Dr. Tairaのブログ

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リアル実験によるマスク着用の効果

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このブログでは、COVID-19などの感染症予防対策としてのマスク着用の効果について何度か取りあげてきました(→新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果あらためてマスクの効果についてコロナ禍で気になる若者の移動とマスクいわゆるウレタンマスク警察に思う)。今朝のNHKあさイチ」の番組では、リアル実験の結果に基づくマスクの種類による効果の違いについて紹介していました。ここでそれを振り返りたいと思います。

これまでもマスクの種類による効果の違いについて報告した研究例は多いですが、そのほとんどがコンピュータシミュレーションによるものであったり、固定したモノにマスクを着用した場合の効果であったりして、実際に着用した場合についてはどうなのかという確証についてはあまり報告されていません。

今回のNHKの取り組みは、実際に人にマスクを着用させ、「ぱぴぷぺぽ」のような半濁音(唇破裂音)が多い言葉を発生させて、そのときのエアロゾルの出方と相手方への侵入の度合いをカメラでとらえるというリアルな実験による検証です(図1)。使ったマスクは不織布マスク布マスクウレタンマスク(ポリエステル+ポリウレタン)の3種類です。もちろんいずれも正しく着用した場合での結果です。

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図1. 3種類のマスクを使ったそれらの効果のリアル実験(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

結論から言えば、エアロゾル侵入を防ぐ効果については布マスクとウレタンマスクはほぼゼロということでした(図2)。同様な結果は、これまでのコンピュータシミュレーションで示されていますが、リアルな実験ではさらに、布とウレタンのダメさ加減が浮き彫りになったように思います。

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図2. 3種類のマスクのエアロゾルの侵入を防ぐ力(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

エアロゾルの侵入と漏れについてマスクの種類ごとの効果をまとめたのが図3です。上述したように、侵入を防ぐ効果としては布とウレタンはほぼゼロである一方、不織布は30%減という結果になりました。漏れについては不織布が70%減になる一方、布とウレタンは効果は悪いという結果になりました(特にウレタンはダダ漏れ)。リアルな実験によれば、ウレタンマスク着用の効果はほぼないと言ってよいかもしれません。

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図3. マスクの種類ごとの着用の効果(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

鼻出しマスクの検証も行なっていましたが、鼻出しによってエアロゾルの漏れが格段に大きくなることが紹介されていました。

米国CDCは2重マスクとワイヤー入りマスク着用を推奨することをすでに報告していますが [1]、番組でも2重マスクの効果についても紹介していました。それによると、エアロゾル侵入防止については内側に不織布、外側にウレタンを着けるのが最も効果が高く、60–90%減となりました(図4)。内側に布あるいはウレタン、外側に不織布を着用する場合もある程度の効果がありました。これらはCDCの報告とほぼ同じです。

一方、布マスクとウレタンマスクの単独、あるいは組み合わせで2重にした場合は、ほぼ効果ゼロであることがわかりました。エアロゾルの漏れ出しについては、内側に不織布を着用した場合、いずれの組み合わせでも2重マスクの効果アップが確認されました。

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図4. 二重マスクの効果(2021.02.15 NHKあさイチ」より).

2重マスクの効果は大きいですが、呼吸が苦しくなるため肺にダメージを与える可能性もあります。実際には、普段は不織布マスクを着用し、より感染リスクの高い場所で2重にするなどの対応が必要でしょう。

結論として、これまでの情報どおりに布マスクやウレタンマスクは効果が薄く、感染防止対策としてあまり奨められないということになります。普段は不織布マスクを着用し、感染リスクの高い場所で不織布の上に重ねる2重マスクで対応するというのが感染防止対策の基本ということになるでしょう。

引用文献

[1] Brooks, J. T. et al. Maximizing fit for cloth and medical procedure masks to improve performance and reduce SARS-CoV-2 transmission and exposure, 2021. MMWR Feburuary 10, 2021/70. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7007e1.htm?s_cid=mm7007e1_w

引用した拙著ブログ記事

2020年1月24日 いわゆるウレタンマスク警察に思う

2020年12月5日 コロナ禍で気になる若者の移動とマスク

2020年11月27日 あらためてマスクの効果について

2020年3月18日 新型コロナウイルスの感染様式とマスクの効果

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19