Dr. Tairaのブログ

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変異ウイルス対応のマスクのつけ方

今朝起きてTwitterを見ていたら、物理学者のE. Topol氏のツイートが目に留まりました。新型コロナウイルス感染症のような呼吸器系感染症に対するより安全で確実なマスクのつけ方について紹介しているものでした。

このツイートの引用図にあるように、一般人の安全なマスクのつけ方として以下の三つあります。いずれも前提となるのはポリプロピレン性マスク(不織布)のような多層構造マスクであることであり、マスクからの漏れをよりなくす方法として示されているものです。

1) 横漏れ防止のマスクをつける

2) 二重マスクにする

3) マスクの上にフィッター(brace)をつける

米国CDCはマスクのつけ方について具体的に説明し、その情報を日々アップデートしています [1]。最新版は4月6日に更新されていました。Topol氏がツイートしたものと基本的に同じマスク着用の方法が指南されています。

まずは、マスクの効果を高める重要な以下の2点が強調されています(図1)。一つ目は顔面に密着させてマスクをつけること(漏れを防ぐこと)、二つ目は多層構造(例:不織布)のマスクをつけることです。

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図1. マスクの効果を高めるための重要ポイント(CDCのページ[1]からの転載).

そして具体的にどうやってマスクをつけるかが図解付きで示されています。図2にあるように、1) 使い捨てマスクの上に布(あるいはウレタン)を重ねる、2) 多層マスクの上にフィッターをつける、3) ワイヤーと横絞りのマスクで漏れを防ぐ、の三つです。

ちなみにCDCは、一環して布マスク"cloth masks"という表現を用いており、不織布マスク"non-woven masks"という言葉を使っていませんが、「多層にする」、「密着させる」という2つのキーポイントを述べるだけで対策は網羅されていると思います。つまり、この指針から考えられるオプションは、基本的に不織布フィルターを入れた布マスクか3層構造の不織布マスク、および4、5層マスク(→高性能マスクについて)しかありません。

一方、日本では1層の不織布マスクも売られています。

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図1. マスクの効果を高めるための三つの方法(CDCのページ[1]からの転載).

さらにCDCは、二重マスクについて、してはいけないことにも説明しています。一つは、サージカルマスク(不織布マスク)などの同じタイプの使い捨てマスクを二重にしてはいけないということです。これは、サージカルマスクを重ねても密着度が向上するわけではないためです。もう一つは、N95マスクのように1枚だけで十分な効果があるマスクの場合は、上から重ねることに意味はないということです。

このようにマスクのつけ方について、国民がそれを励行するかどうかは別問題として、国の機関が具体的に示していることが重要な点です。ワクチン接種で日本よりはるかに先行している米国ですが、なお感染症対策についても怠らないという姿勢がみられます。

一方、日本はどうでしょうか。いま関西を中心にB.1.1.7系統N501Y変異ウイルスの感染拡大が顕著ですが、マスク着用も含めて一般人に対する国の感染症対策の指針はきわめて観念的、抽象的です。上記のCDCのマスクの指針についての忽那賢志医師の解説記事も出ていますが、二重マスクについて「両端の隙間をなくしフィットさせるための方法」として折角挙げているのに、最後には「マスクが二重かどうかよりも、正しく装着することが大事」と詭弁もどきの曖昧な説明になっています [2]

そして、テレビに出てくる医療専門家でさえ"正しいマスク着用"の方法について何ら言及するでもなく、口を揃えて「今までの対策をきちんと行なうことが重要です」を繰り返すばかりです。これでは何のメッセージにもなっていません。

マスク着用で言えば、富岳のシミュレーション解析を行なった理化学研究所の担当者が「マスク1枚を正しくつけていれば二重マスクは必要ない」と言っていましたが、これは誤ったメッセージになった可能性があります(→マスク着用シミュレーション結果のミスリード)。自治体の知事らが何ら具体的指示もせずマスク会食を勧めていますが、これも感染リスクを考慮しない誤った指示と言えるでしょう。おまけに医療専門家が「(マスク会食において)マスク着用は飛沫防止になる」と軒並み言っていることも、論点がズレています(→マスク会食の是非)。

既出の研究データは、飛沫が直接かかって感染する経路よりも、5 μm以下のエアロゾル粒子の暴露による感染の方がはるかに確率が高いことを示しています [34]。マスク着用の指針は、エアロゾル感染のリスクを下げるためのベストなつけ方という観点からあるべきです。単にマスクをしていれば感染を防げるような伝え方も、「正しく着用すること」という言い方も、具体的な指針伴っていなければ誤ったメッセージになる危険性があります。

上記変異ウイルスは感染力が強いことが知られており、この先のますますの感染拡大が懸念されます。検査で遅れ、医療体制で遅れ、ワクチンで遅れるという近代の感染症対策に失敗した日本ですが、100年前の"スペイン風邪"でも考えられた「マスクの効果」でさえまともに指南できない状況では、被害を拡大させるばかりではないでしょうか。

引用文献

[1] Center for Disease Control and Prevention: COVID-19/Improve How Your Mask Protects You. Apr. 6, 2021. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/effective-masks.html

[2] 忽那賢志: 感染防止のために「二重マスク」にすべきなのか? Yahoo JAPAN ニュース 202.02.13.
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210213-00222371/

[3] Fennelly,K. P.: Particle sizes of infectious aerosols: implications for infection control. Lacet Res. Med. 8, 914–924 (2020). https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30323-4

[4] Azimi, P. et al.: Mechanistic transmission modeling of COVID-19 on the Diamond Princess cruise ship demonstrates the importance of aerosol transmission. Proc. Natl. Acd. Sci. 118, e2015482118 (2021). https://doi.org/10.1073/pnas.2015482118

引用した拙著ブログ記事

2021年4月6日 マスク会食の是非

2021年3月5日 マスク着用シミュレーション結果のミスリード

                                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19