Dr. Tairaのブログ

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ワクチン後進国の日本

はじめに

昨年末から、各国において新型コロナウイルス感染症COVID-19に対するワクチン接種が始まりました。主流は米国ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンです。そこであらためて明らかになったのが、日本のワクチン対策の遅れです。ここでその現状と問題点についてふれたいと思います。

1. 世界のワクチン接種率の比較

Our World in Data(OWD)にアクセスすると、これまでの世界各国のワクチン接種状況を知ることができます。現在ワクチン接種率でトップを走るのがイスラエルです。これに主要先進国OECD加盟国を加えて、日本との人口比ワクチン接種率を比較したのが図1です。日本では今年2月から医療従事者を対象にワクチン接種が始まりましたが、現時点で1%未満の接種率であり、図1の中では最低のランクです。

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図1. 世界主要先進国OECD加盟国におけるワクチン接種率(少なくとも1回接種)の推移(Our World in Dataより).

さらに、世界保健機構WHOの基準による西太平洋諸国における日本の接種状況を比較したのが図2です。断トツはシンガポールであり、接種率が20%に達しているので図2には加えてありません。またOWDには中国の正式なデータはありません。図2を見ても、日本の接種率は芳しくなく、韓国、マレーシア、ニュージーランドに遅れをとり、フィリピンと肩を並べている状況です(オーストラリアについては直近のプロットがないのに注意)。

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図2. 西太平洋諸国(WHO基準)におけるワクチン接種率(少なくとも1回接種)の推移(Our World in Dataより).

なお、日本よりワクチン接種率が低いタイ、台湾、ヴェトナムはいずれも感染拡大抑制に成功している国であり、woldometerにある世界の219の国・地域の中での比感染者数は、それぞれ世界198位、211位、212位と最低レベルです(表1)。

つまり、東アジア・西太平洋諸国を見渡しても、感染拡大抑制に成功しているか、あるいは感染者数を増やしている場合ではワクチン接種に手を打っているというのがほとんどであり、そのどちらでもない(感染拡大を許し、ワクチン対策でも遅れている)のが日本なのです

表1. 西太平洋諸国(WHO基準)における100万人当たりの累計陽性者数と世界での順位移(2021年4月10日時点、worldometerのデータより作成)

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2. ワクチン接種率と感染状況

mRNAワクチンの感染予防効果は先のブログで紹介したとおりです(→mRNAワクチンの感染予防効果)。ここで図1に示したワクチン接種率のトップ4の国の新規陽性者数の推移を見てみましょう(図3)。接種率1位のイスラエル、2位の英国では新規陽性者数の激減が顕著であり、最近では日本の新規陽性者数を下回っています。

一方、チリと米国では感染者減という傾向はまだみえていません(後者では下げ止まり)。米国では少なくとも高齢者施設の感染者数と病院内の重症者数は激減していると言われています。ワクチン接種の時期や他の感染症対策にも影響するので、この時点で一概に比較するのはむずかしいかもしれません。

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図3. ワクチン接種率トップ4(現時点)の国における新規陽性者数の推移(Our World in Dataより).

いま主流のmRNAワクチンは、SARS-CoV-2のスパイクタンパクの遺伝子を転写物(mRNA)として細胞内に送り込み、その発現でつくられるスパイクタンパク質を認識して抗体をつくらせるというものです。この特異的な獲得免疫が作用する場合、元々の自然免疫系への負の影響も少なからずあると思います。ウイルスの免疫逃避の問題もあります。mRNAワクチンが感染抑制をもたらす一義的効果については異論はないとしても、実際にはmRNAワクチン接種と感染者数の関係には、複雑な要因が絡んでいると思われます。

3. 国内の状況

河野太郎ワクチン担当大臣は、4月6日の記者会見で、4月12日に開始する高齢者(約3600万人)へのワクチン接種をめぐり、一部自治体で接種の予約が殺到していることを受けて「接種を希望する人は確実に打てるから、慌てずにお願いしたい」と述べました [1]

