私たちの周囲はカビだらけです。というか、私たちの体そのものがマラセチア菌をはじめとするカビの仲間で覆われています(ブロ記事:抗菌グッズを考える)。あまり神経質になる必要はないのですが、アレルギーや病気の原因になるカビもいますので、注意が必要です。
今朝のNHKあさイチではカビがテーマでした。まず取り上げていたのが、クラドスポリウム Cladosporium という黒っぽい深緑色のコロニーをつくるカビです。俗に黒カビと呼ばれているカビのうちの1つです(図1)。
クラドスポリウムは、よく、まんじゅう、ケーキ、ミカンなどの食品の上や台所、水道の蛇口、風呂場の壁などに黒いコロニーとして生えてきます。生活環境の空中に浮遊するカビの中でもっとも多いのがこの菌で、喘息などのアレルゲンとしても問題にされています。
また、青カビと知られているのがペニシリウム Penicillium です(図2)。これもパン、餅、ミカンなどの上に生えているところ(青いコロニー)を見かけることがあります。
カビの中にはカビ毒(マイコトキシン)とよばれる毒性物質をつくるものがあります。とくにナッツ類でカビ毒が検出されることがありますが、日本ではまだ事例がないと思います。番組では、図2に示すようにペニシリウムとカビ毒という言葉を並列して掲げていましたが、ペニシリウムはほとんどカビ毒をつくることはありません。誤解を与える表示だと思いました。
つづいて、野菜を腐らせるトリコデルマ Trichoderma が紹介されていました(図3)。この菌は野菜を分解するのに必要なセルラーぜなどの酵素活性が強く、昔から本菌の酵素が研究されています。本菌由来の酵素は市販されており、私も大学の研究でずいぶんお世話になりました。
パンや餅の上にいつのまにか黒カビや青カビは生えていることは、しばしば経験します。このとき、一部にしか小さいコロニーが見られない場合には、そこを切り取って(削り取って)食べていいかという問題が番組で取り上げられていました。
結論から言うと、一部にしか生えていない場合でも食べない方がよいという注意がなされていました。理由の一つは、目に見えなくても胞子が飛散して全体に広がっている危険性があり、もう一つの理由は菌糸が食べ物の内部で伸びている可能性があるということです(図4)。
カビの中で最も要注意なのが、病原性があるアスペルギルズ・フミガタス Aspergillus fumigatusです(図5)。
アスペルギルス・フミガタスはタンパク質を分解する力が強く、私たちが吸い込んでしまうと気管支を破壊する可能性があるカビで、ときには死に至らせることもあります(図6)。
これも番組では紹介されていませんでしたが、一方で、同じアスペルギルスの仲間であるコウジカビは、味噌、醤油、日本酒の製造に必須の微生物です。似たようなカビでも害になるものと益になるものが同居しているわけです。
番組では、私たちの皮膚の常在菌であるマラセチアが原因で起こるマラセチア毛包炎も紹介していました。これはニキビに似た赤いツブツブができる皮膚炎です。マラセチアは脂が好きなので、脂が過多になると炎症を起こす可能性があるということです。
黒カビも青カビもアスペルギルス・フミガタスも私たちの周囲にたくさんいるありふれた微生物です。土の中には10万個前後のカビが存在します(図7)。したがって、日常的に私たちはたくさんのカビに触れ、吸い込んでいることになります。
それでも健康に生活できるのは、体の免疫があり、私たちの体の常在菌(マイクロバイオーム、微生物集団)が外敵の侵入から身を守ってくれているおかげです。