビ毒という言葉を並列して掲げていましたが、ペニシリウムはほとんどカビ毒をつくることはありません。誤解を与える表示だと思いました。
 
番組では挙げられていませんでしたが、ペニシリウムは、この一種からペニシリンという人類史上最初の抗生物質がつくられたことで、よく知られています。またチーズの製造(ブルーチーズなど)に使われていることでも有名です。

つづいて、野菜を腐らせるトリコデルマ Trichoderma が紹介されていました(図3)。この菌は野菜を分解するのに必要なセルラーぜなどの酵素活性が強く、昔から本菌の酵素が研究されています。本菌由来の酵素は市販されており、私も大学の研究でずいぶんお世話になりました。

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図3. 野菜分解性が高いトリコデルマ(2018.5.15 NHKあさイチより)

パンや餅の上にいつのまにか黒カビや青カビは生えていることは、しばしば経験します。このとき、一部にしか小さいコロニーが見られない場合には、そこを切り取って(削り取って)食べていいかという問題が番組で取り上げられていました。
 
結論から言うと、一部にしか生えていない場合でも食べない方がよいという注意がなされていました。理由の一つは、目に見えなくても胞子が飛散して全体に広がっている危険性があり、もう一つの理由は菌糸が食べ物の内部で伸びている可能性があるということです(図4)。

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図4. パンの中でカビの菌糸が伸びている様子(2018.5.15 NHKあさイチより)

カビの中で最も要注意なのが、病原性があるアスペルギルズ・フミガタス Aspergillus fumigatusです(図5)。

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図5. 病原性カビであるアスペルギルス・フミガタス(2018.5.15 NHKあさイチより)

アスペルギルス・フミガタスはタンパク質を分解する力が強く、私たちが吸い込んでしまうと気管支を破壊する可能性があるカビで、ときには死に至らせることもあります(図6)。

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図6. アスペルギルス・フミガタスは気管支を破壊する(2018.5.15 NHKあさイチより)

これも番組では紹介されていませんでしたが、一方で、同じアスペルギルスの仲間であるコウジカビは、味噌、醤油、日本酒の製造に必須の微生物です。似たようなカビでも害になるものと益になるものが同居しているわけです。

番組では、私たちの皮膚の常在菌であるマラセチアが原因で起こるマラセチア毛包炎も紹介していました。これはニキビに似た赤いツブツブができる皮膚炎です。マラセチアは脂が好きなので、脂が過多になると炎症を起こす可能性があるということです。

黒カビも青カビもアスペルギルス・フミガタスも私たちの周囲にたくさんいるありふれた微生物です。土の中には10万個前後のカビが存在します(図7)。したがって、日常的に私たちはたくさんのカビに触れ、吸い込んでいることになります。
 
それでも健康に生活できるのは、体の免疫があり、私たちの体の常在菌(マイクロバイオーム、微生物集団)が外敵の侵入から身を守ってくれているおかげです。
 
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図7. 土の中には存在する1000〜10万個のカビ(2018.5.15 NHKあさイチより)番組では1000〜10万個としていたが、通常は10万個平均のカビがいる
 
私は毎日生ゴミ処理を行なっていますが、生ゴミ処理物の中には、通常の土よりも一桁多いカビがいます。多分一般の人よりも多くカビを吸い込んでいる可能性がありますが、カビが原因の病気にはなったことは一度もありません。いたって健康です。
 
結論としてカビ対策で大切なことは、過度に神経質にならないで、体の免疫を落とさない、不潔にならない程度に住居の中を掃除しておくという、普段の注意ではないかと思います。
 
            
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