厚生労働省によれば、カンピロバクターが原因の食中毒は年間350万人と推定されています(図1)。実際のカンピロバクター食中毒と確認された感染者数はこれよりも少ないですが、本菌による食中毒であるにもかかわらず、見過ごされている人の推定数を合わせると350万人になるということです。
図1. カンピロバクターの細胞形態(上)と本菌による食中毒の推定人数
カンピロバクターは、熱に弱く75℃以上で1分の加熱で死んでしまいますので(図1上)、基本的に加熱した料理から感染することはありません。しかしながら、2017年度の食中毒の原因の32%を占めており、件数としてトップです(図2)。
なぜ、カンピロバクターの食中毒が多いかと言えば、食材および料理の仕方と関係あります。カンピロバクターの感染源は、私たちが日常的に食する鶏肉が大部分です。したがって、十分に加熱したものは大丈夫ですが、生肉を食べる、生煮え(唐揚げに多い)を食べることで、感染の危険性が高まります。
さらに、鶏肉を切った包丁でそのまま野菜を切り、生野菜サラダとして食することも危険です。
カンピロバクター感染防止のためには、料理の下ごしらえ段階で鶏肉は最後に切る、包丁、まな板、シンクを洗浄するということが重要です(図3)。できれば、鶏肉用と野菜用で包丁とまな板を別々にすることがベストです。
私の場合は、図4に示すように使用済みの牛乳パックを広げて、肉用の下敷きにしています。包丁も肉専用のものを使っています。
図3. 肉切り用下敷きと使っている広げた牛乳パック
の2種が知られています。これらは以下のような性質があります。
・グラム染色陰性のラセン状菌(幅0.2-0.4 μm、長さ1-5 μm)
・両極鞭毛による運動性(ラセン状運動)あり
・微好気性,大気条件下では急速に死滅
・生育温度:34-43℃,高温性食中毒菌
・分布:ウシ,ヒツジ,家禽類などの動物の腸管,流水,池水などに生息
食中毒の症状は発熱、腹痛、下痢、嘔吐、筋肉痛などですが、発症までの潜伏期間が2〜5日と比較的長いので、風邪と自己診断されてしまい、食中毒であるということを認識されないことも多いようです。これが潜在的感染者数を多くしている原因です。
上記番組放送でも、「怪しい、変だと思ったら病院での診断を受けるということが重要」ということを述べていました。
食中毒を起こす菌数の下限値を最小発症量と言いますが、カンピロバクターの場合は500〜800個です。これはサルモネラ菌の平均10万個、腸炎ヴィブリオ菌の平均100万個と比べてもきわめて小さいです。それだけ食中毒の危険性が高い細菌だと言えましょう。
黄色ブドウ球菌についてはまた機会を見て取り上げたいと思います。
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