今年になってフィールドワークとデスクワークが忙しくなり、ブログの更新がなかなか進まない状況になっていますが、もちろん新型コロナウイルス感染症に関して気になっていることは山盛りです。そのうちの一つは、大阪など6府県で「緊急事態宣言」が解除されたことです。飲食店への時短要請は継続するとなっていますが、大阪市内に限定され、しかも時短営業は午後9時までと延長されています。
これでは大阪府全域や兵庫などの周辺で飲食店への人流が加速されることは明らかであり、再燃拡大して再度緊急事態宣言相当(まん防など)の要請がされることは必至です(ブログ→大阪府の勘違い−緊急事態宣言解除要請)。
もう一つ気になったのは、理化学研究所などの共同研究によるマスク着用効果のシミュレーション結果です。要約すれば2重マスクと1枚の不織布マスクを正しく着用した場合の飛沫防止効果の差はないというものです。そこから2重マスクをする必要はなく、不織布マスク1枚で十分というものです。これについて私は以下のようにツイートしました。
富岳によれば不織布+ウレタンの二重マスクと不織布1枚とでは性能は大きく変わらないとか。しかしこの結果はあくまでもシミュレーションの結果であり、そのモデルが正しいかそして現実的か、同時にリアル実験で検証する必要がある。 pic.twitter.com/IIIxaHbU4b
— AKIRA HIRAISHI (@orientis312) 2021年3月4日
1枚の不織布マスクを隙間なく装着することはほぼ不可能。現実的なモデルでマスクを重ねる効果を述べるべきなのに、1枚を隙間なくという現実にそぐわないモデルを勧めるミスリードぶり。 pic.twitter.com/1yet8KVoin
— AKIRA HIRAISHI (@orientis312) 2021年3月5日
2重マスクの効果(暴露防止)については2月に米国CDCが報告しています [1]。この主旨は、マスク1枚では隙間ができやすく(正しく着用することがむずかしい)、そのために2重にして隙間をなくすというものです。図1は2重マスクの効果(飛沫、エアロゾルの暴露防止)を示しています。
図1. CDCによる二重マスクの効果を示す実験結果 [1].
そこをどう勘違いしたのか、理研の研究担当者はマスク1枚を正しくつけるのが重要と強調したのです。これは明らかなミスリードです。実際にシミュレーションだけでなく、理研はリアルな実験をやってみるべきです。不織布マスク1枚をできるかぎり隙間なく密着させてつけたとしても、「正しくつければ」という条件を達成するのほぼ困難であり、漏れはでるのです。CDCは実験の結果の上で2重マスクの効果を指摘しているわけです。
研究担当者は、まさかCDCの論文を知らなかったというわけでもないでしょう。だとすれば内容をよく読んでないか、読んだとしても主旨を理解できなかったとか..。
何ともはや富岳という高価なマシーンを使って、こんなシミュレーション結果で提言をするなんて、時間とお金の浪費だと言ったら言い過ぎでしょうか。むしろ、感染力の強い変異ウイルスの拡大が予測される状況においては、このようなプレス発表は有害にしかならないような気がします。
これでまた為政者がマスク会食を言い出したらたまったもんじゃありません。不織布マスクで少しでも漏れを防ごうとするなら、CDCが言うように不織布とウレタンマスク(あるいは布マスク)を重ねることが合理的なのです。とはいえ、こんな2重マスクでは会食もできません。万が一途中で顎マスクでもしようものなら感染リスクが高まり、危険極まりないです。
引用文献
[1] Brooks,J. T. et al.: Maximizing Fit for Cloth and Medical Procedure Masks to Improve Performance and Reduce SARS-CoV-2 Transmission and Exposure, 2021. MMWR February 19, 2021 / 70(7);254–257. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7007e1.htm
カテゴリー:感染症とCOVID-19