しかし、感染拡大を許し、ワクチン対策でも遅れをとっているのは日本政府であり、その不始末でこのような状況になっていることも事実です。混乱の原因はひとえに、国から自治体へ伝えられる供給スケジュールが曖昧だからと言えます [2]。河野大臣が国民に向かって「確実に打てるから慌てるな」という言い草はなく、もう少し丁寧な言い方をしてもらいたいです。

しかも先行している医療従事者へのワクチン接種は、まだ完了には程遠い状態です。厚生労働省によれば、対象者480万人への2回接種分供給が完了するのは5月となっています(図4)。現在の医療従事者の接種率がまだ約1割と言われていますが、この段階で高齢者への接種を始めるというのは、やはり政府のヤッテル感を演出するためではないかと思いたくなります。

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図4. 厚生労働省による医療従事者等への接種についての通知 [3].

そしてやはり気になるのが、ワクチン接種における人員確保も含めた運用体制です。ワクチンの輸入量はもちろんのこと、供給スケジュールの行方は不透明な場合でも、ワクチンの搬送・保管体制を整えなければなりません。超低温冷凍庫のコールドチェーンを構築したとしても、ワクチンの有効期限(ファイザーの場合6ヶ月)までに接種を完了しなければなりません。

この面で日本は人員確保と接種スケジュールの設定ができているのか、非常に不安になります。足りない分にはまだしも、有効期限内に接種しきれず廃棄ということがないようにしてもらいたいです。

4. ワクチン対策の遅れの理由

日本発のワクチン開発が遅れている理由としてはいろいろとあげられています。たとえば、「ワクチンの安全性や有効性に対する慎重な国民性」、「ワクチンの副反応をめぐる過去の薬害訴訟を受けてのワクチン開発に対する国の及び腰」、「感染症ワクチン開発企業の減少」、「新規医薬品の治験に関わる医療機関の体制の脆弱性」などがあげられています。

田村厚労大臣は、日本は欧米に比べて感染者数が少なく、治験できる体制が十分にできなかったと述べましたが、それはいい訳にしかすぎないでしょう。日本はこれまで約50万人の感染者を出し、感染者数で世界39位につけています。日本よりはるかに感染者数が少ない中国では自国のワクチンを開発し、海外に向けてワクチン外交を展開しています。単に、いつのまにか日本は迅速に自国ワクチンを開発できないくらいに国力(科学技術力+政治力+民度)が低下してしまっているということでしょう。

おわりに

世界でのワクチン接種は始まったばかりですが、mRNAワクチンの接種が進んでいる国々でその後の感染拡大や感染抑制に差があるように見えることは気になるところです。上述したとおり、この要因は複雑であり、果たして国民全員に接種していいものかという不安感を個人的には抱いています。しかし、ワクチン対策の遅れはこれとは別の話です。

今回の日本の主なワクチン対策は、米国企業による製品を輸入し、日本国民に接種するというものです。この調達の遅れは、ひとえにワクチン戦略の失敗と政治力のなさによるものです。感染症対策においては予防、診断、治療という基本があるわけですが、検査(予防、診断)で遅れ、医療体制(治療)で遅れ、そしてワクチン(予防)出遅れてしまった日本であり、それがこれまでのCOVID-19の被害と現在の第4波の感染拡大に現れているといっていいでしょう。

引用記事

[1] 産經新聞: ワクチン「確実に打てるので慌てずに」予約殺到に河野担当相. 2021.04.06. https://www.sankei.com/politics/news/210406/plt2104060011-n1.html

[2] 日刊ゲンダイ: ワクチン接種“大渋滞”…予約殺到し医療従事者は後回し、供給もグジャグジャで菅政権は仕切り最悪. Yahooニュース 2021.04.06. https://news.yahoo.co.jp/articles/66da7d83a575a6654ff10e000a4cec55306ca6f3

[3] 厚生労働省: 医療従事者等への接種について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_iryoujuujisha.html

               

カテゴリー:感染症とCOVID-19